第313話―原初の龍族について知る―
最初にアティラが語り出したのは、そもそも龍族というのがどういう存在かということである。
カドルから聞いた話だと、邪神族の魔物に対抗し神族が生み出した存在ということだが、その数は神獣と同じく少ない。圧倒的な数の魔物よりも、力は大きいが、少数の者達を生み出すことで、邪神大戦後も、神族や鬼族、人族の統制の下に置くことが目的だったためだ。
龍族の個体数は七体。炎を司る炎帝龍、水を司る水帝龍、風を司る嵐帝龍、雪や氷を司る氷帝龍、そして、雷を司る雷帝龍カドル、大地を司る地帝龍アティラ。
更に、“原初の龍族”と呼ばれ、他の六体よりも先にケアルによって生み出された、神帝龍と云う存在が居る。
この七体の龍族は今も生きており、ゴルドにある龍族と、その末裔が住んでいる「龍の里」と呼ばれる集落に、神帝龍は居るという。
流石に、邪神大戦当時の力はすっかり失っており、人族に紛れ、ひっそりと山奥で暮らしているらしい。ひょっとしたら、俺の力で復活する可能性もあるが、それは置いておこう。
ちなみにだが、この世界に召喚された十二星天エレナ・ドラゴニアの魔法の師匠だという。そもそも、エレナが召喚された場所が龍の里だったらしく、右も左も分からないエレナに色々と教えていて、エレナからは、「龍じい」と呼ばれているらしい。
何となく、どういう存在か想像できるのが面白いな。
神帝龍は、他の六体を統率する立場に居て、カドル達は、有事の際は、神帝龍に従わねばならない。
壊蛇の災害の時は、エレナの呼びかけに応じた神帝龍の指示に従い、エレナと共に壊蛇と闘うことになったというのが、人界に、あまり干渉しないというカドル達が人界や人族と関りを持つきっかけであるという。
普段、他の龍族は、それぞれが司る力に即した場所で体を休めている。
例えば、カドルは雷雲山、アティラは大地というように、炎帝龍は火山、水帝龍は海、氷帝龍は雪山といった具合だ。
「ん? 風を司る嵐帝龍は?」
「どこかの空じゃ。風と一体化……つまり、空気になって今もどこかの空を漂っておるじゃろうな」
つまりは場所を選ばないというわけか。逆を言えば、その場にとどまるということは無さそうだ。風と一体化しているということは、俺もどこかですれ違っている可能性も……無いか。何も感じないし、今日のアティラの様子を見ると、天界の波動を放ちながら飛んでいる俺には近づいてきそうだからな。どこかで会っている可能性もあるというのは無いな。
……時々、刀の試しだと言って、斬波を空に放ったり、敵を斬り終えて戻ってきて、これからどうしようかという飛刃撃の最後の一撃を空に向けていたりしていたが、今後は辞めておこう……。
さて、それぞれの龍が生息する具体的な場所だが、神帝龍はゴルド領、つまり、王都のある大陸だが、この大陸にはアティラとカドルが居る。
他の龍は、水帝龍は海のどこか、嵐帝龍は、世界のどこかに生息している。
残る、氷帝龍は、オウキ領にある巨大な山脈地帯に居るのではないかとのこと。地図で見る限り、トウガ達が居たあたりだ。レオパルドも、凄い所に転生したものだな。
炎帝龍は、リヨクにある火山地帯に生息しているとのこと。これは確実な話で、この世界にそれくらいの規模の火山は、リヨクと、クレナのシンコウ山しかない。
ケリスの事もあり、シンコウ山も魔物の気配で近づくことは無いだろうし、実際に行った俺が姿を確認できなかったことから、あの山には炎帝龍は居ないので、リヨクの方に確実に居るという結論になった。
「こうやって、妾達はそれぞれの大陸に、力の均衡がとれるように生息しておる。それぞれ、決まった拠点を持ちながら、人界各地の監視を続けておるというわけじゃな」
「そうなると、この広い大陸は、大変じゃないのか? カドルも動けないとなると」
「ここ数十年は壊蛇の影響もあったが、これからは違う。あ奴も元気になったのじゃから、働いてもらわねばの」
アティラは得意そうな顔をする。実際、カドルもかつての力を取り戻したと、自分で言っていたからな。そこは、俺からも念押ししてカドルに伝えておくと言うと、アティラは喜んでいた。
「さて、妾達龍族については以上じゃの。まさか、エレナ以外にも、この時代に龍族を友と呼ぶものが居ってくれて嬉しいものじゃ」
「それまでは居なかったのか?」
「邪神大戦の頃から生きておるものが少ないからのう。時代が変わるにつれて、妾達も、魔物と同じ様に、恐れられるようになっていった。魔龍という存在も居るからのう……」
「ああ、そう言えば、あれはどういう存在なんだ? 話を聞く限りでは、龍族の数は少ないんだろ? 魔物たちが、お前らの誰かの子を産んだってことになるよな? どういうわけなんだ?」
俺の問いに、アティラは少しばかり暗い顔をした。話しづらいなら話さなくて良いと言ったが、大丈夫と言って、口を開く。
「魔龍を生み出したのは……妾じゃ」
「は?」
「妾が生み出されてすぐじゃったかの……魔物や邪神族と闘っていた妾は敵に捕らわれ、慰み者にされておった。そして、生まれたのが、魔龍じゃ」
アティラの告白に、どう答えて良いのか分からない。
大地を司るという大きな力を持ちながら生まれたアティラは、闘いにおいて、少々傲慢になることも多かったらしく、戦場に置いて、突出することもあったという。
邪神族との闘いで罠にはまったアティラは、そのまま捕らえられ、魔物たちの慰み者になり、より強い存在を欲した邪神族達により、魔龍を生み出す母体にさせられていたという。
「シンラ殿や、ルージュ殿に助けられるまで、妾は魔龍を生み出しておったのう……」
「もういい……」
続けるアティラの言葉を、これ以上聞きたくなかったので、強制的に止めた。とんでもないことを聞いたなと、少しばかり後悔していると、アティラはフッと笑みを浮かべる。
「そんな顔をするでない。それでも妾は生きておる。いや、生かされておる。新たな脅威を生み出したにも関わらず、お主の息子殿や、奥方殿、それに、エンヤ殿達は、妾を攻めたりはしなかった。ケアル様も、他の龍族も、妾が生きていたことを喜んでくれた。
妾はそれが嬉しかった。だから、今も人界を護っていこうと思っておる。皆に迷惑をかけた分、今度は妾が、頑張らねばならぬの」
今も人界に様々な影響を及ぼす魔龍という存在を生み出した責任を感じているようなアティラ。
俺はまっすぐとした視線のアティラに頷いた。
「わかった。それなら、俺も何も気にしない……が、今日から、俺もお前の友だ。困ったことがあったら、この、“古今無双の傭兵”に任せてくれ」
胸を叩きながらそう言うと、アティラはゆっくりと頷いた。
「うむ。頼りにしておるぞ……“死神斬鬼”殿」
アティラの言葉に、少しだけ嫌な顔をする。
「そのあだ名は……あまり好きじゃねえんだが……?」
「む? そうなのか? 鬼族のゴウキ殿やエイキ殿は、好んで使っておったぞ」
不敵に笑うエイキと、ニカっと笑うゴウキが思い起こされる。あいつ等……と、頭を抱えるが、アティラは大いに笑っていた。
あの二人にあったら、絶対ぶん殴ってやろうと思いながら、その後もしばらくアティラと話していた。
◇◇◇
その後、一通り気になることを話し終えた俺達は、事情を説明し、この洞窟を、近くの集落の避難場所にする作業を再開させる。明かりの魔道具を洞窟に設置したり、魔物の存在を確かめたりと、やることは多かった。
すると、アティラが手伝うと言ったので、思いっきり力を借りた。明かりを取り付ける時などは、アティラの洞窟をあちこちに移動する能力を存分に発揮してもらい、魔物の確認は、龍族の結界陣を使ってもらうことで、すぐに洞窟の全体像と、魔物の存在を確かめることが出来た。
「ふむ……魔物の存在は無いのう。洞窟どころか、人族の集落の周りにもそれほどは感じられんのう」
「てことは、全く居ないわけではないんだな?」
「うむ。離れてはいるが、居ることは居るのう。もっとも、そこまで強くは無いが……」
となれば、居たとしても下級の魔物か。今は良いが、今後成長することになれば、厄介だ。今回の作業は無駄ではないということを確認できて良かった。
「ここにアティラがずっと居てくれたら楽なんだがな」
「そう言わんでくれ。妾も、お主らと同じく、あちこち行くのが好きなのでな。それに、ここばかりを護っておるわけにもいかんしのう」
「冗談で言っただけだ。気にするな」
「ふむ……では、次の仕事に移るかのう」
アティラは、俺から魔道具を受け取り、淡々と作業を再開させる。少しばかり寂しい気持ちになりながらも、俺も魔道具を設置しては、明かりを灯していった。
無論、各作業ごとに天界の波動を浴びせたり、直接口の中に放りこんだりもしていた。その度、アティラは喜ぶが、段々とカドルと同じ様に力を増していくので、若干冷や汗を掻き始める。
カドルが本気で闘うと、山をも砕く雷を落とすが、コイツが暴れるとどうなるのだろうか。大きな街でもあっという間に瓦礫の山へと化す大地震でも起こすのだろうか……。
コイツもまた、怒らせてはいけない存在なんだろうと思いながらも、その後も仲良く作業を進める。
やがて、全ての通路と、横穴に明かりを灯し、外と何ら変わらないくらい洞窟が明るくなったことを確認し、俺達は作業を終えた。
「これなら、大丈夫だな」
「ふむ。この灯りは、すぐに消えるのかの?」
「魔道具をくれた奴曰く、一定時間が経てば消えるようだ。また、点けたかったら、魔力を通せば良いらしい。何かあったか?」
「もう少し、ここで休憩して次の土地へと移りたいからのう。こう明るいと、落ち着いて寝られんのじゃ」
「なるほど……。てことは、ここでお別れだな」
俺とアティラは、最後にと思い、向き合った。
「うむ……っと、そうじゃ、ムソウ殿。お近づきのしるしと言ってはなんじゃが、天界の波動の礼じゃ。手を前に」
アティラに促されるまま、俺は手を前に出した。するとアティラは目を閉じて瞑想を始める。
すると、アティラの体が輝き出し、体から何かが出てきた。それは俺の手の上に収まる。
「これは……」
「それは、妾の牙、骨、鱗じゃ。腕のいい職人に渡すと武具の素材にしてくれような」
「牙と鱗は分かるが、骨というのは?」
「妾もトカゲのように、尾を切ることが出来るのじゃ。その骨は、以前古くなった尾を切ったときに出て来たものじゃ」
「なるほど……感謝する」
良いものを貰ったものだと、アティラに頭を下げた。
「うむ。ではの、ムソウ殿。懐かしい友の話が聞けて良かった」
「ああ。またな……」
見送るアティラに手を振りながら、俺はその場を後にした。
思いもしなかった出会いに、未だ、胸が高鳴っていることに気付く。いったん、落ち着こうと息を整えていて、そう言えば、外はどのくらい時間が経っているのだろうかと少し急いで洞窟を出た。
来た道を戻っていくと、出口が見える。未だ、日は高いようで外は明るく、目を細めた。
空を見上げると、太陽が中天よりも、少し傾きだしていることに気付く。今は昼過ぎってところだな。
周りには誰も居ない。これからどうしようかと思ったが、取りあえず、避難所の作業が終わったことを報告する為、グレンの家を目指していった。
◇◇◇
洞窟から集落へと続く森を抜けると、すぐにグレンの家が見えてきた。近づいていくと、店番をしているグレンと、店の前に出された机や椅子の片づけをするサーラに気付いた。
声をかけるとグレンは顔をこちらに向けてくる。
「お、帰って来たか。やはり速かったな。どうだった?」
「魔物は確認できなかった。灯りの方は全ての通路や広間に設置することが出来たぞ」
「そうか、そうか。やはり、アンタに頼んで良かったな」
ニカっと笑いながら、煙管を咥えるグレン。普段なら、速すぎるとか言われそうだが、グレンに関してはそう言うことも無いようなので、何となく安心する。
「で、次は何をしようか?」
「う~ん……正直、ザンキに出来ることは無いなあ。大工仕事が出来ないんだからなあ~……」
「それは……すまない」
出来ないものは出来ないと言ってしまいたいが、ここでの作業の大半は、柵づくりが主な内容の一つだ。それが出来ないとなると、現在の俺は、役立たず以外の何物でもない。
どうしたものかと悩んでいると、そばに居たサーラがポンと手を叩く。
「では、私の手伝いをお願いできませんか? 主に、冒険者の皆さんの夕ご飯の支度ですが……」
サーラの提案に、グレンも大きく頷いていた。
「あ、それはいい考えだな。ザンキの飯は美味いし、あの量の飯を用意するとなると、力仕事にもなるからな」
「それと、お風呂の用意などもお願いしたいのですが……」
風呂に関しては、俺の屋敷でも行っていたように、大きな天幕を張り、中に大きな風呂桶を置き、そこにお湯を入れるというだけだが、これも力仕事であり、サーラ一人で行うのは不可能だ。
それなら、難しいことは無いなと、俺は二人に頷いた。
「分かった。じゃあ、この後、ムソウ一派の奴らが来るようだったら、また、俺に声をかけてくれ。それまでは、サーラさんの下で働くとしよう」
「おう。他人の嫁に手ぇ、出すなよ」
「もう、貴方ったら」
グレンを小突きながらも嬉しそうな顔をするサーラ。突然いちゃつき始めやがってと頭を掻く。
その後は、サーラと、何人かの村人達と共に、村の倉庫にあった、大きな容器、風呂桶になるものを運び出し、女湯と男湯に分けて天幕を張った。
それぞれに水を入れて、後から火炎鉱石を入れるようにして、この作業を終える。
次に、冒険者達への料理を作っていく。ギルド、もしくはこの村から提供された食材は、グレンの手元にある。ひとまずそれを受け取り、大きな釜戸がある、村の集会所へと向かうと、サーラと共に、今度は主に、村の女性陣が飯の用意をしていた。これだと、毎日大量に料理を作ることが出来ると納得し、俺もそいつらと混じって、料理を作り始める。
大きな鍋に水を入れて、ワイアームの切り身と、野菜を煮込んでいると、村の者達に、声をかけられた。
「おや。アンタは、外で働かないのかい?」
「俺は、大工仕事が苦手……というか、出来ないんだよ」
「あらあら、男のくせに大変ね~」
「ああ。本当にな……」
「じゃが、料理は達者の様じゃの。ひょっとして、本当は、おなごなのかの?」
「まだ、ボケるには早いだろ……」
俺が言い返すと、少しだけムッとした態度の婆さん。俺に喧嘩を売ると、こうなるのだと、気にせず鍋をかき混ぜる。
そもそも、男と女で出来ることに差をつける考え自体が嫌いだ。俺より強いと、俺が思う人間は女だしな。
……ああ、やはり、アイツの所為で、変な考えになってるな、俺。まあ、間違っては居ないだろうと、それも特に気にしていなかった。
さて、色々と嫌味なのか、揶揄っているだけなのか分からない言葉をぶつけてくる村人達だが、こんなものは、アザミ達で慣れている。
軽く聞き流しながら、肉と野菜が柔らかくなってきたことを確認し、味噌を入れて蓋をした。これは、ひとまず飯の時間までお預けだ。
「あ、ザンキさん。お米が炊きあがりましたので、おにぎりの方をお願いします」
「おう。幾つ作れば良い?」
「そうですね……100あれば足りると思います」
ニコリと笑うサーラ。結構な数だな。皆で100ではなく、俺一人で、100作れとのこと。ある意味、サーラの言葉が一番きついなあと感じながらも、サーラに頷き、俺は炊きあがった米を握り始める。
何となく、精霊人の集落を思い出す。あの時も、ホリー達、精霊人の女たちは強かったな……。そう考えたら、この作業も割と辛いものではないかと感じ、無心になって米を握っていく。
二十ほど握り終えた後、先ほどの婆さん含め、他の村人から、中に入れる具材だと言って、漬物や、佃煮などを受け取った。口は悪いが、性根は優しいんだなと勝手に納得し、礼を言って、更に握り続ける。
本心では、そっちの作業が済んだのなら、手伝ってくれと思っていた。
そして、五十ほど握り終えた頃だった。集会所の扉が開かれて、外から冒険者が入って来た。
十人ほどいる冒険者達は、きょろきょろと辺りを見回し、俺と目が合うと、フッと笑みを浮かべた。俺も、見覚えのある者達だったので、笑って出迎える。
「遅かったな、フジミ。それから、フガク。久しぶりだな」
「ムソ……ザンキさんも、久しぶりだね」
「一体、何をしておるのだ?」
フジミは笑いながら集会所に入ってくるが、フガクはキョトンとしながら、俺に近づいてくる。
ムソウ一派の中で最初にこの村に到着したのはコイツ等だったかと、どこも変わっていない二人の様子に安堵した。
「見て分からねえのか? 飯作ってんだよ」
「外で働かないのか?」
「聞いてないのか? 大工仕事は得意じゃない」
「へえ。アンタにも、苦手なものがあるんだね~」
ムソウ一派の冒険者は、俺を指さしながらケラケラと笑い出す。楽しくなりそうだなと、思いながら、俺は更に米を握っていた。
新しい登場人物……人物というか、龍。
名前は、カドルと同じく、どこかの神話の地の神です。




