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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
ツバキが里帰りする
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第346話―リエンと別れる―

 その後、騎士団の作業の間、少しばかり時間が出来たイーサンは、改めて街の者達と、何よりツバキに一言挨拶をしたいと言って、その場から離れる。

 俺とリエンはシンキを誘って、飯の続きをしようとしたが、シンキは、俺は後から来た者だからと断ろうとする。

 しかし、そこへリンネと子供達がやってきて、


「さいしょーさま、おつかれ~!」

「こちら、召し上がってください! 私のお母さんが作りました!」

「宰相様、どうぞ!」


 と、次々に料理と酒が運び込まれてきて、仕方ないなと、シンキはその場で料理を食べ始める。コイツも子供達に丸め込まれているなと笑った。

 忘れそうになるが、やはりどこでも、十二星天というのは誰にも人気者なんだなと実感した。


「流石、十二星天で、人界の宰相様だ。それじゃあ、気軽に城下に繰り出したりも出来ないんじゃ?」

「それはお前も同じではないか? まあ、俺は城を抜け出すことなど、普段はしないが、オウエンが街に出たいと言った時などは隠蔽スキルと擬態スキルを使って、城を抜け出すこともある」

「ああ、俺と同じだな。やはりあの二つのスキルは役に立つ。持ってない有名人は大変だ~」


 ちらっと俺を見るリエン。俺は両方持っていないからな。ムッとして視線を逸らすとシンキが俺を指さして口を開く。


「まあ、コイツの顔は知れ渡ってないからな。そこまでしなくても良いだろう。どうしても気になるなら、迷彩トカゲや迷彩龍の装備でも使えば良いし、“刀鬼”殿に聞いたところ、ムソウは女装が――」


 そこまで言った瞬間、俺はシンキに死神の鬼迫をぶつける。


「俺が……なんだって……?」

「ゔ……何でもない……」


 そこのことについては絶対に何があっても誰にもバラしたくないと、強い思いでシンキを睨むと、シンキは黙った。

 リエンは首を傾げながら、ああ、と言って口を開く。


「ムソウ殿が女装の達人って話は、俺にも届いている。隠すことは無いぞ」

「はあっ!? な、何で……!?」

「俺の情報網を舐めるなって」


 コイツの情報網は恐ろしい……どこから知れたのか、皆目見当もつかない。

 こうなると、シンキの正体なども知っていそうなので、お互いに気を付けようとシンキに目配せすると、同じことを感じたのか、シンキも頷いた。


「凄いな……世界一の商人の情報網は。俺達十二星天の秘密までいくつか持っていそうだ」

「まあ、いくつかだがな。……あ、丁度いいから、気になっていたことを聞いてみるとするか……」


 そう言って、少しばかり真面目な目つきになるリエンは、シンキと向き合った。


「ふむ……答えられるものならば、答えよう」

「じゃあ、聞くが……十二星天内で、何か派閥別れのようなものが起きているというのは事実か?」

「ん゛ッ!?」


 どんと構えていたシンキだったが、リエンの質問に、変な声を出して固まるシンキ。凄く、顔色が悪い様子のシンキを見て、満足したのかリエンは、うんうんと頷きながら酒を飲むリエン……よく飲むなあ、ホント。


「その反応で分かった。感謝する」

「む……この情報はそこまで大きなものなのか?」

「そりゃまあ、十二星天の派閥争いなんて、下手すりゃ、ジェシカ様やコモン様とも取引している俺達にも影響しそうだからな。事実かどうか確認したいところだったが……ふむ」

「他にはばらすなよ」

「言い触らすわけない。人界が割れるからな。アンタ達が喧嘩するってことはそういうことだ。気をつけろよ」

「む……善処する」


 リエンの言葉に、ばつが悪そうにシンキは頷く。クレナでの一件から、努力はしているようだが、未だにセイン達とコモン達との溝は埋まっていないようだ。その間に立つことになったシンキは大変だなと、乾いた笑いを送ってやる。


「しかし、リエンはよくそんなこと知ってるな。噂の出所はどこなんだ?」


 この件については流石に気になったので聞いてみると、リエンはフッと笑みを浮かべて口を開いた。


「出所って言うか、十二星天を見ていて気付いた。まあ、確信持ったのは、ある方の言動だったがな。

大体、誰がどういう派閥なのか、そもそもどんな派閥に分かれているかは分かっていたが、あの方は分からないな……ひょっとしたら、俺達や、シンジ様、それに他の十二星天よりは気にしていないのかも知れない」


 へえ、そんな奴も居るのか。リエンによれば、所謂中立派のような人間とのこと。ただ、今のシンジのように、改善したいというわけでもなく、そのままでも良いと思っていそうだと笑っていた。


「一体誰なんだ、ソイツ」

「特に何もしないから、教えてくれ」

「本人には言うなよ? 十二星天のエレナ様だ。他の方々とは何か違う雰囲気だからな。あの方だけは、どちらの派閥なのか未だに分からない」


 と、言われても俺にはよく分からないのでシンキに視線を移す。すると、シンキは、まさか、といった顔つきになっていた。


「エレナが……どう、違うんだ?」

「何と言うか、達観してるって感じだな。ほら、エレナ様って他の十二星天と違って、人界で何かを設立したり、何かを残しているって感じじゃないだろ? 王政に口を出そうが出さまいが関係ない立場に居るからな」

「それは、そうだな……」


 エレナが人界で行ったことというと、長く人界とは一切の接触を絶っていた龍族と、人間族を繋ぎ止めたということだが、これは俺が聞いていた歴史と、この世界の真実と、ほとんど変わりない。

 人界の行く末を見守るカドルやアティラと共に壊蛇と闘ったということらしいが、それ以降、エレナが人界で何かを残すと言うことは無かった。

 しいて言えば、龍族と人族の架け橋としての役割、所謂調停人として活躍しているそうだが、俺も詳しくは知らない。


 まあ、だからこそリエンはエレナが、セインのように十二星天が王権を握り、人界を導いていくという考えにも、それに反対するミサキ達にも与していないのではと考えているようだ。


「ちなみに、派閥争いを知ったきっかけってのは、何だったんだ? エレナって奴が何か言っていたのか?」

「直接そのことを言っていた訳じゃないが、ゴルドからの荷を運ぶ時に、他の十二星天の悪口ばかり言っていたって部下から報告が上がってな。

 で、気になって変装して接触したら、「最近のセインはおかしい」とか、「ミサキちゃんが反発して城に来ることが減った」とか聞いて、これは本当に何かあったんだなと確信したってわけだ」


 リエンによれば、10年ほど前までは特に何も無かったが、ある時、ギルドからの依頼などで、龍の里から産出される珍しい素材を流通させる際に、リエン商会に商品を卸していた際、その頃から、セインの人が変わったような言動について愚痴をこぼしていたという。

 リエンが聞いた愚痴は、俺がミサキ達から聞いたような内容で、セインが王権を握ろうと力をつけ、シンキや城内部の王の側近たちを抱き込んでいるということ、それに十二星天のリーが賛同し、リーと共に王都の守護を任されているジーナ、ミーナが迎合していること、それに対してミサキ達が反発しているという内容だった。


 エレナは、当時こそどことも波風は立たせたくなかったようで、上手く立ち回っていたが、最近ではどうも様子が変わってきて、どちらかと言えば、セイン側の人間だと思うようなことをしているらしい。


「ふむ……例えば、エレナは十二星天でどんな立ち位置に居るんだ?」

「それは、シンジ様の方が詳しいんじゃねえか?」


 そう言われてシンキを見ると、眉間にしわを寄せて、首を傾げた。


「そうだな……言われれば、確かにセイン派の考え方をしていそうだな。重要な話し合いや決め事の場でも、何かしらの議決を取る時は、大概セインやリーの意見に賛成し、サネマサやレオの意見には反対の姿勢を見せている。毎回そういう状況だから、俺もエレナはセイン達側の人間だと思っているが、本心は分からないな」

「ちなみに、前はどうだったんだ?」

「どうって……まあ、確かに前はセインやリーの意見だけに従うってことは無かったな。サネマサやレオ、ミサキやコモンの意見に同調したりすることも無くはなかった。エレナはジーンと同じく、どちらかの意見が対立しそうならば、それぞれの主張をよく聞いた上で、自分なりの判断を持っていたようだな……」


 つまり、最近になってエレナの中に、自分なりの判断というものが無くなってきたと、シンキは語る。

 なるほど、と二人の話を聞いて頷く。こうなると、ここ数年で十二星天の中でも、セインに続いてエレナも以前に比べるとどこか変わったという印象だな。


「ミサキからも10年ほど前からセインが変わったって聞いたな。それに加え、エレナも変わったってところか……何かあったのだろうか?」

「さて、それは思い当たる節は無いな。でも言われてみれば、壊蛇討伐当時に比べると、十二星天内でセインとエレナの変わりようは顕著だ。他の人間はそこまで変わっていない気がする」


 シンキによれば、セインと歳が近く同性のリーは昔から仲が良く、少し年下のジーナ、ミーナは、同じく王都を守護する立場の二人に懐いていたので、セイン派の主な人間がこの四人というのは納得だという。

 ただ、それも十二星天が分裂した今の状況だから考えられたことであって、壊蛇討伐当時は、そう言った隔たりも無く、誰が誰とでも仲の良い状態だったと聞いている。

 それはまるで、カンナやエンヤと、ハルマサ達含め、邪神大戦を戦い抜いた仲間達のようだったとシンキは語る。

 10年前のあるとき、セインが変わったと感じ、二つの派閥が出来た頃から、それぞれの面々で対立することになるのは、何となく分かっていたらしいが、エレナに関しては別だという認識だったという。


 リエンの言うように、エレナは誰とでも波風を立たせぬように立ち振る舞っていたらしいが、数年前からは突然、セイン達に迎合するようになり、その結果、十二星天が真っ二つに割れることになったとのとこだ。

 あれだけ、現状を維持することに努めていたエレナが、まるでミサキ達を見限ったかのような言動には、流石のシンキも違和感を覚えたという。


「う~ん……ムソウの言うように、何かあったと考えた方が良いかも知れないな。次の天上の儀で様子を見ることにしよう。エレナと何かあれば、龍の里の神帝龍や、雷帝龍たちもセイン側につくかも知れないからな」

「それほどの信頼で結ばれてんだな、エレナと龍族は」

「当然だ。何せ、エレナは違う世界から来た、龍と人の交わった種族……いわゆる龍人だったからな。そして、歳で弱っていた神帝龍に力を与え、壊蛇の災害を乗り切るまでに力を取り戻させることに成功した者だ。神帝龍本人も、神帝龍を龍族の王としている龍族達も、エレナの事は大層気に入っているはずだ」


 つまり、エレナもその気になれば世界を支配できるほどの力を有しているとのこと。人族と龍族の間に生まれた種族か。やはり、そういうのも居たんだな、と思ったが、この世界では、鬼人族がオウエンただ一人であることと同じ様に、エレナも唯一の龍人だという。

 エレナの前の世界では一般的だったらしいが、こちらの世界の龍族達と同じく、天候操るほどの強大な魔力を有していたり、「龍化」という、エレナが龍族のような姿になったりも出来るらしい。

 自分のスキルで雷帝龍たちの力を一つにし、自身に宿し、それを行使することも可能だそうで、その力は、他の十二星天と比べても、かなり強い部類に入るという。


 その縁と、弱っていた神帝龍に力を与えたという恩もあり、龍族はエレナに対してかなりの親近感を持っているという。

 度々、カドルがエレナの事を心配している素振りを行う理由が分かった気がする。


「あ、そういや、スーラン村に行った時に、地帝龍に会ったな」


 龍族の事を考えていると、地帝龍の事も思い出し、そう言うと、シンキは目を見開く。


「地帝龍……アティラか?」

「ああ、そうだ。そういや、今朝も村には居たんだが、出て来れば人間に騒がれるってことで、出られなかったと。お前にも会いたがっていたよ」

「ふむ、そうだったか。落ち着いたらまた、村に行くとしよう」

「……ほう、地帝龍が人前にか……そうか……村に居る行商グレンが羨ましい……俺だったら、龍族の素材を……」


 懐かしそうな顔をするシンキとは裏腹に、少しばかり悔しそうな顔をするリエン。やっぱり勧誘するか、と呟き始め、心の中でグレンに謝っておいた。イーサンでは駄目だったが、リエン本人が行ったら流石に揺れそうだ……。


「何はともあれ、エレナに関しては次の天上の儀で話を伺うことにしておこう。カドルの事をしっかりと伝えておきたいしな」

「サネマサ達が何か文句を言いそうだが、黙らせておけよ。天上の儀は一週間後だっけか?」

「ああ。それまでに各領の要人を、だな……」


 ふう、と息を吐きながら疲れた顔をするシンキ。何となく気持ちは分かると、俺とリエンはそんなシンキを眺めていた。


◇◇◇


 その後、シンキがたらふく飯を食った頃に、騎士団の作業も終わり、シンキとリエン、イーサンの三人も騎士団と共に、この場から去ることになった。

 その前にシンキは、村でも行っていたように、今回の件について、街の人間達に謝罪という名の声掛けを行っていた。大人はもちろん、子供達も、十二星天との触れ合いに目を輝かせている。

 時間が掛かりそうだと思っていると、騎士団のインセンを始め、その場に居る騎士全員が、姿勢を正し、ビシッと胸に手を当てた。


「では、ツバキ殿! こちらの者達は我々にお任せください! マルドに駐在する騎士も、また、見直した後、報告いたします!」

「いえ、私に報告は良いですから、迅速に対応をお願いします」

「かしこまりました!」


 未だ、ツバキに頭が上がらないという様子のインセンの態度に、流石のツバキも辟易としていた。早くアマン達を連れて行ってくれと言った感じに、インセンをあしらっている。

 すると、フッと笑みを浮かべたリエンがツバキの前に立った。


「師団長殿の言うことはさておき、嬢ちゃんには世話になった。ムソウ殿から聞いたが、クレナに帰る時にうちに寄ってくれるんだろ? 嬢ちゃんに免じて、全額半額にしてやるから、たっぷりと買い物を楽しんでくれ」


 先ほど、飯を食いながら、クレナへの土産を買いに、リエン商会の倉庫に改めて行く旨を話しておいたが、そんなことを思っていたとは、思わなかった。

 疲れた顔のツバキは、ぱあっと表情を輝かせて、頷く。


「はい! ありがとうございます!」

「案内はイーサンを遣わそう。コイツに全部任せれば完璧だぞ」


 肩を叩かれたイーサンは、ニカっと笑ってツバキに頷く。ツバキはイーサンに深く頭を下げた。


「よろしくお願いします。イーさん」

「任せとけ。妖狐の嬢ちゃんも楽しめるような買い物プランを立てておこう」

「ぷらん? よくわかんないけど、おもしろそ~! イーサンおにいちゃん、よろしく~!」


 わーい! と両手を上げるリンネの頭を撫でるイーサン。すっかり、仲良くなったものだな……。


「じゃあ、ムソウ殿。また、その時には尋ねてくれ」

「ああ、分かった。首を長くして待っていろ」


 俺とリエンは固く握手をして、約束を取り付ける。


 その後、街の者達に挨拶をしていたシンキが俺達の所に戻ってきた。


「ふう、ようやく終わった」

「皆さんへの心配り、ありがとうございます。シンキ様」

「気にするな、ツバキ。これも宰相の仕事のうちだ……今回は、ムソウではなく、主にお前に世話になった。お疲れさん」

「まあ、最後はエンヤ様に持って行かれましたけど……」

「ハッハッハ! お前も暴れられて良かったなあ~!」


 笑いながらツバキの腰の斬鬼を小突くシンキ。中でムカッとしているエンヤの姿が思い浮かぶ。ご愁傷様。


「さて、俺はこれより王都に帰る。しばらく天上の儀や、転界教について調べを進めるからクレナにはいけないかも知れないが、シロウとナズナの祝言には行くからな。その時はまた、ムソウも、ツバキも、そして、リンネも、よろしくな」

「ああ。しっかりとやれよ、宰相様」

「宰相様、お体にはお気をつけて」

「じゃ~ね! さいしょーさま!」


 宰相を誇張する俺とツバキとリンネの言葉に、呆れたようにハイハイと頷くシンキ。

 そして、シンキとインセン率いる騎士団の者達と、リエンとイーサンは俺達に手を振りながらその場を後にしていった。


 さて、急に人数も減ったということで、いったんこの場はお開きとなる。それぞれ、自分の家に帰ったり、片付けなどをしていた。

 リンネは、子供達と遊びそうにしていたので、片付けの手伝いはやらなくて良いから遊んでいても良いと言うと、喜んでいた。


「夕方までには帰って来るんだぞ」

「うん! きょうはちゃんとかえる~!」

「良い子だ」

「危ないところに行ってはいけませんよ」

「わかった~!」

「ちゃんと、あの公園で遊びます」

「お願いしますね、シオリちゃん、アルス君、ショウゴ君」

「はい! リンネちゃん、行こ!」


 リンネはシオリ達に手を引かれて、街の方に遊びに出ていった。昨夜から今日までの間に、街の多くの人間が顔を知っている。多分大丈夫だろうということで、ツバキと一緒に見送った。


「さて……では、私は買い物に出かけるついでに、ここに居らっしゃらない皆さんへあいさつに行きます」

「ああ。分かった」

「あ、ツバキちゃん、私もついていくね」

「うん。行こっか、ハンナちゃん」


 ツバキについていこうとするハンナにニコッと笑い、ツバキも街の方に出て行った。


 というわけで、俺は二人が帰って来るまで暇になったということだ。レイヴァンに行くというのも考えたが、今日は流石にギルドも忙しいだろう。

 スーラン村での報酬も含め、諸々の話はまた今度にしようと思い、それは辞めておいた。

 それに、少しばかり飯を食って満腹な所為か、少々眠たくなってきた。昼寝でもしようと思い、家に入り、片付けをしているタクマとメリア、手伝っている者達に一言言って、ツバキの部屋に向かった。

 そして、長着に着替え、いつもの場所に布団を敷いて、眠りについた。昨晩も村で寝たが、やはり疲れは取れていたのか、しばらくすると、俺の意識は段々と深いところに落ちていった……。


◇◇◇


「……ンキ……ザンキ……」


 ……ふと、誰かが俺を呼ぶ声が聞こえてくる。幼げな女の声だ。聞き覚えは……ある。


 どうやら、久しぶりにここに来れたようだ……。最後に来たのは……クレナの事件の直後だったか……。


 未だに、どういう理屈でここに来ることが出来るのか分からない。

 確かエンヤは、ここに居るのは、魂の中でいわゆる、「意識」を司る部分のみと話していた。

 意識が抜けるほど、俺は疲れていたのか? 実感はないが歳なんだろうな……。


「ザンキ……ザンキ……起きているの、分かるよ?」

「……考え事……してたんだ」


 苦笑いしながら、ゆっくりと目を開けると、桃色の髪をした鬼族の娘、コウカが俺の顔を覗き込んでいた。

 目線を合わせると、コウカはクスっと笑みを浮かべる。


「久しぶり、お義父様」

「……その呼び方は辞めろ。ザンキで良い」

「フフッ、分かった」


 まるで悪戯っ子のような顔をするコウカ。


……カンナがコウカに惚れた理由が分かった気がする。コウカはアイツに似ている。流石、俺の息子だな。


体を起こしてあたりを見ると、相変わらず真っ白な空間に、俺達しか居ないので、寂しいなと感じる。


「ふぅ……未だに、どうして俺がここに来られるのか分からないな……」

「それはね、多分……私が会いたいって望んだからかな……」


 そう言われて、コウカに顔を向けると、少し寂しそうな顔で微笑んでいた。

 やっぱり寂しいんだなと思い、コウカの頭を撫でた。そして、少しでも心の底から笑って欲しくて、俺はコウカに笑ってやった。


「それは良かった。俺もお前に話してやりたいことが山ほどある。聞きたいか?」

「うん。聞かせて、ザンキ」


 少しだけ元気になったコウカに、俺は最後にここに来てからクレナで起こった嬉しかったり、驚いたりした体験を語っていった。


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