表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
ツバキが里帰りする
351/534

第350話―お土産を買う―

 港に着くと、早速イーサンの指定した四番倉庫へと向かった。相変わらず人は多く、この中で見つけられるかと思っていたが、イーサンは倉庫の入り口にもたれるように立っていて、すぐに見つけられた。

 きょろきょろとしていたが、俺達と目が合うと、ニカっと笑顔を見せる。


「お、来たな」

「おう。こないだぶりだな、イーサン。早速買い物と行きたいが……」


 そう言いかけた途端、グ~と、腹の音が聞こえてくる。

 音がした方を見ると、リンネが何か急かすような顔で、腹を押さえていた。


「おなかすいたー!」

「……というわけだ。まずは腹ごしらえを頼む」

「分かってる。だと思っての四番倉庫だ。さあ、中に入るぞ」


 イーサンに促されるまま、倉庫の中に入った。足を踏み入れた途端、リンネの表情がぱっと明るくなる。

 それもそのはずで、この倉庫で店を出している者は、全て食品関連の店の様で、所狭しと八百屋、魚屋、肉屋が並んでいる他、屋台なども並んでいる。

 そして、中央部分には椅子や机が並んでおり、そこで飯を食っている者達も多く居た。

 イーサン曰く、ここは買い物客のみならず、リエン商会で働く職員や商人達も昼飯に来る場所だと言うことで、この時間帯はそれなりに賑わっている。


「立食形式と、普通に買って食うのとどっちが良い?」

「立食形式って?」

「あちらのように、先にお金を払って机に並べられている料理を好きなだけ食べる形になります」

「すきなだけ!? リンネ、そっちがいい~!」


 リンネはツバキの袖を引っ張って、立食形式とやらの場所に行こうとしている。俺も、この際、出来ることなら色々と食べたいので、そちらが良いと思った。


「じゃあ、向こうに行こう」

「はいよ。じゃあ、勘定は済ませておくから、アンタ達は先に料理をとって、席についていてくれ」

「は~い! おねえちゃん、いこ!」

「そんなに引っ張らなくても、お料理は逃げませんよ」


 リンネに引っ張られるツバキは、そのまま俺達から離れていった。

 今日の飯代は奢りのようだ。それならば、俺も好きに食っておこうと思い、イーサンに一言礼を言って、料理を選びに行く。


 本当に色々とあって悩む。何を食おうか……。

 魚介類の刺身などは正直、ここに来てから毎日に近く食っているから、そこまで魅力を感じない……と、言いつつ取りあえず盆に載せていく。

 肉系統は、よく食べているからな。村でも食べていたことだし、旅している時にも食べているから、別に良いかも知れない……と言いつつ、これも盆に載せていく。

 米や麺類の料理も豊富だ。どれも見たことのあるものから、無いものまで幅広くある。一応、食べたことの無いものは全部盆の上に乗せた。


 ……気が付けば、両手に持った盆がいっぱいになる。これでは他の料理が選べないと思い、いったんツバキ達と合流しようと、気配を探った。

 喜びに満ちているリンネと、少し呆れながらもこちらも嬉しそうなツバキ、そして、若干引いているイーサンの気配を感じる。

 そちらに向かうと山盛りの皿がいくつも置かれた大きな机に三人が座っていた。匙やフォークを使って、様々な料理を頬張るリンネを、ツバキと、少々驚いた様子のイーサンが眺めている。


「すげえな、リンネの嬢ちゃん……」

「いつも、こんな感じですよ」

「この小さな体のどこに入っていくのか……」

「それは、レオパルド様によれば、直接魔力に変換されているとのことでした」

「あ、なるほど。そうか、嬢ちゃんは、常に獣人や人の子の姿に化けているからな。力を使い続けている分、食事は多めにってことか」

「その発想はありませんでしたね……」


 俺もその発想は無かった。単純に、食いしん坊で食べることが好きなだけかと思ったが、イーサンの言葉を聞くとそうなのかもしれないと頷ける。


 なるほどなと思っていると、イーサンと目が合った。再び、イーサンの目が若干見開かれる。


「で、ツバキさん。ムソウの旦那が持っているアレはどう説明するんだ?」

「まあ……ムソウ様ですから。恐らくアレでも足りないと思いますよ」

「……こっちに来て良かった」


 心底嬉しそうな顔をするイーサン。これで、一品ごとに奢っていたら大変な金額になるからな。

 それに、ツバキの言うように俺もこれで満足しているわけではない。これらを片付けたら、おかわりもするつもりだ。

 買い物の時間もあるし、早いところ食べようと席に着く。

 俺が皿を置くと、リンネがこちらに目を移した。


「わあ~! ……もぐもぐ……おししょーさまの……もぐもぐ……おいしそ~……!」

「食ってから話せ。美味しそうならそれ食って、また取りに行けば良い」

「は~い!」


 会話を済ませると、一心不乱に料理を食べ進めるリンネ。たまの料理以外でここまで気に入るとは意外だなと思った。

 そんなに美味いのかと、俺も口につけると確かに美味かった。イーサンによると、王都で修業した一流の料理人が作っているとのこと。

 たまの料理にも負けてないと思った。アイツが大きくなって働くようになるとすれば、こういう場所でも良いかも知れないと感じた。


 そして、持ってきた皿が空くと、また、次に食うものを取っていく。今度はリンネと一緒に選んで、二人で分け合って食べた。

 ツバキとイーサンは、既に食後の甘味と洒落込んでいる。色とりどりの果物や珍しい甘味を口にしながら、俺達に呆れた目線を向けていた。


「あの、ムソウ様……この後も、お買い物がございますよ?」

「分かってる。だが、ちょっと待ってくれ」

「土産買うんだろ? 家には100人近い人間が居るんだから、さっさと食えよ」

「……分かってる」


 あまり時間が掛かると本当に苛つきそうだ。少し名残惜しいが、急いで食べるとしよう。食い切れなかったものは、「お土産」として、クレナで食べよう。異界の袋は便利である。

 俺は、取りあえず机に置いた分は完食して、飲み物と果物の盛り合わせを食べ始める。

 しかし、リンネはまだ食べる姿勢を見せて、主におかずが並べられている台に向かおうとした。


 そこをツバキが引き止める。


「リンネちゃん、まだ、食べるおつもりですか?」

「うん! おいしいんだもん!」

「この後も用事があると申し上げたつもりですが?」

「だから、いそいでたべるね!」

「用事があると……申し上げました……」


 真顔でリンネの顔の前でゆっくりとそう言ったツバキ。それを見たリンネはぴくッと反応し、しばらくしてゆっくりと頷く。


「うん……ごちそうさまでした」


 観念したリンネは、空いた皿を机に置いて、手を合わせた。

 ツバキはニッコリと笑ってリンネの頭を撫でる。


「はい、よくできました。ご褒美です」


 そう言って、ツバキは俺の前の皿から果物を取って、リンネの口の前に持って行く。

 リンネはニコッと笑って、その果物を食べてご満悦な顔をした。


 それを横で見ていたイーサンは、気まずそうに笑みを浮かべながら、俺に向かって、早く食った方が良いぞ、と言ってきた。

 俺もその方が良いと思い、果物を口の中に押し込み、飲み物で流し込んだ。


◇◇◇


 さて、飯を食った後は倉庫を移動して、前に訪れた一番倉庫までやって来る。ここには大概のものが揃っている。皆への土産は何が良いかとツバキとリンネと相談していると、イーサンが色々と案内すると言って、色んな店を紹介していく。


「え~と、ここにはモンク領内やゴルドの職人たちによる装飾品が並んでいる。女相手には良い土産が買えると思うぜ?」

「コモンが居るからそれは無しだな……」

「じゃあ、材料を買うと良い。家でコモン様に教えて貰いながら作りたいという意見もあるだろう」

「あ、それは良いですね。ジゲンさんも好きそうですし」

「たまちゃんには、リンネがおしえてあげる~!」


 なるほど、そういうのもあるか。モンクの土産には確かに丁度いいかも知れない。

 ひとまず、手芸に必要なものと材料をツバキとイーサンに従って買っていく。女中達だけでなく、冒険者達も休みの日などの時間潰しに使ってもらうと嬉しいな。


「あ、タクマにも頼まれていたんだったな。ついでに卸していくか」

「そうでしたね。イーさん、こちらに書かれているものは置いてありますか?」


 ツバキは懐から、タクマに頼まれていた商品の一覧を渡す。


「ん~? ……おお、あるぞ。この店に無いものもあるから後で他の店にも行ってみよう」

「それ……詐欺の店じゃねえよな?」

「なわけないだろ!」


 冗談だと、イーサンに笑ってやった。そして、言った後に思い出したが、あの時俺を詐欺の店に誘ったのはリエンだったな。イーサンは寧ろ、俺に、詐欺に遭っていると教えてくれた奴だった。

 そう言えば、この倉庫内に居る商人も以前来た時に比べると若干ではあるが減っている気がする。人員削減の影響であるということはすぐに分かった。

 しかし、そいつらが使っていた場所が空いたということで、店は少なくても、それなりの広さで店を構えている者も多く、品ぞろえ自体は向上しているように思えた。

 これはこれで良かったと、リエンが危機感を抱いていなかった理由がよく分かる。人が減っても、相変わらずの活気というのは、リエンが曳いている荷車というのはいいものだなと感じた。


「あ、ムソウ様。こちらは如何でしょうか?」


 ツバキが、見る角度によって色が変わる南京玉を手渡してくる。

 こういうものもあるんだなと思い、ツバキに頷いた。


「綺麗だな……買うとしよう」

「それなりに高価なものらしいですよ?」

「今日はリエンが半額にしてくれているんだろ? 厚意に甘えるとしよう」

「フフッ、そうですね。後でご挨拶に行かなければ……」

「そうだな。イーサン、リエンには会えそうか?」

「この買い物が終わる頃には、仕事も……いや、もう終わってるかも知れないな。何なら、ここは俺達に任せて、オッサンは、今会いに行っても大丈夫だと思うぞ」


 ふむ……クレナの皆へ土産を買っていると、帰る時間も遅くなる。帰りも船に乗ることを考えているので、買い物の後だと、リエンと話す時間も少なくなる。

 今、会いに行くというのは良いかも知れないが……。


「ツバキ、どうすれば良い?」

「あ、私とリンネちゃんは構いませんよ。どうしてもこれは買って欲しいというものがあれば、伺っておきます」

「あ、じゃあ……」


 ツバキとリンネは、イーサンに付いて買い物を続けるということなので、ひとまず、俺が考えていた土産の詳細をツバキとイーサンに伝えた。

 少し特殊なものだと思うが、イーサン曰く、ここにあるそうなので安心して二人に金を渡して、俺は皆と別れた。


 そして、前に受付で立ち寄った建物に入り、受付の女に、今度は本名を提示し、リエンが居るかと確認してもらうと、すぐに取り次いでくれた。

 案内されたのは、その建物の一番上の階の奥の部屋だった。十数人の職員が机に向かって仕事をし、少し離れた所で、商人風の格好をした者達が金の枚数を数えている。

 俺は、取りあえず目についた奴に声をかけて、リエンの元へ案内してもらった。


 皆が仕事をしている大きな部屋の横にある小さな部屋。リエン専用の仕事部屋らしい。俺を案内してくれた女が扉を叩くと、中からリエンの声が聞こえてくる。


「どうかしたか?」

「失礼します。リエンさん、冒険者のムソウ様という方がお見えになっております」

「お……そうか。入れてくれ」

「かしこまりました……どうぞ」


 女に頭を下げて扉を開く。ギルドの支部長の執務室のように、窓の前に仕事机があり、接客用の机と向かい合う長椅子が置かれている。仕事机の横には棚があり、そこには、リエンが作ったと思われる手芸の品が綺麗に並べられていた。

 リエンは、机に向かいながら、何か書類に判を押し続けていた。見ると、机の上や横にはそれなりの量の書類が重ねられている。

 本当は駄目なんだろうが、ちらっと見てみると、「処分対象」と書かれている。

 恐らく、これからリエン商会から出て行く商人達や、職員の詳細のようだ。認証の為の認め印を押しているのだろうなと思っていると、リエンがチラッと俺を見る。


「多いだろ? というか、多過ぎなんだよな……まあ、丁度整理しようとしていたから、別に良いがな」

「やはり、全員は知らない奴なのか?」

「今のところは、な。まあ、この先、知っている奴も出るかも知れないが、よほどのことが無い限り、切り捨てるつもりだ」

「よほどの事とは?」


 そう尋ねると、リエンはフッと笑みを浮かべて手を止め、机の引き出しから一枚の紙を取り出した。

 額に入れて大切そうにしているそれは、本物と見まごうばかりの精巧な絵画。ケリスの屋敷の調査報告の際にシンキが教えてくれた「写真」と呼ばれるものだった。


 そこには、今よりもだいぶ若いリエンを中心に、三十名ほどの男女が肩を組みあっていた。


「これは?」

「俺がこの商会を立ち上げた時に居た、俺の最初の仲間達だ。今も何人か商会内に残っているが、ほとんどは引退したり、別の街で別の商会を切り盛りしていたり、普通に家族と暮らしていたりしている。

 俺が最も信頼している奴らだ。仮に、今回の件に絡んでいる奴らの中にそいつらが居るのだとしたら、取りあえず話くらいは聞いてやるつもりだ」


 いわゆる、リエン商会の幹部達で、商会を立ち上げる前は、リエンと共に、店を出して共同で商売をしていたらしい。

 そんなこともあり、今回の件に関わる者達の中に、写真に描かれている者が居たとしたら、取りあえず事情は聞いてみるという。

 流石に情があるのかと思ったが、話を聞いても真っ黒だった場合は、容赦なく切り捨てるらしい。

 もっとも、そんな奴はいるはずが無いと、リエンは笑っていた。


「そもそも、今の方針に切り替えた時も皆、すぐに納得してくれたからな」

「あ、やっぱり信頼されているんだな」

「そうなるのかな。まあ、俺もコイツ等の事は一応最後まで信頼するって決めているからな。滅多なことでは追い出すような事はしないつもりだ」


 メリア達から聞いたリエンの逸話の中に、かつて仲間達と一緒に商いをしていたが、リエン達を気に入らないと思っていた他の商人に店を潰され、仲間達も奴隷として貴族や、その商人達に自らの身を売ったことがあったという。

 しかし、その後カジノで得た莫大な収益を元に、その仲間達を取り戻し、更にレイヴァン中の商人達を纏め、この商会を設立したという話を聞いた。

 苦労してまで取り戻した仲間達には、リエンも、その仲間達も互いに全幅の信頼を置いており、今回の件に関わっているとはそもそも思っていないようだった。


 まあ、何とかなるさと言って、写真を仕舞うリエン。大事なものなら飾っとけばいいものをと思ったが、埃が被るから嫌だとのこと。何とも、妙なこだわりがある男である。


 そして、ひとまず仕事に区切りが出来たようで、大きく伸びをすると、俺を長椅子に座らせて、飲み物を出してくれた。


「え~と、コーヒーは駄目だったな。普通の茶で良いか?」

「何でも良い。酒でも良いぞ」

「なら、これだな。強壮トカゲの漬け酒だ。効くぞ」


 そう言ってリエンが取り出したのは、大きな瓶に強壮トカゲがまるまる一匹入った、酒だった。湯で割って飲むと体がぽかぽかとするらしいが、滋養強壮の効果が凄まじく、リエンは、そのまま飲んでいるらしい。

 どちらが良いかと聞かれたが、俺は湯と蜂蜜で割って飲むことにした。

 差し出された酒と、菓子を食いながら、しばし、この時を楽しむ。


「買い物は良いのか? イーサンが色々と考えていたようだが」

「ツバキとリンネに任せているから問題ない。俺は、まあ、何と言うか、お前とこうやって話したかったからここに来た」

「ああ、元々はそういう話だったな。こないだはバタバタしていたから、ゆっくりできなかったから、俺も嬉しいと思っている。え~と、そろそろクレナに帰るのか?」

「ああ。元々はツバキの里帰りだけだったが、それも満足したようだからな。それに、クレナでも予定が出来たことだし」

「お、“刀鬼”様の養子同士で祝言を挙げるらしいな。それか?」

「何で知ってるんだよ……?」

「クレナにも伝手があるんだ。俺に知らないことは無いぞ」

「何となく怖くなるな……」

「ハッハッハ! 世界でも随一の“武力”を持つアンタにも怖いものがあるんだな。安心しろ。そんな奴に喧嘩を売る真似などしない。寧ろ恩を売るつもりだ。……これを受け取って欲しい」


 リエンが取り出したのは見覚えのある魔道具だった。掌の大きさで薄い石板のような形状をしている。


「これは……」

「ああ、魔道具「スマホ」だ。ルーザーが持ち出し、セバスとの連絡手段に使われていたもので、シンジ様から返してもらったものだが、これはお前に預けようと思っている。何か必要なものがあったら、それ使って俺に直接言ってくれ。すぐに手配する」

「それは、ありがたいが……特に必要ないと思うぞ。家にはコモンも居るし、アヤメとは仲が良いつもりだし……」

「まあ、その通りなんだが、もう一つ、ムソウ殿と俺の連絡がすぐに取れるということに、アンタに得があると思ってな」

「というと?」

「俺の情報網を使って、何かムソウ殿に関することが分かったら、それを伝えようと思っている。簡単に言えば、今回の恩を返し、アンタという大口の客と繋がりそれを強固にするために、俺は品物として「情報」を売ることにする。どうだ?」


 挑戦的に俺の目を見てくる。

 率直に、いい考えだと思った。俺が欲しい情報というのはすぐには思い浮かばないが、これから天上の儀で、邪神族や転界教の事について、世界に公表する流れになっているというのは知っている。そのあたりの事や、他の十二星天についての情報、更に、転界教以外にも、この世界には危ない奴らも居る。

 今回の件や、クレナの件で関わった貴族達はもちろん、コクロに居るという、リオウ海賊団などの犯罪組織もそうだ。そのあたりの情報は、俺も欲しいと考えていた。

 世界中の情報を網羅しているリエンと、簡単に連絡が取れるというのは、確かに良い話だと思った。


「なるほど……なら、これは受け取るとするが、俺からは何を払えば良いんだ?」


 後々、俺に不利な条件を言われないように、俺から切り出す。リエンはニカっと笑って口を開いた。


「正直、そこまでは考えていなかったな。アンタや“刀鬼”様と繋がれるのなら、俺からの条件は特にない。強いて言うのなら、俺や商会の護衛依頼や、採集依頼に取り組む際の依頼料に便宜を図ってもらいたいくらいだな」


 今回は、商人らしい打算的な考えは無かったようだ。何とか出てきた条件も、俺からすれば容易いことで拍子抜けする。


「そんなことならお安い御用だ。ありがたく、こいつは受け取らせてもらう。ただ、俺はお前らの護衛にはつかない」

「分かってる。アンタは、スーランのグレン専属だもんな。ホント、あの男が羨ましい」


 お、やったな、グレン。リエンはついにお前の事を羨ましがるまでに至ったぞ。今は諦めているようだが、今後、商会に入らないかと今度は使者を通じて、ではなく、直接勧誘の声がかかるかも知れないな。

 このまま断り続けるのか、根負けして商会に入るのか。ジーゴとか居たらそれで金を賭けたりもしてみたいものだ。密かな楽しみにしておこう。


 俺はリエンからスマホを受け取り、懐に仕舞った。今後ともいい関係を築いていけるように俺も頑張るとしよう。


「お、そう言えば、早速ムソウ殿が興味を示そうな情報を手に入れたぞ」

「ん? 何だ?」

「今回の事件について、オウキに居るミサキ様が興味を示しているらしい」


 早速、面白そうな情報を提示してくるリエン。興味が沸いて、身を乗り出す。


「ミサキが? 転界教絡みだからかな」

「いや、それもあるだろうが、シンジ様とサネマサ様曰く、合成魔獣の件に興味を示したらしい。確か、ミサキ様の弟子の中に、ケイロン家の人間が居ただろ。多分、ソイツ関連だろうな」


 ケイロン家の人間……ウィズの事か。

 そう言えば、アイツは昔、キメラという魔物の魔力を植え付けられて、絶大な魔力を手に入れた代償として、ウィズが暴走して、家がめちゃくちゃになったという話だったな。

 キメラは合成魔獣の総称のようなものだったから、そのあたりを調べているということか。


「確か、ウィズってケイロン家の末子がなかなか魔法使いとして芽吹かない時に、家の奴らに、討伐したキメラの魔力を植え付けてみては、という助言と、その方法を教えた連中が居たって話だな。そいつらのしっぽを掴もうとしているのかもな」

「それ……今考えてみると、転界教だったのかも知れないな」

「多分な。ケイロン家の事件があったのが十年ほど前だ。あの頃から活動していたとはな……」


 正確には、ケリスの事もあるので、もっと前からだと推測できる。


 それにしても、妙なところで転界教の繋がりを示唆することになるとはな。それだけ、世界に根を張り巡らせているのかと思うと、少し不安になる。

だが、ミサキはウィズの事大好きだし、多分、本腰を上げて奴らの事を調べているだろう。

 見た目はアレだが、本気で頭を使うミサキというのは、正直俺よりも凄いし、転界教よりも怖いと思っている。こっちでも何かを掴んだら、コモンやシンジを通じて共有しておくとしよう。


「ちなみにだがな、ミサキ様の弟子の情報だが――」

「あ、それは聞かないでおく。次会った時の楽しみにしているからな」


 危うく、強くなってまた会おうと約束した皆の近況を知る所だった。ハクビは、狂気スキルを克服、ウィズはそのキメラの魔力を自在に操る、レイカは……まあ、取りあえず強くなると言っていたな。

 それは会ってから確かめたいと思っているので、ここで人伝手に聞くのは野暮だと思い、リエンの口を塞ぐ。


「ん? そうか。なら、俺から言えることは何も無いな。ミサキ様が追っていることについて何か分かったら、ミサキ様にも、ムソウ殿にも伝えるようにしておく」

「一応、ミサキにも恩を売るつもりなんだな」

「いや、そういう気は全くなかったんだが、シンジ様を通じて、ミサキ様からこれを貰ってな……」


 そう言って、リエンが取り出したのは、何かの設計図のようなものだった。


「なんだ、これ?」

「その、スマホの完成版の細かな設計や、組み込んだ魔法についての詳細だ。これで、うちからその魔道具を大量生産できると良いが……」


 ああ、あの簡略化された本よりも、より正確なものが書かれた設計図か。凄く緻密な文字や魔法陣が書かれていて、俺が見てもよく分からない。

 リエンは、これを手に入れたことにより、この魔道具の生産を一手に引き受け、更にそれを独占的に商売する権利に近づくことが出来た。

 つまり、ミサキに対して恩が出来たリエンは、俺と同じく転界教の情報や、買い物などで便宜を払うということらしいのだが……。

 リエンは難しそうな顔で、スマホの設計図を眺めている。


「う~ん……なかなか難しそうだな……」

「やはり、お前が見てもそうなのか?」

「まあ、俺も元々魔法には詳しくないが、うちの魔道具を扱っている奴らに聞いても、あの本より多少はマシになったくらいと難しい顔をされた。上手くいくと良いんだがな……」


 世界一の商人でも悩めるものを作り出すミサキ……やはり侮れないな。


「まあ、ともかく完成したら教えてくれよ。俺も買うからよ」

「ああ。離れた相手とすぐに話せる魔道具自体は需要があるからな。売り先の第一号は、闘鬼神にしておくよ」

「そいつはありがたい。楽しみにしておく」


 スマホだけでなく、今後も便利なものが出来たら、俺に声をかけてくれそうなリエン。

 ありがたいことだが、先に城とか領主にしておけと笑ってやると、俺の家に居るコモンに相談すると笑い返された。

 なるほど、そう言うことなら不審なことは何も無いか……妙に納得した。


 酒を飲みながらの会話は何とも弾むもので、次の話題は、今度は俺から切り出した。


「そういや、聞きたいと言うか、参考にしたいことがあるんだが」

「お、何だ? 何でも聞いてくれ」

「クレナに帰って、祝言を終えた後に、またどこかに行きたいんだが、お勧めはあるか?」

「お勧めか……」


 俺は、次の旅先をどこにしようかと悩んでいた。行ったことの無い場所ばかりだからな。冒険者から色々と聞いているが、その度に悩んでいるし、他の領地については、色んな噂も飛び交っているので判断に困っていた。

 クレナのアヤメの件もあるし、正確なことを知りたくてリエンに確認してみると、リエンは地図を広げながらいくつか質問してくる。


「例えば、どんな所に行きたいかというのはあるか?」

「まあ、行ったことが無い場所だな。マシロ、パーシ、ソウブ、グリドリ、チャブラ、そして、モンク以外の場所だ」

「そこに行って何かしたいとか、あるか?」

「普通に依頼をこなしながら楽しく過ごせれば良いと思っている」

「ふむ……なら、こことここだな」


 話を聞いたリエンは、地図の二点を勧めてきた。そこは、コクロという領とゴルドという領だった。


「聞いていると思うが、ゴルドにはエルフやドワーフ、それに少なからず精霊人なども多く居る場所だからな。いい刺激になると思う。あそこの工芸品も見事なものばかりというのも魅力の一つだし、それにここには古代の遺跡なんかもあったりしてなかなか面白い場所だぞ」

「あ、それは噂通りだな。確かに俺が好きそうな場所でもあるようだ」

「もう一つのコクロは、どちらかと言えば、依頼をこなしに行くという場所として進めた。クレナ程ではないが、魔物も多いし、リオウ海賊団による被害も多い場所だ。戦ってひと稼ぎしたいならここで、俺も出来れば行って欲しいと思っている」

「というと?」

「うちの荷物が狙われることもしょっちゅうあるし、海賊と取引している商人も居るからな。奴らの客を潰すことで、各地で違法な商いをしている者共を叩き潰せる結果になったら御の字だ」


 ふむ……楽しく旅をするならゴルドを勧めるが、商会を率いるリエンとしては、冒険者である俺に、海賊の制圧をお願いしたいというところか……。

 確かに、不穏な芽を摘んでおくというのも悪い話では無いし、俺にとってもそれは好都合だと思っている。

 それに、コクロには邪神大戦の事を語り継いだ、ジーンという男の一族が居た場所でもある。何か、当時の事が分かる何かあれば良いと思っているから、行きたいとは思っていた。


「じゃあ、クレナに戻ってしばらくしたら、コクロに行って、その後にゴルドに行けば問題ないか。海賊を潰した後にのんびりと旅をしても良いわけだな」

「お、ムソウ殿がリオウ海賊団を潰したら、俺から報酬を出すぞ。名前も似てるってことで、結構目障りな奴らだったからな」

「ああ、言われてみるとそうだな。リエンとルオウを足した感じか……」

「そういうことだ。散々煮え湯を飲まされたんだ。俺も出来ることはしてやるぞ」


 ニカっと笑うリエンに、ありがとうと頭を下げる。

 これで、今後の予定はほぼ確定だ。次の旅に出るまでは、しっかりとシロウとナズナを祝ってやろう。


「良し……じゃあ、他に何か話すことはあるか? まだまだ買い物も終わりそうにないし、何でも話してやるぞ」


 さて、一通り俺もリエンも話し終えたが、後悔しないようにツバキ達の買い物が終るまで、時間はある。何を話そうかと促すとリエンは口を開いた。


「じゃあ、アンタの世界の話を聞かせてくれ。この歳になっても未知の話というのは面白く感じるものだからな」

「それは良いが、面白い話でも無いかも知れないぞ?」

「いやいや、アンタの人生の話だ。絶対面白いはずだろ。そして、そういうところから、次の儲け話に繋げられることもあるからな」

「流石、世界一の商人は言うことが違う。なら、アンタも、お前の昔話を聞かせてくれ。色々飛び交っているが、正確かどうか、わからないからな」

「ハハハ! 良いぜ。聞かせてやるよ、俺の、この商会の歴史をな……」


 そう言って、俺達はお互いの過去の事について語り合っていた。話の中で、人の上に立つ人間として悩んだことや、有名になって困ったこと、人生の最悪な状態から這い上がってきたことなど、内容は違っていても似ていたりすると、一緒に頭を抱えたり笑い合ったりしながら時間は過ぎていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ