第314話―冒険者達と作業を進める―
村に到着したフジミとフガク、二人それぞれの仲間達は、男たちは力仕事の為、外に出ていき、女達は何人かはこの場に残り、飯の支度をしている。
すでに、事情を知っているだけあって、コイツ等からも俺は、ザンキと呼ばれているし、俺とは、何度か仕事を一緒にしたことがある冒険者ということで話は通っているようだ。
とは言いつつ、最近のムソウ一派の動向が知りたかった俺は、周りの人間に聞こえないように、フジミと話しながら米を握っていた。
「あれから大変だったみたいだな。チャブラの一件が落ち着いたら、今度は元領主に、ケリスの従者と……何か分かったか?」
「なーんにも。ツルギや皆と情報を交換し合っているけど、大したものは無かったわね」
「お前らやシンジ達も行方を追ってもなお、痕跡すら見つけられないとはな。やはり、深入りは止めた方が良いかも知れないな」
「ええ。私達も、ここの話が出た時は、正直、それが良いと思ったわ。とてもじゃないけど、私達の手には負えないもの。
チャブラのレックスさんは、この件に関しては、人界全体で取り組まないとって言ってたわね」
レックスだけではなく、転界教に関わった領や、一部の騎士団がそういう意見だというのは、俺も耳にしたことがある。アヤメは、どちらかというと、そういう考えだからな。
ただ、シンキは転界教や、それに通じる邪神族に関して、人界に公表することには、微妙な思いで居るらしい。
カンナの息子であるラセツや、エンヤ達との約束もあり、どうすれば良いのか自分ではわからないというのが本心だ。
この問題に関しては、近々開かれる天上の儀にて話し合われるそうなので、その結果を待つことにしよう。
ちなみにだが、転界教という危ない組織が人界にあるということは、ムソウ一派も知っているが、邪神族に関しては全く知らないらしい。無論、俺とカンナ……初代人界王シンラ達との関係も知らない。この点に関しては、このままで良いと思っているので、特に何も言わなかった。
「まあ、ひとまず、骨休みって意味で、ここの仕事を手伝ってくれ。んで、柵とかが出来れば、ここをお前らの拠点にするってことだが……」
「ええ。それも全員了承してるわよ。冒険者として、拠点は欲しいからね。ここはマルドにも近いし、マルドからは各地に船が出ているし、言うことは無いわ」
「それは良かった。そうとなりゃ、たくさん仕事するあいつ等や、仕事をしに来るツルギ達の為にも、美味い飯を作らねえとな」
「手伝うわ。あ、ツルギや、他の皆は明日の午後には到着するみたいだから。今日は、マルドに泊まるみたいよ」
「分かった。さて、もうひと踏ん張りだな……」
俺はその後も、おにぎりを作っていく。
フジミは、やれやれと言って、俺の手伝いをしたり、他の女たちの手伝いを始めたりもしていた。普段から料理を作っているのか、包丁や鍋の扱いは手慣れているようだった。
ふと、窓の外を見てみる。外で作業をしている冒険者達が見える。土魔法で開けた穴に入れていく大きな丸太を、他のものは何人かで担いで持っているが、フガクと、この村に来た時に、俺に声をかけてきた大男が二人で肩に担ぎあげている場面を見て、思わず笑ってしまった。
早々に仲良くなっているようで何よりだ。そして、あれだけ働いたら、結構腹もすかせるよなと思い、100個作る予定だったが、少し増やして作ることにした。
一つ当たりの大きさも一回り大きくしながら作っているうちに、日が傾き始める。
すると、村の中にある鐘が大きな音を立てて鳴り始めた。
「本日の作業は終了~! 全員、お疲れさ~ん! 飯と風呂の準備は出来ているから、冒険者は、村の広場に集合だ~!」
鐘の音の後にグレンの声が聞こえてくると、集会所から椅子と机を運び出し、料理を並べていく。
こんな時に、神人化出来れば楽なのになと思いながら、俺も作ったおにぎりと、大鍋を運んでいった。
一日中、力仕事をしていたと思われる冒険者達は、料理の準備をしている俺に訝し気な目を向ける。
「あ~、疲れたなあ……って、アンタは、ザンキっつったか? この依頼の発起人の……アンタ、今日は何やってたんだ?」
「見たらわかるだろ。飯、作ってた」
「いやいやいや。鍛えてるみたいだから、こっちで働けよ」
「不器用なんだ、俺は」
「じゃあ、資材運ぶだけでも良いからよ。器用とか、そんなの関係ねえ作業だぞ?」
「ああ……それなら……」
男の提案にすぐに納得してしまった。それなら、俺も出来ると喜んでいると、仕方ないなという顔で頷いている冒険者達。
どこか、年寄扱いをされているみたいでハッとし、喜ぶのを辞めた。
明日から、今日の洞窟の仕事みたいな、俺にしか頼めない用事が無かったら、俺も外で働くとしよう。
さて、続々と集まってくる冒険者達。今の所、やはり男の方が多いくらいか。もう少し多めに飯を作っておいても良かったなあと思っていると、サーラとグレン、それに、老齢の男が二人に連れられて、俺のそばまで来ていた。
「ザンキ。一応、アンタには紹介しておこう。この村の村長、ラコンさんだ」
グレンの言葉に頷き、俺の前に出る村長。腰が曲がってはいるが、表情はまだまだ元気そうな白髪の爺さんだ。ジゲンよりも、年上だろうなという感じの爺さんは、俺に向かって頭を下げる。
「どうも、冒険者のザンキ殿。儂がスーラン村村長、ラコンじゃ。この度は、このような心遣い、真に感謝いたす」
「いや、頭を上げられよ、村長殿。村の防衛の提案は、グレンとサーラさんだ。俺は手紙を届けただけだ」
「ふむ……それだけでも嬉しいものじゃよ。他の冒険者達とは別に、ザンキ殿には報酬をお渡しするからのう。期待しておってくれ」
穏やかな顔で微笑むラコン。やはり、穏やかな村で生まれ育った人間は穏やかな人間になるのだろうなと、勝手に納得した。
「ありがとう、村長殿。それから、しばらく厄介になるが、よろしく頼む」
「うむ。何かあっても、ガーレンの坊主に押し付けるからの。適度に好きに過ごしてくれ」
そう言って、ホッホッホと笑いながら、サーラに促され、他の冒険者達の所に行っては、頭を下げるラコン。
ギルド支部長を「坊主」扱いとはな。あの爺さんも、大物だとグレンと一緒に笑っていた。
「さて……と。今日、アンタはどこに泊まるんだ? うちに来るか?」
「流石に、夫婦で二人の所に押し掛ける気はねえよ。適当な所に天幕と風呂を出して過ごすとするよ」
「おっと……気遣い感謝するぜ」
「はいよ。それで、明日から俺も皆と一緒に作業をするつもりだが、もう他にやることは無いよな?」
「ん? あ、ああ。特には思い当たらないな。また、ラコンさんや他の皆にも聞いてみるつもりだが……アンタ、大工仕事は出来ないんじゃ……?」
「物、運んだり、地面掘るくらいは出来る」
「ハハハッ! なるほどな。分かった。また、用事があったら声かけるからよ」
何故、笑われたのか、考えると少しだけムッとするが軽く受け流し、グレンに頷き、飯の準備が出来たということで俺達も席に着いた。
そして、村長の乾杯に合図とともに、今日集まった冒険者達と料理にありつく。
それぞれ、自分がこなした依頼の事を自慢しあったり、人界各地の情報交換をしたりしながら、酒を呑み、料理を食っていく。
俺が作った握り飯を、フガクたちが上手そうに食べている光景を見て、俺も今日は頑張ったと実感した。
皆の様子を見ながら、何となくクレナを思い出してしまう。毎日、こうやって、飯を食っていたなあと思うと、少しだけ寂しいような気持ちになるが、騒いでいるグレンに、飲み過ぎだと、それを諫めるサーラ、酒盛りを始めるフガク達に呆れた様子のフジミ達を見ながら、これはこれで良いかと、俺も酒を呑んでいた。
やがて、飯が少なくなってきたところで、冒険者達は交代で風呂に入ったり、村の空いた所に、それぞれが用意していた旅用の家を異界の袋から取り出して設置したり、天幕を張ったりして、それぞれで一日を締めくくり始めていた。
俺も、グレンとサーラと別れて、少し離れた所に風呂と天幕を設置し、久しぶりの外での風呂を楽しんだ後、天幕に入って眠りについた。
◇◇◇
翌朝、目が覚めて天幕を片付けていると、ぞろぞろと冒険者達がそれぞれの家から出てくるのが見えた。
冒険者達は、身支度を整えて晩飯を食べた村の広場へと集合していく。俺もそれに着いていき、フガクやフジミ達と少しばかり団欒としながら、グレンを待っていた。
「ツルギ達は今日だったな。いつ頃に来るのだろうか?」
「マルドを朝出るんだったら、昨日の私達と同じ様に昼過ぎくらいじゃない?」
「やっぱり、徒歩だとそれくらいは掛かるんだな」
「ザンキ殿は、普段どのように……って、ああ、飛んでか……」
空を見ながら呟くフガクに頷く。これまで、マルドから陸路でスーランに来たことが無かったから、どれだけの時間がかかるのかと思ったが、やはり多くても半日は覚悟しておいた方が良さそうだ。
今日は、マルドに帰るから、その際に、道の安全とか少しばかり確認しておくとしよう。
まあ、ツルギ達がここに来る道中に、魔物を倒してくれていたら楽なんだがな。一応、フジミ達に確認したが、昨日の時点で、魔物にはそこまで遭遇しなかったらしい。
やはり、冒険者の質が違うと、ここまで状況が違うんだなと実感した。
その後、他の冒険者達とも、今日の作業について話したり、この辺りの依頼の事情だったりを話していると、眠そうな顔をしたグレンがサーラを連れて、俺達の元までやって来た。
「お~っす。今日も皆さん、朝からどうもっす。今日も一日、よろしく~」
「ん? ずいぶんと眠そうだな、グレンさん。何かあったんすか?」
「昨日、飲み過ぎたみたいっす。今晩からは、控えないとな……」
「ッたく……サーラさんに叱られないようにな」
俺達が注意すると、苦笑いするグレンの横で、サーラが、まったくだと言うように大きく頷き、その場で笑い声が起きた。
「はあ。まあ、今日も皆で一緒に頑張りましょう。早速っすけど、今日からは村周りの柵と、堀を作る班と、昼と晩の飯を作る班に分かれて、作業をしてもらうっす。
基本的に男共と、土魔法を使える冒険者は外で、それ以外の、力仕事が苦手な人間は、サーラの指示で料理をお願いします。
あ、それと、外で作業する方々の中から、八人ほど、外からの魔物なり、山賊なりの警戒をお願いするっす。人選はお任せしますんで、よろしくお願いします」
「「「「「う~っす!」」」」」
「「「「「は~い!」」」」」
グレンの指示に、一斉に返事する俺達冒険者。ここでも何となく、クレナの皆の事を思い出し苦笑いした。
さて、俺達外で働く組は、昨日フガクと共に丸太を一人で運んでいた大男の周りに自然と集まっていた。
基本的にグレンの代わりに、外で働く者達の統率を執っているらしい。
名前はジェイド。普段は鎖付きの鉄球を振り回しながら魔物を倒したり、自身の怪力を以って、こういう建設関連の依頼や、建物の解体などを行っているということで、ある程度の知識も持っているとのことだ。
歳も、俺と同じくらいでこの中では俺を除いて年長者らしく、誰も文句は無かった。
「うっし。それじゃあ、見張りは交代でやっていこう。時間が来たら交代な。策作りは俺とアンタは確実だ。え~っと……」
「フガクだ。力仕事は任せろ」
「おう、昨日に引き続き、頼りにしている。で、もう一人のムソウ一派のアンタは……」
「フジミよ。私のグループは、地属性の魔法が使えるからね。お堀の作業でもしておくわ」
「了解だ。頼りにしている。他は、昨日までと同じようにな」
「おう。任せとけ」
「今日も働きますか!」
「それで……え~と、ザンキさんは、何が出来るんだっけ?」
「ああ、俺も力仕事くらいは出来る。丸太組んだりは出来ない」
「充分だ。じゃあ、資材の運搬と、それから見張りの方も頼んだ」
ジェイドの指示に頷き、他の者達も頷いたことで、今日の作業が始まった。
何か、グレンがニヤニヤとこちらを見ながら笑みを浮かべているのが目に入る。
「ん? どうかしたか?」
「いや、十二星天にも領主にも軽口叩くアンタが、普通の冒険者の指示に従うって場面が面白くてな」
「そりゃ、するさ。こんなところで意地張って、団体行動を乱すわけにはいかねえだろ」
「そういう性格には見えねえけどな」
確かに、グレンの言うように、前の世界でハルマサ達に会う前の俺は、一人で勝手に終わらせていたからな。
まあ、それで玄李との戦局も良い方向に転がって行ったから、あの頃の俺が最悪な時だったことを差し引いても、アレで良かったと思っている。
それに、タカナリ直属の“古今無双の傭兵”になってからも、この世界に来てからも、基本的には一人で何でもこなしていたからな。そういう生き方も良いと思っている。
しかし、今回は他の冒険者達と協力して行わないといけない仕事だ。そういう条件ならば、俺だって勝手なことはしない。それくらいわきまえている。
先ほどのジェイドの指示も的確だと思っているし、言うことは無い。指示に従うくらい普通の事だと言うと、グレンは笑いながら、そうかと頷く。
「まあ、アンタに負担が無いならそれで良いだろう。しっかり働けよ」
「分かってる……っと、そうだ。お前に一つ、言っておくことがあるんだった」
「ん? どうした?」
不思議そうな顔をするグレンに、更に続ける。
「ムソウ一派の残りの、ツルギ達も今日の午後に、ここに来るらしい。冒険者も一通りこの村に揃うからよ、落ち着いたら、マルドのタクマの所に行っても大丈夫だぞ」
「お、そうか。最初にアンタに話を聞いた時から日も経っているし、それは丁度いいかも知れないな……わかった。また、日取りが決まったら、声をかける」
「了解。用件はそれだけだ。じゃあな」
おう、とニカっと笑うグレンと別れ、俺は作業場に向かった。
フガク達と共にジェイドに案内されたのは、事前に開けた穴の前。昨日のうちに並べられた丸太を、そこに差していくのが俺達の仕事だ。
手本だと言って、ジェイドとフガクは一人で丸太を持ち上げ、穴の中に入れた。それを支えている間に何人かが穴を埋めて、丸太を固定させていく。
手を放しても丸太が動くことが無かったら、次の穴へと移動して同様の作業を行う。
これを続けて、少なくとも今日中には、柱となる丸太を全て穴に入れておきたいとのことだった。
「分かった。じゃあ、俺とフガク、そしてジェイドの三人は分かれるとして、穴を埋める奴らをそれぞれに割り振ろう」
「俺達は良いが……オッサン、これを一人で持てるのか?」
不安そうな顔で丸太を指さすジェイドに、笑って頷く。
「舐めんな」
全身に力を入れて、丸太を肩に担ぎ、そのまま穴の中に差した。
「良し。じゃあ、お前ら、今のうちに穴を埋めてくれ」
「う、うっす!」
目についた冒険者達に指示を出すと、そいつらは動き、俺が差した丸太と穴の隙間を埋めていく。
何だか安心したような顔つきのジェイドはニカっと笑って俺の肩を叩いた。
「やるじゃねえか。細いから、心配だったが」
「これくらいは出来るって言っただろ?」
「ハッハッハ! そうだったな。じゃあ、ここは任せるからな。見張りの交代まで、その調子で続けていてくれ」
そう言って、ジェイドは自分の持ち場に向かった。
「ザンキ殿はやはり何でも出来るようだな。俺も、そんな風に歳を取りたいものだ」
「まだ若いのに、爺さんみたいなことを言うなって」
二十代らしからぬ言葉を言ってくるフガクに、やれやれと思っていると、フガクは苦笑いしながら頷いた。
「うむ。では、俺も行くとしよう。また、昼飯の時にな」
何人かの冒険者を連れてフガクも持ち場に向けて歩いていった。
俺は、他の冒険者が穴を埋め終えるまで丸太を支え、作業が終わると次の穴へと向かい、また、丸太を担ぐと、冒険者達から、お~という歓声が上がる。
「今日は、これを何本やるんだ?」
「え~と、一応、全部の柱なんで、フガクさんと、ジェイドさんと合わせて、300程っすね」
「てことは、一人頭、100はやらないといけないのか。結構多いな」
「いやいや、昨日一日で、300いったんで昨日よりは楽っす」
む……それを言われると、ますます俺が昨日、何もしなかったのが悔やまれるな。この調子なら、俺も昨日はこっちで働くんだったと少し反省した。
だが、気にしてもしょうがないので、取りあえず、今日は俺も頑張ろうと思い、丸太を穴に差した。
せっせと穴を埋めていく冒険者達。闘鬼神の皆とも、何時かはこうやって一緒に依頼をこなしたいもんだなと思いながら、その後も作業を進めていく。
そして、五十本を越えたあたりで、ジェイドが俺の所まで来て、見張りの交代に行くように指示を出した。この分だと、俺が抜けても目標には届きそうだと感じ、名残惜しそうにする、俺と一緒に作業していた冒険者達と別れて、村の正面(になる予定の場所)まで行き、見張りをしていた冒険者達と交代した。
「ここでは何をすれば良いんだ?」
「特に何も。魔物が近づいて来ていたら、知らせるか、倒すかだが、この辺りは魔物が居ないみたいだからな。多分、これから暇になるぞ」
「重労働の後の休憩時間だと思えば良い。さて、と。じゃあ、ここは任せたぜ、オッサン」
今まで見張りをしていた若い男たちは、柵作りの作業場へと向かった。
入り口にある、「スーラン村」と書かれた看板の下に腰を下ろし、辺りの気配を探る。確かにこの辺りに魔物の気配は無い。男たちの言うように、しばらく休憩できそうだなと思いつつ、暇すぎると朝から眠ってしまいそうになるので、適度に緊張感を持ちながら、周囲の様子を気にしていた。
これだけ暇だと、マルドやレイヴァンのように、一日中人の往来がある場所と、こことでは、こういう見張りはどちらが辛いのかと可笑しな気持ちになる。
せめて、もう一人くらい居てくれたら良かったのにな。
そう言えば、今行っている村の仕事、俺一人で行うと、どれだけの時間が掛かるのだろうか。神人化して、いつものように光葬針を武者の形にして作業を行いつつ、見張り、というか、辺りに飛ばして近くの魔物を狩る。
不可能ではないが、問題は丸太を組む作業だ。俺に出来ないことが、光葬針にも出来るのだろうか? 出来たとしても、かなり不格好なものになりそうだなと思い、結局、今の方法で良かったと納得した。
……静かで……暇だな。良い所ではあるが、これだけ何も無いと、見張りも辛い仕事だな。
体を動かしたくてしょうがない。皆の言うように、俺は“戦闘狂”なのだろうか。
いや、それはエンヤや、昔のジゲンのような人間の事を言う。俺は違うと、自分に言い聞かせ、異界の袋から調合の道具と、リエン商会で買った薬の材料になる草や実を取り出す。
そして、調合の本を見ながら、回復薬の他に、睡眠薬の効果を引き上げて、戦いの場でも使える薬を作っていく。
普通、こういう薬を作る場合、材料を砕いた際に飛び散る粉塵により、調合をしている本人が眠くなる場合があるらしいが、そのあたりは、俺の場合スキルの力でどうにでもなっているらしい。
薬も毒も自在に作ることが出来るあたり、改めてナツメには感謝だなと、半ば呆れながら調合を進めていく。
この間にも、無論、辺りの警戒は怠らない。気配を探ったり、偶に顔を上げて様子を見たりと、若干ではあるが、見張りという仕事も、少しは忙しくなってきた。
そして、ある程度の量の薬を作ることが出来た時、村にある鐘から大きな音が鳴り響いた。
「午前中の作業は終わりだ~! 昼飯出来たから、戻ってこ~い!」
威勢の良い、グレンの声が聞こえてくる。俺は、交代の人員が飯を終えてここに来るまで、見張りを続けることになっている。
何も無かったが、もう一日の半分が終わったのかと、空を見上げていた。




