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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
ツバキが里帰りする
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第298話―海上でゆっくりする―

 その後、漁で獲れた魚を積み終えたハンナの父親は、荷車を市場の方に向けて曳いていく。ハンナはそのまま、そばに泊めてある船に乗り込み、少しばかり掃除を終えた後、俺達を乗せてくれた。

 タクマ、メリア、ツバキと乗り込んでいき、俺はリンネを抱っこして船に乗った。そこまで大きくはないと、言いつつ、俺達五人が乗っても、まだ余裕があるくらいだ。帆が付いており、これで風を受けて海を行くのかと尋ねると、ハンナは首を横に振った。

 じゃあ、どうやって進むのかと思っていると、ツバキが、船の後方の海中を見てくださいと促す。俺とリンネは、そっと身を乗り出してツバキが指さす方を覗き込んだ。

 すると、船の尻の辺りに、風車のようなものが付いていることに気付く。


「あれは?」

「あれが、この船の動力だな。あれを回して、その勢いで船を動かす。見てな」


 ハンナは、船の後方にある箱のようなものの蓋を開けて、その中に拳大の石を入れた。

 そして、箱に手をかざし、魔道具を起動させるように魔力を込める。

 すると、海中の羽がゆっくりと回り始め、それにより船が少しずつ動き出した。


 ハンナは、櫂を使って船首を海の方向に向けると、更に強く魔力を込めた。海中の羽は勢いを増し、しばらくすると、凄い速さで、船は大海原へと進んでいった。


「しばらくこのままだ。ゆっくりしているうちに、釣り場に着くから待っててくれ。リンネちゃん、落ちたら駄目だよ」

「は~い!」


 リンネは両手を上げて頷く。タクマ達も、その場に座って、しばらくゆっくりとする態勢に入る。

 どういう原理で船が動いているのかと首を傾げていると、ハンナから原理は分からないが、電力で動いていると教えてくれた。曰く、先ほど箱の中に入れたのは、雷光鉱石であり、海中の風車……スクリューと呼ばれるものを動かして、船を進めたり、下がらせたりしたり、船室の中に明かりを灯したりしているという。


「こういう、電気で動く船は、十二星天の発明らしい。少し前までは、人力で櫂を使って漕ぐか、外輪を回すか、帆で風を受けるしか、船で海を進むということは無かったみたいだな」


 ハンナにそう言われて、思い出す。そう言えば、ミサキに見せて貰った、ミサキの世界の船も、今のこの船のような感じだったな。


「なるほど……そういうことか」


 ミサキの知識から、セインやコモンが魔道具を使ってスクリューを動かす仕組みを作ったのかと、納得した。


 ちなみに、それまでは、俺の世界や、ソウブでの船のように、帆で風を受けて進む船というのが主流であり、旅客船などの大きな船などは、奴隷や魔物などを動力として、進む外輪船などが主だったという。

 奴隷商や魔物商が居るほど、色んな所で奉公人が必要なのかと思っていたが、そういうところで需要があるのかと、ハンナに頷いていた。

 すると、ハンナは不思議そうな顔で俺の顔を覗き込む。


「ん? 不思議そうな顔をしてるが、マルドからレイヴァンに出てる船も同じ仕組みだぞ?」

「それが、どうかしたか?」

「初めて見たような顔してるから、変だなと思って。毎日ギルドと、ツバキちゃん家を往復してるって聞いたんだけど、どうやってるんだ? 定期船を使っているわけじゃないのか?」


 おっと……少々返答に困るな。自分で飛んで行っているとか、リンネが実は神獣で、背中に跨っているとか言えない状況だ。

 ハンナ曰く、マルドに住む冒険者は、ギルドに行って依頼を受注したり、素材を査定したりする時は大抵船で向かうという。陸路は辛いからな。ちなみに、ハンナ自身は自分の船を使って行くそうだ。

 どう答えれば良いかと、ツバキに助けを求めるように視線を投げた。すると、ツバキはクスっと微笑みながら口を開く。


「ハンナちゃん。ザンキ様は、毎日、レイヴァンまで走って行くのよ」

「え……すげえな。大変じゃないのか?」


 目を見開くハンナに対し、ツバキに話を合わせるように頷く。


「そうでもないな……普段は身体能力向上のものを着けているから、意外と早く着けるぞ」

「へ~! 結構歳がいってそうなのに大したものだな~。流石、ツバキちゃんの……おっと……」


 ハンナは、パッと口に両手を当てて黙り込み、そのまま、周囲の山や小島などを見ながら、この辺りの海図を手にし、櫂を操つり始めた。

 その様子をにこやかに眺めているタクマとメリア。俺はため息をつきながら、リンネと一緒に海を眺めていた。

 すると、ツバキが首を傾げながらハンナに近づく。


「ねえ、父さんと母さんの様子がさっきからおかしいけど、何を話していたの?」

「何でもないって! それよりもさ、水着、持ってきたんでしょ? 船室、空いてるから、着替えたら?」

「……うん。そうするね」


 なおも、ハンナに疑わしい目を向けながらも、ツバキは頷き、メリアと共に船室へと向かった。

 甲板に残ったのは、俺とリンネと、タクマとハンナ。タクマは釣りの用意をすると言って、船首の方に向かった。

 三人になって少し気まずいなと思いながらも、リンネと遊んでいると、ハンナが俺の方を向く。


「……ザンキさん」

「あ? 何だ?」

「ツバキちゃん、クレナで元気にやってる?」

「ああ。俺の家の奴らとも、街の皆とも平和にやってるよ」

「本当? ちょっと前にクレナが大変なことになったって聞いたけど、大丈夫だった?」

「……ああ」


 少し、嘘をついた。ツバキが無事だったかと言われれば、そんなことは無い。寧ろ、一番傷ついて、一番頑張ったはずだ。

 だが、ツバキの友達であるハンナに心配させるわけにはいかなかったから、そのことは伏せておいた。

 ハンナは、そう、と言って、再び黙り込んだ。そして、しばらく考え込んだ後、また、口を開く。


「……ツバキちゃんはさ、昔から、ちょっと頑張りすぎちゃうところがあるんだ。それで怪我したり、泣いたりすることも多かった。

 ……だからさ、ツバキのこと、本当によろしくね」


 ハンナは、俺の方をまっすぐと見ながら懇願してくる。タクマとメリアからツバキの昔話を聞いたが、身の丈以上に無茶するというのは、直っていないんだなと何となくツバキに呆れた。

 だが、それは、既にわかり切っていたことだ。

 俺とリンネは顔を見合わせて、ハンナに頷いた。


「分かってる。タクマ達にも言ったが、ツバキのことは俺に……俺達に任せろ。絶対に、護り切ってみせる」

「うん! リンネもがんばるから、あんしんして!」


 リンネが、ニパっと笑っていると、ハンナはキョトンとした顔になった。


「え……? リンネちゃんも頑張るって……?」


 ああ、そうか。ハンナにとってリンネは、ただの俺の娘という認識でしかなかったな。妖狐ということを話しても良いが、せっかくツバキが誤魔化してくれたので、俺は嘘を貫き通すことにしようと考え、リンネの頭にポンと手を置く。


「まあ、何だ……うちの子も、昔のツバキと同じで元気いっぱいだからな。ツバキといつも一緒に居るから、俺が居ない間も、アイツのことを護ってくれるようだ」

「うん! ツバキおねえちゃんは、リンネがまもる! リンネ、おねえちゃんがだいすきだから!」


 更に笑顔になるリンネ。ぽかんとした様子のハンナだったが、そんなリンネを見て、徐々に笑みを浮かべ始めた。


「それは……頼もしいね……うん。ツバキちゃんをよろしくね、リンネちゃん」

「は~い!」


 手を上げて返事するリンネの頭をハンナは優しく撫でた。

 そして、スッと俺に視線を向ける。


「ザンキさんも、よろしくね」

「ああ。任せろ」

「……ツバキちゃんの気持ち……わかったかも……」


 そう言って、クスっと笑うハンナ。何だかなあ、と頭を掻いていると、船室の方から、水着に着替えたツバキが顔を出した。


「あら、ザンキ様とリンネちゃん、ハンナちゃんと仲良くなったみたいですね」


 少し嬉しそうな顔をしたツバキは、俺達の元にやってきて、リンネの頭を撫でる。嬉しそうな顔をするリンネを見ながら、ハンナはクスっと笑った。


「まるで、親子だね、ツバキちゃん」

「うん。リンネちゃんは、私にとって、すごく大事な存在だからね」

「ツバキちゃんがリンネちゃんのお母さんなら、ザンキさんはツバキちゃんのお婿さんってことになるの?」


 少しだけ厭らしい笑みを浮かべながら俺を指すハンナ。俺がこのアマ、変なことを言うんじゃねえと、注意しようとしていると、一瞬目を見開いたツバキも、いつもの揶揄うような笑みを浮かべながら頷いた。


「うん。そういうことになるね」

「似合ってるよ、二人とも」

「おい待て。お前ら、何言って――」

「それより、ザンキ様。似合っていますでしょうか?」


 俺の言葉を遮り、ツバキは前に出た。


 家で見せてきた水着に着替えたツバキは、いつもよりも肌の露出が多い。白くしなやかな腕や足と、引き締まった体を惜しげも無く見せつけている。

 ほとんど、下着だよなとは思いつつ、ハンナも似たような恰好をしているし、ハクビもこんな格好をしていたよなと思い出し、そこまで違和感は無く、むしろ、健康的だなと思ったのが第一の感想だった。

 この格好で簪も差し、斬鬼も手にしている。流石に泳ぐ時は刀は置いていくそうだが、こうして見ると、こういう冒険者も居そうだなとも思った。


「まあ……良いんじゃねえか? 俺としては、いつもの方が好きだがな。だが、メリアに比べれば、マシな方だ」


 俺は、タクマの隣に立ち、着替えた姿を見せびらかしているメリアを指さす。

 最初に見せて来たものは辞めさせたとはいえ、持ってきていた水着も、大きさが合っていないかのように小さく、豊満な胸元やでん部をさらけ出している。タクマが呆れつつも、無理やり似合っていると呟いているところから、タクマもあの格好をメリアがするのが少しばかり嫌なようだ。

 ハンナも少し苦笑いし、ツバキはやれやれといった感じに頷いていた。


「フフッ、ザンキ様は、扇情的な恰好はお嫌いですものね。ですが、今日は泳ぎますので、このままでいさせてくださいね」

「ああ。しっかりと羽を伸ばしとけ。それから、リンネの泳ぎの練習を頼んだぞ」

「かしこまりました。リンネちゃん、私に負けないでくださいね」

「は~い! ハンナおねえちゃん、もうすぐ?」

「え~と、そろそろ着くから、もう少し待っててね」


 リンネはまた、は~いと返事してその場に座った。ツバキも腰を下ろし、リンネに、海で泳ぐときの体の動かし方とか、気を付けることなどを指導し始める。

 俺も混じって、ツバキと一緒にリンネに色々と教えていった。

 それを微笑まし気に眺めてくるタクマ達の視線を感じ、若干恥ずかしく思っていた。


 やがて、目的地に着いたのか、ハンナは船を止めて、錨を下ろした。波は穏やかで、海は綺麗だ。太陽の光を反射させ、海面はキラキラと輝いている。


「よし、到着。え~と、タクマさんとザンキさんは釣りだったね。大物を期待しているよ。さて、じゃあ、私も、ツバキちゃん達と泳ごっかな」


 そう言って、ハンナは我先にと海に飛び込んだ。そして、ツバキ達に早く来なよと手招きする。


「では、私達も行きますか。リンネちゃん、浮袋の準備はよろしいですか?」

「うん!」


 リンネには一応、皮袋の口を閉めた即席の浮袋を持たせている。慣れるまでは付けとけと渡したそれをツバキに見せつけるリンネ。準備が出来たことを確認したツバキは頷き、リンネを抱えて海へと飛び込んだ。


「ぷはあっ! 気持ちいいですね~!」

「うん! たのしいねえ~!」


 海面に顔を出し遊び始めるツバキ達を見て、今度はメリアも船べりに立つ。


「じゃあ、私も行くから。二人とも、ゆっくりしててね~」

「ああ。あんまり無理すんなよ、色々と」

「メリアもあの子達に比べたら、もう若くないんだからね」

「ちょっと、二人とも! それ、どういう――」

「「行ってらっしゃ~い」」


 ムスッとした様子で振り返る所だったメリアの背中を、タクマと共に押すと、メリアは海に落ちていく。海面から顔を出して抗議しているメリアを無視し、俺は差し出された釣竿を手に持った。持ち手の部分に、糸を巻き取る器具が付いた本格的なものだ。

 こういうものを持っているあたり、本当にタクマは釣り好きなんだろうなと感心する。


「じゃあ、始めるか」

「ええ。こっちは、皆が泳いでいるから、向こうで」


 俺はタクマに頷き、ツバキ達が居る場所とは反対側に移動した。そして、海へと向けて餌のついた針を飛ばす。針と共に糸はどんどん遠くに飛んで行き、海の中へと入っていった。

 そして、糸を巻き取りながら、時々竿を揺らしたりして、魚を誘っていると……


「お! 来た来た!」


 タクマの竿に当たりが来たようだ。竿の先が曲がり、糸がピンと張る。タクマは、力を入れて糸を巻き取り始めた。


「お~、早いなあ~」

「良い感じに棚に当たったのかも知れませんね」

「なるほど。それは運が良い……って、俺もか!」


 タクマに感心していると、俺の手からも強い力が加わってくる。タクマのものと同じく、海へと伸びた糸がピンと張られ、竿が曲がっている。俺もタクマと同じく、糸を巻き取っていく。

 こういう時、慌ててはいけないと、釣り好きのエイキから聞いたことがある。無理に、力任せに引っ張ると、糸が切れたり、竿が折れたりするとゴウキからも聞いた。だから、ゴウキが釣りをする時は、鋼線と鉄柱が使われると言われて、呆れた覚えがある。

 おっと、余計なことを考えているうちに、更に魚に糸が引っ張られた。

 ゆっくり、慌てずに、再度糸を巻き取っていく。お互いに集中し過ぎているのか、少し背後でリンネ達の声が聞こえるだけで、俺とタクマは黙って糸を巻き取っていた。


 そして、俺よりも速く、タクマが魚を釣り上げる。看板の上で、暴れる魚にチラッと目を向けると、牛刀くらいはある、とても大きな魚だった。どことなく鮭に似てるなと思いながらも、糸を巻き取っていくと、タクマの喜ぶ声が聞こえてくる。


「良し! これは大物だ! ザンキさんもあと少しです!」

「たもを用意してくれ!」


 タクマに網を用意させ、俺はゆっくりと魚を近づかせ、弱ってきたところを網ですくい船に上げた。

 俺達が釣ったのは、二匹の大きな魚、マルドサーモンと呼ばれる、マルドの特産物だった。


「幸先良いな、俺達」

「ですね。最初から、これほどのものが釣れるとは……」

「ちなみに、これで船賃に届くのか?」

「充分です。ですが、お腹いっぱいになるために、もっと釣りましょう!」

「おう!」


 手ごたえを感じた俺達は、取りあえず二匹のマルドサーモンを異界の袋に仕舞って、更に釣り糸を垂らした。

 今度もすぐ釣れるだろうと思っていたが、やはり、最初ので魚たちも警戒したか、場を離れたか分からないが、そう簡単には釣れなかった。

 しばらく、糸を垂らしては巻き取っていき、更に海へと投げる作業が続く。


「む……やはり、一筋縄ではいかないみたいだな」

「ええ。まあ、これも釣りの醍醐味ですからね……っと、来ました!」


 他愛の無い話をしていると、タクマにばかり当たりが来る。俺には来ないあたり、やはり、経験者は違うなと感心する。


「ちなみに、ザンキさんは釣りなどの経験は?」

「ほとんど無いな。魚を獲る時は、無間……デカい刀で水面を叩きつけて、その衝撃で魚を気絶させていたからな」

「ハハハ……ザンキさんらしいですね。見てみたい気もしますが、ここは海なので出来ないですね」


 苦笑いしながら、釣った魚の処理をして、再び海の中に糸を垂らすタクマ。そんなに見たいなら、気や斬波を海に向かって撃とうかと思ったが、タクマに止められた。

 生態系を崩す恐れがあるので無闇にそういう行いをすることは、法律で禁止されている。

 更に言えば、そんなことをすると、大きな波がこちらに来ることになる。俺達はまだしも、海で泳いでいるツバキ達に危険が降りかかるので、辞めてくれと言ってきた。

 それもそうかと、納得し、俺は更に同じ作業を続ける。


「にしても、ザンキさんが依頼に出ると、大物が出てくると聞いたのですが、釣りは違うようですね」

「だな。嬉しいんだか、嬉しくないんだか分からなくなる」


 頭を掻きながら、水平線をぼーっと眺めた。昨日の討伐依頼でも、ゴブリンだけでなくてゴブリンキングも出たんだ。

 今日の釣りこそ、普通の魚じゃない、何かしら美味くて大きいものがかかってくれよと、ため息をついていた。


「ん? お、来たか!」


 糸を巻いていると、竿に反応があった。すかさず力を入れて反応する。伝わってくる力から、良い大きさだと確信する。

 変なことを考えていたから、ひょっとして魔物かとも思ったが、そんな気配は伝わってこない。間違いなく、普通の魚で、大きさが大きいものだと確信した俺は、糸が切れないように、竿を伝わせて、糸に気を送りこむ。

 刀やクナイにやるようにしたら上手く出来た。これで、後は力比べだと、船べりに足をかけて思いっきり手を回す。


「結構、行くなあ」

「あ、ザンキさん、船が壊れないように気を付けてくださいね」


 タクマは、大きな銛を手にしながら、メキメキと音を立てている俺の足元を指さす。早いところ、釣り上げるか、近づけてタクマにシメて貰うかしないと、船自体がやばいと考え、更に糸を巻いていく。


 すると、遠くの方から銀色の魚影が、こちらに近づいてくるのが見えてきた。


「ウオオオオ~~~ッッッ! 良し、来た! タクマ、頼んだぞ!」

「ええ! もう少し近づけてください! 慎重に……慎重に……今だ!」


 タクマは銛を振り上げて、船のすぐ下まで来ていた大きな魚のえらめがけて、銛を放る。それは見事に命中し、魚はしばらく暴れた後に、徐々に落ち着いていった。

 俺達はそのまま、その魚を船の上に揚げる。釣り上げたその魚は、俺の身長よりも大きく、甲板からはみ出すほどだった。タクマは全容が明らかになった魚を見て、目を見開いた。


「これ……海王鮪の稚魚!? 居たんですね、マルドの近海に……」

「海王鮪?」


 タクマによると、魚の名称は、海王鮪。とにかく大きいとのことで、成長すると、そこらの小島よりも大きくなる個体も居るらしい。

 この世界の海には、「海王」とつく生き物が他にも居るらしく、いずれも、通常のものよりも体が大きなものだという。

 過去に、海王鯨というものも居たらしく、それは、マルドの街をすっぽりと覆い尽くすほどの巨躯だったらしい。そのままでは危険ということで、二十年前くらいにサネマサによって倒されたという。

 ちなみに、魔物では無いとはいえ、ヒレを動かすだけで、大きな津波を発生させた、海王鯨は、ギルドの基準で言うところの、災害級に指定されている。そう言えば、サネマサの生家に、素材があったような気がするな。

 海王鮪も、回遊しているさなかに、船に激突することもあり、ギルドの基準では超級に指定され、目撃された場合、付近の街や港では、厳戒態勢を敷くこともあるという。


「なるほど……これでも稚魚ということが分かる気がするな……」

「ええ。しかし、稚魚が居るということは、親も居るということ。ですが、回遊魚なので、この近くには居ない可能性もあります。居たら、分かりますからね」

「まあ、そう言われると何となく安心するな。早いところ、収めておくか」

「そうですね。しかし、流石ザンキさんです。討伐依頼と同様、釣りに置いても、引きは良いようですね」

「何となく複雑になるな……」


 海王鮪を異界の袋に仕舞いながら、頭を掻く。結果的に、美味い魚を釣ることが出来たのは良いが、下手をすれば、船を壊すほどのものを釣ったわけだ。

 運が良いのか悪いのか、と、いつもの討伐依頼を行っている時のような気持ちになっていた。

 このまま、釣りを続けるかと悩んだが、また、変なものを釣るわけにはいかないと思い、俺達は釣りを辞めて、ツバキ達が戻って来るのを待つことにした。


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