第340話―シンキが村にやってくる―
翌朝、鳥の鳴き声と共に目が覚めた。天幕の外に出てみたが、特に村に変わりはないようだった。
あれから、すぐに眠ってしまったが、何とか無事に朝を迎えたようだ。ひとまず着替えて、村の中央に行くと、グレンとサーラを始め、ムソウ一派の奴らが、眠そうな目をこすりながら飯を食っていた。
「皆、おはよう」
「あ、ムソウのオッサン」
「おう、ツルギ。あの後はどうだった?」
「特に何も起きてない。朝まで見張りをしたが、魔物の姿は無かった。今はジェイド達が交代で見張りを続けているって状態だ。何人かは仮眠を取っている。俺達も、シンジ様が来るまでは、起きておこうと思ってな」
そう言いながらあくびをかくツルギや、他の冒険者達。かなり疲れているようだ。徹夜だったからな。セバスの身柄をシンキに渡したら、コイツ等にもゆっくりと休んでもらおう。
「で、あの男は結局どうなった? 目は覚ましたのか?」
「いや。眠り続けたままだ。一応、口と目、耳を塞いでおいたが、生きては居るようだ。眷属としての力は使えないと思うんだが……」
ツルギは、村の木に拘束されているセバスを指さす。近づいていくと、確かに眠っているようだ。しかし、俺と闘っていた時の力や、圧迫感などは感じられない。
封印術の効果は未だに途切れていないことを確認し、胸を撫で下ろす。
「じゃあ、シンジが来るまで、俺もこの辺りの浄化とか色々とやっておく。アイツが来たたら呼んでくれ」
「分かった。魔物の死骸については、今頃ジェイド達が片付けていると思うから、オッサンはそっちの指示に従っていてくれ」
日も昇ったこともあり、俺達が闘っていた場所の景色がよく見えるようになっている。ジェイド達は、ギルドで売却するために、大量の魔物の死骸を集めているらしい。
ただ、俺が神人化して闘ったということもあり、そこまでは残っていないという。何だか悪いことをしたなあと思い、ツルギの言葉に頷いた。
「グレンの方も、シンキが来たら事情とか説明するのに、俺と合流してくれ」
「分かった。それまでは、店に居るからな。今日も普通に商売しておく」
「元気なことで……サーラも大変だな」
「私も大丈夫です。この後は、村の皆さんに、シンジ様が来る旨などをお伝えしようと思います」
急にあいつが来たら、ちょっとした騒動になりそうだからな。事前に、皆に、特に村長には話しておいた方が良いだろう。
「頼んだ、サーラ。じゃあ、皆はそのまま休んでいてくれ。あ~……フジミ、リドルには何か言っておこうか?」
そう言えばと、セバスが襲ってくる直前の出来事を思い出し、フジミにそう尋ねてみると、他の冒険者達も、にやけ顔でフジミに視線を移す。
少し鬱陶しそうな顔をしたフジミは、面倒そうにこちらに顔を向けた。
「適当に……身柄を渡せたら、すぐにレイヴァンに行って報酬を貰ったら家族の所に戻りなさいって伝えといて。私は会う気、無いから」
「冷たいんだな……」
「別に……その方が、後腐れも無いでしょ?」
まあ、確かにとフジミの言葉に頷き、そして、フジミのジトっとした視線に耐え切れず、俺は皆と別れて正面の門の方に向かった。
何人かの冒険者達がワイワイと話し、飯を食いながら見張りをしたり、魔物の死骸を片付けていた。よくもまあ、ものを食いながら出来るものだと思ったが、そんなことも無いようだ。
少し離れた所で、飯を食っている奴らも居る。
俺はその中にジェイドを見つけて近づいていった。
「朝からお疲れさん、ジェイド」
「おお、ザンキ。じゃなかった、ムソウ! よく、眠れたか?」
「おかげさまでな。これから、シンジが来るまでの間、汚れてしまったこの辺りを浄化しようと思うが、大丈夫か?」
「ああ。死骸の回収作業は終わっているからな。大地の浄化に関しては、この辺りと東門が酷いらしい。頼めるか?」
「任せろ」
ジェイドの言葉に頷き、スキルを発動させて神人化する。強い輝きが俺から放出されると、作業をしていた冒険者達が一斉にこちらを向いてくる。
「すげえな……どんな能力なんだよ……?」
「そういうのは、もう慣れた」
むしろ懐かしく感じるジェイドの言葉に返し、俺はその場から飛び立ち、戦場となった村の前を見渡した。俺が闘っていた村の正面から森、更に西門にかけては確かに血の色も薄かったが、東門の方は汚れている感じだ。
光葬針の武者を向かわせたが、途中で消したためか、そこまでの浄化は出来なかったのかも知れない。
俺は光葬針を展開させて、東門の辺りを多めに、大地に次々と打ち込んでいく。打ち込まれた光葬針はそのまま弾けて、辺り一帯を浄化していく。赤く染まっている大地が、みるみるうちに、綺麗になっていった。
やはり、俺の能力も成長しているんだな。浄化する速度も威力も、全てが上がっている感じがする。
この調子なら早めに終わるなと、全体的に綺麗にした後は、特に汚れていた場所を浄化して、全体的に綺麗にしていく。
攻撃の痕が残る場所については、俺でもどうすることも出来ない。ここは後で他の冒険者達にやってもらおう。
しかし、ここまで闘って、なおかつ辺りが暗闇だったにも関わらず、俺達が作ってきた塀や土塁、堀などは無傷だった。塀と土塁は傷がいっても普段は構わないのだが、作り立てで、自分達が去った後、ずっと村を護って欲しいと、皆で苦労して作ったものだ。
村を護るものを護る為に本気で闘っていたと考えると、とてつもなく面白い話だなと感じた。
やがて、周囲の浄化が終ったことを確認し、村へと降り立った。
ジェイド達は駆け寄ってきて、何故か俺に頭を下げてくる。
「ムソウ。アンタの力は便利だな。大地の浄化だけじゃなくて、俺達の装備や服も綺麗になったようだ」
「特に女たちは、昨日風呂に入れなかったから大層喜んでいるぞ」
リドルはニカっと笑って、女の冒険者達を指さす。全員、惚れ惚れとした眼差しを向けていた。
天界の波動にはそういう効果もあり、更にそれを含んだこの村の堀に流れる水にはそういう効果もあるということを教えると、女達は、今後の為にと、水を汲みに行った。
この水目的で、この先もこの村に来てくれることを想いながら、俺達は笑っていた。
……が、その直後、グレンが商売に利用しそうだなと、複雑な顔になったのは言うまでもない。
その後は、魔物の素材を各自で分配したり、村の者達へ説明するサーラの手伝いをしたり、村を発つ者達の手伝いをしたりしながら時間が経つのを待っていた。
すると、村の中央に設置された拡声器からグレンの声が聞こえてくる。
『ムソウ、シンジ様が到着された。こっちに来てくれ』
それと同時に、村の中から感じられる、圧倒的な強い気配。本当に来たようだと思い、ワクワクしているジェイド達を引き連れて、村の中央へと向かう。
そこでは、ツルギ達の報告を聞きながら、セバスに目を向けているシンキの姿があった。
シンキの姿を一目見ようと思ってか、村人たちも何人か集まっては、緊張した面持ちとなっている。
シンキの姿を目にした途端、ジェイド達も若干身を強張らせる。
「すげえ……十二星天様が、本当に居る……」
「き、緊張してきた……」
お前らは特に何もしないのだから良いだろうと頭を掻いていると、シンキの方が俺達に気付いたようだ。
こちらに顔を向けて、近づいて来る。
「お、来たな、ザン……じゃなかった、ムソウ」
「どっちでも良い。朝からすまなかったな」
「構わない。こういうことなら、すぐにでも駆け付けるさ」
やれやれと言った感じに首を振るシンキ。あまりに近づいてくると、ジェイド達が委縮しきってしまうので、俺の方からシンキに近づくことにした。
「事情は伝令魔法とそこの商人から大体聞いた。大変だったみたいだな。お前も、あの女騎士も……」
「ああ。だから早いとこ、コイツをお前に引き渡して、俺達もマルドに行こうと思うんだが……?」
シンキが来たなら、このままセバスを引き渡し、向こうのルーザーも早急に対処しようと言ったが、シンキはフッと笑みを浮かべて、逸る俺を制する。
「そう言うと思って、先にマルドにはもう一人、応援を頼んである。もう少しゆっくりして行っても大丈夫だぞ」
「応援?」
「ああ。流石に一人でコイツと、マルドの商人どもをってなると疲れるからな。手伝ってくれそうな奴を見繕って、今はそいつが、マルドに行って対処しているはずだ」
そんな奴が居るのかと首を傾げる。事情を知っている者となると、王都でも少ないだろう。
「応援って誰だ? まさか、セインとかカイハクじゃねえよな?」
「まさか。あいつ等には頼まねえよ。頼んだところで、しっかり調べないと、とか言って断られるからな」
「じゃあ、誰なんだ?」
「サネマサだ。ツバキが大変なことになってるって言ったら、今日明日の武王會館での予定は空けて、手伝ってくれるそうだ」
俺は静かに、心の中でまだ見ぬ武王會館の門下生に謝っておいた。成り行きとはいえ、お前らの師範を預かってすまない。
何はともあれ、サネマサが出るなら何となく安心だ。ツバキとも連携を取ってくれるだろうし、商人達の捕縛も上手くいくだろう……多分。
何となく人選に不安が残るな。それならコモンやジェシカの方がまだマシだと思ったが、それを察したシンキの、上手くやってくれるさという言葉にただただ頷いていた。
というわけで、俺もこの村で少しばかり余裕が出来た。皆と、ゆっくり別れることが出来ると思ったが、昨日のツバキとの会話を聞いていたジェイド達に、
「「「「「お前はさっさと帰って、ツバキさんを安心させてやれ」」」」」
と、言われたので、結局このままマルドに向かうことで俺の事は決まった。……もう少し、別れを惜しんでも良いと思う。
さて、未だに眠っているセバスを木から解放し、シンキが持ってきたと思われる檻の中に入れて、村を発つ準備に移った。
「しかし、コイツが目を覚ましたところで、正直に転界教について話すか?」
セバスは、忠誠心だけは強い人間だった。そう簡単には口を割らないのではと思っていると、シンキはどこ吹く風と言った顔だった。
「何も話さなくて良い。その時はミサキを呼んで、コイツの頭の中を覗き見るつもりだ」
やはり魔法は便利だなと感じる。面倒な拷問などもしなくて良いというわけだ。
更には、他人の記憶などを読み取る魔法は、ミサキにしか使えないということで、アイツの凄さがここでも分かる。
「ちなみに、コイツ、目を覚ますのか?」
どれだけ体を動かしても目を開けないセバスを見ながら不安に思ったのか、シンキがそう言ってきた。
俺も首を傾げる。
「さあ? 封印術使った時はまだ意識があったから、それは関係ないと思うが……?」
「何やったら、ここまで寝るんだよ?」
「知るか。元々夜襲だったし、コイツも眠たかったんじゃねえの?」
そこに俺が死神の鬼迫で強制的に眠らせたということで、コイツもぐっすりではないかと言うと、シンキは頭を抱える。
「お前……無駄骨になったらどうしてくれるんだ?」
「言ってろ。とにかく、生かしてやったんだから、そこは認めろよ」
「はいはい……」
頭を掻きながらシンキはツルギや、グレン、そして、ジェイド達に顔を向けた。
「お前らも大変だったな。こんな、爆弾みたいな奴と一緒に仕事をして……」
そんなシンキの一言に、どことなく緊張した面持ちだったジェイド達は、少し緊張もほぐれたようで、一様に苦笑いしながら頷いた。
こんなことで、緊張をほぐしてんじゃねえと、俺は頭を掻いた。
「あ、そういや、コイツがこんなものを持っていたんだが……?」
ふと、スマホの事を思い出し、俺はシンキに渡した。ミサキが生み出した魔道具だが、一般には見たことが無いものだ。何故、セバスが持っているのかと気になっていたが、シンキはスマホを受け取り、目を見開いた。
「お、コイツは凄いな。あの魔道具を再現したって話は聞いていたが、本当だったとはな」
「再現?」
「ああ。これはたぶん、リエン商会でミサキの設計図を見ながら作ったものだろう。と言っても、ミサキやセインが作ったものに比べると、色々と劣ってはいるがな」
離れた相手と話す時に使う、この魔道具「スマホ」。セバスが持っていたのは、どこかからか流出したものかと思い、十二星天の近くにも転界教の息のかかった者が居ると思っていたが、どうやら違うらしい。
シンキによれば、これは最近、リエン商会の「商品開発部」なる者達が設計図を見ながら作ろうとしたものらしく、対となる魔道具同士なら話が出来るようになる所まで完成したものらしい。ちなみに、完成品は、どのスマホからでも、話したい相手が持つスマホに連絡を取りつけることが出来るという。
そのためには、かなりの熟練魔法使いでも再現は難しいらしく、その壁をミサキ無しで突破すると言うことは、魔道具を開発する全ての人間の目標になっているらしい。
「これが出た時点で、量産しようとも思ったんだが、一つの領のギルドに、その領の街の数だけのスマホを設置しないと意味が無いんじゃないかという意見が出てな。結局、量産は完成品を待つだけになった」
「へ~……ちなみに、設計図というのは、結構簡単にみられるものなのか?」
「ああ。見ることは出来る。ミサキが書いた変な題名の本に、ミサキの世界の不思議な乗り物や道具を、この世界で再現したものの設計図が書かれている……が、仕組みが難解すぎて、普通の人間が見ても意味が分からないから、公開しているんだ」
ああ、そう言えば、そういう本があるって、ツバキからも聞いたことがあったな。「“魔法帝”の秘密を教えちゃう」だっけ?
二百巻以上出ている人気作と聞いたが、ふざけた題名の割には、やはり真面目なことが書かれているようだな。あの本はまさに、ミサキそのものだ。
シンキの話に納得していると、集まっていた冒険者達にも、うんうんと頷いている者が居る。ほとんどが、魔法使いだ。
話を聞くと、その本は魔法使いにとっては入門書のような役割も果たしているらしく、魔法については特に事細かく書かれており、ミサキが解明した龍言語魔法や、時間魔法、空間魔法についても書かれているという。
だが、それも極めて難解なものらしく、また、ミサキ特有の言葉で書かれているらしい。
丁度、デネブが持っているので読んでみると、皆の気持ちが分かった。
例えば、龍言語魔法については、
「降り注ぐ火の雨……自分が火属性の魔法を極めたって思ったら、やってみるといいよ~! まず、体内の魔力で火球を生み出して、それを出現させた後は、さらにそこに火属性に変換した魔力をどんどん注ぎ込むの! そして、それがいっぱいに、ぱんぱんに膨れ上がったら、小さな穴を開ける感覚で、膨らんできた炎の塊を弾けさせるの! このとき、いっきにやろうとしたら、大爆発を起こすから気をつけてね~!」
と、書かれている。降り注ぐ火の雨……太陽のような、炎の力を宿した球体から、雨のように炎を降らせる魔法だったな……。
なるほど、分からん。何となく、感覚は掴めそうだが、さらっと危険なことが軽く書かれており、さらに言えば、使うための条件も、結構曖昧だ。火属性の魔法を極めたと思った時って何だよ……。
他の龍言語魔法についても、同様に書かれているし、時間魔法については、「ほとんど、願望だね!」と書かれていて、下手をすれば、呼んでいる奴に喧嘩を売りそうな内容だ。
これが、魔法使いや、職人たち、魔道具を作る者達にとっての教科書となっているというのは、何となく不憫な気持ちになってくる。
「まあ、とにかく、このスマホについては、リエン商会内では普通に知られたものだからな。研究機関かどこかから盗まれたものだろうから、そこまで気にする必要は無い。何なら、持っていても大丈夫だろう」
そう言われても、俺は特に使うことも無いし、他の者達も要らないと言ったので、シンキに渡しておいた。もう一つのスマホはイーサンが持っているし、使うとすれば、商人のグレンだけだが、昨日も言っていたように、グレンはリエン商会だけと関わるつもりはない。だから要らないということなので、これで何も問題は無かった。
さて、セバスの収監作業も終わり、村を発つ準備が整った。ここからシンキはいったん、王城に戻り、セバスを正式に城の檻に連れて行く。
俺の方はマルドに行き、向こうでシンキと再合流し、サネマサやイーサンと一緒に、事件の後片付けを行うことになった。
シンキは、セバスが収監された檻と共に、転送魔法の準備を終えると、皆の方に向き直った。
「さて……改めて、冒険者ツルギ以下ムソウ一派の諸君。君たちのおかげで、人界を混乱させる新たな勢力の尾を掴むことが出来そうだ。これまでの活躍に感謝する。
そして、商人グレンと、そこの冒険者達。冒険者ムソウに協力し、この村を救ってくれたこと……人界に住む者達を護ってくれたことに、俺は感謝している。ギルドには話を通しておくから、俺の名前と、ここの村での作業を終えた証書を出せば、追加で報酬を払うことを約束しよう」
人界の宰相としての威厳と貫禄に満ちた言葉に、ツルギ達は恭しく頷き、ジェイド達は、更に追加で報酬が増えるということで、喜びが爆発するのを押さえつつ、全員胸に手を置いて、頭を下げていた。
宰相らしいシンキの姿を見るのは初めてだっただけに、少々驚いてしまう。
「そして、最後に……今回の事件で、諸君らと、そちらの住民達に、この先の未来、今よりも混沌とした時代が来ると言うことを知られることになってしまった。これについては、本当にすまなかったと思っている」
シンキはそう言って、その場で全員に頭を下げる。全てを話したわけでは無いし、村人にも、邪神族については話していないが、転界教という危険な存在が居ることは、既にこの場の全員が知っていることだった。
これから先、今までの平穏な生活を送ることが多少困難になるということをシンキは謝っているようだった。
これについては、今後、シンキは何度、今を生きている人界の人間に頭を下げることになるのだろうかと、俺も少々悩んでくる。ラセツやエンヤ達の決めた約束を守るために秘密を隠していたシンキは、この先、皆の想いを反故にしながら、更にこの世界の人間すべてに頭を下げるのだと思うと、俺も何か協力してやろうと思った。
しかし、シンキの言葉を聞いたジェイド達冒険者や、村人たちは、慌てた様子でシンキの頭を上げさせる。
「や、辞めてください、シンジ様! 貴方方が何を隠していても、今更こちらに王を恨む気などありません!」
「王様や十二星天様は、壊蛇の災害でも儂たちを護ってくださいました!」
「次も何かあっても、大丈夫だと信じております! 皆、この先何が起ころうとも、貴女様方を恨むことなどありません!」
寧ろ宰相に頭を下げさせたことで、自分達が不敬だと感じたのか、更に平伏するその場の者達。
シンキは顔を上げて、皆の頭を上げさせた。
「……そこまでされると、俺も助かる。今後も、この世界、そして、人界王を頼む。俺は皆が幸せになれるように、努力していく」
「「「「「はっ!」」」」」
シンキの言葉に即答する全員。意外と変な心配することも無いんだなと、俺は胸を撫で下ろした。
そして、シンキは村の者達やジェイド達と握手をしながら回ったり、老齢の者達には、これからも元気でと励ましたりもしていた。
アイツの方がずっと年上なんだけどなあと、俺は静かに笑っていた。
ひとしきり、全員とそんなやり取りをした後、シンキの足元に転送魔法の魔法陣が浮かび上がる。
「では、そろそろ俺は王城に戻る。ムソウ、お前もすぐにモンクへ行ってくれ」
「ああ」
「良し……では、皆の衆。これにて失礼する!」
その瞬間、シュンっと音が鳴ってシンキの姿は消えていった。最後まで手を合わせていた村の者達は、シンキと握手をした感動がよみがえったのか、それぞれで喜び合っている。ジェイド達も、臨時報酬について、それぞれ笑い合っていた。
アイツは本当に、人界の宰相だったんだなと、思わず納得しつつ、俺もマルドへ行こうとグレンとツルギ達、そしてジェイド達に向き直った。
「じゃあ、俺もマルドに向かうとする。ツルギ、皆と一緒に、グレンとこの村を任せたからな」
「ああ。オッサンも気を付けて。また一緒に闘えて良かったぜ」
「ダイアン殿やハルキ殿達にもよろしくと伝えておいてくれ」
「ムソウさんが、必死で穴を掘っていた姿は忘れないから……」
フジミの皮肉に、うるせえと返した後は、ジェイド達に顔を向ける。
「お前達にも世話になった。冒険者同士、どこかで会ったら、また、よろしくな」
「おう。俺もお前に会えて良かったと思っている。アンタの正体を知った時は驚いたが、それ以前に、一緒に仕事をした時間の方が長いからな。これからも、こうやって同じ目線で関わってくれると助かる」
「それは当然だ。こちらこそ、頼んだぞ」
「分かってるさ。だが、俺は、オッサンとフジミ姉さんに言われたように、この後、すぐにレイヴァンに行って、報酬を貰ったらすぐに家族の元に帰る。だから、当分は冒険者を辞めるから、復帰したら、また会おう」
「ああ。俺の土産話で盛り上がってろ、リドル」
「俺達はすぐに会えそうだ。クレナに行くからな。その時は、よろしくな」
「ああ。その時は、俺の屋敷に来い。存分に迎えてやるからな」
「言質は取ったぜ、オッサン」
その後も、他の冒険者達と握手を交わしながら、別れを惜しんだ。なんだかんだ言って、ここ最近はずっと同じ仕事をしていたからな。その分、別れるのは辛いが、俺達は冒険者だ。またいつか会えると信じている。
そして、最後に、グレンとサーラ、村の人間達に顔を向けた。
「色々と世話になったな、サーラさん、村長」
「いえいえ……そもそもは、私が言い出したことですから。ですが、ムソウさんに頼んで良かったです」
「村の為に尽力してくださり、ありがとうございました」
「何かあったら、ツルギ達を通じていつでも呼んでくれ。文字通り、飛んでくるからな。そして、グレン。今日まで世話になった。マルドの方が落ち着いたら、そのままクレナに帰るつもりだ。しばらく、また会えないが、仕事の時は呼んでくれよ」
「ああ。その時は、ツバキさんとリンネちゃんも連れて来いよ。血なまぐさいことは辞めて、俺達は楽しく仕事をしよう!」
「ああ!」
俺とグレンはその場で固く握手を交わす。こんなものじゃ、あの時、俺がこの世界に来てから困っていた所を助けてくれた恩は返せていない。今後もずっと、コイツが困っていたら助けるんだと俺は誓った。
「……良し……じゃあな、皆!」
―おにごろし発動―
一通り挨拶が済んだ後、俺は神人化して空へと飛び立つ。初めてこの姿を見た村人たちに再び拝まれたが気にせず、上空へと向かった。
皆からの、また会おうという言葉を背に、マルドへと向かおうとする……というところで、ふと地上を見ると、堀の水源となっている池の辺りで何か動いていた。近づいていくと、それは、地帝龍アティラの首だった。
俺が視線を移すと、頭の中でアティラの声が聞こえてくる。
―ふむ……様子を見ておったが、発つようじゃの―
「出て来れば良かったのに……シンキも居たことだし……」
―人前に姿を見せるわけにはいかんかったのでな……機を見て出ようと思ったんじゃが、残念じゃ―
少しばかり落ち込むアティラ。まあ、確かにあそこで姿を見せていたら、もっと大きな騒動になっていたかも知れないな。やれやれと思い頭を掻いた。
「後でシンキにお前の事も伝えておくから、元気出せ」
そう言うと、機嫌が良くなったアティラの陽気な声が返ってくる。
―うむ! その礼といっては何じゃが、妾もこの辺りに棲もうと思っておる。この池の水が気持ちいのでな……―
「フッ……それは何よりだ」
―うむ。じゃから、この村の事は安心して妾に任せい。昨晩は不在だったため、力を貸すことが出来なかったが、次にあのような者が参っても、妾が何とかしようぞ!―
「そいつは助かる。じゃあ、頼んだぞ、アティラ」
―任せておけ、ムソウ殿―
ここにも、俺に友人が居たか。正直、姿を見るまで存在を忘れていた。そういう思いを隠しつつ、アティラにも手を振って、マルドへと向かって行った。
サネマサが皆の事を纏めているらしいが、ややこしい話にしていないよなと若干、不安になりつつ、少し急ぎ目に空を飛んで行った。
……正直、アティラの存在、忘れてましたwww
ここから、グレン達はしばらくお休みです。お疲れさまでした。




