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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
世界が動く
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第370話 天上の儀 ―師団長会議の結果を聞く―

 やがて、日が傾き始めた頃、一行は武王會館を後にする。帰りはロウガンも一緒である。門下生の様子をもう少し見たかったが、師団長会議の結果が気になるという事で、いったん城に戻ることになった。ミサキはその場で転送魔法の準備を始める。


「人数多いから、サネマサさんも手伝って~」

「おう。貴族街から城に行く陣の前で良いんだよな?」


 手続きを経て城から出た場合、街から城に移動したという証が必要なため、まずは貴族街に戻らなければならない。

 ミサキが頷くとサネマサも魔法の準備に取り掛かる。


「アヤメ、コウカンの話が終わったら、今日も飲むか?」

「いや、俺もエンライからどうなったか聞いた上で余裕をもって明日に備えたい。今日は勘弁してくれ。ロロもすまねえな」

「いえいえ。今日、街に出られたのはアヤメ様のおかげです。とても楽しい一日でした」


 ロロの言葉に励まされたアヤメは、フッと笑みを浮かべた。

 そして、魔法の準備が終わり、手を振るサネマサが目の前から居なくなったと思った瞬間、一行は貴族街に転送された。


 その後、城へと戻り、ミサキ達と別れる。今晩は、ロロはミサキ達と夕食を食べるそうだ。迷惑を掛けるんじゃないぞと言うと、子供じゃありません、と頬を膨らまされた。アヤメはその仕草がおかしくて、頬を指で突いた。


 そして、ロロを連れて行くミサキ達と別れた後、ロウガンとも別れ、アヤメは、自室に戻り、食事を摂った後、クレナ師団師団長、エンライの部屋を訪れる。


「エンライ、居るか?」

「ん? アヤメ殿か……? 何の用で?」

「今日の事を聞きたいんだが、大丈夫か?」

「ああ、良いぞ。入ってくれ……」


 扉が少し開き、部屋着姿のエンライが顔を見せる。どことなく疲労をたたえた表情と声色に、今日も何かあったなと、察するアヤメ。

 促されるまま椅子に腰かけると、エンライは師団長会議での資料をアヤメに渡してきた。


「結論から言えば、昨日の支部長会議と同様の結果となった。転界教、邪神族に関しては、騎士団としても可決だ。団長が何か言うかと思ったが、意外とあっさりしていたな」

「それはたぶん、“ギルド(マスター)”の影響だろうな」


 騎士団を創設したリー・カイハクは、“ギルド長”セインと仲が良い……というか、友情で、と言うよりもリーがセインに憧憬の念を抱いているという関係と言った方が良い。


「まあ、お二方とも、人界の敵については対処するという姿勢は見せているから文句は無いがな」


 しかしながら転界教と邪神族については、人界に悪影響を及ぼす者達を放っておくことは、騎士団の沽券に関わるという事で、公表には前向きだった。これにより、師団長会議でも主な議題については、ギルド支部長会議と同様の結果になったとアヤメは納得した。


「ふむ……話を聞くだけだと順調に会議は進んだようだが……お前のその様子だと、何かあったのか?」

「ああ……まあな」


 エンライは、少し躊躇いながらも、ため息をつきながら頷く。

 やはり何かあったようだと、アヤメは今日の会議でどんなことがあったのか尋ねようとした。


 すると、部屋の戸が叩かれる音が聞こえてくる。


「ん? 誰だ?」

「シンキだ。それと……」

「コモンです。アヤメさんがいらっしゃると聞きまして……」


 部屋の外からは、シンキとコモンの二人の声が聞こえてきた。

 何故、この二人がと、アヤメはエンライの方を見たが、エンライは首を横に振っている。どうやら何も知らないらしい。

 用事はアヤメにあるようだが、心当たりはない。ひとまず部屋に入れて話を聞こうと扉を開けた。


「失礼する」

「お邪魔します」

「うおっ……本物だった……ど、どうぞ、こちらへ」


 エンライは緊張した面持ちで、コモンとシンキも座らせた後、茶を置いた。

 そこまで委縮しなくても良いのにと思いながら、アヤメは二人に向き直る。


「結局何の用だ?」

「ああ。今日の師団長会議で、少し問題があってな。昨日もあったらしいから、明日の会議は気を付けろと言いに来ただけだ」

「ふむ。丁度その話をしていたんだ。何があったんだ?」


 アヤメの言葉に、エンライは再び一つため息をつき、口を開いた。


「団長が怒ったんだよ。ムソウの話題になったらな。収拾がつかなくて、何度も会議を中断する羽目になった」

「おいおい……」


 支部長会議ではセインが怒ったがアヤメが対応し、会議が止まるという事は無かったが、今日はリーが激高し、一時会議が中断したという。

 これにより、主な三つの議題以外の議題について話し合われることは無くなったと、エンライは項垂れた。その中には、クレナ師団への人員増強の話もあったようで、それが流れたとぼやいているが、アヤメの興味はそこに無かった。


「キレた理由は? てか、もう一人の進行役は何してたんだよ」


 昨日はサネマサが担当したが、今回の進行役はリーを止められなかったのかと尋ねると、こちらも呆れた様子のコモンが口を開く。


「今日はレオさんでした。まあ、何と言うか、彼も熱くなりやすい人間ですから……その……」

「言い合いになったってわけか。まあ、武力のぶつかり合いにならなくて良かったんじゃ……?」


 アヤメがそう言うと、エンライが首を振った。


「いや……今日は本当になりかけた。団長が剣を抜き、レオパルド様は獣人化し、まさに一触即発という状況だった」

「それで、俺とコモン、それにエレナとジーン、城に残っていた十二星天が介入し、何とかその場を収めたってところだな」

「えぇ……俺達が居ない間にそんなことになっていたのか……」


 自分達が楽しく買い物をして、武王會館で遊んでいる間に、城では大変なことが起こっていたと知るアヤメ。

 セイン派閥の人間がムソウを嫌っていることは分かっているが、ここまでわかりやすい反応をされると、今度は逆にどうすれば良いのか分からなくなる。下手をすれば、十二星天内での内部争いで終わっていた話が、他の人間を巻き込んでの戦争にもなり兼ねない。

 何故、ここまでムソウを嫌うのか……という以前に、何故、ムソウの事でここまで頭を抱えなければいけないのか分からなくなってきた。

 ひとまず、何がきっかけでそう言うことになったのか、アヤメは説明を求める。


「何の話をしていたんだ?」

「まあ、転界教、邪神族については、普通に終わったんだが、それに伴って話に出てきたムソウを団長が激しく糾弾してな。レオパルド様はその度、団長を諫めてくれていたんだが、モンクの事件でのツバキにも強い嫌悪感を露にしてな」

「何故だ? ツバキに関しては、モンクの騎士達の腐敗を暴いたり、そいつらの代わりに事件を解決したりと、寧ろ騎士として褒められる立場の人間だろ」

「勝手な事をするなってよ。更に、個人的にムソウの力になっているという事が気にくわなかったらしい。そのことでコウカンを叱り、インセンの責任を強く追及し……俺も、ツバキの遠征申請を独断で許可した点で怒られたな。

 で、最終的に、EXスキルを持つツバキは、本人の意志に関わらず王都守護に就かせると団長が言った途端、レオパルド様が、人の人生を勝手に決めるなってキレてな……」


 アヤメはエンライの説明に驚いた。リーは基本的にセインと同じ意見を持つようにし、考え方もそれに沿ったものである。ゆえに、ムソウの事についてはセインと同じくらいまでとはいかないが、嫌悪の対象としてとらえていることは確かだ。

 なので、どれだけ功績を立てても、ムソウへの褒章は無し。寧ろ、騎士団で監視すべき対象として見ている。


 そんなムソウはまだしも、騎士としてはきちんとその任を全うしているツバキに対し、「ムソウの力になっているから」という理由だけで、リーが嫌悪感を抱いているとは思わなかった。

 更にそこから、何名かの師団長を糾弾するという行動が理解できないでいると、続けてシンキが口を開く。


「それで、その時からピリピリしていた二人が更に熱くなって、会議どころじゃなくなってな。あわや、武力衝突するかと言ったところで、俺が介入したってわけだ」

「ああ……それで宰相様がここに……」


 会議が中断し、レオパルドとリーがお互いにぶつかりかけた時、近くを通りかかったシンキが、会議室から漂う荒ぶった気に気付き、中に入った所、レオパルドは喚び出したトウケンの力を借りて獣人化し、リーは剣を抜いていたらしい。

 同じく嫌な予感がしてその場に来たコモンと共に二人を仲裁し、一時会議は中断。話になりそうにないレオパルドとリーはこれ以上会議に参加させるわけにはいかず、そこからは二人が進行役となって、取りあえず、師団長の間での議題に対しての決を採ったという。


「すげえな……俺達が出ている間にそんなことが……」

「サネマサとミサキ含め、他の十二星天が不在の時に限ってこういうことが……あいつ等、城をぶっ壊す気だったのか……まあ、そんなこともあって、二人には謹慎を言い渡した。当面の間、活動を自粛させる。無論、今回の天上の儀には参加させない」

「なるほど……まあ、妥当か。しかし、“獣皇”がツバキの為にそこまでな……」


 二人の経緯については納得したが、リーが突然激高した理由も分からないし、更にレオパルドがツバキの為に、そこまで怒ったのかと、アヤメは首を傾げる。

 しばらく、クレナの屋敷に住んでいたとはいえ、二人にそこまでの接点は無いと思っていた。

 何かあったのかと、コモンに聞いてみると、コモンは首を振った。


「いえ、そう言うことではなくてですね、レオさんが怒った理由は別にあります」

「別? ツバキの事は関係ないのか?」

「関係ないわけでは無いです。一因になったというべきですか……」

「どういうわけだ?」

「つまりですね、リーさん、その後、ムソウさんやツバキさんの事だけでなく、関わった師団長や、ギルド支部長、更に僕達十二星天、他多数、ムソウさんや事件に関わった人達への罵詈雑言を会議中、ずっと口にしていたらしいのです」

「……はあ?」


 ため息をつくコモンやシンキ、それにエンライの前でアヤメは開いた口が塞がらない。


 三人によると、ツバキへの無理な指令は序の口で、その後は、何かに理由をつけて、ムソウ以外の者達への暴言や文句をぐだぐだと語っていたという。

 例えば、十二星天でありながら貴族に呪われ、クレナの事件を止められなかったコモンは十二星天の座を退かせるといったものや、モンクの事件で貴族達が使っていた魔道具の多くは、魔獣宴から出回ったものだという逆恨みからレオパルドを糾弾したりと、他の十二星天を責め立てる内容のものや、そもそも人界を危険に晒す恐れのあるムソウという存在を、認めているワイツやアヤメは領主として不適合だから、その座を退けという内容のものなど、世界の統治に、直接影響を及ぼしかねないことまで言い始めたという。


「ちなみに俺も、邪神大戦の事を話さなかったり、自分の正体を言わなかったりと秘密が多く宰相として向いていないとか、邪神族を滅ぼせなかった奴だとか散々言われていたらしい。

 まあ、自覚しているから気にしてないが……」

「ガキかよ……」

「まあ、それでレオがキレたってわけだな。あと、ロロについても、やはりムソウの部下ってことで、かなり敵対心を持っていたようだった。だから、今日からあいつにはジェシカと、ミサキ、コモン、俺が交代で側に居てやることにした。今のままじゃ何かしでかしてもおかしくないからな」


 今日の一件で、リーがムソウに向けている嫌悪感は、セイン以上に分かりやすいという事が判明した。

 更に、それがきっかけで、リーは謹慎となっている。逆恨みでロロに危険が及ぶ可能性も高いので、比較的、暇で、尚かつロロと面識のある者達と直属の師であるジェシカがロロの身を常に護ることとなった。

 エンライの部屋に来る前、シンキがこのことをロロとミサキに伝えると、ロロは体を震わせていたが、ミサキは快く引き受けていたという。

 同時に、自身も悪口を言われたことを知り、ミサキもどこか呆れた様子になったということだ。


「なるほど、分かった。……しかし、ムソウに行くはずの矛先が俺達にまで及ぶとはな。いくら“ギルド長”に心酔しているからって、そこまでのものなのか?」

「騎士団として人界に住む民達の暮らしを護り、更に治安の維持までさせるため、法の番人としての権利を与え過ぎたことが原因だろうな。いつの間にか、リーの中で、自分が世界を回しているという気が大きくなったのかも知れない。まあ、今更それを剥奪なんぞしないけどな」


 いっそしてくれと思うが、アヤメとしても騎士団という存在が世界中でどれだけ、民の生活に貢献しているのかは分かっている。クレナの騎士団は規模が小さいが、だからこそ、その大切さを分かっているつもりだ。

 今になって、その権利の剥奪と言うのは辞めた方が良いだろう。

 だからと言って、今回のリーの行動は度が過ぎているとも感じている。セインが王権をオウエンではなく、十二星天に移譲しようとしている考えにすぐに賛同しているのも、セインと懇意と言うだけでなく、そう言ったところからあるのかも知れないと、アヤメは感じていた。

 兎にも角にも、今回の謹慎は妥当な判断なのだろうと、アヤメもため息をつきながら頷いた。


「疲れるなあ、まったく……明日の会議は、ちなみに、誰が進行役だ?」


 このままだと、明日も何か起こるのではないかと、アヤメは頭を抱えた。今回は自分が大人しくしている分、平和に続くかと思われた天上の儀。せめて領主会議と、その後の総会議が普通にやりたいので、進行役をシンキに確認する。


「明日は俺と……」


 シンキが自分を指しながらそう言うと、アヤメは、ひとまず安心と胸を撫で下ろす。

 しかし、シンキはアヤメが思いもよらなかったもう一人の進行役の名前を告げる。


「エレナだ」

「……はあ!? ちょっと待て、宰相さんよお!」


 アヤメは怒りの表情で机をドンと叩く。その気迫にシンキはもちろん、コモン、エンライもビクッと身を震わせる。

 三人に構わず、エンヤはシンキに詰め寄る。


「何考えてんだ! よりによってセインのガキ派閥で、龍族の力を持つあの女を進行役にする!? 馬鹿か! 昨日今日に続いて暴れられてみろ! 今度こそ城が吹っ飛ぶぞ!」

「お、落ち着いてくれ、アヤメ。す、少し話を――」


 激高するアヤメに対し、シンキは話だけでも聞いてくれと言うが、アヤメは聞く耳を持たなかった。

 初日はセインが怒気を発散、今日はリーの怒りにレオパルドが対抗し、下手をすればその場に居た者達のみならず、王城自体が危ないところだった。

 そのうえで、シンキは明日の進行役にエレナを選んだという事が考えられない。

 シンキの言葉に耳を貸さず、文句を重ねるアヤメ。エンライとコモンは、それを落ち着かせようとするが、頭に血が上ったアヤメは二人の事など眼中になかった。


「テメエ達、俺達を殺す気か!?」


 何としても、エレナは辞めろと、詰め寄られるシンキは、アヤメのその姿に、何となくエンヤを思い出す。

 流石子孫、怒ったら話を聞かない。どうすれば良いのかと思っていた時だった。


 突然、アヤメの花鳥風月が強い光で点滅を繰り返す。


「あ? 何だあ?」


 アヤメは刀を抜き、調子を確かめたが何の反応もない。ただただ光の点滅を繰り返すだけだ。

 何か問題でもあったのかと、その場に居たコモンに刀を渡した。

 コモンは花鳥風月を手に取り、しばらくすると、ハッとした様子で目を見開く。


「あ、アヤメさん……」

「何だ?」

「た、タカナリ様が、落ち着けと仰っております。取りあえず、話を聞いてからどうするか決めれば良い、と……」


 コモンの言葉に、アヤメはハッとした様子になり、気を鎮めていった。

 流石に、刀に注意されるのは恥ずかしいと、アヤメはため息をつく。


「チッ……ご先祖さんが言うなら仕方無え。話だけなら聞いてやる」

「あ、はい。ありがとうございます。それから、シンキさん?」

「どうした?」

「タカナリ様が、何の考えもなく、アヤメを危険な場所に行かせるというのなら、アヤメが怒ってお主を斬っても仕方ない。相応の理由があるのだな? と尋ねられています」

「も、もちろんだ。ちゃんと考えてあるぞ、タカナリ」


 コモンが差し出す花鳥風月の刃に語り掛けるシンキ。するとコモンが、刀精であるタカナリの言葉を続けて口にした。


「仮に明日、エレナと言うおなごが激高し、アヤメやその他の者達に危害が及んだ場合、私も容赦しない。アヤメと共に、お主もエレナと言うおなごも斬らせてもらうと……仰ってます……」


 その言葉に、シンキはさーっと顔を青くし、慌てて頷いていた。


「わ、分かってる! 何があろうとも、俺が何とかする! だからまず、話を聞いてくれ! そのうえで、アヤメも判断してくれ! 気に入らなければ、明日は参加しなくても良いから!」

「ふん……分かったから、さっさと話してくれ。あー、コモン、返してもらうぜ」


 アヤメはコモンから刀を受け取り、鞘に収めた。四人の中でただ一人状況が分からなかったエンライは首を傾げながらも、アヤメが落ち着いたことを確認し、そっと胸を撫で下ろす。

 シンキも一度深呼吸して、アヤメと向き直った。


「じゃあ、俺の考えを話す。実は、エレナが完全にセイン派閥かどうかまだわからない段階に居るってことが判明した」

「……どういうことだ?」

「ああ。実はな……」


 首を傾げるアヤメに、シンキはリエンから聞かされたエレナのことを話し始めた。

 セインが変わったことには気き、これまで中立的な立ち位置に居たエレナだったが、ここ最近になって、セインの考えに同調するようになったこと、しかし、だからと言って、リーのように、そのままセインと同じくムソウについては何を考えているのか分からないといった内容だ。

 だから、明日の会議はエレナの動向をはっきりさせるという目的の元、シンキとエレナの二人が会議の進行を執り行うことになったという。

 無論、例えエレナが暴れることになったとしても、スキルと鬼化で何とかなると、シンキは豪語した。

 アヤメは頭を抱えながら低く唸った後、はあ、とため息をつく。


「何を考えているのか分からない奴ほど怖いものは無いと思うんだが……?」

「まあ、そうだが、はっきりさせる必要はあると思っている。お前も、俺の立場ならそうじゃないのか?」


 そう言われて、アヤメは黙った。それは、昨日セインの考えをはっきりさせるためにはムソウと接触させた方が良いと、サネマサに言ったこととほとんど同じ意味だったからだ。

 確かにセイン、リー、ジーナとミーナの四人は、式典でのロロに対する様子から、ムソウに対してどのような感情を抱いているか、アヤメでもすぐに分かった。

 しかし、その理由はと聞かれると、セイン以外の者達はセインに同調しているからで、セインの本心は分からないままだ。

 そして、エレナに関しては、ほとんど無関心という反応ではあった。

 ただ、これまでの十二星天内で起こっていた出来事などを考えると、エレナもセイン派閥の考え方という可能性も高い。

 そう、まだ可能性の段階であり、はっきりしたところは分かっていない。

 明日の会議で、エレナがどう動くかは、確かに確認したい内容ではあった為、ここでようやくアヤメはシンキに頷いた。


「はあ……分かった。アンタが居るなら安心だという事で、俺も言いたいことは言うし、その上で会議は進めていくからな」

「ああ。支部長会議の際、いつもと違ってお前が会議の中心だったということは聞いている。期待しているからな」

「ふんっ……ところで、“龍心王”については……コモン、お前はどう思っている?」


 アヤメは、十二星天内では、エレナはどういう見方をしているのか確認する為、コモンに話を聞いた。

 コモンは、少し考え込んだ後、ゆっくりと口を開く。


「そうですね……確かに最初の頃は中立、といった感じでした。セインさんが変わり始めた頃もまだ、過剰な発言をするセインさんを止めたり、諫めたりしていました。

 ですが、段々とセインさんの考えに同調する動きを見せるようになり、僕達とも疎遠になりましたね」

「同調って、具体的にはどんなだ? “龍心王”は何をして、そう思われているんだ?」

「何か決議を採る時は、必ずセインさん側に手を挙げます」

「じゃあ、“龍心王”は、自分の考えってのは持っていないような感じなんだな?」

「はい……そうですね。自分から何かを提案するということは無いです。というか、エレナさんは元々そう言う方なので」

「ふむ……」


 話を聞いたアヤメは小さく頷き、続いてシンキに目を向けた。


「じゃあ、明日は“龍心王”の本音が分かるように会議を進めれば良いんだな?」

「まあ、そうしてくれるとありがたいが……」

「手を出させねえようにはする。だが、どうしても無理なら、アンタが何とかする。これで良いだろ?」

「お、おう……」


 セインを言いくるめることが出来たとしても、エレナまでは分からない。

 しかし、暴れられたらシンキが止めることは確実だ。何となく安心したアヤメは、少々強気に領主会議を進め、強引と言われても良いくらいに、エレナを追い込もうと決めた。


「さて……話は終わりか。にしても、エンライ。今日は災難だったな。騎士の補充については、明日の会議でも相談してみよう」


 アヤメは茶をすすりながらエンライの方を向いた。師団長会議で起こったことから端を発した十二星天内での事情と明日の会議について話し合う三人を前に、エンライはずっと黙っていたが、アヤメにそう言われて、ハッとした。


「あ、お、おう。よろしく頼む」

「自警団も高齢化進んでるからな。ジロウ一家は増えてきているが、他の集落は微妙なところだ。そろそろ、クレナの騎士団にも人員を増やした方が良いだろう」

「もしくは、自警団を騎士団に……」

「いや、それは駄目だ。今日の様子を見て、長く街を護ってきた領民を“騎士団長(ナイトマスター)”の監視下に置くわけにはいかない。あくまで、自警団は領主直属の治安維持部隊で、騎士団はそれの補佐ってことにする。まあ、シンムの里は、お前に任せるがな」


 騎士団での任と共に、シンムの里の管理人のような仕事も兼任することは変わらないというアヤメの言葉に、エンライは、ため息をつきながらも、仕方ないと割り切った様子で頷いた。


 一応、領主会議についての話は纏まった状況で、アヤメは小さくため息をつき、茶をすすった。覚悟はしていたが、今回の天上の儀がここまで荒れるとは思わなかった。

 普段は荒らす側だったが、ひょっとしたら自分が何をしなくても、各領の重鎮及び、十二星天が一堂に会する天上の儀というものは、元来荒れるものなのかもしれない。


 アヤメもどこか割り切った気持ちになり、明日に備えるのだった。


 ◇◇◇


 同時刻、ジェシカが師団長会議で何が起こったのか説明する為、ミサキ達の部屋を訪れていた。呆然とし、少し体を震わせていたロロをジェシカは優しく撫でる。


「……というわけで、今日から貴女には私達の誰かが常にそばにつくことになります」

「は、はいぃ……お手数をおかけします……」

「それはこちらの台詞です。同じ十二星天だというのに……何だか、貴女には迷惑ばかり掛けてしまいますね」

「そんな……ジェシカ様のおかげで、私は強くなれます。それに、ミサキ様達とも知り合えました。だから……何も気にしないでください」


 少し落ち着いてきた様子のロロは、微笑をたたえながらジェシカに振り向く。

 自分の命が危ない状況にも関わらず、毅然としようとするロロに、ジェシカやミサキはコクっと頷いた。


「じゃあ、明日も私達と一緒だね。何する~?」


 ミサキの言葉に、ロロ達は首を傾げる。今日街に出たばかりなので、特に何も思い浮かばない。部屋の中で過ごすか、ロロもウィズ達の修行に付き合うか、何をしようかと思っていると、ジェシカがクスっと笑う。


「でしたら、ミサキちゃんが王城を案内するというのはどうでしょうか?」

「城内、ですか?」

「ええ。ここは広いですからね。色々と面白いものもあると思いますよ」


 確かに城は広い。クレナのトウショウの里くらい大きなものだ。今日は、入り口まで移動しただけだったが、その他の場所はあまり見ていない。

 ジェシカの提案には興味をそそられた。


「良いですね。ミサキ様、お願いできますか?」

「良いよ~。皆は大丈夫?」


 ミサキの言葉に、ウィズ達も頷き、明日は王城探検に繰り出すことに決まった。


 その後、眠りにつくロロ達と別室に行くウィズを見届け、ミサキはジェシカと向き直った。

 皆を起こさないように、ジェシカはクスっと微笑む。


「本当に楽しそうですね、ミサキちゃん。常に弟子と一緒に居られて羨ましいです」

「治癒院があるから仕方ないよ~。ロロちゃんは治癒院には入れないの?」

「ええ、そういう約束です。あくまでロロさんは闘鬼神の一員で、私が手伝って欲しい時に手伝ってもらうという条件ですので」

「あ~、なるほど~……つまり、ジェシカさんがクレナに行きたい時はロロちゃんを理由に出来るってことだね?」

「い、いえ、そういうわけじゃ……コホン、ところでミサキちゃん。明日の件ですが、立ち入り禁止区域は駄目ですからね」

「あ、誤魔化した~!」


 話題を無理やり変えるジェシカを指さしながら笑っていると、ロロ達がもぞもぞと動き出す。慌てて口を閉じて、ジェシカににやりとした顔を向けると、ジェシカはぷいっと顔を逸らした。


「まあ……ロロさん達の居る、あのお屋敷が楽しい場所という事は認めます。ミサキちゃんも遊びに行きたいのではありませんか?」

「そりゃね~。ムソウさんも居るし、ツバキさんもリンネちゃんも居るし……でもね、ムソウさんと次に会う時は、今よりももっと強くなってからって、ウィズ君たちが言ってるからね。まだまだ会えそうにないかな~」


 ミサキの言葉に少しだけ違和感を覚えたジェシカはキョトンとした顔をした。


「手厳しいですね……何となく、ミサキちゃんらしくないのでは?」

「アハハ……私らしくなくて良いの。これは皆が決めたことだから。皆がまだ、ムソウさんと肩を並べて戦えるくらいまではって言ってるから、私はそうなるようにしてるだけだよ」

「なるほど……ちなみに、ミサキちゃんから見て、その日は近いですか?」


 そう言うと、ミサキはニコッと笑う。


「うん! この一年で、三人ともかなり腕を上げたよ。やっぱり、若いって凄いね~」

「ミサキちゃんがそう言うと、違和感しかありませんね。ミサキちゃんもまだまだですよ」

「だね~。私も頑張らないとね~。私のスキルの前任者の人も凄い人だったみたいだしね~」

「“始まりの賢者”ムウ……でしたね。かつて、人族にスキルと魔法を広め、邪神族に対抗する力を見出した御方……」

「そう、その人。そんな人の力を継いでるなんて、責任重大だよ~」

「責任重大は私達も同じです。これ以上、十二星天内で内紛が起きないように、私達も努力していきましょう」


 ジェシカの言葉に、ミサキは強く頷く。


 その後も二人は、夜が更ける中、静かに語り合っていった。


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