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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
世界が動く
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第368話 天上の儀 ―レインの街を楽しむ―

 転送魔法によってレインの街を訪れたロロの目に映ったのは、多くの行き交う人の姿。家々と共に多様な商店が並んでいる。冒険者達も居て、店先で楽しそうに食事を摂ったり、冒険者同士で依頼達成の自慢を交わしたりしていた。


 レインの街は、大きな広場を中心として、街が広がっている。ロロ達はその広場に居り、転送の魔法陣は街の中心と、東西南北の門に設置されてある。城と貴族の街は、海側に造られており、広場からようやくその全容が明らかになった。


「改めて見ると大きいですね……」

「トウショウの里より大きいからな。よく建てたものだ……」


 王城は、邪神大戦の頃から、その姿を変えていない。当時は、城自体が街だったこともあり、その大きさは、トウショウの里のある山よりも巨大なものに感じられる。

 王城のあちこちには見張り用の建物と共に、セインが創造した、「ミサイル」と呼ばれる対外敵用の兵器が置かれており、レインを囲う外壁にも設置されていた。


 外壁の東西には「双星の守護塔」という大きな塔が建造されており、十二星天のジーナ、ミーナがそれぞれ常駐し、有事の際は、街を護る巨大な結界を作り出せるようになっている。

 騎士団の駐屯地とギルドレイン支部は、守護塔の側に構えている他、ジェシカの治癒院、サネマサの武王會館、ジーンの旅行公司も街中にあるが、レオパルドの魔獣宴だけは外壁の外に存在する。

 万が一、魔獣宴で飼育されている魔物達が外へ出て街に被害を及ぼさないようにするための配慮だ。ひょっとしたら、トウガ達にまた会えるかもと期待していたロロはガクッと項垂れたが、レインの街を歩いていくうちにその寂しさも紛れていった。


「どこへ行ってもにぎやかですね」

「まあ、王都だからな。ただ、人が多いモンクと違うのは、流石ギルドや騎士団の総本山なだけあって、治安は世界一だ。安心して過ごすことが出来る。それに……」


 アヤメはちらっとミサキ達の方に顔を向ける。ミサキは、ん? と言った感じでアヤメに振り向いた。


「どうかした?」

「やっぱりここじゃ、アンタらが歩いていても寄られたり集られたりしないんだな」


 ミサキは、納得と言った感じに頷く。


「まあね~。もう、皆、慣れちゃったみたい」


 普段からレインで活動している十二星天は多く、他の街よりは比較的、住民達も十二星天だからと言って、集まってきたりなどはしない。


「クレナじゃ、未だ叔父貴に寄って来る奴らも居るのになあ」

「買い物するのも大変だと仰ってましたね……無下にするのも悪いと……」

「昔は、追い払っていたんだがな……爺さんになってからは、やり辛くなったってところか」


 やれやれと肩をすくめるアヤメに、ミサキも苦笑いして答えた。


「アハハ……でもさ、前にサネマサさんが言っていたけど、クレナに行ったら、ジロウさんにしか人が行かないって、嘆いていたよ」

「まあ、爺いより叔父貴の方が、先代領主の弟ってこともあるし、クレナの中での功績も多いからな。爺い一人なら分からないが、叔父貴と一緒に居たらそうなるだろうよ」

「人気者は大変だね~」

「アンタが言うか。アンタは、寧ろ楽しんでいるから良いだろうよ」


 皮肉のつもりで言ってみたが通じなかったようで、ミサキは嬉しそうに頷き、偶に子供が声を掛けたりすると、嬉しそうな顔で手を振り返したりしている。

 一応、領主という立場のアヤメは、あまり目立ちたくないと、羽織についている頭巾を被り、ミサキの後ろへと移動していった。


 その後、一行はミサキの行きつけだという料理屋に入る。木目調の内装に花が飾られており、どことなく女が好きそうだなとアヤメは感じ、実際に多くの若い女たちが食事を摂っていた。

 レイカとロロは目を輝かせるが、アヤメ、ウィズ、ハクビの三人は、何となく居心地が悪そうな顔をしながらも、席に付いた。


「ウィズ君、何食べる~? 何でも頼んでいいからね~」

「あ、では……ミサキ様と同じものを」

「きゃっ! ありがと~!」


 ミサキの様子にハクビとレイカは、やれやれとため息をつく。それを見たアヤメとロロは何となく察するが、ムソウとツバキのものと違い、そこまでの面白みを感じなかった二人は、品書きを見ながら欲しいものを注文していく。


「そう言えば、アヤメ様の好きなものは何ですか?」

「俺は、クレナのものなら何でも好きだぞ……丼物とかあるかな……」

「無さそうですね……あ、天ぷらがありますよ!」

「意外だな……じゃあ、俺はこれで、ロロはどうする?」

「私は何でも……出来れば、レインならではのものが良いですね」

「じゃあ、これだな。冒険者達が獲った魚や肉を、ゴルドのワインで煮込んだものだ」

「それ、厳密に言えばゴルドのものじゃないですか? でも、美味しそうなのでこれにします」


 そう言って二人と共に、ハクビとレイカも注文を終える。レイカはロロと同じものを注文した。ロロと同じく、これはゴルドのものじゃん、と言っていて結局、レインの名物は分からなかった。


 実は、レインにこれと言った名物は無い。世界中の名物が集められるので、レインならではのもの、というのは、専門店では無い店では大抵置いていない。

 ただ、それを言うと、ミサキの厚意も無駄にしてしまうので、アヤメは黙っていた。


 しばらくすると、それぞれの料理が運ばれてくるが、ハクビの前に置かれたのは、到底女性が一人で食べられそうもない大きな骨付き肉の塊を、様々な香辛料と共に焼いたものだった。

 近くに居た女性客がひそひそと話している前で、ハクビは思いっきりかぶりつく。意に介していないようで安心はするが、ここの店のコンセプトは何なのだろうかと、アヤメは頭を抱えた。

 しかし、味は良いのでそれ以上は何も言わず、天ぷらとクレナ米を堪能した。


「おいしいですね~。お肉が柔らかくて気持ちいです~。あ、レイカさん、口に周りを汚してますよ~。お茶目ですね~」

「ロロちゃん……嬉しいけど、恥ずかしい……」


 レイカが口周りを汚す度に、ロロはそれを拭っていく。普段は居る突っ込み役が居ないので、ロロは嬉々としていた。


「あ、ハクビさんも……」

「わ、私は大丈夫だ! レイカの方に集中してくれ!」

「駄目だよ、ハクビさん。受け入れて」


 ロロを拒もうとするハクビだったが、レイカに体を抑えられ、何も出来ぬまま、ロロに口周りを拭かれていく。顔を真っ赤にしながら、苦手だとボソッと呟き、そこからは二人とも落ち着いて料理を食べていく。

 ロロは少し残念そうにしながらも、最後まで美味しそうに煮込み肉を食べていた。


「はい、ウィズ君。あ~ん」

「あの……ミサキ様。ご自分の物はご自身で召し上がってください」

「いや、そうじゃなくてね……」

「好き嫌いは駄目ですよ。はい、どうぞ」


 ウィズは自身に向けられていたフォークを手に取り、ミサキの口に持っていった。ミサキはそのままウィズから差し出された料理を食べて、顔を真っ赤にしてはしゃいでいる。


 ムソウとツバキも、ここまで極端ならますます面白いんだけどなと思いながら、アヤメは二人を眺めていた。


 やがて、料理を食べ終えた一行は店を出る。満腹そうなロロを小突き、土産を買うことを思い出させると、ハッとしたような顔つきになった。


「さて! 次はお買い物だね~。どこ行く?」

「レインの百貨店で良いだろ。港だったか?」

「あ、そうだね~。あそこなら何でもあるし~。じゃあ、しゅっぱ~つ!」


 一行はそのまま、ミサキの案内でレインの港へと向かった。

 そこには、モンクにあるような大きな倉庫内に、食料品や冒険者の装備、服飾品、工芸品等なんでも揃っている店がある。そこも、リエン商会が運営しているが、モンクに無く、レインにしか無いものも多い。

 倉庫内に入った後は、ミサキ達と別れ、アヤメとロロは土産売り場で何を買おうかと悩んでいた。


「何を買いましょうか。多分ですけど、頭領もモンクで買っているでしょうし」

「そうだな……ただ、逆を言えば何を買っても良い状態だから、思ったものを買って良いだろうよ」

「アヤメ様は何を?」

「ショウブには新しい羽織の材料、ナズナには化粧品、シロウには……あいつにはジロウ一家の分も含めて饅頭で良いだろう」

「そんな……シロウさんにも何か特別なものを……」

「いや、アイツは良い。問題はミオンだ。何を買おうか悩むな……」


 日ごろの感謝へとミオンには少し良いものを買いたいと考えているアヤメは、棚を見ながら悩み続けている。


「化粧道具はナズナと被るし、服は天宝館があるし……というか、大概のものは天宝館にあるし……」

「天宝館がトウショウの里にあるのって結構大きな問題ですね……」


 ムソウもモンクで悩んだ問題である。トウショウの里に天宝館があるため、家具や冒険者としての装備品、着物等、土産として買うほどのものが、他の地には無い。ムソウ達は、だったら、自分で作れるものをという事で、モンクの手芸品の材料を中心に土産を買った。

 アヤメもレインの特色あるものを、と思ったが、いまいちピンとくるものが無かった。


「ミオンさんでしたら、アヤメ様が持ってきてくださるものは何でも喜びそうですが……」

「それで良いのかなあ……ところで、何を買うかは決めたのか?」

「はい。私は皆さんに、王都のお菓子を買うことにしました。たまちゃんはもちろんのこと、リンネちゃんも、頭領も、ジゲンさんも、甘いものが大好きですから」


 そう言いながら、ロロはレインの菓子の詰め合わせを大量に籠の中に入れていき、更に珍しい柄や生地の絨毯など家具や、化粧品も店員に頼んで会計を済ませていった。

 正直な話、自分の欲しいものではないかと疑ったが、アヤメはそんなことも言ってられない。ミオンが本当に欲しいものは何だったかと色々と思い出す。


「……仕方ない」


 しかし、結局何も思い浮かばず、ロロと同じくレインの菓子と、一つの魔道具を選んで手に取った。


「アヤメ様、そちらは?」


 ロロが不思議そうな顔で魔道具を覗き込む。


「コイツは、魔力を通せば、強い光を放ち、目を眩ませるって代物だ。変な奴が減ったとはいえ、ギルドの受付も大変だからな。万が一の時にな……」


 魔道具は指輪の形をしていて、普段の業務には差し支えない仕様となっている。銀色の台座に、黄色の小さな魔石が嵌められていて、台座の部分の細工も見事なものだった。

 天宝館に行けば、無いこともないが、細工の模様は領によって違うという事で、何となく腑に落ちないながらも、アヤメはその魔道具を選んだ。

 ため息をつくアヤメに、ロロはクスっと微笑む。


「本来、お土産というのは渡す側がどのようなお考えかが重要だと思います」

「それで良いんだろうか……」

「良いのです。目に見えるものではなく、アヤメ様がミオンさんに、お土産を何にするか悩み、購入されたことが重要なのです。それだけでミオンさんは喜ばれると思います」


 優しい言葉で自分を諭してくるロロに、アヤメは可笑しな気持ちとなって、フッと笑った。


「そうか……じゃあ、これにするよ……一応、シロウにも何か買っておくか」

「フフッ、その方が良いかと。ご結婚もされますしね」

「となると……これで良いか」


 アヤメが手に取ったのは、夫婦円満の御守りで、優しく微笑みながら手を合わせている、コウカの人形だった。

 男に人形とは、という考えが頭をよぎったが、ロロからもそれは良いですねと納得の声があったので、これにした。


 そして、アヤメはもう一つ、とロロと一緒にジゲンへの土産も買った。それは、茶の道具といくつかの茶葉だ。今まで破天荒に生きてきた分、味覚に優れたたまと一緒に、ゆったりと茶を楽しめば良いと思っている。

 ジゲンが茶を淹れている姿というのは、ロロにも想像できたらしく、似合っていますねと、二人で笑っていた。


 皆への土産に関して、何も悩む必要は無かったと、それを教えてくれたロロの頭をポンポンと撫でて、その場で全ての会計を行った。


「さて、次は……ロロは欲しい物あったか?」

「本を……」

「回復魔法のか? それなら、本屋に行くか」


 アヤメ達が次に向かったのは、書籍を売っている場所だ。ロロは中級回復魔法に関したものだけでなく、自身の適正属性に関する本を買った。

 ついでに、たま、リンネの為の絵本と、意外と読書が好きだと言うムソウの為に、幾つか見繕っていた。

 闘い以外でも趣味があるんだなと、アヤメは驚きつつ、少し興味が沸いてロロを手伝った。


「ムソウはどういう本が好きなんだ?」

「えっと、童話とかおとぎ話の類が好きでしたね」

「え……意外だな。伝記とか歴史書とかに興味がありそうなものだが……」

「もちろん、そう言うのも読まれていたようですが、この世界の歴史って、根本から違っていたじゃないですか。ですから、そういったものは読まないようにしたとのことです。

 それと、一度、十二星天様について、嘘の内容が書かれた本を読んで、基本的に伝記などは信用できないと仰っていました」

「ああ……そう言うのが多く出回っているって噂は確かに聞いたな。十二星天の本だけでも、色んな種類があるからな……本来は、王城公認のものを読めば良いが、手続きを面倒がる作家も居るから、面倒なことになっていると聞いたことがある」


 ただ、情報は大いなる武器という意見を持つセインから、十二星天の詳細が分からなくなるという利点はあるという考えから、ギルドにもそう言ったものが置かれている、という裏事情もあるが、ムソウからすれば、本人に確認することが出来るので、それもあまり意味はないな、とアヤメは感じて納得した。


「じゃあとりあえず、レインやゴルドのおとぎ話にするか。レオニクスのものは面白いからな。買って行こう」

「あ、ゴルド支部長の……そうですね。私も、昨晩はおとぎ話の裏側を知れて楽しかったですから。

 それと、精霊女王の童話もいくつか買っていきましょう」


 そう言って、ロロが手に取った本は、表紙に美しい精霊の女が描かれており、目を閉じて手を合わせていた。


 「精霊女王」とは、本来なら人族にスキルと魔法という力を与えて、神族や鬼族に対して人族が対抗できるようにしたという存在という事で、それにまつわるおとぎ話や神話もいくつかあるが、その正体が、ムソウの妻のサヤから由来したものだという事で、少し面白そうだと感じてアヤメも、そうだなとロロに頷いた。

 ちなみに、精霊女王の物語は時代によって幾つも生まれてきたが、原作者は全てシンキである。なので、これに関しては全て事実であり、内容は、サヤの日常を面白おかしく、更に少し色を付けて描いたものだった。

 挿絵も、忠実に再現されており、どことなく似ているものとなっているが、サヤを見たことが無いアヤメとロロはそれに気づかず、幾つか見繕った後、籠の中に入れていった。


「しかし、精霊女王がムソウの妻だったってことは、精霊王という存在は、ひょっとして、初代人界王って可能性もあるかもな」

「あ、そうかも知れませんね。……でしたら、シンラ様とコウカ様のものも買っていきますか……」

「シンキの奴、これで幾ら儲けているのだろうか……俺も、自伝とか書いてみようかな……」

「アヤメ様の場合、ジゲンさんやコウシさん達の伝記を書いた方がよろしいのでは?」

「それは……悪くないかもな。叔父貴達と相談しながら考えてみよう」


 新しいクレナの財源になりそうなものを思いつき、アヤメはニカっと笑った。

 ひとまずこれで、ムソウへの土産も買うことが出来たロロ達。意外と、買えるものだなと思いながら、その場を後にして、ミサキ達を探した。

 服飾の区画に居ると聞いて、そちらに向かうと、げんなりしたハクビに、レイカとミサキが次々に可愛らしい服を持って行っては、これは違う、これは違う、とハクビに合う服を決めている最中だった。


「ミサキ殿……レイカ……まだなのか?」

「まだ! ハクビさんも女の子だからお洒落しないと!」

「この機会にモテモテになるような服を買おうよ!」

「うぅ……ウィズ、助けてくれ……」

「俺は……待っていますので、ご自由に……」


 苦笑いしながら顔を逸らすウィズの手元には、ミサキが選んだ大量の服が持たれていた。

 ボソッと裏切り者と、呟くハクビ。ため息をつき、顔を上げると、視線の先にはアヤメとロロが立っていた。


「む! アヤメ殿! 助けてくれないか!?」


 恐らくアヤメは自分と同じく、こういうのには興味がない。味方を手に入れたと喜ぶが、アヤメも視線を逸らした。


「……へぇ~、結構品ぞろえは良いみたいだな。ロロ、好きなものがあったら言ってくれ。買ってやるぞ」

「よろしいのですか!? あ……ですが、天宝館がありますので……」

「まあ、そうだよな……俺達がここで買うものは無さそうだ。じゃあ、俺達は外で待ってるからな……」

「む!? アヤメ殿! 助けてくれないのか!? アヤメ殿~~~!」


 訴えかけてくるハクビに、手を振りながらアヤメとロロはその場を後にした。

 百貨店の入り口にある長椅子に座りながら、二人はクスクスと笑っている。


「ミサキ様の所は、いつも賑やかで楽しそうですね」

「少し騒がしい気もするがな。しかし、ウィズが龍言語魔法というのは流石に驚いたな」

「ええ。それに、ハクビさんは白餓狼の獣人です。あちらも、凄いパーティになりそうですね」

「お前らも負けてんなよ。俺としては、牙の旅団の後継者という気持ちで見ているからな。コウさん達にも負けないようにしろよ」

「やはりアヤメ様は、牙の旅団の皆さんの事を話す時は嬉しそうですね」

「そりゃ……まあな」


 普段なら照れて、恥ずかしがるところだが、今日はロロしか居ないという事もあり、アヤメは素直に頷いた。

 そして、アヤメはかつて自分が見てきた牙の旅団の話をロロに聞かせた。今後、本にまとめることがあるのなら、どういったものにするか確認の意味も籠っているが、ロロからすればどの話も面白いものだった。

 いつも賑やかで、闘いに行くときも楽しそうで、壊蛇の襲来も乗り越え、サネマサが十二星天、ジロウが“刀鬼”と世界中から畏れられるようになっても、牙の旅団は何も変わらなかった。

 最期の時まで……いや、今でも、いつも賑やかに、楽しそうに語り合う姿というのは、今でもアヤメやシロウ達にとっての憧れだと、ロロに聞かせた。


「私達も、そんな風になれますかね?」

「なれるさ。お前らは昔の叔父貴達と似ているからな。お前らだけじゃない。“魔法帝”の所も、ああやって馬鹿やりながら、いつまでも強いつながりで居られるさ。どこも、部隊を率いる奴が、常に楽しそうだからな。叔父貴、“魔法帝”、ムソウ……確かにひと癖もふた癖もある者達だが、だからこそ、どこにも負けない強い絆が生まれてくるものだと思っている。俺から言うのも何だが、お前も頑張れよ」

「もちろんです。いつまでも皆と一緒に、幸せになって行きたいです。アヤメ様もご一緒に……」

「ありがとよ。まあ、俺は何癖もあるお前らを抱えながら、クレナを護っていくつもりだからな」

「も~、私は、頭領とは違います~。何も起こしませんから安心してください」

「ハハハ! 十二星天の弟子と、冒険者ムソウ……最終的に、どちらが俺の頭を抱えさせる人間になるのか楽しみだな」

「む~……」


 ムソウと同類と見られているようなことを言われて、不機嫌そうにプイっと顔を背けるロロの頭をアヤメは面白がってポンポンと撫でていた。


 しばらくすると、大量の買い物袋を提げたミサキ達がやって来る。


「お待たせ~! 結構時間かかっちゃったけど、たくさん買えたから問題なし!」


 上機嫌なミサキとレイカと違って、ハクビはげっそりとしている。あの時、助けてくれなかったのは何故? という目でアヤメを見上げたが、アヤメはふいっと視線を逸らした。


「買い物は終わったな。だが、まだ時間はある。これから、何かしたいことはあるか?」


 もう少し時間を潰そうというアヤメの提案に、他の者達は考え込んだ。


「私は、特にございません」

「ロロちゃんは治癒院とか行かなくて良いの?」

「えっと、最終日に来ればいいとジェシカ様が……」

「俺達ももう、用事は無いですね」

「うむ。だが、この際に行ける場所というのは行っておきたいな。今すぐには思い浮かばないが……」

「私も~。皆に任せる~」


 結局、ミサキ達からは特に意見は出てこなかった。それを確認したアヤメは、ニヤッと笑みを浮かべる。


「そうか。じゃあ、ここからは俺が行きたい所に行くとしよう。ついて来てくれ」


 そう言って、アヤメは皆を促し、百貨店から離れていく。不思議そうな顔をしながらも街中を歩いていくミサキ達だったが、向かう先に何があるのか勘づいたミサキは、なるほど、と頷く。


「あそこに行くんだ~。アヤメさん、準備は?」

「問題ない……ああ、今日は俺だけで挑むつもりだったが、“魔法帝”はどうする?」

「じゃあ、私もアヤメさんに続くよ。皆は準備が出来てないからね~」


 楽しそうに話す二人を見ながら、ロロ達は首を傾げる。

 そして、二人は皆の前で、それぞれ身体能力を上げたり、魔法の威力を上げる装飾品を身に着けていき、ミサキに関しては自身の得物である魔導神杖を取り出し、更に能力向上の効果付与がされている十二星天のローブまで取り出した。


「み、ミサキ殿、これから何があるのだ?」

「ふふん。偶には師匠らしく、私のカッコいいところも見せないとね~」

「俺も偶には暴れないと腕が鈍るからな……」


 これから行く場所で何をするのか……やけに楽しそうな二人を見ながら、ロロ達は更に首を傾げたが、向かう先に見えてきた建物と大きな看板を見て、言葉を失った。


 大きく強固そうな門の先に、アヤメの邸宅ほどの、巨大な城のような建物がある。造りはクレナで見るようなものだ。

 そして、門には「武王會館」と大きな文字で書かれており、龍や獅子などの彫刻が施されていた。


「アヤメ様、こ、こちらは……」

「見ての通り、爺いが設立した武王會館だ。ここでは日夜、人界を強く生きる為の修練が行われている。ツバキもここの出身だったな」

「そ、それは分かりますが……何故、刀を……そして、何故、気を込めているのですか!?」


 不敵な笑みを浮かべながら、アヤメは刀を抜き、気を貯めていく。ふと見ると、横のミサキも幾つもの魔法陣を展開させ、魔力を込めていた。門の前で臨戦態勢をとる二人に慌てるロロ達に、二人はニコッと笑った。


「ここに入るにはね、普通に入る方法と、「常時道場破り上等」って方法があるの」

「な、何ですか!? その、聞くからに危険そうなものは!?」

「早い話が、腕試ししたかったら、まずアダマンタイトで出来たこの門を叩け、そしたら、門下生と師範代、そして、“大師範”の爺いが相手になってやるって話だ」

「き、危険じゃありませんか!?」

「だいじょーぶ! 周りに被害が行かないように、私も調整するから。あ、ハクビさんは好きそうだったね。ごめんね~」

「む、い、いや、構わない。私達は下がっておくから、ミサキ殿、アヤメ殿、ほどほどにな」

「ロロちゃん、怪我したらお願いね……」


 オロオロするロロとウィズと共に、安全な場所へ移動するハクビとレイカ。ロロとウィズは普通に入りましょうというが、この状態のミサキとアヤメにはそれは通用しないと早い段階から悟った二人。

 少しだけ残念だなと思いつつ、十二星天同士の手合わせには加わりたくないと感じ、ハクビとレイカは少し離れたところで、二人を護るように立った。


 皆が避難したことを確認し、アヤメとミサキは技を放つ準備を体勢をとる。


「じゃあ……準備は良いか!? “魔法帝”! 初手からかますぞ! 偶像術・花鳥風月!」


 アヤメが刀を掲げると、今度は四本腕の鬼神が姿をあらわし、それぞれの腕で持った刀を振り上げた。


「本音を言うと、ムソウさんともやりたいけど、それはいつか……今はよろしくね、アヤメさん! 龍言語魔法・洪水嵐舞(デス・テンペスト)


 アヤメに応えるように、ミサキが杖を掲げると、展開されていた魔法陣が一つに統合し、激しい風と雨を巻き起こす巨大な雲が出現した。


 その時だった。門の上部に取り付けられた、拡声器から慌てた様子の声が聞こえてくる。


『ちょ、ちょっと待て! お前ら、もてなすから普通に――』

「「問答無用!」」


 サネマサの声を無視し、アヤメは刀を振り下ろし、四つの属性を纏った斬波に、自らの斬波を合わせた奥義、四神陽光大斬波を放ち、ミサキは雲から巨大な竜巻と嵐を巻き起こす突風を門にぶつけた。

 アヤメの奥義で凹み、ミサキの龍言語魔法で押された門は、接合部が外れ、内側に倒される。


 流石に砕けなかったかと、アヤメとミサキが笑いながら入っていくと、拡声器から、再びサネマサの、今度は怒声が聞こえてくる。


『あ゛~~~!!! 高いんだぞ、この門! ふざけんな! お前ら、覚悟しろ! そっちがその気なら、たっぷり相手してやる!』


 サネマサの声が終わった途端、二人めがけて気や、気で強化されたり、魔法を帯びた矢、更に斬波が飛んできて、二人を襲う。


「天岩戸!」


 しかし、ミサキが結界を出現させ、その全てを弾いた。


「行くぞ!」


 そして、アヤメはそこから飛び出し、気を纏いながら武王會館の建物に突っ込んでいく。すると、雄たけびを上げながら、建物の中からぞろぞろと武器を構えた者達が飛び出してきた。


「向かってくるのはアヤメ様一人だ! 遠距離部隊はそのままミサキ様を狙え! 近接攻撃部隊は隊列を――」


 師範代の証である鉢巻を付けた男が、手勢を率いてアヤメに向かってくる。得物は短槍で、他にも剣、刀、短刀、鉤手甲、鞭、鉄扇、槍、金槌、両手剣、細剣、円月輪、トンファー、偃月刀など、多種多様な武器を手にした者達が隊列を組み、アヤメやミサキに構えていた。

 アヤメは不敵な笑みを浮かべて、偶像術の力を以て、指示を出している男に斬りかかる。


「ウラアッ!」

「む!? グハッ!」


 不意を突かれた短槍の男は、質量と衝撃に負けてそのまま吹っ飛んでいく。指揮官を失い、浮足立つ短槍部隊の若者たちは、次々にアヤメに切り伏せられていった。


「ハアッ!」

「む!?」


 安心したのも束の間、今度は細剣を持った女が間髪入れずにアヤメに突進してきた。その動きは速く、刀を使って逸らすのがやっとだった。


「面白い奴も……って、ルチアか。道理で……」


 アヤメに襲い掛かってきた女は、アヤメと同世代だが、未だ衰えは見せないレイピア使い、ルチアという女剣士であり、アヤメとは旧知の仲である。そして、ツバキが武王會館に居た際の師範代でもある。

 刃を合わせながら、ルチアはアヤメを強く叱責する。


「アヤメ様! 尋ねられるのでしたら、もう少し穏便に出来ないのですか!?」

「相変わらず偉そうに……だから、隙だらけだぞ!」


 アヤメは一瞬の隙を突き、細剣を掴むルチアの腕を掴み、自らの体に引き寄せるとともに、腹に膝蹴りを入れた。


「ガハッ……ひ、卑怯な……アヤメ様も剣士の端くれなら……」

「お前はもう少し汚い戦い方を覚えた方が良いな。まあ、領主が言うことじゃないかも知れないが……」

「け、剣士とは常に、正々堂々とするもので……」

「何でお前が爺いの元に居るのか未だに分からない……やれやれ」


 一つため息をつき、アヤメは地面を蹴り、後方で控える他の部隊に駆けていく。

 アヤメの言うように、ルチアはサネマサの弟子とは思えないほど品性が整っていて、細剣の他に作法なども教えている。ツバキの綺麗な所作や姿勢は、彼女の教えによるところが大きい。本来なら騎士に居そうなものだが何故、と首を傾げたが、後で確認しようと思ったアヤメは、態勢を立て直した武王會館の門下生と師範代を相手取る。


「一人はキツイ……か」

「観念するのだ、アヤメ様! 今なら、大師範も門の事は――」

「偶像術・奥義・天栄王!」


 アヤメは刀を掲げて刀精を出現させる。今度は、ケイロン家で見せた、四属性を宿す四体の鎧武者だ。この技は、ムソウの光葬針のように、アヤメと、刀精であるタカナリの意志のまま、それぞれが敵と自動的に闘うというものであり、多勢と相手する時には丁度いい技だった。


「お手伝いするよ、アヤメさん! 影分身! と、魔封結晶!」


 孤軍奮闘するアヤメに援軍をと、ミサキは、火、地、水、風、光、闇、全ての魔力を込めた六面体の結晶をそれぞれ出現させ、更に、自身の分身体を八体出現させて、武王會館の者達に相手取らせた。

 ムソウとの闘いから、あらゆる面において強化された結晶と分身は、一体が超級以上の力と、耐久性を宿している。

 生半可な力では傷付けることも出来ず、師範代はまだしも門下生達は魔法によって次々と倒れていく。


「ハアッ!」

「アヤメ様、お覚悟!」


 アヤメは一人で師範代二人を相手取る。偃月刀を持った男と、徒手空拳で闘う女拳闘士を相手に、刀でいなし、鞘で受け止めながら、攻撃が届かないように躱していく。


「ふむ……師範代は、副支部長くらいの力はあるか……技術面は、支部長からそれ以上……冒険者で言えば、異名持ちくらいの実力か……」


 闘いながら、武王會館の戦力を計っていく。門下生はせいぜい駆け出しの冒険者から、中級依頼をこなせるくらいの実力を持つ者が多い。師範代は、超級くらいなら数人で相手できると考えているが、流石に支部長よりは弱いと感じた。

 それでも、これだけ多く、強い人間が居ることは喜ばしいと思い、少し、気持ちが高揚してきた。


「フッ!」

「む!? ガハッ!」

「炎指弾ッ!」

「ぐっ……!」


 男が偃月刀を振り上げた瞬間、腹に一撃入れ、間合いを取った女に向けて、指から炎のつぶてを飛ばした。男は前のめりに倒れ、女は顔を護りながら後ずさる。

 アヤメは、男の足を引っかけ、そのまま一本背負いの要領で、男を女の方に投げ飛ばした。


「うおっ!? ガハッ!」

「キャッ!」

「お前らも……だな。形式にこだわらない戦い方をもう少し覚えた方が良い。少なくとも、爺いはもっとえげつないことをすることもあるからな」


 同い年くらいの師範代たちに上から目線で、闘い方を指摘することに若干の違和感を抱き苦笑いする。

 しかし、思ったことをはっきり言わないと、武王會館の者達も強くなれない。邪神族の襲来までに出来ることはやろうと、自分が生み出した偶像術が手こずっている次の師範代に、「指導」しに向かおうとした。


「そこまでだ! アヤメ!」


 その瞬間、アヤメは誰かに声を掛けられて立ち止まる。声のする方を見ると、武王會館の屋根の上に、刀を抜いたロウガンが立っていた。


「お、一番弟子が登場か。お前を倒せたら、爺いが出て来るってことで良いのか?」

「そう簡単にはやられん! お前ら退け! 俺も新技ぶちかますぜ!」


 ロウガンの言葉に、アヤメ達と闘っていた武王會館の師範代に門下生たちは離れていき、結界を張った。深追いせずに、アヤメも偶像術を解き、ロウガンの技への対抗策を準備する。


「ハアアア~~~!!!」


 ロウガンは二本の刀を片手ずつに持ち、頭上で回転させる。すると、右手の「夏至」からは炎の竜巻が立ち上り、左手の「冬至」からは、強烈な冷気をはらんだ竜巻が立ち上っていった。


「そいつは……ムソウの技か!」

「その通り! 喰らいな! 双龍刃(そうりゅうじん)ッッッ!」


 ニヤッと笑ったロウガンは二つの竜巻を一気に落としてきた。どちらかの竜巻に対処できても、もう一方の竜巻が襲ってくる。アヤメの装備は、耐火に特化している。

 強い冷気を放つ竜巻に対応しようと、花鳥風月に大きな炎を纏わせた時だ。


「アヤメさん、下がって! 私が防ぐ!」

「む! 任せた!」


 即座にミサキがアヤメの側に来て、両手を竜巻に向けた。


「天岩戸!」


 ミサキとアヤメを囲うように、強力な結界が張られて、ロウガンの竜巻を防ぐ。ロウガンは、刀を持ち直しながら、不敵な笑みを浮かべた。


「む……ミサキ様を忘れていたな……これは……私達も共闘と行きましょう」

「おう!」


 ロウガンは刀をそれぞれ逆手に持ち、頭上で回転させた。

 その直後、サネマサの声が聞こえてきて、一つの影が、ロウガンの頭上まで跳び、そこで止まった。


 アヤメとミサキはとうとう現れたサネマサを見て、ゴクッと唾を呑み込む。


「来るぞ、“魔法帝”。いよいよ、本番だ」

「うん。気合入れなきゃ……アヤメさん、破られたら、任せちゃっていい?」

「ああ。自信は無いがな……」


 ミサキの無理な頼みに、アヤメは苦笑いしながら、刀に気を貯めていく。ミサキは、ロウガンの頭上に浮かび、刀を抜くサネマサを見据え、障壁の強度を上げていく。


「えへへ……サネマサさん、怒ってる?」

「……まあ、あの決まりは俺が作ったからな。文句は言わねえが、弁償しろとは言いたいな」

「それ、文句だよ。うーん……じゃあ、私の結界を破壊出来たら新しく作り直してあげる~」

「余裕だな。今から金の心配してろよ、“魔法帝”。若え女は、すぐに無駄遣いするからな~」

「あちゃ~、“武神”さんにお金の心配されちゃった~。クレナには“伝説のカモ”って人が居るけど、そっちを心配した方が良いんじゃないの~?」

「「アッハッハッハッハ!」」


 ロウガンが起こす竜巻が大きくなり、冷気と熱気がサネマサを包んでいく。アヤメはジトっとかく汗を拭いながら更に気を貯めていく。

 その中で、サネマサとミサキは、大声で笑い合っていた。いつものように、楽しそうに軽快に、腹を抱えて笑い合っている。


 ロウガンは頭上から強い圧迫感を、アヤメはすぐ隣から強大な魔力を感じ、同時にため息を吐く。


 その瞬間、サネマサとミサキは同時にキッと互いを睨みあう。


「言ってくれたなあ、ミサキ! 後悔すんなよ! ロウガン、思いっきり俺をぶつけろ!」

「は、はい! 奥義・双龍滅波(そうりゅうめっぱ)ッッッ!」

「乙女の楽しみをけなした罪は重いよ! 女の意地、見せるから!」

「やれやれ……偶像術・花鳥風月、奥義・天栄王ッッッ!!!」


 ロウガンが作り出した大きな竜巻に合わせて、サネマサはその中で両手を広げて回転する。ロウガンは竜巻ごとサネマサをミサキ達にぶつけた。凄まじい冷気と熱気と共に、竜巻の中からサネマサが連撃を与える。

 ミサキは結界を張りながら、片手で龍言語魔法の魔法陣を形成し、結界が崩れた後の準備を始める。

 結局、自分でやるのかと思いつつ、アヤメも偶像術を使い、四本腕の鬼神を出現させた。

 斬波を放つ態勢をアヤメが整えた瞬間、ミサキの結界にひびが入った。


 ―天岩戸を破る……か。爺いはまだしも、ロウガン……やはり、未だ衰えは見せないな……―


 サネマサの一番弟子として、どこまで強くなるのか、少なくとも自分ではまだ敵いそうにないなと諦めた気持ちになるも、そういう意味ではこの状況に、ミサキが居ることが大きな頼りになるとアヤメは笑みを浮かべる。


 一方ロウガンは、竜巻をぶつけながらも、結界内のアヤメの偶像術を眺めながら、ニッと笑った。


 ―口だけ……じゃねえな、ありゃあ……刀の方にもまだまだ可能性がある分、アヤメもまだまだ強くなる……か……―


 ロウガンは、支部長の中はもちろん、騎士団含めても、世界で強い部類の人間という自負はある。ムソウの登場や、自信が呪いに掛かったという事実もあり、確かに若干の自信が無くなったこともあったが、油断していると追いつかれ、抜かれる事もあると気付き、自己鍛錬を続けている。

 サネマサが共に闘っていることも大きいが、そのおかげで、ミサキの結界は突破できそうだが、その後はイチかバチかだと、ロウガンは苦笑いした。


「とどめ行きます! 奥義・双龍壊砲(そうりゅうかいほう)ッッッ!」


 ロウガンは更に刀の回転を上げて、竜巻の威力を増すとともに、サネマサの背中に強いい風をぶつけた。

 その勢いを受けて、サネマサは刀を振り上げる。


「突破するぞ! 奥義・獣王晩餐ッッッ!」


 サネマサが纏っていた気が獅子の形を形成し、巨大な牙を纏った刀を振り下ろすと、ミサキの結界が弾け飛んだ。


「終わりにするぞ! 奥義・四神陽光大斬波ッッッ! 合わせろ、“魔法帝”!」

「うん! 龍言語魔法・大神の(レイジ・オブ)雷鳴(・オリュンポス)ッッッ!」


 その刹那、アヤメと刀精が刀を振り下ろす。四つの斬波とアヤメの斬波が合わさり、巨大な斬波がサネマサに向かう。その勢いと威力を上げるためにミサキが斬波に合わせたのは、弱点が無い雷属性の龍言語魔法。

 アヤメの斬波は後方からいくつもの雷撃を放ちながら、雷と同等の速さで斬波はサネマサにぶつかった。


「ぐうっ! くっ……!」


 体中に電撃が走り、痛みに悶えるサネマサだったが、それに耐え抜き、不敵な笑みを浮かべた。


「じ、ジロウに……比べりゃ……大した事、無えんだッッッ!!!」

「げっ……やばい! “魔法帝”! 防御か回避――」

「間に合わな――」

「終わりだ! 奥義・十二天大斬波ッッッ!!!」


 アヤメの斬波を耐え抜き、切り伏せた後、サネマサはジゲンの得意技である「六道斬波」を、二本の刀から放ち、計十二発の斬波をアヤメとミサキに一気に降らせた。防御の構えをとる二人だったが間に合わず、アヤメの手から花鳥風月が、ミサキの手から魔導神杖が離れていき、地面に転がる。

 動こうとするアヤメにロウガンが一気に近づき、首筋に刃を当てた。


「流石に……もう、終わろうぜ。これ以上やると後始末が……な」

「チッ……まあ、良い。俺は楽しめたからな」


 アヤメの言葉に、ロウガンは頷き、刀を引いた。その隙をつき、アヤメがロウガンの胸を軽く拳で打つ。

 そして、フッと笑うアヤメに、ロウガンは、やったな、と笑みで返した。

 ふと見ると、座り込むミサキにサネマサが刀の切っ先を向けていた。


「はあ、はあ、はあ……約束通り、門の修繕費はお前持ちだからな」

「はいはい、わかりました~。あ~、楽しかった!」

「やれやれ……ついでに庭も直してくれよ。こういうのはお前が得意だろ」

「分かってるって! ちょ~っと待っててね~!」


 そう言いながらミサキは、闘いで荒れ放題となった武王會館の庭の修繕を始めていく。

 すると、外に避難していたウィズ達も敷地内に入っていき、ミサキを手伝っていく。ハクビはロウガンと共に、ミサキから薬を受け取り、武王會館で怪我を負った者達に、その薬を渡していった。


 それを横目で見ながら、サネマサはアヤメに近づいて来る。


「……で、結局何の用だ?」

「気晴らしも兼ねて、腕が鈍らないようにな」

「そうか……楽しめたか?」

「そりゃあまあ、そこそこに」

「なら良かったが……俺はまだまだだな。お前とミサキに手こずるようじゃ、ジロウとムソウが一緒に来た時が困る」

「二人一緒にここに来るように仕向けてやろうか?」


 それは困るな、という気持ちをサネマサはぐっとこらえた。


「じょ、上等だ。返り討ちにするからかかって来い!」


 その言葉を聞いたアヤメはフッと笑った。


「言質取ったぜ」


 そう言って、アヤメは煙管を取り出し、煙をくゆらせ始める。サネマサから、ここは禁煙だと言われたが無視した。


「傷は私が治します!」


 ふと目を向けると、ロロが、アヤメが倒した師範代を中心に、次々に回復魔法をかけて、傷を癒していた。

 庭中を走り回るロロを見ながら、向こうも楽しんでるなと、献身的なロロを見て毒気を抜かれたサネマサと共に笑っていた。


カタカナ語が使える幸せ、感じて、風になりたい……

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