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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
ツバキが里帰りする
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第329話 ツバキ奮闘編 ―子供が見つかる―

 ギランからもたらされた、資料を手に、ツバキ達は早速、行方不明になった子供の家を目指し、マルドの街を走る。大勢の大人が走っている光景に、道行く者達は怪訝そうな目を向けている。

 ギランやレオンはその度に、知り合いを見つけては、子供たちが行方不明になっているという旨を話す。話を聞いた者達は、驚き、自分も捜索に加わりたいと名乗り出てくる。

 いったん、ツバキの家で待っていてくれと伝えると、その者達は頷き、ツバキ達からは別れた。ひとまず、これから向かう家で事情を聞いた後、事情を聞きつけた者達と共に、大規模な捜索を行う予定である。

 まずは、帰ってきているであろう子供の話を聞く……そう思っていたのだが……。


 資料に記された住所を頼りに、その場所へと向かったツバキ達。目の前に光景に驚愕する。


「これ……は……!」


 記された場所に来てみたが、そこに立つのはこじんまりとした一軒家。しかし、扉には「売り出し中」の紙が貼られており、中は人の気配が全くない。ところどころ、ひび割れたような痕があり、何枚かの窓は割られている。

 屋根からは何かの植物が伸びており、数年間、誰も住んでいないということが誰の目にも明らかな状態だった。


「ギランさん……これは、どういうことですか!?」


 資料を持ってきたギランにツバキ達は詰め寄る。だが、ギランも皆と同じく目を白黒とさせて慌てていた。


「分からん! ど、どういうことだ!? 確かにここには、例の子供と、その両親が三人で住んでいると登録されてある!」

「それは俺達にも分かる! が、この家には明らかに人が住んでいるって感じじゃねえぞ!?」

「その商人は!? 商人は、どこで商売しているの!? お店はどこ!?」

「資料には「行商」と書かれている。他の商人と同じく、通りで露店をやっていたのかも知れない」


 つまり、タクマやグレンのような、住まいを商店として出してはいないということだ。

 そして、マルドに居る全ての商人を把握しているわけではないギラン達も、その商人の顔を見ても、どこで何を売っているのかは流石に分からない。

 ゆえに、資料に記されていた場所に誰も住んでいなかったということが明らかになった今、これ以上ツバキ達に出来ることは無かった。


 空き家には鍵がかかっている。念のためということで、ツバキは割られている窓の鍵を開けて、その家に入っていった。一応、どうなるかわからないので、ギランとハンナ以外の者達は、家の外で待機ということになっている。

 家の中は、埃とカビの臭いが立ち込めていて、とてもじゃないが子供も住んでいるという可能性は全く無かった。


「何も無いね……」

「うん……でも、何か手がかりがあるかも知れない」

「ああ。わざわざ登録簿にここの住所を書いていたんだ。何かあったときの為に、一応、ここを拠点にしていた可能性もある。少し調べてみよう」


 ギランの言葉に、ツバキとハンナは頷き、家じゅうの部屋を回った。何年も掃除もされていないのか、ツバキ達が歩くたびに、床に足跡がついていく。

 ということは、と思い、ツバキは灯を点けて床を照らした。しかし、足跡はツバキとハンナ、ギランの三つだけ。それ以外は無く、結局、この家に人が住んでいたり、誰かあが訪れていたという痕跡を見つける事は出来なかった。


「これ……ギランおじちゃんはどう思う?」


 ハンナの問いに、ギランは腕を組んで考え込んだ。


「……まあ、素性を偽ってマルド商会に登録したということは確定だな。商会も人数が多い分、皆が皆、同じ商会と言えども、それぞれと顔を合わせているわけでは無いし、ここの商会は、そう言った調査に関しては緩いからな。

 だから、嘘をついて紹介に登録することも、割と簡単だ」


 家族の写真については、偽装をすることも出来るが……と、ギランは言ったが、それを聞いたツバキは不思議に思った。でも、実際に子供は居た。子連れで、家を持たずして、生活できているとは思えない。多分、まだ何かあるはずだと思っているが、結局分からなかった。


「嘘をつく理由は何だろう?」

「そりゃあ、色々考えられる。ここで一番多いのは、違法なことをやろうとしている商人は、そうするだろうな。無論、怪しい動きをしていれば、すぐに調査対象となるが……」

「そういう話は無かったわけですね?」


 ギランは、ツバキの問いに、ああ、と頷く。何故なら、ギラン自身も、怪しい動きをしている商人を監視する立場にある。何人かは違法な商売をしている証拠を叩きつけて、騎士団に身柄を送還したが、現在行方を追っている商人の男については何も聞いていなかった。

 だからこそ、ここに来るまで、男の詳細なことが分からなかったのだ。


「他にはどんなことが考えられる? 嘘をつく理由」

「後は、そうだな……他の商会の密偵とかだな。まあ、マルドの商会はターレンの旦那のところと、うちだけだからあまり気にしないが、レイヴァンのリエン商会は、そういうこともあり得るって話だ。だから、専用の部署を置いて、商会内で怪しい動きを見せる商人を何時でも監視しているらしい」


 ギランの言葉に、ハンナは、へえ~と感心しているようだが、ツバキには思い当たる節がある。ムソウがレイヴァンで出会ったという、イーサンという男の事だ。そう言えば、そんなことを話していたようなと思い出していた。

 だが、今はこの話は関係ない。仮に、ここを登録していた男がどこかの密偵だったとしても、こんなにも分かりやすい証拠は残さないし、マルド商会とターレン商会は、お互いに協力し合って、マルドの経済を支えている。顧客の情報などはもちろん、物流も、人の動きも、全て、商売に関するものを公表しあっている。そもそも、密偵の必要が無い。


 ただ、そうなると男の正体がますます分からなくなり、更には遊びに出かけた子供の事も全く以って不可解な存在ということになっていき、ツバキ達は更に頭を抱えた。


「仕方ありません……一度、うちに戻って対策を練りましょう」

「そうだね。皆も集まっていると思うし」

「だな。ここに居ても、リンネちゃん達が出てくるわけでもないからな」


 そうだ……目下の最大の目的は、リンネや、レオン達の子供達を見つけ出すことだ。ここに居て、男の正体を暴くことでは無い。

 最初の目的を思い出したツバキ達は、家から出てレオン達と自分の家を目指した。


 家に着くと、声をかけた知り合いたちが集まっており、中には武装している者達も居る。ギランやレオンの知り合いの、元冒険者達だ。

 皆、ツバキ達が帰ってくると、目を向けて寄ってきた。


「お、帰って来た! どうだった!? ギラン!」

「まだ、見つかってない」

「はあ!? 見つかってないって……じゃあ、どうするんだ!?」


 ギランの報告を受けた、知り合い達はそれぞれ、慌て始める。子供たちにもしものことがあったらと、とうとう泣き崩れるリノ達を慰めていたり、見つけ出すことが出来なかったギランやレオンに詰め寄ったりしていた。

 自分の子供も行方不明になっている一人だというのに、皆に詰め寄られるレオン。何も言えず、青筋を浮かべて皆の言葉を聞いていた。

 ここで喧嘩に発展するのはいけないと判断したツバキは、ハンナと協力し皆を仲裁する。


「み、皆さん、落ち着いてください! ここで私達が争っても何も起きません! 対応をお伝えしますので、どうか静かに――」


 必死になって皆に呼びかけるが、皆の声にかき消されていく。集まった皆は、何に怒っているのだろうか。何故、子供が見つからない、レオン達を怒鳴るのだろうか。

 怒りの矛先は、見つけられなかったギラン達や、自分達にも向けられている。皆からの怒りと、リンネを見つけられなかったという自責の念に、ツバキが圧され始めていた時だった。


 一人の男の声が、辺りに響く。


「お~い! 子供たちが帰って来たぞ~!」


 男の声を聞いたツバキや、その場に居た者達はハッとし、声のする方を見た。一人の男が道の上に立っている。

 騒動を聞きつけた、レオンやギランの共通の知り合いだった。その男の側に、小さな影が三つ。それを見たレオン夫妻、リノ夫妻、モンジ夫妻は慌てて駆け出した。


「シュウゴ!」

「シオリ!」

「アルス!」


 それぞれ、自分達の子の名を呼びながら、子供たちに寄っていく。その場に立っていた子供たちは、自分達の親が走って来るのを見ると、一斉に飛び出した。


 そして、それぞれの親子は抱き合い、三人の母親は涙を流し始める。


「もう! こんなに、心配かけて、今まで何処に居たの!?」

「ゔぅ……ごめんなさ~い!」

「ごめんなさい、お母さん、お父さん……」

「本当に……お前に何かあったらと思うと、父さん、気が気じゃなかったんだぞ?」


 レオンは優しく、自分の愛娘の頭を撫でていた。

 先ほどまで喧嘩になりそうだった者達は、子供の無事を確認して安堵する。

 事情は後で聞くにしろ、取りあえず子供たちは戻ってきたということで、安心したと誰もが思っている中、未だ一人、緊張を解かなかった者が居る。


「あ、あのっ! すみません!」


 それは、ツバキだった。子供達と一緒にリンネも帰って来たと思っていたが、姿は見えない。恥ずかしくて出てこられないのかとも思い、辺りを懸命に探し、リンネの名を叫んだが、その姿が現れることは無かった。

 ツバキの必死な様相に、安堵していた者達の顔も、再び曇り始める。


 ツバキは、子供たちを連れてきた男に、慌てた様子で口を開いた。


「あの! リンネちゃんは!? リンネちゃんは、一緒じゃないのですか!?」

「ん!? い、いや、俺が保護したのは、この三人だけだ。まさか、他にも居るのか!?」

「そんな……」


 リンネだけは、未だに行方知れず。その事実が明らかとなり、ツバキは愕然とする。それと同時に、他数名の子供も居ないということで、どこの子供かは分からないが、ここマルドで、小さな子供が行方不明になっているという事実は未だに変わっていないということが明らかとなった。

 ツバキは、助けられた子供たちの元へと向かい、事情を聞いてみた。


「あの……リンネちゃんは……今日、ここから遊びに行った、小さな女の子は何処に居るのですか?」


 怯えさせないように、慌てさせないように、ツバキは優しく子供に語り掛けた。

 少し気まずそうな顔になり、顔を見合わせる子供達。明らかに何かを知っているという様子だが、口にすることをためらっているようだ。

 しかし、リノ達、子供の母親に叱られるように、どうなのかと聞かれると観念したようにポツリと口を開いた。


「あ、あの……リンネちゃん、連れて行かれちゃった……」


 子供の言葉に、驚愕するツバキ達。荒くなる自分の呼吸と、気を鎮めて、ツバキは子供たちの目をまっすぐと見つめる。


「……どういうことなのか、教えてくれる?」

「あの……リンネちゃん、魔物にされて、大人の人に連れて行かれちゃった……」


 そう言うや、ぐずり始める子供達。あり得ない状況を話す子供たちに、ツバキ以外の者達は、困惑していたが、ツバキとギラン、ハンナなど、リンネの素性や事情を何となく理解している者達は、ただただ固まっていた。

 ツバキは、泣いている子供たちをあやしながら、今日一日、何が起きていたのかを聞き始めた。


◇◇◇


 子供たちによれば、今日は、マナとリンネ、自分達の他は、マナの友達だという知らない子供達と一緒にマルドの街を探検しながら鬼ごっこや、かくれんぼをしながら遊んでいたという。

 公園よりも広い「遊び場」に、皆夢中になって楽しく遊んでいた。

 そして、昼ご飯を食べた後、また、街の中を歩いていた時、マナが、そうだと言って、皆の方に振り向いた。


「ねえねえ、お昼は、この街を本当に冒険してみようよ!」

「冒険?」


 マナの言葉に、リンネを除く子供たちは首を傾げる。リンネはワクワクしているといった感じに、マナの顔を見つめていた。

 それにしても、冒険と言われても、行くところは行ったし、知っているところにも、家族で行ったことがある。今更、この街で知らない所なんて無いから、面白くなさそうと言うアルスの言葉に、マナは首を横に振った。


「行ったことない場所あるでしょ? 例えば……この先とか!」


 そう言ってマナが指さしたのは、建物と建物の間、つまりこの街の路地裏である。

 それを見た瞬間、シュウゴ、シオリ、アルス、所謂ツバキの昔馴染みで、この街を知り尽くしている者達の子供は、青い顔をする。


「だ、駄目だよ、マナちゃん。この先は、行っちゃ駄目って、お父さん達が言っていたもん!」

「そうだよ。こわ~い人たちがいっぱいいるから、駄目って……」

「入ったら、どうなるかわからないって……」


 皆、口々に入るのは駄目だと言ったが、マナと、マナの連れてきた子供は、そんなことないと言って、シュウゴたちの言葉を否定していた。

 リンネは、何を話しているのか理解していないのか、首を傾げてシオリの顔を見上げている。


「シオリちゃん、どうしたの?」

「あ、リンネちゃん。リンネちゃんも、この先に行くのは駄目って、あのお姉ちゃんに言われているよね?」

「え……うん」


 リンネは路地裏を見ながら、コクっと頷く。


「ツバキおねえちゃんも、おししょーさまもだめっていってた」

「そうよね。ほら、リンネちゃんも行きたくないって言ってるし……」


 自分よりも幼い見た目のリンネも居るのだから、この中に入るのは辞めようと提案するシオリ。

 だが、マナは相変わらず、胸を張って指を振っていた。


「チッチッチ……それが、大丈夫なんだよ、シオリちゃん、シュウゴ君、アルス君!」


 そう言うと、シオリは、路地裏に向けて、お~い! と声をかける。突然の行動に慌て始めるシュウゴだったが、その声に応えるように路地裏から、はいは~い! と軽快な声が聞こえてきた。


「やあやあ、呼んだかい? マナ」


 現れたのは、道化師のような恰好をした一人の男だった。マナがその男に頷くと、男はニコッと笑い、マナを抱き上げた。


「ま、マナちゃん、この人は?」


 突然現れた男の事を、シュウゴはマナに尋ねた。


「え~とね、うちのお父さんだよ! お父さんは、ここでしばらくの間、見世物小屋で働いているの!」


 マナに紹介された男は、丁寧に仰々しく、シュウゴ達に頭を下げる。


「初めまして。君たちは、マナのお友達でございますね? いつも聞いております。僕の娘がお世話になっておりますようで感謝します。こちらは、そのお礼でございます……」


 そう言って、男は両手を上げて、そこから七色に変化する魔力の玉を作り出した。それはグニャグニャと形を変えて、小鳥のようになると、シュウゴ達の周りを飛び始める。

 そして、男が指を鳴らすと、小鳥は上空へと飛びあがり、光の粒となって弾けてシュウゴ達に降り注いだ。


「“魔法帝”直伝の魔法……普段なら、料金を取るのですが、今日は特別でございます」


 降り注ぐ光の粒子の中、再び男は深々と頭を下げた。突然披露された男の演技に目を奪われる子供達。先ほどまでの不信感はどこへと言った感じに、男に拍手と歓声を上げる。


「すげえ! おじさん、凄いね!」

「生まれて初めて見た~!」

「ねえ、おじさん! もっと見たい~!」


 たちまち、子供たちに囲まれるマナの父親。すると、皆の様子を見たマナは、コホンと咳ばらいをする。


「皆、まだまだお父さんの演技、見たい?」

「うん! 見たい!」

「ふっふっふ……実はね、この先にお父さんがお仕事している小屋があるの。だから、これから、行ってみない?」


 そう言って、マナが指さしたのは、路地裏の向こう側。先ほどからあそこに行きたいと言っていたのはそう言うことかと思い、シュウゴ達は頷く。


「良いよ! 行こう!」

「マナちゃんのお父さんが居るなら安心だしね!」


 アルスの言葉に、マナの父親はフンッと鼻を鳴らし、胸を張った。


「皆様の事は僕にお任せください。マルド一の魔法の使い手であるこの僕が、皆さんを素敵な場所へとご案内いたします!」


 やったーと両手を上げて喜ぶシュウゴ達。その後、マナと他の子供達に促されるまま、路地裏に入っていった。

 この先には何があるのだろうかと言う期待で頭がいっぱいだった。


 そのため、先ほどまでとは打って変わって、一言も言葉を話さず、何かに怯えるようにしているリンネに、手を繋いでいたシオリ含め、誰もその様子に気が付かなかった。


◇◇◇


 さて、マナの父親に連れられて路地裏を進む一行。普段なら薄暗く、怪しい店が立ち並ぶ様子に怖がるところだが、マナの父親の軽快な話術により、その感覚も薄れているようだった。

 それに、聞いていたような「怖い人」というものは一切いない。恐らくここは、親たちが把握していないだけで、危険ではない路地裏の一つなのだろうと思った。

 楽しく話しながら、歩いていくシオリ。ふと、手を繋いでいるリンネが、どこか怯えている表情になっていることに気付く。


「大丈夫? リンネちゃん」

「うん……」

「心配ないよ。リンネちゃんには私達が居るからね」


 怖がっている様子のリンネの頭を優しく撫でるシオリ。自分含め、シュウゴとアルスの親は、リンネがいつも一緒に居るツバキと知り合いだということは、既に知っていた。

 遊びに行く前も、それぞれ親たちに、


「ツバキちゃんの所のリンネちゃんは、まだ小さいんだから、貴方たちがしっかりしてないと駄目よ。皆、ちゃんと帰ってきてね」


 と、言われていた。そして、家に迎えに行った際に、ツバキからも、よろしくお願いしますと言われた。

 自分達よりも下の世代が居ないシオリ達三人は、リンネが妹とかだったらいいのになと思いながら、ちゃんと、あの綺麗なお姉さんの元に帰してあげようと思っていた。

 頼られているという感覚を経験したことが無かったシオリは、不安そうにしているリンネの頭をその度に撫でていた。


「ありがと……」

「ううん! 良いの」

「そういや、リンネちゃんの親は冒険者だったよね? また、すぐにここを離れるんだろ?」


 シュウゴの問いに、リンネはコクっと頷いた。本物の親はすでに死んでいるが、ここではリンネの親は、ムソウである。嘘は言っていないとリンネは自分に言い聞かせていた。

 シュウゴ達はそっか~、と項垂れるが、すぐに笑顔になって、リンネの頭を撫でた。


「じゃあ、また来た時も、こうやって遊ぼうよ。今度、うちの父さんと釣りに行こ!」

「シュウゴのお父さんって、凄いもんね……僕のうちにもおいでよ! お母さんが作る髪飾りって凄く綺麗なんだ」

「私のパパの料理も食べて欲しいな~。リンネちゃんみたいにほっぺがぷにぷにだと、すぐに落っこちちゃうよ~」


 シオリは、リンネの頬を人差し指でぷにぷにしていた。段々と落ち着いてきたリンネは、三人に頷く。


「……うん! リンネ、みんなとやくそく!」

「うん! 約束だからね」


 わーいと、両手を上げて喜ぶリンネ。その姿に安心したシオリ達は、再びマナ達を追って歩き始めた。

 すると、リンネはシオリの背中に手を当てる。


「……ありがと、シオリちゃん、シュウゴくん、アルスくん」


 ボソッと呟くリンネの言葉に、ニコッと笑うシオリ達。何か、不思議とリンネの掌からじんわりと温かいものが伝わってきて、体を包んでいく感覚がした。

 本当に可愛い子だなあと思っていると、突然、先頭を歩いていたマナ達が歩を止める。


「皆、着いたよ~!」


 マナは振り返って、満面の笑みを向けてくる。

 マナの父親が見せてくれた芸は、相当なものだと感じた。しかも、誰もが知っている十二星天“魔法帝”ミサキに、魔法を教わったと言っている。どんな立派な小屋で働いているのかとワクワクしてマナ達の元へと向かう。


 ……しかし、行きついた先は、行き止まりとなっているだけで何も無かった。ちょっとした空き地になっているだけだ。それらしき小屋も、建物への入り口も無かった。


「……え?」

「マナちゃん……どこに?」


 きょろきょろと辺りを見渡すシオリ達。


 その時だった。急に空き地の四隅で何かが弾けるような音がする。そして、そこから煙のようなものがモクモクと上り始めた。


「な、なに!?」

「なんなんだよ、これ!?」


 慌てるシオリ達の手をマナの父親が掴んだ。


「皆、僕から離れないで!」


 子供たちを一か所に集めるマナの父親。皆を護るように、前に出て魔法の球を展開させた。


「だ、誰だ! こんなことをするのは! 許さないぞ!」


 何者かが襲ってきたと感じたシオリは、怖くてその場を動けなかった。シュウゴもアルスも同じように、小さく震えながら、その場にうずくまっている。マナは、父親の背中を心配そうに見つめていた。

 やっぱり、路地裏は危険な場所だった。入るべきじゃなかったと、今更ながら後悔する。

 だが、ここでシオリはあることに気付いた。


「あ……あれ?」


 子供の数が減っていた。自分達以外に居た、三人の男の子の姿が見えない。最初の音で逃げたのかと思ったが、そんな時間は無かったはず。

 訳の分からない状況に唖然としていると、マナの父親の前に、数人の外套を被った男たちが現れた。それぞれ、短刀のようなものを抜き、先頭に居た男の口元がニヤリと歪む。


「小道に迷い込んできた子猫ちゃんが五人と、変な魔法使いが一人……珍しい組み合わせだが、悪くねえな……」


 厭らしい笑い声をあげる男達。シオリは怯えながら、その男たちは、親から聞かされていた「怖い人」だと確信する。

 腰の力が抜けて、その場に座り込むと、男たちはにじり寄ってくる。


「怖がらなくても良いぞ~? 俺達は、騎士だからなあ~」

「君たちを安全な場所まで連れて行くよ~」


 などと言いながら、近寄って来る。すると、マナの父親は、男たちの前に立ちふさがり、子供たちを護るように両手を広げた。


「近づくな、人攫い! 娘たちは渡さないぞ!」


 道化の格好で、必死になって自分たちを護ろうとするマナの父親。マナはそれを見ながら、お父さん、と何度も呟いていた。

 マナの父親の魔法は、先ほど目にした。きっと大丈夫とシオリは信じ、早くやっつけて、と心の中で念じていた。


「けッ! 三流魔法使いが何を言ってんのか……」

「なんだとお!? ぼ、僕はこれでも、あの“魔法帝”ミサキ様に――」

「うるせえよ……」


 マナの父親の言葉を遮り、男は地面を蹴る。ハッとしたマナの父親が慌てて魔力の球を男に向けるが難なく交わし、当て身を食らわせた。


「ぎゃんっ!」


 情けない声を出したマナの父親は、そのまま吹っ飛び、壁に激突。衝撃で意識を失った。


「……え?」

「お父さん!」


 もう少しで助かるかもと思っていたシオリ達は、マナの父親の姿を見て呆然とする。

 何が起こったのか分からないでいるシオリ達をよそに、男は首を鳴らしていた。


「ッたく……余計な手間を取らせやがって……まあ、良い。残ったコイツ等で我慢するか……おいっ!」


 男の合図に、後方に居た他の男達も、シオリ達に寄ってきた。

 もう駄目だ、このまま、自分達は、とんでもないことになるんだと、シオリは全てを諦めて、目を閉じた。

 ゆっくりと伸ばされる男たちの手。観念したその瞬間……。


 バシッ!


「痛って!」


 何かが男の手を弾き、シオリ達は難を逃れる。


「……え」


 一体、何が起きたのかとシオリがゆっくりと目を開けると、そこでは、小さな両手を前に出す、リンネの姿があった。


「シオリちゃん、ショウゴくん、アルスくん、マナちゃん! たって! にげて!」


 必死そうな顔を向けているリンネ。よく見ると、男達とリンネの間に、薄い壁のようなものが張られていることに気付く。

 リンネが自分たちを護っている? そんな、あり得ないこと以外に、シオリの目には、更に信じられないものが映った。


「リンネちゃん……それ……」


 シオリが見たリンネの頭からは、尖った大きな耳が生えて、腰からは六本の尾が伸びていた。


普通の人の姿でも、魔法を使って戦うことが出来るリンネが獣人化した理由……。

「うごきやすいから」です。

普通の人の時にはコモンから貰ったステータスアップの着物は意味を成しませんからね。


ちなみに、今日のリンネの服装は、白いブラウスに短パンです。動き回って跳ねまわるリンネに、スカートは早いと、ムソウさんとツバキさんの考えでそうなっています

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