第360話―バッカス達と闘う―
エンヤの馬鹿の所為で予想以上に疲れていた俺だったが、今日はバッカス達の依頼に応える日だ。仕方ないと思い、朝から屋敷を出た。
出勤するジゲン、依頼に出るダイアンとリア含めた何人かの冒険者達、そして、ツバキを連れてギルドへと向かう。
「ツバキは何で来るんだ?」
「ムソウ様の実力が分かったうえで挑まれるなど、興味しか浮かびませんので」
ツバキの言葉に、ジゲン含め、冒険者達も確かに、と頷いていた。
「確か、“影無し”という異名を持っておったのお。参考に出来るのならするのじゃぞ、ツバキ殿」
「はい、そうします」
ツバキも似たような戦い方だからな。素早い動きで敵をかく乱しながらも、敵の攻撃は防ぐという万能型になっている。ジゲンも同じく、素早い動きで敵を確実に仕留める戦い方をしていた。
バッカスに興味が出てくるというのも頷ける気がする。
そう思いながら、歩いていると、突然、俺のすぐ横から男の声が聞こえてきた。
「へえ……“刀鬼”殿にも期待されてんのか。今日は頑張らねえとな」
「「「「「ッ!?」」」」」
聞き慣れた声が、昨日と同じ様に不意に聞こえてきて、俺達は道の真ん中で慌てる。
声のする方を見ると、昨日と同じく、バッカスと数人の冒険者達が俺達の横を歩いていた。
バッカスは余裕そうにニカっと笑っていたが、他の者達はジゲンと俺の姿を目にして、若干動揺している。
「毎度毎度、驚かされるなあ。隠蔽スキルか?」
「ああ。それと、足音を消すために舞空スキルも使っているな。どっちも極めている。結構便利だぞ」
その言葉に、ジゲンが目を見開いた。
「舞空スキルもか……大したものじゃの。大抵は必要ないと言って熟練度を上げんのじゃが……」
舞空スキル、前に聞いた話だと、体を浮かし、空を飛ぶことが出来るというスキルだ。ただ、空には魔物が居るし、空を飛ぶことに関しては風魔法を使えば可能だという事で、そこまで一般的に使う人間は少ないと言われたスキルの一つだが、バッカスは違うらしい。
「隠蔽スキルと組み合わせれば、色んな方向から奇襲出来るから、使ってんすよ。使えるものは使わねえと勿体ないだろ」
確かに、と頷くジゲン。空を飛べなければ、多くても前後左右に気を配れば良いが、空を飛ぶとなると、そこに上空も加わることになり、対処する側は大変だ。
今日はその相手が俺になるという事で、隠蔽スキルも使ってくるし、意外と気を張らないといけないなとため息をついた。
「……にしても、使える者は使えるって……お前らの部隊長さんは貧乏って印象しか無いんだが?」
いつの間にか、戦法についてジゲンとツバキと盛り上がっているバッカスは放っておき、バッカスの仲間の弓使い、アイリーンと他の奴らと話をしていた。
「まあ、カジノでは負けが多かったからね。普段は堅実なの」
「負けが多かったジーゴさんが勝った時なんかは、バッカスは俺も負けねえって言って、大金を賭けるもんだから、稼いだ試しがない」
つまりは、ジーゴと意地の張り合いをしていくうちに、互いに貧乏になったってわけか。
何ともくだらない理由なのだろうが、本人たちは真剣なのだろうから、何も言わないでおこう。
「しかし……それだとモンクでは、大変だったんじゃねえのか、お前ら……」
「まあね。向こうのシータも言ってたけど、散財するリーダーを持つと苦労するわ。ジーゴもバッカスも、互いの異名をもじって“破産鉄球”と“金無し”って呼ばれていたしね……」
深いため息をつくアイリーン達だが、俺もかなりの金額を散財した立場なので、そうだな、とも言えなかった。
ふと、ツバキと目が合うと、クスっと笑われる。頼むからソイツに言うなよという仕草を送り、バッカスの注意を逸らした。
戦法について話した後は、ツバキがモンク出身という話で盛り上がっている。昨日は話せなかった、モンク領の変化について話しているようで、バッカスは驚きながらもツバキから話を聞いていた。
「まあ、ここに来てからそれなりに稼げたようだな。カジノは楽しんでないのか?」
「いいえ。適度に楽しんでいるわ。装備も一新したし、しばらくはここに残るつもりよ」
「へえ……ジーゴ達も謹慎が解けたらここに来るって言ってたから、またごちゃごちゃしないうちに楽しんでおけよ」
「そのつもりよ。というわけで、今日は楽しませてね、おじさん」
アイリーン達は、報酬を貰う気で満々の様だ。闘鬼神の奴らは何言ってんだという顔をしていたが、気取られないように、俺はアイリーン達に苦い顔を見せた。
「これは、やばいかも知れないな~。本気でやろっと……」
と言うと、リア達からボソッと、
「ご愁傷様……」
という声が聞こえてきた。バレないようにダイアン達と誤魔化しているうちにギルドへと到着した。
ジゲンが入ると、仕事の準備をしていたミオン達は手を止めて礼をして、そこからショウブが顔を出してきた。
「む、ジロウ。今日はずいぶんと大所帯じゃの。ムソウ殿もおるようじゃが、何かあったのか?」
「いやいや。特別依頼を受ける者達と共に来ただけの話じゃ。残念じゃが、儂は領主の仕事をせねばならん。ショウブ、手続きを頼んだぞ」
ジゲンはそう言って、俺達の方に顔を向けた。
「ではの、ムソウ殿。闘いが見られなくて残念じゃが、ほどほどにの。それから、バッカス殿、気を付けるのじゃぞ」
「そればっかだな。まあ、死なねえように努力するさ」
ジゲンの言葉に軽く返すバッカス。固く握手を交わして、ジゲンは執務室へと向かっていった。
入れ替わるようにショウブがバッカス達の前に出てミオンと共に特別依頼の手続きを行う。
その間に俺達は先に闘技場へと向かった。地下に行こうとしたが、ギルドの再建以降は屋外になっていたことを指摘され、若干恥ずかしくなる。
闘技場で、ダイアン達やツバキは観覧の椅子に座り、俺はその場で無間の調子を確かめていた。装備がピクシーの髪飾りくらいしか無いので、昨日と同じ様に戦うしかない。
ダイアン達の依頼に出る約束もしていたので、そこまで無茶は出来ない、その上で、バッカス達を気絶させる……意外と本気で難しくなりそうだな。
寧ろ何も考えずに戦った方が良いかも知れないと最終的に結論付けて、その時を待った。
しばらくすると、バッカスを先頭に冒険者達が入ってきた。後からは結界を張る魔道具を持ったミオンもやって来る。ミオンから、ほどほどにと言われたが、分かったと、即答しながら頷いた。
バッカス達は、陣形を整えたり、戦法の最終確認を行っている。俺と目が合うと、ニカっと笑ってごまかすようにするが、指示を出すバッカスの目は真剣そのものだった。
「頭領……本気で気を付けた方が良いかもよ」
「ムソウ様、お気をつけて」
バッカス達の気配を感じ取ったのか、リアとツバキからもそういう言葉が聞こえてくる。二人に頷き、俺も自分の戦法を決めた。昨日の鍛錬よりも、少しは本気を出して行うとしよう。
そう思いながら無間を抜き、今から気を貯めていた。
その後、バッカス達の準備も終わり、ミオンの準備も整ったところで、結界が張られた。
ミオンは手を上げて、開戦の合図を下す。
「では、これより、特別依頼、始め!」
「行くぞッ! 大斬波ッ!!!」
合図とともに、俺は無間を振り下ろし斬波を放つ。以前絡んできた冒険者達はこれだけで終わりだが、果たしてどうだろうか。
そんなことを思っていると、アイリーンの声が響く。
「来たわ! 防御隊前へ! 補助魔法隊は、早急に魔法をかけていって!」
「おう! 防御術・仁王!」
「はい! 身体能力向上(中)!」
アイリーンの指示に、モンクで出会った大盾を持った冒険者と、同じように盾を持ったり、強固そうな鎧を纏った冒険者達が前に出て、全身に気を纏って護りを固める。
そして、そいつらに魔法使いたちは補助魔法をかけて、その守りを強固にした。
「フンッ!」
俺が放った斬波は、地面を抉りながら迫っていき、向こうの守備部隊にぶつかる。このまま吹っ飛ばして欲しかったが、先頭の大盾の男に阻まれ、大きな音を立てて相殺される。
「チッ! もう一発――」
防がれるとは思わず、もう一発撃とうとしたが、直後、俺の目の前の気配に気づく。
「うおっと!?」
「チッ! 防がれた! スキル使っても気配が分かるって話は本当らしい! だが、時間稼ぎに付き合ってもらうぞ!」
俺に向けられて放たれたわずかな殺気に気付き、無間を構えると、目の前に迫る短刀と、バッカスの姿が見えるようになっていった。
慌てて防ぐが、そのままバッカスは、短刀で連撃を放ってきて、俺の身動きが取れなくなった。
バッカスが持つ短刀、明らかに魔刀級だ。現在ダイアン達が持っている牙の旅団の武具と同等の威力を持っている。それに加えてバッカスの動きは、確かにジゲンとまではいかなくとも、ツバキと同じくらい速く正確だ。短刀という事もあり、向こうの動きに合わせるのが精いっぱいだ。
バッカスを相手にしているうちに、向こうの準備も出来たようで、近接武器を手にした者達が、支援魔法で強化された状態で俺達の元に向かってくる。
「来たか! お前ら、俺の動きの邪魔するんじゃねえぞ!」
「テメエもな、バッカス! ちゃんと連携しろよ!」
「くっ……!」
悪態はついているが、連携はしっかりととれているバッカス達の動きに、俺は翻弄されそうになっている。バッカスの連撃の合間を縫っていると、他の奴らからの攻撃と、離れた所からのアイリーンの放つ矢が飛んでくる。
なかなか難しい状況だが、昨日の闘鬼神と同じような状況だ。対応のしようはあるなと、攻撃をかわしながら、剛掌波を足元に叩きつける。
「ん!? 全員散開!」
バッカスは俺の考えにいち早く気付き、何人かと距離を取ったが、何人かは巻き込まれた。浮足立つそいつらを、取りあえず戦闘不能にして、アイリーン達の方に飛び出す。
「チィッ! そっちには行かせねえ! お前、頼んだぞ!」
「はい! 土壁!」
バッカスの指示を聞いた魔法使いの女は、バッカスの前に土で出来た壁を作り出す。バッカスは、その壁に垂直になるように足をつけて、俺めがけて飛び出した。
「瞬刃!」
「ちょこまかと……!」
俺はクナイを投げてバッカスの動きを止めようとしたが、すぐに弾かれた。仕方なく足を止めて、バッカスの攻撃を受け止める。
「止められたか。だが、アンタも止まったな!」
「くそ、やりづれえなあああ!」
その場でバッカスと打ち合う。無間で斬りかかるが、バッカスはひらりと避けながら、俺に短刀を振って来る。片手でそれをいなしながら対処しているが、アイリーンからの矢の攻撃は止まらない。
何とも戦いにくい相手だ。昨日の闘鬼神の方がまだマシだと、やはり昨日よりも少々本気で相手をすることになった。
「オラアッ!」
「なッ!?」
一瞬の隙を突き、バッカスの腕を掴む。その瞬間、頭突きを食らわせて、バッカスを地面に叩きつけた。
「ガハッ!」
「そのまま大人しくしてろ!」
動きを止めた後は、再度アイリーン達の方に向かって駆けて行く。後方から攻撃していた奴らは、防御部隊に隠れている。まずはそいつらからだと、斬波を放った。
「喰らえ!」
「同じ手に何度も……いや、違う! 全員、退避!」
大盾の男は、斬波を防ごうとするが、俺の狙いはそれよりも手前だ。異変に気付いた男が引こうとするが、その前に斬波は地面を破壊し、土ぼこりと瓦礫を巻き起こした。
「くそ! 何も見え――」
「オラアアアアアッッッ!!!」
浮足立つ防御部隊の盾や鎧の上から無間で峰打ちしたり、気を纏わせた蹴りや拳で冒険者達を吹っ飛ばした。
防衛を崩した後は、即座にアイリーン達に近づき、無間を振るった。
「キャアっ!」
「くっ! うわあっ!」
魔法使い達を一網打尽にしようとしたが、最後に残ったアイリーンは、弓で俺の無間を受け止める。
どうやら、弓自体が双刃の武器になっているようだ。珍しいものを持っているなあと感心してしまう。
「器用なことをするなあ……」
「弓兵は接近戦に弱いからね。こういうのも用意しないと駄目ってことよ。それから、こういうのもあるわ」
アイリーンはそう言って、腰に下げていた筒形の道具を取り出す。弩のようだが矢はついていない。何だろうと思っていると、アイリーンはその道具の引き金を引いた。
ドオンッ!
「ッ!」
大きな炸裂音と共に、筒から何かが飛び出してくる。慌てて無間の腹を向けると、炎を纏った小さな弾が弾かれた。
それを見てハッとする。以前、ミサキが見せてくれた、ミサキの故郷に存在する兵器の事を思い出した。
名前は「銃」だったか。確か、コモン曰く、十二星天のセインも同じような武器を使っていたし、トウヤから聞いた話では、俺達の大陸には無かったが、海向こうの国にはあったらしい。
あまり一般的ではないらしいが、魔法使いや弓兵が、今のように接近された際に、最後の手段で使うことが多いという話を聞き、アイリーンはそう言う戦法をとっているようだ。
なかなか危なかったなあと思っていると、アイリーンは、残念そうに銃を眺めた。
「あら……一発銀貨200枚もするのに、無駄になったわ」
ため息をつくアイリーンだったが、後ろからバッカスが勿体ないことするなと文句を言っている声が聞こえてくる。金がかかる武器なら俺も要らないと思いながら、アイリーンに近づこうとしたが、足元に、更にアイリーンは一発を撃つ。
「おわあ! 危ねえな……」
「はい、これでまた、銀貨200枚が無駄に……そろそろ、倒れてくれない、おじさん?」
「そういうわけにもいかねえ……な!」
俺は懐から針を取り出し、アイリーンに放つ。ハッとしたアイリーンはサッと避けたが、その隙に、近づくことには成功。
そのまま無間を振るっていくが、アイリーンの弓に防がれる。とは言うものの、近接での戦闘には慣れていないらしく徐々に押している。隙を突き、当身を食らわせて態勢を崩したところで腹に拳を叩き込んだ。
「ぐふっ……いい線いったと……思った……のに……」
「ご苦労。ある意味一番、驚いたぞ」
そう言うと、クスっと笑みを浮かべながら気絶していくアイリーン。
その瞬間、バッカスが俺の背後のすぐ近くまで来て、二振りの短刀を振りかざしていることに気が付く。
「くっ……リーンまで落とすとはやるなあ。やはり、天災級を倒したってのは伊達じゃねえようだな」
「そろそろ降参しな。立っているのはお前だけのようだが?」
気が付くと、俺に向かって来ているのはバッカスだけで、気絶していないにしても、他の奴らは、既に戦意を喪失していた。
次の事もあるし、降参を促したが、バッカスは不敵に笑みを浮かべ、戦い抜くことを辞めない。
「何言ってんだ。ここからが面白いだろ。カジノも、金が最後の一枚になるまで諦めねえのさ。それで大金を手にしたリエンの旦那はカッコいいだろ? 俺もジーゴもああいう生き方をしてえんだよ」
「結局損をすることになってもか?」
「いやいや、最終的には誰もが得をするようになってんだよ。ジーゴだって、あのアダマンタイトの鉄球を取り返したんだろ? 次、アイツに会った時、絶対自慢してくるからな。俺は、アンタに勝ったって、アイツに自慢してやるのさ……行くぜ!」
動機が阿保らしい……そう思った瞬間、バッカスは俺の足を狙って短刀を振り下ろす。俺は咄嗟にそれを跳んで躱したが、それが狙いだったらしく、バッカスは地面に手を付き逆立ちしながら両足で俺を蹴り上げた。
「ぐうっ!」
俺よりも少し年下の割に凄い身体能力だ。受けきれず、俺は空中に投げ出される。
「今だ! テメエら、最後の気合を入れろ!」
「は、はい! 土壁!」
バッカスは、戦意を失ってへたり込む魔法使い達に指示を出す。魔法使い達は最後の魔力で、俺の周りにいくつもの土壁を生み出し、俺を取り囲んで力尽きた。
「へへっ! 行くぞ! 奥義・多連瞬刃!」
準備が出来たとばかりに、バッカスは地面を蹴って俺に向かって飛び出した。空中でそれをいなしたが、バッカスが突っ込んでいった先には、魔法使いが作り出した土の壁がある。
バッカスはそれを蹴り、更に俺に向かって飛んできた。空中に放り出された俺は、多方から飛んでくるバッカスの攻撃をいなすことで精いっぱいだった。
正直、バッカスの事を舐めていた。まさか、最後の最後でここまで俺を追い詰めてくるとはな。
必死に躱していくが、成す術は殆ど無い。反撃しようにもバッカスの動きは素早くとらえきれない。本気で殺す気なら何とかなるが、流石にそれは気が引ける。
どうにかしようと思っているうちに、俺の体は地面に下りた。次はどこから来るのかと思っていると、バッカスは俺の頭上に逆さに立っていた。
「さあ、もうどうすることも出来ねえ! このまま最後の一撃だ! 俺の攻撃を受け止めることが出来れば、アンタの勝ち! 通れば、俺の勝ち! 最後の大博打と行こうぜ!」
バッカスは逆さに立ったまま、全身に力を込めていく。俺は、斬波を纏って斬り上げることで迎え撃とうと、無間を下段に構えた。
「予想以上に楽しめたな……礼を言うぜ、バッカス。来な!」
「行くぜ……奥義・天地鳴動!」
両手に持つ短刀と全身に大きな気を纏わせてバッカスは足元を蹴る。土壁が砕かれると同時に、バッカスは凄い勢いで俺に向かって飛んできた。
自分が玉砕か、俺を粉砕か。文字通りほとんど賭けの技に、俺は全力で応えようとした。
しかし……
「……ん? いや……」
その時、俺はそうだ、と思い、無間を下げた。バッカスはそれを見て、勝ちを誇ったように満面の笑みとなる。
「ハッ! 観念したか! このまま沈んどけ~~~ッッッ!」
「……」
大きく短刀を振り上げるバッカスの攻撃を、俺は三歩程後ろに下がって躱した。
「なっ――」
ドオオオオンッッッ!
……轟音と衝撃波と共に、俺が立っていた辺りの地面が砕かれていく。土煙が上がり何も見えなかったが、しばらくすると、土煙が晴れて行き、大きく凹んだ地面の中心で、バッカスが白目を剥いて気絶していた。
何とも気まずい思いをしながら、ツバキ達の方に目を向ける。皆のキョトンとした顔になっていて、何と言ったら良いのか分からないという顔だった。
次にミオンに顔を向けた。ツバキ達と同様の顔をしているミオンに、コホンと咳ばらいをする。
「あ~……ミオン。この場合は……俺の勝ちってことで良いか?」
「え~と……はい……え~……そう……ですね。お見事でした……」
そう言って、戸惑いながらもミオンは結界を解いた。俺はこのままバッカス達の身ぐるみを剥ぐ、という事なのだが、流石に辞めた。ダイアン達の依頼の事もあるからな。
バッカスの持ち金を、銅貨一枚だけ残すだけに留めておき、その後はツバキ達と共に、皆を起こして薬を与える作業に移った。
「どう、でしたか? ムソウ様……」
闘った感想はどうだったかと、気まずそうな顔のツバキに聞かれた。
「……まあ、最後以外は良かったんじゃねえのか?」
そう答えると、ツバキやダイアン、それにリア達も頷いていた。
「そう……ですね……バッカスさんの戦い方はとても参考になりました。最後までは……」
「十二星天やエンヤ様以外に頭領が苦い顔をするところは初めて見たっすね。最後以外は面白かったっす……」
「アイリーンさんの戦い方は、弓兵としては参考になったわ。私も頑張らないと。バッカスさんは……うん……良かったね、最後までは……」
「た、戦い抜いた時点で凄かったっすよ……多分……」
必死に言い繕っているようだが、その声を聞いた、バッカス陣営の奴らから、
「……もう辞めてくれ」
という声が聞こえて来たので、その後は黙って傷を癒していった。
◇◇◇
その後、バッカスを含め、全員を目覚めさせ、傷を癒すと、バッカスは起きたばかりでアイリーン達に説教を食らっていた。
「ちょっと、バッカス! 聞いたわよ! あの技は、トロルみたいな動きが遅い魔物だから成功できるの! 躱されることは考えてなかったの!?」
「いや、あそこは、俺の全力にムソウが全力で応える所だろ」
「アンタの事情は知らない! そのままムソウさんを疲弊させれば良かったのに!」
「それでしたら、私達も援護射撃できてました!」
「あ!? お前ら、あの時点で満身創痍だったじゃねえか! 最後に俺一人が残った時、どれだけ、俺が頑張ろうとしたか……」
「頑張る所が違うんすよ。しかも最後に繰り出したのが自滅技って……あのまま時間稼ぎしてたら、まだ終わらなかったかも知れなかったのに……」
一人の冒険者の言葉に、アイリーン達は頷き、バッカスは黙り込んだ。確かに、戦意を失っていた魔法使い達も、バッカスがあのまま俺と打ち合い時間を稼いでいたら、他の者達の手当てを終えて、態勢を立て直すことは出来たはずだ。
功を焦って、ケリをつけようと思った際に出した技が、強力だが躱されると自滅してしまう技だったという、ある意味ハルキみたいなことをしでかし、全てを終わらせたバッカスの罪は重いだろう。
今も繰り広げられる説教は仕方ないと感じた。バッカスは、財布を開けて中身を確認した後、大きくため息をついた。
「くそ……あれだけ稼いだのに銅貨一枚って……どうすりゃいいんだ……」
項垂れるバッカスの肩に、俺は手をポンと置いた。
「そこから頑張るのが、カジノの華なんだろ? 頑張れよ」
そう言うと、ぐぬぬ……と唸りながらダイアン達の方を向いた。
「クソ! テメエらの頭領の所為で俺は一文無しだ! この借りは、お前らの依頼についていって晴らすとする! 良いな!?」
バッカスの八つ当たりに遭ったダイアン達は、その気迫に圧されて思わず頷いた。
「う、うっす……よろしくっす」
「じゃあ、アイリーンさんは私達と一緒に来てね。同じ弓兵として参考にしたいこともあるから」
ダイアンの方は微妙そうな顔をしているが、リアは快くと言った感じに、アイリーンを誘っていた。後方から援護射撃と指示を出す傍ら、近接戦にも慣れていた様子のアイリーンとは一緒に行動したいらしい。
リアの申し入れに、アイリーンも快くと言った感じに頷いた。
「了解。貴女も私と同じみたいね。何でも聞いて。少なくとも、バッカスよりは活躍してみせるわ」
「ん? お前は俺達とは来ないのか。足引っ張らねえようにしろよ」
「貴方もね。取りあえず、私達はあの樹海だけど、バッカス達はシンコウ山。帰りは貴方達の方が遅くなりそうだけど、待ち合わせはどこにする? ……」
などと、ダイアンかリアか、それぞれについていく冒険者達は色々と話し合っていき、それぞれで纏まった後、出発という流れになった。
ギルドを出る際に、バッカスは俺に向き直り、ニカっと笑った。
「てことで、今回は負けたが、次はこうはいかねえからな。それで、今日はダイアン達と一緒に行動するが、いずれ、アンタとも討伐依頼をこなしたいと思っている。その時はよろしくな」
「ああ。ダイアン達を頼む。家にもいつでも遊びに来いよ」
そう言って、俺達は固く握手を交わし、その場で別れた。ダイアンとリアを始め、闘鬼神たちには、何かあった時は必ず俺を呼べと指示を出し、皆はそれに頷いていた。
まあ、少なからず俺を追い詰めた奴らと一緒だから、特に気にしてはいない。異名持ちは伊達じゃないなと思いながら、皆の背中が見えなくなるまで見送った。
「さて……俺達はこれからどうしようか。どこか行きたい所はあるか?」
隣に居るツバキにそう尋ねると、ツバキは顎に手を置いた。
「そうですね……あ、高天ヶ原に行ってもよろしいですか? 改めて、ナズナさんにおめでとうと言いたいと思いまして」
「ああ、それは良いな。そう言えば、帰ってからシロウにも会ってないし、屋敷に帰るまでの間に、そっちも出来れば良いな」
そう言って、俺達は高天ヶ原を目指した。その途上、ツバキは先ほどの戦いについて、一応の感想を話したり、俺の感想を聞いてきたりもした。
「実際のところ、どうでした?」
「ふむ……流石、腕利きの冒険者ってところだな。最後はアレだったが、それでも、あの衝撃は凄かった気がする。バッカスもこの世界においてはそれなりに強い部類の人間じゃないのか?」
「かもしれませんね。普段からジゲンさんや大師範と一緒に居るので感覚が麻痺していますが、正直な話、私でもバッカスさんの動きは捉えきれませんでしたし、最後の一撃を真っ向から受け切る自信はありません」
「ハハハ! ちなみに、お前ならどうする?」
「まあ、避けますね。それか、スキルで防ぎます」
「やはり、それが一番だろうな。ただ、アイリーン達が気を失う前にそれをやっていたとしても悪手だっただろうがな」
「ですね。矢を放つ瞬間は、どれもムソウ様の奇をてらったもののような気がしました」
「あの読みに関してはリアよりも上だな。それに加えて、指示も良かった。騎士団にも劣ってないんじゃないか?」
「指揮はもちろんですが、即座に対応する皆さんも凄かったです。……そう言えば、私がアマンの店で闘った冒険者の皆さんも、あのような感じでした。腕の立つ冒険者というのは、意外にも多く居るのかも知れません」
「俺も、自分が基準で考えているからな。今日も正直舐めていたが、あそこまで苦労するとは思わなかった。やはり、まだまだ世界は広いってことだな。うちも負けていられねえ。ツバキも頑張れよ」
「ムソウ様は頑張らなくてもよろしいですよ。また、ジゲンさんにお説教されますので」
そういう理由で強くなることを諦めるのは、少し違うとツバキを小突く。
エンヤ達に育てられながら、俺の人生に付きまとっていた、「最強」という自負。案外、この世界だと、あっさりと俺も抜かれるかも知れないと、今日の戦いで思ってしまった
まあ、それで色んな奴に舐められても癪なので、これからも強くなりたいという思いは変わらない。強くなって、俺が護ることが出来るものも大きくなれば、それはそれで良いと思っている。
ひとまず、今日の闘いは、ツバキやダイアン達にも良い刺激になったと思い、バッカス達と、あの特別依頼には感謝だ。今後も、あいつ等みたいな命知らずが増えてくれると嬉しいと、少しだけ特別依頼に前向きになった。
そんなことを思いながら、ツバキと二人で花街を進んでいく。




