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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
ツバキが里帰りする
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第341話―ツバキとリンネの元に帰る―

「うわぁ……」


 スーラン村を出て、そのまま門はくぐらずに、海側からマルドに向かった。いちいち神人化を解く必要もほとんど無くなったので、そのまま港に向かったんだが……。


 見えてきた光景に、言葉を失う。上から見ても広い港だということは分かるが、どこにリエン商会の倉庫があるのか直ぐに分かった。

 桟橋の一部に、大きな倉庫があるのだが、その付近の海面が赤くなっている。そして、近づいていくと、所々大きな穴が空いていたり、泊まっている船がボロボロになっていたりと散々なことになっている。

 エンヤが暴れた痕と、すぐに分かった。海面の赤いものは魔物の血だろう。ツバキは、弱い力でエンヤを出して長時間戦えるようにしたとのことだったが、それだけでも、こうなるのかと頭を抱える。

 取りあえず海を浄化しながら海側から倉庫の中に入っていった。多少人の目が向けられるのはもうこの際、仕方ないと思っていた。


 そして、俺が建物の中に入ると、威勢の良い声が聞こえてくる。


「お~い! ムソウ~! ここだ~!」


 声の主はサネマサだ。周囲にはギランやハンナ、ハンナの父親であるカイガ等、俺の知っている顔もちらほらと居る。リエン商会のイーサンの姿もあった。

 騎士も少なからず居るようだが、その場の後始末をしているのは、漁師や、この街の商人と思われる者達ばかりだった。

 サネマサの側には身なりの良い恰好をした者達が、縄で縛られてその場に座らされている。恐らく貴族と、アマンの店で競りを運営していた商人達だろう。


 俺は、サネマサの元に降り立った。


「朝からすまなかったな、サネマサ」

「気にすんな。こういうのも十二星天の仕事だからな」

「感謝する。ツバキとリンネには会ったか?」

「いや、二人とも昨日のうちに、ツバキの家に帰ったって、あいつ等から聞いた」


 サネマサが指さす方向には、イーサン、ギラン、ハンナの三人が居る。

 近づいていくと、既に俺の事は知っているイーサン、ギランはともかく、ハンナがビクッと体を震わせた。


「そんなに緊張するな、やりづらい……」

「あ、うん……ごめんなさい……」

「ったく……それで、今はどういう状況になってる?」


 ひとまず、俺とツバキが話をしてから今朝の間にどうなったのか、聞いてみると、三人は教えてくれた。


 まず、ルーザーを確保したツバキは、イーサンと共に、街の大規模な捜索と、店の後始末を行っていたギラン達と合流した。

 ギラン達の元には貴族達に雇われた冒険者達も居たが、自分達がやっていたことが、悪事に関わることと知り、冒険者は、全てをギルドに報告した上で、違約金を払うと言って、夜中のうちに、ハンナの監視の元、レイヴァンに向かったそうだ。

 今頃、ガーレンに事の次第を報告している頃だとハンナは語る。


 そして、ハンナはレイヴァンに行った際に、マルドでの出来事を騎士団のモンク師団本部に報告した。マルドの騎士が当てにならないという説明をして、本部に応援を要請したが、時間も時間だと言うことで、なかなか取り合ってもらえず、レイヴァンに残ったままだったが、朝になり、俺からの報告を受けたシンキとサネマサが騎士団に来たことで、二人からの説明を受けた騎士団がここで動くことになる。

 取りあえず、師団長は情報を整理した後、今日動ける者達をかき集めて後から大きな護送船でマルドに来る手はずとなった。

 それでも、貴族達や、ギラン達が手当たり次第に街中を走った結果判明した、違法な商売をしている魔物商や奴隷商の者達を捕らえる為に、何人かの小隊を先遣隊としてサネマサが転送魔法で連れて来たという。

 現在、港で作業をしているのは、この街の騎士団ではなく、本部から来た者達とのことで、この街の騎士団は、今頃、幹部を中心に、モンク師団本部に身柄を拘束され、今日の実務に影響が出ない人数を残し、ほとんどが謹慎ということになっているらしい。


「商人からお金を受け取った騎士は、今後厳罰が下されるって話だよ。ただ、その証拠が出ればの話だけど……」

「ふむ……イーサンでもそれは掴めていないのか?」

「いや、掴めてはいるが、ほとんどが幹部級の名前しか載っていないな。一般の騎士たちのものは流石に……」


 まあ、細かい奴らの事は流石に証拠とかは無いか。ただ、これについては、俺がどうしようとかという義理も責任も無いから、騎士団に任せておこう。


 さて、騎士団の動きについては以上だ。取りあえず、騎士団の処罰については、昼頃に来るはずの騎士団本隊に任せるということで、その他の者達について確認していく。


「転界教に関わっていそうなルーザーと貴族達は十二星天に任せるとして、その他の商人達は、この後はどうなるんだ?」

「アマンに関わっていた奴らについても、騎士団に引き渡す予定だ。転界教とは別に、違法なことをしている可能性があるからな」


 イーサンの言葉に、ならばと、グレンから預かった、セバスが持っていた、リエン商会の誰がセバスや転界教と関わっているのかが記された名簿を渡した。

 この資料を基に、リエン商会も近々大規模な粛清を行うと言うことで、ますます仕事が増えたと、イーサンは苦笑いする。

 マルド商会とターレン商会はどうなるのかと聞くと、ギランが説明してくれた。


「マルド商会、ターレン商会も同様の対応をするって話だ。今回の件で、リーマさんもターレンさんもかなり怒っているらしい。無論、商会からは追放。騎士団に身柄を引き渡した後は、ギルドなり、それぞれの処置に任せ、商会は永久に奴らを見放すという判断となった」


 意外と、思い切った判断だな。これにより、いくつかあるカジノも、レイヴァンやマルドから消えるのではないかとのことで、街の経済の活性化が一時下がるのではないかと懸念された。

 しかし、現在早朝から、リエン商会のリエン、マルド商会のリーマ、ターレン商会のターレンの三人で、今後をどのようにしていくか、今回の件の責任問題について、話し合われているという。


「……って、リエンも今、この街に居るのか?」

「ああ、居るぞ。首謀者がうちの人間だからな。サネマサ様が騎士とハンナさんを連れて来る際に、一緒に来た」


 イーサンの話では、今日も徹夜で仕事をしていた際に、今回の報告を聞いたリエンは、騎士団に直行し、サネマサの転送魔法でこの街に来た。

 イーサンと合流後、報告を受けた後、ギランと共にマルド商会本部に向かったという。


「……大変だな、お前らの大将は……」

「リエンの旦那もかなり怒っていたな……今回の件で、もちろんアマン、ルーザーはリエン商会を追放、二人に関わってこの街で色々としていた商人達も追放、その他、レイヴァンや世界中のアマン側だった商人達も問答無用で商会を追放するってよ。うちも大変なことになりそうだ……」


 頭を抱えながら、ガクッと肩を落とすイーサン。グレンを勧誘した理由が何となくわかる気がする。

 リエン商会内で、リエンに反目していた人間は、全体の三割に上っている。リエン本人は、抜けても気にしないと笑っていたらしいが、残った者達で商会を回すのは色々と不備が出てくるらしい。

 現在行っている会合では、同じく大打撃を受けた他の商会と共同で、これからもマルド、ひいては世界中の経済と物流を維持するための話し合いを行っているらしい。


 こんな状況だが、図らずも、アマンが目指していたリエン商会、マルド商会、ターレン商会の三商会が、手を組む形となった。

 イーサンの方は肩を落とすが、マルド商会側のギランと、何故かハンナは嬉しそうな顔をしている。


「今回の会合で、リエンがレイヴァンのカジノの運営権もマルド商会やターレン商会にくれるって話もあるらしい。俺の方にも、今働いている所よりも、デカい場所を任せるかもしれないって話もあって、良い生活が出来そうだ」

「あと、タクマさん達にも今回の詫びって言って、リエン商会から商品を仕入れている時は、便宜も図ってくれるらしいし、港の使用料も、ターレン商会から一部肩代わりしてくれるらしいからね。私達も、幾分か生活しやすくなるかも」


 ギランとハンナの言葉を聞き、イーサンは更に肩を落とす。つまりは、リエン商会の大きな収入源であるカジノなどの娯楽施設の運営権をこの街のマルド商会、ターレン商会に渡し、二つの商会への詫びを行うという。

 更に、この街の商人達への詫びのしるしとして、今後、タクマ達のような商会に入っていない商人達がリエン商会の商品を卸す際、今までや他の商会よりも安価で仕入れるようにするとのこと。

 港に居るハンナ達のような漁師たちに対しては、港を管理するターレン商会への店舗使用料などを一部肩代わりする上で、話を纏めているらしい。


 簡単に言えば、リエン商会は、マルドの住民や商会に対して、かなりの好条件を差し出すのに対し、得られるのは港の一部の権利と、タクマ達のようなごく一部居る商人達という顧客だけである。

 いわば、打撃を受けた二つの商会の損失を補填するうえで、リエン商会が得るのは、ごく少数の利益のみということで、イーサンも少々疑問に思っているという。

 目の前の、嬉々とした表情のギランとハンナに比べて、苦笑いしつつも、ため息ばかりついているイーサンという光景は何となく面白かった。


「儲けとか考えなかったら、ますます良い男だと感じるがな……」

「旦那はそうだろうが、商会全体を考えると、なんだかな……」

「何か、秘策でもあるんじゃないか? それでも、一応は、世界一の商人なんだろ?」


 何かしら、今後の大きな打開策が無いと、そこまでの提案はしていないはずだ。世界一の商人が、何の打算も無く、大きな賭け事などするわけがない。

 一応、心の片隅ではあるが、イーサンもそれを信じているらしく、それに賭けてみると、苦笑いしていた。


「まあ、今は旦那を信じておこう」

「お前はそれで大丈夫だろう。ところで、イーサン。会合が終わったら、例の会食は出来そうか?」


 俺の質問に、イーサンは難しい顔をする。


「さあ~……まだ、アマンが捕まってないからな。それが済めば、出来ると思うぞ」

「そうか……アマンの行方については?」


 正直、転界教と繋がっていたのは、実はルーザーだっただけに、俺にとってアマンの重要度はそこまで高くない。

 ただ、リエン商会としては、大きな一派を率いていたということもあり、ルーザーを拘束した今、アマンは最大の標的となっている。

 今回の事件の引き金にもなっていることだし、マルド商会、ターレン商会の二つの商会と、ギラン達、この街の住民、サネマサと共に来た騎士団総出で、街中を探しているらしいが、未だに見つかっていないらしい。


「一応、街の全ての門と港は押さえてあるから、この街の外には出ていないと思う。皆、街に入る時に使う、隠蔽スキルや擬態スキルを看破する魔道具を携帯しているから、見つかるのは正直、時間の問題だ」

「……分かった。じゃあ、俺もこの後皆の手伝いに――」


 ひとまず、アマンが捕まらないと、事件が終わったとは言えない。俺もここでの用事が終ったら、アマンを探しに行こうと思ったが、ハンナに肩を叩かれた。


「いや、ムソウさんは、もうこのままツバキちゃんとリンネちゃんの所に行ってあげて。ツバキちゃん、平気そうだったけど、やっぱり疲れているみたいだったから」


 二人の事を心配するハンナに止められ、それもそうかと従うことにした。


「分かった。皆には苦労を掛ける」


 ほとんど丸投げで頭を下げると、イーサンとギラン、それにハンナの三人は笑みを浮かべた。


「ツバキさんにも言ったが、これはリエン商会内部で起こったことだ。俺達が頭を下げることはあっても、オッサン達が謝ることは何も無い。気にしないでくれ」

「ああ。出来ることなら俺達も、ツバキちゃんの所に行ってやりてえが、この街で起こった事件だから、俺達はそういうわけにもいかねえ。ムソウさん、頼んだぜ」

「二人の事、よろしくね。私達も仕事が終わったら、店に行くからって伝えといて」


 転界教が絡んでいるとはいえ、今回の一件は、リンネ、ひいてはツバキも俺も「巻き込まれた」側の人間だから、気にしないでくれというイーサンとギラン。そして、街の住民であるハンナの言葉は嬉しかった。

 ここは、お言葉に甘えるとしよう。


「分かった。じゃあ、ここは頼む」


 三人はコクっと頷き、それぞれの作業に戻っていった。


 俺は再びサネマサの元に近づいていく。サネマサは何かの書類を見ながら、その場に気絶し、縛られている貴族達を確認していた。


「何やってんだ?」

「おお、ムソウ。そっちの報告は済んだのか?」

「まあな……それで、俺はこの後、ツバキ達の元に帰るつもりだが、お前はここで何やってんだ?」

「ああ。ここの貴族達が、この書類に載ってる奴らかどうか確認してんだ。偽物だったり、影武者だったりしたら、後で問題になるからな」


 サネマサが見ているのは、転界教やアマン一派の商人達と貴族達がやり取りをした記録が書かれた書類だ。イーサンが、「手に負えない」と言ってツバキに渡し、俺の元に来るはずだった書類で、サネマサと合流したツバキに渡されたという。

 ここには居ない貴族も居るが、一応、何人かは全員、本人が揃っていると言うことを確認すると、サネマサは背伸びをした。


「ふ~……朝から疲れたな。後は、シンキと騎士団を待つだけか……」

「お疲れさん……クレナはどんな感じだ?」


 ツバキの所に行く前に、少し気になったので、クレナの様子を聞いてみた。サネマサは、ニカっと笑って答える。


「特に何も変わってねえよ。お前んトコのロロがジェシカの弟子になったり、あと、シロウの小僧とナズナの嬢ちゃんが結婚する以外には無いな」

「あ、それはこないだロロから聞いたな。祝言の日取りは決まったのか?」

「聞いてたのかよ……驚かせようと思ったのに……まあ、良いや。具体的にはまだ決まってないが、ムソウ達が帰った後に、細かく決めるらしい」

「そうか……俺達も、この件が落ち着いたら帰るつもりだと、爺さんに伝えておいてくれ」

「了~解。んで、俺達は一週間後から天上の儀とかが始まるから、帰ってくる時期によっては、コモンやアヤメは居ないかも知れないから、よろしくな」

「ああ、そういうのもあったな。了解だ。俺の事は良いように言っておけよ」

「分かってる、分かってる。冒険者ムソウは、引っ込み思案だから、王都に呼ぶのは勘弁してくれって伝えておこう」

「そういう意味じゃねえ~!」


 冗談を言う、サネマサの首を抱え、脳天に拳を擦り付ける。バタバタとしながらサネマサは悶絶していた。

 ひとしきり、苛め抜いた後スッキリした顔で放してやると、サネマサは涙目で頭をさする。


「痛ってえ……酷いぜ、まったく……」

「コイツ等よりはマシだろ?」


 縄でぐるぐる巻きになりながらも、未だに目を覚ましていない貴族達を指さすと、サネマサは苦笑いして頷いた。


「アハハハ……確かに。これは……クレナの始祖様がやったらしいぞ? お前も大変だったんだな」


 クレナの始祖……もちろん、エンヤだ。俺なら死神の鬼迫を使うところを、流石のエンヤもそれは出来ないので、殴って意識を失わせたらしい。

 洞窟内でのエンヤの言動を見てから、サネマサもアイツに対して、若干の恐れという気持ちが芽生えているようだ。

 だが、俺はサネマサの言葉に、首を傾げ、貴族達を覗き見る。


「こんなのは、まだ良い方だ。本気で怒っていたなら、コイツ等の胴体と首が分かれているからな」


 見た所拳骨一発で済ませているようだ。かなり、手加減したようだな。

 本来なら、あれだけ甘やかしているリンネを攫い、ツバキを襲ったような奴らだ。例え貴族と言えども、刀精である自分には関係ないと言って、バラバラになった魔物達と同じ様に、まるで魂でさえもこの世に残さない勢いで、バラバラにして、肉体すらも粉微塵にして海にばら撒くくらいはするだろう。

 ツバキが力加減していたこともあり、暴れたと言っても、そこまででは無いと感じてくるのが不思議だ。

 最初は驚いたが、アイツが暴れた痕と考えると、この港の惨状も、まだまだ甘い気がする。


 エンヤについて、そう説明すると、サネマサは固まり、目を見開いた。


「……流石、ジロウの先祖……あいつすらかわいく見える……」

「いや、お前の親友も大概だと思うんだが……?」


 そう言うと、サネマサは若干落ち着いた顔になってくる。なるほどと納得したような顔で、手をポンと叩いた。


「確かにな……昔のアイツのままだったら、例えばたまちゃんとかが攫われたら、この街に居る奴隷商も魔物商も、建物ごと消し炭になっているだろうな……俺やコウシも駆り出されて……」

「もう、辞めないか、こんな話……取りあえず、あの一族がやべえってことで良いだろ」


 昔のジゲンや、エンヤの武勇伝、もとい、“戦闘狂”自慢をするのは、辞めとこうと二人で苦笑いして頷き合った。

 お互いに大変だなと言っていると、サネマサは思い出したように口を開く。


「お、そういや、この後ツバキの所に行ってやるんだろ? ここはもう良いから、早く行けよ。シンキには俺から言っておくからよ」

「ああ、すまないな。いずれまた、礼はする」

「お~う、楽しみに待ってるぜ~」


 手を振るサネマサと別れて、俺は港を出た。街を歩きながら、タクマの家を目指す。普通に店を出している者も居れば、そこらを走り回っている者達も居る。

 昨晩から今まで、よくやるものだと感心する。そういや、「不眠スキル」ってものもあったな。皆、それを持っているのだろうか。

 それでも、体を壊すようなことはするなよ、と心の中で念じていた。


 ……歩いていると、ギョッとしたような目で俺を見て、道を開ける者が居る。よく見ると、何度かツバキの知り合いだと言って、見たことのある者達だった。

 俺の正体はすでにこの者達には知れ渡っている。同様に正体を現したジゲンのように集られるかと思ったが、逆だった。皆、離れていく。

 ツバキが俺の事をどう説明したのか、若干不安になる。真偽を確かめるため、そして、二人に早く会いたい為、恥ずかしい思いを押し殺し、その場を早歩きで去って行った。


 ◇◇◇


 いつも通りの道を進み、大通りから少し狭い道を進んでいく。この辺りはやはり、昨晩の影響か、ほとんどの店は営業をしていない。

 閑散とした道を歩いていくと、タクマの家が見えてくる。タクマも今日は営業していない。というか、昨日の時点で商品も売り切れたということだったから、本来、今日は商品の調達の日だったのだろう。

 色んなところで色んな奴の予定が狂ったんだなと頭を掻く。見ると、炊事場から伸びている煙突から煙が出ている。タクマかメリアか、ツバキか、家には誰か居るようだ。

 俺は、玄関の戸を叩き、家に向かって声をかける。


「お~い。スーラン村から帰って来たぞ~。冒険者のムソウだ~」


 すると、中からゆっくりと足音が聞こえてくる。ガララっと音を立てて戸が開かれると、そこにはタクマが立っていた。


「ああ、おかえりなさい、ザンキさん」

「やっぱり、疲れているようだな」


 見ると、笑ってはいるが、表情に強さが感じられない。あまり眠れていない様子で、疲れた様にタクマは俺を出迎える。


「うちの女たちは凄いですよ……メリアは今、ご飯を作っています。リンネちゃんがいつ起きても良いようにって……」

「てことは、まだ起きてないんだな。ツバキは?」

「ツバキは、さっきまで起きていたんですが、リンネちゃんを寝かした途端、自分も眠っちゃって……」


 台所から、小さく手を振るメリアに頭を下げた。声を出さないのは、二人が起きないようにとのことだろう。意外とそう言うところはきちんとしているようだな。

 見ると、結構な量の料理を作っている。リンネは半日近く飯を食ってないからな……とも思ったが、少し多いような気もする。俺用か? 

 何となく期待した気持ちになりながら、部屋に案内されると、寝台ですやすやと眠っているリンネの傍らに膝をつき、そのまま眠っているツバキの姿があった。


 どこもけがをしていないようで安心する。タクマに、アンタも今のうちに寝とけと伝えて、そっと部屋に入った。音を立てないように荷物を下ろし、ツバキにも布団を掛けてやった。


「う……ん……」

「キュ……ウ……」


 ついでに、少し崩れているリンネの布団をなおすと、ツバキとリンネがもぞっと動き、小さく声を漏らす。

 なんか、前にもこんなことがあったなと、そっとその場に座り、二人が目を覚ますように、静かに待っていた。


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