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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
ツバキが里帰りする
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第309話 ムソウ不在の闘鬼神 ―シロウとナズナが決意する―

 高天ヶ原から帰ってきたジゲンは、どうだった? と輝く目でシロウとナズナのことを聞いてくるたまと、女中達、牙の旅団に、二人のことを説明した。

 無理やりという形にはなったが、二人きりにさせることには成功している。これで、何か進展があれば良いのだが、と心配するジゲンに、皆は、多分大丈夫だと笑った。


 結局その日は、特に変わったことは起きず、一日が終わり、皆で飯を食べて眠りについた。


 二日後、いつものように依頼に取り組む者達を見送り、ジゲンは、たまや依頼に出なかった冒険者達、そして、牙の旅団の薬師サンチョと共に畑仕事をしていた。

 冬の間に植えていた薬草が実をつけていたので収穫しているところである。


「おじいちゃん、これはどうするの?」

「これはそのまま乾燥させて粉末状にすることで、薬の材料となるのじゃ。そのまま食べても良いが……」


 そのままでも、食べられるということを知った、ハルキがその実を口の中に入れる。口をもごもごと動かしていていると、急に顔色を悪くしていった。


「にっが~! ジゲンさん、これ苦いぞ! これで薬作っても飲む奴なんて居ないだろ!?」

「今はな。だが、どういう性質か、日に干していると、その苦みが甘みに代わるんだ。粉にして、回復薬何かに入れたら、味が整うんだ」


 ぺっぺっと口の中のものを吐き出すハルキに、サンチョが説明する。冒険者達とたまは、つまみ食いするから罰が当たったと、ハルキを指さしながら笑っていた。

 しかし、薬の材料になるというのは、味を調える以外にも、若干の栄養剤のような効果もあったらしく、その後も冒険者達の中で一番働いたのは、結局ハルキだった。


 収穫した実を、むしろの上に並べ終えたジゲン達は、縁側に座り、しばし休憩していた。


「ふむ……やはり、あれくらいの畑では、これくらいが限界じゃの」

「この屋敷だけで使うなら充分だろ。それよりも、この実をとった後の、あの範囲に、また、新しい薬草を植えたいものだな」

「え~、おはなが良い~」


 薬草を植えようとするサンチョに、たまが反論する。サンチョは、顎に手を置いて考え込んだ後、あ、と言って、たまの頭を撫でた。


「じゃあ、薬にもなって綺麗な花を咲かせるものを植えれば良い」

「そんなのあるの?」

「ああ。もう少しして植えたら、夏くらいには綺麗に咲くだろうな」

「へ~! そのお花は、どこにあるの!?」

「この辺にも種は売ってるはずだ。良かったら、今日あたり、花屋に行ってみると良い。俺も着いていってやるからな」

「わ~い! ありがと、サンチョおじちゃん!」


 ニパっと笑顔を見せながら嬉しそうにするたま。いい子だなと、たまの頭を撫でながら、サンチョはジゲンに顔を向けた。


「ジロウにも、後で世話の方法を教えるからな。枯らすなよ、この子の為にも」

「うむ。儂からも礼を言うぞ、サンチョ」

「はいよ」


 サンチョは少し照れ臭そうに茶をすすった。


 その時、家の門戸を叩く音が聞こえてきた。


「む? 客かの……」


 ジゲンは立ち上がり、門へと向かった。たまもジゲンの後を追い、てってってと駆けていく。本当に孫と爺さんみたいだなと、二人の後姿を見ながら、サンチョは笑っていた。


 さて、ジゲンは誰が来たのかと、門の外に向けて声をかける。


「どなたかの? 主であるムソウ殿は、今、留守にしておるのじゃが……?」

「あー……俺だ、親父。シロウだ。それと……」

「ナズナです。今、よろしいでしょうか?」


 返ってきたのはシロウとナズナの声。少しばかり、気まずそうな声である。

 ジゲンとたまは、サッと顔を見合わせ、ニコッと笑った。あれから、何かあったらしいと思った二人は、門を開けた。

 門の外に立つ二人は、少々顔を赤らめた様子で、ぎこちなくジゲンに頭を下げる。


「よう、親父。それと、たまちゃん。元気にしてるか?」

「うむ。見ての通りじゃ」

「今日も元気だよ~!」

「そ、それは良かった。アハハハ……」

「それで、何か用かの? 先ほども言ったが、ムソウ殿は今、不在でのお。ムソウ殿に用事ならば、また、日を改めて――」

「いえ、私達が来たのは、その……ジロウさんに用がありまして……」


 体をもじもじとさせながら、ナズナはジゲンの目を見つめた。先ほどから恥ずかしがっている様子の二人に、ジゲンは年甲斐も無く、たまは、年相応にワクワクとしていた。


「そうか……して、どう言った用件かの?」

「なんの用なの~?」

「いや……あー……」


 じりじりと詰め寄るジゲンとたまに、シロウは、顔を赤くしたまま、しどろもどろになっていく。その横で、ナズナが呆れたようにため息をついた。


 その隙を、クレナの“刀鬼”ジロウと、その孫が見逃すはずもない。


「む? ナズナ、何が言いたいのか、教えてくれんかの?」

「おしえて~!」

「へ!? い、いや……こういうのは、シロウの方から……ね?」

「こういうのって!?」

「え!? ……いや……その……」


 食い気味なたまに、おろおろし始めるナズナ。こういう時くらいは、シャキッとしろとジゲンは思わずため息をつく。

 ジゲン達の背後では、ニヤニヤとサンチョがこの光景を眺めていた。


「ジロウ~、自白剤でも持ってくるか?」

「ああ……それが、手っ取り早いかの。副作用が怖いが……」

「何とかする。じゃあ、取って来るぜ!」


 サンチョは、ニカっと笑って、屋敷の方に向かおうとした。すかさず、シロウとナズナがサンチョを止める。


「だ、大丈夫です! そんな薬無くても良いっす!」

「サンチョさん! 落ち着いてください!」

「はあ~……じゃあ、何しに来たんだ? お前ら……」


 サンチョは、腕を組みながら、ジゲン達の横に並んだ。ジゲン、サンチョ、たまの三人にジーっと見つめられるシロウとナズナ。


 しばらく固まるだけの二人だったが、ふと、シロウが大きく息を吐いて、ゆっくりと口を開いた。


「……する」

「む? 何か言ったかの? 年寄相手には、声を大きくせねば、駄目じゃぞ?」

「ナズナと……する……」

「聞こえねえって。男なら、もっとはっきり喋ろよ。やっぱり、自白剤を――」

「結婚する!!!」


 突然シロウは、意を決したようにナズナを抱き寄せた。ハッとするジゲン達と、シロウの声と発せられた言葉に驚いた、庭に居た者達は一斉に門の方に顔を向けた。

 それに気づいているのか、いないのか、シロウはそのまま大きく口を開いた。


「ナズナと祝言を挙げる! 俺は、だ、大好きなナズナの……夫になる!」

「ちょ、ちょっと、シロウ!?」


 シロウの腕の中で狼狽するナズナだったが、シロウは更に、ジゲンをまっすぐと見つめたまま続けた。


「親父に拾われて十五年、自警団を継いで五年、色々あったが、俺も力をつけた! いつもいつも、泣く度に優しくしてくれたナズナを、今度は俺が護っていきたいって思った!

 だから、俺は、ナズナを……ナズナと祝言を挙げる! 正式に夫婦になって、この街を護っていきたい!

 親父! 俺達の結婚を認めてくれ!」


 シロウは言いたいことは言ったとばかりに、ジゲンに深く頭を下げた。

 隣でナズナは、オロオロとするばかりだ。

 しかし、頭を下げ続けるシロウを見て、キッと真面目な顔つきになり、ナズナもジゲンの目をまっすぐと見つめた。


「私も……私も、シロウと一緒に居たいです! ずっと一緒に居るって、もう決めました!

 夫婦になったら、それで大変になることもあるかも知れませんが、二人で乗り切ろうって、もう決めました!

 お願いします、ジロウさん! 私達を認めてください!」


 ナズナはそう言って、ジゲンに頭を下げる。


 その場は、静寂に包まれた。庭に居た者達も、たまも、サンチョも、二人の前に立つジゲンの言葉を待っていた。


 皆の視線が注がれる中、ジゲンは二人に歩み寄り、深くため息をつく。


「はあ~~~……何ということじゃ……」


 心底、がっかりしたという口調のジゲン。

 まさか、という思いで顔を上げるシロウとナズナ。


 そこで、ジゲンは、呆れたような顔で笑っていた。


「まったく……この儂が、お主ら二人のことを許さんとでも? 一昨日、何の為に、儂があそこまで頑張ったと思っておるのか……やれやれ。二人はまだまだ子供じゃの……」


 ジゲンはそう言って、シロウとナズナの頭を撫で始めた。

 その行動に、二人は目を見開く。


「お、親父……何を……?」

「ジロウ……さん……?」

「“息子”と“娘”の幸せを、喜ばん“親”がどこに居る? 二人が決めたことなのじゃろ? 二人で、話し合って、そうしようと思ったことじゃろ?

 ……なら、二人の思ったように、生きるが良い」


 優しく微笑みながら、ジゲンは二人の肩をポンと叩いた。

 その瞬間、シロウとナズナの目から涙が溢れてくる。


「親父……俺……俺……絶対……ナズナ……を……幸せにする゛……!」

「そういうことは泣かずに言うのじゃ」

「そ……そうよ……シロウ……み゛っとも゛……ないわ゛……! なかなか……報告しないし……結局……お願いになっちゃったし……これから゛……大丈夫なの……?」

「叱るのか、喜ぶのか、泣くのか、慰めるのか、どれか一つにせんか。お前は不器用なのじゃから……」


 まるで、ぐずる赤子をあやす親のように、優しく二人の頭を撫で続けるジゲン。

 お互いに好きという想いを伝えられないまま数年の時が流れ、先の一件が片付き、街を分ける門が無くなり、二人の想いも交わってから、今日まで……。

 長かったなあと、感じるジゲン。まだまだ手のかかる“子供”なのか、自分と違って、人生を共にする伴侶を得た二人は大人なのか、わからないなと、笑っていた。


 すると、固まっていたたまが駆け寄ってきて、二人に満面の笑みを送る。


「おめでと~! ふたりとも!」

「ああ……ありがとう……たまちゃん」

「ありがとう……」


 はしゃぐたまの頭をシロウは優しく撫でて、ナズナは優しく抱きしめた。


「本当に長かったな。ジロウも肩の荷が下りたんじゃねえか?」


 やれやれと頭を掻きながら、サンチョも二人の幸せを祝った。

 シロウもナズナも、嬉しそうな顔で応える。ジゲンは頷き、ニコリと笑った。


「うむ。危うく、お前に肩凝りの薬を頼むところじゃったな」

「ハハハッ! そうか。さっさと作っとけば良かったな。さて……」


 ジゲンの冗談に、サンチョは笑い、屋敷の方に目を向ける。


「奴らにも教えてやらねえとな。お前の“家族”の幸せをよ」

「うむ。ついでに、闘鬼神の皆にも頼む」

「大変そうだ。たまちゃん、手伝ってくれるかい?」

「は~い! アザミおねえちゃんに知らせないと!」

「よしよし……それから、お前らも手伝えよ!」

「「「「「う~っす!」」」」」


 ジゲンの号令に、たまと庭に居た冒険者達はすぐさま返事をして、一斉に行動を始める。

 すると、時を待たずして、屋敷のあらゆる場所から依頼に行かなかった冒険者達、仕事をしていたアザミを筆頭とする女中達、洞窟の方から牙の旅団とカドル、鍛錬中の冒険者達、更には、屋敷から薬を王都に届ける作業を行っていたジェシカが、それぞれ凄い勢いで駆けてきた。


 地鳴りを起こしながら駆け寄ってくる群衆に対し、涙も止まり、目を見開くシロウとナズナ。


「「多すぎ!」」


 二人で同じ突っ込みをしたのち、皆から質問攻めに遭う二人を、一歩引いた場所からジゲンは眺めていた。傍らに居たたまは、皆の楽しそうな様子と、たじたじになりながらも、幸せそうにしているシロウとナズナを見て、ジゲンに満面の笑みを浮かべてきた。

 ジゲンはそっとたまの頭を撫でて、静かに笑っていた。


 ◇◇◇


 その夜、ジゲンはアヤメとショウブ、更にトウショウの里を訪れていたジェシカやシンキも交えて、宴会を開いた。

 頭領であるムソウが居ないが、まあ、良いじゃねえかと言うコウシの言葉に従い、貴重な九頭龍の肉や、大銘水なども振舞い、盛大に行った。


 なんで、こんな時に宴会を行うのだという顔のエンヤ達の前で、シロウとナズナが婚約したことを報告。

 二人のことをよく知らないシンキはまだしも、サネマサやジェシカは大層驚いている。特にジェシカは、いつの間に!? という反応で、ナズナ達に呆れられていた。

 反対にアヤメとショウブは、多少驚きながらも、ようやくかと、どこか、安心していた。

 ジゲンと同じく、肩の荷が下りたような顔になってため息をつく。


「長かったなあ~。ようやく、落ち着くところに落ち着いたってわけだな……」

「え!? アヤメさんとショウブさんは何時から知っていたのですか!?」

「ジロウが居なくなった辺りからかの? 妾達と下街が分けられたくらいの頃から、ナズナは口を開けば、シロウはどうの言っておったからの」

「え……そうだったのか?」


 アヤメとショウブがナズナの気持ちに気付いていたことに、ナズナは気付いていなかったようである。

 恥ずかしそうにするナズナの横で、照れ臭そうに顔を赤くしながらナズナを見つめるシロウ。そんなシロウを見ながら、ジロウ一家の方から声が上がる。


「旦那も同じだったな~。時々うちから、高天ヶ原を眺めてはため息一つついて、それを毎日続けていたよな」

「え……そうなの?」


 ニヤニヤとする自警団の者達をシロウは静かにさせようと焦り、ナズナは先ほどのシロウと同様に照れ臭そうに、しかし、嬉しそうに顔を赤くしながら、薄く微笑んでいた。

 元々、二人の気持ちに気付き、どうにかしようとしていたアヤメ、ショウブ、自警団、そして、ここには居ない高天ヶ原の妓女たちは、二人が一緒になっても、そのままの態度で、二人を見守ることにしたようだ。


 その後、宴会が終わり、シロウとナズナは、自警団の屋敷へと向かった。

 闘鬼神もそれぞれ自室へと向かい、ジゲンはたまを女中達に任せた後、牙の旅団、十二星天、アヤメ、ショウブ、ダイアン、アザミを広間に集めて、円を囲んだ。

 今後のことを決める会議を行うようである。


「さて……二人の件じゃが、祝言は挙げてやろうと思っておるが、どう思うかの?」

「異議なし」

「当然だろ」

「二人の晴れ姿は見てみたいもんだ」


 牙の旅団はもちろん、他の者達からも反対は無く、むしろ賛成の声が相次いだ。

 ジゲンは皆の回答に、満足げに頷く。


「ありがとう。それで、場所なのじゃが、候補は三つある。一つは、儂と皆で過ごしたこの屋敷。二つ目は、ナズナには思い入れがある高天ヶ原。三つめは、アヤメの家じゃが……」

「つまりは参列する者達が入れるくらい大きな建物ってことだよな? そうは言っても、ギルドが無かった昔はまだしも、今は駄目だ。ギルドは年中無休なんでな」

「となると、ここか、高天ヶ原ということになるな。誰か意見はあるかの?」


 ジゲンは、皆の顔を見渡した。アヤメの家はまだしも、残った二つの候補で、ジゲンも悩んでいる。

 今となっては、ムソウの家だが、シロウもナズナも、この屋敷でジゲンによって育ってきた。アヤメやショウブと共に、思い入れの深い場所ではある。

 しかし、高天ヶ原も捨てがたい。ナズナが今までの半分以上も管理していた場所であり、ギルドと同じく、店を開けることが出来ない妓女たちが祝言に出られなくなるという状況も作りたくない。

 見た感じでは、新しい高天ヶ原ではここには呼べない多くの人間も、祝言に呼ぶことも出来るので、良いこと尽くめだとも思っている。

 だが、二つの意見はどちらも捨てがたいと悩んでいると、ダイアンが手を上げた。


「あー……ジゲンさん。どっちにしろ、うちでやるなら頭領の意見も必要になるんじゃ?」

「む? まあ、そうじゃの……じゃが、ムソウ殿なら、良いと言いそうなものじゃが……」

「仮にそうなったとしたら……ジゲンさん、もう一つ問題があります」


 ダイアンに続き、アザミが口を開いた。


「何じゃ? アザミ殿」

「え~と、うちで祝言をするとなると、ご料理なども私達で用意することになりますよね? 釜の数も少ないですし、流石にそれは厳しいかと……」


 あ、とジゲンは、それは盲点だったと頭を抱えた。いつも大勢の食事を作っているとは言え、更に多くの参列者を招待し、料理を出すとなると、闘鬼神の女中達だけでは手が足りない。

 無論、女中達も祝言には参列したいという意思を示している。料理番となると、一日中、釜の前に立つということもあり得る以上、この屋敷での祝言は、無理だという判断になった。


「では、新しい高天ヶ原で行うとしよう。アヤメ、日取りの調整はお前に、街の住民たちへの招待はショウブに任せるぞ」

「それは良いが、何時行うつもりじゃ?」

「妓楼抑えたり、人を呼ぶにしても、式の日時が分からないんじゃ、動きようがねえぞ」

「ふむ……」


 次に問題となったのは、祝言をいつ行うかという問題。流石にひと月は空けないといけないというのは分かっている。

 妓楼を丸々借りたり、出来るだけ多くの街の住民たちや、その他の集落の者達を呼ぶとなると、ある程度の日数は必要になる。

 果たして、どれくらいの期間を空ければ良いかと皆で相談していると、コモンが手を上げた。


「あの……ジゲンさん?」

「む? どうした、コモン君?」

「一応、ムソウさん達が帰って来るのは待った方がよろしいかと……」

「ああ、そうじゃな。後で、祝言をやったという事後報告じゃと、怒られそうじゃからな……」


 ジゲンの言葉に、一同、深く頷く。流石のムソウも、自分が不在の間に、親交を深めていた二人の祝言が行われていたということを知れば、不快な思いは間違いなくするだろう。

 ムソウを祝言に参列させたいという思いではなく、怒られたくないから、という理由で、コモンの案には、皆で納得した。

 更に言えば、高天ヶ原でナズナの世話になっていたツバキとリンネには、祝言に参加させたいというのが本音であり、三人が帰ってくるまでは待った方が良いという思いがほとんどであった。


「それで、ムソウさんがいつ帰って来るか、ですが、確か、ギルドに伝令が届いたんですよね、アヤメさん」

「あ……忘れてたな。ちょっと待ってくれよ……」


 アヤメは懐から、伝令魔法の魔道具を取り出し、モンクから届いたムソウの伝言を再生する。

 そこには、今回の旅は、ツバキの里帰りが主な目的で、ツバキが家族と触れ合う姿を見ながら、本人が納得するまでという滞在する期間を決めたということと、ムソウの友人である商人グレンの頼みで、ムソウ自身もモンクで何かしらの仕事が出来たという報告が記録されていた。


 報告を聞いたジゲンは、少しだけ可笑しな気持ちになり笑った。


「ふむ……面倒ごとではないようじゃが、どこへ行ってもムソウ殿は大変じゃの」

「ですね……しかし、こうなると、やはりひと月は待った方がよろしいみたいですね。」

「そうじゃの。具体的な日時はまた考えるとして、おおよその予定としては、夏から秋になる頃と考えた方が良さそうじゃの」


 ジゲンの言葉に、全員は賛成した。

 これにより、シロウとナズナの祝言を行う場所と日程を決める会議は終わった。

 するとここで、雷帝龍カドルが口を開く。


「ふむ……それで、この場に我を呼んだ理由は何だ? あの者達の祝言の事ならば、我は関係ないのではないか?」


 二人とはほとんど関りが無いカドルは、この場に居る理由が分からず、終始、静かにしていた。

 何か用事でもあるのだろうかと思っていたが、祝言のことが順調に決まっていき、会議も終わるというところで、たまらず口を挟む。

 すると、牙の旅団のコウシが、カドルに視線を移した。


「あー……雷帝龍殿。アンタを呼んだのは俺達だ。一つ、言っておくことがある」

「む? どうした? コウシ殿」


 カドルが顔を向けると、牙の旅団の全員は、まっすぐカドルを見つめる。


「シロウ君にナズナちゃん……二人の晴れ姿を見ることが出来たら、俺達は、俺達の武具の刀精になろうと思っている。それまではこのままで居させて欲しい」


 コウシの言葉に、他の者達も頷いた。

 カドルは、ジゲンとサネマサに目を向ける。二人も牙の旅団と同じく、既に決心したという目で頷いている。

 アヤメとショウブも、皆の決めたことに何も言わなかった。ちらっとショウブは、自身の得物である鉄扇の前任者、タツミに目を向けた。

 その視線に気づいたタツミは、ショウブにフッと微笑み頷く。タツミの思いと、覚悟を感じたショウブは、ジゲン達と同様に黙ってカドルを見ていた。


「ふむ……そうか。ならば、それまでは、我もお主たちの為に、力を使うとしよう。「その時」まで、各々、未練の無いようにな」


 カドルは、コウシ達の願いを受け入れ、頷いた。牙の旅団は、カドルに深く頭を下げて、改めて感謝の意を示す。


「さて……では、ひとまず、祝言の事と、コウシ達の事は決まったのお。各々、これからも忙しくなるが、二人の為、よろしく頼む。

 シンキ殿も、ジェシカ殿も、出来れば祝言に参加してほしいのじゃが、良いかの?」

「もちろんです。シロウさんには、ケリス卿との一件でお世話になりましたので」

「許されるなら、俺も参列する。人界の宰相として、一組の夫婦の誕生は目に焼き付けておかないとな。散々世話になっている“刀鬼”の家族ならなおのことだ」

「ほっほ、よろしく頼む……ところで、コウシ達はすでに、自身の武具の後継者は決めておるのか?」

「ああ。すでに、目を付けた奴には重点的に稽古をつけている」

「ちなみに、俺の手甲はダイアンに渡すと伝えてある。明日からもビシバシ行くからな!」

「うっす……」


 ソウマはニカっと笑いながら、ダイアンの肩をバシッと叩く。少し小さくなりながらも頷くダイアン。

 獣人化して素手で闘うことが多いダイアンには、ソウマの手甲は確かに合うなとジゲンも納得しながら、自分の親友達の武具を継ぐことになった闘鬼神の者達は、これからさらに大変だなと笑っていた。


 すると、アザミがダイアンの肩にポンと手を置いた。


「無茶したら駄目よ? また、倒れたりしたら、また、私が看病しないといけないんだから……」

「心配すんなって! 俺も、着実に強くなってっからなあ。もう、前みたいなへまはしねえよ」


 心配するアザミに、ダイアンはニカっと笑い、胸を叩いた。

 そのやり取りを見た、その場に居た全員は、一様に首を傾げる。

 そして、皆を代表するように、ジゲンが口を開いた。


「のう、ダイアン殿、アザミ殿……」

「何すか? ジゲンさん?」

「二人は、何時祝言を挙げるのじゃ?」

「なあ!?」


 ジゲンの言葉に、ダイアンは目を見開き、硬直する。

 二人の仲は、既に周知の事実である。もはや、闘鬼神公認と言っても良い。流石のムソウも、二人の仲にはすでに納得しているし、認めているということを話すと、ダイアンに続き、アザミも目を見開いた。


「え……頭領が? 嘘……信じられない……」

「ムソウ殿はああ見えて、鈍感ではないからのう。それで、二人は……?」

「い、いや、それは……」


 祝言を挙げることを報告する直前のシロウのように慌て始めるダイアン。その光景は面白く、その場に居た者達は、クスクスと笑っていた。

 しかし、アザミはナズナと違って落ち着いた様子である。何ら、取り乱した様子もなく、フッと微笑を称えて、ジゲンの方を向いた。


「ジゲンさん。決まっているじゃないですか」

「ほう……決まっておるのか。して、何時頃じゃ? その時も、儂らは、本気で祝うつもりじゃぞ?」

「ありがとうございます。ですが、かなり先の事ですよ?」

「む? それはどういう意味じゃ?」


 首を傾げるジゲンの前で、アザミはダイアンの腕を引っ張り、自らに寄せてニコッと笑った。


「頭領とツバキさんがくっつく時です。流石に、頭領を差し置いて、ということはしたくないので。ですが……何年先になることやら……」


 はあ、とため息をつくアザミ。その場に居た者達は、目を見開き、固まっていたが、その直後、吹き出したように笑い始めた。


「ほっほ、なるほど、それは、長くなりそうじゃの~! 儂は生きておるのか?」

「アザミさん、それは無謀というものでは?」

「ムソウとツバキの嬢ちゃんか……シロウ達より難しそうだな……」

「うむ……難儀なものじゃの……」

「ダイアン、それまでは、お前、しっかりやれよ!」

「アザミちゃんを怒らせて別れるなよ!」

「俺達はゆっくり待ってるぞ~。不老だからな。ジロウがくたばっちまったら、代わりに派手な祝言にしてやるよ」


 部屋の中に居た者達から祝福されるダイアンとアザミ。

 ジゲンは、こうなると、闘鬼神の者達が祝言を挙げるとすれば、一気に行わないといけないなと、ムソウに対して呆れつつ、今日も幸せな気持ちで笑っていた。


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