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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
ツバキが里帰りする
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第325話―怒号が響く―

 ジェイド達に金を渡し終えると、臨時収入が入った! 予想以上に稼げたなあと喜ぶ声を聞きながら金の入っていた袋を見つめる。

 本当に予想以上の出費となってしまった。クレナの復興費を幾らか出すという話だったが、少し考えさせて貰いたい。

 ここでの報酬もあるが、流石にここまで減ると不安になる。闘鬼神の給金もあるし、コモンへ装備を作ってもらうための費用もあるしな。帰ったらジゲンと相談するか、俺ももっと、依頼に取り組んで金を稼ぐか……もしくは、ダイアン達への給金は無しにするか……。

 いや、それは無しだな。最初に俺が決めたことはきちんとやり通そう。

 クレナに帰る前に、スキルでも何でも使って、カジノで稼ぐとしよう。


 さて、話を本題に戻そう。金貨を受け取って喜んでいるジェイドやリドルを鎮め、ツルギと共に、今後の動きを決めていく。


「ひとまず……首謀者のあのおっさんは、王都に居るシンジに引き渡すつもりだが……」

「一応さっき、モンクのギルド支部に伝令魔法を送った。明日の朝にも、ガーレン支部長から王都のシンジ様に報告が行くはずだ」


 ツルギの言葉に、ということは、シンキが男の身柄を受け取りにここに来るのは最短でも明日の朝ということになるのか。シンキの事だから、連絡を受け取ったら転送魔法でも使ってすぐにここに来るだろう。

 それでも明日か……。取りあえず、明日この村を出る奴らには、もう寝とけ、後のことは気にするなと伝えておいた。

 しかし、そいつらはキョトンとした顔になる。


「あ? 貴族の護衛やるよりも良い収入も手に入ったし、明日、ここに十二星天様が来るかも知れねえんだろ? なら、俺達も残るぜ」

「え……大丈夫なのか? 後で貴族に何か言われたら……」

「大丈夫だろ。あのおっさんを無事に十二星天様にお渡しするために仕方なくって言ったら、貴族も黙るさ」


 男はニカっと笑い、更に俺が渡した金の入った袋を掲げる。貴族の依頼だと言うから、結構な報酬だと思ったが、俺の渡した金はそれ以上だったらしい。最悪、依頼中止の違約金を払うことになっても余裕と笑っていた。

 貴族からの苦情も、シンジ様に任せれば大丈夫と言う男の言葉に、俺はただただ頷くしかなかった。

 そして、その男だけではなく、明日の朝、村を発つと言っていた他の冒険者も俺の金によって少し余裕が出来たらしいので、同じくケリスの従者をシンキに渡す時まで、この村に残るということで落ち着いた。

 まあ、冒険者は自由なものとよく聞いているので、これ以上俺が皆に介入することも良くない気がするので、そこまでにしておいた。


「じゃあ、取りあえず皆はその時まで村に居てくれるんだな。安心するぜ」


 グレンがホッとしたように胸を撫で下ろす。眷属としての力は封じているとは言え、男は手練れだった。何が起きるのか分からない状況である以上、村人たちへの負担が減ったことは嬉しいことだと感じた。


「あの男はまあ、ムソウさんがふん縛っているから良いとして、魔物は大丈夫なのか?」


 ジェイドの言葉に頷く。


「ああ。もう、この辺りに魔物の気配は感じられないし、今はフジミ達が見張りをしているからな。何も聞こえない以上、大丈夫ってことだろ」

「お、じゃあ、後でフジミ姉さんたちに差し入れでも――」

「リドル。お前は、シンジ見たらすぐに家に帰れよ」

「なッ……!」


 フジミ達の事を気遣う心は素晴らしいとは思うが、コイツの場合、下心の様なものが見えるから心配になる。

 さっきは良い感じに吹っ切れたように見えたのだが、やれやれとため息をついた。


「フジミ達には後で俺の方から飯なりなんなり持って行くさ。……それよりも、だ」


 何か言いたそうなリドルを黙らせて、ツルギは皆の方に向き直る。ようやく真面目な話が出来そうだということで、全員、目つきが真剣なものとなっていた。


「さっきの魔物、何か変とは思わなかったか? あの男の指示を聞いたり、陣魔法を使って来たり……」

「あ、ツルギ。他にも魔法を使うワイアームやグレムリンも居たぞ」

「大したことなかったから良かったけどね~。普通の下級の魔物よりは、強かったかな」


 一つ目の疑問は、男が率いていた魔物の強さ。元が下級だからそこまで脅威とは思わなかったが、マシロに居たワイアームや、ミニデーモンと同じ様に、普通の個体とは強さが段違いだった。


「偶にああいう個体を見ることはあるが、それが群れているのは流石に初めてだな。何か知ってるか? ムソウ」


 ジェイドが俺に意見を求めて来たので、俺は自分の考えを話した。


「俺もああいう奴らには会ったことがある。陣魔法のミニデーモンは、デーモンロードが率いていた。奴が力を与えたから、ミニデーモンも強くなったと言っていたな」

「ほう……デーモンロードか。アンタは底が知れないな。しかし、そうなるとケリス卿の力を宿したあの老人が、魔物たちに力を与えたかも知れないと言いたいわけか?」

「まあ……状況的にはそうとしか考えられないな」


俺の考えに冒険者達はなるほどと頷いている。見た目もデーモンそのものだったからな。

 邪神族の眷属というのはああいう姿になるのか。ジゲンとシロウ、それにリンネは、クレナでの戦いで変貌した闘宴会の長バークと、ケリスの正室を見たと言っていたが、その姿はデーモンロードやリリス、いわゆるサキュバス種に近いものだったと言っていた。

 邪神族が生み出した最初の魔物がデーモンというのは、恐らくそう言うことなんだろうなと感じる。


「しかし、本当にそんなこと出来るのか?」

「魔法を使うのか、もしくは、何かしらの魔道具を使ったのか……」


 邪神族の眷属としての力を使っていなくても、転界教は怪しげで強力な魔道具を大量に持っている。それを使って、魔物たちを強化し、更には操ることが出来たのだろうと推測した。

 すると、グレンが気絶している従者の男に近づいていく。


「何やってんだ?」

「いや、だったら何か持ってんじゃねえのかと思ってな……」

「危ないから辞めろ……って、そうだな。調べてみるか……」


 転界教の魔道具の中には、常人が扱うと危ないものも多い。呪い関連のものや、魂が封じられたものなど、グレンが手にすると何が起こるかわからないので、ひとまずグレンを下がらせて、俺は男の懐から異界の袋を取り出した。

 そして、何が起きても対処できるように、取りあえず神人化した。


「さて、何が出てくるのやら……」


 変な力だなと、目を丸くする皆の前で異界の袋の中に手を突っ込む。そう言えば、この異界の袋は持ち主以外の人間でも扱えるんだな。結構無防備な造りだ。

 この道具の核となっている魔法を生み出したミサキは本当に凄いと思うが、どことなく抜けている感覚はやはり否めない。ウィズたちとの共同生活を経て、精神的に成長してほしいなと感じた。


 さて、取りあえず異界の袋から気になったものを次々と取り出しては、その場に置いていく。横にグレンが居るので、俺が知らないものでもこれは安全、と言ったり、俺に道具の説明をしてくる。

 ほとんどが、ケリスの屋敷から持ち出した財宝だったり、俺を襲う為だろうなと感じさせる武器や、魔法を放つ魔道具だった。

中には、毒霧をまき散らすものもあって、冒険者達は、これを使われなくて良かったと顔を引きつかせながらも安堵している。


 ちなみに、コイツが使っていた棒も魔刀級の武器だった。名称を「炎枯棒」と言って、文字通り、棒を振ると炎を吹き出し、更に触れたものの水分を抜き去り乾燥させるというものだ。

 そう言えば、この棒を振る度にそんなことになっていたな……俺、掴んだぞ。何も無かったが、どうしてだろう? 状態異常完全耐性のスキルか? それとも、格上には効かないのか?


 ひとまず危険なものだということを確認し、俺が叩っ斬っておいた。何人かの冒険者達に、勿体ないと言われたが、危険すぎると黙らせた。持っても、どうしろってんだ。売って金を得ても、珍しいものだからあしがつくだろうし、そうなったら、確実に転界教に目をつけられるし。

 そもそも、こんな危ない、使い勝手も悪く、扱うにもかなりの剣術、及び気功スキルの熟練度を上げないと、所持者が枯らされ燃やされるというこの武器なんぞ、誰も買わないし売らないというグレンの言葉に、冒険者達は納得した。流石、良く回る舌だなと思ったが、小声で、


「まあ、俺なら珍しい武器が大好きなコモン様に売りつけるがな」


 と、笑い声で言ってきて、本当に大した男だと呆れを通り越し、感心していた。


 さて、他に何かあるかと出していったが、呪いの宝玉などは出てこなかった。ひとまず安心したが、代わりに、最後に出て来たものは、今までのものに比べて、少しばかり、異質だなと感じるようなものだった。


「ん? 何だ、これ……」


 取り出したのは、何か、文様が付いた首輪数個と、何かの書類、そして、小さな石の板のようなものだった。

 石の板はどこかで見たような気がする。どこだっけかと首をひねっていると、グレンがそれを見て目を見開く。


「お? そいつは、「スマホ」だな。珍しいもの持ってんなあ……」

「スマホ? ……って、確か……」


 ミサキが見せてくれた、ミサキが居た世界で、人々が使っていた板の事だな。離れた人間と話が出来るという便利な道具だ。

 この世界でもミサキやセインが、同じような魔道具を作り、屋敷でも十二星天の奴らが使っていたのをよく見ていた。ああ、そう言えば、こんな形だったな。

 グレンの言う、「スマホ」という魔道具について皆に説明すると、その場が少しどよめき始める。


「すげえ……俺らが知らねえことをムソウのオッサンが知っている……」

「くそう……効果付与の職人も知らなかったオッサンが、俺らの知らないことを知っているなんて……」


 若干悔しそうな声がちらほら。コイツ等、俺のことを「無知なおっさん冒険者」とでも見ていたのだろうか。あの時、グレンが誤魔化してくれていたが、全然意味なかったな。

 まあ、この件で少し勝った気がして、少々得意になって何も言わずに、その魔道具を弄ってみたりした。


「何も起きねえな」

「だな。この魔道具に関しては、俺も使い方を知らない。十二星天様は持っているということしか聞いていなかったが……」


 どこからか流出でもしたのだろうか。まあ、この件はあまり気にせずに、ひとまずスマホは放っておいて、首輪のようなものを手に取る。

 その瞬間、何か、違和感のようなものが首輪から全身を包み込んだ。


「ッ! ……何だ、これ?」


 気分悪そうにしていると、グレンが目を見開いた。


「ん? こいつは……「魔獣封環」か!? ちょっと待て! じゃあ、こっちの書類は……!」


 グレンは、驚いた様子で異界の袋から出てきた書類を手に取り、そこに書かれていたものを見始める。

 急にどうしたんだと思っていると、何かに行きついたのか、グレンは、頭を抱えて項垂れた。


「チッ……面倒くせえことしやがるなあ! あの野郎ッッッ!」


 そして、怒鳴りながら机を蹴り上げ、固かったのか、痛そうに足に手を当てて、ギャッ! と短く悲鳴を上げた。

 らしくない行動に俺達は動揺した。俺は、グレンの肩を叩き、話を聞いてみた。


「お、おい、落ち着けって……どうした? 何か分かったのか?」

「何か、どころじゃない。大体わかったぜ、ムソウ。少なくとも、コイツの裏でコソコソやっている奴らがな……」


 少し落ち着いてきた様子のグレン。はあ、と少しため息をついているが、俺達はグレンの言葉に驚いていた。特に俺とツルギの心境は穏やかではない。


「分かった!? コイツの裏でってことは、転界教の事か!?」

「説明してくれって!」


 二人で詰めよると、今度はグレンに落ち着けと、抑えられる。

 はやる気持ちをツルギと抑えて、大きく深呼吸した。


「で……分かったって何がだ?」

「ああ。まず、これを見てくれ」


 グレンは、椅子に座りながら、机に置かれた先ほどの首輪のようなものを渡してくる。どこからどう見ても普通の首輪のようなものだ。ただ、中心に魔石のようなものがはめられており、そこから何か、魔法陣に描かれているような文様が首輪全体に描かれている。

 首輪から伝わる違和感もあり、普通の首輪では無いのは分かっているが、他の冒険者達も、眉間にしわを寄せながら、俺の手にした首輪を眺めている。どうやら、皆もこれが何か分からないようだ。


「これがどうかしたか?」

「それは、「魔獣封環」と呼ばれるものだ。あまり……というか、表向きの市場には全く出てこないものだから、皆が知らないのも無理は無いだろうな」

「な、何で、そんなもんをアンタが知ってんだよ?」

「まあ、俺も噂で知っていたってだけだ。こういうものが出回ったら、気を付けろって意味でな」

「気を付ける? 何をだ?」

「この魔道具は、さっきの棒以上に危険なものなんだ。扱い次第じゃ、世界を滅ぼすっていう話もあるくらいにな……」


 グレンの言葉を聞いた途端、他の冒険者達は怪訝そうな顔をして、俺が持つ腕輪……というか、俺から離れていく。

 俺が、爆弾みたいな扱いをされているようで、少し傷ついた。


「仰々しい代物のようだな。どんな効果があるんだよ?」

「まあ、簡単に言えば、魔物の力を封じる首輪ってところだな。ほら、前にも話しただろ? 魔物商とかには、そういう力を持つ道具を持っている奴らも居るって」


 そう言えば、そんな話を聞いたな。これがその道具か。グレンによると、魔獣封環にはめられている魔石には、魔物の力を封じる、というか、魔物の闘争心を鎮めたり、睡眠を促したりする効果が込められており、この首輪をはめられた魔物は、ある種の催眠状態となって、人間の言うことを聞くようになるという。

 世界を滅ぼすってそう言うことか。これがあれば、魔物の軍勢を簡単に率いることが出来るな。ひょっとして、ケリスの従者が率いていた魔物の軍勢も、この首輪によるものかと、頭を抱えたが、グレン曰く、多分違うとのことだった。

 どういうことかと尋ねたが、それは後でと、言われたので、引き続きグレンの話を聞くことにした。


「さて、魔獣封環の説明は以上だが、この魔道具についての噂、俺がどこで聞いたかわかるか?」


 グレンは皆の顔を見回していた。誰も、う~ん、と考えていたが、答えられる人間は居なかった。正直、俺も分からない。グレンは情報通だが、その情報元は謎だからな。というか、情報も商材足り得るので、そう簡単には教えてくれない。

 だからこそ、俺達に当てさせたいと思っているようだが、さっぱりだった。


「分からないな。どこで聞いたんだ?」

「この世界のありとあらゆる情報が集まる場所って言えば、決まってるだろ。リエン商会だよ。この魔道具については、こういうものが、ある男の周りで出回っているから気を付けろ、見かけたら、すぐに連絡してくれと言われていた」


 グレンの言葉に目を見開く。不確定だが、俺にもグレンの考えが何となくわかってきた。


「ちょっと待て……その、ある男ってのは……まさか?」

「ああ……アマンだ。多分だが……」


 グレンは、首輪の他に出てきた書類を手に取りながら、自分の推理を皆に説明する。


 ケリスの従者の男は、アマンを介し、魔物商から大量の魔物を手に入れた。アマンは、首輪の力を転界教に売りつけるという意味も込めて、魔物を従者の男に渡した。試供品ということで、この首輪も渡したものと考えられる。

 証拠は、異界の袋から出てきた書類。そこには、リエン商会の中でアマンに与していると思われる商人の名前と、取引された魔物名とその金額が書かれていた。

 つまり、アマンも転界教と裏で繋がっているということだ。


 そして、その取引相手の中には、グレンが懇意にしている商人の名前もあるという。その商人も、転界教と繋がっているということで、厄介な魔道具の運搬役としてグレンは利用されていたということが考えられた。

 その為、グレンは激怒した。偶々、転界教に関わる仕事をしていたのだったらまだしも、ほとんどトカゲのしっぽ切りのようなものに利用され、更にグレンを介し、その商人にも俺のことが伝わっているので、ケリス以前に、転界教に俺の細かな詳細も伝わっていたということがここで明らかになる。


「チッ……信用していたのによお……」


 ガクッと肩を落とし、項垂れるグレン。商売は信用第一と考えているグレンにとっては、キツイ話だな。

 何と声をかけて良いのか分からないが、ひとまず元気づけようと肩を叩く。


「……取りあえず……俺は無事だからそこは……安心して良いぞ」

「……アンタは人を元気づけるのが下手だな……」


 顔を上げたグレンはそう言って、フッと笑みを浮かべる。


「……まあ……裏切られても、縁を切れば良いだけの話か……もう、アイツとは組まねえ……」


 何かに決心したような顔のグレン。少し邪悪な笑みを浮かべて、俺とジェイド達は少々苦笑いをしてしまう。

 元気にはなったようだが、なんだかなと頭を抱えた。


「それで、グレンさん。リエン商会のアマンが転界教と繋がっているってことは、リエン商会も転界教と繋がってるってことなのか?」


 転界教の事を調査していたツルギは、本当の所はどうなのかとグレンに確認する。

 俺も知りたいことだな。リエンという男に好感を抱いていただけに、それが事実なら結構衝撃が大きい話ということになる。

 しかし、グレンは首を傾げながら、ツルギの質問に答えた。


「いや……どうだろうな。リエンの旦那が転界教に関わっているとは思えない」

「それは何故だ? 根拠でもあるのか?」

「あるさ。まず一つ目に、リエン商会は、十二星天様とも取引をしている。アンタと懇意のジェシカ様の治癒院や、コモン様の天宝館ともな。転界教と繋がっていながら、その二人と取引するなんて無理だろう?」


 そういや、こないだのロロの仕事もリエン商会絡みだったな。アマンの店に運んだのは確かだが、交渉自体はレイヴァンの本部で行ったとのことだったし、リエンが十二星天とやり取りをしているというのは本当だろう。そうとなれば、リエン商会を調べて転界教のしっぽを掴むくらい、ジェシカやコモンにも出来るだろう。

 となれば、リエン含め、リエン商会全体的には転界教との関りは無いが、その中で、裏でコソコソとアマンとアマンに与している商人達だけが、転界教の息がかかった者達と考えるのが筋か。

 納得していると、グレンは更に続ける。


「二つ目に、リエンの旦那とアマンの仲が悪いってことも挙げられる。アマンはリエン商会を手中に収めたいって噂だからな。多くの商人を傘下に収め、転界教の後ろ盾を得られれば、それも可能と思っているのだろうな」


 グレンの言葉に、ジェイド達からも声が上がる。


「お、それは俺達も知っている。もう、三割くらいの商人がアマンに付いているってな」

「そうね。それで、マルドに進出したのも、マルド商会とターレン商会の商人を取り組むためって噂もあったわ」

「商売仲間に裏切られた、二つの商会の商人が嫌がらせしてるって話だけど、アマンが護衛とかに呼んだ冒険者が居るおかげでそれも最近減っているらしいぜ」

「そもそもマルド商会とターレン商会の長も、利益が上がるならアマンだろうとリエンだろうとどっちでも良いって考えだから、何も言っていないって話だったな」


 あ、そんな詳細な話は知らなかったな。嫌がらせの事は聞いていたが、そういう事情だったか。

 そりゃ、以前は仲良くやっていた奴らに裏切られたら腹立つよな……今のグレンみたいに。仲間を取られたりした腹いせに嫌がらせをしていたってことか。

 グレンも、そこまでの事情は知らなかったようで、冒険者達の話を、少々驚きながら聞いていた。


「二つの商会の事情は初耳だな。てことは、マルド商会とターレン商会、リエンの旦那かアマンの傘下に入ることは別に良いって考えているのか?」

「ああ。以前はリエンと一緒にやりたかったらしいが、最近勢いのあるアマンを見ていると、傘下に入った方が安全と思っているらしい……って、護衛の依頼をやっていた奴らから聞いた。ちなみに、そいつらもあまり護衛の依頼とかをしないリエンよりも、アマンの方が好感が持てるとか言っていたな」

「まあ、それはリエンの旦那自身の腕っぷしがそこらの冒険者を遥かに凌駕しているからな……」


 ほう……それは、ますますリエンという男に興味が沸く。自分が強いから、護衛も要らないというのは、なかなか剛毅な男の様だ。

 っと、話しが逸れたな。ひとまず、マルドで展開されるアマンやその周辺の話には、全ての疑問が解けたような気がして、思わずため息が出る。

 どこの商会にも与さないタクマ達の判断は流石という他ないな。


 しかし、アマンが注意するべき男という話は聞いていたが、結構な野心家だったとはな。リエンが創設した商会の三割の商人を抱き込み、その頭をすげ替え用としているとは。イーサンのような、商人を監視する役を設置する理由も分かる気がする。

 その目的の為に、表ではできない商売を行い、そこから転界教に繋がったってわけか。何となく、納得してしまう。

 そして、ということは、ということで、芋づる式にリオウ海賊団も転界教に繋がっているという可能性も示唆されてきた。転界教を潰すのは、本当に苦労しそうだなと頭を抱える。


「とまあ、これ以外にも理由はあるが、確たる根拠というわけでは無いから今は言わないでおく。

 だが、リエンの旦那は、こんなところと取引するような人間じゃないってことは、言えるぜ」


 まっすぐと俺の目を見てくるグレン。その顔は、心底リエンという男に惚れ込んでいるという感じだ。

 それで、リエンと転界教の繋がりを否定するというわけではないが、今までの話から、その可能性も低いことは納得した。

 ひとまず、話を聞くなら、これらの証拠を突きつけてアマンの所に乗り込めば良いのかと聞くと、グレンは微妙そうな顔をする。


「う~ん……今から行くのは得策じゃないだろ。マルドにはツバキさんやリンネの嬢ちゃんが居るんだからな。アマンをどうにかできても、タクマさんの家が危ないだろ」

「まあ、そうだな……」


 正直、今すぐにでも帰りたいが、流石にアマンも騎士であるツバキには手を出さないだろうし、俺のことが伝わっているなら、なおのこと何もしないだろう。

 するとしたら、ケリスのようにかなりの時間をかけて決行するはずだ。ここで謙遜してはいけないと自分でも分かっているが、俺はこの世界でもかなり恐れられているようだからな。今はまだ良いが、ジェイド達も、俺の名前を知ったときは、かなり動揺していたし。

 そんな俺を、刺激することは得策ではないと、商人であるなら分かるはずだ。


「だからまあ、明日、シンキ様にあの男を引き渡した後、シンキ様と一緒に、アマンの所に乗り込んだ方が良いと俺は思う」

「そう……だな……」


 とは言うものの、やはり若干心配する。後ろ髪を引かれる思いではあるが、俺はグレンの言葉に従うことにした。

 ジェイド達もこの村に残るので、特に心配はない。朝まで男の監視をしながら、寝たい者は寝て、グレンはサーラの元に戻り、俺はツルギと共に、朝まで魔物の残党が居ないかと確認しに行こうと、皆と解散しようとした時だった。


ピィーピィーピィー……


「「「「「!?」」」」」


 辺りに響く甲高い音。ケリスの従者が目を覚まして何かしようとしたのかと、一同立ち止まり、身構える。

 しかし、音は男から鳴っていなかった。それどころか、男は依然気を失ったままだ。

 ではこの音は何かと、音のする方に顔を向ける。

 そこでは、机の上に放置していた魔道具、「スマホ」がぼんやりと光を放ちながら、音を鳴らしていた。


「ああ、これか……」

「鳴ってるけど……どうすりゃ、良いんだ?」


 俺とツルギは困惑した顔で、皆に助けを求めたが、流石に珍し過ぎる魔道具の事は誰も分からないらしく、次々と視線を外していく。

 すると、ため息をつきながら、グレンが戻ってきた。


「うっすら覚えている限りでは、この音は、それと対になるスマホを持っている奴が飛ばした魔法に反応したって合図みたいなもんだったな。魔道具に魔力を通す感覚で魔力を込めたら、相手と話が出来るが……」


 流石、グレン。頼りになる。誰も知らない魔道具の使い方を知っているとはな。原理は分からないが、今、この魔道具で遠くに居る誰かが、この魔道具の持ち主、つまりケリスの従者の男に話をしたいらしく、この魔道具に込められた魔法を飛ばした。

 こちらも魔力を込めて、その魔法を起動させるとそいつと話が出来るらしいが……。


「って言われてもな……」


 どうしたものだろうか。まず、ケリスの従者は眠ったままだ。というか、俺達が出ても意味は無いだろうと、このままやり過ごすことにした。

 だが、ここで、ジェイド達の方から一人の冒険者が手を上げる。


「あ、ムソウさん。私にいい考えがあるわ」


 声をかけて来たのは、女の魔法使いの冒険者デネブ。ジェイド達は道を開けて、デネブが前に出てきた。


「どうする気だ?」

「ちょっと、あのおじさんの物まねでもしようかと思って。上手くすれば、相手から、情報を引き出せるかもよ?」


 デネブがやりたいのは、敢えてスマホに魔力を通し、向こうの相手と会話をしてみるとのこと。

 恐らく相手は転界教か、アマン、もしくはその二つに繋がる何者かだろう。ケリスの従者に成りすまして、そいつらから情報を引き出すという案が良いと思ったが……。


「物まねって……どうするんだよ?」


 この作戦の一番の障害はそれだ。いくらデネブが腕利きの冒険者だろうと女だ。男であるケリスの従者の声真似は無理があるだろう。だったら、ジェイド達にやらせた方がまだ、マシだと思っていると、デネブは顎に手を置いて、クスっと笑った。


「こうするの。あー……あー……あ゛ー……」


 発声練習のような仕草をするデネブの声が、徐々にしゃがれてくる。そして、最終的には、老人のような声になったところで、デネブはこちらに顔を向けてきた。


「ふむ……こちらなら、心配ないかと……」


 デネブの声は、ケリスの従者の声、そのものだ。話し方まで真似をしているということで、姿はデネブのまま、話している相手はさっきまで闘っていた男と、頭が混乱してくる。


「すげえな。魔法か?」

「魔法も少し使いましたが、主には擬態スキルです。これでバレないかと……?」


 ああ、スキルか、と思う前に、やはり見た目が若い女でその声だと違和感が半端ない。だが、目を瞑れば、従者の男のまんまだ。大したものだと感じる。

 そして、姿を見なければ、確実に魔道具の相手は、自分が話している相手はケリスの従者の男だと錯覚するだろう。

 これなら安心だと、デネブの提案を受け入れた。


 その後、ツルギ、グレン、そして、ジェイド達と話し合い、どういう情報を聞き出すかを確認し合った後、デネブは魔道具を手に取った。


「では……いきます……」

「ああ、頼んだ」


 万が一の時は代われと言ったが、代わったところで何をすれば良いのか分からない。取りあえず、相手にはケリスの従者以外に周りには誰も居ないことは悟られるなと、グレンに言われて、俺は黙って頷いた。下手なことはしないようにしよう。


 そして、デネブは魔道具に魔力を込めて、口を開く。


「申し訳ございません……少々、用事がございましたので遅れてしまいました。何か御用――」


 ……しかし、デネブが言葉を言い終わらないうちに、デネブの持つスマホから、男の声が聞こえてきた。


『ようやく出たか! おい! あれは何なんだ!? アイツは何なんだ!? 説明しろおおお!』


 声は怒っているような、慌てているような、切羽詰まっているような、取りあえず、男の身に何か起きているというのが分かるような口調だった。

 突然の出来事にデネブが驚き、俺達に顔を向ける。いや、向けられても困る。前準備がほとんど無駄になった。

 一応、グレンにこそっと、相手がアマンかと聞いたが、違うと否定された。

 何が起きているのか分からないが、ひとまず相手の事を知るために、話しを聞けとデネブに合図する。なおも魔道具の向こう側から、男の声が聞こえてくるが、デネブは俺達の指示に頷き、大きく深呼吸をして、口を開く。


「落ち着いてください……何があったのでしょうか?」

『あ、アンタの指示に従って動いたら、こうなっちまった! あの女は何だ!? うちはめちゃくちゃだ! どうしてくれる!?』

「ですから、詳細なことを教えていただけませんか? 私もこちらの件で忙しいのですが……?」


 デネブ、誘導が上手いなあ。思わず感心する。

 それよりも……なんだ? 向こう側の男の慌てようは。取り合えず、大変なことがその男の身を襲っているということは分かった。

 更に話を聞けと合図し、デネブは頷く。


「もう切りますよ? あなた方の事を気にかけている暇など、こちらにはありません……」

『なッ!? だから言ってるだろ! こうなったのは、テメエの指示だってなあ! アマンの旦那も逃げた! テメエが用意したアイツもやられたし、も、もう、うちは、俺達は終わりなんだよ! テメエも、危ないってことを理解しろ!』


 男の言葉に、一同目を見開き、思わず変な声が出そうになった。

 アマンが何だって? 何で、ここでアイツの名前が出るのだと、グレンに顔を向ける。グレンもただただ驚いては頭を抱えている。


 それにしても、魔道具の向こう側の男は何が起こっているのか、話してくれない。かなり錯乱しているようだ。このまま話を聞いても埒が明かないので切り上げようとデネブに指示を出そうとした時だった。

 声色が変わった男の声が魔道具から聞こえてくる。


『ひっ! き、来た! ここまで! き、き、来たあああ~~~ッ!?』


 今度は完全に何かに怯えるような声になっている。どう足掻いても、何も出来ないという恐怖と、悲壮感に満ちた声を上げている。目を白黒させ、こちらをちらちらと見ながらも、落ち着いた様子でデネブが声をかけているが、男からの反応は無い。

 何かがこぼれるような音と、何かを叩く音、そして、男の引きつったような声だけが聞こえてきていた。

 本当に何が起きているのかと思っていた時、断続的に聞こえていた何かを叩く音が、急にドンっと、大きなもの一つが聞こえてきた。その瞬間、男の絶叫が聞こえてくる。


『や、やめろ! 俺をどうするつもりだ!? 俺はここを任されている男だぞ!? 俺に手を出せば、テメエの――グアッ!』


 何かに対して、何か言っていた男だったが、ドサッという音と共に、短い悲鳴を上げた後、何も聞こえなくなった。

 音と悲鳴だけを聞けば、男が怯えていた何かに当て身か何かをされて、気絶したか死んだか……何に襲われたのか、そもそも男は何者なのか。

 静寂に包まれながら、この先はどうすのかと、デネブがこちらに視線を移す。これ以上はどう考えても無理だろうと皆で判断した時だった。

 再び、魔道具から声が聞こえてくる。


『次は……貴方の番です……首を洗って……待っていなさい……』


 ……それは、静かだったが、確実に怒っている怨嗟に燃えた声。強い憎悪を感じさせる聞いたことも無いような……聞き慣れた声だった。


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