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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
ツバキが里帰りする
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第322話―村の作業が終わる―

 さて、村での仕事も終盤ということで、今日から冒険者達と村人たちも何人か加わり、ツルギ達が住む家を建設している。ジェイドも居るし、幸い村人の中にも建設の知識を持っている者も多かったので、俺達はそいつらの指示に合わせて作業をしていく。

 ……と言っても、俺がやったのは整地と草むしり、家の中や外の掃除だがな。一緒に堀の作業をしていた奴らや柵の支柱を立てていた奴らからは、何故、という疑惑の目を向けられていた。


「オッサン……力もあるのに、楽な作業してんじゃねえよ」


 という声が上がり、仕方ないと思い家の柱や梁を、定められた長さに斬る作業に加わったが、二、三本斬ったところで、ジェイドに、ここは良いから、他の作業をしていてくれと、懇願された。

 疑惑から、可哀そうなものを見るような目で俺を見つめる冒険者達。だから言ったじゃねえかと、さして気にせず、草むしりに戻った。


「クレナと違って、むしり甲斐があるな」


 俺の家を建てた時は、既に家が出来てあって、庭もそれなりに手入れされていたから、本当に小さな草をむしるだけであったが、今回は誰も使っていなかった、ちょっとした広場に、一から家を作ることになっているため、俺の身長よりも伸びている草が辺りにたくさん生えていた。

 決められた枠を超えないように、無間を振るって草を刈っていく。こういう使い方をして悪いなとは、みじんも思っていない。何事も適材適所なのだと、自分で納得し、刀を振る度に無間に言い聞かせて、草を刈っていく。

 そして、短くなった草を引き抜いていく。これだけでその日の午前中の作業は終わった。

 午後からも同じ作業を続けて、これが終われば、村を流れることになった堀から、この家に水を引く作業に入る。並行して、畑も作る。意外と、やることは多いと、自分の仕事に満足していた。

 なかなかの充実感を抱きながら飯を食っていると、グレンとツルギがやってきて、俺の肩にポンと手を置いた。


「アンタにも、苦手なものはあるんだな……」

「何か……オッサンが可哀そうに見えてくるんだが……?」


 何故、同情するような顔で俺を見てくるのだろうか。俺はそれが理解できない。

 手伝いの為の人員を増やそうかと相談されたが、一人で作ることによって、庭が完成された時の達成感もひとしお、と思い断った。

 誰にも邪魔はさせねえ……他の皆は、立派な家を作っていろ……。


 ……さて、飯を食い終えた後は、引き続き、草だけを無間で刈っては、引き抜いていくという作業が続く。家建設の初日に抜いた草を重ねるとちょっとした小屋よりも大きくなっていた。

 しっかりと乾燥させた後、耐魔羊の餌にするということで、それを村人たちに預けて、その日の作業は終わる。


 二日目からは、水を曳くために水路を作っていく。これもそこまで大きくなくても良いので、一人で行った。ある程度掘って家の方を見ると、骨組みが完成されている。三階建ての、やはり大きな家だった。魔法やスキルというものはやはり便利だなあと改めて痛感する。

 普通なら、ここまでの作業で一週間は使うからな。というか、堀にしろ、柵にしろ、土塁にしろ、よくもまあ、この短期間で完成したなあと実感する。

 同じ作業をコモン達が行えば、もっと早く済んでいたと考えると、改めて天宝館の凄さが分かる。俺、コモンが俺の家に居るからって、易々と利用し過ぎじゃねえかな……?

 コモンも含め、十二星天の扱いを少し考えた方が良いのかも知れないと、心のどこかで芽生え始めた。


 さて、水路の方はすぐに出来た。水が家の方に行くようにすると、その水を屋内に引く仕組みをジェイドや村人たちが作っていく。

 聖なる水が流れているということに関しては、誰も何も言わない。はたから見れば、タダの綺麗な水だからな。水源地を綺麗にしたという説明だけで、皆は納得したようだ。その効果に首を傾げるのは、もっと先の話だろう。まあ、どういう効果があるのかは分からないがな。

 大銘水は美味くなったが、これをかけられた植物がどうなるか等は、俺もよく分かっていない。一応、クレナの屋敷でジゲン達の畑仕事に使われてはいるが、目立った効果は無いそうだ。

 味が良くなったとは聞いたが、それもジゲンやたまが丹精込めているおかげだと言われると、水の効果などは分からなくなる。

 せいぜい、汚れ物が綺麗になる、下水も綺麗なまま、風呂に使うと体の汚れが綺麗に落ちるというあたりで、小さな疑問が浮かぶ程度だろう。

 ただ、一番期待しているのは、魔物除けとしての効果だ。そもそも堀も、外部の敵から村を護る為に掘ったのだが、魔物が近づかないのが一番良いからな。少々実験という意味も込められてはいるが、クレナの湖畔の村を見る限りだと、恐らく大丈夫だ。どうなったのか、結果は後でグレンに確認しておこう。

 天界の波動が含まれる水ということで、地帝龍アティラも、ここに来る頻度は上がるだろうしな。アイツの存在というものも期待しておこう。


 さて、水路の作業が終わると、俺としては殆どやることが無いので、ここでようやく、家作りの作業に加わった……と言っても、俺は荷物を運ぶだけだ。置いてある資材を運んで、作業しやすいように置く、という内容だ。器用も不器用も関係ない単調な作業である。

 重たい資材を運ぶだけの作業だが、最初に比べて皆は何も言わずに、俺が資材を置くと素直に頭を下げてくれていた。


 そうやって、作業を続けていき、家作り五日目には、大きな家が完成した。

 ようやく終わったと、その場に皆は座り込み、汗を拭っていた。俺も近くの奴らと家の完成を喜んでいると、グレンとジェイド、それにこの村の村長であるラコンが皆の前に出てきた。


「皆、お疲れさん! ひとまず、ムソウ一派以外の冒険者達は、これにてお役御免だ。明日からは、各々、自分の生活に戻ってくれ」

「先ほど、ラコン殿に依頼達成証書を預かった。後で、パーティの代表者は俺の所に取りに来てくれ。

 それはともかくとして、皆、本当にお疲れさん! 今日は宴の用意をしているらしいぞ!」

「村を代表して、感謝いたす。皆、本当にありがとう。ツルギ殿達は、このまま村に残るそうじゃが、他の者達にも此度は大いに世話になった。村人総出で、馳走を用意しておるゆえ、しばらくはゆっくりして行ってくれ」


 ラコンの言葉に、集まっていた冒険者達は歓声を上げる。そして、ラコンは一人一人に歩み寄り、ありがとうと頭を下げながら固く握手を交わしていた。

 冒険者達はジェイドから依頼達成証書を貰っている。後でギルドに提出すれば、報酬が貰えるということだ。皆の指揮を最初から引き受けていたジェイドも、証書を渡す際に、皆から握手を求められていたり、フガクなどは、熱く抱擁したりもしていた。……うん……暑苦しいの間違いだな。


 しかし、グレンの方には誰も行かない。それぞれ、気力回復薬や魔力回復薬、活力剤でこってり搾られたからな。

 笑っていたグレンだったが、オロオロとし始めて肩を落としている。可愛そうなので、俺は一人、グレンの肩をポンと叩いた。


「……お疲れさん」

「おう……ありがとう……」

「よし! じゃあ、飯でも食いに行くか。何だかんだで腹が減っているからな!」


 顔を上げるグレンを見て、機嫌は直ったと思った俺は、ジェイド達を連れて村の中央へと向かった。その際に、ラコンからは深く感謝されたが、グレンはキョトンとして、一瞬固まった後、慌てた様子で俺達について来た。


「一人にするな~!」


 一人でも充分騒がしい奴が居ると、何だか楽しくなるなと、皆で一緒に笑っていた。


 そして、村の中心部で宴を行った。グレンとサーラは、マルドに行った時に、この日の為にと、樽でワインをちょっと高いワインを買っていたようで、それを皆に振舞っている。

 二人の粋な計らいに少し気が大きくなった俺は、ひそかに一人で楽しもうと思って、ずっと異界の袋に入れておいた、クレナの大銘水の樽を開けた。

 この大銘水、他で売ってるものとは一味違う。元々、俺が浄化した湖の水を使っているということで更に美味くなっているが、更にその酒を浄化して、ほとんど「聖水」とも呼ぶべき、水で出来た酒となっている。樽を開けると、仄かどころではない輝きを放つ酒が皆の前に並べられた。


「ザンキ、こんなもの、どこで手に入れたんだよ……?」

「いや、普通に買ったらこうだった」


 目を見開くジェイド達に、俺はそう答える。最後まで正体を見破られないようにするのは大変だなと頭を掻いた。

 無論、事情を知っているムソウ一派やグレンとサーラは、驚いてはいるようだが、まあ、俺だしと、どこか納得した様子で酒を飲んでいる。飲んだ後に、グレンからは驚かれた。


「おい、ザンキ。この酒を俺の所に卸さねえか? もちろん、普通の大銘水よりは高めに引き取るが?」

「う~ん……あまり広めたくは無いんだよな。広まって、他の奴から作ってくれとか言われたら面倒だろ? これは、俺だけが作られる酒だから、良い酒なんだよ」

「な、なるほど……分かった」


 何とも惜しいなあといった感じなりながらも渋々頷くグレン。この酒が呑めるのは、俺が認めた奴か、闘鬼神だけということにしておこう。何か特別な日にだけ作り、その度に、皆で分けようと思っている。

 まあ、その特別な日自体は、何でもこじつけて作ることが出来るからな。次にグレンが呑める時が来るとすれば、子供が出来た時くらいだと言ってやると、そうだな、とサーラを眺めながら頷いていた。

 ちなみにだが、俺の力を使って完成される、呪殺封の薬などの呪いを解き、予防する薬については、ジェシカの治癒院でも作ることが出来ない。その為、クレナに居た頃は、数が足りなくなると、ジェシカが、もの欲しそうな目で俺を見てくることが多々あった。

 これに関しては疲れることも無いので、ジェシカが作った薬に、俺が光葬針を加えることで量産に成功している。

 元の薬は、ジェシカや今ではサンチョが作ったものなので、俺のものよりも効能はいいそうだ。

 価値についてはよく分からないが、俺が生きている以上、いつでも作ることが出来るので、そこまで高くは設定しないとのこと。

 ……ん? てことは、屋敷に俺が居ない今は、まったく出来ていないということになるのか? 旅している時に、在庫が無くなったから、帰ってきてくれとか言われるようになったらどうしようか……。

 ジェシカ本人が転送魔法を使って薬と一緒に俺の所に来てくれたら楽なんだけどな。これは、後で本人と決めておこう。


 さて、美味い酒と、料理によって盛り上がっていく宴会。皆の話題は、これからの動きについて変わっていく。村の作業が終わって、皆はこれからどうするのか、俺も輪の中に加わって話を聞いていた。


「ジェイド達は、これからどうするんだ?」

「俺達は、ハイグレ経由でソウブに帰る。そこでまた、依頼に取り組みつつ、拠点の設備を整えないとな」

「それなりに稼げたからな。新しい冷蔵庫でも買うかあ?」

「だな。今の分は小さいからな。ザンキはどうするんだ?」

「俺は、クレナに帰る。少し用事が出来たみたいだからな」


 俺がそう言うと、何人かの冒険者が立ちがこちらの話に加わってきた。


「クレナか。そういや、あそこの報酬割り増しはいつまで続くんだろうか。何か知っているか?」

「さあ。だが、こないだ天宝館の護衛についていった奴らがまだ帰ってきてない所を見ると、まだまだ続くんじゃねえか?」

「あ、そうだな。俺の知り合いも何人か行っていた……良し、俺達もクレナでひと稼ぎするか!」


 男の言葉に、男の仲間の冒険者達は頷く。一緒に行くかと誘われたが断った。マルドに帰ってからまだまだやることもあるし、ここを離れるとなると、最後にジーゴやガーレンに一言挨拶をしておきたいからな。


「すまねえな、こっちも色々あるんだ」

「気にすんなって。どうせクレナに帰るんなら、また向こうで一緒に仕事が出来るからな。その時はよろしく」


 男に頷き、握手を交わす。一緒に仕事をする時は、正体を隠したままは無理そうだ。どんな反応をするのか、今から楽しみになってくるな。


「俺達は、金も入ったことだし、王都にでも行ってみるか?」

「そうね。装備も整えたいし……」

「あ、なら、俺達と一緒に行かねえか? 旅は道連れっていうだろ?」

「おう、良いぞ。じゃあ、明後日ここを発とう。仕事で意外と疲れているからな」


 誰かがどこかへ行くと言うと、それに乗っかり、自分も行きたいと申し出る冒険者も現れている。


「俺達は明日出よう。次の依頼の予定が迫っているからな」

「わかった。じゃあ、今日は飲み過ぎないようにしないとね」

「次の依頼って? モンクで他に何かあったっけ?」


 仲間達で話していた所に、別の冒険者が割って入るという場面も、ちらほら出てきているようだ。


「ああ、モンクじゃない。俺達はハイグレで貴族の護衛だ。マシロに一家で旅に行くんだとよ」

「依頼主が貴族か……それ、俺達も手伝えるか?」

「どうだろうな。まあ、向こう次第だが、護衛が増えることに関しては大丈夫だろう」

「じゃあ、俺達もアンタ達についていくことにするよ。良いよな、お前ら?」

「ええ、大丈夫よ」

「ハイグレは、俺の地元だからな。地理には明るいぞ」

「お、それは本当に助かるな。行きながら色々と教えてくれると助かる」


 そうやって、それぞれ、冒険者同士で親交を深めている。モンクでは、こういうことばかりで、本当に楽しい。情報交換をしながら、酒を飲み、親交を深めては、一緒に依頼に取り組み、また、酒を飲み……。

 四十年のほとんどを一人でやって来た所為か、こういう場面になると、俺はついつい黙ってしまうことが多い。だが、ジェイドに肩を組まれ、ツルギ達に手を引かれ、グレンに笑われていると、そんな思いも消えてしまう。

 その後も、一緒に村の仕事をした者同士で、楽しく話しながら、これからの約束を交わしたり、今までの事を労い合ったりしながら、夜は更けていった……。


◇◇◇


 宴会が終わった後、明日にはこの村を発つと言っていた冒険者達は早々に寝て、まだ事後処理の為に残る俺はゆっくりと風呂に浸かり、天幕の中に入った。

 楽しい日々もあっという間だったなと思い、布団を被ったが、あれだけ楽しい宴会の後だということもあり、すぐには寝られなかった。少し、散歩でもしようと思い、外へ出る。

 先ほどまで騒がしかったというのに、村はいつも通りに静寂が包み込んでいた。


 ふと、グレンの家を見ると、まだ明かりがついている。あそこも、まだまだ色々とやることがあるんだろうなと思い、邪魔するのも悪いので素通りし、俺は、主な作業だった堀のふちを歩いていった。

 今日は雲一つなく、大きな月も出ている。月の光を反射させた川というのは何とも綺麗なものだった。

 ツルギ達の住む大きな家にもいくつか明かりがついている。これからの事でも決めているのだろうか。

 にしても……ムソウ一派という名前はどうにかならないのかな。何となく気恥しい。出来ることなら、あいつ等にも「闘鬼神」という部隊名を与えても良いのだが、前にそう言った時は、自分達は俺と対等に居たいから、俺が率いる部隊名を貰うのは少し違うと蹴られた。

 だったら他の名前を付けてもらった方が嬉しいんだがな……気長に待とう。


 さて、ツルギ達の家を過ぎた後はそのまま村の外に出てみた。月明かりによって、昼間よりも、仄かに輝いている川は、近くの川へに向かって光の道を作り出している。夜道に迷った旅人がこんな月の出ている日に、この灯りを目指して村に来るようになると、良いなあと思いながら、しばしそこで眠気が来るまで休息をとった。


 すると、近くから誰かが話している声が聞こえてくる。何だろうかと思い、声のする方に近づいていった。

 その声は、櫓から聞こえている。上を見上げると、櫓に誰かが立っているのが見えた。夜目にも慣れてきてよく見てみると、それは俺と一緒に堀を作っていたリドルとフジミだった。何か必死そうな顔のリドルと、呆れた顔でため息をついているフジミがよく見える。

 何を話しているのだろうかと若干、罪悪感を抱きながら、聞き耳を立てていた。


「フジミ姉さん、アンタが何を言おうと、俺の気持ちは変わらない! 俺と一緒に、シルバに行かねえか?」

「いや、だから、何度も言っているけど、私はここでツルギ達と仕事をするの。私の仲間達も私の意見に賛同してくれたし、私は貴方についていく気は無いわ」

「そ、それは、他の奴に任せれば良いじゃねえか! 俺はもう、アンタ一筋だ! 頼む! 俺と一緒になってくれ!」


 頭を下げながら、手を前に出すリドル。再びフジミはため息をついている。

 ……まだ、諦めてなかったんだな、アイツ。結局村の作業でどうにかなる男女は居なかったものの、仲が進展した奴らは少なからず居た。

 というか、先ほどの宴会で、これからの予定で一緒になる部隊は、それ関係のものが多かったからな。まあ、ムソウ一派の者達と一緒になりたいと言っていた者は居なかったようだが……居たんだな。


 フジミは、手を出したまま動かない気でいるリドルを見つめながら口を開く。


「アナタ……グリドリに奥さんも娘さんも居るんでしょ? 私は、人の家庭を壊したくないの。だからアナタも私なんか忘れて、さっさとグリドリに帰りなさい。今回の報酬を持って帰ったら、喧嘩中の奥さんも許してくれるはずよ」


 至極まっとうなフジミの言葉を、リドルは全力で否定する。


「嫌だ! 俺はもうあそこには帰りたくない! 今まで家族の為に働いて来たっていうのに、この仕打ちだ! あそこに俺の家族なんていない! 俺は、俺のことを理解してくれる女じゃないと駄目なんだ! 俺の、冒険者という仕事を理解してくれる人間じゃないと駄目なんだ! だから、フジミ姉さん! 俺と……!」


 リドルはフジミに更に詰め寄っていく。「俺のことを理解していない」って……。家族のことを理解していないのはリドルだろ。今まで仕事、仕事っていって家族を蔑ろにしてきたのはどこのどいつだ。

 金を入れることだけが、家族にしてやれることと思っているのは大間違いだ。偶に遊んでやったり、定期的に家に帰ってやったりするだけでも何か違っただろうに。しょうがねえ奴だな……。


 ……とは、思っているが、俺も前の世界では同じような感じだったから、リドルの言葉が何となく、胸に突き刺さる。こんな会話、聞くんじゃなかったと少し後悔した。

 まあ、リドルの言葉を借りるなら、サヤは俺のことをきちんと理解してくれていたからな。時々、怒ることはあったが、それでも一緒に居てくれた。俺とリドルの違いはそこなんだろうなと、会ったことも無いリドルの奥さんを少し馬鹿にした感じになり、俺は更に頭を抱える羽目になる。

 余計なことは考えず、話しだけ聞いておこう。

 フジミは、懇願するような表情のリドルを払いのけて、静かに口を開いた。


「あのね……アナタは私から見ても確かに良い男よ。腕も立つようだし、仕事は楽しく出来たし……私に優しかったし……ね」


 あ……やっぱり、フジミもリドルに対して、嫌な思いは抱いていないんだな。寧ろ、好意的に見ているようだ。暗くてよく見えないが、若干頬を染めている感じがする。

 それを見たリドルは、顔中に嬉しさというものを全開にしたように笑顔になっていく。


「な、なら――」

「でも……駄目」


 あっさりとリドルの思いを否定するフジミ。容赦ねえなあと思っていると、フジミは真顔になり、固まるリドルに自分の思いを告げる。


「今のアナタは、私の父親と一緒。仕事ばかりで、私や母さんのことは放っておいて、私達が寂しい思いをしている時も、自分だけ楽しい思いをしている。偶に帰って来たと思ったら、ご飯は外で食べたとかなんとか言って、そのまま寝室へ行って、翌朝にはまた家を出て行っている。

 母さんがどれだけ言っても、私は父さんと遊ぶことさえ出来なかった。その結果、母さんは心労で倒れて、父はそのまま家を出ていった。

 分かる? 難しい依頼に応えて、大きな報酬を貰って、どんどん装備が良くなっていく父とは裏腹に、どんどん痩せて弱っていく母さんを側でずっと見せつけられていた私の気持ちが! 本当に寂しかったのよ!? 私がどれだけ望んでも、父は私の事なんて眼中にも無かった!」


 段々と感情を爆発させるように声を荒げるフジミ。リドルもフジミの迫力に圧されて、固まったまま動かなかった。


「良い!? 今のアナタは、あの時の私の父親と一緒! 母さんが倒れても、母さんが死んでも、何もしてくれなかった、あの、馬鹿と一緒! そんなアナタに私がついていくと思う!? 娘の事も大事にしないアナタなんて、私は嫌いなのよ!」


 思いの丈をぶちまけて、フジミは荒く呼吸をしていた。正確に言えば、リドルはフジミの父親よりは、まだマシだ。だが、同じになる可能性を十二分に含んだ奴でもある。

 というか、このままリドルの思惑通りにフジミが動いてしまうと、ほとんど同じ状況になる。どれだけ良い男でも、フジミの中で「最低」な行動をしていた男と同じことをしていたら、そりゃあ嫌いになるよな。

 にしても、すげえ過去だ。その父親というのは生きているのだろうか。会ったらまず、フジミの代わりにぶん殴ってやりたい。同じ父親としても、最低な行動だと思う。


 フジミの思いを知ったリドルはそのまま項垂れる。そして、弱り切ったようなか細い声で、


「そ……そんな……」


 などと、呟いている。

 それを聞いたフジミは更に激高し、リドルの襟元を掴んだ。


「そんな、じゃないの! 分かってるの!? アナタは今、少なくとも三人の女の思いを無視してるの! 一人は何度断っても、自分の思いだけを訴えてきてそれを意地でも通そうとしてくる私、もう二人は、言わないでもわかるよね!? アナタの奥さんと、娘さんよ! 私の事はまだしも、自分の家族のことだけは大事にしなさい!」


 至近距離でフジミに怒鳴られたリドルは更に硬直し、思わずフジミの言葉に何度も頷いていた。


「は、はい!」

「返事だけじゃ駄目! すぐに行動しなさい! アナタ達は明日、この村を出て、レイヴァンで報酬貰って、その脚ですぐにグリドリに帰って、アナタは奥さんと娘さんに全力で謝りなさい! その後は……自分で考えなさい。どうすれば良かったのか、これからどうすれば良いのか、奥さんとしっかり話し合ってね」


 少し落ち着いてきた様子のフジミに、リドルは静かに頷いた。そして、フッと笑みを浮かべると共に、リドルを放した。


「……それで良いの。アナタはまだ、良い男なんだから、私の父親みたいな、クズにはなったら駄目よ。その時は本気で軽蔑するからね」

「う、ウッス!」

「よろしい。じゃあ、そろそろ帰ろうか。私も眠くなってきたし、アナタは明日早いからね」


 一つ欠伸をかきながら、フジミはリドルに微笑んでいる。

 二人が下りてくると、それの存在がバレてしまう。なかなか良いものが見れた気がすると思いながら、その場を去ろうとすると、ポツリとリドルが口を開く。


「あ、あの……フジミ姉さん」

「ん? 何?」

「フジミ姉さんのことは諦める。俺は、一度は愛した女をもう一度愛して、向こうも俺のことを愛してくれるように……頑張るって事は決めた」

「うん。それで良いと思うよ」

「だからさ、最後に、フジミ姉さんがどんな男が好きなのか聞いても良いか?」


 リドルの言葉に、困惑した様子のフジミ。俺も、足を止めて、この期に及んでコイツは何を言っているのかと、少々困惑した。


「それは……どういう意味で聞いているの? というか、どういう意図があるの?」

「娘がさ、将来好きになる男がどういう人間かを図るための試金石というか……ほら、フジミ姉さんが好きな男ってなると、悪い男じゃないだろ? だからさ……」


 先ほどとは違った感じに、懇願するような表情のリドル。何だ、それ、と思い俺が呆れてため息をついていると、フジミも同じくため息をついていた。


「あのね、自分の娘が連れてきた男だったら、どんな人でも認めるくらいの気概を持ちなさいよ」

「いや……それは、自信ない。だって、俺、今だって最低な男だから……俺の基準は当てにならない……」

「そ、そういう自分の短所は分かるのね……」


 俺が思ったことを、フジミが口にしている。ボロボロになった男というのは、何とも面白いものなんだなと思い、俺は帰るのを辞めて、最後まで二人の様子を見ることにした。

 フジミは、う~んと考え込んでいたが、リドルの顔を見て諦めたように、クスっと笑みを浮かべる。


「わかった。この際だから教えてあげるわ。私が好きになる人っていうのはね――」


 フジミが自分の好みを言おうとした時だった。

 ふと、空を見ると、何か光るものが飛んでいることに気付いた。何だろうとは思ったが、それは段々と俺達の居る櫓まで近づいて来る。

 流れ星かと思ったが、それにしてはゆっくりだ。


メラメラと燃えているように輝いていてよく見るとそれは、魔法によって生み出されたと思われる巨大な「火球」だった……。


リア、ルイ、フジミ……この三人は描き分けるのが難しいです。

当初はリアとルイをよく間違えていました。

分かりやすい区分としては、リアは大学生みたいな感じで、ルイは女子高生みたいな感じで、フジミは驚愕の女子みたいな感じで描いています。

……分かりづらいっすね。まあ、どれも似たよなキャラと思ってください(笑)


ちなみに、当初フジミは、どちらかといえばハクビに似た感じを出そうとしたのですが、いつの間にか、こうなっていました。大改稿の時に修正したのですが、修正前は、男口調で、ムソウに対しても、「オッサン」呼びだったのでかなり驚きました。


最近はレミアとロロを間違える・・・・・・。

違いはレミアがリア充、ロロがモフ充な感じですね。


さて、次回更新から、モンクのヤマ場の予定です。お楽しみに!

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