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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
ツバキが里帰りする
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第331話 ツバキ奮闘編 ―リンネを助けに行く―

 ツバキは、固唾を飲んで見守る皆の前に台を置き、その上に街の地図を広げた。


「えー、コホン。では、これからの動きについて説明します……ですが、その前に、リンネちゃんと私の関係について、正直にお話しします」


 リンネ救出の前に、ツバキは皆に隠していた、リンネの正体や、ムソウの事を話していく。

 冒険者ザンキと名乗っていた男は、クレナの騒動を止めた冒険者ムソウであること、リンネは、実は人間の子供ではなく、妖狐という魔物、正確には神獣の子供であることを包み隠さず話していく。

 正体を隠していたのは、あまり目立たないようにするため。ムソウ本人が、煩わしい思いをすることなく、旅を続けて、冒険者としての依頼をこなすことが一つ。

 もう一つは、妖狐という珍しい神獣であるリンネが、魔物商に目を付けられないためであった。このことについては、経緯は分からないが、今回の一件で周知の事実となったため、皆の動揺を抑えるために、ムソウの正体についても、敢えて包み隠さずツバキは説明していく。


「リンネちゃんが……魔物……」


 説明を聞いていたシオリ達は、リンネの正体が元から人間では無かったことについて、衝撃を隠せないようだった。

 大人たちの中にも数人、リンネが魔物ということが確定した今、更に動揺する者まで出てきた。

 ツバキは、ゆっくりとシオリ達に近づき、ジッと目を見つめながら口を開く。


「リンネちゃんの正体について、内緒にしていたのは、本当に申し訳ありませんでした。しかし、リンネちゃん本人は、シオリちゃん達と遊ぶことについて、いつも、凄く嬉しそうに語っておりました。リンネちゃんは、間違いなく、貴方達の事も大好きです」


 ツバキの言葉を聞いたシオリ達は、ハッとした様子で目を見開く。魔物だとしても、自分達と種族が違っても、一緒に仲良く遊んだことには変わらない。

 いつも、大人たちから聞いていた「邪悪な魔物」、「怖い存在」という感覚は、リンネからは伝わらず、いつも楽しく、今日だって途中までは、本当の妹のように自分達に接してくれていたことを思い出す。

 そして、最後は自分達の事を護ってくれた。再び、最後に見たリンネの姿が思い浮かび、目から涙が溢れてくる。


「わたし……リンネちゃんを……護れなかった……」


 徐々に自責の念が蘇ってきて、後悔の言葉を口にするシオリ、ショウゴ、アルス。そんな、三人の頭をツバキが優しく撫でた。


「いいえ。貴方方は、リンネちゃんをしっかりと護ってくださいました。怖がるリンネちゃんの手を引いてくれたと先ほど聞きました。そして、私達がクレナのムソウ様の家に帰ったとしても、また、マルドに帰った際には、遊んでくださると約束してくださいました。それだけで、私達は嬉しいです。

 ……リンネちゃんのために、頑張ってくださり、ありがとうございます」


 笑みを浮かべながら頭を下げるツバキ。シオリ達は泣きながら、ツバキの袖を掴む。


「お願い……リンネちゃんを……助けて……」

「また一緒に……遊びたい……」


 子供達の頼みに、ツバキは強く頷き、胸に拳を当てる騎士のあいさつで応えた。


「お任せください。その任、騎士団マシロ師団師団員、ツバキが承りました。必ずや、ご期待に応えましょう!」


 ツバキの言葉に、子供たちは涙を拭い、コクっと頷いた。

 ひとまず子供達については落ち着いた、また一つ、リンネを連れ戻さないといけない理由が出来たなと、思っていると、今度は大人達から声が上がる。


「で、でも、ツバキちゃん。リンネちゃんは、いくら優しい子といっても魔物、なんだよな? その……今回の事で、人間の事を嫌いになったりしないか?」


 先ほどから、リンネが魔物だったことに対して、困惑していた男からだった。

 せっかく、子供達への誤解が解けたのに、水を差して……と、思ったツバキ。

 しかし、ここで憤ると話がややこしくなりそうなので、ツバキはいつもの調子でニコッと笑い、男達の方に振り向いた。


「え~と、少し訂正なのですが、リンネちゃんは、「魔獣」ではなく、人間には敵対しない「神獣」です。これは、十二星天“獣皇”レオパルド様のお墨付きです」


 その言葉に、周囲の者達、特に苦言を呈してきた男は目を見開く。


「れ、レオパルド様!? 何で!?」

「先ほど申し上げました通り、ムソウ様はクレナの問題を解決されました。その縁もあり、一時、レオ様、ジェシカ様、サネマサ様の三名が、ムソウ様の屋敷に出入りされていました。その際に、リンネちゃんと接するうちに、リンネちゃんは神獣、人畜無害な生き物だと言ってくださいました。

 それに、リンネちゃんが、そう簡単に私達の事を嫌いにならないことは、ここ数日、あの子と接してきた皆さんなら分かってくださると思います」


 人界の頂点に立つ魔物の専門家、レオパルドからの言葉と、ムソウ達が滞在している間に、タクマの店に買い物に来ていた者達は、その間に見たリンネの様子を思い出していく。

 話を聞いた男は、じっくりと考え込んだ後、ポツリと口を開いた。


「……そう……だな。そうだよな……あの子が、優しい子ってことは、俺達もよく知ってるもんな……」

「おじちゃんが、昔魔物に襲われたことは、私も知っています。その際に、父親と母親を亡くされたことも存じております。ですが、リンネちゃんとその魔物は別です。

 ……信じてくださいませんか?」


 幼い頃からの付き合いであるツバキに、困ったような顔をされ、更に頭を下げられた。その行動に男は多少慌てつつ、ニカっと笑った。


「や、やめてくれよ、ツバキちゃん! あの魔物とリンネちゃんが違うってのは分かってる! さっきはすまなかった! もう迷わない。リンネちゃんは、俺達が助けてやる!」


 男の言葉に、周囲の者達も意を決したように頷いていく。

 魔物であろうとも、リンネの事は昔のツバキと同じくらい、既に皆の間にも伝わっている。

 ツバキと同じく、いつも笑顔で、天真爛漫で、元気いっぱいで、どこか危なっかしいような、どこにでも居そうな普通の女の子。

 それに加え、身内の子供を助けてくれた、優しさと勇気を持った子供。

 そんな子が攫われたというのなら、助けるのは当然と、混乱していた周囲の者達は、「リンネを救う」という、ただ一つの目的の為に奮起する。


「皆さん、ありがとうございます!」

「俺は、元々ツバキちゃんの味方だからなあ~!」

「ギランおじちゃん、それ、何の自慢? 私だって、最初から全部、ツバキちゃんの味方なんだからね」


 皆の様子に、やれやれと肩をすくめるギランとハンナ。リノやレオン達、ツバキと共に行動していた親たちは、元気になった子供を見て、改めてツバキに頭を下げて、最後まで一緒にリンネを助けるまでツバキに協力する気持ちを新たにする。

 タクマとメリアは、皆の中心に立つツバキを、誇らしく……思う前に、少しだけ、寂しい気持ちで見ていた。


「子供って……凄いね、タクマ」

「ああ……まあ、僕たちの子供だからね」

「さっきの人も言っていたわね、ツバキは凄いって」

「うん。本当に、うちの子は凄いよ。でも、何だか笑っちゃうかな」

「何が?」


 皆と握手をしながら、リンネを見つけ出し、救い出そうと頭を下げるツバキを見ながら、リンネはクスっと笑った。


「僕達と皆を散々困らせたツバキが、今は、ああやって皆を纏めているんだよ? 今のツバキ、あの時の僕たちそっくりだ……」


 ツバキが行方不明になった時、子供の遊びなんだからと、事態を軽く見ていてなかなか動かなかった友人達を理路整然とした口調で説得したタクマと、それでも動かない人達を説得して! とギランに詰め寄ったメリア。

 あの頃の自分達を見るようだと、笑うタクマに、メリアもクスっと微笑み、頷いた。


「そうね。流石、私達の子供ね」


 リンネを助けることに関して、自分達が出来ることは何も無い。だが、ツバキは今も頑張っている。ここは静かに見守っておこうと思い、二人は静かに、ツバキ達を眺めていた。


 ◇◇◇


 その後、ツバキは改めて皆を集めて、今までの事から導き出された、自らの考えを話していく。


「事の発端は、この路地でシオリちゃん達が人攫いに襲われ、結果として、シオリちゃん達は無事でしたが、リンネちゃんは攫われ、マナちゃんや、他の子供達は行方不明……あ、マナちゃんの父親を名乗っていた魔法使いの男も行方不明でしたね」

「ツバキちゃん、その言い方だと、マナって子のお父さんが、お父さんじゃないみたいな言い方じゃない?」


 ツバキの物言いに、違和感を抱いたハンナがそう尋ねると、ツバキはそれに答えた。


「だって、マナちゃん含めて、シオリちゃん達とリンネちゃん以外のお子さんや、そのご家族は、今の所、素性不明でしょ? さっきの様子だと、マルド商会の資料も当てにならないとなると……ですよね? ギランおじちゃん」


 マルド商会の資料を持っているギランは、ツバキに顔を向けられ、少し気まずそうに頷く。


「あ、ああ、そうだな……」

「これについては、ギランおじちゃんの所為では無いです。そもそも資料の内容が違うのですから。誰か悪いとすれば、嘘をついて登録していたその商人達と、詳しく調べなかったマルド商会の方々です。ギランおじちゃんは何も気にしないでください。寧ろ、今、この事実が判明しただけで、かなりの進捗です」


 本来なら、そう簡単に持ち出せない、商会内の商人の情報が載った資料を持ち出したギラン。貴重な情報を、ありがとうございますと、頭を下げると、ギランは顔を真っ赤にしていた。

 結局役に立たなかった資料を持ってきて、リンネを見つけ出すことが出来なかったため、ギランを糾弾していた者達も、さっきはすまなかったと、ギランやレオン達に頭を下げていた。


「ギランおじちゃんのおかげで、取りあえず、どこの誰だか分らなかった子供達や、その家族についても、素性が不明で怪しい方々ということが分かりました。

 昨日や今朝、マナちゃんと実際に会って、直接会話をした私ですら、気が付かなったのに……。流石ギランおじちゃんですね」

「よ、よせやい! それ以上褒められると、恥ずかしくて敵わねえや」

「そういうところは、リュウガン君と同じですね。さて、と言うわけで、私は、マナちゃんも、他の子供達も含めて、今日遊びに出ていたリンネちゃんとシオリちゃん、ショウゴ君、アルス君の四人以外の人間を怪しいと思っています」


 ツバキの考えに、周囲の者達は、取り留めないも無いことを……と、思うところだったが、状況が状況なので、ツバキの言葉には説得力があると感じていた。

 そもそも、何も無かったのに、路地裏の先に見せ小屋があると言って、シオリ達をそそのかしたマナ、そんな娘を叱ったり注意することなく、子供たちを安易に路地裏に入れたその父親、二人に迎合し、いつの間にか姿を消して何を逃れた他の子供達は寧ろ怪しい部類の人間だ。

 考えを改めて、疑惑の見方をすると、どんどん怪しくなってくるマナ達。

 この者達は徹底的に調べ上げると判断したツバキは、ギラン達の方に顔を向ける。


「まず、ギランおじちゃんは、出来るだけ腕が立つ方達を率いてマルド商会、その後に、ターレン商会に出向いてください。そして、行方知れずの子供達、その家族のことを徹底的に調べ上げて、所在を突き止めるようにしてください。そこからリンネちゃんを攫った者達をあぶり出そうと思います」

「商会に行くのは構わんが、腕の立つ奴らをってのは?」

「向こうは財力が上ということを盾に、こちらの要請に応えない可能性もあります。ならば、こちらは武力を、と言うことで、向こうに圧力をかけることにしましょう」


 要は、力づくで話を聞き出せということだ。久しぶりにツバキが怖いことを言っていると、一同感じたが、ギランやレオンと言った、腕っぷしに自信がある者達は、腹を抱えて笑っていた。


「そいつは、豪気なことだな! 博徒にもなかなかそんな奴いねえぞ!」

「だが、悪くねえな! 事を起こすのは本意じゃねえが、それは向こうも同じだ。コイツは、楽しくなりそうだな」


 指を鳴らしながらやる気を見せるレオン達、マルドの男衆。それぞれの妻達は、頭を抱えるが、シオリ達は目を輝かせていた。


「父さん、カッコいい!」

「私も、行きた~い!」

「おう! 一緒に行って、朝まで夜更かしだ!」


 レオンはシオリを肩車しながら、両手を上げて雄たけびを上げる。その声に、他の男達も同調し、雄たけびを上げた。


「ちょ、ちょっと、何言ってるの!? 危ないでしょ!?」


 シオリ、ショウゴ、アルス、それぞれの母親は、馬鹿なことをするなと、夫と子供を止めようとするが、それをツバキが止めた。


「いえ、このままで大丈夫です」

「な、何を言っているの!?」

「子供が居れば、向こうも手を出すということは無いでしょう。一応、マルド商会もターレン商会も、商会の長は健全な方なので、大ごとにはしないはずです。何なら、リノさん達も一緒に行ってください。皆さんで行った方が楽しいですよ?」


 ツバキの考えでは、今回の一件に、マルド商会もターレン商会も上層部は関わっていない。関わっているとすれば、身分を偽って商会に入った商人達か、その者達を商会内に手引きした者達。狙いは、商会内に居るとみられるそういった者達だ。

 ギランやレオン達と言う、力での圧力に加え、女子供という、向こうが手を出しづらくなるという抑止力を持てば、健全な商売を、マルドでやっていきたいと思っているそれぞれの長は、案外すんなり、情報を提供するのではないか、とのこと。

 ツバキの説明を聞いたリノ達は、お互いに顔を見合わせて、笑みを浮かべた。


「まあ、それは確かに、楽しそうだね……」

「凄いね、ツバキちゃん。よくもまあ、そんな大それたことを」

「私達が危なくなったらどうするか、ちゃんと考えてる?」

「その時は、レオンさん達が皆さんを全力で護るはずです。奥様を泣かせる夫は、最低だと思いますから……」

「フフッ、相変わらず、良い子……いえ、良い女になったわね、ツバキちゃん!」

「わかった。ツバキちゃんの言う通りにするわ!」

「必ず、リンネちゃんを、息子たちに会わせてやるからね!」


 女達もレオン達についていくことを決めて、隣で一緒に、「おー!」と、叫んでいた。レオン達は少々驚くも、自らの妻達にニコッと笑みを向けられ、照れたように一緒に雄たけびを上げていた。

 取りあえず、商会に行く部隊を率いるのはギラン。一応、商会に目を付けられたくない者達以外で編成されている。ギランについては、向こうもこちらも持ちつ持たれつ。これまでの関係が壊れることは無いと、ツバキの申し出を快く引き受けた。

 商会への対応は、これで良し、ということで、ツバキは残った者達に顔を向けた。


「さて、皆さんはハンナちゃんと一緒に、事件が発生した路地裏以外の路地裏をしらみつぶしに調べてください。危ないとは思いますが、これだけの人数と、冒険者であるハンナちゃんが居れば、むしろ安全だと思いますので」

「なるほど……他の場所から、リンネちゃんを攫った奴らを探すってわけね。魔物商や人攫い同士、繋がっているかも知れないし……」


 ハンナの言葉に、ツバキは頷いた。マルドにあるという魔物商や奴隷商は数多い。どこに、リンネが囚われているかは分からない。

 しかし、魔物商や奴隷商を纏め上げるのは一つであり、大元で繋がっている。しらみつぶしに、人攫いや店を調べて行けば、どこかでリンネの居場所が判明すると考えられた。

 ハンナを含め、ギラン達を抜いたとしても集まった大人の数は、五十人強。それも、マルドの道を知り尽くした者達だ。襲われても逃げることは出来るし、逃げられても捕らえることが出来るということで、大人たちはツバキの作戦に頷いた。


「もちろん、ギランおじちゃん達も、商会での用事が済みましたら、ハンナちゃん達と合流して、この街、全ての奴隷商、魔物商を調べてください」

「ああ、分かったぜ、ツバキちゃん。ついでに、商会の人間も引っ張って、違法な商売している奴らを一網打尽に出来るかもな」

「それについては、後で商会も含めた会合で決めましょう。今の最優先はリンネちゃんです」

「分かってる。しかし、ツバキちゃんはどうするんだ?」

「私は……一人でここと、ここに行ってみます」


 ツバキがギラン達に示したのは、リンネが攫われた現場だ。何か、人攫い達の痕跡が残されているかも知れない。一応、それを確かめるつもりである。

 そして、もう一つ、ツバキが示した場所を見て、ハンナは目を見開く。


「ここって……リエン商会の、アマン商店?」

「うん。魔物商、奴隷商、人攫いと言えば……で考えると、当然ここになるでしょ? ここには私一人で行く。何も無かったらハンナちゃん達と合流するから。そして、何かあったら、私が対処する……」


 その言葉に、即座に反応したハンナ。台を叩きながら、ツバキに詰め寄る。


「一人!? 駄目よ、ツバキちゃん! もしも、アマンが主犯だとしたら、あそこにいる冒険者達とも相手をしないといけないってことよ!? あの冒険者達、アマンの護衛でここに居るんだから!」

「あら? アマンさんは、今は王都に居るんじゃないの?」


 数日前にグレンから聞いた話では、普段、アマンは店を部下に任せて、度々マルドを離れることが多い。

 確かに最近、大通りに面したアマンの店に冒険者が多い気はしていたが、まさか、街に戻っているのかと首を傾げた。

 すると、ハンナやギラン達は、それは違うと、首を横に振った。


「アマン、確かに一週間くらい前まではこの街に居なかったけど、今は居ると思うよ。一昨日まで、港から何かを運んでいたから」

「ああ。んで、アマンと関係を持っている奴らも、今日一日はアマンの店の何かを手伝って居たな。だから、今日はここの店も繁盛したんじゃねえか?」


 ああ、なるほどと、ツバキは納得する。大通りの店が、今日は休みだったということは知っていたが、それが理由かと知ることになった。

 にしても、何を運んでいたのか、何を大掛かりなことをしていたのかと、この状況になると、普段は気にならないようなことでも、徐々に気になってきて、ツバキは二人に顔を向けた。


「尚更、ここは調べた方が良いかも知れないね」

「じゃ、じゃあさ! せめて、私も一緒に!」

「ううん。ハンナちゃんは、皆の事をお願い」

「だからそれだと危険だよ!」


 一人で危険なことはするなと、ハンナはツバキを説得するが、怪しい所で何かを調べたり、敵の懐に乗り込むのなら、むしろ一人の方が都合が良いとツバキは考えていた。

 それに、ハンナがツバキを心配するように、ツバキもハンナに危険なことをさせたくない。だからこそ、大人数で行動するようにと頼んでいた。

 自分の事を心配してくれるのは嬉しいことだが、これでは話が進まなそうだと思い、ツバキはフッと、ハンナに微笑んだ。


「私の事、心配してくれてありがとね、ハンナちゃん。でも、大丈夫。さっきも見たでしょ? いざとなれば、あの方が、私を護ってくださるそうなので」


 そう言って、ツバキは斬鬼に手を置いた。先ほどの約束通り、リンネを助けるにあたり、刀を振るうことがあれば必ずエンヤを喚ぶと決めているツバキ。

 リオウ海賊団のこともあり、ツバキの偶像術の凄まじさを知っているハンナは一瞬戸惑ったが、なおもツバキを引き止める。


「でも……でも! あの力は、そう頻繁には使えないんでしょ!? 相手が想定外の相手だったらどうするの!? ツバキちゃん一人じゃ……」


 ハンナは、ツバキの偶像術が長続きせず、一度使うとばててしまうということは把握している。エンヤの力を使ったとしても、その後も敵が多かったり、想定外に強い敵が出たらと思うと、心配でたまらない。

 懸命になって、ツバキを止めようとした。


 ツバキは、フッと笑みを浮かべて、ハンナの顔をジッと見つめた。


「まったく……ハンナちゃんは心配性だなあ~。ちょっと待ってね」


 そう言って、ツバキは腰を落とし、街の地図を置いた台に向き直った。

 そして、ギランに視線を向ける。


「あの……ギランおじちゃん」

「ん? どうしたんだ?」


 ギランが、ツバキに返事して、少し間を開けた後、ツバキはニコッと笑った。


「今の……見えました?」


 ツバキの質問に、眉間にしわを寄せるギラン。周囲の者達に目を向けて、何のことだ? と台に手をつく。


「何をだ? まあ、それは良いとして、ツバキちゃん。俺もハンナちゃんの考えには賛成だ。この状況で一人での行動は――」


 危険すぎる、とハンナの意見に賛成し、ツバキの行動を引き留めようとしたギラン。

 その時、台に体重をかけた瞬間、大きな音を立てて、ギランはそのまま地面へと叩きつけられる。


「……え?」


 地面に座る体勢になったギランは、何が起きたのか分からないといった具合に、困惑した表情を見せていた。

 周囲の者達も、ツバキの横に居るハンナも、何が起きたかわからないといった顔で、狼狽していた。


 しかし、皆、あるものを見て、目を丸くする。それは、ギランの目の前に倒れていた、先ほどまで目の前で立っていた台の変わり果てた姿。何かに斬られたかのように真っ二つに倒れていた。切り口は、なめらからで、鋭いもので丁寧に切断されたような跡。

 呆気にとられている皆の前で、ツバキはニコッと笑った。


「見えなかったようですね。ギランおじちゃん、上手く出来ていましたか?」

「これ……まさか!?」


 ギランは何かに気付いたように、目を見開き、小さく震えはじめた。

 何かに怯えるように、昔の事を思い出すかのような表情で、ツバキを見つめた。


 何も言えないでいるギランに、ハンナが詰め寄っていく。


「どうしたの、おじちゃん! そんなことより、一緒にツバキちゃんを説得してよ!」


 体を硬直させているギランに、ツバキを説得して引き止めるように頼むハンナ。

 そんなハンナに、ギランはゆっくりと顔を向けた。


「あー……ハンナちゃん。ツバキちゃんは、大丈夫だ、きっと」

「はあ? 何を言ってるの!?」

「ツバキちゃんは、一人でも大丈夫だ。多分……ツバキちゃん自身が、今、この場に居る誰よりも強い……一人で動いても大丈夫だろう」


 ギランの言葉に、ハンナ含め、他の者達も驚いた。ギランは顔色を悪くしながら立ち上がると、ツバキを、気まずそうな顔で見つめた。


「お前……今のって……?」

「はい、“刀鬼”ジロウ様の得意技である「瞬華終刀」……の、基本技である「瞬華」の完成形ですね。私が刀を抜いた瞬間が見えましたか?」

「いや……何も……若い時に見たあの人そっくりだった……やめてくれよ……」


 長いため息をつくギランに、悪戯っ子のような顔で謝るツバキ。謝る気がねえなとジトっとギランはツバキを睨んでいた。

 事情を知らない様子のハンナ達が未だに呆然としている中、ギランは、現在クレナにあるムソウの家で、“刀鬼”ジロウに剣術を習っていることを説明、ついでにツバキは、ジロウの親友である十二星天“武神”サネマサにも、手ほどきを受けていると説明した。

 ツバキ自身、未だにジロウの代名詞である瞬華終刀は使えないが、刀を抜き、一回斬って再び鞘に収めるという行為自体は、誰の目にも止めることなく行うことが出来るようになった。

 先ほどの偶像術に加え、ここひと月あまりの鍛錬のおかげで、そこらの冒険者くらいなら片手間に相手に出来ると説明するツバキに、ハンナはただただ目を見開いていた。


「ツバキちゃん……そんなに強くなったの?」

「ええ。まだまだ“刀鬼”様や、十二星天様、それに、ムソウ様の足元には及びませんが……」

「そんなに強くならなくても……」

「ううん。私が護りたいものを護って、私が果たしたいことを果たす為に、私はまだまだ強くなるつもりだよ。

 ……それで、どうかな? まだ、私の事、信じられない?」

「信じてないわけじゃないよ。ただ……」


 気まずそうな顔で視線を落とすハンナの手を、ツバキは優しく包み込んだ。


「ハンナちゃんの気持ちは嬉しいよ。流石、私の親友だね。今日も大丈夫だから、私の事、信じて」


 ハンナが顔を上げると、いつものようにニコッと笑っているツバキ。その顔を見てハッとしたハンナは、どこか諦めたかのように顔を緩ませた。


「昔から、危ないことは辞めよって言ってた私に、そう言って、言うことを聞かせていたよね」

「そんなこともあったっけ?」

「そして、結局、あのかくれんぼ事件があって……」

「あ、あったね、そんなことも」

「……まあ、最終的には大丈夫だったし……今日も、大丈夫……かな?」

「うん。今日も、大丈夫だよ」

「分かった……じゃあ……」


 ハンナは、ツバキの事をギュッと抱きしめた。


「行ってらっしゃい、ツバキちゃん。でも、私も、調査が終わったら、絶対、ツバキちゃんのところに行くからね。あの時、探し出せなかった代わりに……ね」

「うん。よろしく。ハンナちゃん」


 ハンナに応えるように、ツバキもハンナの背中に手を回し、ギュッと抱きしめた。

 それを見た、ギラン達は歓声を上げる。急に大声を出されてハッとした二人は、そのまま離れて、皆の事を呆然と眺めていた。

 しかし、すぐに顔を見合わせて笑い合った。


 こうして、リンネを助けに行くための作戦が決まり、ツバキは身支度を整える。

 刀以外にもクナイや、針などの武器を整え、ムソウから預かったものも合わせた大量の薬を用意し、袴と衣に身を包む。

 ムソウが倒した強力な魔物の素材で出来た着物は、そこらの鎧よりも耐久性が高い。更には、先の戦いで損傷したものをコモンの手によって修復された、壊蛇と九頭龍の鱗で出来た胴当てと、身体能力向上の腕輪……かつて、ムソウから貰った装備を身に着け、万全の態勢になる。

 そして、綺麗な羽織を纏い、髪を上げ、椿の簪を差した。鏡を見ながら、その簪に宿るちっこいツバキとハルマサ、それに斬鬼のエンヤに、改めてよろしくお願いします、と念じた後、家の外に出た。


 それぞれの部隊ごとに並び、先頭のギランとハンナは、ツバキに胸を張って笑っている。

 これだけ居れば、大丈夫と改めて感じたツバキ。


 すると、タクマとメリアが寄ってきて、ツバキに笑みを向けてきた。


「本当……立派になったね、ツバキ。お母さん、嬉しいわ」


 ツバキの頬に手を当てて、優しく微笑むメリア。ツバキは、メリアの手に自分の手を重ねて頷いた。


「どう? お母さんよりも、美人?」

「調子に乗らないの~!」


 メリアは、そのままツバキの頬を引っ張る。子供の様に痛がり、辞めてと言うツバキに一同、腹を抱えていた。


 まったく……と、腕を組むメリアの側から、タクマが前に出て、口を開いた。


「ツバキ。僕たちは今回、街には出ないことにした。皆には申し訳ないけど……僕とメリアは、ここでツバキとリンネちゃんを待つことにした。リンネちゃんを送り出したのは、僕達だからね」

「お父さん……」

「だからね、ツバキ。遅くなっても良いから、ちゃんと、二人で帰って来るんだよ」

「言われたように、たっくさん、料理作って待ってるからね」


 タクマに続くようにメリアは胸を張った。

 ツバキは、胸に手を当てて、頷いた。そして、二人に飛びつき、そのまま抱きしめる。


「うん……行ってきます、お父さん……お母さん」

「ああ、行ってらっしゃい」

「無茶したら駄目よ」


 タクマとメリアは、ツバキの頭をそっと撫でる。とても暖かな感触に、やっぱり自分は二人の子供だと実感したツバキ。必ず、リンネと帰って、ムソウも交えて、また皆で楽しくご飯を食べようと誓った。


 そして、皆の方に振り向き、ツバキは手を天に向けて突き出した。


「では、皆さん……行きましょう!」

「「「「「お~~~うッッッ!!!」」」」」


 ツバキの合図に、ギラン達はマルド商会へ、ハンナ達は近くの路地裏へ、そして、ツバキ自身は、リンネ達が襲われた現場へと駆けていった。


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