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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
世界が動く
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第369話 天上の儀 ―武王會館で過ごす―

 庭も落ち着き、怪我人も居なくなったところで、アヤメ達は武王會館の客間へと案内された。絶えず鹿威しが鳴り響き、思わず正座してしまいそうな空気の中、アヤメは足を崩して座っている。


「アヤメ様。一応、招かれた側の人間なのですから、行儀よくしないと……」

「別に良いだろ。招いた相手が爺いなんだからよ」


 そもそもサネマサ自身が、礼儀正しいとは言えない人間だ。そこまで緊張する必要はないだろと説くアヤメに、はあ、とため息をつく声が聞こえた。


「一応、領主様なのですから、例え大師範と旧知の仲とは言え、こういう場ではきちんとするものです。そもそも、招かれた、というか押し入ったのでは? アヤメ様」

「いちいちうるせえな、ルチア。ここはそう言う場所だろ。文句なら爺いに言えよ。てか、早く茶を飲ませてくれ。喉が渇いて敵わない」


 アヤメの言葉に、更に一つため息をついて、再び茶を立てはじめるルチア。武王會館では、訪れた客を武でもてなし、その後、ルチアを中心とした作法や綺麗な所作を学んでいる者達が、客を普通にもてなすことになっている。

 今回は、アヤメと旧知である他、武王會館での自身の生徒であるツバキと関りのある者達が客だという事で、ルチア本人が茶でアヤメ達をもてなすことになった。


 差し出された茶を、早速とばかりにアヤメは飲むが、苦いと言って水を飲み始める。

 こういった場ではどうしたら良いのか分からないロロ、ハクビ、レイカの三人はウィズとミサキを眺めながら見様見真似で、茶を飲んでいく。

 意外にも、正しい順序で綺麗な姿勢で茶を飲み、礼儀を重んじるような仕草のミサキに、三人とウィズは内心驚きつつ、ルチアのもてなしを受けた。


「まったく……アヤメ様は、いつまで経っても変わらない……」

「まあまあ。ところで、ルチアさんは、ツバキさんの師匠だったんだよね。流石に、覚えては……いない?」

「いえ、ミサキ様。私は、私自身が教えた門下生の事は一人一人覚えております。特にモンクのツバキは優秀生でしたので特に覚えておりますよ」

「へえ~! どんなだったの!?」


 ミサキは興味ありげに、ルチアに身を乗り出す。他の者達も、昔のツバキの事を知りたいようで、ルチアに体を向けたが、アヤメは、爺いまだかな、と外の庭を眺めていた。


「ここに来た時はまだ、腕白そのものでしたね。あちこち走り回っては手を焼かされていました」

「腕白……想像できませんね……」


 ロロがそう言うと、他の皆もコクっと頷く。


「ですが、日を追うごとに武芸を真摯に学んでいき、私のようになりたいと、以前の腕白さはなりを潜めていき、素行も私から見ても美しいものになっていきました。

 そして、騎士になりたいと言って、同じくモンクから入門してきたリュウガンという子と共に武王會館を去っていきました。自信に満ちたあの背中は今でも忘れません」


 よほど気に入っていた門下生なのか、ルチアも楽しそうに武王會館時代のツバキを語っていく。

 入って来た時のツバキは想像できなかったが、段々と今の状態になって行ったことを知ったミサキ達は、なるほどと頷いていた。


「彼女は、自分の意志は何があろうと決して曲げない、強い精神力を持っております。今もそれは変わってないようですね。モンクの一件は私も聞きました。どんな苦境に立っても、決して最後まであきらめず、故郷を救った姿は、流石と言うべきです」

「そっかぁ~。ツバキさんも、昔から根っこのところはそのままなんだね」

「サネマサ様も褒めておりました。クレナでも頑張っているようですね」

「はい。私達にとっても憧れの存在です。今日も、頭領やリンネちゃんと楽しく過ごしている事でしょう」


 そう言うと、ルチアはロロにクスっと笑った。


「それは良かったです。ロロさん、ツバキに、そちらでも、自分の想いに正直に、真っ直ぐ生きてくださいと伝えてもらえますか?」

「はい、必ず……!」


 ルチアの頼みに、すぐに頷くロロ。

 人生の大半をここで過ごしたツバキにとって、武王會館は第二の実家で、ルチアはもう一人の母のような印象を持っていた。子を心配する親の気持ちのようなものを感じたロロは、必ずルチアの言葉をツバキに伝えようと誓った。


 さて、しばらくルチアと共にツバキの話で盛り上がっていると、客間の襖が開き、サネマサが入ってきた。


「お、ルチアを遣わせて正解だった。盛り上がっているようだな」


 ケラケラと笑いながら入って来るサネマサに、アヤメがフッと笑みを浮かべた。


「あ、ツバキに不満を持たれていた大師範様、ようやく来たか」

「ん゛!?」


 その一言に、サネマサは一瞬で顔色を悪くして、アヤメは腹を抱えて笑った。

 ミサキも、思い出したように口を開き、アヤメに続く。


「そうだったね~。私達の時と門下生の前で明らかに違う態度で、どこか離れて行ってる気がするって、ツバキさんが愚痴ってたね~」

「うぅ……それは解決したんだ。今更蒸し返すな。な、ルチア。最近はちゃんとしてるよな?」

「わ、私に振られましても……ま、まあ、以前よりはサネマサ様も、自分を隠すことの無いように振舞われていると思います。接する機会も私達の頃よりは多いので、今の門下生は羨ましいですね」

「それは……かつての俺への文句か?」

「め、滅相もございません!」


 慌てるルチアに頭を抱えるサネマサ。ミサキ達はその光景を見ながら笑っていた。


 その後、最後まで頭を下げながらルチアは部屋を出ていく。その際に、次は負けませんとアヤメに言って、アヤメは期待しておくと返し、再戦を約束して握手を交わしていた。

 憎まれ口をたたき合いながらもお互いを認め合っている二人。楽しみが増えたなあと笑っていると、サネマサが口を開いた。


「さて、アヤメからは暇つぶしに来たとは聞いたが、本当にそれだけが目的で来たのか?」

「ま~ね~。私はアヤメさんについて来ただけだから」

「……お前らも大変だな」


 ニコニコとするミサキを指さしながらウィズ達にそう言うと、頷いて良いものかと悩みながら、微妙な顔をしていた。


「まあ、王都を楽しんでいるようで何よりだ」

「そういや、ロウガンは? もう、城に帰ったのか?」

「今は道場で稽古をつけている。ここにいる間に皆の様子を見ておきたいそうだ。お前も行くか?」

「いや、俺はもう楽しんだから良い。明日も領主会議があることだし、もうしばらくしたら帰るつもりだ」


 そう言いながら、少し甘くした茶をすするアヤメ。いよいよ何しに来たんだと、サネマサは頭を抱える。


「まあ、アヤメは忙しいもんな。気晴らしは必要か……ミサキは良いのか? 天上の儀が終わっても、モンクの事件の重要参考人や、海賊、それにケリスの従者って奴の尋問も始まるだろ?」


 ミサキは天上の儀の後に、モンクでオークションに参加した貴族達やケリスの従者、セバスの記憶を覗き込み、転界教の痕跡を掴んだり、モンクでムソウとツバキが撃退したリオウ海賊団の一味から、拠点などを突き止めるという仕事が残っている。

 天上の儀の間も忙しいミサキに、ゆっくり休んだ方がと提案するサネマサだったが、ミサキは苦笑いしながら首を横に振った。


「アハハ……実はね、それもう始まってるの。拘束した貴族が多いからね~。昨日、海賊団の尋問も終わった所だよ」


 ミサキの言葉にサネマサとアヤメの目が見開かれる。それが本当ならば、海賊団の拠点もすぐに分かり、対応が出来ると考えた。

 また、転界教についても、動ける部分では動けるのではないかと考えられる。二人は身を乗り出して、ミサキに詰め寄った。


「結果はどうだったんだ!? 海賊団について分かれば、すぐにでもムソウを動かせる!」

「拠点は分かったのか!?」

「ちょ、ちょっと落ち着いて、二人とも! か、海賊の尋問は終わったんだけど……」


 ミサキは、サネマサとアヤメを落ち着かせて、少し話しづらそうに口を開いた。


「あ、あのね、捕まえた海賊なんだけど、何と言うか、半狂乱になっていて、上手く記憶が見えなかったの」

「は? 見えなかったってどういうことだ?」


 困惑する二人にミサキは語り始めた。

 相手の記憶を覗き見るミサキの魔法、「感応可視」は、相手がその時に思い浮かべた頭の中の情景を覗くというものだ。ゆえに、尋問の際は、拠点の所在を尋ねる質問をし、その瞬間にミサキが頭に思い浮かべている光景を覗き見ることで、海賊団が口を開かなくても拠点を割り当てるという仕組みとなっている。


「でもね、何故か海賊の人達、全員、精神崩壊してると言うか、こっちの質問も届いていないようだったの。だから、魔法を使っても頭の中ぐちゃぐちゃになってる感じで、何も見えなかったんだ」

「え……何で、そんなことに……?」

「分からない。騎士団が捕まえた時も、何かに襲われたかのように船はボロボロで、その中で、海賊同士で……その……うん」


 そこまで言って、ミサキは顔を真っ赤にしながら黙り込む。その詳細はサネマサもアヤメも知っている事だったのでそこまで深くは突っ込まない。

 しかし、どうしてそういう結果になったか、その経緯は分からなかった。


「ああなっていた理由も分からない感じか?」

「まあ、うん……何か、凄い怖い何かに襲われたってところは分かったよ」

「凄い怖い? おいおい、ひょっとして……」


 サネマサとアヤメは、海賊が捕らえられた時期とムソウ達がモンクに行った時期が重なっていることを思い出し、ムソウが暴れて海賊が半狂乱になったのではと呆れそうになった。

 しかし、ミサキは首を横に振る。


「それは無いと思うよ。海賊とはいえ、ムソウさんでもあそこまでしないと思うし、そもそもその日は、ツバキさんとリンネちゃん、それにツバキさんの両親とツバキさんのお友達と一緒に海に出て遊んで、マルドの港に居たって話もあったみたいだし、そんな暇ないでしょ」

「海で遊んだって……海賊狩りか?」

「あり得……無いか。流石のムソウでも、一般人の前で人道に背いたことはしないよな……」


 アヤメの言葉に、サネマサもだよなと頷き、結局海賊団とムソウは無関係という結論に至った。

 ロロは不思議そうな顔をしていたが、お前にはまだ早いと、海賊団どうなっていたか、アヤメ達は内緒にした。


「ともかく、海賊団については何もってところかな。ムソウさんには悪いけどね~」

「わかった。じゃあ、肝心の転界教については?」

「セバスって人と、ルーザーって人はまだだけど、良いかな?」

「問題ない。後で言われるかも知れないが、今分かっている事だけでも聞かせてくれ」

「うん。え~とね……」


 次にミサキは、転界教について分かったことを話し始めた。

 結論から言うと、大体は今まで調べて判明したこととほとんど同じ内容だった。貴族の多くは、ケリスによってそそのかされた者達がほとんどだった。

 邪神族の事は隠し、十二星天でさえも恐れる力を持つ組織がこの世界には存在し、共に人界を掌握しようというケリスや、チャブラの元領主に転界教の存在を知り、金銭や物資の援助を行う代わりに、強力な魔道具を手にしていたようだ。

 魔道具の中には、モンクの事件で問題視された、魔物を意のままに操るものや、合成魔獣を生み出すもの等もあり、貴族個人が強力な力を手にし、それを元に、更に多くの富を得ていることが明らかとなった。

 十年前にケイロン家を訪れた者達が転界教関連という証拠は出なかったが、合成魔獣についての研究が行われている証拠も出て来たという話になった時、ウィズが拳を握り締める。


「ウィズ君、大丈夫?」

「……あ、すみません。続けてください」

「うん」


 自分を心配してくるミサキに、ウィズはニコッと笑う。ミサキはコクっと頷いて、話を続けた。


 貴族達は自らの配下や、専属の冒険者、騎士達に、強力な魔道具を与える代わりに、自分に忠誠を誓わせるなどして、個人の兵力を上げることもしていたという。

 マシロのミリアンなどもその一人で、モンクの貴族達に仕えていた者達の多くは呪われた後、ツバキに倒され一網打尽となった。

 今後は、更に多くの冒険者達を捕え、魔道具を没収の後、罪が課せられる行いをしていた場合、何年かの牢獄送りとなるという。

 無論、なし崩し的に他の領の貴族やお抱えの冒険者や騎士にも調べを進めるという結果となった。

 これについては、今まで通りシンキの判断で行われ、今回の天上の儀で話し合われることなく実施するという結果となった。


「それで、肝心の転界教の本拠点なんだけどね、貴族達からは情報が分からなかったの」

「ふむ……まあ、これだけ探しても見つからないんじゃな……」

「あ、そういう事じゃなくてね、そもそも拠点がない可能性が出てきたの」

「え? どういうことだ?」


 目を丸くするサネマサに、ミサキは更に尋問で知り得た情報を話していく。


 これまで、世界のどこかに転界教の本拠点があり、魔道具の開発、もしくは発掘などが行われているという推測がされ、シンキ達は必死でその行方を追っていたが、今回、ミサキが尋問したところによると、貴族達は、手紙やケリス、ルーザーなどを介してでしか、魔道具や金銭の取引を行っていなかった。

 その手紙のやり取りも全てがケリス邸であり、そこはケリスが用意した転界教の拠点の一つでしかないことが分かった。

 つまり、転界教に総本部という大元の拠点は存在せず、何処に居るのか分からない長が、それだけで転界教を率いているという事が明らかになった。


「その根拠は何だ? 流石にそれだけじゃ……」

「ケリスの屋敷以降の手紙の動きが全く分からなかったことと、ケリスが色んな仲介人を挟んだうえで手に入れて貴族に売ってた魔道具の大元が、世界のあちこちからってことが分かって、ひょっとしたら総本部なんて無いんじゃないかって話になって……」

「なるほど……確かにそれなら、自由に動ける分、場所の特定も難しい……てか、そもそも無理か」

「そういうこと。多くの物資も、その、私達が開発した異界の袋があるから、問題ないし……ね」


 ミサキは、自分とコモン達と世の為にと協力して作った魔道具が、悪事に使われている可能性も出て来たことに少なからず衝撃を受けていた。

 保管場所としては最高のものだと考えている。異界の袋さえあれば、個人で巨大な組織を回していけるとミサキはため息をついた。


「まあ、その清算は払わせるけどね~。取りあえず、セバスって人と、ルーザーって人の尋問は徹底的にするつもり。多くの人間に仲介していたルーザーからは転界教の規模、ケリスの近くに居たセバスからは、転界教の長、便宜上“総帥”って呼ぶことにした人についてしっかり調べてみるから~」


 異界の袋については仕方ないと割り切るミサキ。これからも続く尋問にやる気を見せるミサキにサネマサとアヤメは頷いた。


「おう、頑張れよ。結果が分かれば、“総帥”って奴は俺がこの手でぶっ飛ばしてやる」

「俺達も転界教には煮え湯を飲まされてきたんだ。この借りは必ず返してやる……」

「二人とも、その意気だよ~。皆も協力してね!」


 ミサキがウィズ達にそう言うと、皆も頷いた。


「もちろんです。うちの件もありますからね。父や母の仇は必ず見つけ出し、俺が倒します」

「ウィズは私達の仲間だからな。仲間の頼みに応える為、存分に力を振るうとしよう」

「うん! 私も頑張るから~!」


 ウィズ達に続き、ロロもやる気を見せる。


「やられたらやり返すのが闘鬼神です。私も頑張りますね!」


 ロロの言葉に、アヤメとサネマサは、おう、と頷き、ミサキはロロの頭を撫でた。恥ずかしそうにしながらも嬉しそうなロロを指さして、一同は笑いに包まれていく。

 謎の存在でしか無かった転界教だが、ここにきて、少しは実態が掴めてきた。出来るだけ多くの信じられる者達にこのことを伝えて、必ず打倒すると決めたミサキ達。

 その後も、日が暮れそうになるまで武王會館で過ごしていた。


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