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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
世界が動く
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第359話―牙の旅団の鍛錬に付き合う―

 翌日、朝から依頼に出る奴らと、上街に仕事に行くジゲンを見送った後、皆への土産をツバキと共に渡していった。

手芸の材料は良いとして、食べ物などもあるからな。今後、買い物をどうするかについても関わって来るので、保冷庫に入れながら、何がどのくらいあるのか、ここを管理するアザミとたまも立ち会った。


「凄い量ですね。この分ですと、少なくともお酒はひと月はもちますよ」

「わ~! お魚がいっぱい……でも、傷まないかな?」

「ふむ……では、ここに置いて傷みそうなものは俺の異界の袋の中に入れておこう。料理に使いたいものがあれば随時、俺に言ってくれ」

「じゃあ、今日はこれと、これ! 熱くなってきたから、あっさりしたもの作ろっと」


 こんな感じで、たまに頼まれたものを出していく俺。闘鬼神の誰かの異界の袋を使いまわして、保冷庫に置いておくという事も考えたが、その度に出し入れするのは面倒だ。しばらくこうしていよう。


 次は手芸の材料を取り出したのだが、こちらも量は多い。なので、空いていた部屋を丸ごと使い、それ専用の部屋とした。

何か作りたい時は、自由に出入りできるようにしたが、こうして見ると、この一室だけ店のようになっているので、何となく可笑しな気持ちとなった。

 ここの管理もツバキに任せた。俺からすれば、何を買ったのかよく分からないし、何が減っていくのかも分からないからな。何か無くなりそうならば、その都度リエンに発注すると言うと、ツバキは、分かりましたと頷く。


 さて、ひとまず土産の整理は終わった。残るは天宝館に持って行く素材くらいなので、今日は仕事に出ていなかったダイアンとリアを連れて、俺は天宝館に向かった。ツバキとリンネは女中達の手伝いと、牙の旅団の鍛錬の手伝いをしている。

 俺も後から合流するからほどほどに、と言うと、皆の顔から笑顔が消えた。


 屋敷から出て下街を歩いていると、ダイアンがため息とともに口を開く。


「頭領、俺達も毎日忙しいんすから、頭領こそほどほどにしてくれっす」

「何に忙しいんだ? 花街で遊ぶことか?」

「いや……」

「あ、頭領、ダイアンは花街で遊んでないわ。アザミ姐さんに止められてる」


 あ、自ら行きたいと思わないのではなく、止められていたのか。名目上、ダイアンは冒険者達を纏める立場に居るから、皆への示しがつかないことにならないようにするためとのことらしいが、まあ、本音は違うだろうな。


「……なら今度二人で行ってみたらどうだ?」

「「え?……」」

「何、二人同時に困惑してんだよ?」

「いや……頭領、俺達の関係に気付いてるんすか?」


 今更、何言ってんだコイツ……。


「そりゃ、まあ……な。新しい高天ヶ原にはそういう場所もあるみたいだし、別に行っても良いぞ」

「でも、そう言うことはするなって、最初言ってなかったっけ?」

「ああ、屋敷の中では、な。たまも居るし、リンネも居るから、そういうことはするなとは言った。家の外で色々とやるなら、それに関しては何も言わん」


 そう言うと、ダイアンもリアも、ぽかんとしている。

 正直な話、不純な関係なら俺も認めるわけにはいかない。面倒ごとを内部で起こされたらたまったものでは無いからな。

 だが、ダイアンもアザミも、お互いの事を真剣に愛し合っているようだ。それに関しては俺も認めていることだから、二人が、家の外でどうしようと俺から何も言うことはない。それに……


「これから、この世界はまた、ややこしい時代になるだろう。もしもの為に、心残りの無いようにするんなら、俺は別に止めない。そのあたりは好きにしろ」


 今までは平和だったが、この世界も邪神族との闘いに関して本格的に動き出す。俺は、その中心に立つことになる。

 俺に近い人間ならなおのこと、戦乱の渦に巻き込まれる可能性は高い。今のうちに、やるべきことはやっておいた方が良いと思っていた。

 ただまあ、やるならほどほどに、と言うと、ダイアンは戸惑ったままだったが、リアの方はクスっと笑みを浮かべていた。


「頭領、少し変わったんじゃない? 忙しくなりそうなのに、逆に丸くなった気がする」

「そうか? ……まあ、シロウ達の件もあるからな。多少は大目に見るさ。お前も、誰かと遊びてえなら、遊んでも良いぞ」

「……まあ、そういう相手が居たならね」


 少しばかり落ち込みながらため息をつくリア。あまり言ってはいけなかったことだったかと、ダイアンに視線を移した。


「ま、まあ、次の休みとかに誘ってみろ。俺もお前らに関しては応援するからな」

「う、うっす……まあ、その前に強くなるっすよ、頭領みたいに」

「おう、上等だ。楽しみにしてるからな」


 俺が居ない間に何かあったのだろうか。強くなる目標として俺を指すとはな。前までは若干引いていたのに、これは嬉しいことだと感じた。

 隣で、潤いが欲しいとブツブツ言っているリアに苦笑いしながら、再び天宝館を目指した。


 ◇◇◇


 さて、天宝館に着くと、ヴァルナの工房に向かった。仕事中ではあったが、あっさりと通してくれと言っていたので遠慮なく部屋に入る。

 相変わらず所せましに並べられている、世界中の騎士や戦士達の武器を眺めていると、ヴァルナは、茶を出してきた。


「昨日から帰ってきたことは聞いていたが、やっぱりムソウの背にはその刀が似合うな」

「ありがとう。そう言えば、お前から間に合わせで作ってもらった刀、折れちまったんだよな……」

「館長から聞いている。アダマンタイト斬ったときにいったらしいな。相変わらず、無茶する」


 ヴァルナは、俺が九怨を折ったことに関しては怒ってないようだ。ダイアンとリアは、何があったのかという顔で見てきたが、恥ずかしいので黙っておいた。


「そういや、昨日も何かやらかしていたみたいだな。あの時の気配は私達も感じたぞ」

「それは……すまなかったな。仕事に支障とか出たか?」

「魔力付与を担当している奴らから苦情が出た」


 げ……俺が頼もうと思っていた所には迷惑をかけた様だ。ここまで来たが、頼みづらい……。


「それで、今日は何しに来たんだ? お前ら三人とも、依頼の帰りってわけじゃなさそうだが……?」


 しかしヴァルナはお構いなしに、俺達に用事を聞いてくる。

 俺は、ため息をつきながら、髪飾りへの魔力付与と、モンクで買ってきた素材を使って、闘鬼神の装備の新調や改善、そして、俺の装備の一新を頼んだ。

 ヴァルナは、ふむ、と頷きながら、俺の装備の状態を確かめる。


「確かにクレナで起こった事件である程度傷んではいたが、困ることは無いと思うんだがな……」

「修繕が完璧だったからな。ただ、鎧はまだしもよく使う手甲と、毎日着る着物と羽織は傷むのが早くなっている気がする」

「確かに……な。ギリアンも、まさかお前が天災級の相手をするとは思わずに作っていただろうからな。新しくするなら、強化の方向で作り直した方が良いか」


 ある程度状態を確認した後は、モンクでは何を買ったのか確認していく。大まかな素材は、未だ残っている九頭龍の素材を使うことにはなりそうだが、細かなものはそこから代用するようだ。

 色々と目星をつけた後、ヴァルナは満足したのか、ニカっと笑った。


「ふむ、結構良いものを買ってきたようだな。数も種類にそれなりにあるし、館長と話し合いながらゆっくりとやっていくとしよう。一応、全部預かっても良いか?」

「ああ。昨日の件で、爺さんやコイツ等に叱られてな。しばらく自宅で謹慎だ」


 そう言うと、ヴァルナは爆笑しながら俺の装備を仕舞った。

 そして、ダイアン、リアと牙の旅団の装備について話し合っていく。一応、昨日ロウがハルキに言っていたように、牙の旅団の武具はすでに、受け継いだ人間のものになっている。

 元が「零の刀」とはいえ、ダイアン達がどのように強くなっていきたいかは本人に任せるという事なので、どのような力が欲しいのか、二人はヴァルナに相談していった。

 特にリアの熱量は凄かった。ヴァルナも少し戸惑っている。


「取りあえず、属性付与はして欲しいわね。いろんな局面に応えられるように。それから、矢を気で作る時の効率をもう少し早く出来ると良いかな。エンミさんはどうにかなったかも知れないけど、私は、威力は要らないから、素早く撃てれば良いかな」

「強力な一本よりも速射ってことか……状態異常攻撃付与が、大毒蛾、レッドポイズンフロッグの素材から出来そうだな」


 リアの弓がなかなか危ない感じになりそうだ。取り扱いにはしっかり気をつけろと、俺とダイアンで言っておいたが、リアは、ロロが居るから大丈夫でしょと言いながら、ヴァルナの提案に頷いていく。

 まあ、手数が多いことは良いことだからな。戦況が変わって行く度に冷静に判断できるリアらしい戦い方も出来るし、何より本人が望んでいるから良いかと思いながら、見守っていた。

 ダイアンの方は、装備に関しても、ソウマの手甲に関しても、獣人らしい戦い方が出来るようにとの要望が多い。特に手甲に関しては、今のままだと獣化した時に体に合わなくなる可能性もあるので、出来ればリンネの服のように、体に合わせて形を変えるものにしたいと言っていた。


「ふむ……それは、私には難しそうだな。魔力に還元したり出来る着物はまだしも、武具はな……館長の帰りを待つとしよう」

「は、はあ、お願いするっす。ついでに、リンネちゃんみたいな服も欲しいっすね。最近、狂気スキルの熟練度が上がって、獣化すると体が一回りデカくなったりもするようなんで……」

「へえ、それは凄いな。大概の魔人は狂気スキルの熟練度を上げる前に挫折するってのに……」

「まあ……頭領みたいに強くなるって決めたんで」

「そ、そりゃ……大したもんだ……」


 決めたぜ! と言わんばかりの顔のダイアンだったが、ヴァルナは若干引き、俺に目を向けてきて、リアが呆れたようにため息をついていた。

 俺にそう言ってくれるのは嬉しいが、俺の前で他人に言われるのは、何となく恥ずかしいので俺は下を向いた。


 そして、ダイアンとリアの話を纏めたヴァルナは、他の奴らの話もよく聞いておきたいとのことなので、牙の旅団の武具を継ぐ者達に、天宝館に来てくれという伝言を残した。

 その際に俺は、それ以外の者達に新しく、今よりも強力な武具を作ってくれと頼んだ。首を傾げる三人に、全員の力に差が出ないようにするためだと説明すると納得してくれた。

 今持っているものは、名刀級が多いが、出来れば魔刀級をと頼むと、ヴァルナは戸惑いつつも、腕が鳴ると引き受けてくれた。


 さて、俺と闘鬼神の装備についての話はこれで終わった。次に……と、リンネとツバキが作ってくれた髪飾りをヴァルナに手渡した。ヴァルナも、笑みを浮かべながら髪飾りを眺めている。


「へえ……これをあの二人がね。素人の割に良い出来じゃねえか。ムソウも幸せ者だな」

「まあな。それで、それに効果付与をして欲しいんだが……?」

「あいよ。さっき話した職人に渡しておく。一応聞いておくが、どんな効果が欲しい?」

「汚れて欲しくないから防汚と……あと、妖狐の素材から引き出される効果ってのも興味があるな」

「ふむ……それだと時間が掛かるな。館長が帰った後でも良いか?」


 ん? 意外と難しい作業なのかと聞くと、ヴァルナ曰く、妖狐は珍しい魔物で、今まで素材として使われたことが無いので、どういう力が引き出せるのか分からないらしい。無理に引き出そうとしても、素材の方が壊れてしまうという。

 なので、初見のものでも、万物の状態が分かるという特殊能力を持つコモンが居ないと、リンネの素材からどういう力を引き出せるのか分からないという事で、天上の儀が終わるまで待ってほしいとのことだ。


「てことは、一週間ほどかかるってことか……それなら良いぞ。そんなに急ぐ話でも無いからな」

「助かる。それ以外に出来る付与は行っておくから、これは預かっておくな」

「壊したら許さねえからな……」


 少し声を低くして脅すように言うと、ヴァルナは、ビクッとしながら慌てて頷いた。


 さて、取りあえず話したいことも全て終わったので、俺達は天宝館を出た。

 意外と早く済んだなあと思い、ついでなのでダイアンとリアはギルドで明日取り組む依頼を受注しに行って、俺はそれについていった。今の所、どういう依頼があるのかというのは気になるからな。

 ケアルが死んだからと言っても、まだまだクレナの魔物の被害は多いらしい。それに、これから田植えから稲刈りも始まっていくので、そのあたりの対策も増えるとのこと。

 依頼票にはそれなりの数の依頼が貼られていた。今は朝なのか、冒険者の数は少ない。ダイアンとリアも、相応な依頼を選んでいた。


「ダイアンは、トロルの討伐か。場所は……シンコウ山? てことは明日から遠征か?」

「そっすね。何人か連れて行くっす」

「トロルは汚ねえからな。しっかりと準備して行けよ」

「……そっすね。頭領が来てくれりゃ、楽なんすけど……うちの水で対処するっす」

「リアは……また、あの樹海か。なかなか減らねえなあ」

「ほとんどが昆虫型だからね。殲滅は厳しいかもだけど、あれから何回か行ってるから、慣れてるわ。私も他に誘って行くから、今回も大丈夫よ」

「気配の探知は上手くいっているか?」

「だいぶ慣れてきたかな。一応、仲間の気配は分かるくらいにはなってきた」


 ふむ、ダイアンもリアも、だいぶ成長しているようだな。何となく安心する。俺も一緒に行きたいところだが、全部任せるとしよう。

 謹慎が解けたら一緒に行けるものは行くと二人に言ったが、以前のように難色を示されることは無かった。成長してんだなと実感し、ミオンの所に向かう。


「あ、ムソウさん。それに、ダイアンさんとリアさんも、お疲れ様です」

「おう。今日はこの二人の手続きだ。よろしくな」


 ミオンは、かしこまりましたと頷き、受注の手続きを行った。依頼に行く人数を決めて支給品を受け取り、ギルドを後にしようとした時、ミオンに呼び止められる。


「あ、ムソウさん、少しお時間よろしいですか?」

「ん? どうした?」

「えっと……特別依頼への挑戦者が現れましたので、明日の午前中に来ていただきたいのですが……?」


 ミオンの言葉に、俺達は目を丸くする。俺を討伐したら金貨1000枚という、あの依頼を受注した人間が現れたらしい。

 闘鬼神では無いという事は確実だ。そんな話聞いていないからな。ひとまず三人で、詳細を聞いてみた。


「一体どこのもの好きだ? 頭領と闘いたいなんて」

「代表者は最近、他の地から来た冒険者の方なんですけど、ムソウさんがこの街に帰ってきたことを知ると、いくつかのパーティと連合で、こちらの依頼に挑みたいとのことです」

「何人くらいいるの? その無謀な人達って」

「六パーティの、25人ですね。以前の、冒険者もどきの方々よりは、数は少なくとも、難しい依頼もこなしてくださる手練れの方々です」


 という事は、金目当てではなく興味本位や、腕試しと言うことか。外から来た者達ならば、俺の事をあまり知らないから、何となくと言った感じなのだろうか。

 モンクでも噂になっていたから、当分は無いと思っていたが、結構早めに挑戦者が来たな。噂の真偽を確かめたいという意思もあるのだろう。


 さて……こういう場合はどういう処理をすれば良いのか分からなくなるな。ミオンによると、俺達に食って掛かった奴らよりは真面目にやっているらしいし、運が良ければ一攫千金と考えている感じだ。

 最初の奴らのように、適当には相手できない。かと言って、金貨1000枚をポンと渡すのは嫌だ。また、ツバキに怒られる。

 なら、向こうも困らないくらいに暴れるということで、特別依頼を承認した。


「分かった。じゃあ、明日の朝ここに来るからな。受注した奴にはそう伝えておけ」

「はい、かしこまりました」

「で、結局、どんな奴なんだ? 依頼に挑戦したいって言うその、代表者は」


 相手方の事を知っておこうと思い、ミオンにそう尋ねた。ミオンは、ごそごそと机の上の書類を確認し口を開く。


「え~と、モンクから来られた――」


 しかし、その瞬間、不意に俺達の背後から男の声が聞こえてくる。


「俺だ。冒険者ザンキ……いや、“闘鬼神頭領”のムソウさん」

「「「ッ!?」」」


 いきなり声が聞こえたものだから、俺達は慌てて振り返る。


 そこに立っていたのは、腰に二振りの短刀を身に着けた軽装の冒険者……俺が、モンクで知り合った、“影無し”の異名を持つ冒険者、バッカスだった。


 呆然としていると、バッカスは笑いながら、俺に話しかけてきた。


「何、驚いてんだ? アンタの正体をこっちに来て知った俺達の方がよほど驚いたんだぞ」

「……あ、ああ、そうか……ちょっと待ってくれ、落ち着くから」


 ひとまず息を整えて、俺は落ち着きを取り戻しながら、取りあえず、ダイアンとリアにバッカスの事について紹介し、二人も段々と落ち着いていった。完全に気配がしていなかっただけに、俺もリアも驚いていたが、それが面白かったようで、バッカスは笑っていた。


「それで……俺の事については?」

「ああ、例の天宝館の奴に聞いた。最初は信じられなかったが、この街に来たら、やたらその紋が入った着物を着ている奴らを見るし、旗が掲げられた家もあるし、どういうことかと、コモン様に聞いたら、あっさりと教えてくれたってわけだ。事情も聞いたし、嘘をついたことに関しては怒ってないぞ」

「そうか。それは、ありがたい」

「モンクはどうだったよ? 楽しめたか?」


 俺は頷き、そのまま、互いの近況報告を行った。モンクで色々あったことについては、バッカス達は知らなかったらしく大層驚いていたが、ひとまずカジノは無事だと伝えるとホッとしていた。

 そして、ジーゴがカジノで勝っていき、鉄球を取り戻したのは良いが、依頼でやらかして、若干の懲罰を受けている旨を話すと、驚きながらも笑っていた。


「アイツも馬鹿だな。カジノで勝ってんだから、変な依頼に飛び込まずに、俺みたいに地道にやって稼げば良かったものを」


 よく見ると、バッカス一行の装備は、モンクに居た頃よりも良くなっていた。聞けば、こっちに来てからは、まずはひたすらに依頼をこなし、金を稼いで、その金で天宝館の武具を揃えたらしい。

 後は、更に難しい依頼をこなし、金を稼ぎ、高天ヶ原で遊び、依頼をこなし、と繰り返しながら滞在しているという。

 遊んでも金は残すというやり方に、ダイアンからは羨望の眼差しが向けられている。いや、そこはお前もきちんとしてくれ。


「で、昨日か。アンタが帰ってきたことを知って、あの依頼をやりたくてな。何人か仲良くなった奴らを集めて受注したってわけだ」

「ほう……良いのか? 大変なことになるぞ?」


 そう言うと、バッカスは腹を抱えて笑った。


「ハッハッハ! 上等だ。天災級を屠った力ってのは興味があるからな。俺も死なないように楽しみにしているところだ」


 意外にも、俺と闘うことに関しては前向きな態度のバッカス。それでも舐めては居ないようだ。俺の実力を分かったうえで、依頼に取り組む辺り、それなりの自信はあるらしい。

 バッカスの仲間達は少々苦い顔をしているが、補佐らしき弓使いの女も不敵な笑みを見せている。がぜん、どういう戦いを仕掛けてくるのか楽しみになってきた。


「分かった。じゃあ、俺も相応に相手をしてやるから覚悟しな」

「おう! で、それが終わったら一緒に依頼を、と思ったが、ムソウも何かやらかして謹慎らしいじゃねえか。ショウブ支部長代理に聞いたぜ。だから、出来ればアンタらの依頼についていきたいんだが、構わねえか?」


 そう言って、バッカスはダイアンとリアに目を向ける。俺の代わりに闘鬼神をって事か。俺からは特に文句は無いと二人に頷くと、ダイアンとリアは少々驚いたような顔をしていた。


「え……ありがたいんすけど、大丈夫っすか? 頭領と闘った後に出発ってのは……」

「その辺は心配すんな。依頼の場所までは遠いからそこに行くまでに傷も疲れも癒せばいいだけだ」

「依頼の内容は大丈夫? 知らないでしょ?」

「上級までなら余裕だ。超級だと話が変わってくるが、さっき見た所だと、超級の依頼は無かったはずだ。なら、大丈夫だ」


 問題ないよな、とバッカスは他の仲間達にも確認したが、全員、コクっと頷く。何とも頼もしい一行だな。

 ダイアンとリアは、しばらく相談し、バッカス達に頷いた。


「了解っす! じゃあ、皆さんのお力は明日確認するとして、どっちの依頼に来てもらうかはその時に伝えるっす」

「せいぜい、頭領との闘いでばてないようにね」

「ハハハ! 肝の据わった姉ちゃんだな。上等だ、楽しみにしておくぜ。じゃあ、俺達は明日に備えて、今日は高天ヶ原にでも繰り出すとしよう。じゃあな、ムソウ」

「ああ。明日を楽しみにしてな」


 少しばかり死神の鬼迫を当てながらそう言うと、バッカスは目を見開くが、すぐに笑い、お~怖い、と言いながらギルドを出ていった。ああいう反応は初めてだなと頭を掻いた。


 その後、ミオンと、特別依頼の打ち合わせを行い、俺達もギルドを出ていった。

 ダイアンとリアは、バッカスと言う男について、色々と聞いてきたが、俺もそこまで関わったわけではないのでよく知らない。

 ただ、異名が付いているくらいだから、腕はあるだろうと言うと、確かに直前まで気配は感じなかったと、リアは真剣な顔つきになっていた。

 恐らく隠蔽スキルだろうが、かなりの熟練者の可能性が高い。俺も、明日の闘いには、きっちりと備えることにしよう。


 ◇◇◇


 その後、屋敷に帰った後は昼飯を食べて牙の旅団の後継者となる者達とツバキの鍛錬に付き合った。俺も装備が無いからほどほどにと言ったが、全員、死に物狂いで俺に向かってくる。

 特にハルキの気迫が凄い。カドルとロウに見守られながら、何度も俺に向かってくる。


「く、喰らええええ!」

「フンッ! 踏み込みが甘え!」


 思いっきり突かれてくる穂先を握り、ハルキの動きを止める。そして、腹に剛掌波を当てると、悲鳴を上げながら吹っ飛んでいった。


「ハルキ! 掴まれても穂先から気を放てって何度も言ってんだろう!」

「ムソウ殿には警戒に警戒を重ね、更に準備をしてから挑むのだ!」

「う、うっす! うらああああ! 奥義・龍尾一閃!」


 ロウとカドルの言葉を聞き、今度は槍から極太の気を放ってきた。ジゲンも言っていたが、この技は威力は大きいが、隙は多い。普通に躱すと、その先に居たチャンとダイアン、それに、スキルでハルキの奥義を防いだツバキが、怒号を上げる。


「おい、ハルキ! よく狙ってから撃て!」

「危なかったぞ! ツバキさんが居なかったらどうなっていたことか!」

「余計な手間を掛けさせないでください!」


 ダイアンとチャンはともかく、ツバキにまで怒られたハルキはシュンとする。なんか可哀そうになって来たなと思っていると、空を切る音と同時に矢が飛んできた。


「おっと!」

「くっ! 防がれた! でも……ルイ! 頼んだよ!」


 矢を放ってきたのはリア。仕留めるつもりだったのか、かなり悔しそうだ。

 直後にリアは、ルイに指示を出す。それに頷いたルイは、シズネの鞭を振るった。

 俺は、その鞭の先を難なく掴んで、攻撃が及ばないようにしたが、その先から気で出来た縄が飛び出し、俺の体をぐるぐると拘束していった。


「やった! 今よ! 皆――」

「猪口才な! オラアアアッッッ!!!」


 気合を入れて、拘束を解くと同時に、気の塊を地面に叩きつける。足元の破片が俺を取り囲むように襲ってきたダイアン、チャン、チョウシ、ハルキ、ツバキに襲い掛かった。


「あぐっ!」

「まだです! ハアッ!」

「む! オラアッ!」


 スキルで自らの顔の部分を護っていたツバキには目くらましにもならず、そのまま突っ込んでくる。

 いわゆる抜刀術の構えだったので、ツバキの腕を掴み、そのまま阻止。ハッとしたツバキは一歩下がり、刀を抜いて再び向かってきた。

 俺も無間を抜いて応戦する。相変わらずの速さに、更に磨きがかかり、手数が多いツバキに苦労していた。


「ハアッ!」

「ウラアアアアッ!」


 その間にも、態勢を立て直したダイアンと、遠方からリアが、ツバキの攻撃の合間合間に、俺に攻撃を仕掛けてくる。

 三人に集中していると、更にチャン、チョウシ、ハルキも加わり、それなりに忙しくなってきた。


「面倒だな……!」


 ―死神の鬼迫―


「ゔッ! はッ!?」

「まずは……お前から!」


 鬼迫に体を硬直させたチャンの腹に少し強い一撃を叩き込み、その体を吹っ飛ばした。


「次!」

「なッ!? ……え?」

「しまっ……がはっ!」


 動揺したチョウシにもキツイ一撃を入れる……と見せかけて、チョウシの前に障壁を貼り出そうとしたツバキの腹に無間の峰を当てて黙らせた。

 そして、護り役が居なくなった他の奴らも戦闘不能にさせて行くが、未だリアの援護射撃は止まない。

 俺は、最後に立っていたダイアンの襟首を掴み、リアの方に投げる。


「うおおお~~~っっっ!?」

「ちょ、邪魔――」


 避けるわけにもいかず、リアはダイアンを受け止めるが反動で、二人して地面に倒れて行った。

 二人に近づいていこうとする俺を阻止するために前に出たルイは鞭を振るってくるが、それをすり抜け、ルイの顔を掴む。


「むぐ!?」

「少し痛えが、我慢しろ!」


 そのまま地面に叩きつけて戦闘不能にした後、立ち上がろうとするリアの首先に無間を突きつけた。


「くっ……」

「これで……終わり、だ」


 ひとまず手合わせを終わらせて、全員に回復薬を配っていった。牙の旅団やカドル達が惜しかったなどと言っているが、本人たちは、大きなため息をつきながら、俺に文句を言ってくる。


「頭領~、鍛錬とはいえ、厳し過ぎっすよ~」

「ツバキさんにまで容赦ないなんて驚いたわよ」

「私も……まさか、あそこでやられるとは……」

「女を叩きつけるなんて、最低よ……」


 特にルイからの殺気が凄い。チャン達からもせめて武器は振らせろという苦情が届いたが、俺も、稽古中に思っていたことを皆にぶつけた。


「あのな、お前らも俺の事、本気で殺す気だったろ! 特にハルキ! 洞窟内であんな技使うんじゃねえ! 崩れたら大変だろうが!」

「え~……本気で来いって言ったじゃないっすか。それにツバキさんも居るし、カドル様とロウさんに言われたし……」

「アホか! それで苦労したのはツバキとダイアンとチャンだぞ! ロウの悪いところは真似すんな!」


 俺の言葉に、異議を唱えようとするハルキとロウだったが、他の牙の旅団の者達とツバキ達はうんうんと頷いている。

どうも、あの槍を手にする者と言うのは、目立ちたがりと言うか、周りが見えない性分となるらしい。ジゲンやエンミから聞いていたが、ロウも昔はそんな感じだったらしく、隙が大きいあの技を放つのは良いが、防がれるのは無かったにしろ、躱されたりした時の尻ぬぐいは、他の人間がやっていたという。

 そこは真似してほしくないし、状況に応じて、どんな技を使えば良いのかという判断はしっかりして欲しいものだとハルキ含め、全員に説明した。


「俺も、そこまで大きな技を使ってないだろ? 洞窟が崩れるし、下手すりゃ、お前らを殺してしまうからだ。お前らはやりすぎと言うが、そこまで本気じゃないから安心しろ」

「出来ねえっすよ……」

「明日のバッカスさん達が心配になって来たわ……」


 俺の言葉に、一同ため息で返す。何で、普通に鍛錬している時は生き生きしているのに、俺が相手になるとこうなるのか……。まあ、気持ちは分からんでもないけどな。

 そして、一通り、全員の気になることを指摘した後、俺は無間を抜いて未だ座り込む皆に構えた。


「おら、休憩は充分だろ。次行くぞ」


 まだ時間はあるという事で、もう少し体を動かしたい俺は、皆にそう促したが、誰も立とうとしなかった。


「おいおい、どうした? もうへばったのか? お前らがそうだと、牙の旅団も不安になるぞ?」


 少しばかり挑発してみたが、誰も立たない。

 すると、何故かツバキの周りに集まっていき、何かコソコソと話し出した。


 ツバキは皆の言葉にコクっと頷き、立ち上がってニコッと笑った。


「ムソウ様、私達はもう少し休息しておきます。ですので、その間はこちらに任せます」


 そう言いながら、斬鬼を抜くツバキ。気を貯めていたのだろうか、斬鬼の刀身は光を放っていた。

 それと同時に伝わってくる強い気配。俺は、あ、と思って慌ててツバキの動きを止めようとする。


「い、いや、ツバキ! それはまだ良いから、充分に休憩を――」

「もう遅いです! 奥義・闘鬼神!!!」

 ―ウオオオオオオオ~~~ッッッ!!!―


 俺の言葉を遮り、ツバキは偶像術を発動した。斬鬼から雄たけびを上げながら、エンヤが飛び出してくる。

 エンヤはそのまま大刀を振り上げて、俺に斬りかかってきた。慌ててそれを止めると、エンヤはニカっと笑みを浮かべる。


「オラァッ! こっからは、俺が直々にテメエに稽古をつけてやる! 覚悟しろ!」

「お前が暴れてえだけだろうが! 殺す気か!?」

「殺す気でやれって言ってんのはテメエだろうが!」


 エンヤはそう言いながら、大刀を振り抜き、そのまま斬波を放ってくる。俺の体は吹っ飛んでいき、洞窟の壁に激突した。


「クッ! 舐めんな! クソが!」

「ガフッ!」


 追撃を仕掛けてくるエンヤに、俺も向かっていき、無間を振った。大きな金属音と共にエンヤを地面に叩きつけ、追撃を仕掛けるが躱される。その場で、何合か打ち合ったが、一瞬の隙を突き、重たい一撃を叩きこまれ、俺の構えが少し開く。


「喰らえ!」

「ぬう! オラアッ!」


 斬りかかって来るエンヤの顔に回し蹴りを叩き込み、態勢を崩すと同時に距離を取った。楽しそうなエンヤに無間を構え直すと、その背後でくつろいでいるツバキ達の姿が目に移る。


「これでしばらくは大丈夫そうっすね。ツバキさん、体調は大丈夫っすか?」

「ありがとうございます。やはり、少し気だるい感じがしますね」

「私達と戦う時に、エンヤ様を召喚した場合は、こうやってツバキさんの身を護った方が良いってことね」

「はい、お願いします」

「俺達も巻き込まれたくないからな……にしても、改めて見ても凄まじいな、頭領の頭領」

「ややこしい言い方ね。エンヤ様で良いでしょ」

「エンヤ様……しばらく、お願いします……俺達はもう少し休憩して、その後に頭領とやります……」

「おう! 任せろ! その間、作戦でも立てとけ!」


 皆の言葉に大きく頷くエンヤは、更にもう一本の大刀を手にして二刀流となった。あいつ等にも優しいというのは何となく癪な気持ちとなるな。

 思わずため息をつくが、直後エンヤは、同じくくつろいでいる牙の旅団と、カドルの方にギロッと目を向けた。


「おい……テメエらは動けよ。人にもの教えるんなら、その前に手本を示せ。俺と一緒にコイツを疲れさせるぞ、早くしろ」


 そう言われたコウシ達は、目を丸くして呆然とする。


「え……いや、俺達は見てるだけで……そもそもこれから強くなったところで……」

「あ? 刀精が宿る武具の偶像術は、術者だけでなく、刀精の魂の強さも影響するんだ。お前らも多少は今よりもマシになっとけ」

「いや、エンヤ殿。その理屈だと、我は闘わなくとも良いのでは?」

「寧ろ、お前は闘えよ。邪神族殲滅を前にしてんだからよ。おら、とっとと動け! あんまり何もしねえと、俺がテメエらの相手をするぞ!」

「え、エンヤ様、私とエンミは女だし、外れても良いわよね?」

「俺も女だ! テメエら、俺の領地の末裔だろうが! つべこべ言わずに戦え!」


 そう言いながら、コウシ達の方向に大刀を掲げて斬波を放つ準備をするエンヤ。ぎょっとした牙の旅団の面々はダイアン達から一時的に武器を返してもらい、カドルと共に俺に向かってきた。

 エンヤが優しくなる対象の違いがよく分からない。そんなことを思いながらも、これから闘う奴らを見回した。

 エンヤに加え、あいつ等が混ざると流石にやばい。特にカドルは駄目だ。本腰を入れてやろうと、俺は鬼人化した。


「面白え……かかって来な! 牙の旅団!」

「向こうもああ言ってる。行くぞ、末裔共!」

「く、くそ! なるようになれ! ウオオオ~~~ッッッ!」

「……ジロウに後で文句言ってやる」

「お、お手柔らかにな、ムソウ殿!」


 そして、俺は牙の旅団とカドル、エンヤ達の相手をし、満身創痍の状態で、その後ツバキ達とも戦い、明日バッカス達とも戦うというのに、予想外の疲労が貯まった状態で、夕方、帰ってきたジゲンに、


「今日も強い気配を感じたのお……」


 と、カドルと共に説教を食らう羽目になった。


 その横で牙の旅団の者達も、


「儂も参加したかったのお……」


 と、ジゲンに小言を言われていた。


 更にその横でツバキ達までも、


「何故、ムソウ殿を抑えられなかったのか……」


 と、説教を受けていて、リンネとたま、女中達からはクスクスと笑われていた。


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