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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
ツバキが里帰りする
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第304話―無間を見せびらかす―

 コモンとガーレンとの手合わせの後、場所が闘技場ということもあり、俺は今回の依頼の査定をコモンに願い出た。

 ガーレンから事情を聞いたコモンは、喜んでと言って、俺が異界の袋から出した、鉄鋼蟹の死骸を次々に解体しては、手にした書類に書き込んでいく。

 カタフロクラブに関しては、少し驚いた様子のガーレンと、まあ、ムソウさんですからと言って、二人で解体作業を始める。結構大きいからな。

 ガーレンは、再び上位個体が居たことについて、かなり驚いている様子だが、コモンの言葉を聞き、何かに納得したように、淡々と作業していた。


「これで、良しっと……お待たせいたしました、頭領」

「おう。あの刀の元は取れたか?」

「そこまではいっていませんが、金貨数枚にはなりましたよ」

「やれやれ……アンタの強さは聞いていたつもりだったが、これほどだったとはな……」


 コモンの書類を覗き込んだガーレンは頭を抱えている。

 今まで、達成した依頼と、上位個体を含む倒した魔物の数に合わせ、今回の手合わせで、俺の力というものが嫌というほど分かったらしい。


「そういや、俺のことについては、ギルドの中ではどのように伝わっているんだ?」

「ん? そうだな……単騎で少なくとも災害級を倒せる実力者ということと、十二星天様と共に、天災級を倒したということくらいしか、俺は聞いていないが……?」

「つまりは、ギルドの支部長と同程度の力を持っているということですね。ですが、ガーレンさんも、今回の手合わせで、ムソウさんのお力がどの程度、というものが計れたと思いますが?」

「計れませんよ、あれでは。底が知れないということは判明しましたが……」


 大きなため息をつき、項垂れるガーレン。災害級を単騎で倒すということだけで、信じられない話なのに、先ほどの手合わせで、それ以上も相手に出来ると実感したガーレン。

 半ば、嘘だと思っていた、十二星天と同等以上の力を俺に感じ、若干慌てているようだ。


「そんな顔しなくても、向こうから問題が起きそうになかったら、俺も何もしねえよ」

「……まあ、それは本音だろうな。そして、その為に、俺達も協力しているという状態だ。くれぐれも頼むぞ」

「はいはい」


 モンクで、揉め事や面倒ごとは起こさないと改めてガーレンに約束した。ついでに、今回の手合わせで負ってしまった大剣の詫びということで、昨日買った噴滅龍の大刀をガーレンに渡した。

これで、ほとんど金貨200枚はどぶに捨てたことになったなあと、ため息をついていると、コモンはクスっと笑った。


「モンクでは安心して、冒険者稼業の方は出来ているみたいですね。カジノへ行っても大丈夫そうですし……他に注意すべきは、海賊くらいですか?」

「いや……あと、奴隷商や魔物商もだろ。ツバキは良いが、リンネも居るからな」

「あ……そうですね。リンネちゃんもお強いですから大丈夫だと思っていましたが、確かに心配ですね。僕たちに、何かお手伝いできることはありますか?」


 コモンにそう言われても、特には思い当たらないな。そうは言っても、今のところは平和に過ごせているし、昨日の海賊についても、問題なく対処できていたからな。

 魔物商も奴隷商も、初日に比べれば平和なものだ。マルドの奴隷商などがどうなっているのか分からないが、ツバキは騎士だ。

あの首飾りを下げているツバキが側に居る限り、奴らも下手なことはしないだろう。


「特には無い。俺達が帰るまでクレナの方も頼んだぞ。サネマサやアヤメときっちり連携してくれれば、俺はそれで良い……しっかり、休みもとれよ」


 無間の修繕も終わったことだし、コモンには当分休んで欲しい。天宝館の仕事もあるが、少なくとも俺がモンクに来る前は、家に帰ることはあったが、働きづめだったからな。

 トウショウの里の復旧作業から、ずっと働きづめだったし、今はしっかり休んでいざという時に備えて欲しい。

 それこそが、俺がコモンに頼みたいことだ。いざという時に、こちらに来てもらうこともあるかも知れないからな。


 コモンは、しばらくキョトンとしていたが、フッと笑みを浮かべて頷いた。


「かしこまりました。皆さんの事はお任せください。ジゲンさんとも……協力しますから、ご安心ください」

「……ん? 何だ、その間は?」

「あ、いえ……」


 少し気まずそうな顔をして、視線を逸らすコモン。この顔は、飽きるほど、見たことがある。


「コモン?」

「いえ、何でもありませんよ、頭領」

「いや……」

「ジゲンさんや、ダイアンさん。それにリアさんたちと一緒に、闘鬼神もお任せください!」

「爺さんたちに何かあった――」

「それから、僕もしっかり休みますよ。実は、頭領に言われる前に、たまちゃんや、アザミさんたちにも、毎日、しっかり休んでくださいと言われていますからね」

「……」

「ヴァルナさん達には、申し訳ないですが、こればかりは……ね」


 ……絶対何かごまかしているコモン。隣に居るガーレンも、今のコモンには首を傾げながら、俺に視線を移している。

 まあ、こうなったら何も言わないだろう。トウヤの事も、結構引っ張っていたからな。

 ……あ、コモンの得物の大金槌の中から、呆れた顔で、


「すみません……ザンキさん……」


 と、言っているトウヤが、何となく見える気がする。俺も、精霊を感じられるようになったなあと、苦笑いした。


「……わかった。何はどうあれ、留守は任せたからな、コモン」

「は、はい……かしこまりました……あ、こちら、今回の依頼の査定受け取り票になります」


 慌てた様子で査定受け取り票を渡してくるコモン。それを受け取り、俺はガーレンに一言言って、その場を後にした。

 コモンとガーレンはそのまま別の道を使って執務室に向かう。また、騒がしくなるのも嫌だということらしいが、本当はボロボロの姿を見られたくないからだろうなと笑った。

 コモンはこれから、例の運搬依頼の護衛への報酬と、別件での荷物の運送について、ギルドに依頼を出すらしい。仕事の邪魔をしては悪いなと、そのまま別れた。


 そして、闘技場を出ると、シアの元へと向かった。


「よお。査定が済んだ。報酬を頼むぞ」

「あ、はい! あ、ザンキさん。先ほどは申し訳ありませんでした……」


 シアは、急に俺の手を引っ張ったことについて、頭を下げてくる。


「気にすんな。それよりも報酬だ。さっさと頼む。向こうの視線が辛い……」


 俺は酒場の方を指さす。早く呑もうと、俺の背中に強烈な視線を向けてくる冒険者達。コモンのことを聞かされそうだ。

 いつの間にか、今日は休みと聞いていたジーゴも来ている。大きな盃を手にしながら、先ほどから、はやく来いと、いちいちうるさい。

 シアは、酒場に目を向けながら、小さく頷いた。


「か、かしこまりました。少々お待ちください……

 はい、お待たせいたしました。鉄鋼蟹の討伐、ですね。今回は報告通りの数の討伐の様ですので、群れの殲滅完全達成ですので、特別報酬が出ます。

 あ、それと以前のゴブリン討伐の完全達成の確認も取れましたので、そちらの特別報酬をお支払いいたします。

 今回もお疲れさまでした、ザンキさん」


 シアは、重そうに金貨と銀貨が入った袋を渡してくる。流石に、金貨200枚は入っていないが、クレナよりは報酬の相場が低いモンクで、中級依頼を二つこなしただけで、数十枚の金貨は嬉しい利益だなと感じ、金を受け取った。


「ありがとう、シア」

「はい。また、依頼の受注の際はお任せください」


 シアに頷き、早速明日取り組む依頼を選ぼうとした時だった。

 ガシッと、俺の肩を組んでくる奴が居る。


「終わったみてえだなあ~。さっさとこっち来いよ」


 デカい盃を手にし、赤ら顔でニカっと笑うジーゴ。仕方ない。依頼の受注は後でしておこう。

 やれやれと思いながら、皆が待つ酒場へと向かい、椅子に座った。時間は、まだ夕方前といったところか。


「出来るだけ、手短にな。俺もマルドに帰らないといけないんでな」

「分かってる、分かってる。んじゃあ、今日も飲むぞ~!」

「「「「「お~!」」」」」


 人の話を聞いているのか怪しい様子のジーゴが盃を掲げると、他の奴らも呼応し、酒をぐびぐびと呑み始める。

 俺も飲みながら、今日集まった奴らの話を聞いていた。


「ジーゴは、今日休みだったよな? あれから帰ったと思ったが、何でまた、ここに居るんだ?」

「コモン様が来たって聞いたからな。人目見ておかねえとと思ってよ~。十二星天様にお会いできるのはなかなか無いからな」


 つまり、一目でも見られれば、運が良いということ。また、ゲン担ぎってやつだろうな。


「で、見ることが出来たのか?」

「見れてねえよ~! 闘技場から、別の道使って支部長の部屋に行ったみてえだな~! てか、オッサン、何なんだよ!? コモン様とやけに親しげだって聞いたぞ!?」

「クレナで世話になっただけだって聞かなかったのか? 武具の調達は、天宝館でやっていたからな」

「ああ、なるほど……にしても、羨ましいな~。俺もクレナに行けば良かったかもな……」


 深くため息をつきながら酒を煽るジーゴ。あまり飲み過ぎるなよと忠告したが、俺にとっては水同然と、受け入れてもらえなかった。

 昨日怪我をした割には、意外と元気そうだ。ジーゴの仲間達も、これくらいならと、少々呆れつつも、そこらに置いてある料理を口にしている。

 コイツをよく知る仲間達が大丈夫だと言うのなら、大丈夫なのだろうと、あまり気にしないことにした。


「まあ、わざわざクレナに行かなくても、依頼はあるんだから、金は手に入るだろ。ちなみに、明日はどんな依頼なんだ?」

「え~と……あれ? 俺、依頼票、どこにやった?」


 体のあちこちに手を突っ込みながら首を傾げるジーゴ。ひょっとして、受注した依頼票を無くしたのか? どうやって、報酬を受け取るのだろうかとため息をつくと、ジーゴの横に居た、仲間の一人の魔法使いがジーゴを小突く。


「私が持ってる。無くしたら駄目だからね」

「お~! 気が利くじゃねえか~!」

「はあ~……えっと、明日は、大王オオトカゲの討伐と、鋼皮トカゲの討伐とその素材の採取ね」


 魔法使いの女は、どんどん酔っていくジーゴに呆れながら、俺に依頼の内容を教えてくれた。

 明日の依頼は、複数あるように見えて、目的地は一つらしい。というのも、大王オオトカゲを長とした魔物の群れが居るらしく、その中に鋼皮トカゲも居るということで、どちらかの依頼を受けるということは、もう一方の依頼も、受けた方が効率が良いとのこと。

 更に言えば、群れの殲滅も達成できれば、特別報酬も出るということで、ジーゴはこれを受注、更に戦力増強の為、他の冒険者達と共に取り組むとのことだ。


「へえ……意外と、コイツは色々考えてんだな」

「まあね……」


 陽気に酒を呑み続けるジーゴを指すと、ジーゴの仲間達は、笑みを浮かべて頷く。

 ゲン担ぎできないから、カジノには行かないという、カジノへの情熱だったり、依頼に取り組む際の戦法だったりと、ジーゴもこう見えて、色々と頭を使っているようだ。

 部隊を率いる長としての心得は身に着けているようだな。


「ちなみにだが、明日の依頼は俺も加わることは出来るか?」


 特に明日の仕事を決めていなかった俺も、ジーゴ達についていきたいと思い提案してみた。

 しかし、ジーゴの仲間達は、少し渋い顔をする。


「ごめんなさい。もう、満員ね。これ以上増やすと、報酬の分配も大変だから」

「そうか……」

「また、機会があったらよろしくね。おじさんも腕利きみたいだし、声をかける可能性は十分あるから」

「ああ。ありがとう」


 取りあえず、明日は駄目だったが、これから先、共同で依頼に取り組める可能性もある。ジーゴの取り組む依頼は、金になりそうだからということもあるが、俺も他の冒険者と交流した方が良いとも思っているし、まあ、何より、コイツらが気に入ったので、一緒に闘いたいという気持ちは大きい。

 ひとまず、約束は取り付けたということで、ジーゴの仲間達と握手を交わした。


「で? おじさん、明日はどんな依頼を?」

「決めようとしたら、お前らの長に呼ばれたんだよ」

「あらら……それは、ごめんなさいね。え~と、一つ、中級依頼があったから、それを受けたら?」


 魔法使いはそう言って、俺を依頼票が貼り出されている場所へと促す。ジーゴの方が、他の冒険者と飲み明かしている隙に、さっさと受注しておこう。

 さて、女は俺に、一枚の受注表を指す。どれどれと思って確認してみた。


「え~と、ソード・オクトパスの討伐?」

「ええ。足の先端が剣のように鋭く、固くなっている巨大蛸の魔物よ。レイヴァンとレインの航路上で目撃されたらしいわ」

「航路上ってことは、船上か……?」

「もしくは、海中だけどね。船を持ってないなら、船を出してくれる人を見つけないとね」


 ギルドの方から、船は出ないのか。行くなら、自分の力でってことだな。

 まあ、これに関しては神人化して飛んで行けば良いから特に問題は無いと思い、依頼票を剥がした。


「あら、それにするの? 船は?」

「何とかするさ」

「そう……ま、頑張ってね!」


 背中をポンと叩く魔法使いの女はそのまま、皆の輪の中に戻っていく。

 俺は、依頼票をシアの元へ持っていった。


「シア、明日の依頼が決まった。手続してくれ」

「はい、かしこまりました。ソード・オクトパス……ですか。船の手配は大丈夫ですか?」

「飛んで行くつもりだ」

「あ……なるほど、かしこまりました。では、承認いたします。少々お待ちください」


 シアはそう言って、奥の部屋へと向かった。しばらくすると、何人かの職員と共に、何か大きなものを抱えて持ってきた。


「何だ、それ?」

「こちらは、支給品の一部ですが、ソード・オクトパスをおびき寄せる疑似餌となっております」


 これが疑似餌か……人一人分よりは大きい。どれだけデカい蛸なのだろうか。

 まあ、魔物ってのはそんなもんだよなと納得し、支給品を受け取った。


「ありがとな、シア」

「いえいえ。冒険者が依頼を取り組むことに際し、ギルドが補助をすることは当たり前です。ただ、失敗されると、かなりの額の違約金を払うことになりますが……」

「要らねえ心配だな。達成の報告、首を長くして待ってろ」

「はい! では、ザンキさん、よろしくお願いします!」


 シアに頷き、俺は皆の元に戻った。

 その後も飲みながら、依頼について話したり、ジーゴとの呑み勝負に付き合わされたりと、楽しく過ごしていた。


 そして、日が傾き始めたことを確認し、俺はギルドを出る。また飲もうぜと、手を振るジーゴ達と分かれ、レイヴァンを出た後は、神人化してマルドへと帰った。


 ◇◇◇


 マルドへ着いた後は、そのままツバキの家に直行した。無間が新しくなったことを早く報告したかったからな。

 家の前に着くと、いつものようにリンネとタクマが、店の片づけをしていた。家の方は灯がついている。すでにツバキ達が飯を作っているようだ。

 俺が近づいていくと、リンネが俺に気付き、駆け寄ってきた。


「おかえり~! おししょーさま~!」


 リンネは俺に飛びついてくる。しっかりと受け止めて抱き上げ、頭を撫でた。


「ただいま。今日もしっかり、お手伝い出来たか?」

「うん! またまたおともだちがたくさんできた~!」


 あ、そうか。今日も主な仕事は、こないだ俺が買ってきたものをタクマと一緒に注文者へ届けるってことだったな。また、リンネにも同年代の友達が出来たらしい。毎日、健やかに過ごしてくれているようで何よりだ。

 いい子だなあと、再びリンネの頭を撫でていると、リンネは、俺の背中に背負われた刀を見て、目を輝かせた。


「わ! おししょーさま、また、かたなをかったの!? だめだよ~! おかねはだいじにしないとって、おししょーさま、いってたじゃん!」


 何か壮絶な勘違いをしているリンネ。朝出る時は、噴滅龍の大刀だったから、俺がまた、新しい刀を買い変えたと思っているらしい。

 やれやれと思い、俺はリンネを下ろし、無間を見せた。


「コイツは、コモンに修繕を頼んでいた、無間だ。今日、コモンが届けてくれたんだよ」


 何度も見ているだろうし、何度か一緒に手入れして貰ったから、リンネも無間がどんな刀だったか覚えているはずだ。リンネはジーっと無間を眺めた後、う~んと、考え込んだ後、何かに気付いたようにハッとした。


「ほんとだ! むげんだ! おししょーさま、よかったね~!」

「ありがとう。前よりも強くしてくれたみたいだ」

「すご~い! ねね、コモンくん、げんきだった~?」

「ああ。たまもジゲンも、他の皆も元気で居るってよ」

「ほんと!? よかったあ~!」


 リンネはニパっと笑って安心したような雰囲気になる。優しい子だなと、リンネの頭を撫でて、無間を背負うと、それが一番似合ってると言われて嬉しかった。


「おかえりなさい、ザンキさん。そちらが、ザンキさんの正装、というわけですか?」


 タクマも、俺に近寄ってきて、俺の姿をまじまじと眺める。


「ああ。久しぶりの感覚だが、まったく違和感は無いな」

「なるほど……それで、そのお姿をツバキ達に早く見せたいということで、今日は早いのですか?」

「ま、まあ、そんなところだ。流石、親子、よく似ているな」

「ありがとうございます」


 褒めたわけじゃないんだけど思いながら、ため息をつく。

 ツバキと同じく、俺を揶揄うような目で見ていたタクマは、後の作業は一人で行うと言って、再び店の方に向かった。

 俺とリンネは家の中に入っていく。戸を開けると、リンネが俺の腕の中で元気よく口を開いた。


「おねえちゃ~ん! おししょーさま、かえってきた~!」

「あ、は~い」


 台所の方から、リンネに返事をする声と共に、ツバキが姿を現した。

 ツバキは、俺の姿を見ると、あ、と言って目を見開く。


「あ……ザンキ様、無間が元通りになったのですね」

「元通り以上だ。今日、コモンが届けてくれてな」

「そうですか。……ですが、そうなると本当にあの金貨200枚はもったいなかったですね」


 小さくため息をつくツバキ。リンネは不思議そうな顔をし、俺も思わずため息をついた。


「お前……それを言うなよ……」

「わざわざ噴滅龍の大刀にしなくても、ザンキ様にはスキルがありますから、安いものでも良かったと思っておりました……」

「今更そんなことを言われてもな……って、お前、昨日、飯食ってるときに何か考え事をしていたが、ひょっとしてこのことか?」

「え? ……ああ。そうですね……どうせ、すぐに無間の修復が済むのなら、わざわざ高価なものを間に合わせで買うことも無かったと……」


 むう……それを思っていたのなら、先に言って欲しいものだと頭を抱えるが、ツバキがこのことを思いついたのは、昨晩、飯を食っていた時とのこと。すでに買った後なのだから仕方が無いと、ツバキは肩をすくめた。


「まあ……無事に直ったのは良いことですものね。やはり、ザンキ様の背には、そちらが一番、お似合いです」

「……最初からそう言って欲しかったものだ」


 ツバキは、俺の全身をじっくりと眺めながら、クスっと笑った。過ぎたことを言わずに、最初から褒めてくれれば、俺も素直に嬉しかったんだがな……。


「……ッたく。二人に見せびらかしたくて、早めに帰って来たってのに……」

「あら。それは嬉しいことですね。ですが、私達よりも、お見せしたい方がいらっしゃるのでは?」


 ツバキはそう言って、自室から斬鬼と、俺が渡した簪を持ってくる。

 それに宿っている奴らに、俺の姿が見えるように、俺の前に出してきた。

 ツバキの粋な計らいに、少し可笑しな気持ちになって笑った。


「……いつの間にか、お前よりも無間が似合う男になって、悪いな」


 皮肉を言うように、斬鬼を小突くと、ツバキは再びクスっと笑った。


「ザンキ様。エンヤ様は、女性ですよ?」

「ああ、そうだったな。昨日のこともあってか、つい、忘れていた」

「おししょーさま、ひどいね~」


 キャッキャと笑うリンネに、そうだな、と頷き、頭を撫でる。無間が一番似合うのは、まだまだ俺じゃないのかも知れない。

 敵勢に向かって、この刀を振り回していた姿は、いつまで経っても、俺の脳裏に焼き付いている。俺も、あんなふうに戦えるようになるまで、あとどれくらい強くなれば良いのだろうか。


「まあ、今は俺が無間の持ち主だ。これからも、近くで見守ってくれよ」


 改めて、斬鬼の中のエンヤに誓った。


 その後、いつものようにリンネと一緒に風呂に入って、お互いに今日あったことを報告しあっていた。

 リンネはコモンのことを根ほり葉ほり聞いてきて、初めて手合わせをした話などすると、その度に、目を輝かせていた。

 こういうことなら、コモンもここに連れて来ればよかったかもなあと少しだけ反省する。


 まあ、クレナの方は、変わらないようで俺も安心した。ツバキの帰省がいつまで続くか分からないが、皆の為に、俺も何時頃トウショウの里に帰れば良いか、今のうちに決めておこう。


 そして、風呂から上がった後は、皆と飯を食った。

 ここも、いつもと同じく、飯を作ってくれたツバキをメリア達が褒めて、ツバキが顔を赤らめ、リンネが笑うと、お仕置きされるという一連の流れの後、今日あった出来事をお互いに話していく。

 タクマは、配達の仕事がひと段落したということで、ふう、と肩を下ろしていた。俺の方も、待望の無間の修復が終わったということで、一緒に酒を交わしていた。

 メリアは、ツバキとリンネと一緒に、トウショウの里の家の皆の話で盛り上がっていた。リンネが皆のことを嬉々として語っていると、ツバキと一緒に、うんうんと頷いている。


 すると、メリアはツバキに、早く帰りたいかと尋ねた。ツバキは少し困ったように、俺の方に視線を向ける。

やはり、まだ迷っていると感じた俺は、タクマとメリアに、ツバキの気が済むまでか、スーラン村の件が片付くまでと決めておいた。

 つまり、少なくともひと月はここに居ることになるかも知れないと、皆に伝えると、ツバキは、充分です、と頷いた。


 ……スーラン村か……そう言えば、グレンに頼まれている品も、早いところ持って行かないとな。いつも忘れる。


 明日のソード・オクトパスは速攻で片付けて、ギルドの報酬を受け取った後は、スーラン村に行くとしよう。

 ついでに、リエン商会で何か買ってお土産も持って行けば、時間がかかったことについては何も言わないだろう。


 ひとまず、明日の予定も立てて、その後も、ツバキ達との晩餐を楽しみ、コモンとの手合わせで予想以上に疲れた体を癒すために、早々に布団を被った。

 今日もリンネは、俺の顔の側に丸まり、寝息を立て始める。俺よりも速く起きて、俺をくすぐりたいからだと、ツバキが教えてくれた。


「絶対負けないからな……」

「フフッ。では、明日は私達でリンネちゃんを起こすとしますか?」

「良いな、それ……じゃあ、明日は……俺が……一番に……」


 一番に起きて、俺がツバキをくすぐりながら起こしてやると言い終わらないうちに、俺の意識も遠のいていった。意外と疲れていたらしい。

 ツバキのフッと言う声と共に部屋の灯が消えていく感覚がして、俺達は眠りについていった。


 いつも、当稿を読んでくださり、ありがとうございます。

 まことに勝手ながら、今まで、土曜日に何本か投稿でしたが、これからは、不定期投稿にしていきます。

 理由としては、一話ごとの文字数を増やしたことにより、一週間で書き上げることが出来る話数が減ったということで、取りあえず、一度の更新で6話は更新したいと思っているんで、そう言うことにしました。

 更新前日は、作者マイページにて報告はしていきますので、よろしくお願いします。

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