第356話―コウカと今後の事を話す―
さて、トウショウの里の下街を祠の方に向けて歩いていくが、やはり人は増えたような気はしている。特に冒険者の姿は明らかに、ここ数日で増えた様だ。
その分、街を護る自警団の数も増えているらしく、何人かに声をかけられた。
モンクへの旅から帰ってきたことなどを伝えると、シロウに知らせると言って、笑っているジロウ一家の者達。
ついでに、ナズナとの婚約におめでとうと伝えておいてくれと言うと、皆、スッキリとした顔で頷いている。
「長かったすね……」
「そうだな。結局俺は、何もせずに終わったな」
「そうっすね」
最初は手紙のやり取りから、と言うことで始まり、俺がそれぞれからの手紙を渡していく流れだったが、自由に行き来出来るようになったこの街で、俺が何かする理由も無くなった。
こういうところからも、あの門が無くなって本当に良かったと感じている。
「そういや、爺さんから高天ヶ原が新しくなって忙しくなっていると聞いたが、二人は大丈夫なのか?」
「そいつはご心配なく。先代頭領さんのおかげで、二人が居る時間も増えているっすよ」
「多分、今日も二人で会ってんじゃないっすかね。朝からウキウキにどっかに行ってたっすよ」
それは何よりだと、皆で笑った。ジゲンに婚約の報告をした後は、皆の助力もあってだが、二人で会う時間を増やしているという。
時には街の外に二人で出たりと、会えなかった時間を埋めるように過ごしているらしい。
仲が睦まじいことで、様子を見守るこっちも何だかむず痒くなってくるな。
祝言まで、皆で準備を整えておこうと自警団の者達と決めた後、再び祠を目指して進んでいく。
すると、今度はうちの女中たちの買い物に鉢合わせた。数人の女中達と冒険者の中にたまも居る。魚屋の前で、何を買おうかと視線を移しているうちに、俺と目が合った。
「あ! おじちゃんだ~!」
たまは、タッタッタと駆け寄ってきて、飛びついてくる。
「おっと、元気だったか? たま」
「うん! おかえりなさ~い!」
「おう、帰って来たぞ。お前らも、お疲れ。変わりはないか?」
「はい。皆で頭領のお帰りをお待ちしておりました」
最初に決めていた、家を開ける期間を延ばして、本当にすまなかったと思うが、皆は許してくれた。
ふと、一人の女中が、きょろきょろと辺りを見渡し、首を傾げていることに気付く。
「あの、ツバキさん達はどこですか~?」
「二人は高天ヶ原に土産を持って行っている。皆にもあるから楽しみにしてな」
そう言うと、皆は安心したように目を輝かせる。たまも、寂しがるかと思ったが、そう言うことなら納得と言った顔で、頷いていた。
「リンネちゃん、元気だった?」
「ああ。早くお前の料理を食べたいと言っていたから、今日は一層腕を振るってくれよ」
「うん! 頑張るよ、私!」
大きく胸を張りながらやる気を見せるたま。久しぶりにたまの飯が食えるのなら、俺も楽しみだ。皆が俺達の土産に期待している分、俺もきちんと期待しておこう。
「それで、頭領は何してんすか? 屋敷とは反対方向っすけど」
「少し祠に用事があってな。夕方には帰る」
「了解っす。ダイアンとアザミさんに伝えとくっすね」
たま達に、今日帰って来たという言伝を頼み、皆と別れた。
俺が居なくても、きちんとしていると言うことに、若干の寂しさを覚えつつも安心した。これなら、次の旅も気兼ねなく行けそうだ。
さて、そのまま下街を歩いていくと、建物が減っていき、段々と木々が生えてくるようになる。街中は騒がしかったというのに、ここは静かなんだなと思っているうちに、看板が見えてくる。
祠の方に進んでいくと、祠に続く道に軒を連ねる露店に、冒険者達が集まっていて、段々と騒がしくなってきた。
以前、皆で来た時は客が居なくて泣いていた店の人間達も、顔が明るい。街全体が活気づいていていて、新参者ではあるが、住民として何だか嬉しくなるな。
昼飯代わりに露店で食事を済ませた後、俺は祠の中に入っていった。
洞窟の中にも冒険者達の数は多い。刀精に会いに来たという気持ちは分かるが、刀精が、持ち主の力を具現化したようなものと知っている俺としては、少し可笑しな気持ちになってくるが気にせず、奥の広間へと進んでいく。
刀精の間では、あちこちで自分の得物を掲げては、刀精と触れ合っている冒険者の姿を見かける。これだけ多いと、エンヤ達が目立つなと思い、人が減るのを待っていた。
そして、その場に居た者が俺以外に居ないことを確認し、斬鬼と、ツバキの簪、そして、コウカを象った人形を取り出した。
どれも、うずうずしているという様子で、光を点滅させている。
「よし……もう良いぞ、お前ら」
辺りの気配も探り、大丈夫だということを伝えると、それぞれの魂が宿った依り代が光を増し、洞窟内を照らす。
それが収まると、目の前にハルマサとエンヤが……
「オラッ!」
「うおっと!」
ふう、と一息漏らすエンヤに、拳を打ち込む。もう少しで殴ることが出来たのに、エンヤはそれを躱した。
「なっ……いきなり何しやがる!?」
「チッ、外したか……」
もう少し強めに行けば良かったと思っていると、激怒したエンヤが詰め寄ってきた。
「話聞け! 何しやがるんだ!?」
「いつものお返しだ。驚いたか?」
「驚くに決まってんだろ! 大体――」
「それより、ツバキは……ああ、そこか」
何か喚いているエンヤとそれをなだめているハルマサは放っておき、辺りを見渡すと、ちっこいツバキと、その横にコウカが立っていた。
ツバキは、コウカの姿をジーっと眺めている。
「ん? どうしたの?」
「コウカ……久しぶり……」
そう言って、ツバキはコウカを抱きしめた。コウカはフッと笑って、ツバキの頭を撫でる。
「うん……久しぶり、ツバキさん。元気だった?」
「……ぼちぼち」
「そう……相変わらず、無口なんだね。ハルマサさんも、久しぶり」
「あ、ああ。事情はあの時聞いていたから、もう良いが……本当にコウカ様、なんだな」
ハルマサはコウカの姿をじっくり見回し、本物かどうか確認しているようだ。
すると、コウカは少し恥じらいながら顔を隠す仕草をする。
「……そんなに見ないで」
「妻の前で……それは……無い」
嫌がるコウカの前に立ち、ムスッとした顔のツバキ。二人を見ながら、ハルマサは、あ、と言う顔をするが、すぐにやれやれと頭を掻く。
「やめろ、それ。俺達、もう良い歳なんだからよ。ツバキもだ」
ツバキの首根っこを掴んで、コウカから引きはがすハルマサ。コウカはクスクス笑ってハルマサに頭を下げていた。謝る気は毛頭ないという顔だな。
ハルマサとツバキ、それにエンヤは間違いなくコウカ本人だと納得し、俺に目を向けてきた。
「似てんだろ?」
「ああ……そうだな」
悪戯成功と言わんばかりに、ツバキと笑い合っている姿を見て、本質はこういう性格だったのかと、何となくため息が出た。
「それで……ここが刀精の祠……この街が頭領さんとタカナリさんの領地……か」
洞窟内を見渡しながら、そう呟くコウカに、エンヤが頷いた。
「そのようだ。俺達が治めていた土地に精霊族が住んでいたというのは、あまり聞いたことが無かったけどな」
「数も少なかったからね。それでも、これだけ波動が残っているってことは、結構長く居たってことになるね。街の方は後から出来たのかな」
「多分な。この街が出来たのは、今よりも十代くらい前の領主の頃らしい。元々は今で言うシンムの里辺りに俺達の家と街があったな」
その話は初めて聞いたな。ただ、まあエンヤ達の時代から数千年経っているわけだし、それくらいの事は普通に起こるか。
エンヤ曰く、アヤメの十代前の先祖が、ここに来た時は精霊族と精霊人もこの地には居たらしく、その時の領主は、その精霊人と子を成したと、タカナリが言っていたらしい。
となると、ジゲンの目も、その名残なのかも知れないな。
「……あのお爺さん、頭領さんの子孫なんだ。道理で……」
「道理でって?」
内面はともかく、見た目では二人の関係は分かりづらい。しかし、コウカはジゲンに何か感じていたようだ。何を感じたのか聞くと、コウカはクスっと笑った。
「あのお爺さん、凄く強いでしょ。多分、この世界では一番、かな。凄く強靭な魂だった」
「あ、やっぱりわかるんだな。世界で一番かどうかは分からないが、アイツより強い爺さんを見たことが無いからそうなんだろうな」
「あの人の魂は凄く強靭なものだったからね。ザンキやシンラと同じくらい、ね。他にも、私達の子孫って今も居るの?」
「確認が取れているところだと、人界王がお前やカンナの子孫だ。それから、会ったことは無いが、ジーンって男がレシアの末裔って話はシンキから聞いたな」
エンヤ曰く、レシアと言う男は、ジーンが持つEXスキル、先見の明の前の持ち主とのことで、同じく少し先の未来を予言し、戦の上では邪神族が攻撃を仕掛ける場所を当てて、そこに住む者達を救助したり、王政においては、自然災害などが発生する前に、防災機能を整えたりしていたという。
100年戦争を元にしたおとぎ話で出てくる冒険家は実在していて、ソイツの娘が嫁いだ先が、そのレシアの末裔だった。ジーンはその家から生まれてきているので、ジーンもまた、エンヤ達の仲間の末裔と言うことになる。
コウカは、しみじみといった感じに頷いていた。
「他にも探したら居そうだね」
「どうだろうな……本当に、あれから結構な時間が経っている。俺達もノアに護られながら、2000年くらいまでは数えたが、実際にどのくらいかはよく分からない」
「あ、そう言えば、ノアちゃんは?」
「ノアは……」
コウカの問いに、少し影を落とすエンヤ、ハルマサ、ツバキ。俯きながら首を横に振る仕草を見て、コウカも少しだけ落ち込んだ。
ノア……確か、エンヤ達の魂をこの時代まで残していた神獣だったな。神獣や龍族が依り代の力を使い、魂を生き永らえさせた場合、相当な力を使うとカドルが言っていた。長くなれば、文字通り命を削る結果となり、だからこそ、牙の旅団もカドルから離れて、刀精になるという道を選んだ。
エンヤ達の様子から、その、ノアと言う神獣も死んだんだろうということが分かった。
邪神大戦の時代から、この時代までエンヤ達を護っていた存在だ。皆の悲しいだろうなと思っていると、何かに気付いたように、コウカが口を開いた。
「……ひょっとして、あの子……ノアちゃんの?」
「ああ……そうだ……」
「……そう」
何の話だろうと気になったが、深く突っ込むのは悪い気がするので黙っていたが、話を聞く限り、ノアの関係者のような奴は居るようだ。いずれ会ってみたいし、コイツ等にも会わせてやりたいものである。
そんなことを思っていると、ハルマサが口を開く。
「っと、まあ、今の世界の事や俺達の事はおいおい話すとして、コウカ様はこれからどうすんだい?」
空気を読まないのが短所のハルマサだが、こういう時は良いように発動するな。というか、重い空気が耐え切れなかったのだろう。手をパンパンと叩きながら、助けを求めるように俺をちらちらと見ていた。
「まあ、ツバキの家で大体は決めたが、シンキに事情を話して、その後はアイツに任せるってことで良いよな?」
「む……」
そう言って、コウカを見ると、どこか不服そうな顔をしていた。
「納得していないみたいだぞ……」
深くため息をつくエンヤ。コウカが納得していなくても、こちらではそう進める予定だった。基本的に俺の旅は危ないからな。それでも安全にしようと努力はしているが、俺もツバキも、行った領で、今後も冒険者として活動する予定だからな。
しかも、祝言が終わったとに行く場所はコクロ領で、目的は海賊団の殲滅、と恐らく危険になるということはすでに分かっている。
祝言が終わった後に、牙の旅団が刀精となる時と同じ日に、コウカもシンキが、安全な王都に連れて行く方が良いだろうと、俺もエンヤも、ハルマサ達も思っている。
しかし、理由を説明してもコウカは不機嫌そうな顔をしていた。
「何が気に入らないんだ?」
「私も……私も、ザンキと、ツバキさんと、リンネちゃんと、旅がしたい」
「あのなあ、だからそれは――」
「行きたい……見たいの、今の世界を……私、ずっと城に居たから、外がどうなってるか知らないの……」
コウカは、生まれた頃から大戦の影響で鬼族の加護の元、護られながら育てられてきた。そしてカンナと出会い、大戦が終わったとしても、城から出ることなく、皆に護られながら生きていた。
生まれてこの方、外の世界というものに触れられなかったコウカは、今後、俺やツバキと一緒に、旅をしながらこの時代の民達の笑顔を見たいという願いがあるらしい。
そのうえで、カンナとサヤの手がかりを自分の手で掴んでいきたいと語った。
「前にも言ったでしょ? もう、祈ることは辞めたの。誰かが助けれてくれるのを待つのは辞めるの。
今度は私が、二人を助けるの……そう決めたから、ここに来たの……」
信念がこもった真っ直ぐな瞳で俺の顔をまっすぐ見てくるコウカ。コウカの本気の想いに、エンヤとハルマサもぐっと黙る。
同じような瞳をしているツバキも黙ってコウカと俺の顔を見てきた。
……ツバキはコウカの味方をしたいようだ。
まあ、気持ちは何となく理解できる。大戦が続き、精神的に弱っていたコウカを救ったのは、サヤが近づいたから。
そして、その後幸せな人生を歩めたのは、カンナが一緒になったから。俺の家族は、コウカにとって恩人なのだろう。そんな二人が、今は行方不明で、どうなっているのか分からない。
いつかは再会できると考え、止まっていたコウカも、次に進みたいようだ。
ジッと見つめてくるコウカに観念し、俺は深くため息を吐いた。どうにもなりそうにないよなとエンヤとハルマサに顔を向けると、二人は静かに頷く。
全ての決定を俺に任せたことを確認し、コウカに対して俺の考えを話した。
「お前の言い分は分かった。だが、やはり俺一人では決められない。シンキの意見も聞いておかないとな。アイツは今でも、お前やエンマって奴に対して忠誠を誓っている。アイツの意見は無視できない。そこは、分かってくれるな?」
「うん……でも、私が説得する」
「じゃあ、好きにしてくれ。その代わり、今後も刀精として着いて来るなら、俺じゃなくて、あっちのツバキとリンネに任せるからな。俺は前線で闘うことが多いから危険だ。良いな?」
「うん。その方が私も安心だから」
「二人には俺から後で説明しておく……それにしても……」
俺はコウカの頭に手を置いた。ぽかんとするコウカの頭を掴み、首を回した。
「少しは、俺の気苦労も考えろ~」
「う、うん……ご、ごめんなさい、お義父様……」
「それは辞めろ……ッたく」
再びため息をつく俺に、コウカは悪戯っ子のように舌をペロッと出す。本来はこういう性格だったんだな。伝承では、何と言うかお淑やかなお嬢様と言う感じなのだが……。
いや、普段はそんな感じだよな。普段と言うか、俺達の前以外では。その辺は、何となくサヤとは違うんだろうなと感じた。
さて、取りあえず祝言までの間のコウカの事は決まった。このまま、人形に宿る刀精として俺、というかツバキと行動を共にし、シンキが来たら、また話し合いで今後を決める。
シンキが何と言うかは大体の予測はつくが、例えそうなったとしても、十中八九、今のままなんだろうなと思い始めてきた。
「というわけで、皆、これからもよろしくお願いします」
深々と俺達に頭を下げるコウカに、ちっこいツバキはすぐに頷いたが、エンヤとハルマサ、それに、俺れ渋々と言った感じに頷く。
「向こうでも言っていたが、ツバキの嬢ちゃんが凄いな、こうなってくると」
「ああ。まあ、何とか説明してみるよ」
「大変だな、ザンキも……」
「まあ……邪神族を倒すって目標は変わらないからな。俺達が特に変わるってことは無いから、そこは気にしてねえが、万が一の事を考えるとな……サヤとカンナに顔向けできねえ……」
「簡単には、死ねなくなったな……」
「お前があの時、俺は死なせなくて良かったよ」
苦笑いしながらそう言うと、ハルマサは目を見開き、フッと笑って頷いた。
あの頃は、俺も皆の後を追うように死にたくて仕方が無かったからな。それを救ったのはハルマサ達だ。ハルマサが、全力で俺を止めてくれたから、今の俺が居る。
今は、どう足掻いても生き延びてやるという思いしかない。こっちの世界に来てから新たに増えた大切なものを護る為に、精いっぱい生きていくつもりだ。
「さて……コウカの件については以上だ。他に異論のある奴は居るか?」
「この期に及んでそれは無えよ、ザンキ。俺達から言うことは何も無い」
「ひとまず、シンキが来るまでは、コウカ様に領内だけでも色々と見せてやれよ」
「ツバキ……リンネも……分かってくれる……皆も……」
「私も頑張るから……」
皆の言葉に頷くと、俺がそろそろ帰るのかと思ったのか、エンヤ達はそれぞれの依り代に戻ろうとした。
「あ、ちょっと待ってくれ。まだ、話したいことがあるんだが?」
「ん? 何だ、ザンキ」
呼び止めると、皆は動きを止めて、俺の方に視線を戻した。
「少し確認したいことがあってな。良いか?」
「ああ、良いぞ。何でも聞いてくれ」
ニカっと笑うエンヤに、俺は、今まで考えていたことを切り出した。
「邪神族ってよ、俺も知っている奴らが居るか?」
「「「「!?」」」」
俺の質問に、明らかに動揺する四人。コウカはまだしも、エンヤ達についてはその様子が顕著である。どうやら当たりの様だな。
「お前……どうして、それを?」
「なに、俺も前の世界での戦いの時は、部隊を率いる部隊長だったからな。敵の名前くらいは頭に入れていた。こないだ闘った奴がそれと同じ名前で、妙なことを口走っていたからな」
そう言うと、俺と一緒にクレナで神族と闘ったエンヤは、あ、と言う顔をする。
俺もあの時は、色々とあって頭がごちゃごちゃしていた。しかし、後になってゆっくりと闘いの事を思い出しているうちに、ある一つの仮説が思い浮かび、今までずっと気にしていた。
動揺する皆に、確信づいた質問を投げかける。
「その様子だと、邪神族の中には、俺達が闘った玄李の国の、“王の十本指”も居るんだな?」
その言葉に、ハルマサとツバキは頷いた。“十本指”が現れる前に死んだエンヤはともかく、実際に闘った二人が言うのなら真実なのだろう。
クレナで事件を起こしたのは、王都の貴族ケリス・ゴウンと言う男だったが、最終的にはケリスの始祖と名乗るランドウと言う男と俺は実際に闘った。
その名前は、王の“王の十本指”の中の一人だったということは覚えている。しかし、俺が実際に斬った奴らではない。確か、ゴウキと闘って敗れたはずだ。
このランドウと言う神族は、俺が魂を無に帰させる前に、“狂神”という言葉も発していたし、斬る直前に俺の名前も叫んでいたような気がする。
それまでは同姓同名の違う人間かとも思っていたが、シンキからもたらされたケリスの屋敷に残された石碑の文章を読んで、全ての合点がいった。
そこに刻まれた“神帝”は多分俺の知らない奴だろうが、“神帝”とは別に、ランドウが崇めていた者の名前は、はっきりと“狂神滅鬼”と書かれていた。他にも、ケンゴやシドウ、サクモと言った他の“十本指”だった人間の名前も、知らない名前と一緒に書かれていたので、仮説は確信に変わったというわけだ。
「つまり、神族から離反した邪神族も、お前らと同じ、「転生者」だったというわけか?」
「ああ、多分な……ただ……」
何か言いづらそうなハルマサに、何だ、と顔を向けると、ツバキが代わりに口を開いた。
「メッキは……居なかった……」
「ん? そうなのか?」
「うん……メッキも……あと何人かも……居なかった……」
ハルマサとツバキ曰く、邪神大戦の時代、普通の魔物や邪神族が操る邪神兵、邪神将などは、ハルマサ達でも相手に出来るくらいだが、自分達と同じ転生したと思われる邪神族とは互角か、僅かに及ばないくらいの力を持っていたという。
そんな奴らを単体で相手に出来ていたのは、こちらの陣営で言うとエンヤ、エイキ、ゴウキ、シンキ、タカナリ、エイシン、そして、カンナくらいだったという。
なので、魔物たちを倒し追い詰めることは出来ても、滅ぼすことは出来なかったらしく、手傷を負わせて亜空間に追いやることしか出来なったらしい。
そして、その中に、十本指を束ねていたメッキは居なかった。仮に居たなら、大戦はもっと長引き、連合軍にもっと大きな損害を与えていたことになるだろうと、ツバキ達はそう言った。
「あいつ等もあいつ等で、こっちに来てから強大な力を手にしたってわけか」
「それと、俺達の世界の“十本指”の他にも、違う世界からの転生者らしき者達も居た。俺達が知らなくても、ムウが知っていたり、他の仲間達に強い恨みを持っていたりな。どいつもこいつも、手ごわかったというのは事実だ」
ふむ……邪神族と言えど、元は神族で、それらを束ねる“神帝”は、ケアルに匹敵する力を持っていた為、今の十二星天と同じ様なことをしてのけてもおかしくは無いということか。
いまいち、敵の戦力が分からないなと思い、聞いてみると、主だった邪神族の将は、“王の十本指”含めて二十人ほど居たらしいが、そのうち五人はエンヤが、二人はシンキとカンナが討ち取ったらしく、カンナが討ち取ったのは、邪神族側のいわゆる大将軍のような立ち位置の者だったらしい。
軍の総指揮者を倒された邪神族は、そこから大地から撤退するようになり、全ての邪神族が大地から消えた瞬間、ケアルとエンマが大地に生きる全ての者達の魔力を集めて作った術式で封印を施したというのが、邪神大戦の終結のあらましだ。
息子の活躍は嬉しいが、それでもまだまだ邪神族の主だった将は残っているし、下手をすれば、かつては居なかったメッキも、俺と同じ様にこの世界に来ている可能性がある。
……というか、半ば来ているような気もする。その考えに、ハルマサもツバキも、エンヤまでもが同意した。
「前の世界でザンキと互角に渡り合ったのは、アイツだけだったからな。それだけアイツも、魂が強いってことだ。“神帝”が目を付けないわけがない」
「多分……居る……邪神族の……亜空間に……」
「正直、俺でも手こずる相手と言うのも居たからな。まあ、この時代になってジロウ達の様子を見ていると、邪神族の将達でさえもどうにかなるという確信はあるが、メッキって奴に関しては、俺も予測がつかない。噂は聞いたことがあるが、そんな奴がこっちに来て新たな力を手にしたとなると、お前みたいなことになりかねないからな」
エンヤは、メッキと言う人間がどういう人間かは知らなかったようだが、話には聞いていたという。
と言うのも、メッキは元々、玄李の国に仕えていた。俺が闘鬼神に居た頃にはすでに、玄李最強の強者として名を馳せていたという。いずれは闘う日も来るのだろうかと思っているうちに、メッキは投獄され、エンヤは死んだということだ。
タカナリの大陸統一の折、俺がメッキを殺したという話については、エンヤは特に驚いていたらしい。その残虐性と凶悪性から、恐らく当時の俺には倒せないと思っていたという。
しかし、この世界で俺に再会し、ワイバーンを倒した姿を見て、全てに納得したという。スキルも魔法も使わない、所謂、素の力で、初見のワイバーンを倒すというのは、やはりあり得ないことのようだ。
「メッキもこの世界に来て、そんな感じになっていたとしたら最悪だな。本当の意味で、お前に任せるしかなくなる」
つまり、今の状態だと俺が居なくても、龍族は居るし、神獣も居るし、十二星天も居る大地の戦力があれば、邪神族とも戦い抜くことが出来るが、相手方に、俺に匹敵する力を持つメッキが居るとなるとそれも苦しくなってくる。メッキには俺をぶつけるしかないという考えには俺も賛成だ。
ただ、メッキが俺以上の存在になっていたとしたらと思うと、どうなるかわからないという顔のエンヤ達。まあ、この考えには俺も同感だ。簡単に言えば、俺くらいの力を持ち、破壊衝動しかない奴の事だろ。
そんなのただの害悪でしかない。俺が死んだら、誰かが俺よりも強くならない限り、数日でこの世界の歴史が終わるだろう。
俺以上になっても、今より俺が強くなれば良いだけの話だと言ったが、エンヤ達の顔は苦いままだ。
見かねたコウカが、不思議そうな顔で口を開く。
「ねえ、ザンキは、実際に邪神族の将と闘ったんだよね。どうだった?」
「どうって、ランドウの事だよな? まあ、エンヤは感じていたかも知れないが、あんなの雑魚でしか無かったよ」
「ざこ……」
コウカは驚いたように目を見開き、固まる。おかしなことを言ったかと、エンヤに顔を向けると、こちらも少し戸惑ったようにため息をついた。
「まあ……確かに、弱いとは感じたが、正直な話、それはアイツが弱かったのか、お前が強過ぎたのかよく分からない……っと、そういや、あの時のお前って何か変じゃなかったか?」
「ん? 何かあったか?」
「あの時、神怒を斬って、ランドウを倒した時、いつもの神人化とは別の力を感じたと思うんだが……?」
「ああ、アレか……ちょっと待ってろ」
俺は広間の真ん中あたりに立って、無間を抜いた。このことについても聞こうと思っていたので、丁度良いやと思い、スキルを発動させていく。
―おにごろし発動―
無間が強く輝き、俺の体を包んでいく。光が収まると俺の神人化が完了した。
「わぁ……!」
神人化を初めて見るコウカから感嘆する声が聞こえてくる。
気にせず、そのまま次のスキルを発動させた。
―ひとごろし発動―
無間から力の波動が溢れ出してきて、体の中から力が漲って来る。それと同時に、無間は段々と小さくなり、普通の刀の大きさとなった。
「あ、小さくなっちゃった」
「毎回思うが、どういう仕組みなんだろうな」
エンヤの言葉に、少しだけ集中が途切れそうになる。そういうものだと思っていたが、言われてみるとどういう仕組みなんだろうな。
まあ、気にせず、最後の準備に取り掛かる。
「……さて」
―かみごろし発動―
最後のスキルを発動させると、俺の体から溢れていた天界の波動に混じり、黒い波動が出て来ようとする。しかし、天界の波動がそれを抑え込もうとし、バチバチと俺の周りで二つの波動がせめぎ合う音が聞こえる。
それもしばらく続いたが、徐々にあちこちで二つの波動が解け合っていき、俺の体と無間の中に入っていく。
二つの波動が俺の中の力と解け合った瞬間、全身に更なる力が漲ってきた。
「ウオオオオオ~~~ッッッ!!!」
―みなごろし発動―
三つのスキルが統合して得たスキルを使うと、神人化していた俺の体に鬼人化した時の特徴である、頭には角が生え、牙、爪が伸びていき、背中からは新たに一対二枚の羽が生えてきた。
「……ん?」
同時に無間も変化していることに気付いた。ひとごろしを使ったことにより小さくなっていた無間が元の大きさに戻っている。刃に葉脈のようなものが浮かび上がり、それが脈打つように輝いていた。天界の波動と冥界の波動をゆらゆらと交互に立ち上らせている。
前回、鬼神化した時は持っていなかったから分からなかったが、無間を新しくしたからなのか、元々こういう仕様なのか分からないが、無間の方も俺と同じく力を増したようだ。
荒々しく出ている力の波動を抑えながら、エンヤ達に向き直った。
「……お前が言っていた俺の変化ってのはこのことだろ?」
「なっ……!?」
しかしエンヤは口を大きく開けたまま、固まっていた。エンヤだけでなく、ハルマサもツバキも、コウカも固まっている。思わずため息をついた。
「あのな……今更、そんなに驚かないでくれ。俺が変な状態になるのは今に始まったことじゃねえだろ?」
自分でもおかしな事を言っている実感はあるが、そう言って、皆が落ち着くのを待った。
すると、徐々に落ち着きを取り戻し、最初に口を開いたのはコウカだった。
「ザンキ……その姿は……?」
「俺が持つEXスキルを使うとこうなるみたいだ。この時の俺は、神人でもなく、鬼人でもなく、鬼神と言う存在になるらしい」
「鬼神……」
「字面から、鬼族と神族、二つの力を持っているようだが……何か知っているか?」
そう尋ねると、コウカは首を横に振る。コウカまで知らないとなると、いよいよ、あやふやな存在らしいな。
そう思っていると、一息ついたエンヤが口を開く。
「凄い力だな……まさしく“古今無双”の力だ。これ以上の力を俺は見たことが無い。……それは、何時から使えるようになったんだ?」
「初めて使ったのは、あの時だ。おにごろしだけじゃ、最後の神怒は防げないと思ったら、こうなった」
「そうか……なるほど、その状態ならランドウを雑魚呼ばわりするのも納得だな。ランドウどころか、“神帝”や、ケアルとエンマ、全盛期の俺やカンナ、シンキを遥かに上回っている……」
「じゃあ、例えメッキがこの世界に来て、更なる力を手にしていても、問題ないだろ?」
「……多分な」
俺の鬼神化を見てから、今の俺なら、邪神族の殲滅に関しては何が起ころうとも問題ないと思ったようだ。ハルマサとツバキも、同様の反応をしている。
「しかし、鬼神化か……それで出来ることは、増えたのか?」
「いや、基本的には神人化と鬼人化した時の力を同時に使えるくらいだな。まあ、この姿で闘ったのは一度だけだったから、他に何が出来るか、まだわからないが……」
「ふむ……お前はとことん、俺達を驚かせてくれるな」
「ザンキ……そうなっても……ザンキのまま……?」
「ん? ああ、意識ははっきりしている。鬼人化の時のように、我を失うってことは無さそうだ。俺が護るものと斬るものの区別はつくぞ」
「うん……なら……安心……」
これで暴走なんてしたら、ツバキとリンネにも迷惑が掛かるからな。しかもこの姿での迷惑と言うのは、普通の時に比べて最悪の結果になりかねない。実戦で試したことが無いから分からないが、きっと大丈夫だと、自分の胸に手を置いた。
そんなことを思っていると、コウカが前に出てきて、俺の顔を覗き込む。じっくりと、全身を見渡した後、クスっと笑みを浮かべた。
「……凄いね、ザンキ。何でも出来そう……だね」
「ああ。今なら、本当に何でも出来そうだ。この力があれば、何でも……な」
「……大地に戻って良かったって、今、心の底から感じてる」
ニコリと笑うコウカ。何を考えているのかは分かる。
この力により、俺はますますサヤとカンナの行方をはっきりさせることが出来るという可能性が上がった。
今のところは全てが未知の力だが、逆を言えば、出来ないこともまだわからない状態だ。ひょっとすれば、冥界や天界にも、この身のまま行くことが出来るかもしれない。
皆には黙っているが、現に邪神族を封印している強固な結界も視ることが出来て、なおかつ「切れ目」も視えたからな。
いつの日か必ず、コウカと二人を会わせて、俺も会ってやる。そう思い、コウカの頭を撫でた。
さて、ひとまず俺の力について、全てを説明し終えた。どんなことがあっても、邪神族がエンヤ達の予想を上回る進化を遂げていたとしても、メッキを含めて更なる兵力を手にしていたとしても、次こそは邪神族を滅亡させるという算段が付いた。
「お前らが成し得なかった邪神族の完全なる滅亡……この俺が必ず叶えてやる」
「言うじゃねえか……昔の“ガキ”とは大違いだな。俺はツバキのおかげで闘うことが出来るが、ハルマサやタカナリ達はそうじゃない。お前に全てを託しても良いか?」
エンヤの言葉に、俺は大きく頷く。
「任せろ」




