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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
ツバキが里帰りする
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第308話 ムソウ不在の闘鬼神―“刀鬼”逃げる―

 営業開始の準備を進める、高天ヶ原の使用人たちの間をすり抜けながら、コスケは新しい妓楼について、ジゲンに説明していく。

 新生高天ヶ原は、これまでの妓楼と違い、男達だけでなく、老若男女様々な者達でも楽しめると聞いている。無論、施設の大半は、男性向けを相手にしたものであるが、カジノや、温浴施設なども併設していた。

 高天ヶ原にあるカジノの区画では、さまざまな筐体や、賭博用の台が置かれており、それぞれ準備に励んでいた。


「ふむ……今現在、ムソウ殿達が向かっておるモンクほどでは無いにしろ、よくぞここまでの設備を整えたものじゃな」

「やるからには徹底的にしないといけませんからね。以前は、男性の貴族や冒険者のみを対象にしておりましたが、女性も楽しめるようにしたことで、更なる収益を求めております」

「まあ……その方が良いじゃろうな。果たして、ここで一日にどれだけ稼ぐことが出来るのか楽しみじゃの」

「ええ。貴族たちが居なくなった分、集客の方をきちんとしないといけませんが……」


 高天ヶ原の主な収入源であった貴族たちは、未だにクレナに戻らない。これまでの事から、それを目的に行動していたが、収入は減ることになる。

 今後は、暇な時にでも、偶に来る存在であって欲しいものだとジゲンは感じた。


「しかし、カジノを作るとなると、また、妙な博徒なども増えるのではないか?」


 博徒という人種に、あまりいい思い出が無いジゲンは、平和になったトウショウの里に、ならず者のような者達が増えることに関して、危機感を覚える。

 ただでさえ血の気の多い住民たちに加え、そう言った者達が、人界各地からここに集まるということに関しては、微妙な気持ちになっていた。

 しかし、コスケはそんなジゲンに笑って応える。


「ジロウ様に、サネマサ様、それにコモン様が居るこの街で、妙なことを考える人間など居ないでしょう。

 今は、ムソウさんと闘鬼神の皆様もいらっしゃいますので、大丈夫だと信じております」

「そう言うものかの?」

「ええ。私共は、未だに“大侠客”ジロウ様のお力を信じておりますので」


 頼りにされるのは良いことだが、少しくらい休ませて欲しいと感じるジゲン。コスケには申し訳ないが、何か起こっても、ムソウや闘鬼神、もしくは、クレナのことに関しては、休み続けていたサネマサ辺りに丸投げしようと静かに感じたのであった。


 次に向かったのは、温浴施設兼宿泊も出来る区画。八畳ほどの部屋が30部屋程備わっており、この地を訪れた冒険者や旅人たちを迎えることが出来る。

 温浴施設の方は、定期的にたまの故郷である温泉街から温泉を汲み、こちらに持ってくることで、トウショウの里でも、温泉が楽しめる仕組みとなっているらしい。

 無論それは、冒険者に依頼して行うつもりだ。


「最初は、自由に空を飛ぶことの出来るムソウ様や、リンネちゃんに頼もうとしたのですが、アヤメ様や、ナズナちゃんに怒られるから辞めてと言われましたので、ギルドに常に張り出される依頼にしようという形になりました」

「うむ。英断じゃな」


 ジゲンは、コスケの意見に深く頷く。毎朝、「何で、俺が……」と、悪態をつきながら、庭で神人化するムソウの姿が思い浮かばれ、それよりは、領から多額の報酬を出して、冒険者に任せる方が良いと考えた。

 どのみち、その報酬も、この施設で回収できるという仕組みになるからだ。まあ、ここに訪れない冒険者も居る可能性を考えると、果たして、この方法が良いのか悪いのか分からないが、どこかでムソウの怒りが爆発するよりは良いだろうと、ジゲンは笑った。


 このほかにも、新しい高天ヶ原には、疲れを癒すことが出来る、按摩を施術する区画、蒸し風呂、料亭、縁日などが楽しめる区画など、様々な娯楽施設が備わっていた。

 偶に、たまを連れて一日中休むということも出来るし、完全に妓楼というわけではないので、闘鬼神の息抜きにも良い場所だなと、ジゲンは感じた。

 そう言えば、そろそろ闘鬼神の設立から、半年が経つ。ムソウが帰宅した時にでも、闘鬼神の花街で遊ぶことを解禁しても良いと思いながら、ジゲンはコスケと共に、更に高天ヶ原の中を進んでいく。


 次に案内されたのは、一番初めに居た、従来の妓楼を主にしていた区画である。

 ここは、以前のものと比べても、そこまで変化はない。強いて言うのならば、先ほどまで居た区画よりも、建物内の装飾や調度品が多少豪華になったくらいだ。

 コモンを始めとした天宝館の職人たちが丹精込めた結果である。屋敷の金銭や薬の管理を任されているジゲンは、闘鬼神からもいくらかの費用を渡した。しかし、実際の金額は、ムソウには伝えていない。伝えたら怒られるじゃろうなと、ジゲンは苦笑いした。


「……そう言えば、ジロウ様は個人で、妓楼で遊ばれたことはありましたっけ?」


 廊下を歩いていたコスケは突然、歩を止めてジゲンに首を傾げる。


「む? 何じゃ、いきなり。コウシ達と共に赴いたことはあるが、一人で行ったことは無いのう」

「何故ですか?」

「そもそも興味が無かったからのう。お主に言うのもなんじゃが、金を払ってまで妓女と酒を呑みたいとは思わなかった。息抜きをするなら、魔物を斬っていた方が楽しかったからのう」


 自分で言いながら可笑しな気持ちになる。それではまるで、ムソウと同じだ。

 しかし、あの時は本当にそう感じていた。街で女と酒を呑むよりも、外で敵を斬り、達成感と共に、仲間達と酒を呑んでいた方が楽しかった。

 それに、ジゲンは領主の親族である。子供の頃から、ガロウと共に妓楼へと赴いては当時の妓女や、妓夫達と遊んでいた。

 遊んでいたというよりは、妓楼の迫力に圧されてオロオロするガロウを尻目に悪戯をしていただけであるが。

 そもそも、金を払って、妓楼に入ること自体が、ジゲンにとっては馬鹿らしいとさえ思っていたのである。

 更に言えば、もう一つ理由がある。それを語ろうとしたジゲンだったが、コスケは、それまでの話を聞きながら、なるほど、と頷き、微笑んだ。


「……では、今日のところはお一人で楽しんでいってください」

「……む? それは、どういう――」


 ジゲンが困惑していると、コスケは目の前の部屋の襖を開いた。


「「「ようこそ、ジロウ様~」」」

「!?」


 コスケによって開かれた襖の向こう側では、高天ヶ原の四天女のうち、シュンカ、シュウメイ、トウリンの三人が仰々しくお辞儀をしていた。

 更に部屋の中には、数人の妓女と禿が座っていて、その前には豪勢な料理が並んでいる。

 呆然とするジゲンは、コスケや四天女に促されるまま、部屋の中に入り、その場に座らされた。


「コスケ……どういうつもりじゃ?」


 一体、何をしているのか、そもそも何がしたいのかと、ジゲンはコスケに目を向ける。すると、コスケや四天女は、満面の笑みで口を開いた。


「せっかくお越しくださったんですもの。歓迎しないと駄目でしょ~」

「お屋敷に居た頃は、そこまで関わっていませんでしたからね~」

「この際に、面白い話をたくさんしてくださるとうれしいですわ~」

「もちろん、お代は便宜を図りますから」


 それぞれ、酒と、盃、料理を手に取りながら、にじり寄ってくる四天女と、その他の多くの妓女。

 コスケの方は、部屋の隅で、ジゲン達の様子を楽しそうに眺めながら、三味線を弾き始める。


「む……」


 自分に酔ってくる妓女たちの顔を見ながら、ジゲンは頭を抱える。

 今はまだ、日も高いし、酒を呑む気にはなれない。屋敷では、たま達もまだ仕事をしているというのに、自分だけ遊んでいいはずもない。

 それに、飲むのなら、一人でゆっくりと呑みたかった。新しい妓楼から、再建したトウショウの里を眺めながら、酒を呑み、思いを馳せたかった。


 ……いつもこうだ。自分が妓楼に入った途端、良い金づるが来たと、目を輝かせながら、すり寄ってくる妓女たち。

 正直な所、鬱陶しいこと、この上なかった。殴るわけにもいかず、追い払うわけにもいかず、面倒くさいと苛つきながら、酒を呑んでいた。

 ふと、見れば、意気揚々と遊ぶ気だった、コウシ達からの嫉妬に満ちた視線が突き刺さり、美味い酒も、見事な演奏も何も感じないくらいだった。


 だから、妓楼に一人で来ることは嫌いなのだと、ジゲンは長いため息をつく。

そもそも、その所為で妓女たちも仕事をしなくなったと、当時の妓夫や、兄に妓楼に来ないでくれとも言われていた。


「さあ、ジロウ様。こちらをどうぞ」


 ジゲンの思いとは裏腹に四天女の一人、シュンカが酒の入った盃を差し出してくる。

 ジゲンは、そっと手を前に出し、それを断った。


「すまぬが、この時間から、儂だけ良い思いをするわけにはいかん。今日ここに来たのは、シロウとナズナの為じゃ。目的も果たしたことじゃし、儂はそろそろ帰るとする」


 スッと立ち上がり、出口の方へと向かおうとした。

 しかし、その前にコスケが座り込み、部屋から出ることを阻止しようとする。


「まあまあ。この場は、お世話になったジロウ様に感謝をと思い、皆が用意したものですので、お気になさらないでください」

「いや、ならば、金をとるというのはどういう了見じゃ?」

「こちらも一応、商売ですので。それに、新しい妓女たちへの教育の為にも……」

「……何を言っておるのかわからん。良いから、そこをどくのじゃ、コスケ。儂は帰るぞ」


 こちらが何を言ってもその場を動こうとしないコスケ。無理やりにでも外に出ようとしたジゲンだったが、妓女たちもジゲン周りを取り囲み、否が応でも部屋の外に出さないようにする。


「ジロウ様、ゆっくりされてくださいって」

「これから、夜まで楽しんでください」

「あ、もちろん、日が沈んでも愉しんでくださっても結構ですよ?」

「私達、張り切っちゃいますから!」


 わらわらと集まってくる妓女たちに、ジゲンは再び長いため息をつく。

 時代が変わっても、ここの妓女は相変わらずだなと、喜び少々、本音を言えば呆れていた。


「ジロウ様のお話、聞きたいですわ。他人から聞くものと、当人から聞くのとでは、全然違いますからね。さ、あちらでお酒でも飲みながら、ご自身の武勇伝でも、お話ください」


 人一倍、知識に対しての欲求が深いトウリンは、ジゲンの手を取って、元の場所へと移動させようとする。

 ジゲンは、ふう、と息を漏らし、トウリンの手を握った。


「……では、ここで面白い話をしよう」

「え、はい……」


 少々戸惑いながらも、この部屋に居てくれると感じた妓女たちは、段々と静かになり、ジゲンの話に耳を傾けた。


「かつて……儂はサネマサやコウシ達に連れられて、よく高天ヶ原へ遊びに来ておった。

 じゃが、当時から妓女たちは儂ばかりに寄ってきてのう。コウシやロウ、ソウマあたりから、嫉妬に満ちた目を向けられておった。

 儂はそれが嫌で、妓女たちから遠ざかり、一人で酒を呑んでおったが、女達は儂に寄って来るばかりじゃったな。今のお主たちのように……」

「はあ、それで……?」

「じゃから、儂は……」


 次の瞬間、ジゲンは全身に力を入れて、気を集める。突然放たれた闘気にトウリンたちは思わず後ずさった。

 その隙を突き、ジゲンは素早く妓女たちの間を縫い、窓辺に立った。

 ガラガラと窓を開けながら、ジゲンはニコリと笑う。


「こうやって、逃げることにしていた。……ではの、コスケ。それに、皆の衆。何も食べてないし、お主らの相手をしたわけではないから、銭は払わんからの」


 そう言いながら、窓のへりに足をかけるジゲン。コスケは、あ、という顔をしながら立ち上がり、妓女たちに向けて口を開く。


「皆! ジロウ様を出してはいけない! ここまで用意したんだから!」

「「「「「はい!」」」」」

「分かってます!」


 コスケの号令に、妓女たちは頷き、ジゲンの元へと駆けてくる。

 ジゲンは、押し寄せてくるコスケと妓女たちを見ながら満足げに笑った。


「なかなか、良い子達じゃの、コスケ。今日のもてなしは気にくわんが、近々、闘鬼神を連れて、また来るからの。それまで、しっかりと励むのじゃ」

「楽しむなら、今で良いでしょうに!」

「さっきも言ったが、今日はシロウ達の為じゃ。続報を期待しておるからの~。それから、妓女の諸君。お主らは、普通の者達にとっては高嶺の花じゃ。届きそうで届かない、高天ヶ原の至宝じゃ。

 普段、街の者達がお主たちに抱いている思いを教えてやるとしよう」

「な、何を!?」

「ほっほ……ではの……」


 トウリンを始め、何人かの妓女たちがジゲンの着物に手を伸ばし、指が触れようとした瞬間、ジゲンは畳を蹴り、窓の外へと身を投げる。

 唖然とするコスケ達に、挑発的な笑みを向けた後、ジゲンは壁を蹴り、向かい側の建物の屋根で跳ねて、スッと地上に降り立った。

 行き交う者達がギョッとする中で、ジゲンはコスケ達に手を振る。


「また来るからの~!」


 そう言って、ジゲンは下街の方に歩き始めた。


 残されたコスケや四天女達は呆気にとられていたが、ジゲンが歩いていく姿を見ながら、ため息をつき、可笑しな気持ちになって、笑い始めた。


「フフッ、やはり、“刀鬼”様はいくつになっても面白い方の様だね~」

「ええ。コスケさんの主人とは思えませんわ」

「そう言わないでおくれ。私自身も分不相応だとは昔から思っているくらいだ」

「でも、コスケさんの隣に居る“刀鬼”様は、ずいぶんと楽しそうにも見えますよ?」

「ああ。嬉しいことだよ。しかし……この料理はどうしようか……」

「皆のまかないで良いでしょ! そろそろお昼だから、皆、男衆たちを呼んできて!」

「「「「「は~い!」」」」」


 シュンカの言葉に、妓女たちは頷き部屋を出ていく。四天女も、客を相手にする格好から、普段着に戻る為、部屋を出ていった。

 コスケも、休憩の報せを皆に伝えるために、部屋を後にしようとする。

 だが、ジゲンが座っていた場所の辺りに、袋のようなものを見つけ、拾い上げた。

 中を開くと、金貨が数枚入っている。これは何だろうと首を傾げていると、そばに紙切れが落ちていることにも気付いた。開くとそこには、


「闘鬼神、ダイアン殿からの祝儀じゃ。シロウとナズナの今後の為にとっておくように   闘鬼神頭領代理・ジゲン」


 と、書かれていた。それを見て、コスケはフッと笑った。


 そして、ジゲンが出ていった、窓から空を見上げる。


「……次にいらっしゃるときは、「クレナ家のジロウ様」ではなく、「闘鬼神のジゲンさん」として、お迎えいたします……」


 自分が仕えてきた主人ではなく、古くからの友人としてジゲンをここに迎えるというのも、悪い話ではないと感じた。

 むしろ、その方が良い。長年、花街を管理してきた者として積み重なってきた肩の荷が下りるような感覚がコスケを包み、これからもここで、皆の面倒を見ていくことを改めて誓うコスケだった。


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