第34話―託される―
俺達が洞窟内を歩いていると、サンロウシの背中から、声が聞こえる。
「ふぁ~あ、あれ?……ここは?」
レイカが目覚めたようだ。ウィズと違って、目覚めたばかりだが、顔色は良い。レイカはここはどこだときょろきょろと辺りを見回している。
「おう、気づいたか?」
「……あれ? ……おじちゃん? なんで……ってそうだ! 私達、デーモンにつかまって、って、わぁーーーー! なに!? この状態! 災害級の魔物がご、5体!? 何この状況!?」
「きゃああああ~! レイカちゃんの目が覚めた!!! か~わ~い~い~!!!」
起きて慌てるレイカにミサキが飛びつき抱きしめる。レイカは少し苦しそうにしながら、戸惑っていた。
「な、なに!?……って魔法帝だあ~~~!?なんで!?なにごと!?」
起きて早々、騒々しいな。ほかの皆も、呆れ顔で頭を抱えていた。
「とりあえず、落ち着け。そして、ミサキ、お前は離れてろ」
俺はレイカから、ミサキを引きはがした。
「ぶう~! ムソウさんのケチ~!」
ミサキは頬を膨らませて俺に悪態をついている。知らんな。
とりあえず、俺達はレイカにこれまでのことを説明した。レイカはふんふんと聞きながら、時々驚きながら俺達の話を聞いている。
「そうかあ~。……ムソウのおじちゃん、本当に助けに来てくれたんだね」
「ん? どういうことだ?」
レイカは俺につかまっていた時のことを話し始めた。毎日、魔力を吸われていた時、レイカもウィズも、何となく、俺の顔が頭をよぎり、俺に助けを求めていたらしい。絶対聞こえるはずもないのにね、とレイカは言った。
なんで、俺だったんだろうなと言ったら、ハクビ、ウィズ、レイカの三人が
「「「同じ日に試験を受けたから」」」
と言いながら笑った。
……なんだよ、それ。ほとんど俺と同じ考えじゃねえか。皆と同じ考えでいることがつい嬉しくなり、少し照れて、俺は前を向いて歩いていった。ミサキはその隙に、レイカとまた戯れ始めた……。
◇◇◇
しばらく進むと洞窟の出口が見えてくる。ようやく、外だ。さっさと山を下りて、今日もあの温泉に浸かって帰りたいなあと思い、洞窟を抜けた。
「……な、なんだ、これは!?」
しかし、俺は出口から見えてきた光景を見て、驚く。
そこには夥しい数の魔物がいた。1000は軽く越えている。オウガ、グレムリン、ゴブリン、スライムなど、俺が見たことある奴らや、それ以外のものもいた。
だが、様子がおかしい。魔物たちは俺達ではなく、俺達が来るときに片づけたミニデーモン達の死骸を食うのに夢中になっていた。
どの魔物も、怒りの形相で、死骸をいたぶり、四肢を引きちぎっては自らの口の中に入れ、咆哮を上げるとともに、涙を流しながら、ミニデーモンを食らっている。
すると、ここで、洞窟の一番近くにいた魔物が俺達に気付き、雄たけびを上げた。すると、魔物たちは全員こちらを凝視している。
「なッ!?やる気か!?」
ハクビや召喚獣たちは身構える。そして、ミサキは杖を構えだした。俺も無間に手をかけようとしたが、どうも変だ。魔物たちは俺達の方を見るだけで、何もしてこない。
「待て……お前ら。様子が変だ」
「ムソウ、何をする気だ?」
「……そこに居てくれ」
俺は魔物たちの前に立つ。やはり、敵意は無い。ひとまず、ミサキ達に何があっても良いようにと、警戒をさせつつ、魔物たちの動向を伺っていた。
すると、魔物たちの中から一匹のオウガが、俺の側に、ゆっくりと近づいてくる。後ろで、若干警戒の色を濃くしていく皆の動きを制し、俺はオウガを見つめた。すると、オウガは、ゆっくりと手を伸ばしながら、何かを渡そうとしてきた。
「……あ?」
俺が手を前に出すと、オウガは、スッと小さな白い狐のような生き物を俺に渡した。ただの狐では無いらしい。尾が三本ある。魔物の子どもか何かだろうな。
魔物の子どもは酷く衰弱しているらしく、体中に小さな傷を作り、呼吸も弱く、今にも死にそうだった。
よくもまあ、ここまで弱った、小さな生き物を殺さずに、その手の中に入れていたなあと、オウガに感心する。よほど、大切な存在らしい。
「……こいつは?」
俺がオウガの顔に視線を向けると、オウガは口を開く。
「コノヤマ……マモノ……タイショウ……コドモ」
デーモンと違って流暢じゃないな。知性が低いからか……。
だが、聞き取れなくはない。話によれば、この魔物の子どもはこの山の魔物たちの大将の子供らしい。それが、何故ここに……。俺が首を傾げていると、オウガに続いて、他の魔物も口を開く。
「ソイツ……オヤ……コロサレタ……デーモン」
「ソイツ……オヤ……メノマエ……コロサレタ」
「タイショウ……オレタチ……マモル」
「オレタチ……ニゲタ……タイショウ……ミゴロシ」
魔物たちは徐々に目に涙を浮かべだした。
……なるほど、ここいらの大将はゼブルらにやられたと。で、ここに居る魔物たちは大将を護ろうとしたのだが、歯が立たず、逃げ出してしまい、結果、デーモン達から大将が、自分たちを護る為にやられたという結果になったのか。……遣る瀬無い話だな。
「ソイツ……ソダテル……オレタチ……デキナイ」
「なぜだ?」
魔物たちの言葉に俺は疑問をぶつけた。ここまで来れば、何となく、何を頼まれるか理解出来てくる。
だが、意味が分からない。俺も冒険者だから、歯向かう魔物は斬るつもりでいる。いわば、コイツ等の敵だ。育てたいなら、勝手にここで育てればいい。もう、デーモンは居ないのだからな。自由にここで住んでいけば良い。
俺の質問に、しばらく黙っていたオウガ達だったが、ポツリ、ポツリと口を開き始める。
「ツヨイ……オマエ……ソイツ……ソダテル」
「ソイツ……ツヨクナル……オマエ……ヤクダツ」
「ソイツ……ツヨクナル……タイショウ……ツミホロボシ」
「ソイツ……ツヨクナル……オマエ……オンガエシ」
「……はあ?」
耳を疑う。恩返しだと? ゼブルを倒したから、こいつらは俺に恩を感じているのか?
いや、そんなわけねえだろ。仮にも魔物と人間だ。それは嘘だろう。
現に、魔物たちの中には悔しそうな目を向ける者や、作り笑いのように、ただ、口端を上げているだけの者まで見える。何となく、その態度は気に入らなかった。
「本音を言え。じゃないと俺はこいつを置いていく!!!」
俺が言い放つと、魔物たちはお互いに顔を見合わせる。
……そして、俺の足元に跪き、涙を流しながら、あるいは、怒りの形相で睨みながら、口を開いた。
「オレタチ……ヨワイ……タイショウ……ミゴロシ」
「オレタチ……ヨワイ……ソダテル……ケンリナイ」
「オレタチ……ニンゲン……アズケル……クツジョク」
「ソイツ……コドモ……ツミナイ」
「オレタチ……ヨワイ……オレタチ……デキナイ」
「タノム……コドモ……ツヨク」
「タノム……コドモ……ツヨク」
魔物たちは頭を地面にこすりつけて、頼み込んでくる。……ようやく、コイツ等の本音が聞けた。人間が、魔物を嫌悪するように、魔物も人間を嫌悪するというのは変わらないらしい。
コイツ等は、魔物の子の親を、見殺しにしてしまったことから、この子に申し訳ないと思っている。ゆえに、この先もこの子を育てていくことが出来ないと感じているようだ。
そこで、ゼブルを倒した俺を見定め、魔物の子を預けることにした。
それは、魔物としては恥ずべき行為であり、出来れば……というか、今もしたくないと感じている。俺の方も冒険者という立場上、魔物たちの頼み事には、協力しづらいのは確かだし、コイツ等に対して、そこまでの義理は無いと感じている。
……だが、確かにオウガ達の言うように、この子供には罪はない。このまま死んでいい道理など無い。この子は何もしていないのだからな。
―親を喪った子供も、このまま死んでも良いという道理は……無い―
俺は懐から回復薬を出して、飲ませた。子供に飲ませた。魔物の子どもの体が輝き、全身の傷を癒していく。
すると、魔物の子は、ゆっくりと目を開き、俺の顔を瞳に映した。
「……キュウ」
俺の顔を見て、魔物の子供は小さく、弱く鳴いている。目を覚ましたのは良いが、元気はない。俺はさらに干し肉を与えた。
「キュ? キュウ~ッ!」
スンスンと干し肉を嗅ぎ、魔物はがっつき始めた。よほどお腹が空いていたみたいだな……。
俺は干し肉を食べている魔物の子供を抱え、オウガの元へと向かった。
「ニンゲン……ヤハリ……」
オウガは、項垂れながら、心配そうな顔をして、俺を見てきた。
俺は、首を横に振って、口を開く。
「この先……この子はお前たちに敵対することになるかも知れない。人間の俺が育てるんだからな。
……それでも……良いか?」
俺の言葉に、オウガを始め、魔物たちは目を見開く。すると、干し肉を食べていた魔物の子どもは、皆の様子に気付き、俺の手の上から飛び出して、地面に立つ。
「キュ?」
そして、不思議そうに、オウガや他の魔物たちの顔を覗き込んだ。皆、子供の姿をジッと見つめている。まだ、可能性という話だが、そういう未来もあるかも知れない。そうなったとき、自分たちはこの子供と戦うことになるのか。そうなるくらいなら、人間の俺に、子供を預けるのは辞めた方が良いのではないか。
俺は最後の最後で、その選択を魔物たちにしてもらうことにした。
その後、しっかりと、子供の姿を目に焼き付けたオウガは、優しく子供を撫で、俺に顔を向けた。
「カマワナイ……タイショウ……コドモ……ツヨクナルナラ……ツヨクイキルナラ……ワレラハ……ヨロコンデ……オマエニ……」
オウガの言葉に、魔物たちは頷く。その表情には、先ほどの俺に対する怒りや屈辱の色は無くなっていた。決意に満ちた目、どこか懇願するような目、そして、俺に何かを託すという強い目をしていた。覚悟が、出来たらしい。
「そうか……なら……」
俺はオウガの隣に立ち、跪く魔物たちの前に出た。
「聞けッ! 俺は“古今無双の傭兵・死神斬鬼”だ! テメエらの願い、確かに受け取った! この子は預かる! そして、強く、立派に生きていけるようにしてやるッッッ!」
オウガたち、山の魔物たちは、俺の言葉を聞いて、その場で雄たけびを上げながら、目から涙を流した。言葉は分からないが、礼を言われている気がする。後は、叱咤と、少しの侮蔑……と言ったところかな。やれやれと頭を掻いていると、魔物たちの声に、魔物の子供はびくっとして、俺の方へと駆けてきた。
先ほどまで、酷く衰弱していた様子だったが、肉を食ったからなのか、元気な様子で、俺の肩へと上り、俺の顔の陰で、皆の様子を眺めていた。
何となく、可笑しな気持ちになって、笑っていると、オウガも、子供を見ながら、ふっと笑う。
「コドモ……ゲンキ……ナッタ」
「ああ……そうだな」
オウガの言葉に俺は頷く。オウガも、ここに居る魔物たちも、この子のことが、本当に、最後まで心配だったようだ。先ほどは、皆を試すようなことを言ったが、絶対に、子供と、ここの魔物たちが敵対するような状況にはさせまいと誓った。
人間の中にもとんと見かけない、大した忠誠心を持つこいつらに、主の子と闘わせるなど、したくない。絶対に、この子を強くし、こいつらの元に返してやろうと思った。
「キュー?」
子供は、自らを寂しそうに見つめるオウガの顔を不思議そうに眺めた。オウガは、ジッと子供の顔を見つめて、指先で、頭を撫でる。
「コドモ……オワカレ……ツヨク……ナレ……」
魔物の子供はオウガの言葉を聞き、目を見開く。そして、残念そうに俯くが、しばらくして、俺の肩から地面に跳び下り、オウガと、魔物たちの前に立って、空を見上げた。
「キュアアアーーーー!!!」
魔物の子は、空に向けて、大きな声を上げて叫ぶ。再び、魔物たちから歓声が上げる。どうやら、子供の方も、決心がついたみたいだな……。
そして、子供は、俺の方へと来た。
「もういいのか?」
「キュア!」
俺の言葉に、大きく頷いた。
ふと、思った。こいつに名前を付けないとな……ってまたか……。
まあ、いいや。実はもう決めてある。見たことはないがこの山の大将だった魔物の子供だからな。その大将が蘇ったかのように強くなることを期待した名前だ。
「じゃあ、行くか?……リンネ」
俺の問いかけに魔物の子……リンネは
「キュウッ!」
と、力強く頷き、俺の肩に乗る。
ふと、見ると、魔物たちは跪き、集団の中には一本の道が現れている。その道の入り口の所には、オウガが居て、胸を張って、俺達を見つめていた。
「通って行けってことか?」
「キュー?」
リンネは首を傾げた。ハハッ、かわいいな、こいつ。俺はその道を歩いていく。それをみたミサキたちも恐る恐る、俺のあとを付いてくる。
魔物の中を通る間、リンネは誰とも目を合わさなかった。ただ、前だけを見つめていた。魔物たちも何も言わず、リンネの姿を目に焼き付けていた。
そして、俺達はデーモンの居た洞窟前を後にした。辺りに魔物が居なくなると、ミサキ達は安堵していたようだが、俺はアイツらとの約束を思い返していた。リンネの方は魔物たちの姿が見えなくなった途端に、チラチラと後ろを振り向くようになっていったが、俺が撫でると、決心したように、再び前を向き、山から見える森と、夕日を眺めていた。
こうして、俺に新たな仲間、リンネが加わった。この先、リンネには何度も驚かされていくのだが、それはまた、別の話である……。
新しい仲間の登場です。むさいアラフォーのおっさんにかわいい癒しができました。
ちなみに、作者は犬か猫かと言われたら、選べない派の人間です。




