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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
世界が動く
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第365話 天上の儀 ―支部長の飲み会に誘われる―

 廊下を進んでいくアヤメとサネマサ。会議の事を話しているが、サネマサはふと、アヤメの部屋とは違う方向だという事に気付き、首を傾げた。


「なあ、どこに向かってんだ?」

「ロロの部屋だ。今日この後、ジャンヌ達に食事に誘われてな。ムソウの事を詳しくって言うから、アイツも連れて行こうかと……って、どうした?」


 事情を説明していたアヤメだったが、サネマサがポカンとした顔になっていることに気づき、口を止めた。


「え……アヤメが、誘われた……? クレナ以外の奴に!? アヤメが!? 本当か!?」

「何だよ……? そう言ってるだろ」

「アヤメが……そうか……良かったなあ~、アヤメ~!」


 突然、満面の笑みになったサネマサがアヤメの頭に手を伸ばす。


「おっと!? 何すんだ!」


 慌ててその手を払いのけるアヤメに、サネマサは興奮したように口を開いた。


「いや、だってアヤメが食事に誘われるなんて今まで無かっただろ!? 良かったな~! アヤメにも友達が出来て」

「ガキみたいなこと言ってんな! そんなんじゃねえよ。ただの親睦会だ」

「お前と親睦しようと思った奴らが出て来たのか~。良かったなあ~。ジャンヌの他には誰が居るんだ?」

「気持ち悪ぃ……他は、レオニクス、ガーレン、レックス、それに、今度ムソウが世話になるはずのギャッツと、ロウガンだ」

「お! ロウガンも居るのか。いつもは仲悪そうなのに、今日は息ぴったりだったもんな……そうか、良かったな~アヤメ。俺も行って良いか!?」

「何で、爺いが……皆恐縮するだろ。にしてもさっきから何だ、気持ち悪い。そろそろそれ、辞めてくれ」

「そうか……やっぱり駄目だよな。お友達同士で遊んでいる中に、保護者が入っていくのは、駄目だよな……分かった。今日は諦め……る……」

「聞いちゃいねえ……」


 まるで娘の成長を祝う親のように、急にデレデレするサネマサ。正直、かなり面倒くさいとアヤメはため息をつく。これは、後で叔父貴に報告し、サネマサを叱るように仕向けると決めた。

 親睦会に来ることを諦めると言ったものの、どう転ぶかは分からない。くれぐれも来るなと念押しし、更に進んでいく。


 そして、ロロの部屋の前に到着し、サネマサが落ち着いたことを確認し、戸を叩いた。


「は、はい! どちら様ですか?」


 少し慌てた様子のロロの声が返って来る。これだけでも、何となく癒されるなと思い、返事をした。


「クレナ領主アヤメだ。入っても良いか?」

「あ、アヤメ様! どうぞどうぞ」

「俺も居るが、良いか~?」

「え!? 今日はサネマサ様も!? はい! ぜひ、お入りください!」


 扉から、ガチャっと鍵が開く音が聞こえて、アヤメは扉を開いた。

 すると、中でニコッと笑い、ロロが二人を出迎える。


「アヤメ様、サネマサ様、お疲れ様です。今、お茶を淹れますので、少々お待ちください」


 そう言って、ロロは二人を促し、椅子に座らせた。ミサキや初対面のギルド支部長達と違い、同じ十二星天と言えど、既に顔見知りであるサネマサにはいつもと同じ対応をしている。

 クレナに居る頃と変わらない空気感に、アヤメもサネマサも、どことなくホッとした気分となり、今日の会議での疲れが一瞬にして吹き飛んだ。

 二人はおもむろに、ロロの頭を撫でる。急に撫でられたものだから、ロロは困惑した。


「あ、あの……何か?」

「気にすんな……お前は良い奴だな……」

「ああ……嬢ちゃん、ムソウのとこでも、ジェシカのとこでも頑張れよ~。俺も出来得る限りの協力はするからな……」

「は、はあ。ありがとうございます……?」


 たまやリンネなら分かる。しかし、何故、目の前の二人は、自分を撫でて癒されているのか。

 普段から、「可愛いもの」を弄繰り回して癒されているロロも流石にそこまでは分からず、首を傾げていた。


 やがて、落ち着いてきた二人はロロに、一応、今日の会議で起こったことを話していく。

 しばらく二人に頷いて聞いていたが、結果的に、ムソウの今後を勝手に決めたことに関しては、ロロも怪訝そうな顔をした。


「頭領は、そういうの嫌いそうですね……ですが、それでアヤメ様に危害を及ぼすことはしないと思いますよ?」

「そういうものか?」

「はい! 頭領は優しい方なので。文句は仰ると思いますが、それでアヤメ様やサネマサ様をお恨みになることは無いと思います」

「優しい……まあ、そうだな。ムソウは優しい奴だよ……な」


 歯切れが悪いサネマサに、ロロはクスっと笑う。


「昔のジゲンさんと同じです。周りから誤解されますが、よく知っている人は、知っているものです。それにお二人に共通することですが、普通に暮らす方々に悪影響な人達の事は決して許さない性分ですので、案外、モンクあたりで海賊団の事はすでに聞いていて、シロウさん達の祝言が終わった後にでも行こうかな、と今頃考えてらっしゃるかも知れませんよ」


 ロロの言葉に、アヤメとサネマサはハッとする。確かにモンクも、海賊の被害に遭っている領の一つでもあるし、襲われている多くの船は、モンクでムソウやツバキと共に事件を解決したリエン商会のものである。

 ムソウがリエンと懇意の仲になったという事はガーレンから聞いていた為、ロロの言うように、既にムソウはリオウ海賊団について知っているかもしれない。

 懇意にしているリエンが困っていることを聞いたムソウはすでに海賊団への対策を考えている可能性が出てきた。


「なるほど。そういう事なら、俺達が怒られることは無いかも知れないな」

「ああ。それに、いきなり相手するんじゃなくて、充分に用意させることも出来る。ひょっとしたら、本当に殲滅できるかもな。やれやれ、お前があんなこと言うから、失敗したらどうしようかと思っていたぞ」


 などと言いながら安堵する二人に、ロロは、あ、と言って口を開く。


「ですが、何か思惑があっても言わない方が良いですよ。頭領、そう言うのはかなり嫌いますので。まして、王都が関わっているというのは……」


 その言葉を聞き、二人は、一瞬冷静になり、コクっと頷いた。


「そう……だな。ムソウの懇意に、王都がそうさせたって言うわけにはいかない。このことは黙っておこう」

「その気が無かった時は素直に話そう。ジロウもそうだった。正直に言えば、分かってくれる……はずだ……」


 再びため息をつきながら肩を落とすサネマサを見ながら、面白い方だなと、ロロは微笑んだ。


「頭領には、海賊の被害に詳しいツバキさんも……っと、そう言えば、ツバキさんについては何か決まったのですか?」


 モンクの事件については、ムソウの事についてはもちろん、それを解決したツバキの事についても書かれていた。

 EXスキルの事についても書かれており、支部長達は驚いたが、だからと言ってツバキ自身は騎士の一人であり、今後もその一員として活動する為、ギルドで決める話では無いというガーレンとジャンヌの言葉もあり、ツバキについては明日以降の騎士団、領主の会議で決まるとのことだが、ムソウのように何かをしたわけではないので、何も無いだろうと、アヤメは笑っていた。


「EXスキルについては殆ど曖昧なものだからな。迷い人以外でもその力が発現する可能性が出て来たという話で一応は締められたから、特に問題はないだろう」

「ちなみに、邪神大戦について、渡された資料にはエイシンやタカナリ様の事は書かれていたが、ムソウとの関係については、人界王含めて何も書かれていなかった。これについては、シンキも今知っている奴ら以外には秘密にする様だ。俺達も気を付けないとな」

「あ、はい……ちなみに、このことを知っている方は、闘鬼神やあの日、祠に行った人他達以外で知っているのはどなたですか?」

「今の所、あの日あの場に居た奴ら以外に、俺はショウブ達には話しておいた。流石にムソウに関わっていたり、俺達の先祖ってことになると、あいつ等には言っておかないとな」


 つまり、クレナの関係者くらいしかムソウと邪神大戦の関連性について知らない。自分が下手なことをしなければ、大丈夫だという事を確認し、ロロは二人に頷いた。


「頭領やツバキさんを護る為に、私達が出来ることもあるのですね」

「そういうことだな。あと、お前に出来るのは、ムソウに変な疑いを掛けさせないようにするため、不評を改めたり、良い噂を広めたりすることくらいか……」

「それは上手く出来る自信はありますよ。口は上手い方だと自負していますので」


 胸を張るロロに、アヤメはニカっと笑った。その顔を見たロロは、ぴくッと身を震わせる。


「ど、どうしました……?」

「いや、べつに。ところで、ロロ、相談があるんだが……?」

「何ですか……?」

「これから暇か?」


 アヤメの問いに、ロロは首を傾げる。


「そ、それはまあ、これから夜ですし、もうシャワーは浴びたんで、後は夕食を食べて、寝るだけですので暇と言えば暇です。明日の為に早く寝たいと思っておりますので……」


 翌日は、ミサキ達と共にロロは街に出る日だ。アヤメも付き添いで出向くこともあり、それを楽しみにしているロロは、しっかりと準備して、いつもよりも早く寝たいと思っている。

 しかし、そんなロロの言葉を聞いたアヤメは、ニヤッと笑いロロの腕を掴んだ。


「ひ! な、何ですか!?」

「なら、話は早い。これからロウガン達と会食だ。で、さっき言ったように、コクロの支部長、ギャッツがムソウが領に来ることに関し、戦々恐々としている。そこで、お前からムソウがどんな人間か説明してやれ」

「え!? ちょ、ちょっと、そんないきなり……」

「大丈夫。俺も居るし、ムソウと関りがある奴らも数人居るから何とかなるだろ。というわけで行くぞ」


 そう言うや、アヤメはロロの腕を無理やり引っ張りながら立ち上がり、昨日と同じく強引にロロの肩に腕を回した。


「い、いえ、私は明日の準備を……」

「皆、“聖母”の弟子であるお前に一目置いている。いい機会だ。ここで、色んな支部長とも仲良くなっとけ」

「あ、あの! 話を! さ、サネマサ様、助け――」

「じゃあ、アヤメ。俺は侍女達に事情を話しておく。ロロの飯もお前の部屋で良いんだよな?」

「ああ。ついでに、ジェシカにも一言伝えておいてくれ」

「りょ~かい。じゃあ、ロロ。楽しんできな」

「あの! 私の話を……!」


 ロロの声は空しく、廊下に響くだけ。

 昨晩と同じく、しばらく駄々をこねながら廊下を進んでいったが、スッキリとしたアヤメの顔と、どう足掻いても振りほどけない状況にさっさと諦めてしまい、やがて大人しくアヤメについていった。


 ◇◇◇


 部屋に着くと、アヤメは部屋着に着替え、ロロは人数分の椅子を引っ張り出し、会場の準備を整えていく。


「そんなの、侍女にやらせれば良いだろ。お前もゆっくりしてろよ」

「……慣れてますので」


 プイっとアヤメから顔を背けるロロに、アヤメはため息をつく。


「怒るなよ……」

「怒ってません。緊張しているだけです」

「良い経験になると思ったんだがな~」

「でしょうね。私も楽しみです」


 椅子を並び終えて、ロロはアヤメの隣にドサっと座る。不機嫌そうな顔のロロを、アヤメはため息をつきながら頭を撫でた。

 するとロロは、不貞腐れた顔を段々と緩ませていき、アヤメの体に自分の顔を埋める。


「うぅ~……酷いですよ~。アヤメ様、完全に私で遊んでませんか?」

「そんなことねえよ。今回の天上の儀は少しだけ楽しいってだけだ。今まではこんなこと無かったからな」

「そうなんですか?」


 顔を上げるロロに、アヤメは照れ臭そうに頷いた。


「ああ。俺の事は知っているだろ? いつも会議の場を荒らすから、他の奴らが困ってるって。それでついたあだ名が“暴れ姫武将”ってことを。そんな俺に、こうやって誰かが会食に誘ったり、昨日みたいに仲良くして貰ったりなんて、今まで無かったんだよ」

「で、ですが、今までは領内に問題が……」


 ロロの言葉に、アヤメは寂し気な顔をして頷く。


「……結構、クレナ以外の領でも、それなりの問題があったってことが、今回の天上の儀で分かった。俺みたいに、他の領の話を聞かず、自分の事ばっかり言ってたら、やっぱり駄目だったってわけだな」

「でも、アヤメ様は領主様ですし……」

「だからこそ、出来ることもあっただろう。他の領と協力して互いに事に当たることも出来たかも知れないのに、俺はそれをしなかった。色々あり過ぎて、出来るわけ無えと決めつけていたんだろうな。

 まあ、それがお前らんとこの頭領により、クレナの問題事が片付いた今となっては、他の奴らの話にも耳を傾けることが出来ている。何だか、ようやく領主にも、支部長にもなれたって気がしてな……今回の天上の儀は、何ていうか、楽しいんだ……」


 フッと笑みを浮かべて、ロロの頭をくしゃくしゃと撫でる。


 ケリスが仕組んだ魔物の増加、貴族達の横暴的政策、極めつけは、牙の旅団の全滅……壊蛇襲来後も様々な問題が、アヤメに襲い掛かっていた。さらに言えば、ロロもその渦中に居た人間である。

 もう少し、他と連携出来ていれば、ムソウが居なくとも、ロロのような者達も助けることが出来ていたかも知れないと、アヤメは後悔していた。領主の権限で、モンクのように職業斡旋場を設置することも出来ただろうし、支部長として、冒険者の身元を保護することも出来たかもしれない。そこから、他の領で人手不足のギルドに、保護した冒険者を派遣することも出来たと、今考えれば、解決策も次々と浮かぶ。


 それだけの余裕が無かった。他の領の事について考える余裕も、他の人間と何が出来るかなど、アヤメの頭の中には、そう言った考えがまったく浮かばなかった。


 しかし、クレナでの問題事をムソウが解決し、ロロ達闘鬼神も、各地の魔物被害を抑え、叔父であるジロウがクレナに帰り、続いて牙の旅団とサネマサもアヤメの元に帰ってきたことにより、アヤメの心にも余裕が生まれた。

 そんな状態で臨んだ今回の天上の儀では、自分の意見だけではなく、他の領の支部長の話に耳を傾け、邪神族や転界教という共通の敵を見据えた話し合いが出来た。


 未だ、不安な部分は多いが、領主会議でも、有意義な話し合いが出来る。今日はその為に、もう少し他の支部長と話すことが出来ると、アヤメはロウガン達が来るのを楽しみにしていた。


 満足げな顔のアヤメに、ロロはやれやれとため息をつく。


「結局、私はアヤメ様を楽しませるだけの存在なのですか?」

「俺は、お前を楽しませようと思っているが?」


 自分だけでも精いっぱいだったアヤメは、今回は余裕があるという事で、他人も愉しませようと考えていた。

 ロロは、しばらく考え込んだ後、苦笑いしながら頷く。


「まあ……楽しくなくはないです……」

「ややこしい言い方だな。さっきも言ったが、今回集まるのは、ムソウがあったことある奴らも居る。帰って、頭領さんに自慢してやれ」

「それ、良いですね。初めて頭領に勝った気がします」


 ニコッと笑うロロ。最初は、花街の浮浪者だったが、あの時何も出来なかった謝罪と共に、よくぞここまで元気に、そして、立派になってくれたという感謝の意味も込めて、アヤメはロロの頭を撫でた。


 その時、部屋の戸を叩く音が聞こえ、外からジャンヌの声が聞こえてくる。


「アヤメ殿。取りあえず私と、レオニクス殿、そして、レックス殿から参ったが、入っても良いか?」

「ああ。面白い奴も居るし、入っても良いぞ」


 アヤメがそう答えると、部屋の扉が開かれ、ジャンヌ、レオニクス、レックスの三人が部屋に入り、アヤメの隣に居たロロに視線を移した。


「ん? お前は確か、“聖母”様の弟子の……」

「あ、はい! 闘鬼神ロロです!」


 ロロはスッと立ち上がり、自己紹介をする。ジャンヌ達はふむ、と頷き、二人に近づいていった。


「何故、ロロ殿がここに?」

「ムソウの事知りてえんなら、コイツも居た方が良いと思ってな」

「なるほど。しかしロロ殿はまだ、子供だろう? 酒は飲めるのか?」

「えっと……苦手です」

「ふむ、私もだ。貴殿とは仲良く出来そうだ」

「せっかく、ゴルド産のワインを持ってきたんだがな……」

「チャブラのワインもあるぞ。酒精は低いから、少しは呑むんだぞ」


 フッと笑みを浮かべるジャンヌの傍らで、レオニクスとレックスは酒瓶を取り出し、ロロに見せつける。

 そこまで酒が好きではないロロは、せっかく持ってきてくれたのならと思い、オロオロとしながらレックスに頷いた。

 すると、ジャンヌがレックスにジトっとした目を向ける。


「おい、レックス。ロロ殿は酒が苦手だと申している。強制させるものではないぞ」


 ロロを擁護するように両肩を掴みながら、ジャンヌはレックスを咎めた。レックスは、軽く舌打ちをしながら、酒瓶を机に置く。


「じゃあ、ロウガンに飲ませるとしよう。酔ったあの人は面白いからな」


 そう言うと、すかさずアヤメが口を開く。


「あのおっさんを酔わせるな。ワイツも爺いも居ねえし、誰があいつを止めるんだ?」

「その時は、ガーレンに……」


 レックスがそう言いかけた瞬間、扉の方から声が聞こえてくる。


「やめろ」


 声のする方を見ると、いつの間にかガーレンが部屋の中に入っている。やれやれと頭を掻きながら、レックスの肩に手を置いた。


「俺だけに任せるな。アイツは一人じゃ手に負えない。酔わせるってんなら、お前も手を貸せよ」

「いや、俺は“聖母”様の弟子を護ってるから、アイツの相手はお前らがやってくれ」

「おいおい。ロロは俺が護るって決めてんだ。お前らは引っ込んで、ロウガンの相手をしてやれ」

「女性同士の方が、ロロ殿も安心するな?」


 ロロに伸びていくレックスの手を払い、アヤメがロロの前に立つ。続いてジャンヌもロロの肩を掴んだまま、そう尋ねた。


「えっ……と……」


 困惑しながらも、ジャンヌの言葉に思わず頷くロロ。そら見ろ、という顔でジャンヌがレックス達に視線を移した。

 ぐぬ、とレックスが黙ると、レオニクスがやれやれと言って口を開く。


「はあ……そもそも、あの男に飲ませなければ良いだけの話だ。これは片付けておくか?」


 そう言いながらレオニクスは酒瓶を片付けようとするがそれをアヤメが止める。


「いや、それは辞めてくれ。楽しみにしていたんだからな。こっちも上等の酒を用意してんだ。それは置いていけ」


 アヤメは、レオニクスから酒瓶を奪い、机に置く。

 そして、自分の荷物の中から「大銘水・極」と書かれた酒瓶を取り出し、ワインの酒瓶の横に置く。

 これで良し、と満足げなアヤメに、目を丸くしたジャンヌが近付く。


「アヤメ殿」

「ん? どうした?」

「そんなに、楽しみにしていたのか……?」

「……あ」


 やってしまったという顔で、アヤメは自分の口元を覆うが、時すでに遅し。支部長達はニヤニヤとしながらアヤメを見ていた。


「ほう……そんなに楽しみだったのならば、今日は我も羽目を外すとするか」

「いや、そういうわけじゃ……」


 全力で否定しようとするアヤメを無視し、レオニクスは懐の異界の袋から更にワインと、酒のつまみと言って、乾燥させた果物の盛り合わせを取り出し、机の上に置く。

 それを見た他の支部長達も続いて、懐から酒や食べ物を出していく。


「お、じゃあ俺はチーズの盛り合わせを追加だ。アヤメの為に盛り上げてやろう」

「レックス、違うって。俺の為に盛り上げなくても良い。寧ろ今日はギャッツの為に盛り上げてくれ」

「あいつらが来るまで少し時間がある。ロロ殿、モンクに居た間のムソウについて聞かせてやろう。あ、俺は魚介の干物と、珍味を持ってきた。食えるか?」

「あ、はい! 大好物です!」


 意外なものが好きなんだなと、少しアヤメが驚いていると、スッとアヤメの目の前にジャンヌがチョコレートを差し出す。


「私はこれを……アヤメ殿、いけるか?」

「何なんだよ、さっきから……甘いもんは苦手だな。カカオ強めの、少し苦めのものが良い」

「そ、そうか……ロロ殿は好きか?」

「はい! もっと好きです!」


 ロロが目を輝かせると、少し落ち込んだ様子のジャンヌも、明るさを取り戻した。ご機嫌な様子でロロにいくつかの甘いチョコレートを振舞い、ロロはそれを食べながらガーレンの話を聞いていた。

 アヤメも、モンクに向かったムソウの事は詳しく知らなかったので、ロロと共に耳を傾けていたが、事件については直接関わっていないガーレンの話は、やはり大したものでは無いと思っていた。

 しかしロロは、ムソウがモンクの冒険者達と交流を深めたという話に、目を輝かせる。


「頭領にもご友人が……素晴らしいですね」

「母親みたいなことを言うんだな。流石、“聖母”の弟子」

「あ、いえ、そういう意味ではなくてですね、頭領って、あの……強過ぎるじゃないですか。ご一緒に闘って下さると名乗り出るのも難しい方だと思っていますので……」

「まあ、そうだな。だが、ムソウは、身分を隠していたから、他の冒険者達も気兼ねなく接しているようだった。しかし中には、異名持ちの冒険者も居る。アイツの周りには強者が集まるようだな」


 そこまで聞いて、アヤメがふと思い出したように口を開いた。


「あ、そういや、クレナに“影無し”が来ていたな。アイツも、その口か?」

「みたいだな。まあ、ムソウが来るのと入れ違いにクレナに向かっていたから、関わることは少なかっただろう。今頃、クレナで再会してワイワイやってんじゃねえのか?」


 異名を持つ、名うての冒険者にムソウ。報酬を上げていることもあり、クレナを訪れる冒険者は確かに増え、そこにムソウも帰ってくるとなると、報酬の方も他の領に合わせた方が良いかも知れないと、アヤメは考え始める。

 帰ったらその辺りは確認するとして、思わぬところで今後に役立ちそうな情報を聞いたと、アヤメは微笑む。

 ロロは、自分達の頭領が凄い人と仲良くなったと喜ぶが、ガーレン達に、お前の頭領の方がよほどだと、揶揄われ恥ずかしそうにしていた。


 その時、扉を叩く音が聞こえて、外からロウガンの声が聞こえてくる。


「来たぞ。ギャッツも一緒だ」

「お、来たか。入れよ。お前らで最後だ」


 アヤメが返事すると、扉が開きロウガンに続き、ギャッツが入ってきた。ロウガンは、皆に囲まれているロロを見て目を丸くする。


「ん? ジェシカ様の弟子が、何でここに居るんだ?」

「ギャッツや皆にムソウの事を話すんなら適任だと思ってな。俺が連れて来た。おう、ギャッツ。コイツから色々と聞いておけ。ロウガンは、十二星天の弟子ってのがどういうものなのか、ロロに聞かせてやれ」


 アヤメの言葉に、ギャッツはうっすと頷き、ロウガンはやれやれと頭を掻いた。


「十二星天様の弟子になったからって、特に何も変わらねえって。まあいいや。え~っと、ロロだったか? 昨晩はあまり話せなかったが、改めてよろしくな。マシロギルド支部長、ロウガンだ」


 ロウガンに手を差し出され、ロロは慌てて立ち上がる。


「あ、はい! 闘鬼神ロロです! こちらこそ、改めてよろしくお願いします!」


 握手しながら深く頭を下げるロロを眺めながら、ロウガンは小さく頷く。


「闘鬼神……確か、ムソウの前の世界の……」

「え、はい。ご存じなのですか?」

「まあな。あらかた、話は聞いている。アイツも苦労したっていうな。お前もまだまだ若い。人界や城の事も大切だが、今はアイツの元で、力をつけていくというのも良いだろう。それは、アイツの為にもなる。頑張れよ」


 そう言って、ニカっと笑うロウガンに、ロロは強く頷いた。


「はい! これからは、私も頭領の“力”になります!」

「その意気だ。さて……で、何を話していたんだ? って、ん? おお、大銘水か! よくやったぞ、アヤメ……って、極って何だ?」


 ロウガンは机に置かれた大銘水の酒瓶を持ちながら、首を傾げる。ガーレン達は、これでロウガンが酔うことは殆ど決定したなと、レックスの肩にポンと手を置く。

 アヤメは、呆れたような目をロウガンに向けた。


「来て早々忙しい奴。爺いに似てきたな……流石」

「む!? それは、サネマサ様を侮辱しているのか!? アヤメ、昔からの付き合いだろうが、流石に――」

「そう思うなら落ち着けよ。お前の評価が、爺いへの印象にも関わってくるんだからな。それに、俺にとって爺いは爺いだ。叔父貴の友人のただのサネマサさん、だ。今更崇め奉る気にはなれん。で、何だ? その酒か? 少し品種改良に成功したようでな。出来が良いやつ順に、極、特上、上、並って分けてんだ。クレナの新しい特産だ。楽しんでくれよ」


 そう言いながら、もう一つの特産品である強壮トカゲを原料にした酔い覚ましを取り出す。

 サンチョとジェシカ、それにムソウの手によって生まれたその薬は、闘鬼神で重宝されている他、大銘水と合わせてクレナの特産品としている。収益は、領、闘鬼神に回されるほか、ムソウが訪れた強壮トカゲの養殖場の費用に充てられていた。

 これ、効くのかという顔のガーレンだったが、信じられないほど効きますというロロの言葉を聞き、そっと自分の前に置いた。

 ロウガンが暴れそうならこれを飲ませると皆で示し合わせて、支部長達は薬を手に取る。


 アヤメに言いくるめられたロウガンはぽかんとしていたがすぐに我に返り、アヤメに詰め寄る。


「お前なあ、そういうところだぞ。いい加減、自分の立場ってもんを――」

「お前の言葉を借りるなら、俺は支部長である前にクレナ領主だ。で、お前は支部長。俺は領主、お前は支部長……さて……立場、なあ?」

「ぐぬ……それでも、年配者ってもんを――」

「昨日も言っただろ。年齢だ何だで色々と決めようとするな。それから、これはあまり言いたくないが、支部長歴に関しては、お前より俺の方が長いってことを忘れたか?」

「あ……」

「え、そうなんですか?」


 支部長としてはロウガンよりもアヤメの方が長い。そのことを聞いたロウガンは、ハッとする。不思議そうな顔をするロロに、ジャンヌが頷いた。


「ああ。アヤメ殿は、レオニクス殿と私と共に、ギルド発足当時からの支部長で、ロウガンは、マシロでしばらく冒険者として活躍した後、支部長となった。だから、アヤメ殿も、レオニクス殿も、そして、私も冒険者としての経歴は無い」

「まあ、ジャンヌは騎士団としての功績があるからまだ良いが我やアヤメ殿は何も無いでな。冒険者に威を示すのが難しいのだよ」


 ため息交じりのレオニクスの言葉に、アヤメは反応する。


「いや、お前は数多くあるエルフの部族を一つにまとめた功績があるだろ。んで、“聖母”が解決するまでの間、領主と一緒にシルバからの疫病をゴルドで食い止めていたんだろ? それだけやれば充分だろ」


 アヤメがそう言うと、他の支部長達もうんうんと頷く。


 レオニクスは、長命種のエルフで実年齢は1000を超える。先代の人界王の頃より生き続けている彼は、ゴルドの隣の領であるシルバ領が、疫病や飢饉で荒廃した際に、それがゴルドに及ばないように、点在していたエルフやドワーフを含む魔人種を纏め、シルバ領からの難民を保護し、ジェシカが解決するまでの数百年の間、シルバから発生した疫病が広がらないように食い止めた功績がある。

 更に、龍族の元に召喚されたエレナ、転生者コモンを見出し、保護した経歴もあり、一度は領主としてゴルドの統治を王都に任されそうになったこともある。

 しかしレオニクスは、自身の58人目の息子にそれを譲り、普通の人族よりも高い魔力を有するエルフ達を魔物から護る為、ゴルドの戦士団長となり、後にギルドが発足した際に支部長となった。


「それだけあれば他の冒険者達への示しくらいつくだろ。何せ、俺達にとってはおとぎ話の一つなんだからな」


 軽快に笑うアヤメに、レオニクスは目を丸くする。


「ふむ……今回のアヤメ殿は、本当に丸くなった気がするな。まさか、我がアヤメ殿に褒められるとは……」

「褒めた訳じゃねえよ。自分の事は棚に上げるこのオッサンに、上には上が居るんだってことを言いたいだけだ」


 そう言って、アヤメはロウガンを指さす。年功序列や経歴、上下関係に重きを置くロウガンにとって、支部長としてはアヤメ達の方が長く、年齢的にはレオニクスの方が圧倒的に上となり、更に領主であるアヤメが居る所為で、この場ではロウガンも大きな顔が出来なくなり、悔しそうに黙っていく。


「くっ……だ、だが、冒険者としての功績は、この中で俺が一番だろう!?」


 自分でも子供っぽいと思いながらも、面目を保ちたいロウガン。思わず放った後に、若干、恥ずかしいと後悔したが、その言葉に即座にアヤメは頷いた。


「そりゃそうだろ。レオニクスもここまで長く生きておきながら災害級の魔物を倒したって報告は聞いていないからな。そうだろ?」


 アヤメの言葉に、レオニクスは頷く。


「そもそもゴルドにそこまで強力な魔物は出なかったからな。神帝龍様に恐れていたのだろう。まあ、最近は出るようになったが、我が現役の頃は居なかったな。

 後の十二星天以外の人間が、一人でケルベロスを倒したという話を聞いたのは、ロウガン殿が初だ」


 レオニクスがそう言うと、顔を輝かせたロロが口を開く。


「あ、私もそれは知ってます! マシロの“猛将”伝説ですよね!?」


 ロロの言葉に、かあっと顔が赤くなるロウガン。何かおかしなことを言ったかと、ロロが首を傾げていると、ジャンヌがフッと笑う。


「ああ。今でも冒険者の間で語り継がれている、ロウガン殿の数多くある功績をまとめた物語だな。十二星天の弟子になってから、サネマサ様の後を継ぐために奔走したロウガン殿は、かつてサネマサ様も倒したことがある魔獣、ケルベロスに挑んだ。一夜闘い続け、倒すことに成功。それ以来、ギルド支部長は最低でも単騎で災害級を相手取るくらいの腕前でないとその席に就くことが出来ないという決まりが出来たという内容だ」


 ジャンヌの話にガーレンが続く。


「他にも色々とロウガンが遂げた偉業は数多くあるが、ケルベロスとの闘いで負った傷が元で、ロウガンは冒険者を引退、その後、支部長となった。今は、後進の育成のために力を振るっているとのことだが……確かに、冒険者としての功績では、ロウガンの右に出る者は居ない」


 ガーレンの言葉に、支部長達は頷き、ロウガンは更に顔が赤くなる。アヤメは、意地悪くニヤニヤと笑っていた。


「ま、そういうことで、確かにお前は支部長としては俺達よりも格上かも知れないが、俺からすれば、だからどうしたって話だ。これから互いに協力し合うってんなら、ぐだぐだ言わねえ方が良い。いざという時に困るからな。上も下も無い。俺達はそれぞれ何かしら成しているって自負を以て、これからも対等に付き合っていこう。それで良いな?」


 アヤメがロウガンの肩にポンと手を置くと、渋々だがロウガンはコクっと頷く。


「……今までぐだぐだ言っていた奴がよく言うな」

「まあ、そう言わないでくれ。今日はそれらも払拭するための親睦会だろ。オラ、こっち来て飲むぞ」

「……おう」


 ロウガンはそのままアヤメに促されて席に着く。ようやく鎮まったかと他の支部長とロロは胸を撫で下ろし、しばらくの間、会議の事だったり、ムソウの事だったりを話しながら、夕食が来るのを待っていた。


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