第349話―ギルドで報告する―
その後、体を拭き終えたリンネとツバキが戻ってきて、俺の手伝いをしてくれた。磨けば磨くほど綺麗になっていく防具を見ながら、リンネの目もキラキラと輝いている。
ツバキからは、神人化して綺麗にすればといわれたが、こういうのは自分できちんとしたいし、今神人化したら、騒ぎになりそうだと言うと納得してくれた。
あらかた、装備を磨き終えると、前方にレイヴァンの港が見えてくる。下船の準備を整えているうちに、港へと入っていき、俺達は下船した。
その際に、護衛の冒険者達にシーサーペントの死骸を渡しておいた。死骸を出す時にちょっとした騒ぎになったが気にしなかった。
護衛の男は何か言おうとしていたが、
「あまり詮索しないでくれ」
と、頼むと戸惑いながらも、分かったと言ってくれた。
「ま、まあ、今回は俺達も助かった。オッサンには感謝している。ありがとな。そっちの従魔の嬢ちゃんも、よくやってくれた。ありがとう」
「ああ。帰りも船の予定だから、また頼むぞ」
「おにいちゃん、よろしく~!」
ニパっと笑うリンネに気を許したのか、男はリンネの頭を撫でながら、力強く頷いた。
さて、港に着いたということで、リエン商会の本部も見えるが、見た感じでは普通そうだ。これなら話も出来そうだなと思っていると、ツバキがそちらに向かうことになった。
「ムソウ様はギルドへ向かってください。ガーレンさんに長く捕まりそうですし、ご友人の方々との挨拶もありますので」
「そう言うことなら、そうさせてもらう。ツバキはどうするんだ?」
「私は、リエンさんやイーさんにお買い物の事を話した後、騎士団に向かい、ギルドに向かいます。もし、私が居なかったら、騎士団のモンク支部にお越しください」
「分かった。え~と、リンネはどうする?」
「う~ん……きょうは、おししょーさまと!」
リンネはそう言って、俺の足に抱き着く。そのまま抱えると、ツバキがクスっと微笑んだ。
「おとなしくしているのですよ」
「は~い!」
ツバキに手を上げて返事する光景は、本当に母子のようだと感じた。
その後、ツバキと別れて俺はギルドへと向かった。スーラン村で仕事をしてからは一度も来ていないから、ここに来るのも何だか久しぶりだなと思いながら、街を歩いていく。
時折、飯屋から美味しそうな匂いが漂ってきて、リンネがそちらに行こうと手を伸ばすが、俺も我慢しているんだと、納得してもらいながら、スタスタと進んでいく。
早くギルドの用事を終わらせて、イーサンに美味いところを案内してもらおう。
さて、そのまま大通りを進んでいくと、これまた、なつかしさすら感じるギルドの建物が見えてくる。
近づいていくと、リンネが俺の胸に顔を埋めた。
「まぶし~」
「ああ。本当に、ここまで来ると成金趣味みたいで嫌だよな」
「なりきん?」
「まあ、早い話が金持ちになって強がっている奴みたいな感じだな。金を持ってても、碌なことをしないのでは話にならない」
「おかねはだいじ、だもんね!」
「そう言うことだ。リンネも、カジノで勝ったからって、調子に乗るのは駄目だからな」
「は~い」
得意そうなリンネだが、こないだのカジノでの一件を見る限り、どうだろうな。少なくとも、リンネやたまはもちろん、俺の屋敷の奴らにはそんな感じになって欲しくはない。
まあ、ジゲンとたまはともかく、ダイアン達や女中の中には、一度そうなってから、浮浪者になった奴も多いからな。同じ過ちを繰り返さないためにも、リンネとたまの情操教育の為にも、そのあたりは帰ってからきちんとしておこう。
俺は……大丈夫だと思いたい。こっちに来てから、結構散財しているが……。バレないようにしよう。
「まあ、中に入れば眩しくないからな。さっさと用事を済ませるぞ」
「うん!」
そう言えば、ギルドにリンネが入るのは二度目だな。一度目は喧嘩に巻き込まれそうになってそんなに長居していないし、どこかワクワクとしているリンネを連れてギルドに入ろとした。
しかし、俺が扉に手をかけた瞬間、勝手に扉が開き、中から見知った冒険者の一団が顔を出す。
「ん? お、ザンキのオッサン!」
「ああ、ジーゴか……って、何だ、その鉄球!?」
ギルドから出てきた冒険者達の先頭に居たのは、ジーゴとシータ。ぞろぞろと出てきて、見知った顔の者が居る。これから合同で討伐にでも行くようだった。
俺は、前は斧を使っていたジーゴが首から巨大な鎖付きの鉄球をぶら下げているという見慣れない姿に驚いてしまう。ジーゴは鉄球を持ちながら、ニカっと笑った。
「オッサンは見るのが初めてだったな。本来の俺の得物はこれだ」
「すげえな……」
「こう見えて、“破壊鉄球”のジーゴって呼ばれているんだぜ?」
「“破産鉄球”?」
「“破壊鉄球”だ! 有名だぞ?」
「へえ……じゃあ、何で前までそれを使っていなかったんだ?」
「借金のカタにしてたんだよ。ここ最近のカジノでの稼ぎで、ようやく取り返したのさ」
自慢げに鉄球を見せつけてくるジーゴ。聞けば、オリハルコン製らしく、ジーゴの怪力と合わさって、それはそれは、大層な威力を誇るという。
カジノで遊びすぎて、金が無くなってしまい、一時使えなかったらしいのだが、依頼をせっせとこなし貯めた金でカジノに繰り出し、大勝ちしたおかげで何とか取り戻すことが出来たという。
「大したもんだな……しかし、それでもこれから依頼に行くあたり、やはり金には困ってるのか?」
「いや、そういうわけじゃなくてだな……」
苦笑いするジーゴ。何か、言いづらそうにしている。何だろうなと思っていると、シータを始め、他の冒険者が教えてくれた。
深くは聞くなといわれたから、あまり詮索しなかったが、どうやら依頼を失敗したらしい。それも結構な大口だったらしく、ジーゴを始め、この場に居る全員で取り組んだのだが、報酬が支払われることは無かったという。
しかもその依頼が、冒険者達の知らない所で法に触れるようなヤバいものだったらしく、違約金を払わなくても良いという話だったのだが、犯罪に加担した責任ということで、冒険者としての資格を取り消されそうになったそうだ。
しかし、ガーレンの計らいで、ひとまずいくつかの依頼をこなすことで、処分は水に流すということになったらしく、ジーゴ達はこれから連合で依頼をこなしに行くという。
「ふむ……大変だったな。俺がスーラン村に行っている間にそんなことになっていたか」
「ああ。俺達も行けば良かったぜ。行った奴らを見ていたら、結構稼げたし、詳しくは知らねえが、臨時の報酬も出たらしいからな」
お、村に居た奴らも何人かギルドに来たんだな。ガクッと肩を落とすジーゴには悪いが、その臨時収入を渡したのは俺だ。
……もう、これ以上は誰かに無闇に金を渡さねえからな。
「そう言えば、あの村にクレナの冒険者ムソウが居たって話もあったわね」
「ああ。それから、十二星天のシンジ様も来たって話だったな。向こうも何かあったのか?」
「オッサン、何か知らねえか?」
「さ、さあ……? 気が付かなかったな……」
話題が俺になり、目線を逸らせる。マルドの皆やジェイド達はともかく、今更コイツ等に正体を明かす気などさらさらない。このまま、気付かないでくれと念じると、願いはとどいたのか、皆、首を傾げながら、まあ、良いかと頷いていた。
「まあ、というわけで俺達はこれらから依頼だが……オッサン、さっきから気になっていたんだが、その子は何なんだ?」
ジーゴは、俺が抱えているリンネを指さす。そう言えば、会うのは初めてかと思い、皆に紹介してやった。
「コイツは、俺の従魔のリンネだ。ほら、挨拶しな」
「こんにちは! リンネは、リンネ! よろしく~!」
キャッキャと手を振るリンネ。例に漏れず、女性の冒険者達はうっとりとし、顔を赤らめる。
「「「「「可愛い~!」」」」」
そして、俺に寄ってきてリンネの頭を撫でたり、頬をつつき始めた。リンネは嬉しそうな顔で対応している。
「ずいぶんと幼いようだな。それに従魔ってことは魔物か……何か、オッサンには似合わねえな」
ジーゴも、太い指でリンネの頭を撫でながら、俺を揶揄ってきた。
「似合わねえって何だよ。こう見えて、そこらの魔物よりは強いぞ」
「何だ、親馬鹿か? そう言うことなら、今日も俺達と一緒に依頼をこなすか?」
ニカっと笑うジーゴに、俺は首を横に振った。
「いや、すまねえが、それは出来ない。実は、近々クレナに帰るんでな。今日は、ガーレンに挨拶に来ただけだ」
そう言うと、ジーゴを始めとしたその場に居る冒険者は目を見開いた。
「え……帰るのか?」
「ああ。しばらく家を留守にしたからな」
「そうか……寂しくなるな……」
本当に寂しそうな顔をする冒険者達。短い間だったが、良い思い出がたくさんあるからな。
正直に言うと、俺も少し寂しい。もう少し、皆と一緒に居たいが、皆にも事情があるし、俺にも事情がある。あまり居過ぎると別れづらくなるから、これを機に皆とはここで最後としておこう。
ジーゴは、しばらく寂しそうにしていたが、同情したリンネの心配する顔を見て、すぐにニカっと笑った。
「そんな顔すんな、嬢ちゃん! 俺達は冒険者だ。オッサンとは、またどこかで会えるし、なんなら、近々、俺達もクレナに行こうと思っていたからな!」
「え、本当か?」
「まあ、今回の補填と、なかなか帰ってこないバッカスを見るに、向こうもそれなりに楽しめそうだからな。この依頼が終ったら、ここを発つつもりだ」
と言うことは意外と早く再会しそうだな。少しだけ、しんみりした俺の気持ちを返してくれ。
ジーゴの言葉に、呆気にとられていたが、すぐに可笑しな気持ちになって笑った。
そして、ジーゴに拳を突き出す。
「そうか。なら、クレナの俺の家で待っている。クレナに来たら寄ってくれ。また、お前達と依頼なり、飯なり一緒にやりたいからな」
「ああ。そうさせてもらう。ここじゃあ出来なかったが、カジノにも行くぜ?」
「上等だ」
ジーゴは俺の拳に、自らの拳を合わせる。他の皆からも、待ってろとか、約束だとか聞こえてくる。皆の言葉に頷き、いつかまた、皆とクレナで会うことを思いながら皆と別れた。
「「じゃあな」」
背中越しに手を振り合って、俺はギルドに入った。戸が閉まるまで、リンネは冒険者達に手を振っていたが、閉まると俺の顔を見上げる。
「おししょーさま、さみしくない?」
「寂しくねえよ。また会えるって分かってるんだからな。リンネも、ミサキやレイカ達とまた会えるって分かったら、寂しくなかっただろ?」
そう言うと、リンネは少し考え込んで、コクっと頷いた。
「また、あえるもんね! リンネもさみしくない!」
「そう言うことだ。さて、用事を済ませるか……」
ジーゴ達への挨拶も終わったし、残るはガーレンとの挨拶とスーラン村の報酬を受け取るだけだ。
ひとまず、ガーレンが今空いてるか確認するために、受付のシアの元へ向かった。
「よお、シア。元気か?」
「はい! あ、ザンキさん!」
「元気そうだな。ジェイド達と同じく、俺も村での仕事の報酬を――」
村で貰った依頼達成の証書と、村長が割増しで払うと言って渡してくれた証書、更に、セバス捕縛に関してシンキから出るという特別報酬の証書を渡そうとした瞬間、受付にて座っていたシアはすくっと立ち上がった。
「あの! ガーレンさんが、ザンキさんがお越しになられたら、すぐに来てくれと仰っておりました!」
「お、おう、そうか……」
何を置いても、至急ガーレンの所へ行ってくれといわんばかりの勢いだ。流石のリンネも驚いて、黙ってしまっている。更にシアもリンネのことなど眼中にないような感じだ。
要点だけ伝えるというのは楽で良いが、もう少し落ち着いて欲しいものだ。そんなに慌てた様子で言わなくても良いだろう。確か、コモンの時もこうだったな。
ひとまず報酬は後で言うことで、俺はそのままリンネを連れて、ガーレンの部屋へと向かった。
扉を叩き、中へと声をかける。
「おう。冒険者ザン……ムソウだ。ガーレン、居るか?」
すると、すぐに中から返事が返ってきた。声ではなく、どたどたという音で。
一応、リンネを下ろして、耳を塞がせた。
そして、勢いよく扉が開き、血相を変えたガーレンが中から現れる。
「おい! ムソウ! どうなってんだ!? 何やったんだ!? 説明しろ!」
顔の近くで叫ぶガーレンに少しだけ殺意をぶつけて黙らせる。
やはり、ガーレンはこういう反応になっているか。元々、大きな面倒ごとは起こさないと言っていたからな。
大人しくしていると決めていたのだが、今回ばかりは仕方無いと思い、俺はリンネを抱えた。
「ざっくり説明すると、コイツが攫われて、攫った奴らが転界教絡みだった。だから、連れのツバキが奴らを叩き伏せた。
で、俺の方はツルギ達を追ってスーラン村に来たケリスの従者、セバスを返り討ちにしただけだ。俺に、非はないはずだが?」
「だ、だが……」
「事実だ。そもそも今回に関しては、俺にほとんど関係はない。巻き込まれただけだ」
ついでに言えば、マシロもクレナに関しても、俺は巻き込まれただけという認識だ。
マシロではロウガンが、クレナではアヤメが呪われていたが、今回ガーレンは呪われなかっただけ、コイツに関しては二人、というか、他の領よりもかなりマシだったと思っているので、俺が怒られる道理は無いと思っている。
ガーレンはなおも反論しようと思ったが、目の前でニコニコしているリンネを見て、ポリポリと頭を掻き、深くため息をついた。
「はあ~……まあ、確かに今回に関しては、お前達が一番の被害者の様だからな……アンタを責めるのは間違いか」
そう言いながら、リンネの頭を優しく撫でるガーレン。リンネは嬉しそうにしていた。
落ち着いてきたガーレンは、俺とリンネを執務室の中に入れて、長椅子に座らせる。
そして、戸棚から菓子を取り出し、俺とリンネの前に出した。
「気に入ってくれると良いんだが……」
「ありがとー!」
差し出された菓子を、口にしてはキラキラとした表情をするリンネ。どうやら、気に入ったらしいと思いながら、今回の一連の出来事の報酬をもらうための資料一式を渡しながら、一つ一つ説明していった。
「さて……取りあえず報告を、と思ったが、既に村から何人か帰ってきているらしいからな。特に俺から言うことは無いと思うんだが……?」
「ああ。スーラン村に関してはジェイドに聞いている。ご苦労だったな、ムソウ。これで、村の婆さんたちも安全に暮らしていけるだろう」
「ツルギ達も予定通り、あの村に住むことになったから村の防衛については問題ないだろう。で、問題のセバスの襲来についてだが、さっき言ったとおりだ」
「分かってる。それもジェイド達から聞いたし、シンジ様からも報告を受けたからな。ただ、詳細なことをお前の口から聞きたかっただけだ。さっきは怒鳴って悪かったな」
「アンタが怒ってないならもう良い。それで、シンジからセバス捕縛の報酬と、あと、村長から、今回の事を取り次いだことへの礼として報酬が出ることになった」
「これだな。ラコン村長は人が良いからな……きっちり、払うとしよう」
満足そうな顔で、書類に判を押すガーレン。これで、報酬とは別に臨時収入が出ることになって一安心だ。
「で、マルドで起こった事だが、実の所、俺はその場に居なかったからほとんど知らない」
「それについては、一昨日の段階でシンジ様とリエンから話は聞いている。お前の連れの女騎士が解決したようだな。大したものだ」
「後処理の方は大丈夫なのか?」
「ギルドでやることは少ない。今回の件は、リエン自ら、これはリエン商会のごたごただと証言したからな。商人の処理はリエンが、マルドの騎士の処分は騎士団が、そして、転界教や貴族についてはシンジ様が処理をする手はずとなった。
俺は、関わった冒険者達の処分に関して面倒を見るということになった。まあ、具体的には、罰金とか護送だな」
ガーレン曰く、貴族の護衛としてツバキと闘った冒険者達も、依頼に準じただけでほとんどが軽い罪で終わっているという。なので、何らかの奉仕活動と罰金だけで処分を纏めたそうだ。
無論、関わった冒険者の素性は非公開だそうで、実際、誰が関わったかは、ガーレンと一部の人間しか知らないという。
まあ、クレナの冒険者と違って、俺はそいつらに報復とかは考えていないから別に知ろうとは思っていない。
「……ん? ちょっと待て。じゃあ、アンタはそこまで仕事が増えたわけじゃねえよな?」
思わず、そう聞いてみると、ガーレンはコーヒーを飲みながら、ニカっと笑って頷いた。
「正直なところ、思ったほどではないな」
「……チッ……さっきのは何だったんだって話だな」
こういうことなら、そう簡単には許すんじゃなかったと頭を抱える。
視線を戻すと、ガーレンは俺が持ってきた他の資料、ツバキとリンネに関する慰謝料についての書類やアマン捕縛の協力に関する報酬の書類、転界教に関する調査に協力したことにより発生した報酬の書類全てに判を押していた。
コイツの増えた仕事というのはこういうものだったかと、再びため息をつく。
「ッたく……何か面倒、かけたんじゃねえかって内心、心配していた俺が馬鹿だった」
「いやいや、報告が遅れたのは反省して欲しいものだな。いきなり、リエンとシンジ様がギルドに来てから驚いたんだからな。アヤメやロウガン殿から聞いていたことが、俺にも怒ったのかと愕然としたんだぞ」
「知るか。さっきも言ったが、今回に関しても、クレナの時もマシロの時も、俺は巻き込まれたんだ。俺自ら、何かを引き起こす気なんて無ぇよ」
どうだか、と肩を上げるガーレン。俺がこの世界で何かしたかと言われれば、思い当たるのは精霊人の森での一件くらいだ。
……まあ、アレで俺の見方と言うか、立ち位置のようなものが確立されたんだがな。正直、そこは反省している。
ただ、自ら面倒ごとを引き起こす気は全くない。ガーレンは信じてくれていないようだな……。
「はあ……じゃあ、俺からのもう一つの報告はさらっと済ませることが出来るな」
「ん? 依頼と事件以外に、何か俺に言うことがあるのか?」
苦いコーヒーを勧めて、リンネの反応を楽しんでいたガーレンがこちらを向く。
「そろそろクレナに帰ろうと思っている。世話になったな」
「お……そうか。なら、最後の最後でやらかした、ということだな?」
「だから、違うって言ってんだろ!」
思わず大きな声を出すと、ガーレンは口を開けて笑った。ようやく、肩の荷が下りるとかなんとか言っている。
再びため息をつきながら俺も笑った。何となく、ガーレンは俺の事をそういう風に見てくれていても構わないと思っている。
ひとしきり笑い終えた後、俺達は改めて向き直った。
「……世話になったな、ムソウ。村の事もあるし、コモン様と共に闘えたといういい経験も出来た。良い刀も貰えたしな。感謝している」
「こちらこそ、世話になった。アンタの配慮のおかげで、騒ぎにならずにここで過ごすことが出来た。まあ、これからはその必要も無いということも分かったしな。俺の方も感謝している。また、ここに来るときはよろしくな」
「ああ。また会える日を楽しみにしている」
俺達はその場で固く握手を交わし、いつの日か再会することを約束した。リンネも俺達の手に小さな手を重ねてニッコリと笑っている。
最後に良いかと、ガーレンがそう言って、リンネの頭を撫でていた。どいつもこいつも、ギルド支部長というのは、根は良い人間なんだということを再認識し、執務室を出た。
そして、シアから報酬を受け取り、しばらくジーゴ達と飲んだり、近況だったり、依頼について楽しく話したりした酒場の方を眺めてギルドを出た。
外にツバキの姿は無い。まだ、騎士団の駐屯地に居るようだ。俺とリンネはそのまま、ツバキの元へと向かった。
歩きながら、リンネが俺の顔を見上げて、嬉しそうな顔をしていることに気付く。
「おししょーさま」
「ん? どうした?」
「おししょーさまにも、たくさんおともだちがいるんだね~!」
友達? ……そういや、十二星天やその周りの者達、ギルド支部長、更には領主以外の、所謂普通の冒険者で友達と呼べる人間はそんなに多くない。
同じ冒険者として対等に話し、酒を飲み、一緒に闘えたのは本当に久しぶりだった。ここに来て、リンネが言うように、一気に沢山増えたと、ジーゴ達やジェイド、リドル、デネブ等、モンクであった冒険者達の事を思い出した。
「ああ、そうだな。これからも、たくさん増やしていくぞ」
「そうなったら、おししょーさまもさみしくないね!」
「おう。リンネも俺に負けないくらい、たくさん友達を作るんだぞ」
「うん!」
事件の所為でふさぎ込んでいたリンネも、改めてシオリ達と更に仲良くなることが出来た。俺も、リンネを見習って、次にあいつ等と会う時はきっちりと素性を明かして、それでも一緒に楽しんでいこうと、ニコリと笑うリンネを見ながら、そう思った。
そして俺達は、ツバキが居るという騎士団の駐屯地を目指して歩いていった。
◇◇◇
さて、案内通りに街を進んでモンク師団の本部に着いた俺とリンネ。
中に入って最初に目に入った光景に驚きを隠せず口をぽかんと開けていた。
「崇高で偉大な騎士、マシロ師団、師団員ツバキ殿に対し、総員、敬礼!」
「や、辞めてください!」
大広間に、ここの師団員だろうか、数十人の騎士が整列し、騎士がよく行う拳を胸に当てる仕草でツバキを見送っているようだった。
無論、声を上げて先頭に立っていたのはここの師団長であるインセン。直立不動で、ツバキをまっすぐと見つめる。
当のツバキは恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、騎士達に声を上げていた。
「皆さん、辞めてください! 私は、まだ、三年目なのですよ!? 皆さんの方が先輩なのですから、そういうことは行わなくてもよろしいのです!」
「いえ! 師団長の指示なので! そして、ツバキ殿の素晴らしい働きに、敬意を表したいと思っております!」
「ツバキ殿こそ、騎士の鑑! 人民を護る者として相応しい風格をお持ちの方です!」
「ツバキ殿! この先の良き旅路を我々は願っております!」
「願うだけにしてください!」
やはり、慌てるツバキの姿というのは面白いものである。普段なら威圧でもするのだろうが、やはり目上の人間に対しての礼儀は忘れていないようだ。どうしたら良いのかと、ただただオロオロとするばかりである。
そんなツバキを見ながら、リンネは嬉しそうな顔をする。
「あたふたするおねえちゃん、おもしろいね」
「だな。騎士の皆もあんな感じだし、俺達は外で待ってるか」
邪魔しては悪いと思い、俺達はそっと外に出ようとした。
すると、背後からツバキの声が聞こえてくる。
「あ、ムソウ様、リンネちゃん! いらっしゃったのですね! って、どちらに行くのですか!?」
「いや、忙しそうだから外で待っていようかと……」
「助けてください!」
「助けてって……危ない目に遭っているようには見えないが?」
「なッ……わ、私を蔑ろにするとエンヤ様やツバキ様に怒られますよ!?」
「いや、多分笑っていると思うぞ。アイツはそういう奴だ。それに蔑ろにはしてねえよ。
インセン殿達にしっかりとあいさつを済ませるんだぞ」
「まってるからね!」
そう言い残して、駐屯地の外に出た。リンネと顔を見合わせて、ニッコリと笑い合う。
いつも悪戯される分、今回に関しては本当にすがすがしい思いだ。
そして、しばらくリンネと遊んでいると、扉が開き、中からぐったりした様子のツバキが出てきた。
ツバキは俺を目にするや、スタスタと近寄ってきて、ムスッとした顔で俺を睨む。
「どうして、助けてくださらなかったのですか? 死神の鬼迫でも使ってくだされば……」
「敬意を示している相手に使うのは、普通躊躇うだろ。それより、騎士団は今後どうするかとか聞けたか?」
「……はあ……そちらを聞くのにも苦労しました……」
項垂れるツバキに話を聞くと、駐屯地に着いた途端、師団長のインセンのみならず、中の騎士はもちろん、住民達の受け答えをしていた一般の職員までもが、ツバキを羨望の眼差しで見てきて、居たたまれないと言うか、何ともその場に居辛い空気だったという。
そして、執務室まで通されたのだが、インセンは昨日の続きと言わんばかりに、開口一番、ツバキに対しての謝罪から始まり、何とかそれを諫めても、今度は先ほどのようにツバキの行動に対して、賞賛の言葉を並べるばかりで、なかなか本題に入れなかったという。
それらを受け流しつつ聞き出した、今回の件に関しての騎士団の動きは、俺がガーレンに聞いた通り、腐敗していたマルドを任せる騎士たちの再編成と、駐在騎士の増員を主に行っていくという。
以前のリオウ海賊団の件もあり、マルド付近に不穏な動きをする者達が多いことが明らかになった今、ソウブやリヨクから応援として騎士を増やすことを検討していくらしい。
これに関しても、今度開かれる天上の儀の、師団長が集まる場で議題に上げることとなった。
「ふむ……ああ見えて、やはりインセン殿はきちんと考えることは考えているんだな」
「少し、真っ直ぐ過ぎという欠点はあるようですがね……」
少しやつれた感じになったツバキは、しゃがんで、どうして先ほど助けてくださらなかったのですかと、リンネの頬をつまんだり、突いたりして弄繰り回していた。
それでもなお、リンネが楽しそうな顔をするので、次第にツバキもいつもの調子に戻っていく。
「マルドに居た騎士団に関しては、ムソウ様も知っておられると思いますが、金子を受け取り商人達と癒着していた方々は謹慎、あちらで統率を執っていた男は除隊、それ以外の一般の方々は、減俸となったそうです」
「ん? そいつらは給金を減らされるだけなのか?」
「はい。マルドで癒着していた騎士は、あちらの駐屯地の中では部隊長や班長ばかりです。一般の方々は、その者達に従っていただけと見なされましたので。
私もあの時は気付きませんでしたが、調書を取っていくと、やはり真面目に騎士の仕事に取り組んでいた方々も多かったそうですよ」
「腐った上の指示に従っていただけってことか……大変だな、そいつらも」
騎士として普通の仕事をしたかった者達も、上の奴らには逆らえなかったという証言も、やはり出て来たらしい。そいつらは金を受け取り、法を犯す者を直接見逃したわけではないので、ひとまずは、給与を減らすだけに処分を留め、引き続き、再編成された後のマルドでも活動を許されたという。
無論、次は無いという条件付きだが、先ほどのツバキに対する騎士たちの様子を見るにそれは無いだろうなと感じた。
ツバキもそれは感じているらしく、自分に対する憧憬はそれほど本気だったと、苦笑いしていた。
「まあ、私の故郷を護る為に頑張りますと言われて、悪い気はしないのですけどね……」
「なら良いじゃねえか。これで、これからも安心して帰って来られるな」
俺の言葉に、ツバキはそうですね、と小さく頷く。ツバキに対して、過剰ともいえる対応というのは俺も感じるが、だからこそ、故郷に対しての安心感というものが確立されてホッとしているようだった。
「さて……それじゃあ、買い物に行くか」
「はい。イーさんからは、四番倉庫で待っている、とのことです」
「分かった。では、行くとしよう。港に着いたら……まずは飯を食ってからだがな」
「わ~い! リンネ、いっぱいたべちゃう!」
喜ぶリンネをツバキと共に撫でて、二人でリンネと手を繋いで、港へと向かった。




