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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
世界が動く
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第376話 天上の儀 ―本会議が行われる―

 翌朝、アヤメが準備を整えると、部屋にエンライが訪れた。すでに準備は整っているらしく、正装で資料を片手に眠そうな目をこすっている。


「アヤメ殿。昨晩の事は聞いたぞ。陛下がお越しになられたようだな」

「まあな……お前も呼んだ方が良かったか?」

「いや、あの面子で食事と言うのは無理な話だ。しかし、今日の会合で何か言われたら面倒だと思っている」

「ああ、それは王様やシンキが何とかすると言っていた。期待しておこう」

「そうか……では、行くか?」


 ああ、と頷き、アヤメも昨晩のうちにまとめた資料を片手に部屋を後にした。


 城の廊下を進んでいると、同じ方向に向かう多くの貴族を目にする。


 今日の本会合では、十二星天、領主、ギルド支部長、騎士団師団長の他、世界中の管理者となっている貴族や、城の重鎮達も参加する。

 無論、その中にはクレナに別宅を構え、花街に入り浸っていた者も多い。

 そういった者達なのだろうか、アヤメを見ると、コソコソと離れて行く者達や、忌々し気に見つめてきたりする者達の視線を感じ、アヤメはうんざりとしていた。


「……あいつ等もついでに処分できれば良いが……」


 ボソッと呟くと、エンライも呆れた顔で頷いた。


「ああ。だが、復興したばかりのトウショウの里には、貴族って客も大切だ。また、大きな揉め事を起こさないようにしないといけない。それを考えると……」

「だな……今は手出しをしてこないから良いが、また後でネチネチと来たら、その時はどうしたものか……」

「まあ、今は“刀鬼”様とムソウ殿が街に居るから大丈夫だろう!」


 “刀鬼”とムソウの部分だけ周りに聞こえるように、笑うエンライ。アヤメに向けられていた視線がパッとあさっての方向に向き、貴族達はそそくさとその場を去って行く。

 それを見た他の貴族はクスクスと笑っている。この者達は、最近になって新しい花街を満喫している者達だと、アヤメは思い出していた。

 そんな中、してやったりというエンライは口笛を吹いた。


「効果大だな……」

「……少し胸がスッとした。さて、俺達も行くか」


 あの様子ならば当分はクレナに関わらない。その代わりに、金を落としてくれる新しい貴族がクレナに入って来るだろうと、アヤメは少し悪い顔で笑いながら廊下を進んでいく。


 客室のある棟から渡り廊下を進み、更に城内の地点を結ぶ転送魔法の魔法陣を経て、ようやく大会議棟に辿り着く。

 闘技場のような造りになっており、中央には巨大な円卓が置かれている。

 そこには十二星天と領主の席が置かれており、観覧席に当る場所には机と椅子がずらりと置かれ、貴族や重鎮達がその席に着く。

 領主の席の側には更に数席分の椅子が置かれており、そこにはギルド支部長と、各領の支部長が着くことになっている。

 アヤメは、クレナ領の席に向かい、書類を広げて開始の準備を進めていった。

 ふと顔を上げると、既に到着していたワイツやロウガンが円卓の向こう側から手を振っていた。

 更に周りには、ノワールとギャッツ、オーロとレオニクス、ブラウンとレックスなど、親交のある他の領の領主や、ギルド支部長達が、今日も期待しているという顔でアヤメの方を見ている。

 フンッと鼻を鳴らしながらジトっと睨み返すと、やれやれと笑っていた。この状況を完全に楽しんでいるなあと思い、更に集まって来た者達を眺めていた。


 それぞれの領の師団長達の顔色は、領主達に比べ緊張し、重く沈んでいるようだった。これからどうなるのかと、不安そうにしている。普段は毅然としているジャンヌも今回ばかりは、領主アルギュロスが気に掛けるほど顔色を悪くしている。

 アヤメの視線に気づくと、苦笑いしながら小さく頭を下げた。


「大変だよな、今回の師団長達は……」

「まあ、会議が上手く進まなかったことが大きな問題だからな。それに、今日は団長も姿を見せない。つまり、騎士団は実質、今回の天上の儀ではほとんど蚊帳の外になるだろうな」

「お前は……他の奴らに比べると平気そうだな」


 顔色が悪そうな他の領主と違い、エンライはいつも通りの態度だ。可哀そうにな、という同情の目を他の師団長、特に、同期で親友のコウカンに向けながら、自分は問題ないといった様子で資料に目を通していた。

 アヤメの言葉に、エンライは顔を上げ苦笑いする。


「既にどうしようもないと割り切っているからな。まあ、私はアヤメ殿ならば、騎士団の事も考えた発言をすると期待しているだけだ。頼んだぞ」


 ニッと口角を上げるエンライに、アヤメはため息をついた。


「結局は領主に丸投げか……まあ、お前の言うようにちゃんと考えては来ている。他の奴らには、そこまで気を落とすなと言いたいな」

「ありがたい……っと、来たようだ」


 アヤメに感謝しつつ、ふとエンライは、会議場の正面に目をやった。そこにある十三の扉のうち、十の扉が開き、レオパルド、リーを除く、シンキを含めた十二星天が姿を現す。

 昨日色々とあったがエレナも参加していることにアヤメは気付く。変わらず、少し気だるそうに参加しているところから、特段変わった様子は無かった。

 そして、今日は王都を守護する双子の十二星天、ミーナとジーナのオルソン姉妹も参加している。まだあどけない、パッと見はたまとロロの間くらいの年齢に見える二人の少女。双子らしく顔がそっくりで、違うところと言えば、髪の長さだ。

 短い方がどっちで、長い方がどっちだっけ? とアヤメは首を傾げているが、この二人もセイン側の人間とされている。注意は必要かと油断しないようにしていた。


 そして、アヤメはもう一人気になっていた人物に目を止める。十二星天内で最も大柄で、高齢な見た目をした老人、ジーン・シルヴァスだ。目深に被った帽子から長い白髪が伸びており、表情はよく分からない。

 再会した時の、正体を隠していたジゲンの様だと、アヤメは思った。しかし、ジゲンより体格は良い。

 ジーンも、エレナと同じくどちらの派閥か確かなことは不明だが、少なくともミサキやサネマサ達とは今も、仲は良好だと聞いているし、コクロの海賊団と闘うムソウにとって、今後確実に関わる人物でもある。

 今日、全てが分かれば良いと思っているうちに、十二星天はそれぞれの席に着座した。

 これ以上、特定の人間を見ていると、昨日のエレナのようにバレると思い、アヤメも視線を戻した。


 そして、ガヤガヤとしていたその場は徐々に静かになり、その視線は十二星天に注がれていく。

 特に視線が集まるのはミサキとジェシカ、それぞれの後に続くロロ達、今日より正式に、新たな十二星天の弟子と公表される者達だった。

 アヤメはロロの様子を確認する。少し固まった様子にやれやれと感じた。ウィズ達はこういう場に慣れているのか、式典の時のように普段通りになっている。ニコニコと楽しそうなミサキと違い、ウィズ達の方が大人だなと感じた。


 やがて、その場に居る全ての人間の準備が整ったことを確認したシンキとサネマサは、十三並んだ扉の中央の、少し大きな扉を開いた。


 そこからは、正装し帯刀した人界王オウエンが姿を現し、全員の正面に着座する。


 頃合いを見計らったシンキは、拡声の魔道具を口に当てた。


「諸侯、待たせてしまったな。これより、天上の儀、本会合を開始する!」


 会議場全体にシンキの声が響き渡り、空気が張り詰める。

 アヤメは目を閉じ、大きく深呼吸した後、ゆっくりと目を開けた。


 ―……やるか!―


 アヤメも心構えを整え、本会合に臨み始めた。


 ◇◇◇


 本会合の進行はシンキが行っている。今回の大きな議題は三つだったが、既にギルド支部長会議、師団長会議、領主会議にて、一致した結論となったので、これらについては議論されることなく、全てその通りの結果となった。

 つまり、転界教については民に公表し、対策と注意喚起を行う。それに続き、邪神族についても公表することが決まる。


 場内は当然、どよめき立ち、宰相の座に就いていたシンキに疑いの目が向けられる。

 伝承の鬼族と同名の人物がここに居るわけないと、反論する体制を見せていた。

 それに気づいたシンキは、ふう、と息を吐き、オウエンと顔を見合わせた。オウエンは静かにコクっと頷き、シンキは口を開く。


「諸侯が信じられないという態度をとることは想定済みだ。俺の正体が鬼族だと簡単には認められないという事は分かる。そこで……はああああッ!」


 シンキはその場で瞑想しながら全身に力を入れた。ゆらゆらと立ち上る闘気に会場は静まり返る。

 シンキが真の姿を現すところは、アヤメもコモン達も初めて見る。固唾を飲んで見守られれながら、シンキの姿は変化していく。


 額からまっすぐに角が伸び、体格が少しだけ大きくなる。手の爪が伸び、口元からは鋭い牙が伸びた後、シンキは立ち上らせていた闘気を鎮めた。


「初めて見るが……凄えな……」

「ああ。冷や汗が止まらない……」


 完全に鬼の姿になったシンキを見ながら、アヤメとエンライは、ジトっと流れた汗を拭う。

 他の者達も同様、目を見開きながらシンキの姿を見ていた。

 アヤメが十二星天に目を向けると、セインとエレナも、僅かに動揺した素振りを見せる。鬼化したシンキが居る限り、今日は平和そうだと感じた。


 静寂に包まれる中、シンキは再び口を開く。


「まあ……こういうことだ。俺はかつて、エンマ様に仕え、コウカ様に忠誠を誓い、シンラと親交を育んだ、鬼族の将……シンキだ」


 ニッと笑うシンキに、もはや疑いの目を向ける者は居らず、口をあんぐりと開ける者達で溢れた。

 そして、まさしく生き証人の言葉に、邪神大戦は事実と誰もが認めることとなり、明日明後日と人界全土に邪神族や転界教について公表する為の映像撮影を行う運びとなる。

 ふと、アヤメがロロに目を向けると、ロロも口をあんぐりと開けながら、ジェシカと何か話していた。ロロはムソウで慣れとけと思いながら、アヤメはフッと笑った。


 続いて、話題はムソウへの褒賞に移る。これについても、今までの会合で一致しているので、褒賞は無しという結果となった。ムソウが嫌がっているためとはいえ、少しもったいないなあと、アヤメ、ロウガン、ガーレンを始め、ムソウの世話になった領の領主や師団長、更にサネマサ達は感じたが、これについては仕方ないと割り切り、次の議題に移ろうとした時だった。


 突然、貴族達の席から声が上がる。


「褒賞無しは当然だが、処断も無しと言うのは困る! 冒険者ムソウは、我らに対し無礼を働いた事実もある! 相応の処罰は下すべきだ!」


 声を上げたのは、クレナに居座っていた貴族達、つまり、ムソウに恨みのある者達だ。ここぞとばかりに、ムソウに対して処罰を下すようにと声を荒げる。


「冒険者ムソウは、クレナにてならず者を率い、人界を転覆させる恐れのある可能性が最も高い人間だ! 即刻対処するべきだ!」

「その中には、かつてこの城で暴れまわり、貴族を手に掛けた大罪人、“刀鬼”も与している! 先の事件に乗じ、我らを罵った男も、ムソウ諸共処断するべきだ!」


 中には、闘鬼神を罵倒したり、アヤメの責任追及をする者達も現れた。よほど、事件の時に受けた屈辱が悔しかったようだ。

 しかし、その場に居た多くの人間は、ムソウが居たから、闘鬼神があったから、クレナに居た貴族も無事だったという事を知っている。

 そして、クレナに居た貴族がどういう人間か把握している。声を荒げる者達以外の貴族達は、ここで下手な事を言ってしまってはいけないと、我関せずという思いで、ヤジが収まるのを待っていた。


 アヤメは静かに、その者達の声を聞いていた。心配そうに、そして、不安そうにアヤメに視線を移すエンライに、大丈夫だと頷く。アヤメの中では、誰かが何か言っているという思いでしか無かった。

 しかし、ふと、サネマサ達の方を見ると、サネマサやコモン、それにジェシカとロロが怒りの表情を浮かべている事に気付いた。特にサネマサとロロは、身内を侮辱されたという思いで、顔を真っ赤にし、忌々し気に貴族を睨みつけている。

 それに気づいたジェシカとコモンはハッとし、それぞれ二人を制した。ロロの方はジェシカが肩に手を置きながら、首を横に振ると、ハッとした様子で頷き、息を整えていた。


 しかし、サネマサは、コモンとミサキに肩を叩かれながらも、意に介さずと言った感じに、体を小さく震わせながら、力を溜めているようだった。

 オウエンが目を見開き、サネマサに視線を移したところで、シンキもその様子に気付き、近づこうとする。


 頃合いかと思い、アヤメは卓上を強く叩いた。


 ドンッ! という大きな音に、声を荒げていた貴族達は静かになっていき、サネマサも顔を上げた。

 全員の視線がアヤメに注がれ、音の正体がアヤメだと気付いたクレナの貴族達は、アヤメを揶揄うように口を開く。


「どうした? 怒ったのか、クレナ領主。だが、それがどうした?」

「我らを黙らせるために刀を抜くか? 粗暴な貴殿の叔父のように……」


 半ば、この場でよくそう言うことを言うなあと、他の貴族達は呆れていたが、クレナの貴族達の嘲笑は止まない。


「まあ、その瞬間、貴殿は領主の座から退いてもらう。いくら、十二星天や他の領主、更に王に媚を売ったところで、貴族に対して無礼を働くものを領主とは認めん」

「ほれ、抜いてみよ、“暴れ姫武将”殿? 抜けぬのか? やはり、“刀鬼”にはまだまだ及ばぬようだな」


 そう言いながらアヤメを指して笑う貴族達。ここまで来ると、滑稽な姿だった。ほとんど自棄になっているなと、シンキは感じる。

 こうなると、威厳ある天上の儀を侮辱し、進行を止めたとして幾らでも処断できるんだけどなと頭を掻くと同時に、このように程度の低い人間にクレナを任せ、ケリスの偽りの報告と共に、クレナの統治はきちんと出来ていたと認めていたのかと、アヤメやサネマサ、ジゲン等、クレナに住む者達に対し、再度、申し訳ないという気持ちでいっぱいになった。


 しかし、それも長くは続かなかった。目の前に居るサネマサに、再びふつふつと怒りの感情が膨れていく事を感じた。歯を食いしばりながら、アヤメを嘲笑する貴族達に目を向けながら、刀の柄に手を置いた。


「あっ! サネマサさん!」

「テメエら……いい加減に――」


 コモンの制止を無視して、刀を抜こうとするサネマサ。十二星天たちは咄嗟に身構えるが、その瞬間、サネマサの言葉を遮るように、アヤメが口を開いた。


「あー……諸侯の言葉はもっともだ。本会合前日に陛下と食事を共にするという事は、俺が王に媚を売っているという目で見られても仕方ない事かと思っている。要らん心配をかけて申し訳なかった」


 そう言って、アヤメは深く頭を下げる。罵倒を繰り返していた貴族達も、他の貴族達も、円卓を囲んでいた者達も、サネマサまでもがその行動に目を見開く。

 アヤメはスッと顔を上げて、貴族達にニカっと笑った。


「さて……貴殿らの言うように、結果はどうあれ、冒険者ムソウはクレナで貴殿らに無礼な態度を取った。手を上げたり、刀を抜いたり、果ては、直接手に掛けたりと、散々だったな……」


 アヤメの言葉に、領主達は驚いた。今までの会議でどちらかと言えばムソウを擁護していたアヤメが、今日ばかりは、ムソウの悪評を広げるようなことをしている。ロロまでも、信じられないという顔でアヤメを見つめていた。

 様々な視線が注がれる中、アヤメはスッと立ち上がった。


「確かに、貴殿らが望むように、冒険者ムソウには一回、痛い目を見た方が良いのかも知れない……いや、一回死んだほうが良いかも知れないな。まあ、その時は俺も、叔父貴もだが……そうだろ?」


 罵倒していた貴族達に目を向けると、静まり返った貴族達から、再びアヤメに怒鳴る声が響き渡る。


「その通りだ! 冒険者ムソウは処刑するべきだ! 人界に、あのような者は必要ない!」

「すぐにでも討伐するべきだ!」


 口を開けば処断、処罰、処刑と騒ぎ始める貴族達。ついにはミサキまでも、憎悪のこもった顔つきになり、貴族達を見るようになった。

 アヤメは貴族達の言葉になるほどと頷き、今度は十二星天の方に視線を移す。

 その中でもセインに対して目を向けた。強い怒りのこもった目でこちらを見てくるセインに、アヤメはフッと、挑発的な笑みを浮かべた。


「さあ……貴族達はこう言っている。良かったな、“ギルド長”。これで、アンタの思い通りに出来るぞ」

「……どういう意味だ?」


 アヤメとセインの会話が始まると共に、再び静まり返る議場内。

 意に介さず、アヤメはセインの質問に答えた。


「見ての通り、多くの貴族は冒険者ムソウの処刑を望んでいる。これだけ居れば、すぐにその手はずも整う。良かったじゃねえか。憎い男を葬ることが出来るぞ」

「あ? 舐めてんのか……クレナ領主……!」


 その瞬間、支部長会議のようにセインから強い怒気が放たれた。アヤメを嘲笑していた貴族達も黙り、恐れおののくように後ずさる。

 場に緊張が走る中、アヤメはどこ吹く風と、喉を鳴らした。


「ククッ、舐めてるわけじゃねえよ。アンタが望む方向に事が進みそうだと、俺は提案しているだけだ。貴族の賛同を得て、ムソウを処断。シンキや爺いも、コモンも、“魔法帝”も、貴族達からの要望が強い以上、何も言えないだろうよ。

 どうする? ここに今、ムソウを呼ぶか、ムソウに討伐隊を差し向けるか? 俺は止めねえよ。領主として、ギルド支部長として、俺にムソウの管理は大き過ぎるからな。領主としても認めないと、貴族達から言われたわけだし……なあ?」


 アヤメは、セインにおののいている貴族に視線を向けた。固まって動けないことを確認すると、フンと鼻を鳴らし、セインに視線を戻す。

 アヤメの発言に、領主やギルド支部長、騎士団の師団長達、それに、サネマサ達はどよめき立つ。


「む、あ、アヤメ殿、どういう……」

「おい、アヤメ! 自分が何を言っているのか……」


 ロロも何か言おうとしたが、ジェシカに止められていた。アヤメは、心の中でジェシカに感謝する。ここで目立ってはいけないと、自分に向けられる様々な言葉の一切を無視し、セインに話し続ける。


「さあ……結局どうするんだ?」


 セインは手を組んだまま、目を閉じて黙っていた。闘気を揺らめかせ、なおも怒気をアヤメや周囲に向けている。


 しかし、しばらくすると荒ぶらせていた気を鎮めながら、目を開き、はあ、とため息をつく。


「……ムソウの処断は我も望んでいる……が、コクロの海賊を任せると、決めただろ。少なくともそれまでは待つという貴様らの決定に納得した。それが終わるまで、我は待つ……」

「ほう……だが、それで貴族達は納得するかな?」


 アヤメの言葉に、セインはクレナの貴族達に怒りの視線を向ける。


「ひぃ゛ッ!」


 アヤメに向けられていた怒りが自分達に向き、貴族達はその場に崩れ落ちていった。

 見た目は幼くとも、人界の頂点に立つ十二星天の一人で、世界中のギルドを統括する男だ。その迫力は大の大人を屈服させるほどの力を持っていた。


「貴様ら……俺達に出資しただけの成り上がりが……余計な口出しするな……」

「は、はっ!」


 セインの言葉に、貴族達は頷き、震えながらその席に着いた。もう誰も、アヤメに対しても何かをする素振りを見せなかった。セインは再びアヤメに視線を戻す。


「これで……満足か?」

「いや……“龍心王”、アンタはどうなんだ? ムソウを排除したいんだろ? 今が丁度いい時ってやつだぜ?」


 アヤメに問いかけられたエレナは、セインと同じ様に、はあ、と息を吐き、口を開く。


「言ったよね、私……勝手にしてって。セインの決定に、私は従うわ」

「……そうか。じゃあ、俺からは以上だ。会議を中断して悪かったな、王様。それに宰相様」


 アヤメは、シンキとオウエンに軽く一礼して着座する。

 アヤメの言動を最後まで何も言わずに見守っていた二人は、コクっと頷く。


「……うむ。では儀を再開しよう。頼む、シンキ」

「ああ……では、冒険者ムソウへの褒賞は無しという決定に変わりなしという事で良いな。多くの問題行動についての処断は見送りとする。では続いて……」


 シンキの進行が始まり、会議は再開した。ふう、と一息つくアヤメにエンライが小声で話しかけてくる。


「驚いたぞ……急にやるのは辞めてくれ。心臓に悪い」

「急じゃねえだろ。向こうが喧嘩売って来たんだからな……あいつ等の汚職の証拠とか、揃えられるか?」


 アヤメは、嘲笑してきた貴族達の方を指しながら、リンネやロロが言うところの「悪い顔」で笑みを浮かべながらエンライに尋ねた。

 アヤメは、貴族達からの罵倒に関しては、内心かなり怒っている。クレナの件を見過ごしてやったにも関わらず、その恩も忘れた貴族達に、ほとほと愛想を尽かしていた。

 同様の気持ちを持つ、エンライもアヤメと同じ様に、ニヤッと笑みを浮かべながら、コクっと頷く。


「揃えられるか、というより揃えている。敵対派閥の貴族から、譲り受けたものがあってな。帰ったら告発の準備を始めるか……」

「邪神族の公表が終わったらな。で、ムソウがコクロに遠征ってタイミングで発表すりゃ……」


 ムソウがモンクに旅立ったことは身内しか知らなかったことなので、ムソウ不在という話は、王都にまで届いておらず、貴族達も戻る気になっていなかった。

 しかし、コクロに向かうことは、大々的に発表されるので、ムソウを恐れている貴族達も、再びクレナに来るかも知れないと、アヤメは考えている。

 ムソウがコクロに旅立ち、意気揚々とクレナに来るであろう貴族達を、そのタイミングで告発し、花街に来ることさえ許さない状況にさせると、アヤメとエンライは二人で笑い続けていた。


 ふと、反対側に座るワイツや、高ぶった気をようやく落ち着けたロロは、ニヤニヤとするアヤメとエンライに気付き、先ほどの事もあり、あれはどういう笑みなのだろうかと首を傾げる。

 しかし、何も思い浮かばず、後で聞こうと思い、会議に集中するようになった。


 次の議題は、セインの発言にもあった、コクロの海賊への対応についてから始まり、世界各地で起きている問題事への対処について話し合っていく。

 海賊の件を冒険者ムソウに任せることについて、会議の中心に立つのはコクロ領主ノワールだった。


「リオウ海賊団については、年々被害は増えるばかりだ。発生場所も増え、範囲も広がっていることから、向こうの規模も大きくなっていると考えられる。だが、拠点は未だに分からないままだ。コクロに点在する大小の島々を徹底的に調査したが、これと言った結果は得られず……ミサキ様。捕らえている海賊から何か有用な情報は得られましたでしょうか?」


 ノワールの言葉に頷き、ミサキは困った顔をしながら口を開く。


「それが……捕まってる人たち、皆錯乱してて、何も見えなかったの……」

「……そうですか。感謝します。とまあ、こういうわけで、王城に捕らえられている海賊共が当てにならない以上、こちらからはこれ以上の調査は諦めることにした。冒険者や騎士達をこれ以上死なせるわけにはいかない。

 そこで、先ほどのセイン様やクレナ領主からの提案、冒険者ムソウにこの件を一任する件に同意する。強大な力を思う存分振るって欲しいが、異論はあるか?」


 ノワールの言葉に、その場は沈黙という肯定の意を示した。

 ギルド支部長達も納得している以上、このまま綿密な計画を立てることにすることが決まる。


「では、コクロ領は冒険者ムソウを迎える事にする。あー……ジーン様、それで良いですな?」


 ノワールが一応の確認と、コクロ領を故郷とするジーンに目を向けた。

 ジーンは、朗らかに笑みを浮かべながら、コクっと頷く。


「ああ、構わない。だが、儂は当分、クレナで調査をすることになっている。冒険者ムソウを手伝えないかも知れないが、大丈夫か?」

「それは……出来れば、ご助力願いたいですが……クレナ領主殿、冒険者ムソウは、何時から海賊討伐に取り組むことが可能だろうか?」


 ジーンの様子を観察していたアヤメは、ノワールに声を掛けられ、考え込む。

 ムソウは既にクレナに帰ってきている。今頃は、前と同じように領で過ごしながらシロウとナズナの祝言に向けて準備をしてくれているはずだ。

 となれば、それが終わるまで、コクロに向かわせるという事はしたくない。祝言は、夏ごろ、つまり、ひと月あまり経った後だ。その後の事なども考えたアヤメは、余裕を持たせた予定を告げることにした。


「秋ごろには大丈夫だ」

「ふた月ほど後か。期間が空くのは何故だ?」

「いきなりコクロに行けって言われても、準備しないと無理だろ。相手は、長年、騎士団やギルドから逃げ隠れしながら、活動を続けている手練れだからな。流石のムソウも、相応の準備も必要になるだろう」

「確かに……では、冒険者ムソウをその頃にコクロで預かるとする」


 ノワールの決定に、ジーンも頷いた。


「その頃には、クレナの調査も終わっているだろう。ならば儂も、冒険者ムソウに協力することが出来る。手はずを整えていてくれ、ノワール」

「はっ! お任せください、ジーン様」


 ノワールを始めとし、ギルド支部長ギャッツと、騎士団師団長ルーカス、貴族席のコクロの貴族達までもジーンに深く頭を下げる。

 アヤメは、ジーンがムソウに対して、それほど嫌悪感を抱いていないどころか、寧ろ好意的な事に驚く。ミサキ達は分かっていたという顔をしている者や、ホッとしている顔をしている者も居た。

 セイン、ミーナ、ジーナは嫌そうな顔をし、エレナは興味なさげな顔をしていて、全体的に見ると、十二星天がどのような考えを持っているのかはっきりと分かった。

 これは大きな収穫だと、アヤメは満足げに笑みを浮かべた。


 その後、会議は、海賊討伐に関して、ムソウ以外の冒険者達も協力するように働きかける手はずを整えたり、ソウブの橋建設についての話し合いを行ったりした。


 橋建設に関しては、ソウブ領主アオシが天宝館に協力を求める際に、アヤメが口添えし、資源調達の為、ミサキの協力も必要というコモンの言葉に、ミサキも頷き、すぐにでも建設計画を始める運びとなった。


「あ、でも、橋の建設中に邪神族が出てきたらどうする?」

「そうですね……シンキさん、そのあたりはどうでしょうか?」


 ミサキとコモンの疑問に、シンキが応える。


「無論中止だ。いつになるか分からない以上、突然その時期が来れば、当然そうなる。ソウブ領主殿もそれで良いな?」

「はっ……領民の為の橋建設で領民の命が危ぶまれるというのはおかしな話です。ミサキ様、コモン様にも迷惑が掛かりますが、納得していただきたい」

「だいじょーぶだよ~」

「こちらも問題ありません」


 シンキの言葉に、アオシ、ミサキ、コモンも納得し、今後、領を跨いだり、世界規模で行われている事業については、邪神族が襲来した際は、その一切を中止し、領民保護と、邪神族殲滅の目的を人界全土共通の目的と据えて動くという事になった。

 この場に居る者達の多くは、壊蛇の襲来の記憶もある者達であり、そういったことは二度目だ。今度は、出来るだけ被害を無くしていく事を誓った。


 ふと、アヤメははっと思い付いたことがあり、手を上げた。シンキに指名されたアヤメは口を開く。


「そう言えば、来年開催予定の人界武術大会については、現在どうなっているんだ?」


 アヤメの言葉に、領主達も、ああ、そう言えばという顔をしている。


 ウィズ達が出場を夢見る、人界武術大会は、元は、オウエンと十二星天の会話の中から生まれたものである。

 最初は、本当に他愛の無い、違う世界から来た自分達ではなく、この世界に生きる者の中で一番強い者は誰か、という疑問から生まれた構想だ。

 だが、それはサネマサの親友であるジロウである、という結論に至ったのだが、実際に闘って見るとどうなるのか、野に潜んでいるだけで、十二星天とも渡り合える人間も居るのではないか、仮に、大きな力を持つ者が居れば、十二星天の後継者を発掘できるかも知れないという意見も出てきて、十年以上前から開催に向けて準備を進めてきた。

 しかしながら、邪神族の襲来という話も出てきて、それどころでは無くなってきた。中止なら中止、邪神族の襲来があるまで行うのなら行うとはっきりして欲しいというアヤメの言葉に、その場の者達も賛同する。

 今はどうなっているのかという質問に、今度もシンキが応えた。


「一応、闘技場の建設は天宝館の職人によって進められている。ただ、ルールとかはまだ決めていないが、開催の半年前、つまり今年の末には公表するつもりだ」

「てことは、一応開催の方向で動いていると考えて良いのか?」


 アヤメの問いに、シンキが頷く前に、オウエンが頷いた。


「うむ。告知は既に知れ渡り、このために力を付けている者も多いと聞くからな。我も楽しみにしておる」

「なるほど……では、来年には確実に開催するが、これも他の事業と同じく、邪神族の襲来があれば、中断もしくは、中止と考えても良いんだな?」

「ああ。そのように広めてくれ。諸侯もよろしく頼む」


 人界王の言葉に、その場の者達は全員頷く。アヤメはやれやれと、呆れにも似た感情となった。この状況下でも、武術大会を開催したいのは、オウエンの興味によるところが大きいのだろう。

 昨晩、闘鬼神について聞いていた時のような、ワクワクとしているような顔をしていることが何よりの証拠。だとすれば、もう少しきちんとして欲しいものであるとため息をつく。

 よく見ると、他の領も同じような反応を見せている。十二星天の中にも、やれやれといった感じにオウエンを見つめている者も多かったが、意外にもセインの反応は怒るわけでもなく、反論するわけでもなく、ここ最近では一番上機嫌では無いかというくらいに、満足げで、口角をわずかに上げていた。

 尊大な振りをしても、中身はやはり、見た目通りの子供なのかと感じた。

 確かに、言われてみればセインやリーがサネマサと共に考えていそうな内容ではある。10年以上前から計画していたという事は、セインが変わる前からの計画という事だ。

 変わる前から好きだったものは、そこまで変わっていないという事かとアヤメは深く考えずにそう結論付けた。


 やがて、昼頃になったことを確認し、会議の進行に一区切りをつけたシンキは、全員の顔を見回しながら、口を開く。


「これより、昼休憩に移る。午後の部は約一時間後から再開する。それまでは各自自由だ。では、解散」


 シンキの言葉に、その場はざわざわという声に包まれ、席を立つ者や、その場で弁当を取り出して昼食を摂る者も出てきた。

 ふと、アヤメがロロに顔を向けると、ロロもこちらを見ていて、申し訳なさそうに手を振っていた。ロロの方は、ジェシカに付いていくようである。

 アヤメはニッと笑みを浮かべながら手を振り返した。知り合いの領主達も、席を立っていく。アヤメは、いちいち昼飯を食べる為だけに部屋に戻るのも面倒だと思い、用意してきた弁当をその場に出した。

 それを見たエンライは目を丸くする。


「アヤメ殿はここで召し上がるのか。しかしそんなもの、何時作ったんだ? というか、アヤメ殿が作ったのか?」


 弁当の中は、色とりどりのクレナ料理のおかずで、一緒に取り出した筒の中には、作り立てかのような、温かい汁物が入っていた。

 良い匂いがすると、エンライが顔を近づけるが、アヤメは弁当を遠ざける。


「おい、やめろ。せっかくのたまの飯が不味くなるだろうが」

「酷いな……たまというのは確か、“刀鬼”様と共にムソウ殿やツバキ殿と過ごしているという……?」

「ああ。料理が上手い子だ。ここに来る前に作ってもらってな。ここぞという時に食べてってたまと叔父貴に言われてな。ずっと異界の袋に入れていたんだ」

「本当に便利だな、異界の袋。しかし……大したものだ……」


 エンライは、弁当の中に施されていた飾り料理を見ながら目を見張っている。トウショウの里に来てからも、たまの料理の腕は上がり続けている。

 今では本当に、王城のや貴族の専属料理人たちと比べても、遜色ない腕前を持っていると、アヤメ達は思っていた。

 最近では、ミオンやアヤメの家の料理人もたまに料理を習ったりもしている。


 そんなたまが作った綺麗な料理に箸をつけるのもどうかと思ったが、弁当を貰った際、純粋で真っ直ぐな目をしたたまに、


「りょーしゅさまに、がんばれ! って、おじいちゃんと一緒にお願い込めたから、ちゃんと食べてね!」


 と、言われたことを思い出し、苦笑いしながら、アヤメは料理に箸をつける。


「これで、味も良いんだからな……」


 まだ少ししか経っていないし、普段は特に感じないが、少しだけクレナに早く帰りたいと思ったアヤメ。

 隣で羨ましいなと言いながら、昼飯を食べに部屋を出るエンライ。誰も居なくなり、少しだけ暇だなと思いながら、アヤメは昼からの会議の資料に目を通していった。


少し出てきましたが、今までこの世界の貴族という存在について触れていませんでしたので、今更ながら説明します。

この世界の貴族という存在は、主に三種類に分けられています。

一つは、過去に人界に何かしらの貢献を成した者の一族(ジーンの生家シルヴァス家など)

一つは、領主の下で領内の集落(街、村等)を管理する者達(ロイド卿、ケリス卿、サネマサの生家等、なお、クレナについては自警団が該当)

最後に、セインが語っていた所の、十二星天が設立した機関、あるいは、壊蛇の襲来に際し、王城に出資した者達が当てはまります。


また、精霊人の森で少しふれたように、一応、税収の制度もあります。主に、街の防衛設備や道路などの維持費の他、騎士団の給与、冒険者への依頼料などに使われます。

冒険者は一定の住居を持っていない者達については税収が免除されますが、どこかの領に住んでいる場合は、税が課されますので、描写はしていませんが、ムソウも月に一度、居住税のようなものをギルドで支払っています。


この貴族についての設定は完全に後付けです(笑)

適当にやってるとこうなるってことですね……


クレナに居た貴族達がアヤメから実権を握ろうとしたのは、自警団を廃し、自分達が町々から税を徴収し、私腹を肥やそうとしたためであり、自警団や傭兵という存在が、クレナをどれだけ護ってきたか知っているアヤメやジゲン(ジロウ)はそうならないように、水面下で貴族を止めていたという事になります。

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