第339話―事件の後処理について話し合う―
『というわけでして……』
魔道具から聞こえてくるツバキの言葉に、俺達はただただ頷くしかなかった。
ジェイドやツルギ達も、マルドでそんなことがあったのかと、唖然としている。
この村でも色々あったが、ツバキ達の方に比べると、凄く些細な事のように聞こえるから複雑な気持ちになる。
兎にも角にも、攫われたリンネは無事だし、助けに行ったツバキも、どこもけがをしていないという話だから、それは何よりだ。
後で、エンヤにしっかりと感謝しておこう。そして、アイツも無事で良か……って、そんな心配は野暮か。
また、伸び伸びと動けて良かったかも知れないな。
『あの……ムソウ様? まだ、繋がっておりますか?』
おっと、急に黙ってしまったから、向こうに心配かけてしまった。俺は咳ばらいをしながら、再び魔道具に向き合う。
「ああ、すまなかったな。少し、考え事をしていた」
『そうでしたか……色々と話し過ぎましたね……』
「いや、色々とあったみたいだからな。何はともあれ、ツバキ。リンネをありがとう。よくやったな」
『いえ……怖い思いをさせてしまったことには変わりありませんから……』
「そんなことはねえよ。エンヤが暴れる姿を見ずに済んだんだから、そこは良かったと胸を撫で下ろしておけ」
『……そうですね』
魔道具越しに話をしていると、ツバキの今の顔が笑っているのか、未だに落ち込んでいるのかよく分からない。何となく、声が弾んでいる気がするので、恐らく笑っているだろうと勝手に解釈しながら、話を続ける。
「それで、そこに居る男が、今回の黒幕ってことで良いんだな?」
『そうですね。イーさんに聞いた所、間違いないということです』
ふむ。向こうの騒ぎを引き起こした男、マルドでアマンの店を任されていたルーザーという男は確保済みか。
こちらの、ケリスの従者、セバスも確保済みだ。ということは、これより先、今回の件に関しての、何か面倒ごとのようなものは起きないだろう。
「了解した。じゃあ、こっちのセバスって男と共に、そっちのルーザー、競りに参加していた貴族まとめて、シンキに引き取ってもらうようにするが、良いか?」
『こちらはそれで問題ないと思います。ただ……』
「ん? 何かあるか?」
『逃げたアマンの事が気になってしまって……』
ああ、そうか。黒幕と思われていた、アマンの方は逃げたんだっけな。ツバキの話……というか、アマンの周りを調べていたイーサンの報告だと、アマン自体は、転界教に与しているのではなく、寧ろこれから、転界教と繋がろうとしていた者だったな。
それだと、シンキに預けるべきかどうかも悩む。預けて尋問したところで、大した情報は聞き出せない可能性も高い。
ただ、野放しには出来ない。確実に、今回の一件でツバキの事を恨むだろうし、聞けば、ツバキの身の周りについても、把握しているような状態だ。
マルド商会、ターレン商会とも深く根を張り下ろしているようだし、ギランが居たとしても、タクマ達には何かしらの制裁が降りかかるかも知れない。
直ちにどうにかしたいが、俺も簡単にはここを動けない状態だ。
「アマンについては、今すぐ、俺もここを離れてお前らと合流後に、捜索に加わりたいところだが……」
『お気持ちはわかります。ですが、今はムソウ様のお力で封じられているとはいえ、ムソウ様不在時に、セバスが再び眷属としての力に目覚めた場合の事を考えると、シンキ様に身柄を渡すまで、ムソウ様は、そこを動かない方がよろしいかと……?』
流石、ツバキ。俺の考えていることはよく分かっているようだ。
今のところは大人しくしている、というか、俺がさせているセバスも、俺が離れている間に、封印術の効果が切れて、眷属としての力を取り戻す恐れもある。
もっと言えば、セバスが率いていた魔物たちも、まだ残っているかもしれない。眷属としてのセバスは、ジェイド達でも、思わず委縮するほどの力を持っていた。それに加えて、大量の魔物となると、次に同じことがあった場合、この村は駄目かも知れない。
それを考えると、俺がこの村を離れるわけにはいかなかった。
「本音を言えば、すぐにでもリンネの様子を見に行きたいんだがな……」
『リンネちゃんは大丈夫です。私が居ますから』
「……お前の事も心配なんだがな」
『それは……ありがとうございます』
結果的に、約束したのに、一番辛い時に、リンネにも、ツバキにも、そばに居てやることが出来なかったという事実が悔しい。
二人とも、強い存在だと言うことは分かっているが、それでも、不測の事態ということも考えるべきだったと反省した。
しかし、ツバキはそんな俺を責めることも無く、普段通りに接してくれている。ありがたいことだなあと思い、今回は、ツバキに甘えることにした。
「……じゃあ、シンキにセバスの身柄を渡した後、すぐさまマルドに帰るとする。予定では明日の午前中になるが、良いか?」
『はい。問題ありませんが、一応、こちらにも転界教に繋がる人間が居ることをお伝えしてくださると、動きが早くなりますよ』
「そうだな……」
そう言われて、ツルギに視線を送ると、何かを察したように頷く。
そして、伝令魔法の魔道具に額を当てて、ツバキから聞いた話についても、先ほど送った伝令に加えてギルドに伝えるようにした。
「良し。一応、そちらの情報も、シンキに行き渡るようにした。セバスや、ルーザーについての件はもう大丈夫だろう」
『ありがとうございます』
「それで、お前はこれからどうするつもりだ?」
『私は、ギランおじちゃんや、イーさん達と一緒に、身柄を渡す時までこちらの後処理をしておこうと思います』
「あー……いや、お前はもう家に帰っても良いだろう。タクマやメリアも心配だろうし、それにリンネを安心させてやりたいしな。それが済んだら、皆と一緒に作業をすればいい」
『フフッ……そうですね。そうさせていただきます』
リンネもツバキも、コモンと同じく年齢以上に頑張ってしまうところがあるからな。特に今日は疲れただろうし、倒れる前に家に帰ってゆっくりと休んでもらうとしよう。マルドでの動きについては、俺からシンキに説明すれば良いし、なんなら、イーサンやギランを頼れば良い。
騎士団? 知らねえな、そんな奴ら。あいつらについては、腹立たしい内容だったが、ツバキの方が俺よりも怒っている。というか、マルドの住民のほとんどが怒っている。
俺が手を下さなくても、既に終わっているのかも知れない。あまり気にせず、俺からはシンキに少しだけ文句を言うだけに留めておこう。
「というわけで、確認しておきたいことは以上だな?」
『そうですね。私の方も、これ以上は……っと、少々お待ちください』
話を切り上げようとすると、ツバキはそう言って、俺に待機させる。何事だろうかと、待ち構えていると、スマホの向こう側から、若い男の声が聞こえてきた。
『あー、あー……聞こえるか? 俺だ。リエン商会監査の、イーサンだ。えーっと……詐欺に遭っていた冒険者さんで間違いないっすか?』
「……その言い方は辞めてくれ」
ツバキに代わって、イーサンの声が聞こえてくる。イーサンの所為で、俺が詐欺に遭ったということがジェイド達に知れ渡ってしまった。クスクスと笑い声が聞こえてくる。
頭を抱えていると、陽気な声が返ってきた。
『悪い、悪い。つい、な』
「……で、何の用だ?」
『あ、忘れてた……。あー……今回の件なんだが、リエン商会の商人が、オッサン達やツバキさんに迷惑をかけてしまって、申し訳なかったってのを伝えたくて……』
イーサンはどうやら、俺に今回の事を謝罪したいようだ。
「謝る気、あるのか?」
『あー……それは、本当にすまなかったと思っている。俺の対応がもう少し早かったら、もっと、オッサンの周りにも目を配るべきだったと反省している。
逃げたアマンと、他の商人への対応については、俺が全責任を以って、リエンの旦那にも伝える。必ず、商会本隊をこちらに呼びこむ。無論、ツバキさんの店にも、ツバキさんにも手を出させない』
ふむ……イーサンの謝罪は本気のようだな。どうしたものかと悩んでいたアマンや他の関係する商人についても、何とかしてくれるようだ。
「わかった。お前の言い分は受け入れる。リエン商会の尻ぬぐいは、リエン商会で頼む。ただ、一つ条件がある」
『え……』
明らかに動揺するイーサンの声が聞こえてくる。すんなり俺が許してやるとでも思っていたらしい。
……いやまあ、今回の件については、イーサンには逆に感謝しているくらいだから、すんなり許してやるんだがな。ツバキに有益な情報を流してくれたわけだし、事を起こしたのは、リエン商会内部でも、リエンに反目していた奴らだ。
そもそも、リエン商会を恨む気持ちなど全くない。
「そんなに気を負うことは無い。意外と簡単なことだからな」
『え、え~と……それは……?』
「リエンを引っ張って来るんなら、ついでにマルドで俺とリエンの会食の場を設けろ。今回の件について話し合うって名目でな。
実は、前からお前らを率いる男ってのに興味が沸いている。だが、お前らの長は多忙の身なんだろ? 会うのは難しいと思っていたが、仕事の上で俺に会うってんなら、簡単だよな? 今後の為にも、クレナに帰る前に会っておこうと思っているが、頼めるか?」
リエンに会いたいのは本当だ。同じく一団を率いる長同士として、今回の事もあるし、色々と苦労話を聞いてみたいというのが一つ。
それから、ジェシカが俺の力を使って作った薬を世界中に流してくれるそうだから、それについて話し合うことも目的の一つだ。リエンが頼むなら、俺自身が力を使って、安定した薬を作ることも構わない。
兎にも角にも、リエンに会いたい旨を伝えると、スマホの向こうから、イーサンの陽気な声が聞こえてきた。
『了解だ。必ず、旦那とオッサンの食事の席を設ける』
「俺だけじゃなくて、ツバキとリンネ、タクマ、メリアも頼むぞ」
『分かった。他にも呼びたい奴が居ても大丈夫なように、広めなところを押さえるからな』
「上出来だ。俺からの条件はそれくらいだな。この後も、ツバキや皆の事を頼む」
『ああ……っと、そこに行商のグレンって男は居るか?』
そろそろ話も終わりかと思った時、イーサンはグレンが居るかと尋ねて来る。その声に、皆の視線はグレンの一点に止まり、グレンは、困惑した表情で身を強張らせた。
「居る……が、どうかしたか?」
『ちょっと代わってくれ』
何の話だろうかと、俺はそのままグレンにスマホを渡した。グレンは気まずそうな顔をしながら、スマホに向けて口を開く。
「え~っと……冒険者ムソウから代わったっす。行商のグレンっす」
明らかに緊張している。相手はリエン商会の監査だからな。他の商会や商人の事も調べ上げているところを纏めている男だ。
何か目を付けられているのではないかと億劫になっている。いつもよりも言葉数が少なく、腰の低いグレンを見るのは何となく面白いなと、俺達はグレンの様子を少し笑いながら見守っていた。
『そんなにかしこまらないでくれ。俺達はそこまでアンタの事を調べているわけでは無いし、こちらに無害な商人と言うことは分かっている』
「あ……やっぱり調べてはいたんすね……」
『そりゃまあ、冒険者ムソウと繋がっている商人だからな』
「あれ~……俺、結構隠していたつもりなんすけど……?」
『クレナからチャブラへ荷物を運んだ時に、お前、わざわざムソウを護衛につけただろ? 元々、あれはリエン商会の依頼だったこともあるし、そのあたりの情報は筒抜けだ。あまり、うちの情報網は舐めない方が良いぞ?』
「は、はあ……御見それしました……」
やってしまったという顔のグレン。ああ、あの一件で、グレンと俺の関係は、知っている奴は知っているって状況になっていたのか。
グレンは寧ろ、変な奴に脅されても俺の名を出すことで回避できそうだと笑っていたが、それが裏目に出たようだ。
長くため息をつくグレンに、イーサンが返事をする。
『だから、そんなに落ち込まないでくれ。さっきも言ったが、こっちには何の影響も無いからな。最初は、うちの仕事を紹介とはいえ、うちの商人から奪っているように見えたから調べていたが、その商人がアマン側だったから、今では、可哀そうな奴だなとしか思っていない』
「そ、そうっすか……」
あ、若干、ムッとした表情になっている。そもそも誰の所為で自分がそう言う立ち位置になったのだろうかという顔だ。これは仕方ないよな。グレンを騙した奴が悪い。
『今回の件で見つけたうちと転界教との取引の資料。その中に、アンタと繋がっていた商人の名も確認した。一応そいつも処罰の対象とするが、良いか?』
「あ、はい。それは大丈夫っす。こっちも、セバスって野郎の荷物の中から似たようなものも見つけたんで。必要とあれば、そちらに売り渡し……いえ、普通に渡すっすよ」
いつもの癖で、こちらの情報を売る姿勢を見せようとしたグレン。しかし、話している相手が誰なのか思い出したのか、すぐに訂正する。
村の作業でグレンに金を取られた者達は、そのまま押し通せと、ニヤニヤしていた。
そんなグレンの言葉に、スマホからフッと、イーサンの笑う声が聞こえてきた。
『うちに欲しい人材だな。こんな時でも商売とは……』
「い、いえ、普通に渡すっす! ムソウに持たせておくんで、有効に使ってください!」
『……分かった。協力感謝する。そっちのものと、こっちの資料を照合して、一致すれば悪徳商人を一網打尽に出来るからな』
「あの……それで、そちらの商会の規模というか、勢力が衰えることも考えられますが、大丈夫っすか? 噂じゃ、マルド商会も、ターレン商会も、リエンの旦那の事は見限っているって雰囲気っすけど……?」
『それなら心配ないだろう。リエンの旦那がそうしてくれって言っているからな。ちょっと前から、いい意味で人が変わってる』
「そ、そうっすか……」
自分が持っている情報で、商会が崩れないかと心配していたグレンは、何となくホッとした顔になる。街一つならまだしも、世界を動かす人間としては、リエンこそがその役を負うことが出来る人物だとグレンも思っているようだ。
変な奴が頭に就いて、これから商人としての仕事に不備が出ることを恐れていたグレン、世界の経済事情と物流に問題が起きないかと心配していたジェイドなど冒険者達は、胸を撫で下ろす。
『で、本題だが、商人グレン』
安心していたのも束の間、少し声色を落としたイーサンの声が聞こえてきて、グレンはビクッと震えてスマホに向き直る。
「は、はい! 何すか?」
『うちの商人が迷惑をかけたことには変わりないが、その商人を俺達は、これから見限るつもりだ。ということは、お前も今までのように仕事が出来なくなるかも知れない。お前にとっては、大きな損失となる』
「は、はあ……まあ、そうっすね……」
『それで、だ……グレン。お前、リエン商会に入らないか?』
突然の誘いに、冒険者達は沸くが、今までの億劫な態度から一転、グレンは真顔で即答する。
「あ、それはお断りするっす。俺は、どこの商会にも与さず自由にやりたいんで」
『ん? うちに入っても、ある程度の自由は保障するぞ? お前はまだ若輩だが、難しい依頼にも応えているし、モノと人を見る目は良いみたいだし、何より、ムソウと繋がりのある数少ない商人の一人だ。寧ろ、こちらが好待遇を約束してまで欲しいと思っている人材だが……?』
俺との繋がりも判断材料の一つかよ、と頭を掻いていると、グレンは更に続けた。
「はあ……そう言われましても、俺が求めるのは、ある程度の自由ではなく、完全な自由なんで、無理っすね。俺は俺の好きなようにやって、今後もおたくや、その他の商会とも仲良くやって行きたいんで。
それに、今となっては、おたくもムソウと繋がりのある商人達の集まりと言っても良いでしょう? ムソウの方が寧ろ、リエンの旦那と話したいそうなんで、俺だけが懇意になっていると思われても、それは今後の判断材料にはならないっす。俺への利益が薄まるって考えた方が自然っすからね。
依頼の方については、確かに貴族達からの依頼は減る……というか、無くなると思います。でも、今までの貴族の仕事は転界教絡みだったから、寧ろそれで良いっす。これからは、他の商会の友達を頼って、健全な貴族の仕事をやっていくつもりですし、なんなら、ムソウに紹介して貰うってことも俺には出来ますので、仕事が減って収入も減るってことは特に気にしてないっす。
あと、そちらのツバキさんの実家とも付き合っていくと決めているので、今回のごたごたもあり、俺がリエン商会に入るってことは、タクマさん達に迷惑が掛かる可能性も今後出てきます。これから、マルド商会、ターレン商会とドンパチやるってのが分かってるリエン商会に入る気はまったくありませんね」
こういう、自分にとっての利害関係についての話になると、グレンは全てを忘れて饒舌になるんだな。いまいち、何を伝えたのか、俺には理解が追い付かなかった。
ただ、イーサンが言うところの、グレンが懇意にしていたリエン商会の商人も、悪徳だったから、ソイツをリエン商会から追い出すと、グレンの仕事が減るという心配も、十二星天や、領主たちと関りの深い俺が居るから何とかなると言っているらしい。
……俺は一言も、お前に仕事を任せるとは言っていないんだがな。まあ、頼まれたらどうにかしようとは思っているが。
それだけ、信頼してくれているってことかと、その件には納得した。
そして、今回のマルドで起こった事件はある意味、リエン商会が引き起こしたものと考えても良いだろう。マルド商会、ターレン商会も巻き込んで、更にこれから向こうの商人達への損害なども請求すると言っているリエン商会。確実に、リエン商会は、今後マルドで良い目で見られないだろう。
そんなリエン商会の看板を下げたグレンが、タクマの店に出入りするとなると、タクマ達の方が、何かしらの影響を受けるのではないかと危惧するグレンには俺も賛成だ。
だから、グレンはリエン商会への加入を断った。リエン商会としては、減っていく商人の代わりをこれから発掘しなければならない。イーサンはそれでグレンを誘ったようだが、グレンにその気は無いようだな。
グレンの返答に、しばらく無言のイーサン。しかし、ため息とともに、静かな声が聞こえてくる。
『……そうか。アンタみたいな商人は、どうしてもうちに欲しかったんだがな……』
「もちろん、さっきも言ったっすけど、そちらとの関りは続けていくつもりっすよ。こっちも、村に住む冒険者達用に、色々と用意しないといけなくなったんで」
『なら、商会に入った方が面倒なことせずに、リエンの旦那に話を通せるが……?』
引き留めようとするイーサンの言葉に、グレンは挑発気味にニカっと笑った。
「それじゃあ、面白くないでしょう? 自分で何とかしてこそ、やりがいってもんがあるんすよ。
それに、今回の件で、俺も少し反省したっす。今度こそ、信用できる人間を見つけたいんで、おたくの事もきっちり、ゆっくり、自分の目で見極めさせてもらうっす」
ある意味、リエン商会に裏切られたグレン。ただ、リエンや商会自体には特に怒っているわけではなく、寧ろ、不穏な人間が居なくなり、安心して付き合っていくと笑うグレン。
グレンという人材がどうしても欲しい様子だったイーサン。再び、フッと笑って口を開いた。
『……わかった。アンタを誘うのは辞めるよ。これからもうちの事をご贔屓に』
「おう。そちらもうちをご贔屓に~」
そう言って、グレンは俺に魔道具を渡してくる。リエン商会に啖呵切ったグレンは、始まりと比べてやけにすっきりとした顔だった。
そして、向こうも満足したのか、イーサンはツバキに魔道具を渡したらしい。ツバキの声が聞こえてくる。
『どうやら、イーさんの用事は終わったようですね』
「そうだな。俺もこっちの用事をさっさと終わらせて、お前らの飯を食いたい……」
『フフッ、分かりました。明日はご馳走をご用意してお待ちしております』
「リンネも喜ぶだろうな。一日中、ご馳走なんだから」
『そうですね。頑張ります!』
「シンキと合流したら、俺達も港に行く。さっきも言ったように、お前はリンネが目を覚まして元気になるまでは家に居てやれ」
『分かりました。リンネちゃんの事はお任せください』
「ああ。じゃあ、また明日」
『はい。ムソウ様も、お疲れさまでした』
ツバキのその言葉を最後に、魔道具からの声が全く聞こえなくなった。話は終わったということで、この魔道具をどうしたものかと思ったが、これもまた、何かしらの証拠になるかもというグレンの言葉に頷き、明日シンキに渡すまで俺が預かることになった。
ひとまず、これからの動きについては決まった。ジェイド達も明日まで残ってくれるので、俺は安心して、日が昇るまではツルギ達と一緒に村の周りを回ろうかと思ったが、
「アンタはもう寝とけ」
と、明日もバタバタする俺を気遣って、ジェイドがそう言ったものだから、甘えることにした。
いったん、その場を解散して、自分の天幕へと戻ろうとした時、冒険者達の話す声が聞こえてくる。
「さっきの女の人……あの感じだと、おじさんと凄く親しいみたいだったね」
「ああ。オッサンに髪飾りを渡したのも、さっきの奴だろうな」
「声聞く限りじゃ、多分美人だぜ? オッサンが羨ましい……」
そんな言葉に、グレンも反応する。
「実際、美人だったぞ。あと、リンネって妖狐の嬢ちゃんも、可愛らしかった」
「……ホント、良い身分だな、オッサン」
ジトっと俺に向けられる視線。中にはにやけ顔の奴も居る。闘鬼神と本質は一緒かと、やれやれと首を振り、その場から逃げるように天幕へ戻った。




