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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
ツバキが里帰りする
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第299話―海での休暇を楽しむ―

 私達は、リンネちゃんに人型の時の泳ぎ方を教えながら、私とお母さんとハンナちゃんと一緒に海で遊んでいます。

 リンネちゃんは、確かにこの姿だと泳げなかったのですが、海に入り、水の塩辛さに驚いた後、ハンナちゃんが泳ぐ様子を見ると、すぐに泳げるようになりました。どう、教えれば良いのかと色々と考えていた私が愚かだったようです。

 以前から、リンネちゃんは見たものを真似するということが上手でしたからね。妖狐という種族特有だからか、変化した人間や魔物の技でさえもすぐに真似することが出来るという能力は本当に素晴らしいと思います。


「わ~い!」


 初めて人の姿で泳げるようになったリンネちゃんは、私達に離れないように、特に私の周りを泳ぎ始めました。

 一緒に潜り、どちらが先に海に顔を出すか対決をしたり、ハンナちゃんについていき、お魚を獲ったりと、陸と同じように楽しく過ごしていた時でした。


 突然、少しだけ波が出て、船から大きな音が聞こえてきました。

 何かあったのかと目を向けると、甲板の上から魚の尾びれのようなものがはみ出していることに気付きます。

 ハンナちゃんは、目と口を大きく開けて、ただただ驚いていました。


「あれは……海王鮪か!? 何釣ってんだ、あの二人!?」

「二人というより、ザンキ様だと思うよ? 流石に父さんでも、あんなの釣れないと思うから。ですよね、リンネちゃん」

「わ~……おいしそ~……」


 浮袋に掴みながら、リンネちゃんはキラキラとした目で海王鮪を見つめていました。いつでも、食欲の方が先に出ているリンネちゃん。らしいなとは思いつつ、食い意地ばかり張っていてはいけませんと、注意すると、は~い、と頷きました。この様子だと、この性格は直りそうにありませんね。

 本当に、主人によく似ているなと思い、頭を撫でていると、ハンナちゃんが、慌てた様子で私達に顔を向けてきました。


「え!? 二人は驚かないの!? 海王鮪だよ!? 本職でもめったにお目にかかれないのに……」

「そうだけど……ザンキ様だからね。あの方の側にいると、そう言うものにも慣れてきちゃったかな」


 何せ、倒された後ではありましたが、私も実際に、九頭龍や、古龍ワイバーンをこの眼で見ましたし、今ではお屋敷に、雷帝龍様も居ます。

 更には、刀精ではありますが、精霊の姿も見ることが出来ましたし、正直なところ、あ、親じゃないのですね、というのが、海王鮪を見た感想です。

 いつもの調子だと、親も出そうなものですが、今のところ、そういった気配はありません。寧ろ、若干悔しいような思いになり、自然とため息が出てきました。


 ハンナちゃんは、口をパクパクとさせながら、お母さんに助けを求めるような顔を向けています。


「メリア姉ちゃん、どうなってるの?」

「う~ん、そうね……ツバキもモンクを出て、色々と経験したってことね。私だって、あの魚には驚いているんだから」


 ムソウ様が海王鮪を異界の袋に仕舞ったのか、姿が見えなくなりました。お母さんはその様子を見ながら、やれやれと肩を上げます。お母さんも、意外と落ち着いているなあと思いましたが、よく見ると、少しだけ目が泳いでいます。

 ああ、普通の人はこういう反応するんだなと、リンネちゃんと顔を見合わせて、苦笑いしました。


 しかし、言われてみれば、確かに、私も慣れたものだなと自分で思ってしまいます。クレナでの生活では、十二星天様に、ジゲンさんと、ムソウ様やリンネちゃん以外にも、“規格外”な方々が居ますし、私自身も、EXスキルと、少し変わった偶像術を身に着けたおかげで、私も、他の方々よりも少々外れた存在になっているのだという自負はあります。


 本当に、慣れというのは恐ろしいものだと思っていると、ハンナちゃんが肩を叩いてきました。


「ツバキちゃんも大変だったんだね。あれくらいで動じないなんて……」

「もう……そんなこと無いよ。私もまだ、ザンキ様の側に居て、驚くことの方が多いからね。

 それよりも、ハンナちゃんが、冒険者になっていることの方が驚いたかな。大変じゃない?」


 ハンナちゃんは、漁師であるお父様の娘という印象とは打って変わり、私と遊んでいた頃は、まだ、女の子らしい性格でした。外で遊ぶことが好きだった私やリュウガン君と違って、家の中で首飾りを作ることの方が好きだったことを覚えています。

 そんなハンナちゃんが、お父様と漁に出て、更には冒険者としても活躍しているということは、マルドに帰ってきてから、驚いたことの一つです。

 普通の魚を獲るという漁師だけでなく、海に生息する魔物の退治もこなしているハンナちゃん。どちらかと言えば、私よりも大変な仕事なのではと、心配すると、ハンナちゃんは、ケロッと笑顔を見せました。


「う~ん……大変だけどさ、魔物が居たらそもそも漁も出来ないからね。それに、魚よりも魔物の方が高く売れるし、この辺りに出る魔物は大したことないし、いざとなれば、仲間と一緒に依頼に取り組むから、苦労はしてないよ。寧ろ、楽しいかな」


 どこか誇らしげに、冒険者の腕輪を眺めるハンナちゃん。私の心配とは裏腹に、ハンナちゃんはハンナちゃんで、楽しくやっているようです。

 魔物の方が高く売れるのでしたら、むしろ、魔物が出た方が良いのではと言うと、ハンナちゃんは、それは疲れると苦笑いしました。聞けば、ハンナちゃんの腕ですと中級くらいの魔物でしたら、一人でも何とかなるとのこと。泳法スキルもあるので問題なく討伐依頼も普通の漁も出来るということなので、頼もしいなと感じました。


 私の知らない所で、ハンナちゃんも頑張っているんだなと思っていると、お母さんが、何故か、ため息をつきながら口を開きます。


「はあ……ハンナちゃんも元気なのは良いけど、嫁の貰い手が無くなるって、マーマイさんが嘆いていたわよ? あれから、良い話は無いの?」

「なッ!?」


 お母さんの言葉に、ハンナちゃんは顔を真っ赤にして慌て始めました。

 詳しく聞くと、以前、ハンナちゃんにマルド商会で幹部を務める方の息子との縁談の話がありました。お相手の方は、ここマルドで、大きなお店を経営しているらしく、人柄も素晴らしい、お優しい方だったそうです。

 その日は、家族が設けてくれたお見合いの場ということもあり、少々お淑やかにしていました。顔合わせでの印象は、どちらも良い感じだったそうで、仲を深めるために、海にでも出たらどうかと、双方のご両親が提案しました。ハンナちゃんと、お相手の方は、そのまま海に出たのですが、沖まで来て、釣りでもしようかと準備をしていた所、魔物が現れました。

 しかし、魔物が出た途端、ハンナちゃんは得物である三叉の矛を振り回し、魔物を撃退したそうです。

 そんな、淑女らしからぬ行動を見た相手方の男性は、ハンナちゃんに怯えてしまい、その縁談は破談になったとのことでした。

 港に帰って来た時、用意した可愛らしい服を血まみれにしたハンナちゃんと、すっかり怯え、少しばかり震えていたお相手の方が気まずそうにしていたという光景は、今でもはっきりと覚えていると語るお母さん。

 興味を持って、応援しようと縁談の場に行ったのは良いですが、こういう結果になるとは思わなかったと、呆れつつ、ハンナちゃんの成長には笑ったそうです。


「あら、そんなことがあったんだね。そっか~、ハンナちゃんも良いお話が来るようになったんだね~」


 少し、揶揄うように言ってみると、ハンナちゃんは更に顔を赤くして私の肩を掴んできました。


「い、いや、あれは、親父たちが勝手に決めたことで、私はまだ、そういうのは……」

「え~、そうかなあ。実際、マーマイさんは心配しているみたいだけど?」

「ご両親は、ハンナちゃんとお父さんが頑張っている間は良いけど、この先のことを考えると、頭が痛いって言っていたわよ?」


 お母さんも、私と同じ気持ちなのでしょうか、少しハンナちゃんを揶揄うような目つきでにじり寄って来ました。こういうところは似ているなと自覚しつつ、辞められないのでそのままにしておきましょう。


「そ、それは、私も分かってるけど、それと私が結婚するのは別でしょ? 私はまだ、自由に色々とやりたいの!」

「そのやりたいことを、愛する男性の方とするのも楽しいことだと思うよ?」

「ゔ……じ、じゃあ、実際、ツバキちゃんはどうなの!? あの人と居て、楽しいの!?」


 必死な様子で、船の方を指すハンナちゃん。私がここで黙ると思っているのでしょうか、どこか得意げな顔をしています。お母さんは私にも揶揄うような目つきになりながら、気になるわ、などと言っていますね。


 私は、そばで浮袋を掴み、ぷかぷかと浮いているリンネちゃんを抱き寄せ、頭を撫でました。ニコリと笑うリンネちゃんに微笑み返し、ハンナちゃんにも笑みを送りました。


「うん。楽しいよ。ザンキ様の側に居るだけで、私は幸せだよ。ハンナちゃんも、私の気持ちが知りたかったら、早く良い人を見つけると良いよ」

「いいよ~」


 私の言葉に続くように手を上げるリンネちゃん。そして、再び辺りを楽しそうに泳ぎ始めました。

 ポカンとしていたハンナちゃんは、小さくため息をつきながら苦笑いをしていました。


「……本当に、昔と変わらないね、ツバキちゃんは」

「ハンナちゃんはちょっと、変わったみたいだね。多分、リュウガン君も驚くと思うよ」

「そっか……ちなみにだけど、リュウガン君は、まだ独身?」

「え? う、うん。そうだけど……?」


 突然、妙なことを聞いてくるハンナちゃんにそう答えると、再び、そっかと言って、空を見上げるハンナちゃん。

 そして、ニコッと笑顔を見せてきました。


「じゃあ、私もまだ、独身で良いかな。ツバキちゃん、お先にお幸せに~」


 そう言って、ハンナちゃんも泳ぎ始め、リンネちゃんと追いかけっこを始めました。


「あ、ちょっと待って! まだ話は終わってないよ!」

「二人とも、待ちなさ~い!」


 逃げたと思った、私とお母さんは、リンネちゃんとハンナちゃんを追いかけます。リンネちゃんはまだしも、流石ハンナちゃん。私たち二人とリンネちゃんの三人がかりでも、海の中では捕まえることが出来ません。

 まるで魚のように泳ぐハンナちゃんを、その後もしばらく追いかけていました。


 ◇◇◇


 海王鮪を釣り上げて、俺は甲板の上で少しばかり休憩していた。そのついでに、九怨の手入れをしていく。

 普通の大きさの刀を拭いたりするのは久しぶりだなと思いつつ、しばらく波の音を聞きながら、揺れる船の上で作業をしていた。

 タクマは、せっかくだからと釣りを楽しんでいるようだ。普段は街で商売をするばかりで良い息抜きになると、笑っている。


「アンタも、向こうで遊べばいいのに」

「向こうは女性ばかりですからね。流石に気まずいです。ザンキさんも行くのなら話は別ですが?」

「……辞めとこう」


 先ほどから、ツバキや、リンネのはしゃぐ声が聞こえてくる。甲板からこそっと見てみると、リンネもすでに泳げるようにはなっているようだった。今は、ツバキとリンネ、それにメリアが、ハンナを追いかけているという遊びをしている。

 ハンナは泳法スキルを持っているらしく、まるで魚のように素早く泳いでは、ツバキ達を躱している。流石に人の姿だと、リンネは敵わないかと思いつつ、楽しそうなのでそのままにした。

 あの中に入るのは辛いと、タクマに言うと、ですよねと、頷かれる。


「まあ、こっちは男同士で楽しむとしよう」

「そうですね。こうして魚を待っているのも退屈ですし、何か、ザンキさんの面白いお話でも聞けることが出来れば幸いです」

「面白い話って言われてもな……っと、そう言えば、気になることがあるんだが?」

「はい、何でしょうか?」


 ツバキ達が居ない今、この領で気になっていることは確認しておこうと思い、刀の手入れをしながら、タクマに聞いてみることにした。


「コクロ辺りには海賊が居ると聞いたのだが、この辺りには居ないのか?」

「そうですね……ここ最近は見ないです。というのも、彼らは不定期に姿を現しては、街や漁船を襲ってきますからね。居るか居ないのか、わかりづらいというのが実際のところです。

 特に多いのがコクロというだけで、騎士の数が多いモンク領や、王都近海では、あまり被害はありません」

「そうか。ちなみに、最後に被害があったのは何時だ?」

「え~と……二か月くらい前ですね。旅客船が襲われたのですが、護衛の冒険者さんの活躍で大ごとにはなりませんでした」


 意外と最近だな。ただまあ、そこまでの被害では無いようだし、俺が活動するのは主に陸地なのでそこまで気にする必要は無かったか。

 とは言うものの、不安なことははっきりとさせたいので、一応、海賊という存在について、詳しく聞いてみることにした。

 タクマによれば、海賊というのは主に沿岸部の街のならず者たちが集まって構成されたか、あるいは、元冒険者だったり、傭兵だったりした者達の成れの果てだということだ。海上では他の船を襲ったりして金品を奪ったり、人を攫ったりして近隣の民達に恐れられている。

 まあ、違法で魔物を飼い慣らしている者も少なくなく、前の世界と違って、被害の大きさは、やはりこちらの方が上だなと感じた。

 一応、王都や沿岸部の領でも、騎士団による偵察船や、冒険者による護衛などの対策をとってはいるが、それさえもものともしない海賊も少なからず居るという。

 それらの多くは警備の少ないコクロ領の諸島の、どこかに拠点を構えているらしく、時々起こる、この近くでの海賊の事件は、その海賊団の末端か、違法な奴隷商、魔物商に攫った人などを売りつけに来ている者達が起こしているらしい。


「てことは、やはり、マルドにも違法な奴隷商などは居るってことか」

「ええ。どこにあるのか、誰がやっているのかは、流石に分かりませんが、居るということは確実ですね。

 厄介なのは、冒険者を雇い、騎士団にも癒着している可能性があるということです」


 何となく想像していたが、そういう奴らも居るんだな。騎士団の師団本部が置かれていない以上、レイヴァンよりは若干警備も緩いからな。

 そんなレイヴァンにさえ、違法な奴隷商はあったのだ。連中もなかなか手ごわいらしい。

 ただ、用心棒を囲ったり、騎士団を黙らせるということが出来るとなれば、数は絞られる。タクマに目を向けると、俺の思いを汲み取ったのか、フッと笑みを浮かべて頷いた。


「まあ、お考えの通りだとは思いますが、証拠はありませんから、うかつには動けません」

「ふむ……俺が調べてやっても良いが?」

「あ……そうされると、うちが危ないことになるかも知れません……」


 まあ、そうなるよな。何となく状況はクレナの時と一緒か。ただ、あの時と違うのは、タクマやメリアには直接的な影響無いので、特に今の状況を気にすることも無いという。

 以前も言っていたように、他所は他所、うちはうちということで、商会で起こっていることについては、リエンに任せているという。

 そして、そんなリエンも、何もしていないわけではない。俺が出会った、イーサンを中心とした、リエン商会の監査の者が、マルドでの様子を監視しているらしく、俺達が思っている奴や、他の商会への牽制をしているらしい。

 実を言うと、マルドに出ている商店に嫌がらせをしている者達というのが、マルド商会やターレン商会に潜む、いわばリエン商会の斥候ではないかという噂も立っているくらいだ。

 無論、そんなことは無いと思ってはいるが、だからこそ、大きな三つの商会に巻き込まれるのは面倒なので、タクマ達は静観しているとのこと。


「ですから、ザンキさんもあまり無理はせずに、自分がここでやりたいことをすれば良いと思いますよ」

「ああ。そういうことなら、俺も余計なことは考えないようにしておこう」


 そもそも自分から面倒ごとには関わりたくないと思い、色々とやってきているからな。エンヤ達にも世話になっているわけだし、その方が良いかと思い、タクマに頷いた。


「あ、そう言えば、次にグレンさんの所に行くのは何時とか、決まっているのですか?」

「いや、特には……何かあったか?」

「いえいえ。向こうも、ザンキさんが商品をお持ちするのを待っているのではないかと思いましたので」

「あ、そうだな……近々行ってみるかな」


 まだ三日くらいしか経っていないが、客は来ないが、店に商品が並んでいないのではグレンも寂しいだろうからな。

 それに、ガーレンへの手紙のこともあるし、ツルギ達の件、更には、グレンとタクマのかかわりについても、色々と話があるからな。

 今週中にはもう一度行くとしようと話していた時だった。


「……!」

「……!?」

「ん? どうした?」


 何やら甲板の下が騒がしい。何かあったのかと、海の方に顔を出した。

 その瞬間、船から下がっていた縄梯子からツバキ達が上ってくる。


「リンネちゃん! 捕まって!」

「うん!」

「メリア姉ちゃん、急いで!」

「置いてかないで~!」


 先に上がったツバキとハンナが、次に上ってくるリンネを引っ張り、次に上ってきているメリアに手を伸ばす。

 だが、泳ぎ疲れているのか、メリアは少し息を切らしているようだ。ツバキがその手を取るが、上手く引き上げられない。

 すると、タクマがスッと手を伸ばし、メリアを引き揚げる。ふ~、と息を吐きながら、一息ついている皆に近づくと、ツバキがこちらに顔を向けた。


「あ、ザンキ様。申し訳ありません。少々驚かせてしまいました」

「いや、大丈夫だが……何かあったのか?」

「ザンキさん、あれを……」


 少しばかり、身を隠しているようにしているハンナは、海の方を指さす。そっと、船べりから顔をだし、ハンナが指しているに目を向けた。


 その先、少し遠い位置に、一隻の船が居ることに気付く。あれが何なのだろうかと思っていると、ハンナ遠眼鏡を俺に渡してきた。取りあえず見てみろと言われ、覗き込む。

 それなりに大きな帆船だ。といっても、帆は畳まれているが、進んでいるようで、こちらの船と同じ様な仕組みということは理解できた。

 船体の側面には、砲門のようなものが見えており、船首にも大砲が三つ、縦に並んでいるのが見える。

 そして、船の一番高い所には、黒い旗が揺らめていており、大きく髑髏が描かれている。


「あれは……海賊か? あの旗はどこの世界でも一緒なんだな……」


 その旗を見た瞬間、その船が海賊船だということにすぐに気づいた。髑髏を掲げるという点では、俺の世界の海賊も同じだったからな。

 実際に見たことは無いが、あれがそうなのかと言われると、どことなく闘鬼神の紋章のようで、少しため息をつく。


 そして、俺と同様に遠眼鏡で海賊船を確認したタクマも、苦笑いしながらため息をついていた。


「ああ、居たんだね、まだこの辺りにも。前の残党かな?」

「多分ね……皆、目立たないように隠れていてね。特にメリア姉ちゃんとタクマさんは、今のうちに船室に隠れてて。姉ちゃんは美人だから、目を引くんだから」


 ハンナの指示に少し照れつつ、メリアはタクマに連れられてそっと船室に引っ込んだ。


「にしても、ハンナ。よく、あれが見えたな」

「うん。私は眼力スキルも持っているからね。泳いでいたら、船が見えて、あの旗を見て驚いた」

「そうか。多分良い判断だぞ。こっちから見えているってことは、向こうからも見えているって可能性が高いからな……で、この後はどうする?」

「様子を見よう……と、思っているけど、機をみて逃げようと思っているんだけど……」


 なるほどな。向こうの船よりも、こちらの船の方が小回りも効くし、動きも速いようだからな。充分に距離をとって、逃げた方が得策だろう。

 俺がハンナに、分かったと頷いていると、横からツバキとリンネが口を挟んでくる。


「え……放置ですか?」

「たおさなくていいの?」


 二人の考えでは、このまま海賊を放置しておくよりも、ここで撃墜した方が良いのではとのことだ。

 被害を未然に防ぐというのは確かにいい手だと、俺も思うが、ハンナは首を横に振る。


「ああ。闘いになったら、船が危なくなる。皆が無事でも、船が無くなったら、しばらくうちは営業停止になっちゃうからね」


 そこまで大きくないにしろ、海賊船はこちらの船よりも大きい。近くに来られたら、俺も戦えることが出来て、恐らく殲滅も出来るだろうが、この船を護りながらとなると少々辛いものを感じる。大砲もあるし、船が木っ端みじんということも考えられるだろう。

 それは流石に、駄目だろうなと俺もハンナに頷いた。


「それに、向こうがツバキとリンネ……お前らに目を付けたら面倒だ。逃げのびた奴が、後々この街に来て、お前らに危害を加えることも考えられる。今日はこのまま帰った方が得策だろう」


 メリアと同じく、ツバキも充分美しい人間だからな。報復ついでに、人攫いに遭うということも考えられる。向こうに鑑定スキル持ちが居れば、なおのこと、リンネを人前に出すわけにもいかない。

 ハンナも、俺と同じ考えのようで深く頷き、ツバキとリンネにも船室に隠れるように指示を出す。

 リンネは少し、不満気味な顔をして、俯いていた。まあ、そうだろうな。いつもなら、変化して俺達を乗せて飛んで行き、一緒に闘うことだって出来からな。

 ただ、そんなことをすれば、確実に目立ってしまう。事情を知らないハンナも居るし、今日は、俺も居るのだから闘わないようにと諭すと、渋々ながら頷いた。


「む~……わかった」

「良い子だ。じゃあ、お前とツバキも今のうちに船室へ……って、ツバキ、どうした?」


 ふと、ツバキに視線を送ると、あごに手を置いて、何か思案を巡らせている。何か納得の出来ないことでもあったのかと思っていると、ツバキは何か決心したように頷き、口を開いた。


「ザンキ様……私は、やはり騎士として、あの海賊をこのままにしておくわけにはいきません。倒す力があるのなら、今のうちに倒した方が良いと思います」

「ん? 確かにお前の言うことはもっともだが、ハンナも言ったようにこの船を護りながら、闘うというのはなかなか辛いぞ? 例え、俺が技を放ったら余波で沈むかも知れないしな」

「ザンキさん、どんだけ強いんだよ……?」


 俺の言葉に、ハンナは頭を抱え、そういうことなら、ますます闘うわけにはいかないとツバキを説得する。

 すると、ツバキはクスっと笑って、ハンナに微笑みかけた。


「多分、大丈夫。この位置から、しかも私達のことは悟られずに、あの海賊を無力化する考えなら、あるから」

「「え……?」」


 ツバキの言葉に、俺とハンナはキョトンとし、リンネは、ぱあっと笑顔になった。

 どういうことかと説明を求めると、ツバキは頷き、ハンナの方を向く。


「ハンナちゃん。私ね、クレナで偶像術って力を身に着けたの。今からそれをやるけど、あまり、他言しないでね。ちょっと、変わった術だから」

「え……あ、うん。それは良いけど――」

「ちょっと待て」


 何のことだかと思いながらも、頷こうとするハンナを遮り、俺は口を挟んだ。


「偶像術って……あいつの事か? それは、大丈夫なのか?」

「はい。今日は皆さんで羽を伸ばす日なので、エンヤ様にも楽しんでいただきましょう」

「いや、そういうことでは無くてだな。お前の力でアイツを顕現させたとして、あそこまで届くのか?」


 ここから海賊船までの距離は結構ある。未だ、遠眼鏡を使わないと、その全容さえ分からないほどだ。俺が斬波を放つという手もあるが、狙いが定まるような距離でもないし、躱される可能性も大きいというくらいの距離がある。

 あれから十日ほど経ち、気功スキルと体力を鍛え、それなりにあの時よりも長くエンヤを持続させることが出来るようになったとはいえ、そこまでの時間は無いと思っている。

 更に、出てきたエンヤがあそこまで行くのに、そもそもかなりの力を使いそうだからな。

 何故、この案を提案したのかと聞くと、ツバキは俺の手にそっと自らの手を置いた。


「恐らく、私だけの力では確かに駄目かも知れません。無駄に終わるでしょう。ですから、ザンキ様のお力も、お借りしようかと思いまして」

「俺の?」

「はい。偶像術に使う気はザンキ様が、充分に溜まったところで、私がエンヤ様を解放させます。今回は闘いではなく、相手を無力化させる……つまり、あの船を落とすだけですので、そこまでの力は必要ありませんけどね。

 エンヤ様があちらに向かいましたら、リンネちゃんの出番です。出来るだけ目立つ魔法をお空に打ち上げてください。辺りを巡回しているはずの騎士団の船に気付かせます」

「うん! リンネもがんばる!」


 やる気を見せるリンネの頭を、ツバキはそっと撫でる。

 なるほど。自分に足りない分の気を、俺が補うのか。それは良い手だ。

 この距離なら何をしているか向こうからは分からないだろうし、今も見ていたとしても、どうすることも出来ないだろうからな。

 そして、アイツが暴れているうちに、リンネが魔法を放つ……悪くないなと思い、ツバキに頷いた。


「分かった。お前の言う通りにしよう。失敗したら、アイツを置いて、逃げるからな」

「酷いことを仰らないでください。その時は、ザンキ様も力を開放して出てください。ハンナちゃん、良いね? ここで見たことは、本当に誰も言わないでね。もし……言ったら……」


 そう言って、ツバキは、懐から筆を取り出してニコリと笑う。すると、ハンナはビクッと身を震わせて何度も頷いた。


「わ、わかった! 絶対誰にも言わない! と言うか、見ない! 私は、スクリューの所で万が一の時は逃げられるようにしているから!」


 ハンナは、慌ててその場を離れていく。これで良し、と呟きながら、俺達に微笑むツバキ。唖然としている俺とリンネ。一体、どうしたんだと聞くと、ツバキは何でもありませんとニコリと笑って答えた。


 さて、その後ツバキは、身を屈めながら斬鬼を抜いた。そして、静かに瞑想すると刃が輝き出す。


「……さあ……ザンキ様。お手を……」

「ああ。いつもの感覚で気を溜めれば良いんだな?」

「はい……エンヤ様、今しばらくお待ちを……」

「あまり暴れ過ぎんなよ? ツバキの思いには応えてやれ」


 エンヤに対して呟き、ツバキの手に重ねるように、自分の手を置き、斬鬼に気を送った。すると、斬鬼の輝きはますます強くなる。海賊共にバレてないと良いがなと思ったが、今はまだ昼で、今日は快晴だ。そこまで目立つものではないから大丈夫だろうと、更に気を込める。

 すると、そばに居たリンネもそっと小さな手を斬鬼の柄に置いた。


「リンネも、おてつだい!」

「フフッ、ありがとうございます。この間に、魔力も込めていてくださいね?」

「は~い!」


 そうは言っても、リンネは手を置いているだけだがな。それでも、何となく嬉しいと感じた。

 さて、斬鬼からは俺も気を送っているということで、刀そのものに混じり、アイツ独特の、俺でさえ圧倒される力の気配がゆっくりと伝わってくる。若干苦笑いしつつ、二人はどうなのかと心配になった。


「二人とも、大丈夫か?」

「ええ、問題はありません。ザンキ様のおかげで、あと少しと言ったところです。次からは、こちらを一人で出来るようにならないといけませんね……」

「リンネもがんばる!」

「お前は、魔法という、俺にも出来ないことをやってのけるんだ。充分強いよ」

「えへへ……うれしいなあ~」


 刀を握っていない方の手でリンネを撫でると、嬉しそうにしていた。ツバキもクスっと微笑み、リンネの頭を撫でている。二人は、エンヤの力を感じても、特に何も思っていないようだ。寧ろ、アイツの力に包まれて安心していると言った様子である。

 俺が素直なだけではないのかなと思い、頭を掻いた。


 一応と思い、ツバキには気力回復薬を渡しておいた。今後も必要になりそうとのことだったので、帰ったら渡しておこうと頷く。


 そして、しばらく気を送りこみ、斬鬼から伝わる波動が高まった頃、ツバキはコクっと頷いた。


「ザンキ様、リンネちゃん。ありがとうございます。では……行きます!」


 ツバキは立ち上がり、斬鬼を掲げる。


「偶像術・奥義・闘鬼神ッッッ!」

 ―ウオオオオオ~~~ッッッ!!!―


 ザンキの刃から一つの光が、雄たけびと共に飛び出してくる。


「ゔ……!」


 その瞬間、ツバキは力が抜けたように倒れそうになる。助けようとするリンネを制し、魔力を込めるように指示を出した後、ツバキを支えて回復薬を飲ませた。


「ザンキ! ツバキは任せた! 俺は行くぜ!」

「ああ。だが、くれぐれもツバキの思いには応えろよ」

「エンヤ様……伸び伸びと羽を伸ばしてくださいね」

「どっちにして欲しいんだ!? ッたく! 良い休暇をありがとよ!」


 そう言って、エンヤは背中から一本の大刀を抜き、そのまま海面に降りた途端、凄い速さで海賊船向けて一直線に飛び出した。衝撃で大きな波が俺達に襲い掛かってくるが、ツバキがEXスキルを発動させ、濡れるのを防いだ。


「ふう……助かったぜ、ツバキ。気分はどうだ?」

「問題ないです。ただ、やはりまだ、倦怠感はありますね……」

「ゆっくりと強くなっていけばいい。さて、リンネ、魔法の方は大丈夫か?」

「うん! いつでもできるよ!」

「では、私の合図までもう少しお待ちください」


 ツバキは、そのまま遠眼鏡を使い、海賊船の様子を伺った。俺も同じように海賊船に目を向けると、既に、というか、やはりというか、あれだけ大きかった船のあちこちがボロボロとなり、所々から煙が上がっているのが見える。

 ツバキと顔を見合わせて苦笑いした後、リンネの魔法の機会をそのまま伺っていた。


 ◇◇◇


 ―いい“娘”だな……本当に……―


 斬鬼から飛び出た俺は、海賊船に向かいながら、そんなことを思っていた。


 この数日、ザンキとは離れていたが、ツバキとリンネと一緒に居て、気付いたことがある。

 やはり、ザンキの前では猫を被っているのかどうか知らないが、アイツの友人たちや家族の前での姿というのは、いつもとはどこか違うようだった。

 いつものように、誰にも優しいというわけでもなく、少々怒りを見せたり、可愛い顔で脅したり、逆に揶揄われて慌てたりと表情豊かな姿は、やはり、もう一人の“娘”を思い出される。

 ザンキの前でもああいう風にしてくれれば、もっと面白いんだがな。


 リンネの方は、どこでも同じような感じだ。基本的に好奇心も旺盛だが、やる時はやるという頑張り屋な姿をよく見る。今日もきちんとザンキやツバキの言うことを聞いて、人の姿のままだ。

 思うようにいかないことの方が多いかも知れないが、それでも人界で楽しそうに暮らしているという姿は、()()()を思い出して、いちいち感慨深くなる。


 だが、別に、二人が狙われるからと言って、ザンキもそこまで慎重になる必要は無いだろうと思うんだがな。

 まあ、アイツの場合は色々あったからな。それも仕方ないか。そう思わせる原因に、俺自身もなったことだし。


 ……確かに、この領はクレナとは違う意味で二人には危険な場所かも知れない。ザンキの心配通り、ツバキは美しいし、リンネは珍しい生き物で、かつ、可愛らしい見た目だからな。

 仮に、俺が人攫いの立場なら……攫うだろうな。


 じゃあ、攫った奴はどうするか……攫う可能性が高い奴らはどうするか……。


 ―フッ……ツバキには感謝だな。“娘たち”を救うきっかけを、俺にまたくれるとはな!―


 徐々に近づいていく海賊船。俺は更に近づきながら刀を振り上げる。向こうも俺に気付いたのか、甲板がバタバタとし始め、船首及び、甲板にある大砲がこちらに向けられた。

 船長と言うか、指揮官はどんな奴だろうかと思い、目を凝らすと、中心に立ち、周囲の男たちに指示を出す者を見つける。

 デカい帽子を被り、今日のザンキみたいな格好の上に、外套を着ている女。


 ……へえ、女の船長か。何となく近親感を覚えるが、闘いに関しては素人そうだな。

 向かって行く俺を敵だと見なしたのは良い判断だが、大砲で落とせると思っているとは、やれやれと、頭を抱えてくる。


「当たるかッッッ!」


 一喝しながら、手にした大刀を船首の大砲めがけて放る。

 ただ思いっきり投げたそれは、大砲を貫き、船自体を一直線に貫き、風穴を開けた。その直後、大砲の近くが爆発を起こし、船首がボロボロになる。

 続いて背負っている、大刀で出来た風車のような手裏剣を縦に思いっきり投げた。狙うは、船の側面だ。

 手裏剣は、側面から顔を出している大砲を切り裂きながら、ついでに船の側面も野菜のように斬っていく。

 そして、船の後方まで飛んだ手裏剣は、ブーメランのように俺の方に戻りながら、反対側の側面を斬っていき、俺の手元に戻った。

 バカッと、船の側面が斬られ、剥がれ落ちていく中、俺に対して雄たけびを上げて威嚇していた海賊共は、段々と顔色を青くし、口をつぐんでいく。船長の女などは口をパクパクとさせていた。

 金銀財宝は見えるが、奴隷や魔物の姿などは見えない。盗品の取引か、麻薬の売買か、もしくは、本当にこの辺りを通り過ぎただけだったのかも知れないが、何にせよ、ここに居るのが、海賊だけと確認は出来た。


 俺は、そいつらの前にゆっくりと降り立つ。まあ、これだけやれば良いかと思いながら、辺りを見ていると、一人の男が前に出て、俺に剣を向けてきた。


「お、お前! 何もんだ!? 何故、俺達を襲ったあ!?」

「はあ? お前らも、普通の人間をいきなり襲ってくるような奴らだろ? 何故もクソもあるか! 目障りなんだよ!」

「グハアッ!」


 男の手にした剣を弾き、腹に一発蹴りを入れると、そのまま後方へフッ飛び、何人か、別の海賊たちをも巻き込んで白目を向いた。更に、怯えた表情になる海賊たち。手加減するのも難しいんもんだな……。

 などと思っていると、ザンキ達が乗っていた船の方角で、空へと撃ちあがる大きな火の玉のような魔法を確認した。

 魔法というよりは花火だ。大きな音と共に破裂し、キラキラとした残滓が空を漂う。

 リンネ独自の魔法か? 流石、()()()の力を継いだだけのことはある。器用なことをするもんだ。

 今頃、ザンキとツバキがリンネに驚いているだろうなと思いつつ、俺は海賊共に目を向けた。


「もうじき、騎士団って奴らもここに来るだろう! お前らはこのまま縛に――」

「やああああああッッッ!!!」


 ガキンッ!


 完全に戦意を無くしたと思い、海賊共をおとなしくさせていた時だった。後ろから掛け声とともに女の走る音が聞こえてくる。

 俺は、後ろ手に女の一撃を受け止めた。大剣を手にした女は、驚愕の表情を浮かべる。


「ん? 当たると思ったのか? 一団の長にしちゃあ、馬鹿なおつむだな、船長さんよお」

「な、何ですって!?」


 軽く挑発すると、女は後方に移動し、大剣を構えた。


「よくも、ここまでやってくれたわね! 船を壊し、大砲も壊し、更には私の侮辱なんて許さない! 大兄貴からこの船を授かったこの私を――」

「やかましいッ!」


 顔を真っ赤にしながら、何か怒っている女にサッと近づき、大剣を叩き折ったのち、女の首を掴んで船の柱に叩きつけた。


「ガハッ!」

「ぐだぐだ、うるせえ女だな。知るか、テメエの事情なんぞ。最初も言ったが、テメエらも、襲う奴の事情は知ったことじゃねえだろ? いつもお前らがやってることを、俺がやってるだけだ。何も文句はねえだろうが」


 と、女に説教しながら、俺が言うかと、自分に突っ込む。ただ、俺の場合は、いつでも復讐なり暗殺なりして来ればいいと思っていたがな。コイツみたいに、グダグダ言わねえで、奇襲を受けても喜んで返り討ちにしていた。

 そんな俺に着いて来て、山賊だの玄李の兵士たちに向かっていたのは……あの頃は、まだ小さかったザンキだけだったがな。他の奴らは、ただただ戸惑っていて、後で叱ることが多かった。

 俺が懐かしい思いをしている中、女は、俺の腕を掴み、藻掻いている。


「い、今に見てなさい! あ、アナタ、確実に、私達の海賊団に目を付けられたわ! 精霊だろうが、魔法使いだろうが、鬼だろうがお終いよ!」


 ん? 何言ってんだ? 俺は鬼族じゃ……って、そうか。俺の頭には今、角が生えているんだったな。あの紋章の鬼神、ザンキもツバキも、俺を思い起こすと言っていたが、違うからな。

 あの紋章、何となくと書いただけだからな。このあたりは、きちんと言っておいた方が良いだろうな。

 しかし、女の口ぶりから、やはりザンキ達が話していたように、コイツ等は大きな海賊団の末端らしいな。消える前に向こうに戻って伝えたいところだが、時間はあるだろうか。

 などと思っていると、更に女は暴れ出す。


「何、ぼーっとしてんの!? 今更、自分がやったことの重大さに気付いたの!? きづいたんなら、さっさとこの手を放しなさい!」


 女は、ペッと、俺の顔に唾を吐いてきた。







 ……その瞬間……どうでも良いそこらの小石と同等な奴と思っていた目の前の女が、鬱陶しく、俺の飯にたかる蠅のように思えてきて、すぐにでもザンキ達の所に帰ろうと思っていた考えは吹っ飛んだ。


「……チッ……まったく、反省してねえみたいだな……」

「ハッ! 何を……ギャッ!」


 俺は、なおも調子に乗った態度をとる女を甲板に叩きつけて黙らせた後、再び首を掴み、そこらにあった鎖で、女を柱に括りつけた。


「グッ……何をする気!? アンタ達! 何ぼさっとしてんの!? 私を助けなさい!」


 女は身動き一つとれない状態で、周囲で委縮していた男共に指示を出す。ハッとした様子で我に返った男たちは、それぞれ剣を抜いた。


「……雑魚共が」


 俺は、背中から大刀を抜き、足元を斬る。


「え……うわああああ~~~!!!」


 俺と女の居る場所を残し、甲板が斬られると、男共は全員船底、あるいは、海の中へと消えていった。

 その場に、二人になったことで、更に顔色を悪くする女船長。身をよじらせるが、顔のすぐ横を殴りつけると、ピタッと動きを止めた。


「ようやく……黙ったか……まあ、もう遅いがな……この俺を怒らせた罪……今ここで払ってもらおう……」

「な、何をする気!? ま、まさか……!?」

「クックック……殺さねえよ……まだ、テメエで愉しんでねえからな……」


 俺はそのまま、女の襟をつかみ、下へ向けて服を裂いた。露になる女の肢体。女船長は、何が起きたのか分からないという目をしながら、呆然としていた。

 引き締まった腰に、ふくよかな胸、程よい肉付き、さらりとした髪……うん、悪くはねえな。


 そんな女に背を向けて、俺は怯え切っている他の船員たちに顔を向けた。


「さて……弱い癖に俺を怒らせた挙句、テメエらを酷い目に遭わせた、コイツだが、既に自由は無く、惜しげも無くその体をさらけ出している。

 先ほども言ったように、ここにはもう少しで騎士団が来て、お前らは捕まるだろうな。その先はよく知らねえが、恐らくしばらくは禁欲生活ってところか? 哀れだな。

 そう思った俺は、テメエらに、上物の体を用意した! 今のうちに愉しんでおきな!」

「なッ!?」


 俺の言葉に、男たちはキョトンとし、女は声を荒げた。


「ふ、ふざけないで! 私を誰だと思ってるの!? リオウ海賊団第十六師団長シーナよ! そこらの男に抱かせるような体じゃな――」

「テメエは黙ってろ」


 グダグダぬかす、女の口に布を詰めて黙らせる。ついでに、両手足の腱を斬り、例え鎖がほどけても、今後一切、女が動くことの無いようにした。

 痛みで悶絶している中、俺は目を見開いたままの男共に目を向ける。


「ん? どうした? ヤらねえのか? もったいねえぜ、それは。今までも、口ばかりの女に、散々こき使われていたんじゃねえのか? そんな女を犯せるんだ。騎士団が来ないうちに愉しむのが当たり前の行動だと思うぜ?」


 船のあちこちから、ひそひそと何かを話すような声が聞こえてくる。

 すると、意を決した近くの男が立ちあがり、下に履いていたものを脱ぎ出した。


「う、うわあああああ~~~!!!」

「うおおお~~~!!!」


 その瞬間、男たちは一斉に女船長に襲い掛かっていく。


「~~~~っっっ!!!」


 成す術も無く男共に凌辱されていく女船長。暴れることも、声を上げることも出来ず、ただただ男たちに全身をまさぐられる。

 それを見ていた他の男達も、着物を脱ぎ捨て、女に襲い掛かっていった。

 ボロボロの海賊船はあっという間に、肉欲の場へと姿を変える。


 何となく言ってみたが、やはり、女に対して鬱憤などもあったのだろう。一つ犯すと狂ったように喜びに満ちた表情をする男達。時々、その顔を殴ったり、嘗め回したりする奴も居る。女は必死の顔で天を仰ぎながら、声なき絶叫を上げ続ける。


 俺を怒らせるとこうなるのだと、実に数千年ぶり……いや、もっとか。こちらの世界では人を相手に闘うということはしなかったからな。前の世界で生きていた時、それも、ザンキに会う以前振りに行った、俺なりの報復の仕方だ。


 少々やり過ぎたかと思ったが、女を襲う男達を見ながら、常日頃からこういうことをやっていると思うと、それに見合った、適度なものだと思っている。


 ザンキも言っているが、他者を殺すということは、自分も殺されるという思いを持たないといけないということだ。

 何も出来ない、力なき民達を犯すのなら、自分も犯されるという覚悟くらいは持たないとな。


 そんなことを思っていた時だった……


 ズゥン……


「ッ!?」


 突如、背後から凄まじい圧迫感が襲ってきた。それは、俺だけでなく、目の前の海賊共も感じたらしく、女船長と、それを襲っていた者達はその瞬間、白目を向き、泡を吹きながら気絶していく。

 何が起きたかと振り返ろうとした瞬間、俺の頭に強い衝撃が走った。


「痛えッ!」

「何やってんだ……お前……」


 振り返ると、神人化したザンキが、頭を抱えながらため息をついていた……。


少々残酷めな描写の今回のお話。

どちらかと言えば、エンヤさんはムソウやツバキも持っていない、ダークヒーロー的な一面を持った人間として描いているつもりです。

一応、子供を産み、その子供に対しても、優しく接し、正真正銘、人の親となった彼女ですが、性格や性分までは変わらないように描いています。

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