第348話―ギルドに報告へ向かう―
コウカを大地に連れて来た日の翌日、俺とツバキとリンネは、一日中タクマの店の手伝いをすることになった。
事件のあった日に大量の客が来てから、店の中は殆ど空だった。なので、数日分は商いが出来るように商品を買い付けて欲しいと頼まれた。
ついでにレイヴァンに行って、クレナの土産を買ったり、俺はギルドに行こうとしたのだが、昨日の今日で、ギルドもリエンも忙しいのではないかというツバキに従って、それは辞めておいた。
なので、ひとまず町の中の様子を見ながら、港へと向かう。無論、他の店も、どこも品薄ということで、いつもより人は多めではないかと感じた。
「やはり多いですね。欲しいものが無くならないようにしなければ……」
「リンネもがんばる~!」
「値段交渉とかは任せたからな。俺はそう言うのは苦手だ」
ひとまず買い付けは、一応は商人の娘であるツバキと、ツバキについていきたいと言っているリンネに任せて、荷物を入れるための異界の袋を渡して、俺達はいったん分かれた。
港を歩いていると、リエン商会の倉庫が目につく。中では何人かの作業員が壊れた桟橋や建物の修復を行ったり、数人の騎士が、建物の中を出入りしている。
色々な証拠を押さえるのはやはり時間が掛かりそうだ。ここが稼働するのは、もう3日は必要そうだなと感じた。
そして、倉庫を後にすると、レイヴァンとマルドを結ぶ定期船が丁度港についたようだった。船の中から続々と人が下りてくる中、見知った人間が下りてきたので、声をかける。
「よお、ハンナ」
「ん? あ、ムソウさん。どうしたの? こんなところで」
「今、タクマの店に卸す商品を買い付けに、ツバキ達と来ていてな。買い物はアイツに任せて、俺は散歩してた」
「うわあ、ひど~。女の子だけに買い物押し付けるなんて……」
「いや、そういうわけじゃ……」
本当に嫌な顔をされたので、咳ばらいをして話題を無理やり変えた。
「で、お前はレイヴァンに行っていたのか?」
「え? うん。昨日、リエンさんが言っていた報酬を受け取りにね。結構、貰ったからびっくりしちゃった」
そう言って、嬉しそうに金の入った袋を見せてくるハンナ。覗き込むと金貨がジャラジャラと入っていた。結構、気前が良いんだな。俺も、次にリエン商会に行った時に行う予定の買い物は期待しておこう。
「ギルドには行ったか?」
「行ったけど、結構ドタバタしてたかな。スーラン村からの冒険者達も帰ってるし、事件に巻き込まれた冒険者から事情を聞いたりもしていたから。ムソウさんも行くなら、明後日くらいの方が良いかもね。もしくは、お呼びがかかるかも知れないけど、今日は何も言われなかったから、大丈夫じゃない?」
それは良いことを聞いた。つまり、今行っても、面倒なことになりそうだな。
「分かった。じゃあ、そのくらいにギルドに行くとしよう。良い情報をありがとうな」
「あ、は~い……って、おじさんはさっさと、ツバキちゃんとリンネちゃんのお手伝いに行きなさい!」
「はいはい」
ビシッと市場の方を指さすハンナに従い、頭を掻きながらその場を後にした。アイツもどこも問題なさそうで安心する。
そう言えば、ギランなどは何をしているのだろうか。アイツにも後日改めて挨拶に行きたいな。まあ、その時はツバキとリンネがカジノで再戦する時で良いか。
さて、市場へと戻り辺りを見渡すと、離れた店とは違う店主と何かを話しているツバキを見つけた。
「昨日までの騒動で皆さんお疲れじゃないですか?」
「いや、昨晩はぐっすり眠れたからな。ツバキちゃんの方こそ疲れてないのか?」
「私もぐっすりでした。お風呂に入りながら、意識が飛びかけた時は驚きましたね……」
「リンネがおこしたんだよ~!」
「それはお手柄だったな。そんな嬢ちゃんに免じて、ちょっとまけてやろう。蛍光真珠、ひと箱銀貨50枚でどうだ?」
「ありがとうございます!」
上手く値切っているようだな……。これはまあ、リンネの手柄だが。
リンネも今日から獣人の姿で行動している。冒険者や外から来た者達には奇異な目で見られているが、街の住民たちは、気にせずリンネの姿を見ると、頭を撫でたりしている。色々と考えず、あのままで良いんだなと実感した。
買い物を続ける二人に近づいていくと、店の男と目が合った。
「お、む、ムソウさんも、一緒だったんですね……」
反対に俺の方は、少々驚かれるようになった。聞けば、昨日、アマン達を前に暴れたのが一つの原因らしいとのこと。ハンナの方は普通に接してくれただけに、若干堪えるものがある……。
「そんなに怖がらないでくれ。何もしないから」
「わ、わかりました……あ、ツバキちゃん、やっぱり銀貨30枚で良いぞ」
「え、あ、ありがとうございます……」
更に安くなり、差額を返してもらうツバキ。申し訳なさそうな顔をしながらも、商品を受け取り、異界の袋に収めた。
そして、店から離れる際に、俺の顔をちらっと見てくる。
「ここからは、ムソウ様もお買い物を手伝ってください」
「……分かった」
そうやって、向かう店、向かう店全てで値切ることに成功した俺達。予定よりも半額で商品をそろえることに成功した。
その後、少し昼飯を食べた後、市場から店に戻って、商品を並べていった。リンネはメリアについて家の仕事をしている。
商品棚が埋まる頃にはあっという間に夕方になった。
「ふう……結局一日中、店の準備で終わりましたね」
「結構かかったな。まだ空いている棚はどうする?」
「また、ギルドへ行く際にお願いします。そう言えば、港の様子はどうでした?」
「リエン商会の倉庫は、もう少しかかりそうだな。といっても、すぐだろう」
「分かりました。ムソウさんは何時頃、ギルドに行きますか?」
「明後日には行こうと思っている。今日明日、あそこもドタバタしているらしいからな」
「あ、では私もついていきます。モンク師団に挨拶をしておきたいですし、クレナの皆様へのお土産もありますし」
「分かった。そう言うことで、良いか、タクマ」
「大丈夫です。では、明日のうちに欲しいものをまた纏めておきます」
取りあえず、明日からタクマ達は店の仕事をして、俺も店の手伝いをするか、クレナへ帰る準備を整えておくことにした。
その後、ツバキとリンネは先に風呂に入りに行き、俺は装備品を磨いたりしていた。
ふと見ると、ツバキが荷物を置いている机の上に、コウカが宿った首飾りが置いてある。やはり、昔の物らしく少々汚れているところが多い。
俺は神人化して、首飾りと、ついでに自分の装備、斬鬼、ツバキの簪を綺麗にしておいた。
そして、ツバキとリンネが風呂から出た後、皆でご飯を食べた。
飯を食べながら、部屋で神人化すると、外から見た時凄い光が窓から見えると、街の人間に言われたと、俺に言ってくる。流石に申し訳ないと思い、今後は気をつけると言うと、首を横に振られた。
「あの能力を使うなって言っているんじゃないの。誰も居ない時間帯で明るいうちにあの力使って、この家を綺麗にして欲しいの」
「……善処する」
うちの女中みたいなことを言うメリア。まあ、今まで世話になったし、それくらいはしてやろうという気ではある。
というわけで、明日は店の手伝い、というよりは家の手伝いをすることになった。嬉しそうにするメリアを見ながら、アザミ達を思い出し、あいつらも喜ぶものを買わないとなとツバキと笑い合った。
◇◇◇
そして、翌日、俺は朝からメリア指示の元、家の掃除や洗濯を行っている。普段は掃除をしない部屋だったり、埃をかぶった棚をどかしたりと、結構辛いので、終始神人化して行った。
おかげで、掃除と洗濯自体は午前中に終わった。長年取れなかった染みが取れて、メリアは大層嬉しそうにしている。俺の方は、こういう力の使い方は本当に良いのだろうかと、頭を抱えていた。ただ、ツバキも喜んでいたので気にしなかった。
そして、午後は買い物に行って、夕飯の支度を行った。久しぶりに俺の飯が食えるとツバキとリンネは喜んでいた。流石にメリアとタクマは少々疑い気味だったので、メリアはずっと台所で俺の様子を見ていた。
包丁で魚をさばき、鍋で煮詰めていると、メリアは驚いた様子になっていく。
「あら、ムソウさんもお料理は出来るのね。焼いたりするだけかと思ったわ」
「まあ、基本的にはそうだが、流石にな……難しくなければ、料理くらいは出来る。俺も人の親だったからな……」
「そう、だったわね……」
俺の過去を知っているメリアは若干暗い顔をするが、気にするなと言っておいた。
辛い過去だったが、今ではツバキが持つ御守りに宿っている。そう考えると、何だか可笑しな気持ちになってくる。
もちろん、メリアとタクマにはこのことは話していない。ツバキでさえも、思わず平伏するような女だ。ややこしくなるのは避けるとしよう。
「さて、次は焼き物だな。何がある?」
「え~と……そうね。あ、剣牛のお肉があるわ。昨日市場に行ったら、ギルドから卸されたって」
「ふむ……やはりモンクの冒険者は真面目なんだな。あいつ等……元気にやってるかな」
剣牛の肉塊を手に取りながら、ジーゴ達を思い出す。スーランに行っている間は、全然会ってないからな。明日、ギルドに行った時にでもまた、きちんとした挨拶をしておこう。
「よし、じゃあ、これに香草まぶして焼いておくか。メリア、手伝ってくれ」
「分かったわ。私も頑張らないと!」
すっかり機嫌を取り戻したメリアと一緒に、そのまま料理を作っていく。ふと、視線を感じて振り返ると、どこか嫉妬に満ちたような目でタクマが俺を見ていることに気付く。
俺が手を出すとでも思っているのだろうか……。温厚なタクマだが、やはり妻のことになると怖いんだなと気付かないふりをして、そのまま料理を続けた。
そして、晩飯時になると、ツバキとリンネが帰ってきて、俺と交代する。俺はそのまま風呂に入った。自分で掃除した後の一番風呂というのは気持ちいいものだなと思い、今日は眺めに浸かっていた。
すると、リンネも入ってきて、一緒に遊んだり、体を洗ったりした。
「あしたは、またおっきなまちにいくの~?」
「レイヴァンだな。行くつもりだが、どうかしたのか?」
「シオリちゃんがいってたけど、おふねでいくのがきもちいいんだって~」
ふむ……船旅か。陸路で行っても良いが、リンネがそうしたいと言うのならそれで良いか。わざわざ背中に乗って行くことも無いしな。
「分かった。明日は船でレイヴァンに行くとしよう。後で時間を聞いておかないとな」
「わ~い! おっきなまちにいったら、おいしいものたべたい!」
「そうだな。用事が済んで、時間が余ったらそうするとしよう。ツバキは騎士団の駐屯地に行くみたいだから、お前は俺と一緒だ。ギルドでは大人しくするんだぞ」
「は~い!」
嬉しそうな顔をするリンネを見ながら、俺も心残りが無いように、レイヴァンでは美味いものを食い尽くそうと決めていた。
そして、風呂から上がり、今日も皆で飯を食った。俺の作った料理は美味いと、ツバキとリンネはもちろん、タクマとメリアも喜んでくれた。
当の俺本人は、たまに比べたら、やはりまだまだだなと苦笑いしていたがな。
飯を食いながら、明日は船でレイヴァンに行く旨を伝えると、定期航路の時間を教えてくれた。かなり余裕をもって港を出ることが分かり、夜更かししても安心と目をキラキラさせるリンネを俺とツバキで、早く寝なさいと言いつけた。
大きな船の旅は楽しいと、リンネ自身が聞いたんだからな。寝て過ごすのはもったいないと言うと、なら、早く食べて、早く寝ると、リンネは飯をかき込んでいく。案の定、口の周りを盛大に汚すので、やれやれと言いながらツバキがリンネの顔を拭いた。
相変わらずの光景だなと、その日も笑いながら、皆でご飯を食べていた。
◇◇◇
翌朝、準備を整えて家を出発した。すでに正体を隠す必要もなくなっているので、ツバキもリンネもクレナの格好だ。コモンから貰った着物を着るのは久しぶりだとリンネは喜んでいる。
無論、人間の姿ではなく、獣人の姿だ。出る前に、しっぽを触らせてというメリアにつかまってしまい、少々出る時間が遅れた。
港へ着くと既に定期船が到着している。急いで船賃を払い、船に乗り込んだところで、そのまま出航した。
「間に合いましたね……」
「ああ。急いだ甲斐があったな。どうだ、リンネ。念願の船旅だぞ」
「かぜがきもちいい~!」
甲板から身を乗り出して両手を上げてはしゃぐリンネ。船員から微妙な顔をされるので辞めさせた。
よく見ると、甲板には冒険者の姿も見える。あれが、所謂護衛依頼の者達だろうな。辺りを警戒しているようだ。
「ああいう依頼の報酬はどのくらい行くのだろうか」
「さて……領によって異なると思いますが、一日銀貨二十枚が基本で、魔物等現れれば、それによって変動しますね」
「結構行くんだな……ちなみに、「海王」の名を持つ魔物が現れた場合はどうなるんだ?」
「その場合は確かに報酬が跳ね上がるはずですが、そうそう、というか、まずありえないと思いますよ。海王級が近づいたらすぐに分かりますし、その時点で客船は逃げますので」
「迎え撃たないのか?」
「迎え撃てないのです。戦いとなると被害の方が大きくなりますし、迎え撃てるのはそれこそ、大師範のような十二星天様かムソウ様、もしくはジゲンさんくらいの実力をお持ちの方でないと……」
ツバキによれば、海王級の魔物でなくても、超級の魔物であれば、まず逃げることを優先するらしい。上級までの魔物や、海賊に関しては迎え撃つこともある。それ用の船も客船に装備されてはいるが、客船の場合、最も優先されるのは、乗客の命と荷物である。
戦わずに逃げられるのであれば、そちらの方法を執ることが多いという。
なるほど。まあ、俺も前に釣りに出かけた時に遭遇した海賊とは、最初は事を起こす前に逃げるという考えだったもんな。相対する魔物が強力であればあるほど、周りに対する影響というものは大きくなる。客の安全を守るのならば、戦わないで逃げた方が良いよな。
頷きながらツバキの話を聞いていると、ふと、リンネが耳をぴょこぴょこと動かして、慌てたように船の外を指さした。
「おししょーさま、おねえちゃん! あれみて!」
「どうした?」
「どうされましたか?」
再び身を乗り出そうとするリンネを抱えて、ツバキと一緒に船の外に目を向けた。近く水面が、バシャバシャと泡立っているのが見える。
「何だ、あれ……?」
「やなにおいする……」
訝し気な顔をするリンネにハッとした様子のツバキ。
「冒険者の皆さんにお伝えしてきます!」
「ああ、頼んだ」
恐らく魔物だろうと、俺も思い、ツバキに冒険者達を呼んでもらった。俺は、リンネと一緒に、その様子を眺めている。時折、魚の鰭のようなものが見えるが、それも薄っすらだ。遠すぎて見えない。
取りあえず、魔物の正体くらいは知りたいなと思っていると、ツバキが護衛の冒険者を連れて来た。
「おねえさんに言われて来てみれば……何かあったか、おっさん」
「あれは何だろうかと思ってな。海中に魔物が居るんなら、アンタらにも伝えておかないといけないだろ?」
「それは手間をかけさせたな。どれどれ……」
冒険者の男は、遠眼鏡を目に当てて、あぶくの方向を覗き込む。しばらく観察を続け、コクっと頷き俺の方を向いた。
「ありゃ、シーサーペントだな。こっちに気付いているのかどうかは分からないが、無理に相手をすることも無いだろう。このままやり過ごして、後でギルドに報告しておくとしよう」
「む? 闘わないのか?」
「倒したい所だが、これだけ離れてたら多分問題ないだろう。まあ、今日の次の便は少し遅らせて、護衛を増やさないとな……」
苦笑いする冒険者の男に聞くと、シーサーペントという魔物は、そこまで大したことない魔物で、区分で言えば上級だという。ただ、体が大きく、倒せたとしても、その後の処理に時間が掛かるという。
近くに居るわけではないので、船に影響は無い。このままレイヴァンに向かい、少し時間と費用が増えるが、次の便から護衛の数を増やし、護衛船と共に運行すれば問題ないとのこと。
男の考えを聞いて、俺はしばらく考え込んだ。だったらここで倒した方が、何も問題ないように思えるんだがな……。
ツバキに視線を移すと、同じような気持ちだということが分かった。どこか戦えないことがもどかしいような目で、俺を見返してくる。
そして、ふとリンネに目を向けると、やる気に満ちた目で俺の顔を覗き込んでいた。
そう、やる気に満ちている……。
俺はクスっと笑い、リンネの頭を撫でた。
「行けるか?」
「うん! あそこまでおよげるよ!」
「よ~し、分かった」
リンネと笑い合い、甲板の柵に足をかけた。慌ててそれを止めようとする冒険者の男に、俺とリンネはニカっと笑ってやった。
「お、おい、オッサン、何する気だ!?」
「ちょっと斬ってくる。リンネ、頼んだぞ。ツバキ、説明よろしく!」
「いってきま~す!」
「はい。お二人とも、ご武運を」
小さく手を振るツバキの前で、まずリンネが海に飛び込み、続いて俺が飛び込んだ。
海面に近づいていく丁度その時、海中から獣姿のリンネが顔を出す。
「クワン!」
「おっし! 行け! リンネ!」
「クワ~ン!」
ひと吠え上げるとそのままリンネは、尾を使って海を進んでいく。さながら、小型の船だ。やはり人の姿よりも伸び伸びと動けている気がする。
さて、目標のシーサーペントは、しばらくその場で蜷局を巻いていたが、俺達が近づいていくのが分かると、身をくねらせながら、近づいてきた。
そして、海中からその姿を現す。
「シャア~~~~ッッッ!!!」
胴体は確かに大きかった。というか、長い。まるで蛇のようだが、所々魚のようである。
以前、クレナで闘った、リザードマンが使役していた魔物、魚雷龍に酷似した姿であるため、あれの近縁種なのかと思った。
海面から顔を出し、鋭い牙をちらつかせて大口を開けるシーサーペント。このまま俺達を食らう気らしい。
「リンネ、俺を打ち出せ!」
「クワンッ!」
リンネはその場で止まり、俺は無間を抜いた。そして、三本の尾に足を着けると、リンネはそのまま俺をシーサーペントに向けて飛ばす。
「シャアアアアアアッッッ!!!」
「ウラアアアアアッッッ!!!」
大きく開くシーサーペントの口に対して無間を横に向けて、そのまま斬りつけた。
そして、頭を落とし、シーサーペントを倒すことに成功。海へ落ちる寸前、リンネが俺を受け止めた。
「クワ~ン!」
「よくやったぞ、リンネ。偉いぞ」
「ク~!」
「よしよし。さて、このままコイツを異界の袋に入れて、船まで戻るとしよう」
「クワンッ!」
俺はシーサーペントの死骸を異界の袋に収め、船に戻った。
甲板に上がると、リンネは獣人の姿に戻り、スッキリとした顔になっていた。
「きもちよかった~!」
「そうだな。だが、風邪を引くといけないから、中でツバキに体を拭いてもらってきな」
「は~い!」
「お任せください」
ツバキはコクっと頷くと、リンネの手を引いて、船の中へと入っていく。
俺は、呆然としている冒険者達に向き直った。
「さて、魔物の死骸は後で港に渡すから、お前らで査定売却金を受け取ってくれ」
「……はっ! あ、ああ……わかった、す、すまねえな……」
「気にすんな。引き続き、安全な船旅を頼む」
冒険者の男の肩をポンと叩き、俺は少し離れた所で海水でぬれた防具などを洗っていく。こういうことをこまめにしないと、あっという間に錆びるからな。まあ、魔物の素材だから分からないが、無間は一応しっかりとやっておこう。
念のため、辺りの気配を探ったが、めぼしいものはない。これなら、レイヴァンまで何も起きないだろう。
ポカンとしていたが、すぐにまた護衛の仕事を始める冒険者達の、視線を感じ、俺は可笑しな気持ちになって、苦笑いしつつ、そのまま自分の作業を続けていた。




