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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
世界が動く
372/534

第371話 天上の儀 ―領主会議を行う―

 翌朝、アヤメは身支度を整え、何となく気が重い中、領主会議が開かれる部屋に向かった。

 すでに中では他の領主達も揃っているが、表情は重く暗い。昨日の事があったからか、何となく、沈んでいるようだった。

 会議どころじゃないのでは、とため息をついていると、後ろから声を掛けられる。


「アヤメ殿、おはよう」

「ん? ああ、ワイツか」


 振り返るとそこに居たのは、マシロ領主、ワイツ・マシロ卿だった。ワイツもどこか暗い顔をして、いつもよりも老けて見える気がした。


「その様子だと、昨日の件は聞いたみたいだな」

「うむ……邪神族の事もあって半ば混乱している中でのこれだ。少々胃が痛いな」

「俺も同じだ。何事も無ければ良いが……そういや、新しいチャブラの領主とは何か話したか?」

「ブラウン殿だな? 先日、会食をしたぞ。おっとりしてるようだが、芯はしっかりしておる……初めての会合がこれとは、ついておらぬな」

「だな……せっかく俺が静かなのにな……」


 そう言いながらアヤメが頭を抱えていると、ワイツは一瞬目を見開いた後、フッと笑った。


「ふむ……アヤメ殿が冗談を言うとは……」

「いや、そういうわけじゃねえよ」

「照れるな、照れるな。なかなか面白かったぞ。少しだけ、胃の痛みも治まった」

「いや、本当に笑わせるつもりなどなくてだな……」

「いや、こちらも笑わせてもらったぞ」


 アヤメとワイツが話していると、突然背後から、二人に割って会話に加わる者達が居た。

 振り返ると、話題に出ていたチャブラの新領主ブラウンを連れた壮年の男、コクロの領主であるノワール卿が立っていた。

 ワイツとは反対に、全身真っ黒の衣装に身を包み、更に漆黒な瞳で、アヤメ達を見ていた。

 アヤメとワイツ……のみならず、この男の瞳は、見た者を何となく不安にさせるほど、黒く、底が知れないほどの威圧感を与える。

 少しだけビクッとした様子のアヤメに、ノワールは首を傾げた。


「ん? また、俺の顔が怖いか? 陛下が言っていたように、俺ももう少し愛想を良くするべきか?」

「い、いや、少し驚いただけだ。アンタはそのままで良い」


 眼光だけで不安な気持ちにさせるほどの男が愛想よくしたところで、更に不気味になるだけだ。現に、今も何となく怖い雰囲気を醸し出している。

 名前と顔が相変わらず合ってないなとため息をついた。そんなアヤメを心配し、ノワールは更に顔を近づける。


「どうした? さっきは冗談を言うくらい元気だったじゃないか。何を疲れているのだ?」

「いや、大丈夫だ。それより……」


 領内のどんな些細な問題でも真摯に取り組むノワールは日常の生活でもその能力をいかんなく発揮する。それは素晴らしいことだし、ありがたいことだと感じたが、ノワールの顔を間近で見るのは心臓に悪い。

 慌ててアヤメは、ブラウンに視線を移した。自分に視線が向かったことを理解したブラウンは小さくアヤメに頭を下げる。


「あ、どうも……この度、新しくチャブラの領主になりました。ブラウンと申します。そして、領主着任から姓を与えられ、ブラウン・チャブラとなりました」

「ああ。支部長会議に居たから知ってる。改めて、クレナ領主、アヤメ・クレナだ。よろしくな」

「はい、よろしくお願いします」


 差し出されるアヤメの手を優しく包み、握手を交わす二人。するとブラウンはハッと目を見開き、アヤメはそれに気づき、フッと笑みを浮かべる。


「タコが気になるか? 悪いな、女らしくない手で」

「い、いえ、そのようなことは」

「だが、お前の手もタコだらけだな。お前も武人か?」

「あー、いえ……これまでずっと、鍬しか持っていなかったもので……」

「それは立派な事だ。俺達は命を奪うが、お前は命を育んでいる。誇っても良いことだ。だから、もう少ししゃんとしろ」


 そう言いながら背中を強く叩くと痛そうにしながら、ブラウンは何度も頷いた。

 それを見たワイツが、やれやれと言った感じに肩を上げ下げする。


「アヤメ殿。それだと、ブラウン殿がますます委縮してしまうぞ」

「い、いえ……喝入れ、ありがとうございます」

「本人がこう言ってるから気にしない。で、何で、ノワールと一緒に居るんだ?」

「隣の領だからな。色々と力添えしないと駄目だろ」

「ああ、爺いにもそう言われたな。じゃあ、今後は俺ともよろしくな、ブラウン」

「はい、よろしくお願いします」


 ブラウンは再度頭を下げようとするが、当たり前のことだからと、アヤメがそれを制する。

 そして、領主としての立ち位置と、あまり周りとの上下関係を気にするな、等、アヤメ流の領主として、どう振舞っていくかなどを伝授していく。

 ブラウンは、なるほどと何度も頷いているが、その度に、これで良いのかとワイツとノワールは苦笑いしながら頭を抱えていた。


 そうしていると、部屋の戸が開き、エレナを連れたシンキが部屋に入ってきた。

 その場で跪こうとする一同だったが、シンキがそのままで良いと言って動きを止める。

 アヤメは、エレナの様子を観察した。別段、普段と変わりない様子に若干ホッとする。


 深紅の髪、金色の瞳の瞳孔は龍族のように縦に伸びている。龍人という種族の為、首筋や腕の辺りからは小さな鱗が見えているがぱっと見は普通の人族の女だ。

 いつも通り、凛とした顔つきだが、少し気だるそうにしている。真顔で、この場に興味を示した様子は平常だなとアヤメは感じた。

 しかし油断は出来ない。気が高ぶると龍族のような姿になり、その力をいかんなく発揮すると聞いている。ここからが本番だと気を引き締めた。


 そんなアヤメや他の領主に構うことなく、エレナは上座に座り、眼鏡を掛けてから資料に目を通していく。領主達も、それに続いて席に着いていく。

 自分もそれに続こうとした時、ため息をつきながらシンキがアヤメに小声で話しかけてきた。


「ホント……すまねえな」

「もう気にすんな。なるようになっただけ。俺はアイツを刺激しないように、本音を引き出すことに専念する」

「分かった。準備は出来ているのか?」

「ほとんど闘う前準備でここまで来た。ほれ」


 アヤメは、自分の着物を広げ、壊蛇と九頭龍の鱗で出来た胴当てと、様々な耐性効果を発現させる腕輪、更に全身に身体能力向上の付与や、魔法効果を上げる付与が成された装飾品を身に着けていることをシンキに見せた。


「ご先祖様も居るから大丈夫だろう……多分」


 自信なさげなアヤメにシンキは、善処する、と頷いた後、アヤメが持つ刀に顔を近づけた。


「エレナのEXスキルは結び付けるもの……つまり、ルージュの後任だ。だからどうとは言わないが……やはり、アイツに似ている。エレナが暴れたら、お前も本気になれよ」


 シンキの言葉に反応するように、花鳥風月が仄かに、一瞬光を放った。

「肯定」と、見て良いのかと、シンキは苦笑いしながら頷き、自身も上座の席に向かった。

 アヤメも一つ深呼吸した後、自分の席に着く。

 隣にはワイツとブラウンが着く。いざという時は、この二人どちらかの命を護ることになる。

 どうしたものかと、再度ため息をついていると、シンキが皆に向けて口を開いた。


「では、本日の会合を始める。進行は俺、シンジ……じゃないな。もう、既に話は回っていると思うから本名を名乗る。

 進行は俺、シンキと十二星天エレナ・ドラゴニアが執り行う。では、最初の議題だが……」


 そう言って、領主会議は幕を開けた。幾つかある議題のうち、最初に行われたのは転界教と、邪神族のものだが、これについてはギルド支部長、騎士団の師団長会議もあり、事情を知っていることもあり、領主達の決議は早かった。

 領主達の間でも、転界教についてはすでに悪影響を及ぼしている存在として、公表すること及び、人界全土で警戒すべき相手として認めることに同意する。

 そして、邪神族に関しても、発生する可能性があるもの、ではなく、必ず発生する人界への災厄に防備を固める意向を示すという結果となった。


「意外だな……信じられないと思って、鬼化することも考えたんだが……?」


 世界の常識を根底から覆すことになるが、すぐに納得した様子の領主達に首を傾げるシンキだったが、ワイツがそれに返す。


「それは、民達にお願いします。我らも信じることに時間が掛かりましたので」

「ほう……ではなぜ、信じる気になったんだ?」

「私達は昨日、魔獣宴の天狼様の元へ伺ったのです。そして、話を聞いて、普段は何も語らない天狼様が、全てを話し、事実だとお認めになった以上信じる他ありません」


 なるほどと、シンキとアヤメは頷く。やはり、太古から生きている神獣達の言葉は、民衆に大きな影響を及ぼすことが明らかになった。

 邪神族の公表については神獣や龍族の力も借りることになると思い、シンキは早速エレナに視線を移した。


「では……エレナ。今後、龍族の力も借りることになると、天界龍に伝えてもらえるか?」


 その行動に、アヤメは殆ど祈るような気持ちで、何もしないでくれと念じた。それが功を成したのか、関係ないのか定かではないが、特に何も起こさず、エレナは小さく頷く。


「ええ……それくらいは、するわ。ただ、龍じいや、他の皆が断ったら、それまでの話。それ以上の過干渉は、私が許さない」

「あ、ああ。分かってる。伝えてくれるだけでいいんだ。じゃあ、次だな……」


 意外にも、すんなりと会議を進めていくエレナの様子に、アヤメは更に緊張を解き、大きく息を吐く。

 気にしてくるブラウンに、気にするなと一言言って、自分も会議に集中し始めた。

 邪神族の事を領民達に公表する際に、上手くいけば龍族達も人の前に出て話し、トウガ達神獣が説明することで、信じさせるという決定に、領主達は頷く。

 ただ、混乱による暴動などが起こった際は、領同士で連携し対応する。これには騎士団やギルドの力も必要だ。明日の天上の儀では、そのことについてもしっかりと話し合う運びとなった。


 その後は、各領の細々とした問題について、それぞれで解決策を打ち出し、十二星天へ、何かしらの要望などが出るとシンキは一つ一書き留めていく。多くの貴族が、モンクでの事件で失脚、あるいは活動を自粛されている中、王城からの支援が必要な内容のものについても、しっかりと話し合うことを約束した。

 ただ、領同士で解決出来るものに関してはその限りではなく、領主達の話し合いで、解決するように促している。率先して話し合いを進めていくのは、ここでもアヤメと、名君と名高いワイツ、そして、ゴルド領主であり、ギルド支部長レオニクスの実子、オーロ・ゴルドだ。


「マシロ、クレナ、そしてモンクと続いた転界教が起こした事件。特にマシロ領、クレナ領の復興はどのように進んでいる?」

「マシロ領は問題ない。魔物の数も減り、被害も減少傾向にある。冒険者もそれなりに多く常駐しておるから、援助等は必要ない」

「クレナも同じだ。復興はすでに完了している。冒険者不足で依頼が急増した件についても対処できている。よって、一時的に報酬を上げる件については、そろそろ通常通りに戻すつもりだ」

「ふむ……私の方から言おうとしたのだが、そちらから出るとは話が早い。では、依頼が増えている領に冒険者を移すように促すのも可能か?」

「問題ない。どこか、足りてない所は……モンクはどうなんだ?」


 アヤメの問いに、モンクの女領主、ロゼオ・モンクは口を開く。


「モンクの方は問題ない。事件に関わった冒険者達には、細々とした依頼に取り組み、領内の問題事を隅から隅まで片付けるようにと伝えておる。低い報酬で誰も手を付けんかったものじゃからのお。寧ろ助かっておるわ」


 満足げな顔のロゼオを見ながら、モンクの冒険者は、クレナと違って真面目だなと苦笑いするアヤメ。遊びながら依頼もこなす冒険者が、クレナでも増えてくれればと、思いつつ、ロゼオに頷いた。


「平和そうで何よりだ。じゃあ、モンクは良いとして、他の領はどうだ? オーロ、俺達の事は良いが、お前の方は大丈夫なのか?」

「ああ。やはりここに近いからか、何か起こっても対応は出来ている。少なくとも、この大陸は問題ないだろう。アル、どうだ?」


 オーロの言葉に、隣に居るシルバの領主、アルギュロスも頷いた。


「うむ。ほとんど起こりえないが、有事の際は、レインから騎士団やギルドの精鋭が来ることになっている。魔物関連の依頼も少ないし、特に問題はないぞ」


 アルギュロスの言葉に、上座のシンキも頷いた。王都と隣接するゴルドやシルバでは、災害級の魔物が出た場合、王都に居るリーやセインが早急に対処する手はずを整えている。

 更に、レインには世界中の冒険者の中でも五本の指に入る凄腕の冒険者と、魔法戦士団が控えていることもあり、元々強力な魔物が現れないという事もあり、統治に関しては何の問題もなく行われている。

 ジェシカが解決するまで荒れ放題だったシルバ領も、“豊穣の楽園”と呼ばれるほど、豊かで平和な領となっていた。


 オーロ達に頷いたアヤメは、他の領主に視線を移す。


「では、その他の領はどうだ?」

「オウキは今、“魔法帝様”が滞在していることもあり、原生林や山脈もあるが、何とかなっている」

「同じくチャブラも問題ない」

「ソウブも、湖上の警備隊を再編成したおかげで、水難事故も減ってきておる。これから、新たに橋を造る予定だ」


 ソウブ領主、アオシ・ソウブの言葉に、一同は目を見開く。


「む……? あの湖に橋、とな? 魔物は大丈夫なのか?」

「うむ。何故だか、あの湖の魔物が激減したのでな。冒険者達の護衛付きならば、橋の建造も取り掛かることが出来るだろう」


 ソウブ領には大きな湖があることで知られている。マシロ、パーシから続く街道はそこで二つに分岐しており、南に進めば、ソウブの町々を抜け、隣接するチャブラ領のギルドや騎士団の師団が置かれた、大きな街に出ることが出来る。

 反対に、北に進めば、ソウブ領の中心地となる街を回ることが出来るが、隣のチャブラ領に入る際は、「ピクシーの楽園」と呼ばれる、かつては植物獣の巣窟だった森林地帯を越えることとなり、チャブラを抜けてクレナに着くまでの間、街も一つしかない。

 湖をどちらに迂回するのかという問題は長く冒険者や商人達を悩ませる原因となっており、出来れば湖を横断する橋と、その中央に領内を移動できる船の中継地点が欲しいと考えていた。

 しかし、ソウブの湖には魔物が多く、橋を架けるどこか船を動かすことすら困難な状態だったため、その計画が叶えられることは無かった。


「それが、最近になって魔物の数が減っていることに気付いてな。ギルド、騎士団で編成した調査団によれば、例年の半分以上は減少している。このままだと、来年から橋の建設に踏み切れると思っておる」

「そうか……なら、クレナから天宝館の職人の派遣をコモンに尋ねた方が良いか?」


 アヤメの言葉にアオシは是非、と頷く。そして、橋建設の頃になると、世界中の冒険者を、その工事に協力させると領主同士で決めた。


「まさか、ソウブの湖がそんなことになっているとはな……何かきっかけでもあったのか?」


 オーロの言葉に、アオシは考え込んだ後、ハッとした面持ちになる。

 そして、上座に座るシンキと、特にエレナを気取られないようにチラチラと見て、どこか様子を伺う仕草を始めた。

 首を傾げる一同だったが、それを見たワイツとアヤメはハッとし、慌てて口を開いた。


「まあ、何はともあれ、ソウブに関してはそのように進めて行こう。着工時期などは、城を通じて各領に渡るようにしてくれ」

「他の領は何かあるか?」


 話題が、ムソウのものになることを恐れた二人により、ソウブの話は切り上げられ、次に困っていることがある寮は無いかと提案する。


 しかし、スッと手を挙げた者が口にした話題は、そんな二人の思いを簡単に断たせることになり、アヤメやシンキに緊張を与えるものとなった。


 手を挙げたのは、コクロ領主、ノワール。コホンと咳ばらいをして、口を開いた。


「うちの領はやはり、リオウ海賊団の被害が絶えない。それに加えて海の魔物どもも増えている。冒険者を増やして欲しいって要望はあるが、先日のギルド支部長会議にて、現在クレナに居る冒険者ムソウが、コクロに来て海賊団の対応をすると聞いた。

 が、実態は分からん。どういう人間なのか教えて欲しいってことと共に、ムソウがコクロを訪れるまでの間だけで良い。冒険者達をこちらに回してくれると助かる」


 ノワールの発言に、シンキ、アヤメは身構えつつ、気取られないようにエレナの様子を伺った。

 今まで会議に興味がない様子だったエレナは、腕を組み、少しだけ身を乗り出し、興味を示したかのような態度になる。

 言葉を間違えると、昨日のリーのようになりそうだと、シンキはちらっとアヤメと目を合わせた。

 バレないように小さく頷き、アヤメはノワールの方を向いた。


「ムソウについては資料に書かれていることが全てだ。全て、事実だ」

「ふむ……ギャッツに話した件についても事実と見て良いのか?」

「ああ。あの力があれば、海賊団をどうにかできると、俺達は考えている」

「実際、ムソウ殿のおかげで、マシロ、ソウブ、グリドリ、クレナで発生していた問題は片付いておる。信用に値する人間だというのは、私からも証明しよう」


 アヤメの説明に、ワイツが付け加えると、それぞれの領主達からもムソウが信頼できる人間だと続いていった。


「先ほど言ったソウブの湖の件、魔物が減る前にムソウ殿が訪れ、湖を巣食っていた魔物を殲滅した経緯もある。無関係というわけでもないだろう」

「グリドリでは知っての通り、「ピクシーの楽園」を浄化したという報告も上がっている。妙な力と資料には書かれているが、害は無いようだな」


 ムソウを擁護する発言がある度に会場はざわざわとどよめき、真偽の確認を急ごうとする領主達の声も聞こえていた。

 各領の調査団のようなものがクレナに来るなら気をつけねばと、アヤメが考えている中、ノワールが一つ咳ばらいをして、視線を集中させる。


「ふむ……確かに聞いていた通りの男のようだな。ここに書かれている“武力”は本物の様だ。この男にならば、海賊団の件を任せても良い。

 だが、ここには一個人の判断で貴族を斬ったという報告も上がっている。これについては――」

「それについては、我がマシロ領で解決している。ムソウ殿が斬った貴族は、ロイド・スレイン卿。魔獣宴から研究用のワイバーンを持ち出し、精霊人の森を壊滅させようとした男だ。そして、もう一人はデイヴ・ミリアン卿。転界教に与していた貴族の一人。ムソウ殿が斬らなくとも、いずれ処断することになっていた貴族と判明した」


 ムソウが起こした問題について提言しようとしたノワールの言葉を遮り、事のあらましをワイツが説明した。課程はどうあれ、それも人界の為だったと訴えるが、ノワールは手を挙げて、ワイツの言葉を制する。


「それは結果論に過ぎない。結果が違っていれば、強大な力を持つ男が人界の貴族を殺した、と言う判断も出来る。慎重になるのは分かってくれ、ワイツ殿」

「う、む……しかし……」

「ワイツ殿やアヤメ殿がムソウに受けた恩と言うのは大きいものだろうが、それだけではいまいち、人界にとって無害か有害なのか分からない。

 この資料には別に、ムソウという男について書かれている。判断の材料とするため、それについて、証明させてくれないか?」

「分かった……しかし、他の判断材料とは……?」


 ワイツの言葉に、ノワールは頷き、上座に座るシンキに視線を移した。

 嫌な予感がする。そう考えるアヤメだったが、多少予定が早まっただけで、誰も言わなかったら自分がやろうとしていたことを他の奴がやってくれるだけと、息を大きく吸い込み、身構える準備を整える。


 シンキも同様に少し緊張しながら、ノワールの方を向いた。


「俺に、何か用か?」

「ここには、冒険者ムソウが、“武神”様、“魔法帝”様、“鍛冶神”様、“聖母”様、“獣皇”様、そして、シンキ様と友好を育んだと書いてあります。十二星天様は、この男について、一定の信頼を得ていると考えてもよろしいのですか?」


 ノワールの言葉に、シンキは即座に頷く。


「あ、ああ。冒険者ムソウについては、俺のこの眼でしっかりと判断したし、他の者達も同様だ。クレナの事件においては、邪神族からサネマサ達を護るように闘ったとも聞いて、それは確認が取れた。奴は、大地の敵じゃない」


 シンキの言葉に頷くノワール。他の領主達も、シンキの言葉もあってムソウに対してどことなく安堵した顔つきになった。

 アヤメは、エレナの様子を伺った。目を閉じながら、微動だにしない。じっくりとシンキ達の話を聞いている様子だった。

 何も起こさない様子に安堵するも、どことなく不気味さを感じていた。

 すると、ノワールは更にシンキに対して口を開き始める。


「なるほど……貴方方のムソウに対する考えは分かりました。しかし、それだと昨日のリー様の様子の説明にはなりません。それと、一昨日のセイン様も同様にムソウに対しては嫌悪感を示したと聞いております。十二星天自体がムソウについてどう考えているのか、わかりません」

「い、いや、まあ、そうだが……」

「そこで、です……未だ、ムソウと関りが無い様子のエレナ様。貴女は、この男についてどのような所見をお持ちで?」


 ノワールがエレナに視線を移した途端、シンキは緊張したように体に力を入れ、アヤメは刀に手を置く。

 瞬間的にそうなったが、仕方ない程の威圧感をエレナが放った。少しだけ、その場の空気がピリッと張り詰め、領主達は動揺する。ノワールだけは、まるでこの状況を予測していたように、平然としながらも、冷や汗を掻いていた。

 魔物を前にした時と同じような、命の危機を感じさせる感覚を覚えつつも、その漆黒の瞳をエレナに向ける。よくやるものだと、アヤメはこんな時に感じていた。


「エレナ様……昨日のカイハク様やセイン様と同様に、そのように周りを威圧されるだけでは何もわかりません。冒険者ムソウについて、貴女がどうお考えなのか、教えていただきたい」


 そんな中でもノワールは、質問を辞めない。狼狽する領主達の中で、シンキすらも大した男だと、どこか呆れるような気持ちになり、ノワールに感心していた。


 エレナはノワールに応えるように、ゆっくりと目を開ける。何をする気だと、シンキもアヤメも臨戦態勢を整えようとした時だった。


「「ッ!?」」


 ふいに、エレナから放たれていた威圧感が解かれた。その瞬間、シンキ、アヤメも力を抜き、どっと冷や汗を掻く。

 どうなっているのだと、横でシンキが困惑している中、エレナは一つため息をついた。


「ふう……シンキさん……それに、クレナ領主さん。そんなに警戒されると、私だって黙っていない。少しは落ち着いて……私は、カイハクと違って冷静よ。そこまで馬鹿じゃないわ……」


 そう言って、シンキとアヤメを一瞥するエレナ。二人が自分に向けていた警戒心は、当に知っていたというエレナは、防衛のために威嚇したに過ぎないと語る。

 二人はエレナに言われるがまま、頷き、エレナに対しての警戒を解いた。それと同時に、ますます油断も隙も無いと、アヤメは汗を拭う。


 そして、エレナはノワールに視線を移した。


「そして……コクロ領主さん。私が、ムソウって人に思っている事を言ったところで何だと言うの? すでに、コクロの海賊団については、セインの名の下に冒険者ムソウを派遣することに同意を得ている。それに、ここで議論したところで、ムソウが自発的にコクロを訪れ、海賊団に挑むという事も可能性の一つとして考えられることよ」

「ふむ、その通りでございます。しかし、人界の最高峰たる貴方方、十二星天という“組織”が冒険者ムソウの行動についてどのようにお考えか、それを確認せねば、今後、ムソウが訪れるであろう他の領についても、どのように扱えば良いのかわかりかねます。王城と同等の地位と権利を持つ貴方方は、冒険者ムソウについて、どうお考えか確認したい」


 ノワールの問いを受け、エレナはため息をこぼし、しばらく黙った後、口を開いた。


「十二星天からは特に何もする必要はないわ。好きにやらせれば良いの。今までの行いも、結果的には人界を救っていることになっているからね。

 何か問題が発生しても、コモン、サネマサ……そして、シンキ。あなた達がムソウを抑えるんでしょ? なら、海賊団の相手をさせるなり、転界教と戦わせるなり好きにすればいい」


 エレナの言葉に、シンキは目を見開き、驚いた。セインと同じ様な考えを持っているであろうエレナが、ムソウを自由にさせろと言う発言をしたことについて、意外だと感じた。

 無論、問題が生じれば自分達の責任が問われることになるが、それでも、エレナからムソウに対する考え方は、他の二人よりも落ち着いているようだった。

 その事実が知れただけでも満足、という事で緊張を解き、エレナに頷いた。

 それを見たノワールも、少しだけ訝し気な顔をしつつも、静かに頷き、自らの質問を終えた。


 このまま、次の議題にとシンキが進めようとした時だった。


「待て……」


 スッと手を挙げて、アヤメが口を開く。発言を許されたアヤメは、視線が集まる中、エレナに顔を向けた。


「アンタ自身……アンタ個人的にはムソウについてどう考えている?」


 再びムソウについて聞かれたエレナは、面倒そうにアヤメに視線を返した。


「さっき話した通り、十二星天としてはムソウの好きに――」

「違う。アンタ自身がムソウについてどう思っているのか、俺は確認したい。昨日の“騎士団長(ナイトマスター)”の件もあるからな。十二星天がどうのの前に、個人個人がどう考えているのか確認したい」


 アヤメがそう言うと、再びエレナは少しだけ周りを威圧するように力を開放させる。その場の空気が張り詰めたことを感じた領主達は、一様に黙るが、既に慣れた様子のアヤメは毅然としていた。

 アヤメの姿をジッと見据えているエレナの横で、シンキは二人の顔を交互に見る。


「待て、アヤメ……いや、クレナ領主。その話はもう終わろう。次に進んだ方が良いんじゃないか?」

「却下だ。昨日の様子を聞いた俺達は、先ほどノワールが言ったように、確かにムソウについての判断材料に、十二星天という組織としての意見は相応しくない。組織で認めていようが、“ギルド長”と“騎士団長”は違うみたいだからな。それにより、十二星天が割れることも考えている。

 そうならないように、一人一人の考えは聞いておくべきだ」

「それについては明日の――」


 十二星天の問題は、十二星天内で話し合うべきと、シンキはアヤメの問いを止めようとしたが、そんなシンキを横に居たエレナが制した。


「……ええ、良いわ。話しましょう」


 そう言って、エレナは微笑を湛えながらアヤメに向き直る。部屋中に拡散されていた威圧感のような気配が、アヤメ一点に集中した。

 ジトっと冷や汗を掻き始める中、エレナは口を開く。


「冒険者ムソウ……確かに、強力な力を持っているようね。その力を以て、多くの事件を解決に導き、超級、災害級、果ては天災級の魔物を打ち倒し、人界に平穏をもたらす者として、貴方達領主や、多くのギルド支部長、それに、コモン達が信頼するのは理解できるわ。

 けど……ムソウはその、巨大な力を持つ者としての責任と、行動を果たしていない」

「ほう……どういう意味だ?」

「言った通りよ。大きな“武力”を持つ者にしては行動が軽率過ぎる。さっきも出てきたけど、個人の感情だけで貴族を斬るのは、それが例え、結果的に良かったことだとしても、間違ってる。この人は、ただ運が良かっただけ。天災級をも屠る力が、何かのはずみでこちらに向かうことも十分考えられるわ。

 冒険者ムソウは、もう少しその辺りをきちんと考えた方が良い。自分がどれだけ、この世界に影響を与える人間なのかを考えた方が良い。

 ムソウの行動により、人界とは一切の関わりを持たないと決め、壊蛇との闘いによって傷付いたカドルも、結果的に、人の前に出ることになった。私はそれが、気にくわない……!」


 その瞬間、威圧感に混じり、エレナの怒気をアヤメ、シンキは感じた。シンキは身構えようとするが、アヤメがそれを制し、動きを止める。

 この怒りは本物だろうと、アヤメが納得していたからだ。セインのように、何が建前で、何が本音なのか分からない以上、アヤメはエレナとの会話を続ける。


「雷帝龍が、人前に姿をあらわし、その力を振るったのは、雷帝龍自身の判断だ……アンタはそれを否定する、と……?」

「そうかもしれないわね。でも、カドルの力は闘いが終わっても、徐々に減っている様子……詳細は分からないけど、闘いが終わっても力を使っている状況に陥ってるってことよね? 身を休めていたのに……ムソウと関わったばかりに……カドルは今も弱っている……」


 エレナの言葉に、アヤメは小さく舌打ちをする。カドルが現在も力を使っている理由は、魂の依り代として蘇った牙の旅団の為である。自分もそれを望み、関わっている以上、エレナの怒りに真っ向から応えることは出来なかった。


「そんなに気になるなら、クレナに来て、雷帝龍の真意を聞けば良い。何故、来ようとしないんだ?」


 やっとの思いで絞り出したアヤメの問いに、エレナは真顔になった。


「決まってる……クレナに行って、ムソウって人に会ったら、私がどうするか、私にも分からないから……」


 その瞬間、エレナから発せられる怒気が一層強まった。アヤメが顔色を悪くする中、シンキは慌ててエレナの肩を掴む。


「おい、エレナ! お前、どういうつもりだ!?」


 激高するシンキに、エレナは少しだけ怒気を緩める。

 そして、瞳だけでシンキを一瞥した。


「聞いての通り、私は、たった一人で人界を左右するほどの力を持ち、あまつさえ、龍達にも影響を及ぼす男を放っては置けない。

 私は大地を護る者として、その均衡を保つ者として、危険な力を放っておくわけにはいかない。このままクレナに行って、力づくでムソウって人を黙らせる覚悟は出来ている」


 はっきりと、ムソウに対して敵対意識を露にするエレナ。ジッとシンキとアヤメを見据える目を見て、それは嘘ではなく本心だと、アヤメは感じた。


「貴方やクレナ領主、マシロ領主が何を言っても、私も、セイン達と同じくムソウって人をそう簡単には信じない。私達十二星天も最初はそうだった。ミサキやジェシカみたいに、最初から崇められていた訳じゃない。私も龍族と同等の存在として、この世界の人間から奇異な目で見られたこともあったわ。

 でも、壊蛇と言う存在が人界を襲い、私達がそれを阻止した。その結果、今の地位に立っている。

 ムソウにはその過程が無い。信頼できるに値する結果は後からついて来たもの。そんな人を簡単に信用するわけにはいかない。行動だけ見れば、危険な男よ」


 そう言って、エレナはスッと立ち上がる。怒気を収め、資料を整理し始めた。


「だから私は、人界を今の状態に保つ為なら、ムソウって人を排除するというセイン達の考えには賛成よ」

「だ、だが、邪神族に対抗するためにはアイツの力も……」


 反論するシンキをエレナはギロッと睨み黙らせた。


「邪神族を倒した後……その後の人界、ひいては、ムソウをどうするか、考えてる? どんな活躍をしたところで、王城にも属さない、どこにも縛られないムソウを、貴方達はどうするの? 今度はムソウが人界に刃を向けたら? 陛下に、その矛先が向いたら? そうなる前に、何とかした方が良いんじゃない?」

「そ、それは……」


 シンキは何も答えられなかった。いっそ、ムソウとオウエンの関係について言おうかとも考えたが、この状況でそれは、証拠が少なく、また、混乱を招きそうなので躊躇った。

 確かに、邪神族との闘いの後の世界にムソウという存在が居ることについては深く考えていなかった。今と同じく、ムソウは人界を襲わないと考えている。

 しかし、先日自らがオウエンに言ったように、自分の思うがままに無間を振るうムソウは、見方を変えると、きわめて危険な存在という事になる。

 どう答えれば良いのかと迷っている間に、エレナは資料を持ち、部屋を出ようとシンキの肩を叩く。


「ね? 貴方にもこの先が分からないなら、ここでこれ以上議論しても無駄ってことよ。

 でも、安心して。私は、ムソウって人の事は危険だと思ってるけど、セインやリーみたいに、ここで暴れて、皆を黙らせるってことはしないから。ジェシカの弟子についても、陛下と同じ考えよ。あの子にはジェシカがついている。ジェシカの事は信用している。だから、あの子にも手は出さない。無論、自分の意志でムソウって人についていった女騎士や闘鬼神って部隊についても、私から言うことは何もない。好きに生きるが良いわ。

 ムソウ本人にも直接関わる気は無い。今クレナに行って、冒険者ムソウとやり合ったら、結果がどうなろうとも、周囲の人間がどうなるかくらい、見当はついている。

 私は、この大地と人界……龍じい達が護ってきたものを壊す気は無いから……」


 そう言って、エレナはその場を去ろうとする。

 あくまで、ムソウの事は大地に大きな混乱を招くものとして敵対しているが、エレナ自ら人界や大地そのものに影響を与える気は無い。セイン達とはまた別の、確たる理由で、ムソウを嫌っていることが明らかとなった。

 シンキは仕方ないと思いつつ、納得は出来なかったが何も言えず、エレナが部屋を出るのを待っていた。


 その時、領主の中から、再びアヤメがエレナを制する声が聞こえた。


「待てよ、“龍心王”。話は終わってない」

「……何?」


 アヤメの声に、若干苛立ったようにエレナは立ち止まる。シンキは死ぬ気か、とアヤメに視線を移すが、アヤメは気にも留めてなかった。

 人界に影響を及ぼさないのだとしたら、決して手は出さないという確信が出来たアヤメは、そのままエレナに語り掛ける。


「アンタは、大地が心配だからムソウを消す……そういうことだな?」

「簡単に言うと、そういう事ね」

「で、邪神族との闘いが終わった後の世界で、一人、世界をどうにでも出来るほどの“武力”を持つムソウが心配だってことだよな?」

「ええ、そうよ。でも、ムソウって人がどう転ぶか、貴女にも分からないわよね? それはムソウ個人の考えなんだから。ここで議論したって仕方がない。だったら、今のところは、様子を見ながら、世界各地の問題事を解決させれば良いって私は思っているわ」


 アヤメはなるほど、と頷き、思案を巡らせた。そして、フッと笑みをこぼしながら、口を開く。


「なら、今後は警戒するのではなく、同等の力を持つ十二星天が監視の意味も込めて、ムソウが行動を起こす際は常に誰かがムソウの側に居るようにと、十二星天に提言する」

「「……は?」」


 一体何を言っているのかと、キョトンとするエレナと、シンキ。アヤメはそのまま、笑みを浮かべながら、自身の思いを話し始める。


「“龍心王”の言うように、ムソウが何を思い、どういう行動をとるのか、この先分からねえ以上、近くでそれを監視し、危なくなれば止める奴の存在も必要だ。アイツが何かする度、いちいちこうやって、現場じゃないこの城で議論するのも馬鹿らしい。

 そういうわけで、ムソウと同等の力を持ち、アイツを抑制できる可能性がある十二星天が、ムソウの抑止力として、その行動を監視し、最終的には人界に牙を剥かないように促せば良いだけの話だ。まあ、今のところの適任は、ムソウの屋敷に住んでいるコモンと、世界最強の“武力”を持つ爺いだな。同じ十二星天が近くに居るなら、アンタも安心できるんじゃねえか?」


 アヤメの言葉に、エレナは動きを止めて考え込んだ。怒気も何も向けてくる様子は無い。

 だが、しばらくすると、ふいっとそっぽを向いたように踵を返し、部屋の戸に手を掛けた。


「くだらない……もう、勝手にして……」

「その言葉は承認と受け取っておく。宰相さん、明日の十二星天の会合の議題に加えるように……良いな?」

「あ、ああ。わかった……」


 アヤメの頼みに頷くシンキ。エレナはそのまま会議を途中抜けしていった。その背中から、もう、何を言っても無駄という感情を感じ取り、シンキはため息をつく。


 やがて、エレナが居なくなって緊張の糸が途切れたかのように、アヤメは自分の席にドカッと座った。


「はあ~~~……何はともあれ、ひと段落はついたな……」


 頭を掻きながらボソッと呟くアヤメに、他の領主は、フッと笑い始めた。


「ふむ……アヤメ殿、ムソウ殿を護る為に、あのような策をよくぞ思いついたものだな」

「そういうわけじゃねえよ、ワイツ。確かに、ムソウの行動に、力を持つ人間の責任が伴っていないことは事実だ。それじゃあ、ノワールを始めとした、まだムソウに会ったことが無い奴らもなかなか信用しないだろ。ただ、ムソウに十二星天が着くとなったら話は別だ。そうだろ、ノワール」


 ムソウを迎えることになるノワールは、アヤメの決定に異議を唱えることは無く、寧ろ推奨するように頷いた。


「うむ。エレナ様を始め、十二星天の事は信用している。まあ、確かに、昔は畏れていたこともあったが、それは過去の話だ。俺としては、ジーン様が御認めなら、ある程度は信用しよう。オーロとアルはどうだ?」

「我らの場合、ジェシカ様とコモン様が既にお認めのご様子だからな。他の領主よりはある程度信用できる」

「しかし、パシマン殿や、グリーズ殿はやはり、まだ不安といったところか?」

「うむ……お主らのように、十二星天という繋がりがあれば話は別なんだが……」

「何の伝手も無いからな……かと言って、冒険者ムソウの力が必要だと言われるほどの困りごとも無い……どう信じれば良いのか分からない……」

「コクロの海賊団をどうするかで、判断しようではないか。我が領も世話になったようじゃが、実際には会っておらんからのう。まあ、ガーレン殿やインセン師団長、そして、リエンが良く言っておったでな。少しは信用しておる」


 領主の中でのムソウへの判断は、ムソウが訪れ、問題事を解決したか否かだけでなく、関わった十二星天が、その領と繋がりがあるかどうかでも分かれた。

 領主達にとって、若い頃から十二星天という存在は、それほどまでに全幅の信頼を置かれるような存在である。

 そんな十二星天の一人であるセインの名を以て、ムソウがリオウ海賊団の討伐に成功すれば、その信用度は確たるものとなる。ひとまず、それまではアヤメの言うように、十二星天と、クレナ領主であるアヤメの監視の下、ムソウの動向を見守るという話で、領主達は合意した。


「じゃあ、次の議題だな……っと、宰相様~。進めてくれよ」


 領主達の話が纏まっている間も、シンキは、エレナの行動について思案を巡らせていた。

 よほど、衝撃的だったのか、アヤメの声にも気付かない様子だった。


 アヤメはため息をつき、シンキの下へと向かい、思いっきり肩を叩いた。


「うおっ!?」

「ああ、気が付いたな。俺達の話は纏まった。だから次に移るぞ」

「い、いや……次って、お前……」

「“龍心王”については大体分かっただろ。で、それは、領主会議には関係ないことだ。若干会議も止まって、遅れも出ている。さっさと全ての議題について話し合うぞ」


 もう少しエレナについて考えるべきではというシンキの言葉を無視するアヤメ。

 しばらく悩んだが、後で良いかと、シンキはアヤメに承諾した。


 そして、上座に戻り会議を進めていく。

 席に着くアヤメに、領主達は一様に、丸くなったと思ったが違ったなと笑みを浮かべ、隣から憧れの眼でアヤメを見ている新参領主、ブラウンに気付き、間違った方向に進むなと苦笑いした。

名前だけ登場

パシマン=カキシ領主

グリーズ=ハイグレ領主


この世界の領の名前の由来は色です。

領主の名前はその色に沿ったものや、どこかの国の言葉をそのまま付けてます。

アヤメは違いますけど。

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