第374話 天上の儀 ―オウエンと会食をする―
やがて晩餐の準備が整った机に、アヤメ達は座る。上座にはオウエン。右にコモン、サネマサが続き、左にアヤメ、ジェシカ、ロロが続いた。
オウエンがここに居ることは、サネマサの努力の甲斐もあり誰にも知られていない。シンキでさえも、仕事に夢中で未だに気付いていない。
オウエンに付き、食事の世話をしている従者達には、オウエン自らが必要ないと指示を出し、サネマサがいつもの十人分食うと言っているので、オウエンの分も確保できつつ、誰にも怪しまれることなくこの状況を作ることが出来た。
その頑張りをオウエンは褒めるが、アヤメとしてはその段階で誰かにバレて、会食が流れてくれれば良かったと、ジトっとサネマサを睨む。その視線に気づいたサネマサは、気まずそうな顔をして視線を逸らし、食事を口に運ぶが、その行動にオウエンが気付き、口を開く。
「先ほどから、サネマサはアヤメ殿に怯えているようだな。“武神”が簡単に怯えた素振りを見せるものではないぞ」
やれやれと肩を上げ下げするオウエンに、この状況を作り出した本人が、どの口で言っているのだと、一同は思った。
「アヤメに怯えているんじゃない。アヤメを困らせたと、ジロウに怒られるのが怖いんだ」
「ああ……クレナの“刀鬼”殿か。なるほど……」
納得と言った顔で頷くオウエンに、コモンが口を開く。
「オウエンさんはジゲンさん……いえ、ジロウさんの事をご存じで?」
「む? そうか……今はジゲンと名乗っているそうだな。無論、知っておるし、会ったこともある。確か、あれは壊蛇の災害が収束ししばらくした頃だったか……災害で亡くなったクレナ領主に代わり、新しい領主にと打診した際にな……」
オウエンの言葉に、アヤメも頷く。
その日の事はアヤメもしっかりと覚えている。打診を受けたジロウは、コウシ達には喜ばれたが、本人は苦い顔をしていた。
しばらく返事を出さずに待っていたが、他の領も落ち着いた頃に、そろそろ答えを出せと言う王城の指示に従い、ジロウは幼いアヤメとサネマサを連れてオウエンの元を訪れた。
そして、ジロウはオウエンに直接、自分は領主になる気は無い。代わりに、ガロウの娘であり、正当な後継者であるアヤメを、クレナの領主に就かせると話したという。
「“刀鬼”殿曰く、自分は人殺しでもある。そんな人間がまともな統治など出来るわけないと言ってな。アヤメ殿が成人するまでは側で補佐をするから、名前だけでもアヤメ殿を領主に置いてくれと言われ、我はそれを承諾したというわけだ」
「無論、シンキを始めとした城の重鎮達からは反対されたが、いつものように叔父貴が黙らせて、俺が領主になったというわけだな」
クレナだけでなく、この城でも貴族やオウエンに対して不遜な態度を取っていたというジロウに、コモン達は少し呆れた顔になる。
「うわぁ……ジゲンさんはその時からそういう性格だったんですね……ちなみに、アヤメさん達から見て、ジゲンさんは丸くなったのは何時頃くらいからですか?」
「さて……行方不明になる直前まではそこまで変わっていない。帰ってきた時にはああなっていたな。たまがいかに凄い奴かってのがよく分かる」
過去のジロウの事は噂で聞いていたが、実際に祠で目にし、サネマサなどから聞かされていた逸話は全て本当の事だったという事は理解していたコモンやロロだったが、オウエンまでも、ジロウという人間がいかに破天荒だったかと説明する様に、本当に今のままで良かったと、心の底からたまに感謝した。
「長く噂は聞いておらなんだが、ジロウ殿も腕は衰えておらず、冒険者ムソウと共にクレナの事件を解決した第一人者となっておるようだ。此度の会議ではムソウの事ばかりだが、ジロウ殿に褒美は必要か?」
「さあ……叔父貴も、あまり王城と関わりたくないと言っていたからな……」
「ふむ……それは残念だ。だが、本人がそう言うのなら、我も何もしないでおこう。後でサネマサが怒られるのは、あまり気持ちのいい結果では無いからな」
そう言って笑い始めるオウエン。若干張り詰めた空気が緩んだ気になり、その場に居た全員の気も緩んでいく。
人界王オウエンには、時々こういったことがある。自分が人界を統べる者としての自覚があるのか無いのか定かではないが、少なくともその存在はその場を緊張させる。
しかし、オウエンの言葉や仕草により、緊張した空気を解く場面を、その場の十二星天は知っている。一般の民から十二星天まで、立場に関係なく全ての者の気持ちを落ち着かせる能力はある意味、統治者として、一番の才能だと思っている。
血を引いているはずのムソウとは大きな違いだ。この才能は、ムソウの妻子のものなのかも知れないと、コモン達は笑っていた。
それを見たオウエンは、不思議そうな顔で首を傾げるが、皆の楽しそうな様子に、すぐに満足げに頷いた。
「ふむ……何がきっかけか分からぬが、皆もだいぶ落ち着いたようだな。ここにきて追い出されたらどうしたものかと思っていたが……」
「今更それはございません。すでに諦めておりますので」
「その言い分だと本当は嫌だと聞こえるが?」
「そんなことないですよ。ところで、今日はムソウさんの話をしに来たのですよね。先ほど、あらかた説明しましたが、他に何か聞きたいことはございますか?」
コモンの言葉に、オウエンは頷き、考えを巡らせる。
晩餐の準備が整うまでに、コモンとロロによって一通りの説明は行ったが、資料に書かれている事以外の事はあまり説明していない。
更に、オウエンとの関係についても、邪神大戦との関係についても、ムソウやシンキにより、オウエンにはまだ話さないことになっている。
そう言った大きなことは、数々の面倒ごとを済ませた後だというムソウの言葉は忠実に守っていた。
下手な事は言わないようにと、皆で示し合わせていると、オウエンが、では、と口を開く。
「サネマサ、お前が冒険者ムソウに負けたという話は本当か? ミサキも負けたと聞いたのだが……?」
「本当だ。まあ、手合わせだったから、本気でやり合った訳じゃないが、ミサキは本気だったと言っていたな」
オウエンの問いにサネマサが答えると、あ、と言って、コモンも口を開く。
「ちなみにですが、僕も手合わせして、負けました」
「む? コモンもか。報告には無かったが……?」
「ムソウさんがモンク滞在中に少し……まあ、あの時も手合わせでしたので、本気では無かったですが……」
「コモンもサネマサも、手合わせを強調するな。ムソウと本気で闘ったことは無いのか?」
その問いに、ロロが口を開く。
「頭領がどなたかと手合わせを行う場合、本気は出さないそうです。下手をすれば斬ってしまうと仰っていました」
「ほう……それほどの“武力”というわけか……」
オウエンがムソウの力を理解し、深刻そうな顔をすると、ハッとしたジェシカが口を開く。
「陛下。私達をも打ち倒せる強大な力をお持ちでも、ムソウさんは――」
しかし、ジェシカが何を言うのか察したオウエンは、フッと微笑んだ。
「ああ、分かってる。その力の使い方と言うのは分かっておるようだからな。我からは何も言うことは無い」
これまで、セイン達が会議でムソウに対して強い嫌悪感を抱いている大きな要因は、ムソウが持つ強大な力を恐れての事である。サネマサやコモンを倒すほどの力を持つと改めて確認したオウエンも、同様の考えになると思ったが、シンキなどからの説明によりオウエンは、このままでいれば、ムソウのその力が王城ひいては、人界に向くことは無いと思っている。
そのことに気付いたサネマサ達は、ふう、と胸を撫で下ろす。
「良かった。オウエンまでも、ムソウを危険視したらどうしようかと」
「危険とは思っておる。が、大丈夫だとも思っておる。人界の歴史で、お主ら以外にも強大な力を持っていた者はムソウだけではない。“刀鬼”殿も同じだ。サネマサと互角にも関わらず彼の者も人界に刃を向けたりはしておらん。その前例があるからこそ、我はムソウも信じることが出来る」
オウエンの言葉に、サネマサは嬉しそうにし、ジェシカ、コモン、ロロは安心した顔つきになった。
しかし、アヤメだけは少しだけ表情を曇らせ、考え事をしていた。
それに気づいたコモンが、アヤメの様子に不思議そうな顔をした。
「どうしました、アヤメさん?」
「……いや、何でもない。まあ……ムソウについては大丈夫だろう。ロロ達を始め、ムソウにもこの世界で大切なものが増えているからな」
すぐにフッと笑って、ロロの頭にポンと手を置くアヤメ。ロロは嬉しそうな顔をして、コクっと頷いた。
「なるほど、闘鬼神か……ロロ殿も、闘鬼神はムソウの“家族”と申していたな」
「はい。頭領が私達を大切にしてくださるように、私達も頭領を大切に思っております」
「確か、コモンも闘鬼神に入ったと、シンキに聞いたが、事実か?」
オウエンにそう尋ねられたコモンは、苦笑いしながら頷く。
「は、はい。ほとんど成り行きですが……あの……やはり、十二星天が一人の冒険者の方の元に居座るのは駄目ですか……?」
「む? そんなことは無い。そこまで、我もそなたらを拘束しようとは思っておらん。コモンがそうしたかったのなら、それで良いのだろう
だが、コモンも天宝館という大きな“家族”の長だ。そのことは忘れないでくれ」
「はい。ありがとうございます」
オウエンから正式に闘鬼神の一員と認められたコモンは、ロロと顔を見合わせて笑い合っていた。
「しかし、冒険者ムソウが率いるパーティか……やはり、腕利き揃いなのか?」
オウエンの問いに、アヤメとサネマサが口を開く。
「ロロみたいに未来への可能性だらけの奴らばかりで、まだ発展途上と言ったところだ」
「だが、ムソウ、コモン、そしてジロウのおかげで日を追うごとに、一人一人が強くなっている」
「ほう。それは楽しみな話だな。それに興味も沸いた。未来の人界は安泰だな。どういった者達が居るのだ?」
オウエンは、今度はムソウが率いる闘鬼神について興味を示す。こういう話題も好きなんだとロロは、オウエンに対して可笑しい気持ちになっていた。
アヤメ達は、闘鬼神の面々について、オウエンに説明していく。ロロも、自分の仲間の事を知って欲しくて、楽しそうにしていた。
「そうだな……俺が一番気に入ってんのは、リアって女の冒険者だな。強い精神力と技術を持っている」
「ああ、アイツか……ムソウの死神の鬼迫を受け流す奴だろ?」
聞きなれない言葉が飛び出し、オウエンは不思議そうな顔をする。
「何だ、それは?」
「ムソウさんがよく行う技……というか、特技の一つです。凄まじい殺気をぶつけて、敵を行動不能にするという、訳の分からないものです」
「……聞けば聞くほど分からないが……リアという者はそれに耐える、と?」
「耐えるわけではないそうです。この殺気は自分に向けられているものでは無いと心の中で割り切り受け流すそうです。リアさんの精神力の強さは、私でも目を見張るものがあります」
「ほう。ジェシカがそこまで言うとは……ロロ殿はどう見ておる?」
「そうですね……リアさんは確かに、まったく物怖じしない性格だと思います。多分ですが、この場に居ても、あの式典の場に居ても、何も動じずに毅然とした態度でいると思います」
ロロという例が極端なので、それはどうかなとアヤメ達は、仮にこの場にリアが居たらと頭の中で思い描く。
……確かに何事もなく過ごしそうだと全員が一致した思いを巡らせた。ある意味、サネマサ達十二星天よりも冷静で居そうだと納得する。
「それで、あの冷静さを戦場でも発揮し、主に後方から他の人間を指揮することも多い。ツバキでさえ、騎士団以上だと評価していたな」
「ああ、例のEXスキルを持つ女騎士の事だな。その話も後で聞くとして……ふむ……師団長より上の統率力を持つ女か……」
「個人としての腕前も他とは群を抜いている。一度、ムソウやレオと依頼をこなしたこともあるからな」
「それと、クレナでの事件を頭領に伝えたのもリアさんでした。傷だらけで、たった一人で家に帰って、私達の事を伝えてくださいました。リアさんは本当に強い方です」
殊の外、リアだけの話題で、ここまで盛り上がるとは思わなかったとアヤメ達は苦笑いしていた。他にも面白い奴は居るが、闘鬼神を語る上では、ムソウやツバキ以上にリアの存在も大きいとここで理解する。
話を聞いたオウエンは、何度も頷きながら、フッと笑みを浮かべる。
「ふむ……それは、なかなか面白そうな者のようだな」
その一言に、ハッとするロロ以外の者達。何かを企むような顔のオウエンにコモン達は慌てて尋ねた。
「あの、陛下……何を考えているのですか?」
「いや……冒険者ムソウの所には、ムソウ以外にも面白そうな人間が居るなと……いずれ会ってみたいものだ」
「いや、ムソウはともかく、他の人間はそこまでの人間じゃ……」
「何を言うか。そなたらがそこまで言う者ならば我も会ってみたいものだ。クレナに行く計画も流れたが、まだ、潰えてはおらん……次はいつにしようか?」
「陛下。これから、我々も多忙な日々が続きます。シンキさんも仰っていましたし、それは、諦めた方が良いかと……」
「ふむ。我は人界王だ。文句は言わせんぞ……というわけでアヤメ殿、調整を――」
「断る! 人界王ならば、俺達が面倒になることは自制してくれ!」
「む……ならば、別の手を考えるか……」
そう言って、オウエンは悪戯っ子のような顔つきになりニヤニヤと笑った。
話が盛り上がるにつれて、余計な事を話してしまったと一同は後悔する。
それと同時に、実際に、オウエンが黙ってクレナに来たとして、確実に苦労することになるシンキと、頭を抱えそうなムソウ、そして、オウエンが確実に興味を持ったであろうリアに、心の底から謝っていた。
しばらくして、オウエンにくれぐれも勝手な行動はするなというサネマサ達の言葉に、分かった、分かったと頷いていたオウエンは、次の話題に移った。
「さて、では次だ。先ほどの話に出ていた、EXスキルを持つ騎士、ツバキ殿について教えてくれ」
オウエンの言葉に、最初に口を開いたのはサネマサだった。
「ツバキは、元は武王會館の門下生で、その後、騎士団の士官学校に進んだ女だ」
「ふむ。その頃はまだ、EXスキルなど使えなかったのだな?」
「ああ。スキルが発現したのはクレナの事件の最中だ。そうだよな、ジェシカ」
サネマサにジェシカはコクっと頷く。
「はい。私はその瞬間に立ち会いました。そして、スキルの力で、邪神族の秘術、神怒から我々を護ってくださいました」
「ほう。ツバキという者も、何やら凄まじい力を宿しているようだな。しかし、急にEXスキルとは……何か変わったことはあったか?」
「いえ……彼女もそれまでは肉体的にも精神的にも酷い状態でしたが、目を覚ますと同時にスキルを……意識を失っている最中の事は分かりません」
ジェシカはこの時、オウエンに嘘をついた。ツバキがEXスキルを発現させたのは、意識を失っている際に、精神世界でハルマサとツバキの意識に触れることが出来たからという事は知っていた。
何故そうなったかは、未だに定かではないが、ツバキも邪神大戦を経験した人間と接点がある。このことはまだ、ムソウと共に話すことでは無いと思っている。
話を聞いたオウエンは、ふむ、と頷き、しばらく黙っていたが、全員の顔を見ながら口を開いた。
「知っての通りEXスキルと言うのは、過去、邪神大戦で活躍した当時の英雄達が宿していた力の事だ。そなたら十二星天は、その力を受け継いだという話は聞いておるな?」
「ええ。シンキさんから伺いました。シンキさんも、当時の仲間から受け継いだ、と」
「シンキのスキルは絶対強者。当時、人界を興した者達の中でも随一の力を振るっていた人界の将のものらしいな。
EXスキルは、魂に流れる力の流れが、この世界に来る際に強く反応し、個人の力として、魂に刻まれ、発現するものだ。そして、シンキやそなたらと同じ様に、EXスキル、つまり魂の一部を、神族、あるいは鬼族の力により、その者の魂から切り離し、他の魂に譲渡させることが可能だ。神族と鬼族、それも、ケアル様とエンマ様でしか、それを行うことは出来ないとされていたが……」
そう言いながら、オウエンはおもむろに自身の刀を手に取った。首を傾げるサネマサ達に、オウエンは更に続ける。
「この刀は、初代人界王シンラ様が実際に持っていた「神無」という刀だ。そのままでも絶大な力を持つが、この刀は魂をも斬ることが出来るらしい」
「魂を? つまり、それは……」
「うむ。無に帰すという事だ。どのように作られたかは分からぬが、人族でも、魂をどうにかするという事は、当時では可能な技術だったのだろうな」
オウエンの言葉に一同は驚く。シンラが実際に使っていた刀が目の前にあることにも驚くが、トウヤ達が作ったものの中には、サネマサでさえクレナの一件で手が出せなかった、肉体を捨てた魂すらも滅ぼすことが出来るものもあるという事実に。
それほどの代物ならば、その秘密を明らかにすることは躊躇われるものだと、すぐに納得したが、オウエンは再び、サネマサ達にとって驚くべき秘密を話し始めた。
「この刀だけではない。ただの人族が、魂を分析したり滅ぼしたりと言ったものは、邪神大戦時は存在していたそうだ。あまりにも強大過ぎる力ゆえに、シンキやラセツ様は、今後の人界の為にそれさえも秘匿することに決めたそうだがな」
「そ、そんな大事な事を、何故、今……?」
「クレナの一件で、ケリス卿も魂を操る魔道具を使っておったのだろう? いつの時代のものか、もしくはこの時代になって生み出したのか定かではないが、転界教を名乗る者達がそれらを使って人界掌握を行っているのなら、そなたら、特に、コモン、そなたには伝えた方が良いと思ってな。EXスキルの話も出たことだしな……」
「それだ、王様。ツバキがEXスキルを宿したことと、この話のどこに接点が?」
「ああ、アヤメ殿。ツバキという騎士はもちろん、同じくEXスキルを持つムソウは、ケアル様やエンマ様と会ったことは無いだろう?」
「え、ええ。そのような話は聞いておりません」
「うむ。そんな者達が、EXスキルを宿している事はおかしい話だ。だが、当時の英雄達の中には、魂の扱いについて研究を深め、この刀のようなものや、多くの魔道具を生み出し、神族、鬼族に近づこうとした者も居たという事だ。仮に、当時を生きていた者達が、何らかの方法で魂をこの時代まで残しているのなら、冒険者ムソウ達にEXスキルを宿させることが出来ると思ってな」
オウエンの言葉に、サネマサ達はギクリとする。まさしくその通りのオウエンの推理に驚いていた。もう、全てを話しても良いのではないかと思ったが、そんな中、コモンの興味は別にあった。
「あの、陛下。その、魂の事について研究していたのはどのような方なのですか?」
コモンが気になったのは、神族や鬼族に近づこうとした、魂の研究を行っていた人物だ。過去の英雄についてはムソウと関りのある者達に関しては、理解が出来ていたが、それ以外の人物については曖昧だった。
自身もミサキやセイン達と共に多くの魔道具を生み出し、強力な武具を作ってきた。
しかし、更にオウエンの刀や、ケリスの魔道具など、コモンにも解析が困難な代物も多い。
更に、十二星天が身に着けることにより、EXスキルや個人の力を増加させるローブについても、王から賜ったものであり、コモンが作ったものではない為、コモンはローブの秘密を研究していた。今後、邪神族の襲来を見越すとなると、今よりも強力な力を宿す装備品を作らないといけない。
オウエンが語る人物にこれからの可能性を見出したコモンは、前のめりになってオウエンに尋ねた。
「シンキの話によれば、二人ほど居たらしい。一人は、スキルや魔法を人界に広めた、“始まりの賢者”と呼ばれた男で、スキルはミサキの前任者だったな。名は、ムウという者だ。
そしてもう一人は、コモンの前任者である、トウヤという男と共に、人々が邪神族や魔物達と闘ったり、豊かな生活を送ったりするために様々な発明を行っていた、ロバートという男だ。彼はセインの前任者であると聞いたな。
ムウとロバートの知識とスキル、そこにトウヤの知識が合わさり、人族もある程度は魂というものを操ることが出来るようになったとシンキは語っていたが、そのような力は禁忌の域を逸脱している。シンラ様の代、すなわち、邪神大戦が収束するとともに、それらの技術や知識も封印したと聞いた」
「そうですか……」
魂の事のみならず、邪神族への対抗策が既に失われている事を知ったコモンはガクッと項垂れる。貴重な手掛かりが、と心の中で嘆いたが、ムウもロバートもこの時代に居るかも知れないという可能性はまだある。それに賭けてみるかと思っていると、コモンの様子を見たオウエンがフッと笑みを浮かべた。
「そう落ち込むな。ムウとロバートが封印したと言っても、シンキはそれらを纏めたものを大切に保管し、いずれ必要になった時にコモンやミサキ、セインに渡すと言っておった。今の状況だと、セインは危ういかも知れぬし、既に禁忌の力を手にしているミサキは分からぬが、コモン、そなたならば、シンキも任せることが出来るかも知れん。その気ならば頼んでみてはどうだ?」
オウエンの言葉に、パッと顔を上げたコモンは、強く頷いた。分かりやすい反応に、サネマサ達は思わず吹き出す。
「分かりました! 早速、頼んでみます!」
「朗報を期待しておるぞ。さて……まあ、このように、当時を生きていた者ならば、EXスキルを継がせるという事は可能だ。ツバキという騎士が出会った者達も、彼の者に何かしらの希望を見出したということなのだろう。それならば、我も信じてみることにしよう」
その言葉に、サネマサ達は頷く。ムソウ以外にもツバキに対して心配なことがいくつかあったが、オウエンが言うのならと、どこか安心した気持ちになった。
「モンクの事件を一人で解決したという話も、その様子なら間違っていないようだな。騎士ツバキへの褒章についてはどうしたものか?」
「あー、それな。昨日のリーの一件もあるから見送った方が良いと思うぞ」
「というか、多分、ツバキも王城からの褒章については望んでいないだろう。アイツがクレナに居る状況もかなり特殊だからな。実の所は、ひっそりと生きて居たいと感じているはずだ」
「それはどういうことだ? 我は、マシロ領のワイツ卿と騎士団のコウカン師団長に、冒険者ムソウの護衛の任を任されていると聞いたが……?」
「あ、それで納得してるんだな。なら、問題ない」
どこかおかしいところがあるのかと、首を傾げるオウエンに、アヤメとサネマサは何でもないと誤魔化し、揃って酒を飲む。
コモン達は、クスっと笑いながら、頷き合っていた。
「ふむ、少し腑に落ちんが、まあ良い。さて、次に聞きたいことだが――」
皆の様子にどこか違和感を抱きながらも、オウエンは更にムソウの話を続けようとした。
その瞬間、バンッと大きな音が聞こえ、アヤメ達は音のした方向に振り向く。
そこには、肩で息をしながら、こちら、特にオウエンに鋭い目つきを向けているシンキの姿があった。
「「「「「あ……」」」」」
一同がポカンと口を開けていると、息を整えながらシンキが部屋の中に入って来る。
「見つけたぞ! オウエン! こんなところで何やってんだ!?」
「む……シンキ、大きな声を出すと他の者にバレるでないか。我はここで皆と食事しているだけだが?」
「今日は要らんとか言ってなかったか!? 何で、ここなんだ! せめて天上に義が終わった後にしろ! アヤメに迷惑かけんな! というかどうやって飯持ってきた!?」
「これは、サネマサに頼んでだな。流石全てのスキルを極めているだけあって、仕事も確実だな」
オウエンが笑い出すとともに、シンキは続いてサネマサをキッと睨む。
「サネマサ……過去の事もあって、俺も強く言うことは避けたい。避けたいが、この状況……お前ならどういうことか分かるよな?」
「いや、待ってくれ、シンキ。これはだな……俺は、オウエンと、アヤメに従って……」
「アヤメはオウエンに従うしかないだろう。お前はそれを止めろよ。また、クレナに貴族達からの要らぬ介入を招きたいのか?」
「そんなわけないだろ! というか、何で、ここにお前が!? 俺は完璧に……!」
「書類が纏まったから届けに行ったら、オウエンが居なかったんだよ! 気付くだろ、普通。それで、色んな人間に話を聞きまわって、最終的にミサキが教えてくれたんだよ!」
「ミサキの奴……余計な事言いやがって。お、俺だけじゃなく、ジェシカとコモンには何も無えのか!?」
「ジェシカはロロの保護者! コモンは巻き込まれただけってのは分かってる! ここにオウエンを引き入れたのはお前だろ!? なら、お前が責任を持つべきだろうが! お前な、こっちはな、今日、昨日、一昨日のセイン達の件もあって、重鎮達から向けられる十二星天への疑いの目を払拭するために頑張ってるってのに……情けない! ちょっとは、お前も自覚しろ!」
「なあ、シンキ。我は揉め事を起こすつもりなど無い。ただ、アヤメ殿達と冒険者ムソウについて話したかっただけだぞ。そんなに目くじら立てなくても良いのではないか?」
オウエンがやれやれと肩を上げ下げすると、サネマサの襟首をつかんでいたシンキは頭を抱えた。
「事の発端が何を……チッ! テメエら、箸止めろ! 少し説教だ!」
シンキはそのまま、オウエンとサネマサ相手に、この状況がアヤメやクレナ領にとってどれだけ面倒な事を引き起こすかと説明しながら、人界王と十二星天。共に、人界の頂点に立つ者として、もう少し自覚しろと説教していく。
シンキに見つかった時はドキッとしたが、図らずも擁護される立場となったアヤメ、ジェシカ、コモン、そして、ロロは、何も言えず……というか余計なことは口に出さないようにしようと思いながら、食事を続けた。
オウエン達に怒っているシンキを見ながら、ロロは一人、いつも通りだな~と、どこか安心し、ホッとした気持ちになっていた。




