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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
ツバキが里帰りする
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第319話―グレンとタクマの商談が成立する―

 部屋に荷物を置いて、風呂に入った。今日はそこまで疲れていないが、チャブラの時と同様に、何もしないから感じる疲れというのもあったようで、湯に浸かった瞬間、じわっと力が抜けていく感覚があった。

 村での作業は良い感じに進んでいる。柵の方は時間が掛かるだろうが、堀の作業に関しては、フジミの指揮のおかげで五日以内には終わるだろう。男にも女にも言い寄られて迷惑そうにしていたがな。

 ひょっとしたら、ムソウ一派の他にも村に残りたいと言い出す冒険者も出て来るかも知れない。まあ、その時は個人でガーレンあたりに相談してもらうことにしよう。


 しかし、モンクに魔物が少ないとはいえ、マルドとスーランの間は本当に少ないんだな。実は、アティラが定期的にあのあたりの地中を移動しているのか? それとも別の要因があるのだろうか。

 レイヴァンの近くや、それに続く街道沿い、隣接の森や山には多いみたいだしな。人が多い所には、それを狙う魔物も多くなるということか。

 何はともあれ、レイヴァンに騎士団の本部やギルドがある理由が何となく分かった気がする。向こうは、冒険者が多いから発展した、ここは魔物が少ないから発展したという見方で良いだろうな。

 スーラン村に残るツルギ達に仕事はあるのだろうか……少し心配になるが、村での平和を維持するという大事な仕事もあるし、グレンがどこかに行く際の護衛という仕事もある。

 少なくとも暇になるということは無いだろうな……。


 何で、こんなにも俺は色々と考える人間になったのだろうか……。昔はそうでも無かった気がする。自分のやりたいことを、自由にやっていたのにな。

 いつの間にか、大きな力を手にして、その分、色々と背負うことになって……。

 頼られることに、悪い気はしないのだが、もう少し思うがままに生きていたいものだ。歳を取った所為か、そういう思いになってしまう。

 だからこそなのか、リエンという男とは一度、茶を飲みながら話をしてみたい。ソイツも恐らく、こないだルオウが言っていた所の、気付かずに荷車が重くなっていった人間の一人なのだろうな。

 それを考えれば、ジゲンは上手いこと生きているなと感じる。長年抱えていた荷物も軽くなって、これからも、今までと同じように生きていくのだろう。ああいう歳の取り方をしてみたい……。


 さて、飯はもう出来たのだろうか、グレン達の話し合いは終わったのだろうか。俺は風呂から上がり、居間へと向かってみた。

 未だに、タクマとグレンは机の上にお互いが扱っている商品と、それぞれ資料を眺めながら何か話をしている。


「やっぱり、まだ終わってねえみたいだな」


 居間に入りながら声をかけると、二人はこちらに視線を移した。


「あ、ザンキさん。お疲れ様です。話の方は大体片付きました」

「取りあえず何とかなったぜ」


 グレンの言葉に、タクマは頷いている。商談自体は終わったらしい。

 今後は、二人が言っていたように、お互いが欲するお互いの商品を、それぞれの店に置き、売り上げの一部を、分け合うということになったらしい。

 更にグレンは、タクマの店の専属の運送商人となり、仕入れから品物の運搬までをこなし、タクマから報酬を得るということになった。

 今行っているのは、ギルドを介さず、直接グレンに運送を頼む際の注意点の説明とのこと。

 晩飯を待つ間、俺は暇なので隣で一緒にグレンの説明を聞いていた。


「というわけで、タクマさん。何か運送依頼がある時は、この書類にタクマさんの判と、欲しい品を書いて、スーラン村に送ってください。俺はそれを受け取って仕事にかかります。

 品物の運送依頼への報酬は、後払いになるんで、そこはお願いします」

「確か、旅先でグレンさんにかかる宿代や、護衛をする冒険者さんへの報酬でしたね。分かりました」


 と言って、タクマはグレンからの書類を受け取ろうとする。話を聞いていた俺は、一つ思い出したことがあったので口を挟んでみた。


「タクマ、コイツが運送依頼で豪遊した場合、それも払うことになるが良いのか?」


 チャブラに行った時がそうだった。泊まる旅館で、少し値の張るものを食っては、支払いは、依頼主である貴族持ちだから心配するなと。

 あの時は相手が貴族だったから良かったが、これからはタクマだ。支払うことは出来ないだろう。

 タクマは、え……と真顔になり、グレンに視線を移す。


「えーと……そうなのですか?」

「いや、まあ、基本はそうだが、流石にタクマさんの依頼の時はそんなことしないっすよ。一日、一人銀貨十枚を上限でやらせていただきます」

「では、その旨をこちらの契約書に書いてくださいね」


 そう言ってタクマが取り出したのは、二人で決めたことを記したものだった。ここに書いてあることに反した行動をすると、罰金を払うということにしたらしい。

 グレンは小さく頷き、その書類に報酬について記入していく。意外と素直だなと思っていると、グレンは小さくため息をついた。


「余計な事言うなよ……旅先の料理は俺が一番楽しみにしていることなんだぞ」


 ああ、やはりそう言う狙いはあったのか。食えない男である。


「そういうのは、また貴族からの依頼に応える時だけにすれば良いだろ」

「今日の料理は期待していてくださいね」


 タクマが台所を指しながら放った言葉に、グレンは苦笑いしながら頷いた。

 その後、二人で記していった契約書に、お互いに自分の名前と商人としての判を押し、二人の契約は終わった。

 その書類を、グレンは俺に手渡してくる。


「一応、契約の見届け人として、これはアンタが持っていてくれ。本来ならギルドか、所属する商会に預けるんだが、タクマさんはギルドに登録した人間じゃないし、俺もタクマさんも、商会に属しているわけじゃないからな。

 信頼のおけるアンタに預けておく」

「ああ。分かった」

「無いとは思いますが、話しがこじれたりした時は、よろしくお願いします」


 グレンとタクマに頭を下げられ、俺は契約書を受け取る。ああ、また、俺が色々と考える羽目になるものを受け取った気分になった。これは、ガーレンあたりにでも押し付けるとしよう。


 その後、話は纏まったということで、二人は固く握手を交わし、その場を片付けて一息ついていた。料理を待つ間、出された茶を飲みながらグレンとタクマは楽しそうにしている。


「しかし……まさか、こんなにもとんとん拍子に話が進むとは思わなかったすよ」

「前から、ザンキさんを通じて意見交換をしていたものですからね。ああ、そう言えば、グレンさんは、モンクにあるどの商会にも入っていないんでしたっけ?」

「そうっすよ。モンクどころか、世界中に点在するどの商会にも入ってねえっす。俺は俺で、自由にやるのが好きですから」

「ですが、それだと色々な面で不都合などは起きないんですか?」

「商会内の顧客を紹介されないってことはあるんすけど、俺は俺でどの商会にも知り合いが居るんで、何とかなってるっすよ。今回、タクマさんと仕事することで、マルドの他の商人とも付き合えることが出来たら儲けものっすね」


 複数の商会に顔が利くグレンは、それだけ顧客や仕事を抱えることが出来るということなので、考えようによっては世界一の商会であるリエン商会の商人よりも、稼ぐことが出来るということか。

 まあ、コイツの口の上手さは天下一品だからな。人柄も良いし、だからこそ俺もすぐに、コイツを信用することが出来た。若いのに大したものだと感じる。


「ザンキさんの方は、一団の長になっていますよね。どっちが大変だと思いますか?」

「さあ? 俺も割と自分のやりたいようにやっているつもりだからな。そこまで、大変だとは思っていない」

「アンタはしがらみとかそういうのは、大嫌いって感じだもんな」

「いや、そんなことは無いぞ。前の世界では、上の指示に従っていたし、それによって一つの部隊を率いていたこともあったからな」


 玄李で罪を犯した者達により構成された戦闘部隊、通称「夜」から安備に降伏してきた奴らを預かっていたこともある。正直な話、面倒だなと思っていたが、俺が我慢すれば、反乱軍全体の負担も減るだろうと思って引き受けた。

 結果として、元「夜」の奴らも更生されていったし、俺達は玄李を滅ぼすことが出来たのだが、確かにあの時の俺は、ツバキとアキラに心配されるほど、自分では気づかないうちに疲れていたようだがな。

 まあ、当時はそこまで辛いと思っていなかったし、今だって、ダイアンやアザミ、ジゲンを中心として、闘鬼神自体が俺に従ってくれている。

 一団を率いるということに関しては、特に何も思っていない。寧ろ、率いているという感覚も無く、自由にやっていると感じている。

 そう話すと、タクマはなるほど、と頷いた。


「どこにでも、色んな考えを持っている人というのは居るものですね」

「まあ、そういうことだな。ちなみにだが、ここは商人同士で組合を作っているんだよな?」

「ええ。ギルドが出来てから新しく新設されたマルド商会とターレン商会に入らなかった、僕たちのような、いわゆるマルドに元からいる商人たちによって構成されています。皆で協力しながら、値段を決めたり、物流を途切れさせることの無いようにしたり、二つの商会と、摩擦を起こしたりしないようにしたりするためですね」

「代表は確か……」

「はい、ギランさんです」


 タクマの言葉に、グレンは目を丸くする。


「ギラン? 確か、“大博徒”の異名を持つ……?」

「はい。今は、マルド商会が経営するカジノで働いていまして、僕たちと商会の繋ぎの役を担ってくれています」


 タクマはグレンに、ギランの事を紹介する。元々は、近所に住む友人というか、過去に培った人脈などにより、マルドの中でも一目置かれる存在だったため、昔からタクマ達のようなマルドの住民たちの顔役だった。

 今は、博徒としての腕と顔の広さを買われ、マルド商会の経営するカジノで働いており、組合と商会の間で会合などがある時は、二つの組織の橋渡しという存在になっている。


「へえ……じゃあ、タクマさんと仕事をしていたら、“大博徒”とも関わり合いになるかも知れないってことっすね……」


 自分の思惑を包み隠さずぽろっと口にするグレンは、本当に大したものだと感じる。それだけ、タクマの事を信頼しているようだな。タクマも、それは感じたらしくクスっと笑いながら、お任せくださいと頷いた。

 ちなみにだが、マルド商会は、この街のカジノを中心とした、主に娯楽施設などで収益を上げているが、残るもう一つのターレン商会は、港湾の管理によって収益を上げている。

 漁師や港を行き来する旅客船などに場所と設備を提供する代わりに、毎月いくらかの金と、商品を卸すことになっているという。

 なので、二つの商会が互いに摩擦することなく、協力関係を築き、この街は発展しているようだ。

 つまり、マルド商会と繋がるということは、並行してターレン商会とも繋がることが出来るということで、グレンは更に嬉しそうな顔をする。


「凄いっすね、この街は。こんなにも、商人にとって嬉しい条件が揃っているなんて……」

「そう言うものですかね? 結局のところ、皆、毎日を過ごせればそれで良いと思っていますから」

「タクマさんは本当に欲が無いっすね」

「欲張るとどうなるか、この街で生きてきたのですぐにわかります」


 カジノのある街の人間ならではの発言に、グレンも苦笑いしながら、そうっすねと頷く。


「まあ、マルド商会も、ターレン商会も自分達と街の発展を第一のモットーとしてますので、二つの商会と繋がっても、活動範囲はマルドだけとなります。そこから、どうするかは、グレンさん次第ですよ」

「まずは、俺の基盤を整えたいんで、頑張るっす!」


 行商が好きなグレンも、やはり拠点というか、自分にとっての本拠地はしっかりとしておきたいようだ。タクマを通じ、マルドを基盤にすることを目指し、燃えている。

散々世話になったグレンに、良い関係を築けた手助けが出来たなと、俺は安堵していた。


 すると、台所の戸が開く音が聞こえて、大皿を持ったメリア達が入って来た。


「盛り上がっている所、ごめんなさいね~。晩御飯が出来たわよ~」

「食べきれるか心配なくらい作っちゃいました~」

「あ、大丈夫ですよ。ザンキ様が頑張ってくださいます」

「リンネも~!」


 ぞろぞろと大皿を抱えて居間に入ってくる。机に乗り切るかと不安になったが、やはり収まらなかったので、手ごろな台を追加する。

 今日はこの四つの大皿から適当にそれぞれが切り分けて食べるようにするみたいだ。並べられた料理を見ながら、タクマは少し申し訳なさそうに口を開いた。


「言い出したのは僕だけど、何も出来なくてごめんね。ここまで作ってくれるとは思っていなかった」


 頭を下げるタクマに、メリアはニッコリと笑う。


「大丈夫よ。ツバキとリンネちゃん、それにサーラさんも居たからね。私が作ったのは、これだけよ」


 そう言って、メリアが指さしたのは、魚介と一緒に混ぜられた麺類のような料理。ツバキの好物であるタスタだった。タクマは、再度メリアに頭を下げながら、ありがとうと今度は礼を言っている。


「あなた、私はこれを作ったのよ? 結構頑張ったからね」


 サーラがグレンに見せていたのは、大きなタコの足を煮込んだものだった。話を聞くと、ソードオクトパスらしい。以前はただ焼いただけのもので、かなり硬かったが、今回はじくっりと煮込んだものなので柔らかくなっている。

 グレンは箸でつまんで口に入れると目を見開いている。


「お、美味いな。流石、サーラだ」

「もう、つまみ食いは駄目だよ。でも……ありがと」


 料理を褒めるグレンに顔を赤らめているサーラ。

 ……ああ、今日も仲睦まじい男女に挟まれながら飯を食うことになるのかと頭を抱えていると、今度はツバキとリンネが俺の袖を引っ張る。


「ザンキ様。私はこちらの焼き物をおつくりしました」

「リンネはこれ~!」


 ツバキが指したのは、一見肉のように見えたが、海王鮪を焼いたものらしい。見た目以上に、肉と同じ様な食感と味だという。

 リンネは海王鮪の刺身を皿に円状に盛り、その中心に鳥の氷像を置いている皿だ。これは、エンテイ? ……いや、トウウか。今にも空に飛びあがりそうな、この感じはアイツそのものだな。何と言うか、荒々しい感じがする。エンテイのような厳かな感じはしない。


 二人とも、どうだと何か期待するような目で、俺の顔を見ていた。褒めて欲しいんだなと思い、二人の頭を撫でた。


「そうか。二人もお疲れさん。二人が作るものは全部美味いって知っている。明日からも重労働だからな。しっかりと食っておこう」


 そう言うと、二人はニッコリと笑って喜び合っていた。

 グレンと共に、こんなところは村の皆には見せられない、今頃、ツルギとレミアが凄いことになってんだろうなと笑っていた。


 その後、皆で椅子に座り、料理を食べ始める。グレンは、それぞれの皿の料理を食べながら、美味い美味いと喜んでいる。宿に行く前に、ここに来て良かったとサーラと共に笑っていた。


「そういや、宿ってどこに行くんだ?」

「ん? 気は進まねえが、アマンの店……というか、冒険者の集会所だ。商人の証を見せたら、部屋くらいは優遇してくれるらしいからな」


 ああ、大通りにあるやつか。モンクは毎日のように外から人が多く集まっているからな。普通にやっている宿に今から泊まることは難しいだろうと思っていたが、冒険者又は商人向けの施設を運営しているアマンの所には、そういった利点もあるというわけか。

 にしても、気は進まないとは……。


「乗り気じゃないのでしたら、別の場所の方が良いのでは?」


 タクマも俺と同じ疑問を持っているようで、グレンの方に視線を移す。グレンは、苦笑いしながら口を開いた。


「それはもうこの時間だと無理っすね。そもそも、マルドで宿泊するなら、何日も前から予約しないと、普通の人間じゃ無理っすから。冒険者と商人にはその制約もあまり関係しないアマンの所なら問題ないっす。あの男がその場に居るわけでもないっすからね」

「あ、そうなんですね。僕はてっきり、アマンさんは常にあそこに居るものかと……」

「それなら絶対行きませんよ。多分、今は王都の方に居るはずっす。定期的に向こうに行っているみたいなんで」


 どこから仕入れてくる情報なのか。そんなことまで分かるとはな。アマンの方が詰めが甘いのか、グレンの顔が広いからこそ成せる技なのか。

 どちらにせよ、出所は内緒だと笑うグレン。警戒しているアマンは居ないとの事なので、安心して今日はあそこに泊まり、ついでにリエン商会がこの街で何を売っているのかを確かめるとのことだ。


「あそこで何を扱っているのか分かれば、今後の為にもなるからな。実を言うと、少々期待もしているっす」


 ニカっと笑うグレンに、どこまで商人としている気なのかと俺達は半ば呆れながら頷いていた。

 すると、メリアが小さくため息をついてサーラの肩を叩く。


「アナタも大変ね」


 コソコソとグレンに聞こえないように話をするメリア。サーラのことを心配しているようだが、当の本人はクスっと微笑み、首を横に振る。


「そんなことありませんよ。主人が楽しそうなところを見るのは、私にとって一番の幸せですから」


 サーラの一言に、まいったという顔のメリア、何か感心しているような態度のツバキを見ながら、変な影響を受けなければ良いがな、とリンネと一緒にただただ飯を食っていた。


「自分で作った飯は美味いか?」

「うん! おししょーさま、どれがいちばんおいしい?」

「どれも美味いさ。甲乙つけがたいって感じだな。リンネはどれが一番美味しい? やっぱり、この刺身か?」

「ん~……おねえちゃんのかなあ」


 ニッコリと笑いながら、ツバキの作った海王鮪の焼き物を頬張るリンネ。確かに一番食っているな。

 やはりリンネは肉か魚かと言われれば、肉の方が良いようだな。また、何か目新しい奴でも狩って、リンネに食わせてやりたいと思う俺だった。

 ツバキの方は、サーラとの話に夢中だ。何を参考にしているのだろうか。今のリンネの言葉は聞いて欲しかったと思いながら苦笑いをしていた。


◇◇◇


 その後、飯を食い終えた俺達はグレンとサーラを見送った。明日はこの街を少し観光して昨日と同じように昼過ぎにここを出ると約束すると、二人は街の中へと向かって行った。

 そして、俺は皿を洗っているタクマとメリアを横目に部屋に戻り、風呂に入っているツバキとリンネを待つついでに、防具の点検をして暇を潰していた。

 ふと、ツバキが使っている机の側に置かれた箱が目に入る。悪いなあと思いつつも開けて見ると、虹鳥の羽や南京玉の他に色とりどりの糸が入っていた。手芸に使われる道具箱の様だ。

 ああ、これで髪飾りを作ってくれていた訳だな。異界の袋から髪飾りを取り出し、じっくりと眺めてみた。どこにも汚れはついていない。午後からは神人化していたからな。汚れるわけも無いな。


―ずっと大事にしていこう……これだけは……―


 そっと、髪飾りを再び異界の袋に収め、箱を閉じた。

 丁度その時、部屋の戸が開き、リンネが思いっきり入って来た。


「おししょーさま~! あそぼ~!」

「ああ、リンネ。ツバキは?」

「かみ、かわかしてる~! おねえちゃんがくるまで、リンネとあそぼ~!」

「良いだろう。また、折り紙でもするか?」

「わ~い!」


 リンネは両手を上げて喜んでいる。異界の袋から、花柄の紙を取り出して、それを折っていく。

 リンネはまた、ジゲンに習った花を折っているようだ。平面なものではなく、少し立体的なもので難しいはずなんだが、リンネはてきぱきと折っている。途中で分からなくなると、俺の顔を覗き込んでくる。記憶を頼りに、次の手順を教えると、ぱあっと顔を明るくさせて再び折っていく。

 俺の方は、灰色の紙をこれも記憶だけを頼りに手順通り折っていく。合っていれば、上手くいくはずだが……と、思いながら作っていくと、リンネが声を上げる。


「できたよ! ほら~!」


 どうだと、リンネは自分が折っていた物を俺に見せてくる。小さな薔薇のようなものがその手の中に包み込まれていた。


「お、凄いな。俺は未だに作れない」

「えへへ……」


 頭を撫でてやると、得意そうな顔で笑うリンネ。


「あら、上手く出来ていますね……」


 すると、風呂から上がってきたツバキが、リンネの手の中にある折り紙を見ながら、優しく微笑む。


「お、ツバキ。おかえり」

「おかえりなさ~い! ね、ね、おねえちゃん、リンネ、すごい?」

「ええ、素晴らしいですよ。私も未だに作れません……」


 少し恥ずかしそうな顔をしながらもリンネを褒めて頭を撫でる。リンネは、


「おねえちゃんにもかてた~!」


 と、喜んでいた。

 何に勝ったんだろうか、俺達は何に負けたのだろうかと、ツバキと顔を見合わせて笑っていた。


「お前でも作れないか?」

「ええ。途中でややこしくなってしまいまして……」

「俺もだ。爺さんに教わってから、何度か練習はしているんだがな……」

「リンネちゃんに負けないように、私達も頑張りましょう。……ところで、ザンキ様は何をおつくりに?」

「ああ。ちょっと失敗したが……完成したな」

「なになに~?」


 覗き込んでくる二人の前に、俺は作っていたものを出した。そこには四つ足の動物が俺達の前で立っていた。

 ツバキとリンネは目を丸くしている。


「こちらは……狼……ですか?」

「まあな。まあ、狼というよりは……」

「トウガおじちゃん?」

「正解だ、リンネ。トウガが呑気に口を開けて欠伸をしているところだな」


 リンネが正解を言ったので再び頭を撫でると、リンネはぱあっと笑顔になる。


「そっくり! トウガおじちゃんににてる~!」


 リンネは、こういうのが好きだよな。少し手順が多くなって時間が掛かるが、今度トウウや、トウケンも作ってやろう。カドルは……俺には無理だな。だが、ジゲンとかなら、龍さえも折り紙で折りそうだ。今度聞いてみよう。

 さて、リンネは目を輝かせて折り紙のトウガを眺めているが、ツバキの方は、少し困ったような顔になっている。


「お屋敷で、トウガ様やザンキ様の関係については、よく分かっていましたが、一応、私達にとっては神獣様です。このような……その――」

「間抜けた姿か?」

「え、ええ。その通りです……少し、失礼かと……」


 あれだけ仲が良くなったのだから気にすんなと笑ってツバキに返した。

 トウガはその場に座って欠伸をするのではなく、何故か立ったまま欠伸をかいたり、そのまま寝てしまったりなどよくやっていた。アキラも分からない状況で、俺とちっこいツバキの三人でその光景を、玄李侵攻の際に眺めていたものである。

 俺が率いていた、元「夜」の奴らの部隊と、タカナリが率いていた部隊の奴ら、更に俺達幹部の中で、誰が起こさずに鼻を触ることが出来るかという遊びをしていた。

 起こした奴が負けということで、トウガに襲われるという罰があるだけに、皆真剣に行っていた。俺は、負けることは無かったが、起こした奴をトウガから護ったりしていて、なかなか楽しかったなあと、思い出す。


「まあ、これも神獣“様”らしいんじゃねえの? 常に警戒を怠らない、威風堂々たる姿だと思うぞ」

「そう……ですね……そう思うことにしておきましょう。皆さん、お元気ですかね?」

「あいつ等が元気じゃない姿なんぞ想像できない。魔獣宴でレオと元気にやっているだろう」

「また、あいたいなあ~……」


 折り紙で出来たトウガを見ながらそんなことを呟くリンネ。


「きっとまた会えるさ」

「リンネちゃんが良い子にしていれば、きっと」

「おししょーさまも、いいこにしてないとね~」

「……そうだな」


 ツバキがクスクスと笑う中、確かにリンネは今のままでも良いが、俺は気を付けないといけないなと、納得してリンネの頭を撫でていた。


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