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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
ツバキが里帰りする
308/534

第307話 ムソウ不在の闘鬼神 ―“刀鬼”駆ける―

 時は、ムソウとツバキとリンネが、モンクへ旅立った日に遡る。

 たまや皆に、シロウとナズナのことを「任された」ジゲンは、ダイアンから貰った「祝儀」を手に、トウショウの里の下街を駆ける。

 すると、いつものようにジゲンを目にした住民たちが、声をかけてくる。


「あ、ジロウ様! 今日はお一人ですか?」

「む……すまん、少々行くところがあっての」

「どこに行かれるんで?」

「何か手伝いましょうか?」

「仰々しい恰好をなさっていますが、ひょっとして、朝から花街ですか?」


 一人寄れば、更に寄ってくる住民たち。正直に言えば鬱陶しい。

 だが、昔はまだしも、今は皆を無理やり追い払うということはしたくない。

 というか、昔もそんなことはしたことが無いと、自問自答を頭の中で繰り返すジゲン。


 すると、道の先から声が聞こえてきた。


「お~い! 何の集まりだ~?」


 ジゲンにとって、聞き覚えのある声が辺りに響くと、ジゲンを囲んでいた群衆が割れていく。

 その先には、ジゲンがジロウ一家を率いていた際、副官を務めていた男が、何人かの自警団の若者を連れていた。

 新人の教育だろうか、新品の武具を着けた若者を連れた副官の男は、群衆の真ん中に居たジゲンを見て目を見開く。


「ん? 何だ、ジロウの大旦那か。街を歩くとこうなるのは相変わらずっすね~」

「おお、フクジか。助かったぞ」

「助かった? 何か用事でもあったんですかい?」

「ちょっとのう。お主は、新人に仕事を教えているといったところか?」

「そんな所っす。例の事件以来、下街だけじゃなくて、上街、花街からも志願者が来ておりましてね、シロウの旦那も、ショウブ嬢も忙しくしてんすよ」


 副官の男、フクジの話を聞きながら、街を護りたいと感じた者達が増えたのは良いことだとジゲンは感じた。その分、鍛えることは、たくさんありそうだ。自分が長に就いていた頃は、フクジを始め、シロウ達にも過酷な鍛錬をしたなあと、ふと、懐かしく思っていた。


「む……なごんでいる場合じゃなかったのう。お主が居るのなら丁度いい。今日はシロウはどこに居るのじゃ?」

「シロウの旦那っすか? 今日も花街を中心に巡回しているはずっすよ。何かあったんすか?」

「うむ。実はの……」


 ジゲンはフクジに事の仔細を説明した。互いの想いを告げたというのに、一向に進展しない、シロウとナズナの関係、それに業を煮やした闘鬼神と、牙の旅団からの「依頼」の為、自分が二人の仲を深めるために動いているということ、全て、ありのままを話す。

 話を聞いたフクジは、ハッとした様子でジゲンに頭を下げた。


「すんません、頭領。それは、俺達にも責任があるっす。シロウの旦那に任せ過ぎたみたいっすね」

「これ、そう簡単に頭を下げるでない。まるで、儂が悪いことをしているようではないか。お主たちはしっかり、シロウのことを支えておると、儂は思っておる」

「もったいねえ、言葉っす。シロウの旦那の事もあの時から任されたもんだと思って、俺達も上手くやっていたつもりだったが、まだ、足りなかったようっすね。

 やはり、ここは頭領の手を借りるしか無いっす。

 ……シロウ君とナズナの嬢ちゃんの事、お願いします」


 頭を下げ続けるフクジの言葉は嬉しかった。本来なら、二代目の頭領を任せるのは、副官だった、フクジにするはずだったが、“親”としての甘えからか、ジゲンは、自らが設立した自警団の、二代目頭領にシロウを指名した。

 だが、反感を買うことも無く、自分の頃からの副官であるフクジを始め、設立当初から、ジゲンを支えてきた者達からは、何も文句は無く、むしろ、任せてくれと言われてきた。

 自分の“家族”への変わらない忠誠が、ジゲンにとっては本当に嬉しかった。

 さて、フクジによると、シロウは主に花街を中心に巡回をするようになったという。理由は分からないが、ジゲンの話を聞いたフクジは、恐らくそう言うことでは無いかとのこと。

 フクジの考えにジゲンは頷き、シロウ達のことを頼むと言うフクジに頷いた。


「うむ。万事一切、儂に任せるのじゃ。良い報告を待っておれ」

「うっす! というわけで……おらおら! 元頭領のお通りだ! テメエら、道を開けろ!」


 フクジはジゲンに頷き、寄ってきた群衆たちを散らしていく。

 住民たちは、困ったり、少しイラついたような顔をしながらも、フクジの迫力に負けて、ジロウの前に道を作った。

 住民たちを抑えながら、ニカっと笑うフクジに頷き、ジゲンは再び地面を蹴る。


「よくやった! 後で酒でも差し入れしよう!」

「昔みたく、大樽でお願いするっす!」


 お気をつけてと言うフクジを尻目に、ジゲンは目にも止まらぬ速さで、下街を駆けて行き、花街へ続く坂道を上った。

 坂道の先には、闘宴会が使っていた門が見える。ジゲンは、それを見据え、刀に手を伸ばした。

 閉じてはいないものの、先を急ぐジゲンにとってそれは、行く手を遮る邪魔ものでしかない。


「奥義・六道斬波ッッッ!!!」


 刀を振り抜き、ジゲンが放った巨大な斬波は、門を切り裂き、残骸を吹き飛ばした。

 門の向こう側の花街を行き交っていた、妓女や、街の人間たちは、突然の轟音と、吹き飛ばされていく門を、目を丸くしながら眺めている。

 ジゲンはその者達の間を駆けて行き、シロウの姿を追った。


 そして、元の高天ヶ原の建物があった辺りで立ち止まる。

 以前は、大きな建物が一軒建っていた場所だったが、今は、巨大な一つの妓楼のいくつかある入り口のうち、正門と呼ばれる入り口があるだけとなっている。

 その前で、男が一人、建物を見上げながら、ぼーっと立っていた。


 花街を巡回しているはずのシロウである。シロウは、どこか寂し気な目で、妓楼の上の方を見ては、ため息ばかりついていた。

 そして、何かに諦めたかのような顔をして、くるっと踵を返し、その場を去ろうとする。


「……そうやって、いつも妓楼を眺めては、勝手に諦めておるのか?」


 ジゲンは、慌ててシロウに近づき、声をかけた。シロウはビクッと身を震わせ、立ち止まり、振り向く。


「ん!? 親父!? なんで、ここに!?」


 突然現れたジゲンに、驚くシロウ。ジゲンは気にせず、ずんずんとシロウに近づいていく。


「儂の質問に答えるのじゃ。そうやって、毎日、ここに来ては未だナズナに会うことは分不相応だと思っておるのか?」

「い、いや……それは……」

「いつもいつも、花街を巡回しているにも関わらず、ナズナに会うことが無いというのはどういうことじゃ?

 会いたいから、ここに来ているのではないのかの?」

「いや、だって……ほら、ナズナも忙しいだろ? 俺なんかが会いに行くのは迷惑なんじゃ……。

 それに、妓楼も新しくなったんだ。ここの巡回は、俺が指揮しないと、駄目……だろ……?」


 ここまで言っても、変な言い訳を繰り返すシロウ。ジロウ一家の二代目頭領としての責任感を持ってくれるのはありがたい。自分が託した思いを遂げようとしてくれるのは、立派なことだと、ジゲンも納得している。

 だが、その為に、シロウ自身が抱く幸せの形というものを諦めるというのは、許せなかった。

 そして、それはナズナに対しても同じ思いを抱いている。新しくなった妓楼を護る為に、基盤を整えるということは、領にとっても大事なことだということは分かっている。

 しかし、それならば、一人で抱えずに、ましてや、コスケや四天女だけではなく、自分にも手伝ってくれと言って欲しいものだと感じた。


 なおも、子供じみたいいわけを繰り返すシロウに業を煮やしたジゲンは、シロウの襟をつかんだ。


「お前がここまで、臆病者じゃったとは……ついてまいれ!」

「な、え、ちょ、ちょっと待ってくれって! ついて来いってどこに!?」

「決まっておるじゃろう!? ナズナの元じゃ! 今日は二人とも休みを取るのじゃ!」

「な!? だ、駄目だ! 俺が勝手な行動するのは――」

「初代頭領の言うことは聞くものじゃ!」


 じたばたするシロウを引っ張り、ジゲンは妓楼の中に入っていく。

 

 とは、言っても、時刻はまだ午前中。営業時間外ではある。

 本日の営業開始に向けて作業をしている受付の者達と、掃除をしている者達は、ジゲンの姿を見て、ギョッとする。


「な……シロウさんと……“刀鬼”様!? こ、こんな時間にどうしたのですか!?」

「ま、まだ、営業しておりません! 来られるのでしたら、今しばらくお待ちください!」


 手を前に出して、ジゲンを止めようとする妓楼の者達。諦めて帰ろうと、じたばたするシロウを無視し、ジゲンは、襟をつかんでいない方の手を刀に置いた。


「お主らでは話にならん。コスケを呼んでまいれ……」

「ひぃ!?」


 体中から、闘気を放出するジゲン。シロウはもちろん、その場に居た者達は震え上がり、ジゲンから離れていく。


 その後、しばらくして、妓楼の奥からコスケが姿を現した。


「ふむ……この騒ぎは……あれ? ジロウ様? と……シロウ君じゃありませんか」

「ふむ。しばらくぶりじゃの、コスケ」

「こ、コスケさん! 親父を止めてくれって! 助けてくれ!」


 シロウの言葉に首を傾げるコスケだったが、突然のジゲンの訪問は確かに意味が分からない。

 来るのなら、ムソウか、闘鬼神の者達を連れて、更にたまと一緒に来るものだと思っていたがために、目を白黒させながら、頭を抱えた。


「どうされました、突然。何か御用ですか?」

「うむ。ナズナは居るかの?」


 ジゲンの言葉に、コスケはハッとした様子で、ジゲンの目を見つめ、シロウを眺め、再びジゲンに視線を移す。

 その先で、ジゲンはコクっと頷き、コスケは全てに合点がいったという顔で頷いた。


「なるほど……ずいぶんかかっていると思っておりましたが、ついに、ジロウ様が出たというわけですね?」

「流石、コスケじゃの。まあ、そう言うことじゃ。それで、ナズナは……?」

「すぐに準備いたします。先に部屋でお待ちください」

「えっ、ちょ、コスケさあああん!?」


 コスケはフッと笑いながら、ジゲンとシロウを妓楼の中へと促す。

 長い階段を上っていき、ジゲン達は妓楼の最上階、妓女たちが部屋で客の相手をする間へと到着し、コスケは、大部屋の奥の間へと、二人を案内した。


「このお部屋は、四天女が上客を相手にするためにと作った部屋となっております。部屋の装飾は全て、コモン様が自ら施しました」

「じゃろうな。手が込んでいることがよく分かる」


 ジゲンは部屋の梁や、柱の彫刻や、天井の絵画などを眺めながらため息をつく。よくぞ、あの短期間で、ここまでの仕事をしたものだと、少しばかり呆れた。

 ムソウと共に、コモンの身を心配するのは、これから先、何度続くのかと肩をすくめた、


 そして、ジゲンはシロウから手を放し、その場に座らせた。

 シロウは、息を切らしながらやっとのことで口を開く。


「はあ、はあ、はあ……親父! それにコスケさん! 何がしたいんだ! 俺は今日、仕事なんだが!?」

「直に分かる」

「すぐに分かるはずだよ、シロウ君。取りあえずこれを飲みながら落ち着いて」


 コスケは手にした酒を盃に注ぎ、シロウとジゲンに渡した。

 二人はそれを受け取り、ニコリと笑う。


「ふむ。気が利くのお、コスケ」

「ありがたく、いただきま……じゃねえって! 朝っぱらから飲めるか! 少し前まで居た、貴族共か!」

「何を言うか、シロウ。儂らが若い頃は、朝でも昼でも、酒盛りをしたものじゃ。なあ、コスケ?」

「それは……そうでしたっけ?」


 苦笑いしながら、首を傾げるコスケ。ジゲンは、ふむ、と首を傾げながら、酒を飲み干す。

 それを呆気にとられながら見ていたシロウだったが、段々と苛つき始めたように声を荒げた。


「いい加減にしろって! ここで、俺に何を――」


 その時だった。部屋の襖が叩かれる音が聞こえてくる。


「あ、あの、コスケさん? ここに来て下さいと言うことで、来たのですが……?」


 部屋の外から聞こえてくる声に、黙り込むシロウ。コスケはジゲンに目配せをして、頷き、襖を開けた。


「あ、コスケさん。何か、用でも……って、ジロウさん!? それに……」


 廊下に居たナズナは、部屋の中に居たジゲンとシロウに驚き、目を見開く。

 ナズナが、部屋に来たことを確認した、ジゲンは、ひとまず部屋に入るようにと、ナズナに促した。


「取りあえず入ってくるのじゃ。少し、話がある」

「は、はあ……」


 おずおずと部屋の中に入るナズナ。ジゲンは、シロウの隣に座らせて、自身は二人の正面に座る。

 先ほどまで騒いでいたシロウも、ナズナが来てからは、静かになっていた。時折二人は、目を合わようとするも、合ったら合ったで、すぐに顔を赤らめて、視線を逸らしている。

 そんな、二人を見ながら、ジゲンはため息をついた。


「ふむ……皆から、あの日以来、二人がそこまで会っていなかったという話は本当じゃったようじゃの」

「いや……だから、仕事が……」

「私は、ここの管理人ですから……」

「それは分かっておる。どちらも、自分に任された務めというものがいかに大変かというものは儂も分かっておる。

 ……じゃが、二人とも、少々働き過ぎでは無いかの?」

「そ、それは……」


 ジゲンの問いに、反論しようとするナズナ。しかし、ナズナの言葉を遮るようにコスケが口を開いた。


「働き過ぎだよ、ナズナちゃん。新しく、大きくなったここの管理人が大変な仕事と言うのは、自分も分かっているつもりだ。

 だが、ナズナちゃんは不器用な癖に、一人ですべてを背負い込むことがある。増えた妓女や、男衆の管理も、自分にまかせてくれれば良いのに、全部やろうとして、朝から晩まで働いている。もう少し、私共のことを任せてくれても良いんじゃないかな?」

「それは……」


 コスケの言葉に、ナズナは黙り込んだ。人一倍責任感の強いナズナは、花街の立て直しに向けて、今も懸命に働いている。禿や新造、妓夫であるコスケが行うようなものでも、率先して行っている。

 しかしながら、そこまでの仕事をこなせるほど、器用でもない。寧ろ不器用であるがゆえに、自らが仕事を増やし、その為にますます働くということもよくある。

 明らかに、ナズナは他の者達よりも余計に働いていた。


 黙り込むナズナを見て、ジゲンは次にシロウに目を向けた。


「お主もじゃ、シロウ。先の一件で、自警団にも新たに人員が増えて、その者達の教育や、巡回の範囲が広くなったことにより、行うべきことも増えたというのは、儂も分かっておる。

 じゃが、それとシロウが忙しくなることは無関係じゃ」

「いや……俺は、二代目として――」

「頭領ならば、フクジ達とも話し合いながら、仕事を分担させるということも可能じゃ。シロウ一人が全てを背負い込むことは無い」

「む……」


 ジゲンからの言葉に、シロウもナズナと同じく黙り込む。似たような状況で、頑張っている姿というのは、ジゲンやコスケにとっては嬉しいものだが、その嬉しさゆえに、二人の責任感の強さに甘えていたということに二人は気付いていた。

 それが原因で、二人の幸せというものに対しても、邪魔をしていたと、気付かされたジゲンは、黙り込む二人に向けて優しく語りかける。


「儂は……昔も今も一人では何も出来ん。皆は、そう思ってくれてはおらんようじゃが、儂も万能なわけではない。

 コウシやサネマサ達が居なければ、牙の旅団など、そもそも無い話じゃし、ムソウ殿が居なければ、ケリスを倒すことも出来んかった。

 たまが居なければ、儂は、ここに戻ってくることも無かったじゃろう。

 ……儂は、儂一人の力で“刀鬼”、“大侠客”になったわけではないということは、二人も、そして、コスケも分かってくれるじゃろう?」

「……おう」

「……はい」

「ええ、もちろんですよ、ジロウ様。私も、あなたが居なければ、花街に目を向けることも無かったかも知れませんし、ナズナちゃんや、“娘”たちが居なければ、高天ヶ原で妓夫をすることも無かったかも知れませんからね」


 コスケの言葉に、そうか、と頷くジゲン。以前、自分がシロウ達を拾った際に、コスケは花街の問題に向けて真摯に取り組むようになったという話を聞いた。

 自分の行動により、多くの仕事に追われ、半ば荒んでいたコスケの心の中に、情熱というものを取り戻せたと感じ、嬉しかった。


「二人も、もう少し力を抜いてみよ。アヤメなんぞは、今でも儂やムソウ殿の力を頼りにしておることも多いからのう。必死に隠しているようじゃが、あれもまた、可愛いものじゃと思っておる。

 ショウブの方も、周りの者達に頼ることは、むしろ良いことじゃと、仕事を任せっぱなしにすることも多いそうじゃ」

「ジロウ様……それは、よろしくないのでは?」

「いやいや。その分、タツミ達に鍛えられておるからのう。まだ良い方じゃ」


 そういうものですか、と苦笑いするコスケ。呆気にとられたように、口を開いたまま固まるシロウ達だったが、ジゲンが盃を口につけながら黙ったことを見計らい、静かに口を開いた。


「……それで、親父は……」

「私達に、どうしろと……?」


 いまいち、ジゲンの意図が伝わらず困っている様子の二人に対し、ジゲンは優しく微笑んだ。


「二人は働き過ぎじゃと、先ほども申したじゃろう? じゃから、たまには仕事を休むのじゃ。ナズナはコスケや、シュンカ殿達を頼っても良い。シロウは、フクジや、何なら、儂の事も頼っても良い。

 もう少し、自分の時間というものを大事にするのじゃ。もう、何も後悔しないようにの」


 最後に盃を置いて、コスケと共に笑い合うジゲン。

 シロウとナズナは、しばらく黙って居たが、双方とも、少し長い息を吐き、ジゲンの言葉に頷いた。


「わかったよ。街も落ち着いてきたことだし、俺もちょっとは休みを取ろうかな……」

「私も……これ以上働いて、皆様の仕事を増やすわけにはいきませんからね」


 ほとんど自虐的なナズナの言葉に、ジゲン達は声を上げて笑った。恥ずかしそうにするナズナだったが、育ての親であるジゲンの楽しそうな顔を見て、安心したように、自身も笑い始めた。

 そして、ひとしきり皆で笑い終えた後、シロウは、ジゲンに目を向けた。


「……で? ただ、俺達に休みをとれって言う為にここまで来たのか? 親父のやることはやっぱり派手だな」


 これで用事も済んだだろうと、シロウは刀を手に取り、その場を立ち上がろうとした。

 しかし、ジゲンがシロウの肩をガシッと掴み、無理やり座らせる。

 

「何を言っておるのじゃ、シロウ。寧ろ、ここからが本題じゃ」

「はあ? 他に何か俺達に言っておきたいことがあるのか?」


 首をひねるシロウとナズナの前に立ち、ジゲンは大きく頷きながら、口を開いた。


「お主ら、あんなことがあったというのに、屋敷から出た後、ほとんど会ったり、話したりもしておらぬと聞いたぞ。

 先ほども話したが、今日は二人とも休みということで、これから夜まで、逢えなかった期間の想いを埋めるが良い。逢引きなどの約束をするというのも、良いじゃろうな」

「はあ!?」

「へ!?」


 口を開けて笑うジゲンに対して、顔を真っ赤にするシロウとナズナ。慌てて反論しようとするも、ジゲンはシロウの刀を取り上げ、コスケと共に、その場を後にする。


「ではの、二人とも。自警団には儂から言っておくから、シロウは何も気にせんでも良い」

「ナズナちゃんも、皆には、私から言っておくから、今日はゆっくりとするんだよ。

 あ、料理や、お酒はまた運んでくるから、今日はしっかりと体を休めるように」

「え、ちょ!? コスケさん!? わ、私は何も、今すぐ休むというわけでは……!」

「俺もだぜ、親父! 刀返せって!」

「あ、刀は、帰る時に渡すから、安心してね、シロウ君。無論、今日の代金は要りません。ただ、次からはいただきます。また、シロウ君がここに来られるように、ナズナちゃん、頑張ってね」

「い、いや、あの、コスケさん!? 私の話を……!」

「む、それから、シロウ。すぐに出て行こうなどと考えるでないぞ? その時は、二人とも……分かっておるな?」


 部屋の中から文句を言うだけの二人に対して、ジゲンは闘気を放出させる。圧倒的な力の波動を感じた二人は、まるでムソウの、死神の鬼迫を食らったように、黙り込み、落ち着きを取り戻していく。

 その後、二人が素直に頷いたことを確認したジゲンは、ニコッと笑いながら、気を鎮めてその場を後にした。


「……少し、強引すぎではありませんでしたか?」


 廊下を歩きながら、苦笑いするコスケ。何の心配をしているのかといった顔で、ジゲンは首を傾げる。


「あれで、丁度良いじゃろう。無理やりにでも、二人の仲を進展させねば、儂は帰って、皆に怒られるからのう」

「皆って……ああ、闘鬼神の。今日のこれは、皆さんの発案で?」

「うむ。主にたまののう」

「あの家で過ごさせていただいた時にも思いましたが、たまちゃんはだいぶ大人の様ですね」

「儂からすれば、可愛らしい子供じゃよ。本当に……孫の様じゃの……」

「それは何よりでございます。そう言えば、ふと思い出したのですが、屋敷では、どうなのですか?」

「どう、というのは、何の事じゃ?」

「こういう、色恋沙汰ですよ。ムソウさんと、ツバキちゃんはどうなりましたか?」


 ここにも二人の仲が気になっている者が居たのかと、ジゲンはため息をつく。


「進展なしじゃ……あの二人は、どう扱って良いのか、分からんものじゃの……」

「あ……なるほど、そうですね……」


 妓楼を訪れる客としてムソウを、ここで働いていた妓女としてのツバキを見てきたコスケは、何となくジゲンの言っていることを理解し、頭を掻きながら頷いた。


「ジロウ様も敵わないとは……」

「うむ。参ったものじゃ。ところで、どこへ向かっているのかの? 出口とは違う方向の様じゃが……?」


 シロウ達の居る部屋を出てから、しばらく歩いていくが、そもそもここまで廊下を歩いた覚えはない。階段は割と近くにあったものだと感じたが、コスケが向かう先にはそれらしきものは無く、むしろ見覚えのない所を歩いていると気付いたジゲン。

 しかし、コスケは動じることも無く、スタスタと歩きながら、顔に微笑をたたえた。


「……この私が、このままジロウ様をお見送りすると? そんなわけないでしょう? ジロウ様には、新たな高天ヶ原を楽しんでいただきます。

 ムソウさんや、皆さんに、ここの良さを伝えてくださる為に」

「む……前も思ったが、主である儂からも搾り取る気とは、流石じゃの……」

「どなたかの教育の賜物です。さあ、早速ご説明していきますね」

「やれやれ、仕方ないのう……」


 どこか誇らしげなコスケの頼みを断るのも悪いと思い、何より、新しい妓楼と言うのはどういうものになったのかということも気になっていたので、むしろ丁度いいと感じ、ジゲンはその後、コスケについて、新しい高天ヶ原を回ることにした。


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