第345話―ツバキが師団長に頭を下げられる―
さて、タクマの説明と、リエン本人からの言葉により、今後もリエン商会は、リエン商会のままで存在し続けることが判明し、そこからは何の気兼ねも気遣いも無く、お互いに料理を楽しんでいた。
それぞれ、リエンはタクマ達に自分の過去の話をしていた。一度全てを失い這い上がってきたことに関しては、噂通りだと喜ぶタクマとツバキ。アマンを指しながら、俺は嘘はつかないと笑うリエンの生き方は、素直にカッコいいと感じた。
そして、リエンは逆に、タクマとメリアになれそめを聞いていたり、店の事を聞こうとしていた。
しかし、タクマは頑なに話さず、どうしても知りたいのなら、リエン自身が情報収集すれば良いと提案した。
リエンは、フッと笑みを浮かべて、必ず暴いていやると更に笑っていた。
そんな皆を眺めながら、ふと、リエンが先ほどなぞっていた、服に描かれている紋章が目に入る。最初も見たように、ひとりの男が色々なものが積まれた荷車を曳いているというものだった。
タクマに聞くと、これはリエン商会の紋章で、荷車を商会、男をリエンと見立てて、あらゆるモノを世界中に届けるというリエンの信念に沿ったものだ。
「荷車……か……」
何か、思い出しそうな気がする……というか、思い出した。前にレイヴァンで出会った、ルオウという老人の事だ。アイツも、色んな事を「荷車」に例えていたな。
レイヴァンで商人をやっている奴は皆、自分の店の事を荷車に例えるのか? などと、少し考え込んでいると、隣からツバキが俺の顔を覗き込んできた。
「どうかなさいましたか?」
「ん? いや……前に会った、ルオウって爺さんの事を思い出していた。そういや、アイツも最近は時間が無くて趣味も出来ないとかぼやいていたな……」
虹鳥の羽の件では世話になったが、あの時、完成したら見せると言っていた手芸は完成したのだろうか。モンクを発つ前に、あの爺さんとも会っておきたいなと、ふと、思っていた。
すると、隣でリエンが、あ、と言って、手をポンと叩く。
「ああ~、忘れてたぜ、その約束もあったな。ちょっと待ってくれよ……」
リエンはそう言って、懐から異界の袋を取り出し、中に手を突っ込んだ。何をしているのだろうかと眺めている俺とツバキの前に、リエンはサンゴや綺麗な石で出来た冠のようなものと、虹鳥の羽や魔物の牙、爪を組み合わせて作った首飾り、それに、南京玉と、魔物の核のような宝石を使った腕輪を出してきた。
使われている素材から、手芸で作られたもののようだが、今まで見てきた、どれよりも、「高そう」だと感じた。細かな細工や石や珊瑚に掘られている彫刻は、天宝館の職人が作るものと同じくらい細かくて綺麗なものだと感じた。
「素晴らしいですね……」
「ああ。明らかに素人が作ったものじゃない……」
「それでも、素朴な造りよ……どうやったら、こんなのが出来るのかしら……?」
ツバキと、タクマ夫妻も、置かれた工芸品に目を丸くしている。モンクの人間が凄いと言うのだから凄いものなんだろうな。
「それで……何なんだ、これは?」
しかし、何故リエンがこれを出して来たのか分からない。恐らくはリエンが作ったものだろうが、それを俺に見せてくる理由は不明だ。コモンに付与でも頼みたいのだろうかと思っていると、リエンはニカっと笑った。
「何って、約束したじゃねえか」
「約束? 何の話だ? そもそも、俺とアンタは今日会ったばかりだろうが」
「アンタはそうでも、俺はそうじゃないってことだ。まあ、見てな……」
そう言ってリエンは立ち上がり、目を閉じて瞑想した。
すると、リエンの胸の辺りが輝き、光がリエンを包んでいく。何事かと思っていると、リエンの姿が徐々に変わっていく。光の輪郭が段々と小さくなっていき、それが段々と収まっていく。
再びリエンの姿が現れた時、リエンは顔を両手で隠していた。
「あー……あー……うん……これでいい……か」
そして聞こえてきたリエンの声に驚く。最初はリエンのものだったが、徐々に変わっていき、声だけ聞けば、まるで老人のようになった……というか、聞いたことがある。
呆気にとられていると、顔を覆っている両手を払って顔を見せてくれた。
「というわけで、こういうこと……じゃ……爺さん言葉は難しい……の」
「……騙された」
リエンがスキルを使って変装していた姿、ルオウという老人の顔を見た瞬間、俺は頭を抱えて項垂れた。
聞けば、時々、あの倉庫内を回ったり、仕事から逃れたい時などはこの格好になって、リエン商会の職員たちの目を逃れているらしい。
それでも、バレる時はバレるが、初見の人間にはまずバレないらしいし、リエンは他にも、変装の偽装する姿を用意しているとのことらしく、最近はイーサンも居ないので、仕事場を抜けては、俺とコーヒーを飲んだ場所で、船を見ながら、少々長い休憩をしているという。
あの時、既に会っていたのか。色々あって最近は手芸をすることも無くなったというのはそう言うことかとリエンを睨む。
「あの時のは、偶々か? それとも狙ってか?」
「偶々だ。暇だからぶらついていたら、アンタに会ったな。そういや、あの時、詐欺に遭ったんだっけ?」
「……話しづらいから辞めろ」
見た目がジゲンと同じくらいの爺さんが、それよりも若い口調をしていることに、凄まじい違和感を抱くので、ルオウの格好を辞めさせた。
「意外と気に入ってるのに……ムソウ殿も、上手く騙すことが出来たし……」
「まあ、そうだな……お前にも騙され、詐欺にも遭っていたってことだな」
「詐欺の件は、俺は関係ない……とも、言えないか。ああいうのも今は居ないはずだから、安心しろ」
アマン側の人間だけでなく、不良品を扱ったり、小さな犯罪を犯す者に対しても、リエン商会から追い出すようになったと言うことで、前よりも一層安心して買い物が出来るぞと笑うリエン。
ちなみに、やはりイーサンはあの時、俺の事に気付いたようだった。それでも、俺に近づいてこなかったのは、リエンの指示だったらしい。どういうことかと聞くと、俺と関係を持つのは、もう少し慎重にしておきたかったとのことだ。
「正直な話、俺はムソウ殿に特に興味が無かったからな。まあ、俺本人は無くても、商会内の人間は、ムソウ殿によってもたらされる莫大な利益に目を付けた奴も居たが、取りあえず、そいつらは黙らせた。勝手なことをやって、恨まれたくは無かったからな」
そもそも、リエンが俺に目を付けていなかったことが明らかになる。今回の騒動もあり、わざわざ正体を隠すことなかったなと、苦笑いした。
しかし、リエンはそれで良かったと語る。
「ムソウ殿や騎士の嬢ちゃんの行動は正解だろう。ムソウ殿は、見る奴が見れば、爆弾とか、脅威そのものだからな」
「どういう意味だ?」
すごく失礼なことを言われた気分になり、思わず聞き返すと、リエンは落ち着けと言って、この世界における俺の「立ち位置」というものを教えてくれた。
「多分、“刀鬼”殿は分かっていると思うが、ムソウ殿は、王族や貴族が持つ“権力”も、俺達商人や富豪が持つ“財力”をも、たった一人で凌駕するほどの“武力”を持っている。下手なことをして敵意を持たれたら溜まったものじゃない」
「そんなつもりはないんだがな……」
「天災級を一人で圧倒し、十二星天とも互角に渡り合う方が何を仰いますか……」
確かに、俺はこの世界でも大きな力を持っているという自覚はあるが、貴族は相変わらず偉そうだし、喧嘩売ってくる奴は居るから、俺についてそんな大ごとになっているとは思わず、今までも聞き流していたが、結構大ごとにはなっているらしい。
まあ、そう言えば、シンキも似たようなことを言っていたし、少しは気を付けた方が良いって考えた方が良いかも知れないな。
「まあ、今回はムソウ殿が正体を隠していたことも原因の一つだったからな。ここから先、嬢ちゃん達を護りたかったら、隠さない方が良いかも知れない。俺みたいな奴は下手に手を出したらやばいということが分かっているから、そういう奴らと面倒ごとを起こしたくなかったら、寧ろそうした方が良いかも知れないな」
「ああ……ガーレンも似たようなこと言っていたな。よほどのことが無い限りは何もしないつもりなんだが……」
「ムソウ殿の事情は知らないからな。ただ、喧嘩を売ったらどうなるかって噂は聞いている。例え、相手が貴族だろうと十二星天だろうと容赦ないというのも分かっているからな。だから、俺も下手なことはしないようにしていたんだが……」
忌々し気な目で、アマン達を睨むリエン。そして、深くため息をつく。
「まさか、こんな最悪な形で関わることになるとは思わなかった。下手をすれば、うちは大損害を被っていたな」
俺に嫌われるということは、俺と関りがある多くの領主や、ギルド支部長、更に十二星天のジェシカやコモン達からも良い目で見てもらえない可能性が出てくるということ。
それらを主な収入源としているリエンにとっては大きな痛手になっていたということで、俺と関わるのは、機を見てからと判断していたらしい。
「まあ、実際話してみたら普通の人間だったからな。こうやって、安心しているってわけだ」
「……なるほどな。まあ、俺も最初はお前達とは関わり合いになりたくないと思っていたからな。まあ、そこはお相子ってことで……」
そう言って、盃を向けると、リエンはニカっと笑って、自分が持っていた盃を合わせた。
「これからもご贔屓に、ムソウ殿」
「ああ。ひとまず、俺と俺が率いる闘鬼神と、お前の商会は協力関係ってことで良い」
「そいつは助かる。アンタの闘鬼神は粒ぞろいって聞くからな。何か依頼があれば、アヤメ殿を通すとしよう。それで、ムソウ殿。俺が作ったものは、どうだ?」
俺は差し出された装飾品を手に取った。目利きとかには自信が無いが、ツバキ達が先ほど言っていたように、良い品だということは見て明らかだった。よく作り込まれている細工などには惚れ惚れする感じだ。
「良い仕事してんじゃねえか? まあ、ツバキとリンネの仕事には劣るがな……」
リエンが作ったものを返しながら、俺は髪飾りを見せつけてやった。隣のツバキが得意そうな顔をする前でリエンはそれを手に取り、クスっと笑う。
「確かに。誰かが誰かを思って作るもんってのは、どんな高級品よりも輝いているからな。俺も、まだまだのようだ」
「光栄です」
良い出来だというリエンの言葉に、ツバキは嬉しそうな顔をした。そして、リエンはまだまだ精進だと言って、これからも仕事の合間にこういうものを作っていくと笑った。
◇◇◇
その後、しばらくリエンと過ごしていると、リンネが子供達と一緒に俺達の所までやって来た。皆、どこかを指さしながら、口を開く。
「おししょーさまー、おねえちゃん、またいっぱいきたよ~」
「ん? いっぱいって何のことだ?」
「あ、ムソウおじさん、ツバキお姉ちゃん。ハンナお姉ちゃんと、ギランおじちゃんと、あと、騎士の人たちが来たよ」
「あ、あとね、じ、十二星天様も! ぼく、初めて見た!」
まるで、本物の騎士のように報告をしてくるリンネとマナ達の頭をツバキが撫でる。子供達は嬉しそうな顔をして、ニコッと笑った。
そして、街の住民達を割って、俺達の前にやって来たのは、ハンナ、ギラン、イーサンの三人と見たことが無い男と、大勢の騎士達。
男は、三十前後の男で、手に大きな手甲を装着し、鎧を着た筋骨隆々の体格をしていた。首に下げている騎士団の首飾りから、騎士団を率いる男だということが分かった。
ツバキに聞くと、その男は騎士団のモンク師団師団長インセン本人であるということが確認できた。
インセンに連れられた騎士達に混じって、シンキの姿も見える。何事かと思っていると、リエンが、ふむ、と言って少々乱れていた身なりを整える。
「お、来たか……」
どうでも良いが、リエンも酒には強いらしい。俺とツバキと一緒にかなり呑んでいたが、未だに正常そうだ。
多分ここからまた、色々と話し合うんだろうなと思い、リンネや子供達を、取り合えず下がらせたところで、先頭のインセンが俺達に頭を下げた。
「どうも、お疲れ様です。モンク師団を率いるインセンと申します。リエン殿が捕らえたというアマンとその一派の者達を回収しに来ました」
見た目の割にずいぶんと腰の低い師団長だなと感じた。ツバキによると、師団長の中でも最年少の若輩者らしい。
リエンは頷き、イーサン達に目を向ける。
「他の商人や、ルーザーと関係する者達、それに貴族の方は済んだのか?」
「ああ。俺が居るってことはそう言うことだろ? この街で違法な商売している奴らも、マルド商会、ターレン商会の全面協力の下、既に片が付いた」
「よくやったな、イーサン」
イーサンの肩に手をポンと置くリエン。恥ずかしそうにしながらも嬉しそうにするイーサンを見ていると、イーサンはツバキに向かって頷いた。
万事、上手くいったという思いを受け取り、ツバキもフッと笑みを浮かべて頷いた。
そして、リエンは、申し訳なさそうな顔でギランに目を向ける。
「色々と不都合をかけてしまったな、ギラン殿。うちの若いもんが世話になった」
「まあ、アンタについてはこれからの事もあるし、べつに怒ってはいない。どうせ、ここに居る皆に、絞られた後だろうから、俺は何も言わないでおこう。今後に期待している」
「ああ。任せてくれ」
なら良しと、満足そうにするギランだが、裏事情を知っている俺含めて、この場に居る者達は、これから忙しくなりそうなギランに苦笑いしていた。
「漁師カイガの娘さんも、今回の事で苦労掛けたようだ。俺から報酬を出すから、ギルドで受け取ってくれ」
次にリエンはハンナに目を向けた。ハンナは、キョトンとした顔になっていく。
「え……リエンさんはうちの親父を知っているの!?」
「俺の情報網を……と、言いたいところだが、ちょっと別件でな。正確には、お前の祖父に当たる、カイオーと知り合いだ。知り合いの身内に迷惑をかけたのは申し訳ないからな。謝礼金として受け取って欲しい」
今は亡くなっているが、ハンナの祖父はそれなりに名の通った漁師だったらしく、若い頃のリエンは世話になったという。
今回の一件で、冒険者として活躍したハンナには別に金を払いたいらしいリエン。ハンナはなるほどとうなずき、タタッとこちらに駆けてきて、ツバキに腕を回した。
「私は友達を手伝っただけなんだけど、まあ、良っか」
「もう、ハンナちゃんったら」
ツバキは嬉しそうな顔をして頷く。幼馴染同士の仲良し同士が子供の様にしている光景は、俺含めてその場に居る者達を沸かせた。
すると、インセンが気まずそうな顔でツバキの前に立つ。
「あの……貴女が、マシロ師団のツバキ殿でしょうか?」
「え、はい。え~と、私に何か?」
「今回の件、リエンさんやギランさんに聞きました。その……ここに配備した方々も、今回の原因だそうで……そして、ツバキ殿にも迷惑をかけたようで……申し訳ございませんでした!」
突然、頭を下げるインセン。ぎょっとするツバキだったが、すぐに我に返ってインセンの頭を起こさせようとする。
「や、辞めてください! こんな人が大勢いる中で師団長が!」
「いえ! これくらいはさせてください! ほ、ほら、皆も!」
なおも頭を下げながら、インセンは他の騎士達にも頭を下げろと促す。
「「「「「ツバキ殿! 申し訳ございませんでした!」」」」」
すると、他の騎士達も、ツバキや俺達に一斉に頭を下げた。ツバキは更に慌て始める。
「皆さんも辞めてください! レオンさん達に頭を下げるのでしたらともかく、私に下げるのは、何と言うか、違います! 私は職務を果たしただけですから!」
「と言うことは、領民の生活を脅かしていた私達は、もはや、騎士では無いということです! 本当にすみませんでした!」
「そう言うことではなくてですね! お、おかしいですね、インセンさん、聞いていた印象と違うのですが!」
慌てるツバキにどんな印象だったのかと聞くと、インセンは、クレナ以上に犯罪に手を染めている者が多く、また、人口も多い街が各地に存在するモンク領の平穏を保つために、各地に多くの騎士を駐在させる仕組みを整えた人物らしく、コウカンを始め、多くの他の領の師団長からの信頼も篤い男だという。
騎士を分散させると言うことはそれだけ、街の防衛機能も落ちるということなのだが、そう言ったことも踏まえての、思い切ったことを行う、豪快な印象を持っていたとのことだが、今のほとんど暴走しているインセンを見ながら、ツバキは、何か違うと思っているらしい。
話を聞いた俺達は、恐らく、インセンは真面目な人間なんだろうなと思っていた。何に対しても全力な姿というのはある意味、見ていて面白いなと黙って、慌てるツバキを眺めている。
「ここに配備したにも関わらず、不正が認められた者達は全てサネマサ様に預けました! ですが、モンクの住民達を不安にさせたのは事実です! そして、今回の事も、私達はレイヴァンに居て感知できず、全て、ツバキ殿にお任せした責は重いです! どうか、私達に、厳しい罰を!」
「何故、私が!? 私はそれを判断できません! いい加減、頭をお上げになって、アマン達を連れて行ってください!」
「「「「「了解です! ツバキ殿!」」」」」
ようやく頭を上げたインセン達は縛っていたアマン達を連行する準備に入る。
ふぅ、と息を吐きながら座り込むツバキをハンナとギラン、それに他の住民達が茶化し始めた。
「凄いね、ツバキちゃん。師団長様を一喝って、普通の騎士には出来ないよ~?」
「下手すりゃ、懲戒だぜ~? 今日の事は、リュウガンに自慢してやろう。良いもの見れたってな」
「これで、騎士団でもそれなりの立場になれたんじゃないか?」
「やったね、ツバキちゃん!」
そして、リンネ含む子供達は、キラキラとした目をツバキに向けていた。
「おねえちゃん、かっこいい~!」
「ほんと、カッコいい……私も騎士を目指そうかな」
「俺も俺も! お姉さんみたいな騎士になりたい!」
「僕は、冒険者が良いなあ~。でも、お姉さんみたいに強くなりたい」
そんな言葉に、ツバキは再び慌て始める。
「ち、違うんです! 皆さん、これは、何かの間違いです! 先ほどから申し上げていますように、私は職務を全うしただけで――」
ハイハイと、聞き耳を持たない皆の前で、タクマとメリアがニヤニヤしている。
「このままツバキが偉くなったら、私達も安全ね~」
「これからも頑張るんだよ、ツバキ」
肩に手をポンと置く二人に、何も言い返せないツバキだった。
そんな光景を見ながら、やっぱり、この街の中心にはツバキが居るんだなあと思っていると、俺も肩をポンと叩かれる。振り返ると、そこにはシンキが居た。
「流石、嬢ちゃん。良い啖呵だったな。エンヤも喜んでいるだろう」
「だな……そういや、エンヤもああやって丸め込まれるような奴だったと思うが、ここでもそうだったのか?」
「ああ。特に、リンネやたまみたいな、幼い子供達には特にな」
なるほど、とリンネに弄られるツバキを見て納得する。
いつものように、少しだけムッとしたツバキが、リンネの頬をつまんだりするところを見て、事件が解決して良かったと実感した。
「それで、お前は何でここに?」
さて、アマンを連れて行くなら騎士団だけに任せれば良いはずなのに、シンキが居ることに疑問を持ち、シンキに向き直った。
「取りあえず、お前に報告しに来た。村で捉えたケリスの男はあのまま王都に連れて行った。
それで、さっきサネマサと合流して、捕らえた貴族達の面通しをしてきたところだ」
「なるほど……なら、丁度良かった」
「何がだ?」
キョトンとするシンキに、俺はアマンから回収した呪いを発生させる魔道具を差し出した。
「アマンが持っていた。今回、使われそうになった呪いの魔道具だ。一応、渡しておく」
「これがか……分かった。王都に持って行って調べておこう」
上手くいけば、普通の呪いでは無い、これら「七つの大罪の呪い」について、何か分かるかも知れない。おって、報告は待つという俺の言葉に、シンキは頷いた。
「よし。これで、俺の用事は終わりだな。後は騎士団の作業を待つだけだ」
ふう、と一息つくシンキ。すると、リエンが俺の肩を叩いてニカっと笑っていた。
「ムソウ殿と宰相様が懇意だという話は本当だったんだな」
「まあな。リエンは、シンジとは?」
「何度か、お会いしたことがあるな……」
そうなのか、とシンキに視線を移すと、シンキは頷いた。
「まあ、城でもリエン商会から物資を買い付けることが多いからな。それに、旅客船や港の事もあるし、その関係でお前の事は知っているつもりだ。今後もよろしく頼む」
「お……と言う事は、今回の責任で商売取り消しってことも無いってことか?」
「当然だ。報告はすでにそこのイーサンという男から受けている。あそこのアマンって男やルーザーは分からないが、お前たちは寧ろ、今回の事件解決の協力者だ。褒美を出すことはあっても、罰することは無い。
それに、ジェシカやコモン達とも取引をしているんだ。あいつらに恨まれたくは無いから、城から何かするってことは無いから安心してくれ」
シンキの言葉に、今まで余裕そうだったように見えたリエンがホッと胸を撫で下ろしていることに気付く。
自分で出来ることは全て行い、少なくとも商会を続けられなくなるという確信は得ていたが、今回の事件を重く見た王都が介入してこないというのも考えられない話では無かった。
一応、俺とシンキ含む、多くの十二星天の仲が良好なので、恐らく大丈夫だという思いではあったが、今回それが確信になったと言うことで、リエンは安心している。
それを見て、イーサンが横からため息をついていた。
「シンジ様が処分無しって言っても、これから大変だぞ、旦那。多くの商人も居なくなって、更にカジノや港の権利まで譲渡するなんて……」
「その点は大丈夫だって、何度も言っているだろう? まあ、当面は俺に任せろ。新しい基盤が出来るまでは、お前も休んでいて良いぞ」
「い~や! 旦那達、商会の上役連中はそう言って、どこかで足元すくわれるからな! というか、今回ですくわれかけただろう! 俺自身が安心するまでは、俺も働くからな!」
「いや、お前は今回一番頑張ったんだから、休めよ。命令だ、休め」
「今回頑張ったのは、ツバキさんだ! 俺は少なくとも後の処理が終わるまでは働くからな!」
「はぁ……分かった。頼むから、俺みたいにはなるなよ」
イーサンに根負けし、頭を抱えるリエン。それでも嬉しそうな顔をしている。
そして、俺とシンジに目を向けて、こそっと、
「若者は大変だ」
と、嬉しい愚痴を漏らしていた。
日ごろからダイアン達や、今日のツバキを見てきた俺も、長年、宰相として次の世代を常に見てきたシンキも苦笑いしながら、そうだな、と頷いた。




