第334話 ツバキ奮闘編 ―アマンの店に到着する―
ツバキとイーサンの二人は、その後一直線にアマンの店に駆けていった。
その間に、店での動きについて確認しあう。
ツバキの方は、リンネを助けるという目的の為、進むだけだ。阻むものがあれば、容赦なく叩き伏せるつもりだ。
イーサンは、更なるアマンの情報を集めるために、店の中などを物色する。
いわば、斥候のような役割になる。と言っても、イーサンの戦士としての腕は、そこまでではない。せいぜい、駆け出しの冒険者よりも少し上くらいだという自己評価に、ツバキは頷いた。
「分かりました。では、私が先行して、敵を殲滅します。イーサンさんは、その後に、店の中に入ってきてください」
「大丈夫か、それ。おねえさんの力はさっき見たから心配は無いと言えば、無いが……」
「大丈夫ですよ。いざとなれば家の前で見せた方が暴れますから」
「綺麗な顔して、恐ろしいことを言うんだな。やはり、冒険者ムソウの周りはまだまだ謎が多いようだ。だがまあ、その装備なら何とかなるか……」
ツバキの装備一式を鑑定したイーサンは、ツバキ単騎でアマンの店に突入するという作戦に納得した。
「ところで、アマンの更なる情報ということですが、これ以上、何を求めるのでしょうか? もう、充分な気がするのですけど……?」
「まあ、主な取引相手だな。普通の奴は大体判明しているが、貴族とかは、そう簡単に尻尾は出さねえんだ。帳簿とかあれば、万歳ものだな。後、おねえさんには悪いが、騎士団との関係もな」
「この街の騎士団にはとことん愛想が尽きているので、問題ないです」
走りながら街を見回すが、こんな事態になっているというのに、騎士の一人も見当たらない。いよいよ、マルドの騎士団を見放したツバキは、どうなろうとも、知ったことでは無かった。それなら、俺も動きやすいと、イーサンはツバキに頷く。
「他は、まあ……これは俺の勘だが、アマンは他にも何か隠している気がするんだ」
「隠している、ですか?」
「ああ。これは、アンタも知っていることかも知れねえが、マシロの呪いの事件、それに、クレナの動乱……それに、アマンも少なからず関わっているかも知れねえからな」
イーサンの言葉にツバキは、驚いた。何故、今の状況に、自分も関わったそれらの事件が関係するのかと疑問だ。
「どういうことですか?」
「元貴族、ケリス卿の屋敷から押収されたっていう手記に、事件の元になった呪いを発生させたり、強力な魔道具を、冒険者ムソウが懇意にしている行商人、グレンって男が、うちの商人からの依頼で貴族から貴族へと運搬したって話は聞いているか?」
「え、ええ。手記に名前があったと、ムソウ様から聞きました」
「グレンに仕事を紹介した商人な、商会内でも、アマン側の人間なんだよ」
「そうなのですか!?」
ツバキはここから、イーサンにリエン商会内部の事情について聞かされた。
大きな商会を運営しているリエンに対し、貴族や裏の人間とも関り、違法な商売で更なる利益を生み出している、アマンに迎合している一派が、リエン商会内に多数存在しているという。
すでに、商会全体の三割以上がアマン側の人間であり、アマンはその者達と、リエン商会を乗っ取る計画を企てている。マルドの商会を手中に収めた後は、リエン商会へ反旗を翻すというのが、アマンの最終的な目的だという。
そして、グレンに紹介し、転界教に与していると思わしき貴族とつながりがある商人は、アマン側の人間ということで、何らかの形でアマンも、転界教と繋がっているとイーサンは考えている。
「となると、アマンがこのままこの街や、リエン商会を手中に収めれば……」
「世界に仇なす「転界教」って奴らが世界中の物流や経済を変えることが出来るというわけだな。モンクは、その足掛かりになるだろう」
意外なところから、今回の一件と、ムソウや十二星天が動向を伺っている転界教との関りが明らかになり混乱するツバキ。
ひょっとしたら、自分達の情報も、転界教からもたらされたものかもと言う可能性も示唆されたが、イーサンはそれを否定する。
「アマンはおねえさんやリンネって妖狐が、冒険者ムソウの関係者だっていうのは、気づいてないだろう。妖狐が従魔ということは、俺の所にも入ってねえし、おねえさんが関係者ってのも知らないからな。本当に、偶然と偶然が重なっているだけだ」
「はあ……運が良いのか、悪いのか……」
普段、討伐依頼に出れば、資料以上の上位個体が現れるムソウの口癖を口にするツバキ。今の状況でも、面倒なことになりそうなのに、更に面倒で複雑なことになりそうだと頭を抱える。
それと同時に、何となく普段のムソウの気持ちが分かってきて、笑いそうになった。
「ひとまず、イーサンさんの目的は、転界教とアマンの関係について明らかにするということですね、分かりました」
「何か分かったら、もちろんおねえさんを通じて、ムソウの旦那にも伝えるようにはする」
「ありがとうございます。それにしても、商会内の三割を超える商人がアマン側と言うのは、なかなか油断できないですね」
三割ということは、もう少しで過半数だ。いくら、リエン自身が腕利きの商人だろうとも、数の上では劣勢。更に、マルド掌握も考えると、リエンの立場も危ういものと考えたツバキは、リエンに付き従っている様子のイーサンに同情した。
イーサンも、うんうんと頷きながら、口を開く。
「分かってくれて嬉しいよ。だが、リエンの旦那は、「それっぽっちっしか居ないなら、まだ大丈夫だ」って笑うだけでな。何で、あそこまで能天気なのだろうか……」
「そ、そうなんですね。そう言えば、リエンさんは昔、多く居た仲間達を失って一人になった所から大逆転したと聞いたのですが、それは事実ですか?」
「ああ、旦那の伝説第一章だな……さあ? 俺は若いから知らねえが、当時からの諸先輩方とリエンの旦那は事実だって言って、あの頃は大変だったなって、時々強壮トカゲ酒のつまみにしているのを見たことがある」
「ああ……ですから、三割という大人数が反旗を企てていても余裕なのでは?」
「多分、そうだろうな……むしろあの人の場合、自由になれたとか言って、残った商人で小さい商会をやりながら、自分も昔みたいに店をやりそうだ」
普段は忙しくて、自分のやりたいことをやれない状態のリエン。趣味兼、自分が商人を志したきっかけとなった工芸品作りも、もう何年か出来ていなかったという。
ただ、最近は方針を少し変えて、リエンが気に入らないことをする者には容赦なくなり、レイヴァンで、リエン商会の倉庫を借りて、悪徳な商売をしていた者の数もぐっと減ったという。
リエンの勢力が小さくなったのは事実だが、それでも、面倒ごとが減ったと笑いながら、時間を見つけては手芸にいそしむリエンの姿を見るようになったらしい。
「こっちが、忙しい中よくやるぜ……」
「大変そうですね……」
「そのくせ、仕事は完璧以上だ。自分の仕事はもちろん、俺達監査の報告も全て聞いたうえで、的確な指示を出してくる……何も言えねえ……」
「それは、大変……でも無いですね。恵まれているではありませんか」
話を聞けば、そこまでイーサンが酷い状態ではないことに気付くツバキ。部下に仕事を押し付けるような人間だとしたら、多少はリエンに対して嫌悪感を抱くところだが、むしろその逆だったので、少々驚き、思わずイーサンに突っ込みを入れる。
イーサンは、小さく頷きながら、苦笑いしていた。
「まあ、そうだな。例え、アマンが商会を乗っ取っても、俺はあの人についていくぜ。借金に追われていた俺を助けてくれた恩もあるしな。
まあ、乗っ取りって状況は作らねえけど」
アマンの目的を阻止することにやる気を見せるイーサン。全てが終ったら、ムソウとリンネを伴い、必ず感謝に伺い、リエンを含めて、茶でも楽しみたいと思うツバキだった。
「では、お互いの利益の為に、急ぎますか」
「お、商人の娘らしい言葉だな。さっさと行くとしよう!」
多少脱線したが、取りあえず作戦は決まった二人は、なおも町の中を駆けていく。
そして、見えてきたのはアマンの店。付近の店は営業していないように真っ暗だが、アマンの店は灯が点いて……
「イーサンさん、オークションの会場はここですよね? 何故、明かりが消えているのですか?」
他の店と同じく、暗闇に包まれているアマンの店の前で、ツバキが尋ねる。普段は賑わっているこの通りも、多くの店が営業していないこともあり、人の数は殆ど無い。とてもじゃないが、オークションで盛り上がっているとは思えなかった。
冒険者の男に騙されたかと思ったが、イーサンは笑っていた。
「客層が貴族だからな。目立たねえように地下でやっているんだろう」
「地下道の他に、そんな場所が……」
「行きは港から直接、誰にも見られずに行くことが出来る。競りをやったら、そのまま商品と共に港へ直行し、船で帰路に帰るか、港の倉庫内の宿にて一泊。誰にも見られねえだろ?」
言われてみれば、素性を知られたくない貴族たちが居るのだから、こんな目立つ場所で、違法なオークションなどするわけないとツバキは納得するが、それだと、店に入った後に、地下への入り口も見つけなければならない。余計な仕事が増えたと、頭を掻いた。
「では、先ほど決めたように、店には私が最初に入りますので、中の敵を殲滅しましたら、合図を出しますので入ってきてください」
「おう……って、真っ暗だぜ? 誰も居なくて、護衛の冒険者も会場に居るんじゃ……」
イーサンは、店の建物には誰も残っていないと思い、施錠してある戸に手をかけたが、ツバキはそれを制した。
「いいえ……少し、お待ちください」
ツバキは、そのまま、腰を落とし、居合抜きの態勢に入る。鍵を斬る気かと思ったイーサンは、一歩後ろに下がった。
するとツバキは、ゆっくりと口を開く。
「戸の前、それから、すぐそばに居る方……三つの合図の間に動かかなければそのまま斬ります……一……二……」
何を言っているんだというイーサンの耳に、店の中からドタドタという音が聞こえてきた。
「な、何だ!? 何が起きているんだ!?」
狼狽するイーサンの前で、ツバキはグッと柄に握る手に力を込めた。
「三……ハアアアッッッ!!!」
ツバキは刀を抜き、下から上に一閃、返す刀で上から下に更に一閃、そして、横にもう一閃、店の壁を斬りつける。
すると大きな音と共に壁は三角形に切り抜かれ、瓦礫が落ちてきた。
「うわっ! 本当に斬りやがった!」
「かち込みかあ!? 舐めた真似を!」
「ていうか、私達が隠れていること気付いていたよね!? 何で~~~!?」
それと同時に聞こえてくる、大勢の男女の声。普段は売り場と酒場が併設されている店の一階部分に、多くの冒険者の姿があった。
誰も居ないと思って、あのまま戸を開けていたら、大変なことになっていたと、イーサンは、肝を冷やしていた。
「よくわかったなあ、おねえさん。俺の時もそうだったが、隠れてる奴らを見つける魔法でも使えるのか?」
「いいえ。これは、ムソウ様から得た、特殊能力です」
「俺も欲しいな、そんな能力……」
最初から、店全体の気配を探り、敵の位置と数には気づいていたツバキ。一階部分に居る者達の他に、二階、三階にも何人かの敵の気配があった。
そして、地下にも大勢の人間の気配がしている。
しかし、リンネの気配は感じられなかった。というか、大勢の気配に隠されているという感覚だ。直接行って、その姿を確認するまでは、安心できないと思ったツバキは、店の中に足を踏み入れる。
その瞬間、この場を仕切っているのか、ツバキの正面に居た冒険者が、剣を抜き、ツバキに向けてくる。
「止まれ。何の用事か知らねえが、アンタが俺達の依頼主を襲うってんなら、こっちも容赦しないが、構わねえか?」
「私を襲おうとした方が今更何を?」
「俺達は、依頼主から、ここに危険な女が来るから、そいつらか護ってくれとしか言われていない。だから、アンタが入って来た瞬間に、攻撃しようとしただけなんだが、どうもアンタは騎士のようだな。この街の騎士には見えねえが、どこの騎士だろうが、俺としても、騎士団と事を争う気にはなれない。ここで、アンタが退いてくれれば、俺達も安心して、酒を飲めるってもんなんだが……?」
建物を壊し、直接的な被害を及ぼした、明らかな敵が来たというのに、ずいぶんと冷静な男が居たものだと感心したが、ツバキは男の提案を断った。
「私からすると、貴方方がそこをどいて下さると助かるのですが? お酒でしたら、お家で飲むことをお勧めします」
「はあ……腕が立ちそうな騎士が相手なんて、どういう依頼なんだよ……報酬は割増しで請求してやる……」
頭を掻きながら、剣を構え、臨戦態勢に入る男の冒険者。それを合図に、他の冒険者もそれぞれ武器を構えた。
「悪いな、姉ちゃん。俺達は、やっぱりここで酒を飲むことにした。ただ、アンタの事情を聞きながらゆっくりとってわけにはいかねえ。そっちの事情を知る前に、片を付けさせてもらうぜッ!」
男は剣を振りかぶり、ツバキに突進してくる。他の冒険者も武器を振り上げながら、ツバキに一斉に向かってきた。
魔法を使う者達は魔力を込めて、こちらに撃ち出そうとしてくる。
ツバキは、ため息をつき、両手を前に出して、冒険者達の前に障壁を出現させた。
「ガフッ!?」
「うおっ!?」
「うわあっ!?」
「キャッ!?」
それと同時に、頭を打たれたように、手を当てながらよろめく者、何かに躓いたかのように、派手に転ぶもの、腹を抑えながら、そのまま地面に叩きつけられる者など、ツバキの思い通りになる者達が続出した。
何が起きたのか分からないままでいる、冒険者達を尻目に、今度はツバキの方からその場から飛び出し、後方で控えていた魔法使いたちと、一気に距離を詰める。
「ひぃ!?」
「すみませんが、眠っていてくださいね」
怯える魔法使いの女の腹に、斬鬼の柄を当てて気絶させた後、近くの目についた冒険者達から、斬鬼の峰を当てて気絶させていく。
斬鬼での峰打ちは初めてだが、出来るものなんだなと感心しつつ、徐々に数を減らしていく。
最初にツバキに転がされた者達も起き上がり、背後から一斉にツバキを抑えることにした。
こちらに意識が向いていない分、先ほどの変な技は使われないと、最初の男を始めとした全員が、剣や斧、槍などを手にして、ツバキに襲い掛かる。
「調子に乗るな――」
「ハアッ!」
その瞬間、ツバキは自分と冒険者達の間に大きな障壁を出現させ、それを思いっきり冒険者達にぶつける。
「グハッ!」
「ギャッ!」
障壁に阻まれ、吹っ飛ばされた冒険者達は、更に背後に出現させ、挟み込むように動かしていた障壁にぶつかり、体を強く打たれ、そのまま気絶する者達も居た。
ツバキはスキルを解き、未だ、意識を失っていない冒険者達に斬鬼を打ち付けて気絶させていく。
上の階に居た冒険者達も加勢に来たが、慌てることなくツバキは対応し、あっという間に店の中に居た冒険者達を制圧した。
未だ、息のある先ほどの冒険者に近寄り、ツバキは斬鬼を振りかぶる。
「命までは奪いません。貴方方も依頼に忠実にされていただけですから、それは分かっております。ですが、私も私の目的の為に、もう、迷いません」
「はあ、はあ、はあ……チッ……やっぱ酒は、別の所で呑むんだった……やはり安酒は良くねえのかも知れないな……俺が呑む酒は、もっと上の――」
「あの……先ほどから、何か上手なことを言っているつもりでしょうが、まったく響きません」
「え……ゴフッ!」
キョトンとする男の腹に斬鬼を打ち付けて、気絶させたツバキ。店内の気配を探り、もう敵が居ないことを確認したツバキは、斬鬼を鞘に収める。
「イーサンさん。もう、入ってきても大丈夫ですよ」
「お、おう……」
安全を確保したツバキは、イーサンを店の中に迎え入れる。イーサンは、気絶している冒険者達を眺めながら、ツバキに目を向ける。
「すげえな、おねえさん。鑑定で視た時にもしやと思ったが、あれが、アンタのEXスキルか……?」
「ええ。あまり広めるなとムソウ様から言われていますが、私自身は別に広めてもよろしいと思っております」
「これは、結構な情報になりそうだから、リエンの旦那に伺いを立てることにする。それにしても……」
イーサンは、冒険者達の姿をじっくりと観察した。何をしているのだろうかと首を傾げるツバキの前で、一つ納得したような顔のイーサンが口を開く。
「おねえさんが騎士だと分かっていても、襲ってくるとはな。依頼に忠実な冒険者と言うのは嬉しい存在だが、これは何とも……」
要するに、ここに居る冒険者は、悪事に手を染めているということだ。無論、それをさせるために、何らかの弱みをアマンが握っていると考えるイーサン。よく見ると、冒険者の装備は貧相だ。ここに居るのは、借金でもした冒険者だろうとツバキに言うと、ツバキもじっくりと考え込んだ後、イーサンに確認を取った。
「では、ここより先の冒険者は、ここの冒険者よりも腕が立つと考えた方が良いのでしょうか?」
「だろうな。何せ、足止めもしくは、おねえさんを捕まえる目的で集められただけだからな。貴族やここの商人を直接護るとなったら、腕利きだろう」
ならば、ここからは更に気を引き締めようと気合を入れるツバキ。最悪、相手を傷つけることにもなるかも知れないが、違法なオークションを開き、そこに参加する者達を、違法だと知っていて護る冒険者に関しては、どうなろうとも仕方がないとケリスの一件で身に染みているので、吹っ切ることにした。
「地下からの気配は、結構多いですね。流石に、どれが客で、どれが護衛なのか、そして、商人なのか、わかりませんね」
「たいてい、警護対象一人に対して、冒険者は三人以上居ると考えると……客の名簿があれば、向こうの戦力も分かるな」
「時間がありませんので、私は先に行こうと思います。すでに私達がここに来ているということを知り、逃げていることも考えられますし……」
「そうか、分かった。そう言うことなら、地下への入り口を開けないとな」
そう言って、イーサンは酒場の裏から仕込み場へと足を踏み入れる。
「ご存じなのですか?」
「そりゃ、俺はここを知り尽くしているからな。港から商品への搬入をやっているところを何度も調べている……っと、ここだな」
ツバキと話しながら、イーサンは、仕込み場の壁に設置された仕掛けを動かす。すると、ツバキの目の前の壁が、音を立てて動き出し、そこから下へと続く階段が現れた。
「お金、かけてますね」
「そうだな。普通に扉にすれば良いものを、こうやって隠すから疑われるのにな」
イーサンの言葉に、案外アマンやルーザーという男も、そこまで賢くないと感じたツバキ。イーサンから貰ったこの先の見取り図を開き、灯りを点ける魔道具を照らしながら、通路に入っていった。
「では、先に行ってきます。もしもハンナちゃん……家の前に居た冒険者の女の子と、ギランおじちゃんが来たら、気絶している冒険者に縄をかけた上で、ここに来るように伝えてください」
「分かった。俺も調べものが済んだら、おねえさんに追いつくからな」
ツバキの頼みを快く引き受けるイーサン。そんなイーサンの様子に、ツバキはクスっと微笑む。
「あの……「おねえさん」ではなく、名前で呼んでくれませんか? そこまで下手に出られると困ります」
ツバキの言葉に、目を見開くイーサン。だが、すぐにニカっと笑って、自分を指しながら口を開いた。
「じゃあ、おねえさんも、俺の事は「イーさん」と呼んでくれ。さっきから、さんさんさんさんうるさいからな」
「フフッ、わかりました、イーさん。では、行ってきます」
「さっきも言ったが、気を付けてな、ツバキさん」
手を振るイーサンに頷き、ツバキは階段を下りていく。
素であれならモテるんだろうなあと思いながら頭を掻くイーサンだったが、邪念を捨てて自らの目的遂行の為、その場を後にした。




