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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
ツバキが里帰りする
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第327話 ツバキ奮闘編 ―公園で遊ぶ―

 街の中を歩きながら、ツバキとリンネは、道沿いの露店で軽食を買ったり、ツバキの知り合いに声をかけられながらも、目的を忘れないようにしていた。

 リンネが、露店の串焼きに目移りしていても、ツバキがリンネの手を引いて、公園に行くことを思い出させたり、ツバキが知り合いに声をかけられて長くなりそうな時は、リンネがツバキの手を引いたりして先を急がせていた。

 二人のやり取りに、露店の店主も、ツバキの知り合いたちも、どこかほっこりとした様子になり、二人の背中を見送っていた。


 今日のツバキの格好は、動きやすいからと、騎士団に居た頃に着ていた袖なしの衣に袴である。それに帯刀していることもあり、ぱっと見では冒険者が小さな子供を連れているというおかしな光景だが、疑問に思った者達は、ツバキが下げている騎士団の首飾りと、二人の仲睦まじい様子に、ああ、なるほどと納得し、そのまま通り過ぎている。


 やはり、この格好は目立つのかと、周囲の視線を感じていたツバキは、ため息をついた。

 レイヴァンの事もあるので、この瞬間にも、自分やリンネに向けられる視線や感情、気配を探っている。幸い、何も感じないので安心してリンネを連れ歩くことが出来ていた。


 リンネは、露店で買ったものをすぐには食べなかった。


「あそんだあと、つかれたら、おねえちゃんとたべる~」


 と言って、大事そうに商品の入った袋を抱えるリンネ。すぐにがっつかないあたり、また、自分達の知らないところで成長したと思ったツバキはリンネの頭を優しく撫でていた。


 そして、二人は、港の横に併設されている公園に到着する。

 大きな芝生の広場があり、遊具やベンチなどが至る所に置かれており、そこでは元気に遊ぶ子供たちと、その様子を見守る親が井戸端会議をしていた。

 その光景を見たリンネは、目をキラキラと輝かせる。


「わあ~! ここであそんでいいの!?」

「ええ。ただ、その姿のまま、魔獣の姿にはならない、獣人の姿にはならない、魔法を使ってはいけないという約束は守ってください。怪我をしたり、怪我をした子を見つけたら、まず、私を呼んでください。私は騎士ですから」


 こんなところでリンネが変化したら、一騒動になる。魔法を使っても、子供たちはまだしも、多くの親は、リンネの事を疑問に思うだろう。それだけは避けて、普通の子供の様にしてと約束すると、リンネは大きく頷いた。


「よろしいです。では、私はあちらに居ますから、目いっぱい、楽しんでください」

「うん! じゃあ、いってくるね~!」


 露店で買ったものをツバキに渡すと、リンネは大きな遊具に向かって駆けていく。


「他の皆さんと喧嘩をしてはいけませんよ~」

「わかってる~!」


 手を振りながらかけていくリンネ。あれでも、災害級の力を持っている。ただの喧嘩も、命を奪いかねないものになる可能性がある。しっかりと注意した後、ツバキは辺りを見渡し、気配を探った。

 未だムソウの様には探れないが、怪しい気配が無いことは分かっている。ひとまず安心して、長椅子に腰かけた。

 買い物袋から美味しそうな匂いが漂ってくる。お昼を食べたばかりなのに、少し歩いただけで小腹が空いてくる。人の事は言えないなと思い、苦笑いしながら袋の口をきつく閉じた。

 一つ欠伸をかきながら空を見ると、白い雲が浮かんでいた。目を瞑ると、子供たちのはしゃぐ声や、地面を蹴る音、それに、親の話し声などが聞こえてくる。視覚を塞いで、聴覚と嗅覚、触覚だけを頼りに周囲の気配を探っては、まだまだだなと、苦笑いする。

 ふと、自分の両腕を見つめてみた。おもむろにつまんでみると、柔らかく伸びる。


「鈍ったな……空いた時間で素振りでもしないと……」


 最後に刀を振るったのは何時だったか。海賊団の時も、刀は抜いたが、闘ったのはエンヤだった。当分、自分の力で刀を振っていないことを思い出し、クレナに帰って、サネマサやジゲンに叱られる前に、素振りでもして勘を取り戻そうと決めるツバキ。

 そして、斬鬼を手に取り、刃を見つめながら微笑みかける。


「私自身が、強くならねば……ですね。次回は、ジゲンさん、大師範、そして、ムソウ様もご一緒に倒せるくらい様になりましょう」


 ある意味誓いのように、そう呟くツバキ。刀の中で、エンヤがニカっと笑う様子を想像して笑っていた。

 そして、今度は簪を手に取り、そこに居る二人を想像しながら口を開く。


「スキルの方は大丈夫です。使い方に関しては叱られるかもしれませんが、毎日使っております」


 防御としてではなく、配膳や、リンネと遊ぶ時くらいだが、特性を活かした使い方をしているので、怒られることは無いだろうと本心ではツバキもそう思っている。

 今では、ある程度長く持続させて出し続けることが出来るようになったり、隠蔽スキルを併用した見えない壁を作り出したりと、応用も利いてきた。これに加えて、気配を探る能力を高め、更にムソウやリンネの役に立とうと頑張るつもりだ。


 ふと、そんなムソウとリンネが仲良く、微笑まし気に遊んでいる光景を思い出し、クスっと笑みを浮かべた。


「子育てというのは……大変ですね。ですが、楽しいです……」


 血も繋がっていないし、そもそも、種族も違うリンネだが、妓楼で一緒に働いていた時に比べると、ますます、自分の娘のような、年の離れた妹のような存在になっていくと、ツバキは感じている。

 出来ることなら、いつまでも、一緒に居たいとさえ思っていた。必ず、何があろうとも護り切ると、斬鬼に宿るエンヤ、簪に宿るちっこいツバキとハルマサに誓ったツバキは、リンネの姿を追った。


 約束通り、人の姿のまま遊具で遊んでいるリンネはすぐに見つかった。何人かの子供も一緒だ。皆で仲良く遊んでいる。


「あら?」


 よく見ると、あることに気付いた。リンネと一緒に遊んでいる子供の何人かは、ツバキも知っている顔だった。よく店に来ている常連、ツバキの知り合いが連れていた子供だ。

 店に来たり、家に配達に行った際などは、リンネとよく遊び、贈り物をし合ったりしている。あの子達も来ていたんだと思い、辺りを見回すと、遊具の近くの長椅子に、その子供たちの親が集まり、仲良く談笑している姿が目に入る。

 その中の一人がツバキと目が合うと、大きく手を振ってきた。


「あ、居た居た! ツバキちゃ~ん!」

「こっちおいで~!」


 公園に広がる子供たちの親の声に、少々恥ずかしくなりつつも、せっかくの厚意を断るわけにはいかず、ツバキは応えて近づいていった。昔馴染みの奥さん方が三人ほど集まっている。


「皆さん、こんにちは~」

「こんにちは、ツバキちゃん。今日はリンネちゃんとお散歩?」

「ええ。頑張っているリンネちゃんに、ご褒美ということで、お父さんとお母さんが行ってきなさいと」

「あら~、リンネちゃんは偉いわね~」

「ツバキちゃんも、羽を伸ばしているってわけ?」

「そうですね。ですが、リンネちゃんを見守ってないと。あの子、好奇心旺盛ですから」

「昔のツバキちゃんみたいね!」


 その場に居た皆からどっと笑いが起こる。少々恥ずかしい思いをしながらも、自分はそうでも無かったと自分に言い聞かせるツバキ。たかだか、路地裏や港に忍び込んでは、親がギランに頭を下げていただけ……。

 ……よくよく考えると意外と迷惑をかけていたなあと、苦笑いしながらため息をつく。そう言えば、この人たちにもよく心配されていたなあと、懐かしく感じていた。

 リンネは、あの頃の自分よりもしっかりしているし、多分大丈夫だと思っている。それだけ、ムソウの言うことをきちんと聞いている良い子だなとリンネの事を思っていた。

 きっと大丈夫だと思いながら遊んでいるリンネに目を向けていた。


「あら、ツバキちゃんも、すっかり親の顔になっているわよ?」

「え……?」


 突然の一言にツバキはハッとし、皆の方に顔を向けた。クスクスと笑いながら、その場に居た者達はうんうんと頷いている。


「まだ結婚とかしてないみたいだし、本当の子供は居ないみたいだけど、リンネちゃんを見る目は、まるであの子の本当の親みたいよ」

「本当に、貴女も大きくなったわね。おばさんも嬉しいわ」

「ツバキちゃんが居れば、リンネちゃんも良い子に育っていくわ。頑張ってね!」


 他人から見ても、自分とリンネが本当の親子のように、家族のように見えるということは嬉しかった。

 ツバキは、わかりました、と皆に向けて頷く。


「ありがとうございます、皆さん。これからもご指導のほどよろしくお願いします」

「何よ、改まっちゃって。私達の仲でしょ? 困ったことがあったら、何でも相談に乗るから、期待しててね!」

「はい。よろしくお願いします」


 そう言って、ツバキは、その場に腰を下ろし、皆の輪の中に加わった。

 そして、近況などを話しながら、リンネ達を見守っているうちに気付いたことがあったので、聞いてみた。


「それにしても、ずいぶんと子供の数が多いですね。どこの家のお子さんかわからない子も居ますが……」


 リンネと一緒に遊んでいる子供たちのうち、三人は目の前に居る女たちの子供ということは分かったが、他の子供たちはツバキも見た事が無い者達ばかりだった。近くに見守っている親らしき姿も見えないし、どこの子供かと尋ねると、皆も同様に首を傾げていた。


「さあね~。私達も分からないわ。ただ、ここってマルドに唯一ある公園でしょ? だから、私達が知らない子達が居ることに関しては、特に何も思わないわ」

「ここ数年で、移住者も増えたからね~。その人たちの子供じゃない?」

「それに、子供って私達の知らない所で友達を作るものだからね~。今日来ている子達も、前から私達の子供たちと遊んでいるから、気にしなくて良いわよ」


 まあ、そう言うものかとツバキは納得した。見ると、リンネも完全に打ち解けた様子になっている。親の一人が言うように、いつの間にかどこかで作った子供なのだろうと解釈し、そのまま見守っていた。

 女たちによれば、ここ数年、冒険者や商人の出入りが多くなった、ここマルドに居を構える家庭が増えて、子供の数も増えたという。子供を通じて、お店の常連客などを獲得出来たり、組合の規模も大きくなっていったりしていて、困ることは殆ど無いらしい。


 あまり、変わっていないと思われた自分の故郷も、意外と変わっているんだなあと感じるツバキだった。


「そう言えば、ツバキちゃん。リュウガン君はまだマシロに居るの?」


 一人の親が、ツバキに尋ねた。こないだのハンナといい、リュウガンは人気者だなと感じたツバキは、そのまま頷く。


「ええ。元気に騎士の仕事を頑張っております」

「偶に帰ってきてくれると嬉しいんだけどね~」

「はい。今度、伝えておきますね」

「ありがとう。ところで、リュウガン君はまだ独身? もう、身を固めた?」

「いいえ、まだですよ。ただ、マシロ領の貴族のお嬢様たちから時々求婚されてはいるようです」

「ええ!? 凄いじゃない!」

「ただ、リュウガン君本人は、今はまだ、仕事に打ち込みたいと言って、それら全てを断っていますね。師団長の元に届いた見合いの資料を見ながら、頭を抱えていた姿をよく覚えております」

「あら、それは……リュウガン君らしいわね」


 女の言葉に、他の親たちもうんうんと頷く。ひょうきんなところもあるが、リュウガンは根は真面目でなおかつ努力家である。それによって培われた武力も、高水準なものとなっており、マシロを出た時点では、ツバキよりもリュウガンの方が強かった。

 だが、幾ら強くても、未だリュウガンも自分も、騎士団に配属されて二年と少しである。もう少し自分の仕事をこなして色々と落ち着いた後には、身を固めるようにすると、マシロで語り合っていたとツバキは皆に話した。


「そう……お父様と違って、あの子は真面目ね」

「そうですか? ギランさんも、根は真面目だと思いますが……」

「根が正反対なの。私たちが子供の時なんて凄かったんだから。それが、クレナに行って、“刀鬼”様にこてんぱんにされて、あの性格になったの。そう言った面では、ジロウ様に感謝ね」


 普段、一緒に生活しているジロウの名前が出てきて、嬉しくなるツバキ。クレナに帰ったら、このことをきちんと屋敷に居るジゲンや、たまに聞かせようと思った。


「ツバキちゃんとリュウガン君は、マシロで何も無かったの?」

「何も……とは?」

「小さい時から一緒の男女が、見知らぬ土地でってなったら、分かるでしょ?」

「ああ……」


 ツバキは、顎に指を置いて考え込んだ。

 リュウガンの事は好きだ。ただそれは、友人的なという意味で、恋愛感情には発展しないものだった。武王會館の頃から、お互いに切磋琢磨しながら成長し、騎士団に入っても、一緒に仕事をこなす仲間としか見ていない。


「リュウガン君とは何もありませんでした。お互いに周囲の皆さんに、色気無いと笑われていましたね」


 微笑みながら放たれるツバキの言葉に、集まっていた女たちはキョトンとする。


「え……何年も一緒に居て、何も思わなかったの? リュウガン君はカッコよくなってないの?」

「私にその辺りの事はよく分かりませんが、酷くは無いと思いますよ? 偶に私達の稽古をのぞき見している貴族のご令嬢の皆様が、顔を赤くしながらうっとりとリュウガン君を見ているところを、私達は見ていましたから」

「じゃあ、仕事が出来ないとか? さっきの貴族のお嬢様からの求婚を断っていたのって、そういうこと?」

「とんでもないです。リュウガン君は、マシロ師団の次席として師団長のお側で補佐をしている存在です。私が居た時は、私もその任に就いておりましたが、少なくとも、普通の騎士よりは、リュウガン君の方が実力は上です」

「じゃあ、何で……?」


 何故、ここまでリュウガンの事を褒めながら、恋愛関係に発展しなかったのか、女達は分からなかった。

 ツバキはクスっと微笑み、自分の思いを口にする。


「まあ……私も、リュウガン君も小さい時から一緒に遊んでいましたからね。何となく、そういう気になることはすでに通り越していたかと思います。何というか、性別を越えた、気の合う親友という感覚の方が強いですね。マシロに居た頃は、お互いがお互いに、最も信頼するべき相談相手でもありましたから。

 それに今は……」


 ツバキは、遊具で遊んではしゃいでいるリンネを目にする。鬼ごっこでもしているのだろうか、リンネは子供達を楽しそうに追いかけ、一人の女の子の肩を叩くと、一緒に喜び合っていた。

 その光景を見たツバキは微笑みながら、胸に手を置く。


「今は、私にも別に愛している方が居ますから……」


 それを聞いた女たちは、目を見開き、リュウガン以外の男だと誰が居たかと思いを巡らせる。

 だが、元気に遊んでいるリンネを見ながら、ある思いに行き当たり、ツバキに詰め寄った。


「それって、リンネちゃんの親御さんっていう冒険者さん?」


 リンネの親……話が変なところで落ち着いている。最初にここに帰って来た時は、ムソウが助けた子供を引き取ったと言ったはずだ、とツバキは思っていた。

 まあ、そこまで違いは無いだろうと気にせず、ツバキはクスっと笑い、頷いた。


「ええ。あのお方に添い遂げることが、私の人生の目標になりました」

「子連れで、もう四十なんでしょ? 大丈夫なの?」

「関係ありません。私が好きなのですから、好きなのです」

「メリアちゃんやタクマ君よりも年上じゃない」

「それはお父さんとお母さんが若すぎるのかと……歳の差なんて、こういうのは関係ないと思いますが? 二人を見ていたら分かります」


 何を言われても自分の意志を曲げる様子はないツバキに、女達は唖然とした。

 だが、その目を見て、周囲の反対を押し切り、ツバキを出産したメリアと、二人を養っていくと覚悟を決めた時のタクマ、そして、弱冠七歳の頃にリュウガンと共に武王會館に入門すると決めた時の幼いツバキの顔を思い出した。

 この家族は、こうなったらてこでも動かかない。ツバキの意志は本物だと感じた皆は、やれやれと言った顔になり、ツバキに頷いた。


「分かったわ。ツバキちゃんは、昔から私達の言うことなんて眼中にないものね」

「いえ、そういう意味では……」

「冗談よ~。でも、そう言うことなら私達も応援するわ、ツバキちゃんの恋路」

「リュウガン君も、ハンナちゃんも、良い人が見つかると良いわね~」


 などと言いながら、その場は盛り上がる。今すぐどうにかしたいという想いではないが、これだけ多くの知り合いや、エンヤ達にまで認められたムソウへの想い。それは、意外と近い将来に叶えられるかも知れないと感じたツバキは、空を見上げる。


―サヤ様……うかうかできないようですよ? 早く出てこないと、私がムソウ様を奪っちゃいます―


 半ば挑戦的に、笑みを浮かべたツバキは、その後も皆と一緒に笑っていた。


◇◇◇


 その後、しばらくして日が傾きだした頃、リンネが、女の子供たちと、一人の女の子と手をつないでツバキの元に帰ってくる。


「ただいま~!」

「おかえりなさい、リンネちゃん。そちらは、どなたですか?」


 リンネが手を引いている子を指し、ツバキが尋ねると、女の子は頭を下げる。


「あの、わたし、マナっていいます。リンネちゃんに、いつも、よくしてもらってます」


 純朴なその女の子は、歳の割にきちんとした子だなとツバキは感じる。リンネは、嬉しそうにマナの事をツバキに紹介していた。


「あのね、マナちゃんはね、おえかきがとくいで、いつも、にがおえをかいてくれるの!」


 と言って、リンネが取り出したのは、鉛筆で書かれたリンネの似顔絵。確かに上手に書かれていると感じたツバキはクスっと微笑んだ。


「まあ、本当にお上手ですね。今日は、リンネちゃんをありがとうございました。お礼と言ってはなんですが、こちらを差し上げます」


 ツバキは懐から公園に来る途中に買っていた買い物袋を取り出し、中から焼き菓子を取り出した。

 マナはそれを見ると、ぱあっと笑顔になっていく。


「あ、ありがとうございます! 大切にしますね!」

「いえ、召し上がってください。リンネちゃんもどうぞ」

「わ~い! いっしょにたべよ、マナちゃん!」

「うん!」


 リンネとマナはツバキの隣に座って、焼き菓子を食べ始めた。二人とも美味しいと言って食べているが、口周りを中の餡で汚している。ツバキは、いつものように二人の口の周りを布で拭い、自身も焼き菓子を口にしていた。


「マナちゃんは、どちらにお住まいですか?」

「えぇと……にばんがいです」

「あら、近くですね。親御さんはおうちですか?」

「うん! お母さんが居て、お父さんは、冒険者をやっています」

「そうなんですね。では、そろそろ帰らないと、お二人とも、心配すると思いますよ?」


 日は段々と暮れ始め、公園からも人が少なくなっている。今のうちに帰った方が良いと言うと、マナは寂しそうに頷いていた。


「うん……そうですね。リンネちゃん……またね……」


 そう言われたリンネも寂しそうにしている。


「え~……もっとあそびたいな……」

「また、遊べますよ。今日はもう遅いから、また今度にしましょう」

「むー……わかったー……」


 少しだけ落ち込んだ様子のリンネ。少し厳し過ぎたかと思ったが、マナの家の事情も考えると、これ以上、引き止めるわけにはいかない。これで良かったとリンネの頭を撫でる。

 しかしここで、マナが、そうだと言って、リンネの手を握った。


「あ、リンネちゃん! 明日も一緒に遊ぼうよ! 明日は一日中、私と遊ぶの! ね? それなら、寂しくないよ!」


 マナの言葉に、リンネは思いっきり顔を上げて、ニコッと笑った。


「いいね! ……あ、でも……」


 しかしすぐに表情を暗くさせて、ツバキの顔を見上げる。今日は偶々客が少なかったから貰えた休みだった。明日からはまた、店の手伝いをしなければならない。そう感じたリンネはツバキに伺いを立てた。

 ツバキの方は、困ったなあとは思いつつ、大人がするべき仕事をリンネに手伝わせていることに関しては、どこか気が引ける思いもしていた。リンネが居なくとも、自分が店の手伝いをしていれば良いと思い、ニコッと笑い返して二人の前にしゃがんだ。


「よろしいですよ、リンネちゃん。お父さんとお母さんには、私から説明しておきます。二人もきっとわかってくれますよ」


 そう言うと、リンネの顔はぱあっと明るくなる。


「わ~い! あしたも、マナちゃんとあそべる~!」

「うん! じゃあ、今日は早く帰ってしっかり休まないと! 明日は大冒険をするよ~!」


 マナの言葉に、リンネはわーいと両手を上げて喜んでいる。話を聞いた、そこに居た子供たちも、混ぜてくれと言ってきて、リンネとマナは更に喜び、明日の約束を行っている。

 反対にツバキと、その子供の親たちは、「大冒険」という言葉に苦笑いしている。そのまま、ツバキは皆に気まずそうに見つめられていた。


―なるほど……皆さん、こういう気持ちでしたか……―


 少しばかり不安に思ったが、自分と違ってリンネも皆の子供たちも賢い。小さい頃の自分の様にはならないと思い、その日は皆と別れた。

 帰ってから、タクマ達を説得しないと、と思っているツバキに手を引かれながら、リンネは今日のことや明日のことを楽しそうに話していた。


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