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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
ツバキが里帰りする
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第316話―ぷれぜんとを貰う―

 ツルギ達と情報の交換などをしながら楽しくしていると、日が傾き始め、村の中から鐘の音と共にグレンの声が聞こえてくる。


「お、今日の仕事は終わりか。俺もそろそろ帰ろうかな」

「ん? 帰るって、どこに?」

「マルドだ。仲間の実家に世話になっている」


 荷物を確認し、ツルギ達に他の冒険者達への対応を頼んでおいた。今からマルドに帰るということに関しては、身体能力向上の魔道具をふんだんに活用するようにとだけ伝えた。

 そして、グレンの元へと向かい、ツルギ達に伝えたことと同様の内容を伝える。


「そう言うことで、頼むな、グレン。また明日来るからよ」

「結構無理な計算を押し付けやがったな……まあ、何とかするよ」

「普通、どれだけ急いで帰っても、今からだったら、マルドに着くのは真夜中だからな……」


 大きくため息をつくグレンに、ツルギ達も同調する。空を飛ばない限り、やはり、マルドに行くのはそれくらい掛かるのか。


「なるほど……じゃあ、今日は空を飛ばずに、陸路で帰るか。その定説をぶち壊してやろう」


 今日一日、これといった運動もしていないわけだし、思いっきり体を使いたいと思った俺は、神人化しないことに決めた。

 その場で準備運動を始める俺を、グレン達は呆れた様子で眺めていた。


「まあ……コイツなら帰られるか」

「多分な。俺達は……さっさと飯を食おう」


 二人は、どこか納得した様子で頷き合っていた。

 俺は準備を整えて、グレン達と別れる。


「じゃあな、二人とも。また明日」

「ああ。気を付けてな」

「道中、魔物が居ても、よほどの奴じゃなかったら放っておいて、さっさと帰ってやれよ、オッサン」


 ツルギの言葉に頷き、俺は村の外に出た。


「さて……やるか!」


 ―ひとごろし発動―


 村に出てスキルを発動させると、背負った無間が輝くと同時に、全身に力が漲ってくる。新しくなってからは、初めてこのスキルを使ったのだが、無間も前と同じく普通の刀の大きさに……なっていると思ったが違った。


「……おいおい」


 抜いてみて呆然とする。見た目はそんなに変わっていないが、感じられる力は、かなり膨れ上がっている。というか、刀から溢れている感じだ。

 それは、ジゲンがよくやる闘気を解放させるように、ゆらゆらと刀身から波動として上っている。天界石と冥界石の影響から、白から黒へ、黒から白へと色を変えながら、刀自体から圧倒的な気配を感じさせていた。


 これは、かなり目立つな。まあ、仕方ないかと思い、再び無間を背負う。

 すると、無間から出ていた波動が、俺の全身を包み込んだ。感覚としては、ロウガン達がやっていた、気を纏う感覚に似ている。


 俺が意識しないでもこういうことが出来るのはありがたいと感じた。防御面ではどうなるのか、この状態で闘うとどうなるのか、気になることはあるが、それはまた今度と思い、街道を見据える。


 日が完全に暮れる前にはマルドに帰りたいなあと思い、その場から駆け出した。


 地面を蹴った瞬間、俺の体がぐんと前に出た。こないだ若くなって戦ったが、やはりあの時よりは、力が入らないと感じる。それでも充分だがな。足を踏み込むたびに、見えてくる木々や、景色が近くに来て、通り過ぎていく。

 この状態でリンネとかけっこしたら、どちらが速いか……流石に、まだリンネの方が早いかも知れないな。

 ジゲンよりは、確実に遅い。アイツは雷そのものだったからな。あれに追いつけるのは、同じく雷そのものであるカドルくらいだろう。

 まあ、長続き出来る分、俺の方に分があるけどな。それに、ジゲンはすでに歳の所為であの状態になることは出来ないということだ。体にかなりの負担がかかるみたいだからな。

 俺もこの後どうなるのか……。


 ……そう言えば、考えてなかったな。薬はどうだろうかと確認したが、今日作った薬があることを思い出した。

 多分、大丈夫だな。まあ、今日の頑張りは無駄に終わったが。


 さて、のんびりしている時間は無い。日がどんどん傾いていく。暗くなる前に、さっさと帰ろうと、更に力を入れて、街道を進んでいく。


 偶に森の中を抜けることもあるが、魔物に遭遇することは無い。数が少ないのかと感じたが、気配を探ると、居ることには居るということに気付く。

 俺を襲う気が元々無いのか、そもそも俺に恐れているのかは定かではないが、これは楽だと思いながら、なおも駆けていく。


 そして、若干肩で息をし始めたくらい走って行くと、ぼおっと輝くマルドの街が見えた。若干、辺りが暗くなり始めているので、かなり目立つ街だなと感じる。

 日が沈むまでに帰ることは出来なかったが、グレン達の言っていた真夜中に帰ることは無かったと、妙な達成感と共に、スキルを解いた。


「ゔッ!」


 全身に纏っていた気が霧散した途端、強い倦怠感と頭痛が襲ってくる。すかさず懐から気力回復薬と活力剤を取り出し、それを服用した。

 徐々に体調が戻ってきて、一息つく。


「想像以上だったな……」


 やはり、身体能力向上の上げ幅が多いほど、体にかかる負担も大きいようだ。長時間ならばなおのこと大きい。無間が新しくなっても、このスキルはいざという時以外は使わない方が良いと判断した。


 その後、マルドの門をくぐり、ツバキの家を目指した。昨日今日と静かな村で過ごしたからか、マルドの街中は少々、騒がしく感じた。日が沈んでも騒がしいというのは、活気ある街の証拠だと、良い気分なのだが、今日ばかりはうるさく感じる。

 やはり、こういうのは苦手な性分なのかと、少し歩を速めた。さっさと帰って、飯食って寝ようと、大通りを抜けて、ツバキの家に続く道を進んでいく。


 そして、家に着き玄関の戸を叩こうとした。すると、中から、小さな足音が聞こえてきて、戸がガララと勢いよく開かれる。


「おかえりなさ~い!」


 飛び出してきたリンネを受け止めて、頭を思いっきり撫でてやった。


「ただいま。よく、俺が帰って来たって分かったな」

「うん! おししょーさまのにおいがした!」

「そうか……」


 汗臭いという意味だろうか。走って帰って来たことだしな。早く風呂に入りたいと思い、そのまま家の中に入る。

 いつものように居間ではタクマがくつろいでいて、台所ではツバキとメリアが料理を作っていた。

 声をかけると、ツバキは俺の方を向いて、フッと微笑む。


「おかえりなさいませ、ザンキ様。スーラン村はどうでしたか?」

「一応、ツルギ達も揃って、楽しく過ごしている。ただ、作業も意外と大変だから、明日からしばらく留守になると思うが……」

「それは、構いませんよ。しっかりとお勤めを果たしてください。あ、お風呂の用意は済ませておりますので、リンネちゃんと一緒に、どうぞ」


 お、リンネはまだ風呂に入っていなかったか。ならばと思い、荷物を置いて、着替えを取りにツバキの部屋へと向かおうとした時、タクマが話しかけてきた。


「あ、ザンキさん。グレンさんの方はどうでしたか?」

「お、そうだったな。一応、招集した冒険者達も全員揃ったから、次に俺がここに帰ってくる時に、連れて来ようと思っているが」

「となると、早くて明後日以降ですね。分かりました。準備しておきます」


 流石に明日連れてくることは不可能だ。グレンも色々と準備があるからな。ひとまずはそのくらいに連れてくるということに納得した。

 村でもここでも、やることは多いなと苦笑いし、俺は着替えを持って、リンネと一緒に風呂場へと向かった。


 そして、小さな獣の姿になったリンネを抱えて、浴槽に浸かる。


「あ~……やっぱり気持ちいいなあ~……♨」

「キュウ~……♨」


 我が家、というわけではないが、やはり知らない所で入る風呂と、ここでの風呂は違うなと感じる。体を動かした後なので、いつもよりも快感に感じた。

 心なしかリンネも、いつもよりうっとりとしている。水面に仰向けになって、ぷかぷかと浮かびながら、風呂の中を漂っていた。

 すると、こつんとリンネの頭が俺の胸に当たり、リンネはパチッと目を開けて、ニコリと笑う。


「お前も今日はお疲れさんか?」

「キュウッ!」

「仕事の手伝い、頑張ってんだな。俺も、今日は少しばかり疲れた気がする。戦い以外で疲れるなんて、何時ぶりだろうか……」

「キュウ?」

「……何でもない。さて、体を洗ってやろう。おとなしくしておけよ」


 リンネを抱えて、浴槽から出る。石鹸を泡立てて、リンネの体を洗っていると、気持ちよさそうな顔をしていた。

 いつもよりも按摩するように揉み洗っていると、更に気持ちよさそうな顔をして、力が抜けていく。せめて洗っているうちは、眠るなよと思いながら、時々、しっぽをくすぐったりもしていた。

 リンネは体をビクッと反応させて、体を起こす。ようやく腹の辺りが洗えると思いながら、そのあたりを洗い、最後に顔を洗ってやった。

 泡をお湯で流すと、さっぱりしたと言わんばかりにリンネは体を震わせて水気を飛ばす。


 そして、獣人の姿に変化して、今度は俺の背中を手ぬぐいでこすり始めた。


「きもちいい?」

「ああ。疲れが落ちていくようだ……リンネは、昨日と今日、何をしていたんだ?」

「えっとね、ととさまのおてつだいで、おふねがあるところから、いっぱいはこんでいたの!」


 船がある所……港か。あそこにある倉庫から何かの品物を運んでいたというわけだな。道理で、疲れているわけだ。

 俺も力仕事でリンネも人の姿で力仕事というわけか。。


「それは、大変だったな」

「でもね、ハンナちゃんのととさまがね、おひるにおさかなのおやつをもってきてくれて、リンネ、うれしかった~!」


 あ、そうか。港ってことは、ハンナの家族も居るし、こないだの一件で、リンネとも顔なじみになっているからな。いつでも、美味い魚料理を食えるってことか。

 俺の場合と違って、何となく羨ましいなあと思いながら苦笑いする。


「おししょーさまはどんなことしてるの?」

「デカい丸太運んだり、色々だ。明日からは多分、地面でも掘っているだろうな……」


 柵の作業は、俺が出来ることはやったからな。恐らく、明日からは堀を作るために、地面を削ったりするんだろう。もしくは、土塁を築くかだが、どちらにせよ、明日からは泥だらけの仕事になるんだなと、感じた。

 リンネは、何故か目を輝かせている。


「わあ~、たのしそうだね~」


 どうやら、俺が明日から泥遊びでもするものだと思っているらしい。遊びじゃないんだと思いながら、リンネにはお手伝いを頑張れと言っておいた。


 その後、体についた泡を落とし、再び浴槽へ入って一息ついた後、脱衣所へと向かった。

 今日は完璧と、リンネは体中を拭いて、着物を着ようとしている。それを止めて、全身を見渡したが、どこも濡れていなかったので、合格と言って長着を着させてやると、喜んでいた。

 そして、リンネの髪を乾かしながら櫛で解いていると、外からツバキの声が聞こえてくる。


「お二人とも~、ご飯の準備が出来ましたよ~」

「あ、おねえちゃんだ! は~い!」

「待て。まだ、乾いていないんだからな」


 動こうとするリンネの肩を掴むと、少し不貞腐れたような顔をされた。廊下へと続く戸の向こう側からツバキのクスっという笑い声が聞こえた。


「慌てなくてもよろしいですよ。その分、楽しみになさってくださいね、リンネちゃん」

「リンネがいくまでたべちゃだめだよ!」

「ええ。なんなら、ここでお待ちしておきます」


 それなら良いと、リンネは満足げに俺に体を預けてくる。お前はどこかの王女様かと、その後は、丁寧に髪を乾かしていた。


 そして、準備が整うと、リンネは椅子からぴょんと飛び出し、戸を開ける。そこで待っていたツバキに飛びつき、ニコッと笑った。


「もういいよね!?」

「ええ。問題ないですよ。ザンキ様も、行きましょうか」

「ああ」


 二人を連れて、居間へ向かうと、今日も豪勢な料理が並んでいた。


「あ、ようやく来たわね。待っていたのよ」


 俺達が来るまで、飯に手をつけられなかったタクマとメリアは、待ちわびていたとばかりに微笑んでいる。

 二人に促され、席に着くと、タクマが酒を注いでくれた。


「改めて、おかえりなさい、ザンキさん」

「改まるなよ。まだ仕事自体は終わってないんだからな?」

「まあ、良いじゃないですか。僕も新しい顧客が増えるかも知れないんですから」


 グレンとどうなるかも、まだはっきりとしていないのに、調子の良いことだなと思いつつ、盃を受け取った。

 ふと、横を見ると、早く食べたいと言わんばかりに、リンネがウキウキとしている。


「ね、はやくたべようよ~!」

「そうだな。いただくとしようか」


 そして、皆で手を合わせて飯にありついた。今日の献立は、大きな貝の煮ものと、こないだ、俺が討伐した鉄鋼蟹の料理だ。刺身から焼き物、汁物まで全て蟹尽くしとなっている。

 汁をすすると、濃厚な蟹の香りが鼻を突き抜けて、心地いい気持ちになった。


「相変わらず美味いな。ツバキが作ったのか?」

「はい。喜んで頂けて良かったです。こちらの焼き物はリンネちゃんが作ったんですよ」

「へえ。火を扱うなんて、料理の方も上達したな、リンネ」


 毎度、気付かないうちに色んな成長を見せるリンネの頭を撫でると、口いっぱいに料理を詰め込んだまま、ニコッと笑った。相変わらず、口の周りを盛大に汚しているので、拭いてやる。


「それで、ザンキさんは村では何をやっていたの?」


 メリアは、興味ありげに、俺に村の様子を尋ねてきた。俺は、この二日間で村で体験したことを皆に話していく。

 作業の方はまだしも、皆が驚いていたのは、やはり地帝龍との出会い。初日から凄い存在に会ったものだと言うと、若干疑わしい目になっていく。

 そこで、地帝龍から貰った牙や鱗の一部を見せると、タクマ達は目を見開いた。


「凄い……本物の様ですね……」

「ザンキさんは、運が良いのか悪いのか分からないわね……」

「カドル様に続き、地帝龍ですか……私も久しぶりに驚きました……」


 流石に俺が幾度も変な目に遭っているということを知っているツバキも、若干引いていることに驚く。

 地帝龍アティラの話では、常に地中を伝ってこの大陸を移動しているようだから、他の龍族よりは、人目に付くものかと思ったが、そんなことも無いようだな。


「まあ、この場合は運が良いと考えた方が良いだろう。良い土産も貰ったしな」

「クレナに戻られたら、カドル様にも報告しないといけませんね」

「だな。同族であるアティラが今も元気だと知ると、アイツも喜ぶだろう」


 疑われたら、今の皆に対してやったように、アティラの鱗や牙を見せれば良いだろうな。そして、これはコモンやヴァルナと相談して、今の俺の装備に組み込んでもらおう。

 俺の装備は長くそのままだからな。以前会った時から新調したのか、装備を一新させていた、今日のツルギ達を見ながら、実はそんなことを思っていた。

 普段は、装備については特に何も思わないが、俺でもわかる良い素材が手に入った後に、ツルギ達の姿を見たら、新しい装備が欲しいと感じるようにもなる。

 クレナの一件で壊れた装備も、強化したわけではなく、手直ししたくらいだからな。綺麗な装備を手に入れる為に、明日からもしっかりと働くとしよう。


「それで、タクマ達はどんな仕事をしていたんだ? リンネからは、港へ荷物を取りに行ったと聞いたが?」

「ええ。注文していた商品が届いたので、取りに行っていました。リンネちゃんにも手伝っていただいたので、助かりましたよ。結構量が多かったものですから」

「ここで、売る分なのか?」

「いくらかはそうですが、ほとんどが、お客さんに注文を頼まれたものですね」

「あ、そういう、仲介人みたいなこともしてんだな。どこに頼むんだ?」

「マルド商会が多いですね。ギランさんという伝手もありますし、他で頼むよりも安く済むんですよ」


 となれば、タクマとつながりを持つグレンは、実質マルド商会とも繋がりを持てるというわけか。反対に、タクマはグレンを通じてリエン商会と繋がるということだな。

 商会間で話がこじれないと良いけどなと言うと、タクマは笑っていた。


「こんな、一商人の為に、二つの商会が動くってことは無いでしょう。もっとも、僕がマルドを代表する大商人になれば、話は別ですけど……そんな野望はありませんし……」


 笑いながら、商人として天下を取りたくないというタクマの顔を、リンネとツバキが覗き込む。


「えらくなりたくないの?」

「昔は、もっと稼ぎたいとか言っていなかったっけ?」


 そんな二人に、タクマは優しく微笑み、頷いた。


「ああ。昔は、小さなツバキが居たからね。もっと稼がないとって思ってたけど、今のままで充分って、最近気付いてね。やりたいことを、このままやっていければ良いって思うようになっただけだよ。

 それとね、リンネちゃん。身の丈に合わず、偉くなっても、それだけ、自由に動くことが出来なるんだよ。そういうのには、興味ないかな」

「どういうこと~?」

「例えば、休みの日に釣りをすることも、メリアと買い物することも、本を読んだり、手芸をすることも出来なくなる。それは嫌だよって話だね」


 タクマの言葉を、リンネも理解したのか、頭を抑えながら俯く。


「うん……リンネ、えらくなりたくない」


 そんなリンネの反応を、俺達は微笑まし気に眺める。リンネも、偉くなって大金を稼ぐよりも、自分のやりたいように遊びたいときは遊んで、飯を食う時は飯を食うという方が良いんだろうな。

 俺と同じで安心する……説得力は無いが……。


 ツバキの方は、心なしか嬉しそうな顔をしていた。親が稼ぎたかった理由が、自分だったというのは嬉しいことだもんな。

 そして、俺の事もあるので、タクマ達に今以上の事は求めず、そのままで居てねと一言添えられて、タクマもメリアも笑っていた。


「偉くなって色々大変なのはリエンさんも一緒よね~。毎日、大変って聞くわ」

「あ、それは僕も聞いたね。流石に、ああはなりたくないな」


 話題は、リエン商会の長、リエンのものへと変わる。リエンの多忙さは、レイヴァンだけでなく、マルドにまで伝わっているようだ。

 何となく、俺と重なることもあり、余計に親近感が湧いてしまう。今日、ツルギ達から一応気を付けろと言われたが、つい、気が緩んでしまうな……。


「ザンキ様に似た方ですね」

「お前もそう思うか。まあ、リエンの方は知らないが、俺は望んで闘鬼神の頭領をやっているからな。色々あって、疲れることもあるが、今のところは幸せだ」

「それは良かったです。ですが、無理だけはなさらないでくださいね」

「それはお前にも同じことが言えるな。もう二度と、俺の前で無理はするなよ」


 そう言うと、ツバキはコクっと頷いた。大変なのは俺だけで充分。ツバキだけでなく、ジゲンはもちろん、これまで花街で苦労してきたダイアンやアザミ達には、これからも安心して、屋敷に住んでもらおうと思っている。

 その為に、これからも頑張っていこうと感じた。


「あ……それでですね……」


 と、ここでツバキが、何かを思い出したようにこちらに体を向けてきた。何だろうかと思っていると、リンネも、あ、と言って、ツバキの顔を見つめる。

 ツバキが優しく頷くと、リンネはぱあっと表情を輝かせて、俺の方に体を向けてきた。


「あのね、あのね!」

「何だ? どうしたんだ? 二人とも」

「あのね、おししょーさまに、ぷれぜんとつくったの!」


 何のことだと、タクマとメリアに顔を向けると、ぷれぜんとというのは、大切な人に贈る、贈り物の事らしい。

 どうやら、ツバキとリンネで、俺に何かを渡したいようだ。

 嬉しいことだが、急だなと感じ、更には、それを作ったというのはどういうことだと、若干慌てていた。


 少し緊張して、背筋を伸ばすと、リンネに急かされたツバキが懐からあるものを取り出した。


「こちらです。いつも、私達の為に頑張ってくださるザンキ様……いえ、ムソウ様にと思い、リンネちゃんと作っていました」

「おししょーさま、いつも、ありがと~!」


 そう言われて渡されたのは、白い毛で作られた髪飾りだった。毛の他にも、虹鳥の羽や、綺麗な南京玉も使われていて見映えが良い。

 聞けば、その白い毛は、リンネの尾の毛らしい。温かい季節になって、抜け落ちたものを取っておいたそうだ。


 そして、モンクで過ごしている間に、時間を見つけてはこっそりと、俺にバレないように作っていたという。

 ツバキから渡された髪飾りを手に取り、じっくりと眺めてみた。肌触りを確認すると、やはりトウガのものよりは、柔らかいなと感じた。


「これを……二人が作ったのか?」

「うん! リンネもがんばった!」

「ええ。リンネちゃんは頑張りました。私よりもお上手でしたよ」


 リンネの頭を撫でながら、優しく微笑むツバキ。リンネは、ワクワクとした様子で、俺の顔を見上げていた。


 天宝館の職人にも負けていない出来の髪飾りを付けてみた。重さは感じられず、鬱陶しい感じもしない。

 そう言えば、長い間、こういうのは付けていなかったな。マシロで買ったものは、クレナの一件で吹き飛んだし……。

 何となく懐かしい感じがして、二人の頭を撫でた。


「ありがとう、二人とも。最高のぷれぜんとだ」


 発音があっているのか分からないが、二人に感謝した。今まで見たことが無いくらい、二人はニコリと笑い、リンネは両手を上げて喜んでいた。


「わーい!」

「いや、喜ぶのは俺の方だ。わーい!」

「フフッ、珍しいものを見ることが出来ました。喜んで頂けて何よりです。クレナに戻りましたら、ジゲンさんやアヤメ様に報告せねば、なりませんね……」

「あ……それは辞めてくれ」


 リンネと一緒に両手を上げていた時にツバキが放った一言。やり過ぎたと思い、ツバキを止めようとしたが、いつもの俺を揶揄う顔になっていく。ジゲンはまだしも、アヤメやアザミ達には知られたくないと思い、その後も必死に、思いとどまるようにツバキを説得していた。

 タクマ達がクスクスと笑う中、今度はたまに言うと、リンネもツバキに乗り始め、今日も少々騒がしくはなったが、楽しい夕餉となり、寝る瞬間まで、ツバキとリンネへの説得は続いていった。

次回更新分から、モンク編のヤマ場へと突入できればと思っております。

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