第36話 晩飯前ムソウ編―四神と戦う―
今回から、数話のあいだ、オムニバス形式というか、野宿中のムソウたちの様子を描いていこうと思います。
俺達が来たのは、皆の所から少し離れたところにある、開けた場所……ハクビを見つけた場所だった。ここなら、俺も二人も、ある程度本気を出して闘っても問題なさそうだな。
「なあ、この辺りでいいか?」
正直、ここ以外となると、良い場所が見つからない。探しているだけで、晩飯が出来てしまうと思っていると、二人は納得したようで、俺に頷く。
じゃあ、早速やろうかと言うと、ジンランが懐から、ギルドの試験の時に使った魔石のようなものを取り出す。
「ムソウ殿、少し待ってくれ……」
ジンランは魔石を地面に置いて、力を込める。すると、魔石が輝きだし、辺りに結界が張られた。
「これは?」
「こいつは、ミサキの結界魔法天岩戸が封じられている魔石だ。俺達が少し本気で戦っても周囲に被害がいかないように、ミサキが作ったものだ」
俺の疑問にリンガが応えた。なんでも、普段から四神同士で鍛錬のために戦うこともあるという。だが、災害級の魔物同士の戦いともなると、周囲に多大な被害が及ぶ。
そこでミサキは四神達のために、強力な結界魔法を封じ込めた魔石を産み出した。それにより、結界の中で、どれだけ闘っても、周囲に影響が出ないようになったのだという。
この他にも同様の魔石が存在し、魔力を込めると、魔石に封じられた魔法が使えるようになるという。早い話が、俺でも魔法を使うことが出来るらしいのだが、仮に、俺がジンランの取り出した魔石に魔力を込めた場合、ここまで広大なものにはならないらしい。ある程度の魔力を操作する能力が必要なようで、熟練の魔法使いなら、もっと広くすることも出来るし、小さく、より強固なものを作り出すことも出来るということらしい。
ジンランが作り出したのは、俺達の周りを覆うくらいの広いものだ。強大な魔力を持つ、龍族の末裔なだけあって、こういうのは息を吐くのと同様に簡単なことらしい。
「ムソウ殿の強さは、実際に我らも見ている。そんなムソウ殿と本気でぶつかれば、この辺りの地図を書き直すことになりかねんからな」
ジンランは俺にそう言った。それは言い過ぎだろうとも思ったが、周りに何の影響も出ないというなら、ありがたいことだ。俺はジンランに感謝した。ついでにミサキにも……。
ちなみに、値段だが、ミサキの最高の結界魔法を封じているということで、かなり、値は張るらしい。魔法が使えるということで、手に入れたいと思ったが、今のところは、辞めておこう……。
「さて……どちらから来るか?」
俺が二人に尋ねると、やはりというべきか、リンガが前に出てきた。
「もちろん、俺からだ! 言っとくが手加減しねえぜ!!!」
リンガはやる気満々といった様子でニカっと笑い、魔獣の姿に変わった。……やはり、人間の姿のままだと闘いづらいみたいだな。まあ、本気で戦ってほしいと俺も思っているからな。その方がこちらも嬉しい。
「上等だ。手加減しやがったらぶった斬るからなっ!」
俺は無間を抜いて、こちらを見据えて力を込めるリンガを見据えた。
「では、リンガ、ムソウ殿、はじめ!」
ジンランが開戦の合図を出す。その瞬間、リンガの姿が消えた。
動揺する隙を与えず、リンガが俺の後ろに来ていることに気付く。……速いな。狂人化したハクビの比じゃない。本当に、瞬間移動でもしたのかと思った。
リンガは俺に爪で引き裂こうとする。俺はそれを避けて、振り向きざまに、無間で斬りかかったが、リンガは、片方の爪で、それを受け止めた。
「流石だなだな! 初撃を躱されたのは久しぶりだ」
「そいつは嬉しいな。じゃあ、次は俺の番だ!」
俺は無間に力を込めて振りぬく。リンガは後方へと飛ばされる。俺は、それめがけて、斬波を放つ。
「……っと」
シュンッシュンッと斬波を躱していくリンガ。やはり遠距離攻撃は駄目だな。すぐに躱される。近づいて直接戦わねえとダメみたいだ。
「おいおい、本気でやらねえと死ぬぞ!」
リンガはその場から、またしても一瞬で俺に近づいてくる。そして爪撃の連続攻撃をしてきた。
「ッ!!!」
俺は無間を振りながら、その攻撃を受けたり、いなしたりするが、早すぎて追いつかない。時々、俺に受け切れなかった攻撃が当たる。……この世界に来て初めて体に攻撃を受ける。
だが、痛みは無い。かと言って、受け続けるのは難しい。衝撃で、鎧が悲鳴を上げている。このままだといずれ壊されるので、更に速度を上げて、リンガの重い爪撃を受け止めていた。
「これで、最後だ!!!」
リンガは俺の足元に爪を振り下ろして地面を砕いた衝撃で、俺を吹っ飛ばす。空中に居る俺めがけて、前転しながら、跳躍し、大きな牙で俺を攻撃してきた。
「チッ!!!」
俺は無間でその攻撃を防ぐ。
ガガガガガガッッッ!!!
リンガの牙と、無間は大きな音を立て続け、最後に力を入れて、リンガが攻撃をすると、俺の体は更に後ろへと吹っ飛んでいく。
「がっ!!!」
そして、そのままミサキの結界へとぶつかった。
くそ、サネマサと同じくらいの衝撃だな。
俺は、この世界に来てから、珍しく苦戦をしている。
だが、同時に喜びも感じている。こんなに面白い戦いがあったなんてな。
そのまま地面へと降り立った俺は無間を上空へと投げて、少し離れた地面に突き刺した。
「……ん?なんだ、降参か?意外と早か——」
「馬鹿言うな。こんなに面白い時をさっさと終わらせてたまるか」
俺はそう言って、拳を構えた。もともと、無間を使っている以上、俺の攻撃はどれだけ頑張っても大振りになる。と、なれば、リンガの素早い攻撃についていけない。
ならば、いっそ刀を離して、闘った方がやりやすい。
「ハハハッ! 俺に素手で挑む人間が居るなんてな! 初めてだ!」
「いつまで、笑ってんだ?」
「ずっとだろ!こんなに楽しい時は確かに無いな!」
リンガは笑いながら、俺に近づいてくる。だが、俺の目も慣れてきた。リンガの姿が少しではあるが見えてくる。更に、俺は目に頼らず、リンガの気配を追った。こちらを攻撃しようとするリンガの気配は、至極分かりやすい。
俺は、リンガが来るであろう所に先回りした。そして、予想通りに来たリンガの爪撃に対し、腕で防御した。……お、肉球が気持ちいいな。
「なっ!?」
「……面白いだろ?」
驚愕するリンガの腕を弾き、大きく開かれた腹へ、俺は拳を何十発も繰り出す。
「内臓殺し!」
リンガは俺の攻撃を受けて、若干白目になりながらも耐えている。さすが虎の魔獣だな。皮膚が分厚くて攻撃が通らないみたいだ。人間なら、文字通り、いくつかの内臓を破裂させられるのだがな。
そこで、俺は気を集め、拳から貫手にし、気を研ぎ澄ませるような感覚で使ってみた。すると、気は刃のようになり俺の両手にまとわりつく。文字通りの手刀だな。
俺はその状態でリンガを突いた。
「ガッ!!!」
貫通こそしなくなったが、リンガは苦悶の表情を浮かべた。攻撃は通ったみたいだな。俺はさらに、足に気を溜めて、手の時と同じように研いでみた。そして、これも文字通りの足刀蹴りを放った。
「グアッ!!!」
リンガはそのまま吹っ飛んでいく。俺はそれを追いかけるため飛び出し、途中無間を拾って、リンガに斬りかかる。
「クッ! ウオオオオオオオオ~~~ッッッ!!!!!」
カッと目を開いたリンガは咆哮を上げた。なんて声だ。耳がやばいことになりそうだな。俺は衝撃で後ろへと飛ばされてしまう。
リンガは、痛みからか、大声を出しからか、息を荒くしながらも、未だ、俺に笑っていた。
「ハァ、ハァ、ハァ……やるな、ムソウ。ここまでしてきた人間はサネマサの野郎と闘ったとき以来だ」
「ああ……俺もだ」
「次に出す技は少しきつめだからな……耐えてみろよ」
「上等だ! かかってこい!!!」
俺が無間を構えるのと同時に、リンガは口を大きく開ける。そして、そこらの気を集め始めた。集める量が半端じゃないな。俺が使う分が無くなってしまったじゃないか。
ただ事ではなさそうな雰囲気に、俺の無間を握る手に汗が滲むが、俺は無間を持ち直し、攻撃に備える。
―すべてをきるもの発動―
俺はスキルを発動し、ジッと攻撃を待った。
「あの、蛇に使ったのが最後かな。ムソウ、この攻撃は俺の最強の技だ。辺りの気を喰らい、俺の気と混ぜて放つ、俺の奥義だ……」
「わざわざ、どうも。だが、百聞は一見に如かず。とっとと、撃ってこい!!!」
「なら喰らっとけ!!!奥義・暴食虎砲!!!」
リンガの口から、特大の気の塊が飛んでくる。強くて、しかも早い。あっという間に俺の元へと到達した。切れ目を見る余裕はなさそうだな。
俺は無間に斬波を纏わせ、その攻撃を受け止めた。
「オオオオオッッッ!!!」
……重い。今までのどんな攻撃よりも重い。無間でも、折れるのではないかという圧倒的な力だ。
……すげえな、こんな力を持つ奴がこの世界には居るのか。そして、この攻撃でさえも、ミサキの作った結界は大丈夫なのか。やっぱり、あいつってすげえんだな。
柄にもなく、ついミサキを褒めてしまう。その時だった。攻撃の中に、赤い切れ目が見えた。俺はそこを狙って、無間を振るう。そのまま、斬波が放出され、切れ目を斬った。
リンガの攻撃は跡形もなく散っていく。
「ば、かな……!?」
リンガは自分の攻撃がかき消されたのをみて、驚愕し、その場で倒れそうになる。自分の気も混ぜて放つのだからな。攻撃した後は、やはり少々疲れるみたいだ。
大きな隙が出来た。俺は飛び出し、リンガに近づいた。そのまま、首筋へと無間を向けて、止める。
「……続けるか?」
俺の問いにリンガはフッと笑って、
「……いや、俺の負けだ」
と言って、俺に降伏した。
「それまで! 勝者、ムソウ殿!!!」
ジンランが手を上げて、俺とリンガの戦いは終わった。
辺りを見ると、リンガの攻撃によって、地面が一直線に抉れている。
「……すげえな、お前の攻撃」
「それは嫌味か? あれを斬ったお前はじゃあ、どうなるんだよ……」
リンガは立ち上がりながらそう言った。フラフラだな、お互い。俺はリンガに回復薬を飲ませ、俺も飲んだ。
「俺の攻撃を無効化するなんてな。お前、本当に強いようだな。ひょっとしたら世界で一番強いかもしれないぞ」
「それだと、張り合いのある奴が居なくて俺が困る」
リンガの言葉にそう返すと、俺達は声を上げて笑った。
「……ふむ、では次は我の番だな」
そして、次に闘うジンランが前に出てくる。ジンランの言葉に、リンガは頷き、その場に座った。選手交代といったところか。
「ああ、そうだな。すぐ始めるか?」
「ぜひともお願いしたい」
やれやれ、先ほどの戦いの疲れももう少し取りたいのだが仕方ないな。回復薬は、傷を癒しても、疲れは取ってくれない。だが、このまま休むと時間が無くなってしまう。
……仕方ないか。俺達は互いに向かい合わせになるように立った。そして、ジンランも人の姿から、龍の姿へと変わっていく。
「我も本気で行くからな。ムソウ殿、覚悟してもらおうか」
「望むところだ。その長い胴体を細切れにされたくなかったら、是非ともそうしろ」
「よし、二人とも気合入ってんな。なら、はじめろ!!!」
リンガの合図とともに俺達の戦いが始まった。神族によって生み出された龍族……その末裔か。ワイバーンとは違うというところを見せて欲しいものだ。
先に飛び出したのは俺だった。ジンランは空を飛ぶらしいからな。そうなる前に先に弱らせておこうと思った。
だが俺が斬りかかると、ジンランはその部分だけを器用に動かし、俺の攻撃を躱す。
ミサキの付けた名前じゃないが、蛇みたいだな。ということは全身筋肉か。鱗もあって、斬撃が通るのかどうかも怪しいものだ。だが、切れ目が見える以上、斬れることは出来そうだな。そう思って、俺は無間での攻撃を続ける。ジンランはそれを避けていく。
ドッ!!!
だが、突然、俺の背中に衝撃が走る。
「ガッ!!!」
みると、ジンランの尾が俺を背中から攻撃してきた。俺はそのまま地面へと落ちた。
「くっ……!」
「ほう、硬いなムソウ殿。突き刺すつもりでやらなければ攻撃は通りそうもないな」
ジンランはそう言うと、尻尾に気を集め、先ほど俺がやったように刃状に研ぎ始めた。あれは、やばい!
「行くぞ、ムソウ殿!」
ジンランは空へと飛びそこから、尻尾の刃を何度も打ち続けてきた。くそっ! 刃嵐とはよく言ったものだな。俺はその攻撃を無間を振って受け続ける。
幸運だったのはリンガのものよりも攻撃は遅い。しかし、あれよりも重い。こうして受け続けてもだめだな。俺は刃状にできていた気の中に切れ目を見つけ、それを斬った。
「くッ! 気をも斬るか! ムソウ殿!」
一瞬の隙だ。俺はジンランの下から抜け出し、ジンランに特大の斬波を放つが、避けられてしまう。攻撃を放っても、受けられることなく、避けられるだけという状況に段々とイラついてくる……。
「……あ~もう! 空を飛ぶなんて、ずりぃ~な!!!」
「それは、負けた時の言い訳か? ムソウ殿」
チッ! 痛いところを突きやがって。確かに、俺は空を飛ぶ相手にも勝ってきた。というか俺がこの世界で戦ってきた奴らはほとんど空を飛んでいたな。ワイバーンとかワイアームとか、デーモンとか。
敵が飛べることが俺の敗因というのは理由にはならないよな……100年戦争のときとか人族どうしてたんだよ……そういうスキルとか魔法でもあるのか?
どうしたらいいんだ……と、考えていたら、ジンランはなにか呟き始める。なんだと思っていると、ジンランの周りに魔法陣と共に白い雲のようなものが現れた。白い雲からは、雪の粒のようなものが降り注ぎ、結界内が若干寒くなってきた。
げっ!? あれは、ミサキが使っていた龍言語魔法ってやつじゃないのか? あんなのを使われたら、まずい、魔力を溜めてるうちに攻撃だ!
俺は無我夢中で斬波を放つが、白い雲から吹いてくる風によって逸らされていく。
「ふむ。本気で行くと言ったからな。その通りにさせてもらう。ムソウ殿……死ぬなよ……龍言語魔法・白銀の地獄!!!」
死ぬなよ……じゃねえよ! 何か知らんが、やばいと思っていると、元々寒かった結界内が更に寒くなったのを感じた。無間には霜が降り、地面は凍っていく。
そして、白い雲から、途轍もなく強い吹雪が吹き荒れる。雪の中には、氷の刃も混じっているようだ。
俺は寒さで動きがとりづらくなっている状態で、雪に覆われながら、氷の刃を受けていく。今度の攻撃は、吹雪ということもあり、速く、さらに動きも読みづらい。俺の体はいくつもの氷の刃が当たっていく。
「くううううぅうぅっぅぅ!!!!」
俺は必死でそれに耐える。痛みも傷も無いが、寒さがやばい。ダメだ……力が抜けていく……。
クソッ! この世界に来て、初めて負けるのか……こんな負け方をしてしまうのか……?
ふと、それだけは嫌だと思っていると、無間が黒く輝き出す。
……ん? ……なんだ? そう思って、とりあえず振ってみた。
すると、無間から黒い炎が飛び出し、辺りの氷や雪を全て一瞬で解かしていく。俺が目を見開き驚いていると、炎は無間に戻り、纏わりつく。ゼブルに使った聖火を帯びた時とは違う炎みたいだ。やけに禍々しい気がする。
「……む? この波動は……まさか……」
ジンランは何かに気付いたようにそう呟いている。が、なんにせよ、隙が出来た。俺はジンランの作った雲の切れ目を斬り、魔法を打ち破った。
「……ほう、龍言語魔法でさえも斬るか。……面白いぞ! ムソウ殿!」
「うるせえ! 死ぬところだったぞ!」
俺は斬波を放つ。……ん?斬波も燃えているな。攻撃全てに炎が纏わりつくのか、これは。
そして、無間が俺の目の前で燃えているのにもかかわらず、この炎は熱くない。俺には影響ないみたいだな。当たり前か。あったら、今頃、俺は消し炭だもんな。
ジンランへと向かっていく斬波はやはり、躱されたが、やはり相当熱いらしくジンランの鱗に焦げ付きが出来た。
「ぐうううぅぅぅ……!」
ジンランは顔をゆがめる。相当効いているみたいだな。俺はもう一度斬波を放とうとするが、ジンランは天高く飛び上がった。
「チッ! 逃げんのか!? てめえ!」
「ふん! 力を蓄え、攻撃するのだ。そう口を荒くするでない!!!」
さっきから、これ見よがしに飛んで見せたりされて、正直、俺もイライラしていた。何か違和感を感じるが、まあいい。向こうもなにかイラついているみたいだからな。お相子だ。
ジンランは天高く駆け上がると、傷を癒し、辺りの風を集めた。そして、自分の体の周りに竜巻を発生させた。
「ムソウ殿、これが我の奥義だ。そのまま、受けて見せるがよい!!!」
「うるせえんだよ! 高い所で見下ろしながら、いちいち偉そうな口調で喋りやがって!とっとと降りて来い!迎えに行って差し上げてやるからよッ!!!」
俺は怒気を混じらせて、語気を強めて言った。
……なんだろう……この感情。なんで俺、こんなに怒ってるんだろうか。
「フンッ! そこまで言うのなら、行くぞ!!! 奥義・嵐輝龍!!!」
竜巻を纏い、風で出来た刃と鋭く尖った氷を纏って、ジンランはものすごい速さで俺に向かって急降下してくる。というか、技名……。
「駄洒落か!!!ミサキといい勝負だなあ!!!そのまま、受け、斬ってやらあ!」
俺はジンランに向けて思いっきり跳躍した。ジンランに近づいていくたびに、俺の体に無間の炎が纏わりつく。そして、炎に包まれた俺と、ジンランがぶつかる
「オオオオオオオッッッッ!!!!」
俺達はギリギリとせめぎ合っているが、俺の炎が、ジンランの風の刃を全て振り払い、尖った氷を一瞬で昇華させ、そして、ジンランの顔を焦がすのが見えた。そこで俺はハッとする。
……まずい、やり過ぎだ!
「ッ!? ……ジンラン! 避けろ!」
空中で刀を引こうにも、上手く出来ない。必死になって無間を引こうとしながら、ジンランにそう言うと、ジンランも目を見開き、ハッとした様子だ。そして、お互い力を抜き、すれ違った。そして、そのまま、ジンランは地面へと激突して動かなくなり、無間の炎は消えていった……。
役目は終わったってことか……? なんだったんだ、急に。
そして、先ほどまで苛ついていたばかりだった俺の頭の中が妙に冴えて、ジンランを心配する気持ちだけが、浮かんでくる。
「おい、ジンラン! 大丈夫か!?」
俺はジンランに駆け寄り、声をかける。ジンランの顔には大きな火傷が出来ていた。俺はジンランに回復薬を飲ませ、火傷の箇所に薬をぶっかけて、傷を癒した。
ジンランは、すまないというが、俺は首を横に振った。だが、ジンランはそれでも、いや、これは自分の所為でもあると言って、また、すまないと謝った。
そんなに、一方的に謝らないでほしい……今回ばかりは俺の所為でもあるんだ。原因も戦いながらだったから、何となくわかっていた。ジンランも恐らくわかっている……。
「おい……一体どうしたんだ? お前ら」
リンガが近づいてきて不思議そうな顔をしている。
俺とジンランはリンガに説明してやった。
「戦いのさなか、俺は空を飛び回り、ことごとく俺の攻撃を躱すジンランに対して焦っていた。その焦りはいつしか苛立ちに代わり、ジンランをひどく憎むようになっていった。
それは、必ず斬ってやるという殺意にも似た思い。それにより、恐らく俺のEXスキル、かみごろしが発動したんだろう」
神族、龍族に対して強い殺意をもつと鬼人になるというやつだ。ジンランは龍だからな。おそらくそうだと思う。ハクビやサネマサと闘った時も、斬ってやる、と思ったときはひとごろしの効果がちょっと出て、サネマサに殺す気で挑んだ時には、たとえ殺すつもりはなくても、心は殺意と認識し、スキルが完全に発動したからな。
今回も稽古中の出来事だ。もちろん殺意はなかったが、斬ってやりたいという気持ちは強かった。おそらくそう言うことなんだろうと思った。
「ムソウ殿の刀。それから出ていた炎は冥界の波動を帯びていた。それに当てられ我もムソウ殿を、つい本気で倒してしまおうと考えるようになった。
天界の波動の時とは逆で、我にとっては忌み嫌うものだからな。……あの時と同じく、本能のところで、波動に当てられたようだ……」
そう、恐らくあの炎は、かみごろしを発動させると出てくる副次的なもの、あるいは、無間にある力の一つかも知れないがな。
ともかく、冥界の波動を受けたジンランは俺に対して攻撃的になり、俺達は下手をすればどちらかが倒れるまで、攻撃を続けていたのかも知れない。
「本当にすまなかったな、ムソウ殿」
「いや、謝るのはもうよせ。今回は俺達も未熟者だと知るいい機会になったからな」
「……ふむ、そうだな!」
俺とジンランは顔を見合わせ、次にやるときはどちらも今日見つけた課題を克服して、さらに強くなってやろうと言って笑いあった。
それを見ていたリンガは、もっと強くなって俺に挑むことを目標にしたらしい。
俺達三人は笑いあっていた。
しばらくすると、ミサキが俺達を呼ぶ声が聞こえてくる。
「ごはんできたよ~! 三人とも戻ってきて~!!!」
振り返ると、ミサキとレイカと朱雀、そして、ミサキの肩にリンネが乗っていた。
俺達がミサキたちの方へ行くと、リンネは俺に飛びついてくる。
「キュウ~!」
俺はリンネの首筋を撫でてやって、野宿をする場所へと歩いていった。
……俺もまだまだだな。もっと強くなって、皆を本当に護れるようにならないとな。
そう思って、ふと空を見上げる。
今日はきれいな満月が煌々と辺りを照らしていた……。
次は晩飯前のハクビとぴよちゃんサイドのお話です




