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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
世界が動く
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第362話 天上の儀 ―王都の動向を気にする―

今回から場面は王都へ。しばらくムソウさんはお休みです

 あくる日、俺はツバキとたまと一緒に、リンネの毛づくろいをすることにした。

 と言うのも、季節は梅雨明けに入りそうなので、晴れた日はとても暖かい。そうすると、リンネの体毛も夏用になっていくらしく、偶に屋敷の中に抜け毛が落ちたり、風呂場や布団が凄いことになっていたりすることが増えてきていた。

 どうせ、家からは出られないし、牙の旅団に付き合い続ける毎日というのも疲れてくるので、気分転換のつもりで行った。


「さて……これは大きくなった方が良いのだろうか、小さいままが良いのだろうか?」

「リンネちゃんの本来の姿は、小さい時の状態ですから、小さいままでいきましょう」

「じゃあ、リンネちゃん。小さくなって!」

「は~い! ……キュウッ!」


 そうやって小さな獣の姿になったリンネの毛を櫛で解きながら、抜けている毛を落としていく。俺とツバキは、冷たい水に石鹸を溶かしながら、体を洗う準備を整えていく。


「ねえ、おじちゃん。合ってるかな?」


 毛づくろいの方法を確かめてくるたまだったが、俺も正式なやり方はよく分からない。一応、アキラの見よう見まねでトウガの毛をやったことはあるが、それが正しいのかは分からない。

 しかし、リンネは気持ちよさそうだし、余分な毛も抜けている気がするので、大丈夫だと思った。


「良いと思うぞ。まあ、駄目だったら、リンネが何か言うだろ」

「キュ~ウ~」


 うっとりしながら頷くリンネ。取りあえずリンネが、のんびりとしているから大丈夫だと思ったたまは、その後もリンネの毛を繕っていく。

 ちなみにだが、抜けた毛は後でしっかりと洗って、手芸の材料にする。それはどうなのかと、俺は思ったが、リンネ自身が望んでいるそうだから、止めはしなかった。


 さて、しばらくたまが、毛づくろいを終えるのを待つが、リンネの尾は六本もあるので、それなりに大変そうだった。更に、くすぐったいのか時々リンネが尾を動かすので、たまが困っている。

 そこで、俺とツバキも加わり、残る尾を一気に終わらせようとした。


「キュ~! キュ~!」

「少しは我慢しろ、リンネ」

「すぐ終わりますから」

「ジッとしてたら、後で良い物あげるね~」


 などと言いながら、リンネを抑えて、全身の毛づくろいを終える。


 その後、櫛では刷子では落ちなかった、毛と毛の間に引っ付いた抜け毛を落とすために、リンネの体を洗った。これも三人で行っていく。


「キュウ~……」

「どこのお嬢様だ……」


 桶の中でのんびりとしているリンネは、気持ちよさそうに、俺達に体を洗われていた。

 しかし、しっぽを揉み洗う時になると、プルプルと小さく震えながら、身をよじらせる。

 そこで、先ほどたまが言っていた良い物である、色鮮やかな飴をちらつかせると、リンネの目はそれ一点に集中し、体の動きを止めた。

 その隙にツバキと一緒に、刷子を使ってリンネの毛を落としながら、体を洗っていった。


「良し、終わったな。拭いてやるから、最後まで大人しくしとけよ」


 その後は、ツバキとたまに団扇で仰いでもらいながら、俺は手ぬぐいでリンネの体を乾かしていった。この時は、たまから飴を貰って、ご満悦になりながら落ち着いている。


 そして、全身を乾かし終えて、スッキリしたリンネの毛触りを確かめる為、皆で撫でた。


「よしよし、全部終わったぞ、リンネ。良い子にしてて偉かったぞ」

「気持ちいいですね……」

「ね~」


 ツバキの言葉に、たまは何度も頷いていた。よほど気に入ったのか、そのまま縁側に座り、膝の上に乗せたリンネをギュッと抱きしめる。


「キュウ~……」

「ふかふかだ~」


 お互いにうっとりとしている二人を見ながら、後片付け、というか、抜けたリンネの毛を洗い、それらでいくつかの束にして乾かしていると、家の奥からアザミが切り分けた果物を持ってきた。


「お疲れ様です、頭領、ツバキさん、たまちゃん。冷たいものでもいかがですか?」

「おう、すまねえな」

「ありがとうございます」

「ありがと~!」

「キュ~ウ~!」


 アザミが置いていった果物を四人で食べながら、しばし雑談していた。果物を持ってきたお礼、と言って、たまはアザミにリンネを向ける。気持ちいいから撫でてみてという言葉に、アザミはクスっと笑ってリンネを撫でた。


「あら……相変わらず、リンネちゃんは気持ち良いわね。ロロも早く帰って、リンネちゃんを撫でたいだろうに」


 アザミの言葉に、確かに、と一同頷く。そして言われて思ったが、この作業、ロロが帰った時にやらせれば良かったと、全員が若干後悔した。


「おじちゃん。結局、ロロおねえちゃんって、いつ帰ってくるんだっけ?」

「え~っと……予定では明々後日に天上の儀が終わるから最短でもそのくらいだったか。アヤメとコモンと一緒に帰ってくる予定だったな」

「はい。そして、昨日が領主の皆様の会合で、今日がこれまで行われた、各領のギルド支部長、騎士団師団長、領主様で話し合われた結果を審議する天上の儀の本会合、そして、十二星天様の会合だったかと思います」


 ふむ……つまり、この世界に置いても、色々なことが決まる日、というか、変わる日というわけか。

 邪神族、転界教……この世界の創世神話に端を発する、ここ数百年の事件等の裏側を明らかにするかどうかを決議する。ついでに、俺のことについても、話し合われる……が、それは気にしないでおこう。

 ショウブの言うように、今日の結果によってしばらく世界は荒れるかもしれない。だが、というかすでに荒れていると、少なくとも俺は思っている。


 この世界が変わるとすれば、出来るだけ良い方向に変わって欲しいものだな。


 さて……今頃、王都はどうなっているのだろうか……。アヤメやコモン達は良いとして、ロロの奴、ちゃんとしてんだろうな……。


 流れで、闘鬼神代表で、俺の代理人とかにされていたら嫌だな、などと思いながら、少し雲が出てきた空を見上げた。


  ◇◇◇


 遡ること四日前。王都レインの王城、玉座の間には世界中から集められた騎士団師団長、領主、ギルド支部長、そして、十二星天が勢ぞろいし、玉座には人界王オウエン、傍らに“王の右手”シンジと数人の重鎮が整列していた。

 それぞれ、沈黙を以って、その時を待つ。


 しばらくすると、大きな扉が開かれ、玉座の間に二人の人間が入ってきた。向かって右側に、十二星天“魔法帝”ミサキ・サトウ、左側に“聖母”ジェシカ・ベルウッドが立っている。

 そして、ミサキの後には一人の男と、獣人とエルフの女が二人続き、ジェシカの後には、緊張した面持ちの、人族の女が続いている。

 整列した者達の間を進んでいき、王の目の前まで来ると、部屋に入ってきた者達は跪き、頭を垂れた。


 すると、王の傍らに控えていた男、シンジが口を開く。


「これより、十二星天後継者拝命の儀を執り行う。十二星天ミサキ、面を上げろ」

「はい!」


 シンジに名前を呼ばれたミサキは大きく返事をして、顔を上げる。張り詰めた空気の中でよくやるなあと、サネマサやコモンは笑いそうになったがぐっとこらえる。

 一つ咳ばらいをして、シンジが更に口を開いた。


「ミサキ、陛下やこの場に集まった、人界の導き手らに、自身の後継者の紹介を頼む」

「は~い! えっとね、まずは、エルフのレイカちゃん! 年齢は女の子だから言わないけど、魔力量がとっても多い子で、すっごく勉強熱心なの! 私と会った時はまだ、下級の魔法くらいしか使えなかったけど、たった一年足らずで、上級魔法をマスターしてるよ!

 それから、獣人のハクビさん! 魔法は使えないけど、ハクビさんは災害級魔物の白餓狼の血を引いてるの! 狂気スキルで暴走しちゃうこともあったけど、今は順調にその力をものにしている途中かな! 

  そして~……最後は、ウィズ君! ウィズ君は、ケイロン家の末っ子で、魔法戦士団長のアイギス・ケイロンさんと、副団長のリズ・ケイロンさんの弟さん! 私以上の魔力の持ち主で、今はそれをコントロールする修行をしているんだ~。このままいくと、龍言語魔法も、空間魔法も出来ちゃうかも! 

  以上、三人が、私の弟子だよ! 今日も仲良く四人でここに来ました~!」


 無邪気に三人を紹介するミサキだったが、シンジはそういう事じゃない、と頭を抱えそうになる。

  紹介されたウィズ、レイカ、ハクビの三人は、頭を下げたまま、ピクリとも動かない。呆れと恥ずかしさを通り越して、ミサキに対し、半ば本気で怒っていた。

  サネマサとコモン、それにレオパルドは笑いそうになるのをぐっとこらえた。

  クレナ領主アヤメは、思わず頭を抱えそうになり、ギルドマシロ支部長ロウガンは、少しだけため息をつく。


 一応は世界を導く者達が集まった、格式のある場で、無邪気な子供の様な態度のミサキに、何人かは本気で怪訝そうな顔をした。


 一瞬だけ、その場の空気が張り詰めた。


「くっ」


 静寂に包まれる玉座の間だったが、ふと、誰かが吹き出したような声を上げる。

 その場に集まった者達が、一斉にその声がした方向に目を向けると、それは玉座だった。


 そこに座るエンオウが目元に顔を当てて、喉を鳴らしながら笑っている。


「相変わらず、息災の様だな……ミサキ。元気そうで何よりだ。しかし、そなたはもう少し、場の空気を読むことを覚えた方が良い」

「えへへ、ごめんなさ~い」

「……そういうところだ。さて……」


 フッと笑みを浮かべながら、オウエンは、ミサキが紹介した三人に視線を移す。


「冒険者ウィズ・ケイロン、レイカ、ハクビよ……顔を上げるが良い」


 オウエンの言葉に、戸惑いながらもゆっくりと顔を上げる三人。恥ずかしさのあまり紅潮した顔色は未だに戻っておらず、オウエンは更に笑いそうになった。


「ミサキがすまなかったな。そなたらも分かっていると思うが、これもミサキの良いところだ。許してやってくれ」


 三人はそう言われて目を見開く。この場で一番怒っても良い人間が、逆にミサキをかばった。戸惑いながらも、オウエンに頷く三人。徐々に落ち着きを取り戻していく。


「さて……まずはケイロン家の末子、ウィズよ。そなたは、ミサキから何を学び、何を成そうと考えておるか、我に聞かせてはくれぬか?」

「え……はい……」


 ウィズは、オウエンの問いにコクっと頷き、自らの素性と、これまでの人生で起こったことを話した。

 魔法が使えなかったウィズに、禁忌の法を用いて、キマイラの魔力を植え付けられたこと、その所為で暴走し、親を亡き者にしたことを全て話す。

 玉座の間ではあちこちでざわざわと何か話す声が聞こえてくる。当時の魔法戦士団長の死の謎が明らかになり、疑惑の視線がウィズに向けられた。

 しかし、オウエンはまっすぐウィズを見つめ、親身に話を聞いていく。


「そして、私……いえ、俺は、ミサキ様の元で、キマイラの魔力を自由に操るために修行をしております。そして、ゆくゆくは、兄や姉と共に、この世界を護る為の力を手にしたいと思っております」

「そうか……ケイロン家の家長リーファス・ケイロン、その妻ミッシェル・ケイロンが亡くなった背景にそのようなことが起こっておったか。そなたも苦労したな……」


 話を全て聞き終えたオウエンはしばらく黙り、思案を始める。未だ、玉座の間はコソコソと何かを話す声が聞こえ、ウィズには鋭い視線が向けられていた。

 流石のミサキも少し慌ててウィズを擁護しようと口を開こうとした。


 しかしそれを、オウエンが制する。


「静まれ……」


 その一言に、玉座の間は、再び静寂に包まれる。十二星天までもが口をつぐみ、オウエンに視線を向けた。

 オウエンはスッと立ち上がり、ウィズに近づいていく。そして、その肩に手を置き、フッと笑みを向けた。


「この場の者達が、かつての事件の真実を知り動揺する気はわかる……が、そなたに原因が無いという事は、我も分かっておる。あの時、そなたは幼かった。そなたの力が未熟で、それが原因で親を死なせたのなら、そなたに罪はない。

 それに、禁忌の法を用いてまで、そなたの可能性を広げようとした父や母の愛は尊く、素晴らしいものだ。その力を正しく使うというのならば、我はそれに期待し、その意志を尊重しよう。今後もミサキの元で励むのだぞ、ウィズ」


 それは、オウエンが人界王として、ウィズがミサキの後継者として認めたという言葉だった。咄嗟の事にウィズは何も言えず、オウエンに深々と頭を下げる。

 オウエンはウィズの背中をポンと叩き、続いてハクビ、レイカとも直接会話を始めた。


 レイカはまだしも、ハクビの身の上話を聞いたオウエンは、ウィズの時と同じく、思案を巡らせた後、ハクビをまっすぐと見つめる。


「ふむ……そなたも、苦労したようだな。ミサキの元には、重い過去を持つ者達ばかりが集まっておるようだな」

「い、いや……私は……」

「構わない。それもミサキの良いところなのだろう。底抜けに明るいミサキと言う光に、そなたらは吸い寄せられたというわけだな」


 二人の会話を聞き、ミサキは嬉しそうにしているが、その他の十二星天、更にシンジは、そういうものかと、首を捻らせる。


「まあ、所謂魔人という者達にはそう言った事情が少なからずあるという事は、レオからも聞いている。その血に宿る魔物の力に圧し潰され、魔物と化す者が居るという話もよく聞いておる。

 だがそなたは、ミサキの下で強くなる傍ら、白餓狼と人族の架け橋になることも考えておるようだな?」

「い、いえ……そこまでは。ただ……長のコウガとは、何か分かり合えるものがあるのでは、と……」

「今はそのままで良い。そう思える分、そなたは素晴らしい心根をしていることが我には分かる。今後も、ミサキの下で、その血にあらがう力を手にするが良い。何なら、レオとも相談して、オウキの魔物達を纏めるのも良いかも知れぬな」


 そう言いながら、声を上げて笑うオウエン。急に話に巻き込まれたレオパルドは、ミサキと目を合わせて、クスっと笑い合う。

 十二星天同士との繋がりも、弟子にとっては大きな力となり得ることもある。

 今後も、互いに協力しながら、ハクビの面倒を見ていくかと、レオパルドはオウエンに頷いた。


 その後、オウエンは玉座に戻り、正式にウィズ、レイカ、ハクビがミサキの弟子になったことを認める書状に王印を押す。このことは後日世界中に周知され、三人は十二星天の弟子としての特権を得る運びとなった。

 マシロでムソウと同じ日に試験を担当し、自らも同じ十二星天の弟子であるロウガンは、三人の姿を見ながら、こみ上げてくる思いをぐっとこらえていた。


 そして、ミサキ達が定位置に戻ると、シンジは残るジェシカに顔を向け、口を開く。


「続いて、十二星天ジェシカ、面を上げ、自らの弟子と認めた者を、ここに集まる人界の導き手達に紹介せよ」

「はっ!」


 ジェシカはスッと立ち上がり、オウエンに顔を向ける。


「陛下、こちらはクレナの冒険者であるロロと申します。彼女はひと月前に発生した、クレナの暴動、その渦中に立っていた冒険者の一人です」

「ほう……」

「ロロさんは、冒険者ムソウ率いる闘鬼神という部隊の一員で、これまで私の仕事を手伝ってくださる傍ら、回復魔法の面倒を私自ら指導することになりましたので、私、ジェシカ・ベルウッドの弟子と認める為、ここに馳せ参じました」

「ふむ……」


「冒険者ムソウ」という単語が出た瞬間、再び、その場の空気が若干張り詰める。ムソウの名はすでに王城では話題の中心となっていた。そもそも、今回行われる天上の儀の議題の中心も、ムソウに関するものとなっている。

 マシロの暴動鎮圧、グリドリの「ピクシーの楽園」の浄化、そして、クレナでの暴動鎮圧及び、天災級魔物九頭龍の単騎討伐等、その功績は大きい。

 だが、逆にその勢いと、少なくとも一人の貴族を亡き者にした罪も重く受け止めている者も少なくはない。

 ムソウの関係者という事が明らかになった今、ロロに向けられる視線は様々だった。

 ロロに対してオウエンがどう出るか……その場に集まった何人かは、固唾を飲んでロロを見守る。


 オウエンはしばらく口を閉じた後、再び、玉座を立ち、ロロの目の前に立った。


「冒険者ロロ。顔を上げろ」

「は、はいぃ……」


 おずおずと顔を上げるロロの目に映ったのは、何を考えているのか分からないくらい、真顔のオウエン。

 長い髪は腰まで届いており、額には鬼人の証である角が生え、体格も大きく、その全てが合わさり、威圧感しか感じなかった。ウィズ達に見せていた凛々しくまっすぐな瞳も、怒っているのか喜んでいるのか分からないくらいの表情だ。クレナ風の格好で手には長刀を持っている。

 下手なことを言うと、斬られるのではと、ロロは戦々恐々とした思いだった。


 ―ち、血の繋がりでは、頭領の子孫……どことなく似てます~! ……怖い! 頭領、助けてください~!―


 何も出来ずに固まってしまうロロ。逆にオウエンの顔をジッと見てしまい、可笑しな考えが、頭の中を駆け巡る。顔は似ていない、ただ立っているだけだが、その威圧感はどことなく、ムソウから漂う雰囲気に似ていると感じていた。

 何故、黙っているのか。せめて何か話して欲しい。ウィズたちのように、ササっと弟子の件を認めて、この場を去りたい……そう思い、半ば泣きそうになっていくロロ。


 すると、オウエンは一瞬顔を緩ませ、キョトンとした顔になる。


「……む? どうかしたか? そんなに我の顔を見つめて……」

「ひっ!」


 グイっと近づくオウエンに、ロロは一瞬小さな悲鳴を上げて後ずさった。無礼な行動に、城の重鎮達の目つきが一層険しくなり、ロロは更に怯えるようになる。

 しかし、オウエンは傷ついたという顔で、ハッとした。


「む……流石に我でも傷つくな……我はそんなに恐ろしいのか……」


 がっくりと肩を落とすオウエン。もう駄目だと、ロロが諦めた時だった。

 クスっという笑い声が聞こえてくる。オウエンとロロがそちらに目を向けると、にこやかな顔をするジェシカが立っていた。


「陛下、ロロさんは、恐れているのではなく怯えているのです。陛下のような方が見下ろせば、誰だってそうなります」

「む? そうか……いや、そうだったか。ハッハッハ! それはすまなかったな!」


 その場で大笑いするオウエン。ロロは目まぐるしく変わるオウエンの様子に、言葉も出なかったがジェシカに促されるまま、元の体勢に戻る。

 気まずい雰囲気のまま、オウエンはジェシカやサネマサ達の方に目をやった。


「ふむ……やはり、我はもう少し、愛想を良くした方が良いのかも知れぬな。初見で先ほどの態度だと、怯えられて当然、か」

「いえいえ、そんなことは……ロロさんも緊張されているのです。普段はムソウさんと共に居ることが多いので、並大抵の事では動じないはずですから」

「オウエンは変わる必要はない。そのままでも大丈夫だ」

「ムソウさんが恐ろしいと感じることは、僕達でも未だにありますので……」


 苦笑いしながら、ね? とコモンはロロに視線を送る。コモン達の言葉に、確かに今の状況も何が起こるか分からない以上、怖いという思いは強いが、それよりも、普段共に過ごしているムソウ、特に、鍛錬の時などの事を考えると、それに比べれば、今の状況はどうとでもなると思い始めた。

 ムソウやジゲン、クレナの仲間達の事を思い出し、徐々に落ち着きを取り戻していくロロ。それを見たオウエンは、納得したという顔で頷く。


「なるほど……ロロ殿は、だいぶ落ち着いたようだ。それだけ、ロロ殿の中での冒険者ムソウという男が、大きな存在、というわけか……」


 そう言って、オウエンは再び、ロロの前に立つ。今度こそロロは、落ち着いてオウエンの顔を見た。よく見ると、優しげだが、凛とした顔つきは、まさしく人界の王そのものだと感じた。

 ロロを見つめながらオウエンはゆっくりと口を開く。


「ロロ殿。ジェシカがそなたを認めているのならば、ウィズ殿達と同様、我から言うことは何も無い。そなたを率いる者が何者であろうとも、我に仕え、我の友である十二星天が一人、ジェシカが認めているというのならば、そなたの事は、ジェシカに一任する」


 オウエンの言葉に、ジェシカの表情は輝き、サネマサ、レオパルド、コモン、シンジ、それにアヤメなど、ムソウとロロの関係を知る者やミサキ、ロウガンなど、ムソウの事を知る者などは、それぞれで気取られないように、ロロが正式なジェシカの弟子と認められたことを喜んだ。

 しかし、オウエンは更に続けて口を開く。


「……だが、その前に、そなたに確認しておきたいことがある」

「は、はい……」

「そなたは、ジェシカの下で力を手にし、この世界で何を成したい?」


 それは、ウィズ達も聞かれていたものと同様の質問。十二星天の下で修業し、大きな力を得ることにより、ロロも、世界中で一定の力を持つ強者になりうる可能性が高くなる。

 その力を以って、何を成すか、あるいは何を望むか、大地の平和を維持し、人界を導くために、オウエンにはそれを確認する必要があった。

 まっすぐと自分を見てくるオウエンに戸惑い、ロロは思わず、黙り込んだ。何を答えたら良いのか分からない。人界の為に、何かを成そうとジェシカの弟子を名乗り出たわけではない。その理由は、ある意味では自分勝手なものだ。返答次第では、弟子とは認められないかも知れない。

 しかし、ロロには大きな決断をした強い思いというものはあった。

 ふと、ジェシカに目を向けると、にこやかな顔でコクっと頷いている。同様に、サネマサ、コモン、レオパルド、そして、普段はこういう場でも退屈そうにしているようなアヤメもコクっとロロに頷いた。

 ロロは意を決し、オウエンに自らの思いを語る。


「私は……私は、この世界の為に、何かを成そうという気持ちはございません。今は、私が救いたいと思う方々を救いたい為に、今よりも強くなりたいのです」

「そなたが救いたい者というのは?」

「私の仲間……そして、私達を導き、護り、戦い、傷つき、それでもなお、私達を強くしてくださった、頭領……皆さんが傷を負った時も、頭領が目を覚まさなかった時も、私には何も出来ませんでした。何も出来ず……泣いていました……。

 もう……あのような思いはしたくありません。私は、私が出来ることで、私自身が強くなって、例えこの先、どんな困難があろうとも、皆さんを救えるようになりたいのです!」


 いつの間にか、最初のような弱々しい声から、毅然とした態度になっていったロロ。玉座の間に響き渡る声を上げ、自らの思いをオウエンに語った。オウエンは、ロロの目をまっすぐと見たままだったが、ロロもまた、オウエンをまっすぐに見つめる。

 すると、しばらく静まり返っていたその場で、小さく一つの拍手の音が聞こえる。クレナ領主アヤメが、一人静かにロロに拍手を送っていた。

 そして、アヤメの拍手に続くように、サネマサ、コモン、レオパルド、ミサキも笑みを浮かべながらロロに拍手を送る。ジェシカもまた、誇らしげにロロを見つめ、シンジは一人、穏やかに、心の中でロロの言葉を称賛していた。


 ざわめき立つ玉座の間だったが、オウエンがスッと手を上げ、再び静まり返る。

 オウエンは、しばらくロロを見つめ、不意に、フッと笑みを浮かべた。


「ふむ……冒険者ムソウが羨ましい。そなたのように、優秀な者が配下に居るのだからな」


 その言葉に、ロロは少し違和感を覚え、首を横に振った。


「いいえ。私達は、配下ではなく、同じ釜のご飯を食べた、“家族”……です」


 オウエンは、目を見開き、すぐにまた、フッと笑って、そうか、と頷く。

 そして、玉座に戻り、高らかに宣言した。


「冒険者ロロ。そなたの意志は我に伝わった。今後も十二星天“聖母”ジェシカ・ベルウッドの下で修練し、研鑽に励むが良い。そなたの今後を祈っておる」


 そう言って、オウエンは、ロロがジェシカの正当な後継者である書状に王印を押した。

 呆気にとられるロロだったが、ジェシカに促され定位置に戻る。耳元で、よくやりました、とジェシカに囁かれ、顔が熱くなる感覚がしていた。


 玉座に着いたまま、オウエンは整列する者達に向けて、宣言する。


「今日新たに、将来の人界の導き手足りうる者達が決まった。冒険者ウィズ・ケイロン、冒険者ハクビ、冒険者レイカ、冒険者ロロ。今後も、先の未来の為、次代を紡ぐ為、それぞれ、師の下で研鑽に励み、栄光ある未来を目指すのだ。

 これは“王命”である! 何人も我が決定に異を唱えることは許さん! 次代を背負う者達に賛美を!」


 オウエンが刀を抜き、天へと掲げる。その瞬間、玉座の間に拍手喝さいの音が響き渡った。

 十二星天の弟子と認められた者達は目を見開き、その迫力にただただ身を任せるしか無かった。


 その場に居る誰もが、新たに十二星天の弟子となった者達を祝福していた。

 だが、巻き起こる喝さいの中、人界王が認めた者に、僅かに敵意を向ける者の気配。台上から全員の姿を眺めていたシンキは、それを見逃さなかった。


次回から、ロロとアヤメを中心に天上の儀についてお送りしていきます。

さて、それぞれの領の領主、ギルド支部長、騎士団師団長の名前と設定を考えないと……


ここで登場、人界王オウエン。鬼人なので寿命は長く、見た目は二十代後半くらいです。

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