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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
ツバキが里帰りする
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第323話―村が襲撃される―

 空を飛んでいる大きな炎の塊はまっすぐこちらに向かってきている。かなりデカい。ミニデーモンが陣魔法を使って生み出したものくらいはある。色々と疑問は尽きないが、このままだと、フジミとリドルに当たってしまう。というか、村に被害が及んでしまう。


―ひとごろし発動―


 無間を持ってきていないので、ひとまずスキルで身体能力を上げた後、その場から火球に向かって跳躍する。


「剛錬掌波ッッッ!!!」


 気を放ち、火球にぶつけた。装備が無くても、ひとごろしによって極められた気功スキル。威力は申し分ない。火球は村に到達する前に、爆音とともに空中で爆ぜる。何とか村は無事だ。

 爆音と閃光にハッとした様子のフジミとリドルは、柵の上に降りる俺に目を向ける。


「ざ、ザンキさん!? 一体何が!?」

「と、というか、い、何時から――」

「今はそんなことはどうでも良い! フジミ! どうやら何らかの敵が現れたようだ! 今すぐ皆を叩き起こして、厳戒態勢を敷け!」


 咄嗟の事で慌てた様子だったが、フジミはすぐに頷き、櫓に取り付けてある警鐘を鳴らした。何度も叩くうちに、村の家々に明かりが灯り始める。その隙に、俺はスキルを解いた。何が起きているのか分からない以上、最初から疲れるわけにはいかないからな。

 リドルはフジミの隣で、未だにオロオロとしていた。


「ふ、フジミ姉さん! それにオッサン! これは一体……」

「まだよく分からん! だが、攻撃を仕掛けられたのは確実だ。確実に、この村を狙う何かが居る! リドル! お前は、フジミと一緒に他の奴らと、村人の避難を――」


 敵の事は未だに不明だが、村人たちを安全な場所、つまり、例の洞窟に避難させる必要がある。俺はリドルとフジミに、グレンやツルギ、ジェイド達と落ち合って避難準備をするように指示を出そうとした。


 その瞬間……。


「その必要は無い!」


 突如辺りに響く声。何事かと声のする方を見ると、櫓を取り囲むように、冒険者達が一斉に姿を現した。


「なッ!?」


 その光景に、俺は呆然とする。今の今まで、気配すら感じなかったのに、ツルギを始めとしたムソウ一派や、ジェイド達、他の冒険者も揃っている。グレンとサーラもその場に居た。

 俺と同様に、フジミとリドルも口をあんぐりと開けている。


「お、お前ら、何時から居たんだ!」

「いやもう、最初からだ。フジミとリドルがこの櫓に向かった時から、隠蔽スキルだったり、迷彩トカゲの外套とか使って、潜んでいた」


 慌てる俺達に平然とした様子のジェイド。何やらにやにやとしている。ここでのやり取りを全部黙って聞いていたらしい。

 リドルは顔を真っ赤にして、同じくニヤニヤしている自分の仲間の冒険者達に怒る。


「お前ら! 卑怯だぞ! コソコソしやがって!」

「コソコソも何も、宴会中にフジミ姉さんをチラチラ見ては、今日こそ……今日こそ……とか言っていたのはどこのどいつだ?」

「そして、コソコソ俺達の家から離れていったのは誰だ? 流石に気になるって」


 なるほど……宴会中にリドルの事を不審に思った、コイツ等が、皆と示し合わせたってところか。フジミがどうするか気になったツルギ達も皆に乗っかったという感じだな。

 グレンとサーラは面白いもの見たさってところか。ご丁寧に、迷彩トカゲの外套まで用意している。

 俺も、普段から周囲の気配を探っているわけではないからな。特に今回は、フジミとリドルに意識を集中させていたので、気が付かなったというわけか。

 皆、俺の事も誘ってくれれば良かったのに。

 フジミは、ツルギ達に呆れたような目を向ける。


「アンタ達ねえ……趣味悪いわよ」


 そんなフジミの言葉に、ツルギはニカっと笑う。


「まあ、良いじゃねえか。お互い、何も悔いなく別れることが出来るんだからな」

「まったく……って、こんな話をしている場合じゃなかったわね。リドル、落ち着いた?」

「何が何だか……だが、お前ら、この件については後回しだ。良いな!?」


 リドルの仲間達は、リドルに「お~う!」と、気の抜けた返事をする。

 やれやれと頭を掻きながら、今日まで皆を纏めていたジェイドは、ゴホンと咳払いをしながら口を開く。


「さて……それで、皆……というか、ツルギ、グレンさん、そして、ザンキ、これからどうする?」


 ジェイドの言葉を聞いたツルギとグレンは、俺に視線を向けた。この場は俺を指揮官に立てるらしい。俺も二人に頷いてそれぞれに指示を出す。


「まず、村人たちを避難させる部隊と、ここと東西の門で闘う部隊に分ける。ここは俺とジェイドの部隊で固める。東西の門はツルギとフジミ、それぞれに任せる。

 それから、グレンには村人の避難が終わったら、補給部隊に回って欲しい。無論、何人かの冒険者もグレンについてくれ。特別にレミアは、避難場所で村人の世話を頼む。回復魔法が使えるのはお前だけだからな。万が一に備えてくれ」

「分かりました!」

「こっちも了解だ、ザンキ。編成はどうする?」

「もう、じっくり考える時間は無い。各々、一緒に作業をしていた奴と組んでくれ!」


 俺の指示に皆は頷き、動いていく。一緒に作業をした分、連携は取りやすいからな。ただ、皆、今は丸腰なので、この場で俺と闘うジェイドの仲間達の中から、気と魔法で闘える奴だけを残し、ジェイドに無間と自身の武器を頼んだ。

 俺が来るまで、頼んだぞというジェイドの言葉に俺は頷く。

 流れ的に、リドルは俺と一緒にここを護ることになる。フジミに、


「しっかりやんなさいよ! 少なくとも、弱い男は好みじゃないからね」


 と、別れ際に言われ、少し寂しそうな顔になりながらも、頷いていた。

 武器を待つ間、俺達は村の門の外に出て辺りを伺った。

 リドルは、眉間にしわを寄せながら、暗闇を見つめる。


「……駄目だ。眼力スキルで辺りを見てみたが敵の姿を見つけられない。森の中に潜んでいるのか、隠蔽スキルを使っているか、もしくはその両方だな」

「そうか……」


 盲点だったな。魔物にもスキルを使える奴は居る。隠蔽スキルを使われると、俺も気配を探るのに、かなりな集中力を使わないといけない。平和で静かな村だと、何かあればすぐに察知できると思ったが故の失敗だった。


 俺はリドルを下がらせて、辺りの気配を伺った。


 十……二十……いや、それどころじゃない数の魔物が村を取り囲んでいる。ただ強くても中級くらいの存在感だ。村の周りを流れる堀の影響か、そこまで近づけないようだな。

 ひとまずは一安心だが、先ほどの強力な魔法もある。油断は出来ない。向こうは、遠距離からこちらに攻撃する術を持っている。

 せめて、日が上って辺りの見晴らしが良くなれば、こちらも戦いやすいのにな。眼力スキルを持っているのは、こちらもリドルを含めても少数だ。コイツ等だけに森の中で闘ってもらうというのは無理な話だ。

 となれば……


 俺が作戦を考えていた時、丁度ジェイドが武器を持って俺達の所まで来た。


「状況はどうなっている!?」

「さっきと変わらない……が、これから変える」


 俺は無間を手にし、同じく自身の得物である槍を手にしたリドルに顔を向けた。


「オッサン、何をするつもりだ?」

「向こうがスキルを使って身を隠しているのなら、引きずり出すまでだ。俺は斬波を放つ。リドルもいつもの、頼んだぞ!」


 無間を構えて気を溜めていると、リドルは俺の言葉に強く頷いた。


「分かった! 奴らをあぶり出してやる! ジェイド! それからお前らは、第二波、三波の為に気を溜めるなり、魔力を込めたりしていてくれ!」

「「「「「了解!」」」」」

「万が一、敵の攻撃が降ってきても村は護れ。何のためにここ数日苦労したのか分からなくなるからな!」


 俺の言葉合図に、皆は一斉に頷く。苦労して作った柵や土塁を一日で壊されてはたまったもんじゃないからな。無論、それ目的で作ったのだが、監視した途端に壊されたとなると、面目も何も無い。村だけでなく、防備も護ろうと、俺達は躍起になっていた。


 そして、無間にある程度の気が溜まった頃、リドルも準備が出来たように口を開く。


「オッサン! 準備は整った!」

「こっちもだ! 行くぞ! 大斬波ッッッ!!!」

「五月雨ッッッ! ウオオオ~~~ッッッ!!!」


 俺が無間を振り下ろすと同時に、リドルは槍の先からいくつもの気の塊を放出させる。俺の斬波が、森へと到達し、目に見えない何かに当たった瞬間、爆音とともに斬波は爆ぜ、魔物たちの悲鳴が上がり、何体もの異形の影が姿を現す。

 遅れて、その魔物達にリドルの放った鋭く尖った気の雨が魔物達を蹂躙していった。


 目に見えるようになった魔物の数は、500は軽く超えている。やはり、村を取り囲むように居たようだ。

 それも、俺とリドルの技で、幾らか減ったようだがな。改めて濃く、はっきり感じられるようになった気配では、スライムやワイアームの他に、ゴブリン、グレムリンと、多くのミニデーモンが居ることに気付く。

 やはり、最初の魔法は奴らが行ったようだ。普通のミニデーモンはそんなことはしないと、ミサキから聞いている。

 ということは、普通じゃない何かが、あの魔物の中に潜んでいるのだろう。敵を蹴散らしたとはいえ、無間を握る手に力がこもる。


 リドルの方は力の消耗が激しかったのか、ガクッと膝をついた。


「ど、どうだ、オッサン。俺、活躍できたか?」

「充分だ。だが、まだまだ先は長そうだし、今のうちに回復しておけ」


 リドルに気力回復薬と活力剤を渡して、魔物の方に向き直る。気を溜めていたジェイド達は、魔物が何もしてこないことを確認すると、力を抜いて、それぞれ得物を構えた。


「姿も先ほどまではよく見える。ザンキ、出るか?」

「いや、向こうは近づいてこられないようだからな。無理に戦うことも無い。今のうちに体力を温存させておいて、次に備えよう」

「確かに、魔法を撃ったりはするが、かかってはこないな。何故だろうか……」

「村の綺麗な水のおかげだろ。奴らは不浄を好み、浄を嫌うからな。にしても、お前らは大丈夫か? さっきまであれだけ飲んでいたのに」


 ジェイドの疑問をさらりと躱して、さっきまで酔い潰れていた皆に、これから大丈夫なのかと聞いてみた。

 すると、ジェイド達は、苦笑いしながら口を開く。


「ああ、問題ない。レミアちゃんに、解毒魔法をしてもらった。おかげで、体の酒精はすっかり抜けた……高い酒だったのに……」


 便利な魔法があるものだなと思いつつ、元から酔わない体質の俺は、普通に酒飲んで、酔って気持ち良くなるジェイド達に同情した。


「また、今度俺が奢ってやるから、機嫌直せ」

「おう……しかし、何とも不気味な光景だな。夜が明けてくれると嬉しいんだが……」


 俺も同じことを感じている。目の前には動かない魔物。向こうは作戦などは無く、目の前に人間という餌が居れば、迷いなく向かってくるような奴らだ。それが、聖なる水が流れている堀があるとはいえ、何もしないというのは確かにおかしいし、何より不気味だ。


 先ほどの魔法の件もあるし、何か、魔物どもを指揮している奴が居るのかと思ってはいるが、未だにそれらしい気配は感じられない。ひょっとして、こっちには居ないのだろうか。

 一応、何か大変な事態になれば、それぞれの門の警鐘も鳴らせと言ってはいるが、どこからも、緊急の音は聞いていなかった。

 俺は、集まっている冒険者の中から、比較的健脚な男を伝令に走らせることにした。各門の情報と、村の中の情報を整理したいということに加え、それぞれの部隊にも伝令役を作っておけと命じる。

 男は頷き、村の中へと駆けていった。

 空を見上げると、月は未だに高々と出ている。日が昇るまで、まだまだ時間がある。このまま硬直状態が続くというのも、結構しんどいものだ。

 ひとまず、魔物を指揮する存在を探ろうと、俺は敵の軍勢に意識を集中させた。

 隠蔽スキルだろうが、擬態スキルだろうが、必ず看破する気で、集中する。


 しかし、それで感じられたのは、そう言った強い生物の独特な存在感ではなく……


 バシュッ!


「ッ!? ラアッ!」


 空を切る音と共に俺に向かってきた、五寸釘のようなものを叩き落とす。その場にカラカラと音を立てて落ちる鉄の杭に、ジェイド達は驚いている。


「何だ!? 敵の攻撃か!?」

「見えなかったぞ!?」

「隠蔽スキルでも使ったんだろうよ……それよりも、ようやく向こうから動くみたいだぜ……」


 慌てるジェイド達を鎮めながら、俺は魔物の軍勢に目を向ける。

 そこから、ふと、一つの小さな影がこちらに歩いて来ていた。

 丁度、人間のような大きさ……というか人間だ。

 月明かりに照らされたそいつは、白髪の老人だった。カジノに居るような人間が着ているような着物……マシロのワイツ卿に仕えていた従者が着ていたような、きちんとした格好をしている。

 一見すれば、タダの爺さんだ。大した力は感じられない。普通の人間よりも、少し上くらいか。


 だが、爺さんからは、明らかに人間よりも魔物に近く、色で言えば黒い気配が感じられる。そして、射殺すような視線は俺に注がれ、それと同時に、強い殺気を放っていた。

 先ほどの攻撃を放ったのはこの爺さんだ。ジェイドやリドルを押しのけて、俺だけに強い殺気を放っている。得体の知れない気配を漂わせる男に対し、俺は動かず警戒を緩めなかった。

 ジェイド達も同様に、魔物では無いただの人間である爺さんに、臨戦態勢を解かない。


「ザンキ……あれは、何だ?」

「明らかに……人間じゃない……!」


 誰かがゴクッと唾を飲む音が聞こえる。全員、冷や汗を流しながら、ゆっくりと近づいて来る男をただただ見つめていた。

 この場に居る全員を黙らせるほどの威圧感を放す老人は、ついに俺達の前まで来る。そして、ゆっくりと口を開いた。


「ふむ……私共を嗅ぎまわっていたムソウ一派なる狼藉者を追ってきてみれば……思わぬ人物がいたようですね……」


 男は、更に殺気を強めて、俺を睨む。俺はゆっくりと無間を向けた。


「何だ、テメエは? ツルギ達を追ってきた……だと?」

「ええ。最初は、あの者達を追ってきました……が、今は違います。今の目的は……アナタですよ、冒険者ムソウ……」


 俺を指さしながら、はっきりと俺の本名を言ってくる男。ジェイド達は、少し困惑したような表情で俺の顔色を伺ってきたが、気にせず、俺は男と話を続ける。


「俺のことを知っているって口ぶりだな……だが、俺はテメエの事は知らない。テメエみたいな知り合いは居ない……何者だ?」


 俺の言葉に男は、一瞬目を見開き、深々と頭を下げた。


「これは失礼いたしました。私は、アナタにお会いしたことがありませんでしたね。……しかし、私は貴方を知っています。我が偉大なる御方を殺めたあなたの事を知っています……」


 礼儀正しい身振り、口ぶりであっても、男からの殺意は増すばかりだ。どす黒い感情が俺を包み込み、今すぐにでも俺を八つ裂きしてやりたいという男の思惑が伝わってくる。

 そんな気配に段々と苛ついて来た俺は、声を荒げる。


「御託を並べるのはもう辞めろ! 何者かって聞いてんだ!」


 無間を向けながら、死神の鬼迫を放つと、男はぴくッと体を強張らせながらも、堂々とした状態で口を開いた。


「……ふむ……何という凶暴で粗野な気配ですか……このような者が、我が主に刃向かい、その命をお奪いになったとは実に嘆かわしい……全く以って……腹立たしいですね……!」


 その瞬間、男から発せられる殺意は強まり、ついでに気配も強くなった。今までとは明らかに違う力に、ジェイド達はたじろいでしまう。

 やはり、擬態のスキルでも使って、自分の力をごまかしていたようだ。伝わってくる殺意は、死神の鬼迫を上回るくらい大きく、俺の殺意をはねのけたようだな。それほどまでに、俺を憎んでいるということで、俺は無間を握る手に力を込める。

 男は、俺が見ている前で、魔法かスキルか知らないが、空中に浮かび始める。ツキを背中にしながら、両手を開き、そこから魔力の塊を作り始めた。


「私の正体? あのお方を亡くした私は、もはや、何物でもありません……ただ、アナタを殺したいほど憎み、その為に動くだけです」


 男は両手を上げて、片方ずつ作っていた魔力の塊を大きく一つにした。

 ジェイド達は慌てて、その攻撃に対応しようと武器を構える。


「ぜ、全員、魔力を込めろ! 気を高めろ! あれが放たれたら終わりだ!」

「何としても食い止めろ~!」


 それぞれ、武器に気を送ったり、手を男に向けて魔力を込めるが間に合わない。男は、一層殺気を俺にぶつけると、そのまま両手を下ろした。


「消えてください。我が主……ケリス・ゴウン様の魂の安寧の為に……!!!」


 ジェイド達が浮足立つ中、男から巨大な魔力の塊が放たれた。慌ててこちらからも攻撃を始めるが、十分に力を込められなかった攻撃は、男の魔力の塊の前で、次々と消えていく。


「く、クッソ……!!!」


 リドルが諦めたような声を漏らすと同時に、俺はスキルを発動させた。


―おにごろし発動―


 無間と共に俺の体から強い光を放ち、俺は神人化する。そして、地面を蹴り、男の放った攻撃の切れ目に無間を叩きつけた。


「オラアッ!!!」


 その一撃で、男の攻撃は霧散する。ハッと目を見開く男との距離を詰めて、その首を掴んだ。


「ガッハ! き、貴様……!」

「ぐだぐだ長ったらしい演説は聞き飽きた……それだけ聞くことが出来たんなら、こっちからもやらせてもらう!」


 そのまま男を地面へと投げつけた。地面にぶつかった男はそのままよろよろと立ち上がる。

 そして、自身の服についた汚れを落とすと、背後に控える魔物たちの方を向いた。


「何をしているのですか! あなた方の目の前には、生きた人間と、アナタ達の親兄弟を殺めた冒険者達が居るのです! 今こそ、復讐の時です! 進軍開始!!!」


 男の言葉に、魔物たちは雄たけびを上げ、聖なる水など意に介さない様子で、村に近づいてきた。ここだけじゃない。村を取り囲む全ての魔物が、動き始めている。

 俺は、ジェイド達の前に降り立ち、男を見つめたまま指示を出した。


「……ジェイド、リドル、スティーナ、お前らの部隊は、それぞれ周囲の魔物の露払いを頼む。現状、上級以上は居ないから何とかなるはずだ。

 あの爺さんは……俺がやる」


 男に無間を向けながら、その場から立とうとする。

 だが、ジェイドとリドルに止められた。


「ま、待ってくれ、ザンキ……い、いや、アンタ、一体!?」

「その恰好……何なんだよ……!?」


 まあ、この反応にはなるか……。だが、一から説明してやる暇も無かった。


「悪い……後できちんと説明する……正体を隠していたことについては、すまなかった……」


 何となく気まずい思いになり、二人には謝った。すると、ジェイド達は黙り込んでしまう。怒ったかな、と思い、この件が片付いたら、早々に村を出ようと思った時だった。不意に、ジェイドと、リドルにそれぞれ両肩を叩かれる。


「謝んなよ! むしろ、礼を言うぜ! さっきはありがとよ!」

「おかげで死なずに済んだ。フジミ姉さんにちゃんと別れの言葉を言わないといけないからな!」

「お前ら……!」


 何も気にしていない様子のジェイドとリドル。見ると、その他の者達も、何も言わずに、ただただ、俺に先ほどの事に対して頭を下げてくれていた。


「まあ、ザンキはただ者じゃねえと思ってたからな。正体が分かって逆に安心したってところだ」

「それよりも……俺達は露払いか。あの爺さん、オッサン一人に任せても良いのか?」


 今度は心配するような顔つきになるリドルと冒険者達。正体が分かっても、俺に気付かってくれる皆の態度は嬉しかった。俺は、リドルに頷く。


「任せろ」

「分かった。気を付けてな! おっしゃ、行くぞ!」

「「「オウッ!」」」

「リドル達に続くぞ!」

「「う~っす!」」

「ザンキさん? ムソウさん? どっちでもいっか。後で、魔物の素材は分けてよね! 私達も行くわよ!」

「「オ~ウッ!」」


 リドルを先頭に、冒険者達は魔物の軍勢に突っ込んで行く。敵の老人は、それを邪魔しようと、リドル達に手を向けるが、俺はすぐさまそれを阻止して、男の首を再び掴んだ。


「くっ! 何を!?」

「俺達が闘ったら、周りにも被害が及ぶ……だから、俺達は向こうだ!」


 俺のことを信じてくれた仲間達に、影響が出ないように、俺はその男を掴んだまま、リドル達から離れていった。

 正体が分かっても付き合いを変えることが無かったジェイド達。俺のことを信じてくれた分、俺もアイツらを信じて、戦いの影響が及ばないであろう、森の中に入っていく……。


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