第324話―ケリスの眷属を斬る―
男を掴みながら森の中へ入っていく。森の中で控えていた魔物たちは、俺の天界の波動を受けて、そのまま消滅していく。
だが、一番近い場所に居るはずの男は、消滅しない。俺の腕を掴みじたばたとしているだけだ。やはり、タダの人間ではないことは明らかだ。魔物に近い存在だが、元は人間だから効かないのか、コイツ等よりは格上の存在だからか……。
感じられる力は、超級以上、災害級と同等だ。デーモンロードよりも大きな力を感じる。
一刻も早くこいつをどうにかしようと思った時、男が俺に手を向けて魔力を込め始める。
「いい加減に……放しなさい……ッ!」
「チッ!」
魔力の塊を撃ち出される前に、俺は男を放り投げる。大木に向かって飛んで行く男は、空中で態勢を立て直し、地上に降りる。俺もその場に降りて、男と対峙する。
「小賢しい真似しやがって……まあ、良いか」
辺りはそれなりに開けている広場となっている。村からも離れて、近くに人は居ないようだ。余計な魔物も居ないから、ゆっくり話をすることが出来る。
男は、ふう、と息を吐き、俺の方を睨んできた。
「やはり……一筋縄ではいかないようですね……」
「簡単に俺の首をとらせてたまるか……それより、幾つか確認したいことがある」
無間を肩に担ぎながら、男を見据えた。俺もだが、向こうも警戒は解いていない。会話をしながら、お互いに隙を伺っている。
「お前は……ケリスの従者か?」
「……ええ、そうです。アナタや、クレナの“刀鬼”に殺められた、ケリス・ゴウン様は、私の主……でしたッッッ!」
男は素早く袖から村の前で俺に飛ばしてきた五寸釘のような鉄棒を取り出し、俺に向けて放ってきた。無間でそれを弾き、俺は駆け出す。
「ハッ! それで俺を殺して仇討ってわけか! あんな野郎に忠義を尽くすなんざ、テメエも馬鹿だな!」
「何を……! ふざけるな!」
ケリスの従者だった男には、やはりこの手は駄目だったか。かなり怒らせてしまった。体中から闘気と共に魔力を放出させ、俺に向かってくる。
懐から異界の袋を取り出し、更にそこから禍々しい波動を纏った棒を取り出し、俺に向かって振るってくる。
無間でそれを受け止め、躱し続けると、男は更に棒を振り回し、攻撃を続ける。
攻撃を続けながら、男の身体が徐々に変化していく。
頭からねじ曲がったヤギのような角が生え、背中から、二対四枚の翼が生える。そして、怪しく紫に光る文様が全身を通って顔にも刻まれていく。赤く輝く瞳で俺を睨みながら、棒を振り続ける男。
力は上がっているようだが、技量の方はそのままだ。受け止めることは出来る。技量だけ見れば、そこそこ出来るようだが、俺には通じなかった。
「俺を殺すために人間捨てたってか? バカだな、お前ほどの技量なら、そこまでしなくても、充分俺を殺せたろうにな……」
「これは……この力は……ケリス様から授かったもの……私がケリス様に誓った忠誠の証として、ケリス様が私に下さったものです! それを馬鹿ですと!? 身の程を知りなさい!」
一層力を込めて振るわれた棒を、俺は掴んだ。そして、男の顔を殴り飛ばす。
「ガハッ!」
男はそのまま吹っ飛び、背後の木を幾らか折った後、岩にぶつかって止まった。
よろよろと動こうとする男に無間を突きつけて動きを止める。
「忠誠の証? ……いや、違うだろ。知ってるぜ? そいつは、「眷属化」ってやつだろ?」
シンキの報告にあった、あのおぞましい実験の事だ。ケリス自身が、他者に魔力を与えて、対象の力を上げるというもの。
何人かの老若男女、種族を問わず、その実験を行い、死者まで出したそれは、一人の男、手記に書いてあった、ケリスの家の従者に行ったことで、完成された。
その為、行方不明になったその男を、ツルギ達やシンキが追っていた。
だが、追っている対象の力があまりにも強大な可能性が示唆されたこと、転界教の規模が大きくなっていることなどを考え、ツルギ達の任を解き、スーラン村に呼んだ、というのが、今回の村での作業のあらましだ。
結果として、眷属化に成功したコイツは、先ほどの話を聞く限り、自分を追っていたツルギ達を襲おうと、力を蓄えてここに来たって感じだな。
本当に、俺のことについては、偶然だったらしい。俺としても、流石に驚いたが、こうして、男の力を感じて、その判断は間違いじゃなかったと痛感する。
無間を突きつけながら、なおも感じる男の力。禍々しく、強大で、まさしく邪神族の眷属と言われるにふさわしい迫力を感じさせる。
その力の源は、あの実験……幾人もの命を簡単に奪った実験に由来するものだ。
それをこの男は、忠誠の証として、ケリスから「授かった」ものと言っている。
……ふざけんじゃねえ。
「何が忠誠の証だ? たかがその為だけに、どれだけの命が使われたか……テメエは分かってるのか?」
「それは、あの者達の忠誠心が私に比べて小さかっただけのことです。ケリス様のご期待に応えられなかったあの者達が悪いのですよ……」
「あ? 忠誠心が小さかった? あんな奴に忠誠を誓うなんざ、世界広しと言えど、テメエか、闘宴会のバークっつったか? あの馬鹿くらいだ。
人の命を弄ぶような奴に忠誠を誓うテメエらよりは、死んでいった奴らの方がまだマシだ!」
「黙りなさいッッッ!」
棒を振るって、無間を払いのけた男は、更に激高し、狂ったように棒を振り回す。振る度に、魔力が溢れ、辺りの草木を枯らし、燃やしていく。変な効果だな。
気を纏わせて無間で応戦していく。
「貴方に何が分かるのですか!? ケリス様は、私の力をお認めになられた! 誰からも認められなかった、私の能力を! そして、五十年以上も私を側に置いて下さった! ケリス様の至高なるお考えについてこられなかった者達の事など知りません! ケリス様に従わない者達の事など知りません! 私が、最後まであの御方の側に居ることが出来れば! 貴方さえ居なければ……! 全ては貴方の所為だ! だから、私は貴方を――」
「ぐだぐだ……やかましいんだよ!」
男の攻撃の合間を縫って、俺は男の腹を蹴り飛ばす。
再び岩にぶつかり、身動きが取れなくなる男の首を掴んだ。
「グゥッ! は、放せッッッ!」
「うるせえよ、カスが……」
―死神の鬼迫―
じたばたする男を、死神の鬼迫で黙らせた。俺が放つ殺意により、男は徐々に静かになり、表情を青くしながら体を震わせる。
「さっきからうるせえんだよ……良いか? ケリスが死んだのは、アイツが俺と……いや、俺は殆ど関係ないか。アイツがクレナの“大侠客”に喧嘩を売ったからだ。
アイツの馬鹿げた計画とやらに爺さんを巻き込み、コウシ達を殺し……そして、トウショウの里をその悪意で呑み込んだ。
爺さんは仲間の無念を晴らし、故郷を護っただけだ。俺は爺さんの手伝いをしただけだ……テメエの主は、自分の行いのツケを払っただけ。
……それをいつまでもネチネチネチネチと……当主が既に死んだんだ。テメエもいい加減、腹を決めろ……!」
男の首を掴む手に力を込める。そして、技を発動させると、俺の体が輝き出し、その光は男の身体を包んでいく。それと同時に、男の背後に五芒星の魔法陣が描かれた。
その瞬間、ケリスの従者は苦悶に満ちた表情になっていく。
「ぐはっ! こ、これは……力が……力が……ケリス様のお力が……抜けて……な、何をした!?」
じたばたしているが、それも段々と落ち着いていく。それと同時に、背中の羽も、頭の角も徐々に小さくなっていき、体に刻まれている文様もゆっくり、スーッと消えていく。
男は訳が分からないという表情で、なおも暴れ続けるが、俺は決して手を放さなかった。
「あの野郎から授かった力なんぞ、この俺が消してやる……この力を使って、俺の護りたいものを傷つけるってんなら、すぐにでも消してやる……“死神”舐めんな……!」
俺は男の中に流れる、ケリスの魔力を神人化することによって得た能力、「封印術」を使って封じていく。魔物のような見た目だった男は段々と元の、普通の人間のようになり、ガクッと力を失くしたように項垂れた。
「そんな……馬鹿な……ゔッ!」
そして、元に戻った男に、強い殺意を浴びせて、男を気絶させた。それと同時に、魔道具と思われる男の得物も沈静化する。
男が完全に意識を失ったことを確認し、俺は男から手を放した。
「ったく……手間取らせやがって……叩ッ斬ってやりたいが、テメエには聞きたいことがある。今はまだ、生かしておくぜ」
コイツを追っていた理由の最大の目的は、転界教の事を詳しく聞く為だ。ツルギ達の事を把握していたり、魔物を率いていた辺り、ケリスの代わりに、転界教内部で動いていた可能性が高いからな。
今はまだ殺さず、後でシンキに身柄を預けて、しっかりと情報を聞き出すことにしよう。
……さて、俺は男を縛り上げ、肩に担ぎ、村の方に戻った。そして、辺りの気配を探る。
戦況はどうなっているのかと確認したが、結論から言えば、冒険者達は無事だ。今もなお、魔物たちの数を着実に減らしている。ジェイド達はあの後二手に分かれたようで、戦いながら、東西の門の方向に進んでいるようだ。
東門を護るフジミ達の方は殆ど魔物が減っているが、西門のツルギ達の方は、若干魔物の数が多い。
俺はそちらに向かうことにして、その前にと光葬針を生み出し、五十体ほど武者の形に変化させた。そのうち半分を東門に向かわせて、十五体を辺りの偵察に向かわせる。気配は感じないが、隠蔽スキルを使っている可能性もある。見つけ次第、そいつらに殲滅させるつもりだ。
残った十体と共に、俺はツルギ達の方へと向かった。
門に近づくにつれ、ツルギ達の雄たけびと、戦いの音が聞こえてくる。更に近づくと、戦場が見えてきた。暗い中ではあるが、誰かが放った光の魔法で、はっきりと姿を確認できる。
皆、楽々と魔物を相手にしているようだが、陣魔法を使うミニデーモンや、固まって合体するスライム、更に魔法や特殊な息を吐くワイアームやグレムリンなど、やはり普通の下級の魔物の軍勢よりは若干強いようだ。
俺は敵の軍勢を指さし、武者たちに指示を出した。
「行け!」
武者たちは、そのまま敵軍になだれ込むように突っ込んで行き、ツルギ達が相手にしていた魔物を斬り伏せたり、怪我を負って動けない者の前に立ち、敵の攻撃を防いでいた。
「これは……オッサン!」
「無事か、ツルギ」
俺のことに気付いたツルギやムソウ一派の者達は、俺の姿を見てニカっと笑い頷く。
その他の冒険者は、信じられないものを見ているような目で、俺の姿を見ていた。後で説明するのは大変そうだ。
そして、こちらにはジェイド達が来ている。ジェイドは二振りの大斧を振り回しながら、こちらに顔を向けた。
「ムソウ! お前がここに居るってことか、さっきの爺さんは何とかなったんだな!?」
「ああ。何とか捕らえることは出来た」
「良し! 野郎共! 色々とあのオッサンに聞きてえことはあるだろうが、今はまだ戦闘中だ! 気を抜くな!」
ジェイドの言葉に、俺の姿に驚いていた冒険者達も、頷き、戦闘に集中し始める。
ツルギは俺に心配そうな顔を向けていた。
「オッサン……その恰好」
「もう、なりふり構っている状態じゃない。そんな余裕も無いしな。だが、ジェイド達を見て俺も安心した。ひとまずこの状況を何とかする」
そう言って笑っていると、ツルギも徐々に笑顔になっていく。
「了解だ! ザンキって呼ぶのも、いい加減面倒になって来たからな! やっぱりこっちの方が良い。
ただ、ムソウ、少しお願いがあるんだが……?」
「ん? どうした?」
「その……神人化と、あの光る兵士……止めてくれねえか? ただでさえオッサンが闘うと素材が残らねえのに……」
ツルギは苦笑いしながら、光葬針が闘っている光景を指さす。斬った魔物はもちろん、近くにある魔物の死骸さえも浄化していく。そばに居た冒険者は、ああ! と言いながら、その死骸のあった場所に手を伸ばしていた。
村の作業に加えて、この魔物の素材を回収出来ればちょっとした小金持ちになる。だが、それを俺の能力によって台無しにしている。
気持ちは分かるが、今神人化を解くと、フジミ達の方に行った光葬針や、偵察中の光葬針も消えてしまう。
「今日だけは我慢してくれねえか?」
「……まあ、後でムソウが全員に金を払うんなら良いと思うが……」
「どれくらいだ?」
「金貨十枚くらいか……?」
意外と獲る気なんだな……どうしようかと思ったが、背に腹は代えられない。ツルギの提案に頷く結果となった。
「分かった。約束しよう……」
すると、ツルギは満面の笑みを浮かべて、大きく口を開いた。
「全員聞いてくれ! ムソウが本気を出すとご覧の通り、素材は残らない! だが、ムソウは、その代わりに全員に金貨を十枚ずつ払ってくれるそうだ! 俺達も遠慮せず闘うぞ!」
その言葉に、冒険者達は少し遅れて歓喜の声を上げる。
「本当か! 言質取ったぜ、オッサン!」
「ムソウ……ザンキさんが、あの、ムソウ……少々驚いたが、ムソウさんということは大金を持っているってことだ! 期待してるからな!」
「あ、じゃあ、私は今のうちに素材を集めておこっと~!」
中には、戦いながらも器用に仲間達と一緒に魔物の死骸を異界の袋に仕舞う者達も居る。ほとんど打ち捨てだからな。本来は、後で素材も分配するんだろうが、金貨十枚はそれ以上の価値だ。
ほとんどが気にした風もなく、魔物たちと闘い、中には光葬針に任せている奴も居るくらいだ。
これで俺は皆に金を払わないといけないなと苦笑いしていると、ツルギが肩にポンと手を置いた。
「じゃあ、頼んだぜ、ムソウ」
「スーラン村の報酬が飛んだな……モンクでは、俺は金に嫌われているらしい……憂さ晴らしだ! 行くぞ、ツルギ!」
「ハハッ! また、オッサンの横で闘える!」
俺が飛び出すと、ツルギは得物を構えて、魔物たちとの戦いに身を投じていく。
付け焼刃とも思えぬほどの連携を図りながら、徐々に魔物を減らしていく。
そして、ある程度の魔物を斬り終えた頃、村の中央から警鐘の音が聞こえてきた。
まだ、何かあったかと思っていると、そこからグレンの陽気な声が聞こえてくる。
『ムソウ! 東門の魔物も殲滅出来たぞ~! 残ったのはお前らだけだ~!』
若干の挑発も混じった、グレンの声というのは、何とも俺達を奮い立たせるのに十分な効果を発揮させた。
「後で覚えておけ! 奥義・大螺旋大斬波ッッッ!」
「俺達も続くぜ! 水簾斬波ッッッ!」
「ジェイド殿、俺に合わせてくれ!」
「お前が俺に合わせろ、フガク! 奥義・双斧砕頑斬ッッッ!」
俺の最後の一撃に合わせて、ツルギと、フガク、ジェイドの三人と共に、他の冒険者達から残っていた魔物に向けて大技を放つ。凄まじい爆音と共に、魔物たちは皆の技により蹂躙され、辺りの地形が明らかに変わった。
その場に降り立ち、神人化を解いた。光葬針もそれと同時に消えると、やはりというかなんと言うか、慣れていない様子の冒険者の中に、何人か手を振ったり、別れを惜しんだりしている奴も居る。
何となく微笑ましいなと思いつつ、辺りの気配を探った。結果は……
「……良し。こっちも、魔物の殲滅は終わった!」
俺の言葉に安堵し、喜びを分かち合う冒険者達。それぞれの活躍を労いながら、回復薬を分け合ったりしている。
櫓に上り、村全体に闘いが終わったことを報告し、ケリスの眷属だった男を連れていったん、皆と合流しようと歩いていた時だった。
ジェイドを含めた、この村の作業に来ていた冒険者達に声をかけられる。
「さて……闘いも終わったことだし、話くらいは聞かせてくれるんだよな、ムソウさん?」
「ああ……金もその時に払うよ。だから、取りあえず今だけは休ませてくれ……」
俺の言葉に、皆はニカっと笑って頷いてくれていた。
これから、朝にかけて……いや、日が昇ってもか。やるべきことは多い。コイツの所為で、散々な目に遭ったと担いだ男を見て、ため息をついていた。
◇◇◇
ひとまず村の中央に未だ並べられていた机を囲む俺とグレン、ツルギと何人かの冒険者達。
襲ってきた魔物の掃討は終わったということで、避難所から村人たちを家に戻すサーラやレミア達、それに、一応と思い、村の正面と東西に見張りをしているムソウ一派以外の冒険者達、それぞれのパーティの代表者がここに集まっている。
明日の朝からここを出る奴らも集まり、取りあえず、事情を話してくれという皆に、俺とグレンとツルギはこれまでの経緯と、俺が正体を隠していた理由を話していった。
あまり目立ったことはしたくなかったということを話すと、ジェイド達はうんうんと納得した様子で頷いている。
「なるほどな。まあ、気持ちは分かるな。俺も、アンタがクレナの動乱を止めた冒険者のムソウだと知っていたら、付き合い方を考えていたかも知れないな」
「俺に関しちゃ、腹を壊していたかも……」
「俺……アンタに失礼なことしてねえよな?」
不安そうな顔をする冒険者達に、苦笑いしながら、そんなことは無かったと伝えると、良かったと安堵した表情になる。
「んで、あの男は、アンタが斬ったっていう、神人の貴族、ケリス卿の従者で、元々は行方を追っていたツルギ達を襲う為にここを襲ったと。
だが、運悪くアンタがここに居たから、目標をアンタに切り替えたってのが、さっきまでの経緯ってわけか……」
「まあ、そんなところだな。俺がケリスを斬ったわけじゃないが……まあ、お前らを巻き込んで済まなかった」
俺は立ち上がり、皆に頭を下げた。すると、横に居たツルギも立ち上がって頭を下げる。
「俺からも謝らせてくれ。そもそもの原因は俺達の不始末みたいだからな。向こうが来る前に何かしらのしっぽでも掴んでいれば良かった……本当にすまなかった」
ツルギ達はそんなに悪くないはずだよなと思ったが、それでも謝ったツルギに敬意を表し、何も言わなかった。
とにかく、俺達の事情にジェイド達を巻き込んでしまったのは、本当に申し訳ないと思っている。許されなくても良いと思いながら、皆に頭を下げ続けていた。
……罵声でも飛んでくるかと思っていたが、皆から帰って来たのは、力の抜けた、キョトンとした声だった。
「いや、そのあたりは別に良いが……さっき言っていた金貨二十枚は本当にくれるんだよな?」
「頭を下げる前に、まずはそれからだな。俺達は明日出ることだし……貰えるなら今のうちにな」
「魔物の素材も想像以上に回収出来なかったからね~。お詫びをしたいなら、それでお願い~」
顔を上げると、手を俺に向けている皆。
……あれ……増えてねえか? 確か、ツルギが言ったのは、金貨十枚だったような……。だが、ここでそれを言うのはいけない気がする。納得は出来ないが、皆に金貨を二十枚を支払わないというのは、皆に対して申し訳ないと思っている俺がやるのは一番駄目な気がした。
俺は、異界の袋から、金貨を入れている袋を取り出す。中身を確認し、顔を上げた。
「……分かった。今渡すから、それぞれ、部隊の人数分受け取ってくれ」
「「「「了解~!」」」」
俺の言葉に、皆はニッコリと満面の笑みで頷き、俺の前にずらっと並ぶ。ここに居るだけでも十人、それぞれ三人から五人くらいの部隊を率いているから、最大千枚ほど無くなるのか……。
結構いくなあ。やはり増えてはいたが、元々、この提案をしたツルギは、俺と同じく何も言わずに、先ほど、皆に下げていた以上に、俺に頭を下げていた。
皆に金を渡していくと、大量の金を眺めながら、口笛が吹かれる音が聞こえてくる。
音のする方を見ると、ご機嫌なグレンの顔が見えた。声は出さず、
『良かったな』
と、伝えてくる。色々とあっても、俺達との関係は変わらない。それはとても嬉しいことだが、この損失はかなりデカいなあと喜んでいいのか、悲しんで良いのか分からない顔で、ただただ皆に金を渡し続けた。




