第351話―カジノで大いに稼ぐ―
しばらく話しているうちに時間はあっという間に過ぎて行く。一通り話し終えて、互いに苦労したんだなと頷き合っていると、部屋の戸が叩かれる。
「おう、何だ?」
「あー……イーサンだ。買い物が終わったんで、ツバキさんとリンネの嬢ちゃんを連れて来た」
「ああ、もう終わったのか。入って良いぞ」
リエンが応えると戸が開き、外からリエンとツバキ、そしてリンネが思いっきり駆けてきた。
「おししょーさま~!」
「おう。買い物は楽しかったか?」
「うん! おにいちゃんのおかげ~!」
リンネの言葉に、イーサンは照れながら頭を掻いている。リエンはニッと笑ってリンネの頭を撫でた。
「楽しんでもらえたようで何よりだ。イーサンもお疲れ。いい加減、休む気になったか?」
「いや? 明日からまた、仕事をしたいんだが……」
「そうか……まあ、頑張れ」
ため息をつきながら立ち上がるリエン。イーサンの肩をポンと叩き、辺りを見回した。
「で、買ったものは? 結構買っていったんだろ?」
「こちらの建物の入り口に集まるようにしております」
ツバキ達が買ったものはクレナの土産と、タクマの店の商品と多くある。いったん俺の異界の袋に入れるために、商会の人間に、一つの場所に集めてもらっている最中とのことだ。
というわけで俺達は下に降りて、集まってくる荷物を纏めることにした。
入り口に向かうと、数人の商人達がせっせと作業をしていたが、リエンが姿を現すと動きを止めて一礼する。
そして、俺が荷物を異界の袋に入れている間、リエンはイーサンとツバキと一緒に個数の確認などをしていた。
「結構買ったな。全部クレナへの土産なのか?」
「ええ。お屋敷にはたくさんいますから。それにアヤメ様や、高天ヶ原の皆さんへのものもあります」
「着物や装飾品、手芸の材料に食い物……これだけで店が一軒建つなあ。で、結局どれくらいいった?」
「占めて、金貨200枚といったところか。それの半額だから100枚だったぞ」
「……お前、少しは遠慮して貰えるようにしろよ」
何か言っている気がするが、気にしないことにした。今日はリエンの厚意に甘えるんだからな。
というか、金貨100枚も結構な大金であることは俺も理解している。全てを任せたとはいえ、ここまで行ったのかと頭を抱えた。気持ちは分かるが、高天ヶ原への土産は良かったんじゃないか?
もう、クレナに帰ったら解禁することは決めているし……まあ、今更悩んでも仕方ないことだがな……。
「あ、ツバキ。頼んだものはあったか?」
「一応ですが、ありました。しかし、私の目利きで良かったのでしょうか?」
ひとまず、俺なりに考えた土産があったことに安堵する。ツバキが出してきたのは、魔物の素材のようなものだ。
ジゲン含め、冒険者の装備を強化するために、多種多様な魔物の素材を頼んでおいたが、下級の物から超級、果ては俺が倒した災害級の魔物の素材も、きちんと手に入れることが出来た。
中には俺が知らない魔物のものまである。帰ったらコモンとヴァルナと相談しながら、随時、ダイアン達の装備を変えてやるつもりだ。牙の旅団の武具を継がない奴らも居るからな。個人個人で実力に差が出ると、色んなところで障害が出る可能性もある。
皆の力を一定に保つには必要なことだと思っている。自分が選んで大丈夫だったかと心配するツバキに、笑って頷いた。
「ああ、信頼しているからな」
「ありがとうございます。まあ、目利きといっても、あるだけある分買っておきましたので」
だから、ここまで金額が膨れ上がったのか……まあ、これは気にしてもしょうがないので、気にしないことにした。
とは言いつつ、旅に出てから財布が寂しくなったのは事実だ。これでは、皆に頭領としての顔向けが出来ないなと思ってしまう。
荷物の収納が終り、渋々といった感じに金を払うと、察したような顔でリエンが口を開いた。
「ん? 何だ? もう少しまけろってか?」
「いや、そうじゃねえが……ここに来て、一気に浪費家になったなと思ってな……」
「金を使うのは良いことだぞ。ちなみに、クレナを出てからどれくらい使ったんだ?」
「……金貨、1000枚は超えているかな……」
そう言うと、その場に居た者達全員が、目を見開き、こちらに視線を向けてくる。特に驚きが大きいのはツバキだった。リンネは、金の価値が分からないにしても、大金だということは伝わっているらしく、戸惑いながら固まっている。
「え……何があったのですか!? 大きなお買い物は刀が壊れた時くらいしか記憶にないのですが!?」
「おししょーさま、おしごとせずにさぼってたの~!?」
「そんなわけねえだろ。ちゃんと討伐依頼をした時は、素材を持って帰って、お前らもたらふく食っていただろ? 依頼はこなしていたが、クレナよりは報酬も少なかったんだよ」
「で、ですが、それでも、そこまでの金額はなくならないのでは!?」
「ま、まあ、そうなんだが……実はな、スーラン村にセバスが襲来した際に、手伝ってくれた奴らに、礼のつもりで金を渡し……いや、渡すことになってな。それが大体1000枚越えていたって話で……」
ひとまず困惑するツバキとリンネに金が無くなった事情を説明した。
……しかし、これは間違いだった。ツバキの顔がどんどん真顔になっていく。それと同時に、辺りの空気が張り詰めて行き、異変を感じたリンネが不安そうな顔でツバキの顔を見上げていた。
……怒らせたようだ。
「あの……ムソウ様? 常日頃から、ダイアンさん達に無駄遣いをするなと仰っていたのはどなたでしょうか?」
「それは、爺さんじゃねえか? 俺は、二度と浮浪者になりたくなかったら、行動を改めろと言っていた」
「……リンネちゃんに、無駄遣いするなと言っていたのはどなたでしたでしょうか?」
「それは――」
「おししょーさま」
リンネが俺を指さして、口を挟む。ツバキはリンネにコクっと頷いた。
「……そうでしたね。リンネちゃんが露店などで欲しいものがあっても、「これで買える分だけ」と言って銀貨を渡し、お金の大切さを説いていましたね」
「ま、まあ、リンネやたまにはそういう教育は必要だからな」
「……どうやら、ムソウ様にもそういう教育をした方がよろしいようですね」
「い、いや、何度も言っているように、あれは礼のつもりでだな……」
「他の形でも良かったと思いますよ? 天宝館の紹介状に便宜を図ることも出来たでしょうし、今お持ちの他の魔物の素材でもよろしかったかと……?」
「あー……こっち来てから、あまり上位個体との遭遇も無かったからな。そんなに珍しいものでも無いし――」
「それでも、価値のあるものというのは間違いないです。そもそも、手伝ってくださったとはいえ、一人一人に金貨二十枚はやり過ぎです」
「いや、俺も元々は、金貨――」
「金貨というのが、渡し過ぎだと思います。先ほどからどうされました? 何か、言い訳のように聞こえるのは私だけですか? ムソウ様が同じ立場でしたら、殺気をぶつけていらっしゃると思いますよ?」
つまり、出来ることなら、ツバキは俺に死神の鬼迫をぶつけて黙らせたいようだ。殺意をぶつけたいんだな、なるほど……。
かなり怒ってるな。勘違いではあったが、村で怒られた時の事を思い出す。あの時は魔道具越しだったが、そうか。ツバキの怒りの矛先が向けられるとこうなるのか。
少し反省……。
「……クレナに帰ったらしばらく依頼をこなさないとな」
「いえ、それではダイアンさん達の仕事まで奪うことになりますので、ムソウ様は自重してください」
「……帰る期間を延長するか。しばらくここの依頼をこなして……」
「何年かかるのですか? モンク領の報酬の相場は、クレナの十分の一ほどと聞きましたが?」
「……」
どうしろと? というか、そもそも、俺が浪費したということを悟らせないためにも、クレナに帰る前に金を取り戻したいところだとツバキは説いた。
それは納得できるが、他に手立てはない。やはり、報酬が少ないと言っても、群れの完全達成を続けて、少なくとも金貨200枚ほどかき集めることが出来れば、何と名なるのではと提案するも、そんな時間は無いと、ツバキに突っぱねられる。
いよいよどうしたものかと思っていると、俺の肩にリエンがポンと手を置く。
「まあ……何だ。アンタも大変だな」
「お、アンタは俺に味方してくれるのか?」
「いや、全然。これに関しては騎士の嬢ちゃんが正しい。礼とは言え、金貨を二十枚も渡すのは馬鹿げている。それだけあれば、一般の人間なら何年も普通に暮らせるくらいだからな。明らかに渡し過ぎだ。アンタにとっては簡単に稼ぐことが出来るかも知れないが、それだけの価値があるというのは勉強しておけ」
「む……」
分かっていたつもりだが、やはり俺は金銭感覚が麻痺しているのかも知れないな。生まれてこの方、あまり買い物というものもあまりしてなかったからな。子供の時も、家族が居た時も、そういうのはサヤに任せていた。
こういうことになるのなら、俺を育ててきたエンヤに一言文句を言ってやりたいと、ツバキが差している斬鬼をちらっと見る。
それに気づいたツバキが、
「喚んで説教でもしていただきましょうか?」
と、ジトっと見て来たので、すぐに視線を逸らす。こんなことでアイツに殴られたくないし、怒られたくもない。良い歳だし……。
しかし、これからどうしたものかと頭を抱えていると、リエンが口を開く。
「まあ、幸いここはモンク領だ。金を稼ぎたいならあそこに行けば良いだけの話だろ?」
「……あ」
リエンの言葉を聞き、ツバキとリンネの顔がぱあっと明るくなる。
そして、ツバキとリンネは俺の手を握った。
「行きましょう、ムソウ様。今すぐに!」
「リンネ、きょうはかつ~!」
二人の勢いが別の意味で怖い。しかも、断る道理も無いと来た。更に、ギラン達にも一言挨拶したいとも思っていたので、俺自身も行きたいと思っていた。金を増やすという目的もあるしな……。
あまり、時間を置くのも悪いと思い、二人に即座に頷いた。
「……分かった。じゃあ、マルドに帰ったら即行こう」
そう言うと、ツバキとリンネはすぐに船の手配に向かった。気が付けば、定期便もあと少しで来る時間帯となっているらしい。
あっという間に二人がどこかへ行き、作業員やイーサンは俺に、大変だなと言わんばかりの同情の視線を向けていた。
「……まあ、あまり心配はしてないが、無理はするなよ」
「分かってる。まあ、当てはあるから何とかなるだろう」
「ほう……カジノに賭け事目的で行かないというのは大した自信家だな。勝つかどうかの瀬戸際を楽しむのが、あそこの楽しみ方なのにな」
「リエンの旦那が言うと、説得力無くなる」
イーサンの言葉に、その場に居た者達は頷く。一応、話は聞いたが、昔、切羽詰まったリエンがカジノに行って、大金を手にしたのは凄いと思ったが、それさえも、思惑通りだったのではないかという噂が、まことしやかに囁かれているという。
皆の反応を見て憤るかと思いきや、リエンは得意そうな顔をした。
「ふん……お前らもまだまだだな。人間、本気になれば、ジーン様でなくとも、次に出る目が分かって来るんだよ。全部捨てて何も無くなった時こそ、カジノに行けば良いのさ。持っている時に行っても、入る余地が無いだろうから、負け続けるんだよ」
「悪ぃ、ちょっと何言ってるかわからねえ」
「だが……ああ、だからリエンの旦那、最近はカジノに行かねえんですかい?」
「いや、忙しくて行かなかったというのもあるし、そもそも何でおれ自身が経営するカジノに金を落とす真似しないといけねえんだよ。意味がねえだろ」
「あ、納得……じゃあ、今後はマルドのカジノにでも行くんですかい?」
「いや、“大博徒”相手に賭博はきついだろ。俺は危ない橋は渡らねえ主義なんだよ。これからあそこに行くムソウ殿は本当に尊敬するな。色々あって憂さ晴らししてるって噂のギランを相手にしに行くんだからな」
リエンは俺の背中を叩きながら大笑いする。くそう……俺もリエンと同じ考え方なんだが、こうなってくると引き返せない。
マルドで起こった事件で迷惑を被ったギランも、カジノに来る客を相手に、本気で賭博をしているようだ。世界一の博徒が相手と言うこともあり、ここ数日のカジノの売り上げは凄いことになっているらしい。これならレイヴァンのカジノも任せることが出来ると、リエンはご満悦だった。
やがて、頭を抱えている俺の元に、舟券を持ったツバキとリンネが戻ってくる。
しばらく待っていると、定期船が港に到着した。
船着き場へ向かい、見送るリエンとイーサンに最後の挨拶をした。
「じゃあな、ムソウ殿。今度も、良い関係を築ければいいと思っている。アンタには期待しているからな」
「ああ。こちらこそ、よろしくな。また会おう」
「それから、ツバキ殿とリンネの嬢ちゃん。改めて今回はすまなかった。二度とこんなことが無いように、俺も目を配らせていく。マルドの皆にもそう伝えておいてくれ」
「はい。マルドのみならず、モンクの事をお任せします。イーさんも頑張ってくださいね」
「おう。本当に世話になったな、ツバキさん。また、里帰りすることがあれば声をかけてくれ。手伝えることなら何でもしよう」
イーサンはリンネの頭を撫でて、ツバキと固く握手する。何となく、妬いてしまう。ずいぶんと仲良くなったものだ。
俺もリエンと固く握手をして、船に乗った。大きく手を振りながら俺達を見送る二人の姿を、俺達もずっと眺めていた。
時折、無茶しない程度に頑張れと聞こえてくる。そうするつもりだと、苦笑いしていた……。
◇◇◇
そして、沈んでいく夕日を港から楽しむ余裕もなく、俺はツバキとリンネに手を引っ張られてカジノへと直行する。
夜に来たことは無かったが、夜だというのに、建物全体が光り輝いていて辺りは昼間のように明るい。
カジノには多くの人間が出入りしている。街で事件があってから数日しか経っていないが、営業自体は復活しているようだ。まあ、ここにはあまり影響は無いらしいからな。
ここでどれだけ稼げるか……。
「さあ、行きましょう! ムソウ様!」
「おししょーさま、はやく~!」
考える余地も無く、ツバキとリンネが俺の手を引っ張る。勝算が無い賭けはしたくない。
俺は、ツバキとリンネがこないだの借りを返すと言って向かっていた円盤の筐体の方向に行こうとせず、無理くり前回俺が遊んだ辺りまで引っ張っていった。
「やるならここでだ。異論は認めんぞ!」
「仕方ないですね……ですが、ムソウ様、あちらを……」
ツバキは、板割りをやっている方を指さす。まずはあれからだ。EXスキルでも何でも使ってあっさり、金貨1000枚くらい、何なら2000枚でも3000枚でもここで一気に取り返してやる。
そのつもりで、ツバキの指す方向に目を向けた。
「冒険者ザンキ(ムソウ)様 禁止区域」
……という看板が立てかけられている。
「はあ!? おい!」
意味が分からないので、慌てて店を開いている男、前回もこの店をやっていた男に詰め寄っていく。男は、俺に気が付くと、顔をさあっと青くして怯えた表情で固まっていた。
すると突然、俺の目の前に大柄な男が立ちふさがる。
「ちょっと、待ってくれ!」
それはギランだった。少しばかり小奇麗な恰好をしたギランが俺の行く手を遮る。構うものかとギランの襟元を掴んだ。
「おいコラ! これはどういう了見だ!? こっちはこれからここで遊ぼうってのに、あれはどういうつもりだ!? あ゛!?」
「お、落ち着いてくれ! ひ、ひとまず、俺の話を――」
「ここでテメエをぶっ飛ばせるかどうか賭けてやろうか!? 見事俺がテメエをどかせたたら、金貨500! 俺が帰ったら、金貨10000! どうだ!? やるか!?」
「やるわけねえだろ! 賭けにすらなってねえ! ひとまず俺の話を聞……く、苦しい~! つ、ツバキちゃん! どうにかしてくれ~!」
首元を締めあげ、体を持ち上げると悲鳴を上げるギラン。周囲で遊んでいた者達も、何事かとこちらに視線を向けてくる。
ギランに助けを求められたツバキは、頭を掻きながら俺の肩を叩く。
「む、ムソウ様、どうか、お手を……」
「あ゛ぁ? お前の要望に応えようとしてんだ。ちょっと待ってろ。別に斬りはしない。話をするだけだ……」
「いえ、それですと話すら出来ませんよ?」
「大方、前回十枚割を達成した俺が、更に多くの金を賭けると大損だってことで、俺の挑戦を封じているんだろ。それ以外の理由があるんなら、是非とも聞いてみようじゃねえか。ここはイカサマもアリなんだし、十枚全部をアダマンタイトなりオリハルコンなりにするのも良いはずだが、それさえもせず、客である俺の楽しみを邪魔するなんざ、許さねえ……オラ、何か言いてえなら言ってみろよ。俺が納得すれば放してやろう……」
「「「「「うぐっ……」」」」」
俺の言葉に、ギランを始め、その場に居たカジノ側の人間全員が黙る。どうやら図星らしい。何も言い返す気すら起きないようである。
どうだ、とばかりにツバキに視線を移すと、呆気にとられたツバキは、はあ、とため息をついた。
「ムソウ様……その、激高しているようで、冷静な判断をするのは辞めていただきませんか? こちらの調子が狂います」
「知るか。こうなると、ここで金を得るのは難しくなりそうだな。実力を測るものが出来ないんじゃ、俺もルーレットとか、あの絵柄を合わせる……あれ、何だ?」
俺は多くの人間が行っている筐体に視線を向ける。
「スロットですね……」
「ああ、スロットって言うんだな。あれみたいな運任せの物や、百戦錬磨の博徒を相手にするものしか出来なくなる。俺もリエンと同じ考え方だ。危ねえ橋は渡らねえ主義なんだよ」
「それで良いかも知れませんが、私達ですら、以前はルーレットで勝つことが出来たのですよ? ですので、ムソウ様があちらに挑戦されても良いのでは?」
「その後負けたのはどこの誰だったか? やるかよ、あんなの。どうせ、あれもどこに落ちるか、球を操ることくらいコイツ等ならしそうだ。スロットだって、細工次第でいくらでも出来るだろ? 俺は金を増やしに来たんだ。減らすために来ているわけじゃねえ」
「いえ、カジノはそういう場所ではありませんよ? 勝つか負けるか、自分の運がどう転ぶかを楽しむ場所だと私は思います」
「確かにそうだ。お前の言う通り、賭場ってのは駆け引きを楽しむもんだ……が、あれを見てみろ。俺はここらで遊ぶなと、カジノ側が指定している。逆を言えば、冒険者ムソウはこの中で遊ぶ区域を決めているから、それに従えって言ってんだ。カジノ側が勝手に、客が遊ぶ場所を決めてんだぞ? 駆け引きも何も無いだろう。何で、俺に不利な状態から、俺が遊ばねえといけねえんだ? 選択肢を奪われて、明らかに楽しくなくなるのは目に見えているだろ」
「それは……確かに……そうです……ね」
段々、ツバキも俺側の気持ちになっていくのが分かる。
リンネの方は訳わからないという顔で、俺の裾を引っ張っている。
「おししょーさま、リンネ、むずかしくてよくわかんないから、おししょーさまがわるいのか、いいのか、わからない」
「リンネ、マルドの公園で遊ぶのは楽しいよな?」
「こうえん? うん! たっくさんゆうぐとかあって、ひろくて、たのしい~!」
「公園は遊具があるから楽しい。行けば絶対に楽しめるって思うよな? だが、もしも俺やツバキが路地裏だけじゃなくて、公園でも遊ぶなって言ったら、リンネはどう思う?」
「えー……それは……やー」
「それと同じだ。コイツ等は、俺が楽しんで遊ぶ場所を奪ってる。ここで遊ばずに、他所へ行けってな。それでも幾分か楽しめるとは思うが、俺がやりたかったことを邪魔されている結果なのは変わらない。本当の意味で、俺は楽しめないってことは分かるよな?」
「うん……」
それとこれとでは、違うのではという顔のギラン達の前でリンネは小さく頷く。似たようなものだ。
俺の楽しみを邪魔していると言うことに気付いたリンネは、そこから俺の味方をする。ツバキまでも、言われてみれば確かに、という顔で俺の味方に付いてくれた。
ギランをジトっと眺めながら口を開く。
「おじちゃん……悪いですが、私は何時でもムソウ様とリンネちゃんの味方ですので、おじちゃんの言うことは聞かないことにしました」
「いやいや! ツバキちゃん、考え直せって! お前ら言ってること、結構無茶苦茶だぞ!?」
「おじちゃん達がムソウ様に行っていることも無茶苦茶だと思いますよ? いくら、前回完全達成したと言っても、ムソウ様も刀を折る羽目になりましたし、決して勝ったとは言えない状況でした」
「おししょーさま、そのあともっとたかいおかねをはらって、あたらしいかたな、かってた」
「完全達成の後に起こったことは問題じゃない! 完全達成という事実が大事なんだ! 仮に、ムソウ殿がこの後、金貨100枚賭けてアレに挑戦して達成してみろ! 金貨1000枚だぞ!?」
「それが、賭け事というものです。そうなるのが怖いのでしたら、ムソウ様の仰るように全てアダマンタイトでもオリハルコンでも使ってみてはいかかでしょうか?」
「そんな勿体ないこと出来るか! アダマンタイト一枚がいくらすると思ってんだ!?」
「だから、そっちの事情は知らねえよ。客がいくら儲けようと、損しようと、カジノには関係無えだろ。俺がいくら勝っても、どうせこれまでに儲けているんだから良いじゃねえか。なあ……そろそろ決めてくれよ。このまま俺に恨み買ったままやり過ごしてカジノから追い出すか、諦めて俺が何をしても口を挟まねえか……選べよ。お前の好きな選択だぜ? “大博徒”……」
「く~あ~! どっちも嫌だ……何だ、この感じ……こんなの、クレナの“刀鬼”様の時以上じゃねえか!」
「じゃあ、もう一つ選択肢をやろう。俺は何もしない代わりに、あの区域でツバキとリンネは遊んでも良いことにする。それなら、何も文句は無ぇよなあ?」
俺の言葉に、ツバキとリンネがキョトンとし、顔を見合わせながら首を傾げていた。ギランは、一瞬黙り、思案を巡らせている。
「それは……まあ、構わないが……」
「何、心配してんだ? 俺は何もしない。勝ちが分かっているからな。だが、前例がないツバキなら、別にあそこで遊んでも良いだろって話だ。小さい時からここで遊ぶのが夢だったみたいだし、お前は知り合いとして、コイツには優しくするべきだと思うぞ」
「た、確かにそうだな……」
「リンネもこないだ怖い目に遭ったし……最後に、マルドで良い思い出を作りたいんだよなあ……」
「あ、ああ……俺も、そう考えている。このままクレナに帰すわけにもいかないからな」
「だよな。よし! じゃあ、俺は諦めるが、ツバキとリンネがあそこで遊ぶことに関しては文句を言わない、どれだけ勝っても何も言わない、代わりに俺は何も手を出さないってことで良いか?」
カジノに入って初めて俺は、ギランに笑顔を見せる。出来るだけ満面にしておいた。
ギランは、う~んと考え込んだ後、他の従業員の奴とコソコソと話し合い、決定が出た所で俺達に向き直った。
「分かった。アンタの言い分に納得することにする」
……言い方が腹立ったので、無間に手をかける。
「当り前だ、ボケ。何、上から目線に立ってんだ? 納得する、じゃねえんだ。理解しました、だろ?」
少し睨みつけると、ギラン達は慌て始める。
「わ、分か……分かりました。ムソウ殿の言い分は受け入れます。ツバキちゃんとリンネちゃんは、自由に楽しんでください!」
「万が一、大勝ちしても文句は言わずに、相応の金をちゃんと払うってことで良いんだな?」
「も、もちろん! それは、“大博徒”の名に恥じぬようにいたします!」
その言葉を聞き、俺は無間から手を放し、ニカっと笑った。
「良し! じゃあ、早速楽しむとするか! 前回の分を取り返すぞ~!」
ツバキとリンネの手を引き、俺達は、カジノ内を進んでいく。
ツバキは未だ、キョトンとした顔だが、俺が満足そうな顔をしていると、どこか納得したような顔で嬉しそうに頷いた。
リンネは俺の顔を覗き込み、
「おししょーさま、わるいかおをしてるー」
などと言っている。ツバキは気付かなかったが、リンネには気づかれたか。俺はその時、ギラン達に対して、言質はとったと思い、思わずニヤついていた。
「じゃあ、まずツバキ。俺が前回やった、この板割り、今日はお前がやってみろ」
そう言って、ツバキに金貨二百枚を渡す。ツバキは目を丸くして金貨の入った袋を覗き込んだ。
「む、ムソウ様、信頼されていることは嬉しいのですが、失敗すると大変なことになりますよ?」
正直な話、斬鬼の切れ味ならばツバキの力でもアダマンタイトでもオリハルコンでも斬ることは出来ると思っている。
ただ、失敗すれば賭けた金額は全て持って行かれる。斬る枚数はこちらで指定できるが、俺としては手っ取り早くモンクで消費した、金貨2000枚を取り返して、後は自由に遊びたいと思っているので、ツバキにはもちろん、十枚全て斬るようにと伝えた。
心配するような顔で俺の顔や刀を見るツバキ、リンネ、そして、ついて来たギラン。何を考えているんだという顔で、俺に目を向ける。
「あー……ムソウ殿。俺が言うのもなんだが、ツバキちゃんの言う通り、厳しいんじゃねえか? ツバキちゃんも強いってのは分かるが……」
「変な心配せずに、テメエは金庫の心配してろ」
ギランの忠告を軽く受け流して、ツバキに視線を移した。
「大丈夫だ。お前は、お前の力を信じろ」
「私の……力?」
「ああ。お前の、力だ。ここは使えるスキルと魔法、それに技を使っても良いから、全力のお前の力ってのを存分に振るってやれ」
斬鬼を小突きながらそう言うと、俺の意図が伝わったのかツバキは、納得したような顔でフッと笑みを浮かべた。
「……かしこまりました。私の“力”を存分に使いたいと思います」
「目標は?」
「もちろん、十枚全てです。ギランおじちゃん、手続きをお願いします」
ツバキはそのまま、金貨二百枚の入った袋をギランに渡した。
ギランは更に困惑した顔になっていく。
「いやあ……俺は辞めた方が良いと思うぞ?」
「大丈夫ですので、手続きを」
「まあ、金は用意できる……というか、するが、失敗したら大変なことに……」
「私が失敗したら、カジノも潤います。カジノが潤うということはこの街も潤います。私は失敗しても、成功してもよろしいのです」
「わ、わかった。準備する」
余裕そうなツバキに観念したギランは金貨を店の者に預けて、成功した場合の報酬となる金貨が2000枚入った袋を持ってくる。
本当にあるんだなと思ったのが正直な感想。一体、カジノの金庫には毎日どのくらいの金が入っているのだろうか。少し興味が沸いて聞いてみたが、当然教えてくれなかった。
少し残念だなと思いつつ、積み重ねられた鉄板の前に立つツバキに目を向けた。
ツバキは深呼吸して斬鬼を抜き、構えた。準備が出来た所をギランと店員が確認し、結界の魔道具に魔力を込めて、ツバキの周りに障壁を展開させる。
……保つと良いがな……。
さて、魔法障壁が張られたことを確認したギランは、ツバキに問いかける。
「よし、これで良いな。ツバキちゃん、本当に良いんだな? もう、おじちゃんも止めねえぞ?」
「大丈夫です」
「そ、そうか……あ~、何をするのか分からないが、カジノを壊すことはしないでくれよ」
「ええ、もちろんです……ですよね?」
ツバキのボソッと呟く声にギランが反応する。
「ん? 何か言ったか?」
「……あ、いいえ、何でもありません」
「そ、そうか。準備が出来たら、始めてくれ」
ツバキは、ギランの言葉に小さく頷き、俺とリンネに心配するなと言うように、微笑みながら頷いた。
「おねえちゃん、かっこいいね~」
嬉しそうに、誇らしそうに呟くリンネに頷き、頭を撫でた。
「アイツ……いや、アイツらにちゃっちゃと稼いでもらって、リンネにも後で、楽し~く、稼いでもらうからな」
「おししょーさまは、なにもしないの?」
「お前らが前にやっていたルーレットでもやるとしよう。ここでは、遊ばせてくれないみたいだからな」
「ぶー……やなかんじだね~」
そうだな、と頷き、リンネと一緒に、再びギランをジトっと睨む。
慌てて視線を逸らすギランに、ツバキはクスっと笑った。
「……楽しいですね、やはりここは……」
ツバキは再度深呼吸し、目を閉じて斬鬼に気を溜める。
すると、斬鬼が強く輝き始めた。用意が出来たと判断したギランはニカっと笑って、障壁を更に強固にしていく。
「よ~し! じゃあ、ツバキちゃん、始めてくれ!」
ギランの言葉に、ツバキは強く頷き、刀を振り上げた。
「行きます! ……偶像術・奥義・闘鬼神ッ!!!」
―ウオオオオオオ~~~ッッッ!!!―
少し遅れて轟く、斬鬼からの声にギランと店の連中は目を丸くする。
「はあっ!?」
俺の方は平然としている。俺が直接こうなるように仕向けた訳では無いし、ツバキ自身でも大丈夫だとは思っていたが、これで金貨2000枚が確実なものになったと笑っていた。
「おししょーさま、また、わるいかおしてる~」
「ん? そうか。まあ、気にするな」
リンネの頭を撫でてツバキの様子を眺める。斬鬼から出ていた強い光は徐々に形を変えて、一人の女となっていく。
そして、皆の眼前にエンヤが大刀を振り上げて立っていた。
エンヤは、一歩下がったツバキの様子を確認する。顔色はそこまで悪くない。リンネを助けた時のように、少ない力だが長時間、刀精として顕現させるようにしたようだ。
ニッと笑って、積み重ねられた板と俺に目を向けた。
「ザンキは……これを割っても刀を折られたって?」
「まあな。お前はどうなるんだろうか……?」
「要らねえ心配……だなッッッ!!!」
エンヤは大刀を片手のまま一気に振り下ろす。七枚目までは一気に割れたが、八枚目のオリハルコンではやはり止まった。エンヤの一撃と、斬鬼の切れ味でも止まるのかと思ったが、それは間違いだった。
手ごたえを確認したエンヤが不敵に笑い続ける。
「へえ……こんなもんを産み出すとは、流石コモンといったところ……が、やはり俺には通用せん」
「御託は良いから、さっさと斬れよ」
「言われなくとも! フンッ!」
エンヤはニカっと笑って大刀を一気に下まで振り下ろす。大刀は、オリハルコン、ミスリルをあっさり斬り、更にアダマンタイトまでも砕くことなく斬り、衝撃を伝えることなく地面の手前で大刀を止めた。
呆気にとられるギラン達の前で、エンヤはアダマンタイトを手に取りながら、ツバキと笑いながら話していた。
「む……その刀と同じ切れ味を持つ大刀はまだしも、俺自身の力では砕けないし折れないな」
「砕かなくても斬れるのでしたらよろしいのでは?」
「それは、ザンキに頼っているみたいで嫌だな……」
「フフッ、では、エンヤ様が本気を出せるように、私が頑張ります!」
「ああ、そうしてくれ。期待しているぞ」
ポンポンとツバキの頭を撫でるエンヤ。別に、俺に頼ってくれても良いんだがなと思いながら斬られた鉄板を眺める。エンヤの本気というのはどれくらいなのだろうか。洞窟で闘ったのも、恐らく全盛期よりは弱いはずだ。エンヤの全盛期を再現しようとしたら、ツバキは倒れ、顕現できる時間も、もっと短くなっているはずだ。
強くなった俺でも、未だに底が分からない。
さて、すでに成功しているにも関わらず結界を解く気のないギラン。
というか、呆気にとられて何も出来ないようだったので、結界の切れ目を斬りながら、二人に近づいていく。やりました、と言わんばかりのリンネと、得意げなエンヤから、斬られたアダマンタイトを受け取る。
本当にすっぱりと斬られているようで、切り口は滑らかだった。
「流石、だな。俺でもここまで上手くいくかわからない。それに、カジノに何の影響も与えないとはな」
「当り前だ。ここはツバキが憧れていた場所だろ。壊すのは野暮ってもんだ」
「ご配慮、ありがとうございます。あの、エンヤ様、これから、ご一緒していただいてもよろしいですか?」
「ああ。俺もしっかりと羽を伸ばすとしよう。良いよな、ザンキ?」
「もちろんだ。お前は、ツバキの“力”なんだからな。誰も文句は言わないだろうし、言わせない」
「お前が切れている所、久しぶりに見たな。誰に似たんだか……」
「どなたでしょうね、本当に」
やれやれと頭を掻くエンヤの顔をツバキが悪戯っ子のように覗き込む。俺が笑っていると、エンヤはため息をつきながらツバキを小突いていた。
すると、リンネが俺の裾を引っ張ってくる。
「おししょーさま~、けっきょく、おねえちゃん、どうなったの?」
「おっと、そうだったな。……おい、ギラン。呆けてないで、金渡せよ」
まるで夜盗の言葉だなと、エンヤが苦笑いしている。そう言われても、このままやり過ごす気なら許さないと、斬られたアダマンタイトを手にしてギランに詰め寄った。
ぼーっとしていたギランは俺が目の前に来ると、ハッとした様子で意識を取り戻す。
「え!? あ、え~っと……」
「約束通り、ツバキは自分の力だけでこれを十枚全てを斬ったぞ。偶像術って技を使ってな」
「あ、ああ、そうだ……だが、ツバキちゃんの偶像術は他と違うんじゃ――」
「何言ってる? あれは技であって、ミサキやレオが使うような、自分とは違う生き物を召喚して戦わせるようなものじゃない。ツバキ自身の気が形を成したものだ。固有の意識があろうと無かろうと、あれは、ツバキ自身の力だ。
ツバキ自身の力で行ったことに対しては、文句を言わないと約束したよなあ、“大博徒”殿?」
「んぐっ! そ、それは、だな……」
何か言い訳を繰り返すギランだったが、最初の取り決めの事を思い出させて黙らせた。
周囲でヒソヒソと何か話している奴らも、俺が無間を握り、更にエンヤが睨んでいると徐々に静かになってくる。
ギランはじっくりと考え込んだ後、重く長いため息をついて、ツバキに頷いた。
「仕方ない……ここで、何もしなかったら、俺はツバキちゃんに一生恨まれるだろうな……」
「ええ、恨みます。ジロウ様にもリュウガン君にも報告します」
「それは……勘弁だな。“刀鬼”様はまだしも、息子には知られたくねえな、父親のこんな失態」
観念した様子のギランは重たそうに、2000枚の金貨が入った袋を下げて、ツバキの前に置いた。そして、高らかに口を開く。
「挑戦者、目標達成及び、十枚割り完全達成の為、掛け金の十倍返し、金貨2000枚を贈呈する! あんまり言いたくねえが、またの挑戦を待っている!」
手元の鐘を鳴らしながらそう言うものだから、カジノに居た者達からも注目を集める中、ツバキは恥ずかしそうに金貨を受け取った。袋の中をちらっと見ては嬉しそうな顔をするツバキを見ながら、俺もエンヤも、やれやれと思っている。
「おねえちゃん、それ、おししょーさまのだよ?」
ツバキのにやける顔を見ながら、リンネが悪戯っ子のような顔でそう言った。
なかなか嬉しいことを言ってくれるな。ツバキは、若干我に返り、俺に袋を渡してきた。
「も、申し訳ございません。はしゃぎ過ぎました」
「いや、良いって。俺が大金を持つと碌なことにならないって分かったからな。俺は、最初に渡した二百枚だけで良いから、それ以外はツバキが管理してくれてもいい」
正直、その方が良いと思っている。今後、旅に出て以来で得た金はツバキに預けて、俺は最低限の金額しか持たないようにした方が良い。今回得た金も、屋敷で金庫番をしているジゲンに預けて、向こうの費用に回した方が良いと考えていた。
もちろん、持ち歩くのは異界の袋を持つ俺だが、常に俺と一緒に居るツバキがその管理をした方が良いと思う。
旅の間の金庫番を任せても良いかと尋ねると、ツバキはコクっと頷いた。
「かしこまりました。これでも、商人の娘ですからね。お任せください」
そう言って、ツバキは袋から金貨300枚を俺に、100枚ほどをリンネに渡した。
「これは?」
「今日、これから楽しむ分です。元は取り返しましたので、後は増やすだけです。頑張りましょう!」
「わ~い! リンネもがんばる~!」
貰った金を大切そうに仕舞ったリンネは次は何をしようかとツバキの手を引いて次の場所へと向かう。
俺は渡された金貨を眺めながら、俺は何をしようかと思っていると、エンヤが俺の肩に手を回してきた。
「いやあ、すまなかったな。お前に、銭勘定の事をもっと教えておくんだった」
「ああ。俺も、そう思っていた所だ。まあ、学ぼうとしていなかった俺も悪いからな」
「面倒な勘定しなくても良いくらいに、今日は稼ぐとしようか」
「だな……ちなみに、お前は賭博の経験はあるのか?」
「無論だ。俺がどうやって、お前らを育てたと思っているんだ?」
「……俺とサヤは、賭博で得た金で育てられていたのか」
「タカナリが依頼料をケチっていたからな。サヤを連れて行った時だけ少しは上げてくれていたが……まあ、そのおかげで、腕は上がったぜ」
「じゃあ、今日は大いにその腕を振るってくれ。行くぞ」
俺も、エンヤの肩に手を回し、二人で肩を組んだ。
直接促したわけではないが、俺の思いに気付いたツバキがエンヤを喚んだ事に関しては、実は良かったと思っている。
エンヤも、今回の事件で頑張ってくれた。労いのつもりでカジノを楽しんでもらおうと思っていたのだが、それを口にすると調子に乗られそうなので辞めておく。
ただ、エンヤは何か勘づいているらしく、意気揚々と、俺と一緒にツバキとリンネに続いた。
金を渡して達成感に満ちていたギランだったが、次の場所へと移る俺達に、まだやるのかとほとんど呆れながら、遅れて後を追ってきていた。
その際に、カジノの部下に頼み、俺達がここで遊んでいることをタクマとメリアに伝えてもらった。急に決まったことだからな。二人も帰りが遅いと流石に心配するだろう。一言、飯を作っていたならすまなかったと詫びも添えてギランの部下を見送った。
さて、クレナに帰る前に、皆でカジノを存分に楽しむとしよう。




