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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
ツバキが里帰りする
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第296話―タクマに商品を渡す―

レイヴァンを発った後、いつもと同じくらいの時間にマルドに着いた。流石に門番も顔を覚えていてくれたらしく、すんなりと街に入ることが出来たのだが、門番は俺の格好を見て驚いた。

 そう言えば、ギルドからほとんどの装備を外していたからな。追剥にでもあったのかと心配されたが、異界の袋から装備品を出して見に着けると、安心したように笑っていた。優しい奴だなあと思いながら、マルドの街中を進んでいく。


 そして、ツバキの家が見えると、片付けをしていたリンネが俺に気付き、タッタッタと駆けてきた。


「おししょーさま! おかえりなさ~い!」

「ああ、ただいま、リンネ。今日もしっかり仕事していたのか?」

「うん! きょうはね~、おねえちゃんたちといろんなところにいったの!」


 ああ、タクマの配送についていったってところか。かなりの注文票の数だったから、ツバキも手伝ったんだろうな。

 街に出たということで、少し心配になったが、何事も無いようで安心した。


「でね、リンネにね、あたらしく、おともだちができたの!」


 嬉しそうな顔でニコリと笑うリンネ。聞けば、配達先で小さな子供と遊んでいるうちに、また、遊ぼうねと約束したらしい。


「そうか。それは良かったな」

「うん! リンネ、おうちもいいけど、このまちもだ~いすき!」


 リンネはすっかりマルドを気に入ったようだな。明日は俺も休みにしているし、この際に、色々と見て回ろう。

 そうやって、リンネの頭を撫でていると、タクマもこちらに寄ってくる。


「お疲れ様です、ザンキさん。品物の方は確保できましたか?」

「ああ、問題ない。全て揃えたぞ」

「ありがとうございます。では、早速確認しましょう」


 タクマは俺を店の中に案内する。そして、大きな台を持ってきて、その上に品物を出して欲しいと言われたので、買い揃えたものを、並べていった。最後に虹鳥の羽を置き終えると、タクマは満足そうに頷く。


「ふむ……確かに。虹鳥の羽も数量どおりですね。ギルドに在庫があったのですか?」

「いや、リエン商会で買ってきた。これを売ってくれた奴もなかなかいい奴だったぞ」

「なるほど……それは手間をおかけいたしました。ですが、また頼むことがあるかも知れません。その時はよろしくお願いします」

「それは構わんが、俺達がここを離れたら、違う奴に頼めよ。グレンとかな」

「ええ。そうさせてもらいます。では、僕は、商品の確認と、仕分けを致しますので、ザンキさんとリンネちゃんは、先にお風呂にでも入ってきてください」


 そう言って、タクマは並べられた商品を、注文票を見ながら梱包していく。俺はお言葉に甘えて、リンネと一緒に家へと向かった。

 玄関から入ると、今日も台所で料理を作っていたツバキと目が合う。


「あ、ザンキ様、おかえりなさいませ。リンネちゃんも、お疲れ様です」

「おう、ただいま、ツバキ」

「リンネ、きょうもがんばった~!」

「フフッ、そうでしたね。偉いですよ。ですが、汗も沢山掻いたようですので、先にお風呂へどうぞ。久しぶりに、ザンキ様と二人きりで湯浴みをなさってください」

「おねえちちゃんもはいろ~よ~!」

「私はリンネちゃんが喜んでくださるように、母さんと、美味しいご飯を作っておきますので」


 袖を引っ張るリンネを諭すように、優しく頭を撫でるツバキ。リンネは少し残念そうにしながらも、美味しいご飯と聞いて、目を輝かせて頷いた。

 そんな二人のやり取りを微笑まし気に眺めていると、奥からメリアがやってきて、俺の側に立ち、微笑みながら、俺の耳元で囁く。


「ツバキも入っても良いのにね……」

「何言ってんだ……ッたく」


 親が言うことじゃねえと思い、頭を掻く。メリアはクスクスと笑い始めて、ツバキとリンネが不思議そうにこちらを見てきた。


「どうかされましたか?」

「何でもねえよ。ほら、行くぞ、リンネ」

「は~い!」


 手を振るリンネを連れて、風呂場へと向かった。すでに湯は沸いているようだったので、俺は着物を脱いだ。

 リンネの方は本来の、小さな魔物の姿に変化する。こういう時に、一緒に吸収されるというコモンが作った着物は便利だなと思った。

 そう言えば、最後にリンネと風呂に入ったのは、先ほどの話にも出ていた、ツバキと入った時が最後だったな。それこそ、クレナに来てからは二人で入ったことなど無かった。

 何だか懐かしいなとは思ったが、幼いとはいえ、女だ。少しばかり緊張はしたが、魔物の姿なのですぐに気にしないようになる。


 そして、俺達は浴場へ入り、二人で湯を被る。丁度いい湯加減だなと思い、俺は浴槽に、リンネは湯を入れた桶の中に入った。


「あ~……気持ちいいな……♨」

「キュウ~……♨」


 今日は「不測の事態」が発生したゴブリン討伐と、ギルドでの冒険者達との交流、それからリエン商会で買い物と、考えてみれば、意外と盛り沢山だったからか、風呂に入った途端、力が抜けた。少しばかり、だらんとしながら天井を見上げ、窓の外を見ていた。

 といっても、ここから見えるのは、隣の家の窓だ。こうしていると、向こうからもこちらが見えるので、湯気が出ていく分だけの隙間を残して、窓は閉めた。


「はあ……疲れたなあ……」


 思わず出てしまった言葉だが、今日はどちらかと言えば、楽しかったので、どことなくこの疲労感も心地いい気がする。

 ギルドで出会ったバッカスとジーゴの二人は面白かったな。出る時も飲んでいたが、まだ、飲んでいるわけないよな……? バッカスは明日からクレナへの護衛依頼だし、そこまでの無理はしないだろう。あいつの仲間が気つけをするらしいから、それで大丈夫なんだろうな。

 ジーゴも今日は本当にカジノに行かなかったのだろうか。これからギルドに行く度に、腕相撲を挑まれたらどうしようか。当分の間、ジーゴはカジノに行くことが無くなるんだろうなと思うと、少々可笑しな気持ちになる。まあ、アイツの仲間達は喜ぶだろうがな……。

 リエン商会はそこまで警戒しなくても大丈夫そうだったな。俺の正体がバレたらと思うと面倒そうだったが、向こうも一人一人の客を調べているわけではなさそうだったし、今後も依頼の用意をする時などは大いに利用しよう。

 ただ、俺の方は少しばかり気を付けた方が良いかも知れないな。イーサンに言われたように、怪しいと思ったら、鑑定スキルを使わないと、また詐欺に遭ってしまうかも知れない。

 色んな商人を迎えるという態勢も、思わぬところで穴が開くもんなんだなと実感する。ただ、その分の対応もきちんとしている辺り、あそこを束ねるリエンという男には、幾分か好感が持てるな。

 俺が出会ったルオウも、少し不思議な雰囲気ではあったが、話をすれば、また、商売が出来るようになるかも知れない。経験も豊富そうだったし、何より人柄が良かった。

 次に会った時に、どのようなものを作りだしているのか、本当に楽しみにしておこう……。


ペチッ


「……ん?」

「キュウ?」


 ぼーっと、今日の出来事を振り返っていると、頬に何かが当たった。気が付くと、リンネが俺の頬に前足を当てながら不思議そうな顔をしている。


「ああ、すまない。少し考え事をな。どうかしたか?」

「キュウ」


 リンネは浴槽から飛び出し、そこに置いてあった石鹸の前に立ち、期待の眼差しで尻尾を振っていた。

 何をして欲しいのか理解できた俺は、リンネに頷き、石鹸を手に取る。


「わかった。洗ってやるから、ジッとしてるんだぞ」

「キュウッ!」


 リンネは頷き、ジッとその場に立っている。俺は石鹸を泡立てて、リンネの全身を洗っていく。顔は最後に残して、胴体から足の先までを洗い終えた。


「次は尾だ。くすぐったいかも知れないが、我慢するんだぞ」

「キュウッ!」


 続いて六本ある尾を付け根から先端までを揉み洗う。リンネの顔を見ると、気持ちよさそうにしながらも、少しだけ我慢しているような感じだ。やはりくすぐったいのかと思い、少々力を緩めた。

 そして、全ての尾を洗い終えた後、頭と顔を洗う。泡まみれになりながら、石鹸が目に入らないように目を瞑っているリンネ。少し苦しそうだと思い、ここは早めに終えた。

 その後、湯をかけて泡を洗い流す。リンネは目を開いて、自分の体を見渡した。綺麗になっていることに満足したようにニコッと笑う。


「キュウッ!」


 すると、次の瞬間、今度は少女の姿に変化した。そして、手ぬぐいを手に取り、石鹸を泡立て始める。


「つぎは、おししょーさまのばん!」

「ん? 洗ってくれるのか? じゃあ、頼んだ」


 リンネはぱあと笑いながら、楽しそうに俺の背中を洗ってくれた。俺も自分の体を洗っていく。

 そして、髪を洗い、顔を洗っていると、リンネはじいっと俺の顔を見てくる。


「きょうも、おひげはそらないの~?」

「ああ、剃らない。俺は、このままで良いんだよ」

「む~……ないほうがかっこいいのに……」

「俺はそう思っていない。俺の顔なんだから俺の好きにさせてくれ」


 少し不満げにするリンネの頭を撫でて、納得させた。この辺りは、サヤとは違うんだなと思い、苦笑いする。

 その後、全体の泡を落とした後、再び浴槽に浸かった。リンネはまた、獣の姿に戻る。俺を洗ってくれるためだけに変化したのかと尋ねると、コクっと頷いた。

 それから、この姿の方が、風呂が広く感じられるから、という何とも子供らしい言葉に、可笑しな気持ちになり、笑いながら、風呂ですいすいと泳ぐリンネを眺めていた。


 すると、脱衣所の方から、ツバキの声が聞こえてくる。


「ザンキ様、リンネちゃん、お夕飯の準備が出来ましたよ」

「ん? 分かった~」

「キュ~ウ~!」


 俺とリンネは頷き、風呂から上がった。そして、リンネは人の姿に変化し、体中を拭いていく。体の前面だけ拭いて、どうだとばかりに、こちらに胸を張るリンネ。


「ひとりでふけるようになったよ!」

「背中はびっしょりだな。拭いてやるからジッとしてな」

「……あ」


 キョトンとするリンネの背中を拭いていく。この姿だとやはり小さいな。だが、いつも、この背中に乗って、旅をしていると考えるとすごく頼りにもなる背中だなあと感じる。

 いつもありがとうと思いながら、リンネの背中を拭き終えた。


「よし、終わったぞ」


 そのまま、頭を撫でていると、リンネは悔しそうな表情をしていた。


「む~……ひとりでふけたとおもったのに……」

「お前も、まだまだだな」

「つぎは、がんばる!」

「その意気だ。さて、じゃあ、パッと着替えて行くか。皆、待っているだろう」

「は~い!」


 ニパっと笑顔になったリンネは、手を上げて変化の態勢に入る。何をやっているのだろうかと思っていると、ボフンっという音と共に、リンネは素っ裸の状態から、長着を着た姿へと変化した。ホント、こういう時は、便利だなと思いつつ、俺も長着に着替えて、皆の元に向かった。


 居間へ向かうと、ツバキとメリアがせっせと料理を置いている。すると、私も手伝うと言って、リンネが飛び出し、二人の手伝いを始めた。

 今日の晩飯は、肉料理のようだ。豚のような肉に、小麦粉をつけて揚げたものと、野菜の盛り合わせ、それに、汁物がついている。なかなか旨そうだなと思い、椅子に座ると、タクマが酒瓶を向けてくる。


「さあ、どうぞ、ザンキさん」

「ああ、ありがとう」


 俺が側に置いてある、ガラスで出来た盃を向けると、タクマは、ワインを注いでくれた。飲むのは久しぶりだなと思う。聞けば、そもそも、米を使った酒というのは、米を栽培しているクレナと、その隣接する領くらいしか、頻繁に飲むことは出来ないようだ。

 逆に木の実や果物を使ったワインは、どこででも呑めるものらしく、十二星天の時代以前から飲まれていたものだという。

 意外と、この世界の歴史は、カンナ達のことに関しては、少なくとも他の人間よりは詳しいが、それ以外の、特に身近なものについてはまだ、分からないことの方が多い。

 少なくとも、何がどこで採れるのか、とか、何がそれぞれの領で美味いものなのかとかはきちんと勉強しないとなと感じる。


 ピトっ


「……ん?」

「あ、気付いたみたいですね」

「おししょーさま、また、ぼーっとしてた~!」


 気が付くと、ツバキとリンネがそれぞれ、俺の両頬を指でつついていた。ああ、風呂の時と同じで、少しばかり考え事をしていたようだな。


「大丈夫ですか?」

「ああ。今日は少しバタバタした一日だったからな。少しぼーっとしてたようだ」

「フフっ、お疲れ様です。ですが、明日は一日休みなので、ゆっくりとしてくださいね」

「そうだな。……さて、じゃあ、今日も飯を食うとしよう」


 俺が気を取り直すと、皆は頷き、乾杯した。

 そして、料理を食っていく。揚げ物は、外はカリカリで、歯触りがよく、中から肉汁が溢れてきて、何とも美味かった。下味はついていたが、物足りないと思い、置いてあった、果実などを発酵させて作ったというたれをかけて食べると、なお美味い。

 タクマとメリアは、今日もツバキの料理に舌鼓を打ちながら、ツバキを褒めていた。相変わらず口の周りを汚しているリンネの口元を拭いながら、ツバキは照れたように、はいはい、と頷いている。


 そして、話題は、今日のここでの仕事について、皆が楽しそうに話していた。特に、やはり、リンネが中心となっている。

 今日見たり、出会ったりした者のことを身振り手振りを交えて教えてくれている。

 夕方言っていた、新しい友達というのは意外と多く、タクマの店の客の子供から、休憩中に出会った子供など、幅広く居る。

 人見知りなどはあまりないと思っていたが、人の姿でも大丈夫なんだなと感心した。


「リンネね、いっぱいのひとに、いっぱいもらっちゃった~!」


 と言って、リンネは席を立ち、どこからか小さな箱を持ってくる。ぱかっと開けられたその中には、飴などの菓子や、銅貨、更には銀貨まで入っている。

 タクマに聞くと、御駄賃と言って、配達先の老人に貰ったとのことだ。妓楼で働いていた時と同じで、リンネにはどこか人を惹き付ける何かがある……というか、単純に可愛いからだろうなと、頭を撫でた。


「良かったな。その金は、お前にって思ってくれたものだ。だから、お前の好きなように使えよ」

「うん! なにかおっかな~」


 銀貨を手にしながらリンネは嬉しそうな顔をする。ちなみに、欲しいものはあるかと聞くと、美味しいものか、髪飾りとリンネは答えた。リンネらしいなと思い、ツバキと一緒に笑っていた。


「そういえば、ザンキさんは今日、リエン商会の本部に行かれたとか。何か掘り出し物でもありましたか?」


 タクマの質問に、俺は首を傾げる。そう言えば、タクマのお使いの事で頭がいっぱいだったから、そこまで店を見て回った覚えが無いな。

 俺も、正体がバレないようにしていたし、見て回る機会もあったかも知れない。少し残念なことをしたなあと感じた。


「次行くときは、ゆっくりと買い物でもしておこうかな」

「それが良いわ。モンクの名物の一つでもあるしね。世界中のものが揃っているから、いい刺激になるはずよ」

「デカかったからなあ……今度改めて寄ってみるとしよう」


 ひょっとしたら、リンネやツバキの土産になりそうなものもあるかも知れない。今度、依頼に取り組む時などにまた、行ってみよう。ルオウにも会えるかも知れないしな。


 続いて話題は、そんな今日の俺の動きだ。先ほどからぼーっと振り返っていた所為で、ツバキからは何があったのかと詰め寄られる。

 大したことじゃないと、ギルドで出会ったジーゴ達の話をすると、納得したように頷いていた。


「あの時、喧嘩されていたお二人が、実は仲が良いというのは驚きですね」

「まあ、そういうもんだろ。喧嘩するほど仲が良いって言うしな。にしても、クレナの奴らに比べると、ここの冒険者はいくらかマシだったな」

「ひょっとしたら、護衛依頼に向かう方々は、クレナでダイアンさん達に出会うかも知れませんね」

「ああ。今日出会ったバッカスなども、腕利きっぽかったからな。いい刺激になるだろう」


 更に言えば、クレナの依頼にも積極的に取り組みそうだ。取り合いになって喧嘩してないと良いがなと若干心配になるが、何となく、波長と言うか、考え方などは、闘鬼神に似ていた。すぐに仲良くなるだろう。


 次に、タクマの頼みでリエン商会の本部に行った時のことを話すと、タクマとメリアは、苦々しい顔になった。


「リエン商会で、詐欺に遭うなんて……きな臭い話ね」

「そうだね。あそこは、商会の人に認められたら入られるからね。リエンさんが認めなくても加入できるという利点が、今回としてはあだになったのかもね」

「そうみたいだな。だが、その分、そいつらを取り締まる監査って部署もあるからその辺りは、きちんとしているようだぞ?」

「そもそも、信じられる商人だけの集まりならそんな部署は要らないと思います。恐らくですが、リエン商会はリエンさんが知らないうちに今も大きくなり続けているのだと思いますよ」


 タクマの言葉に、なるほどと思った。リエンという男がどういう人間かは知らないが、大商会の長である以上、人を見る目も相当だと思う。そんな人間が、商会の名を落とすような人間を、自らの商会には入れないだろう。

だが、グレンにも聞いていたように、リエン商会は、リエンが認めなくても、そこに加入している人間に認められるだけで加入することが出来る。幅広い人脈と販路を確保するためには大事な事だろうが、今回の一件はその、短所を分かりやすくあらわした結果となった。

有名で、影響力が大きい場所というのも大変らしいな。リエンという男には、何となく同情する。

 ちなみにだが、一応、闘鬼神には、無闇にそんなことはするなと伝えてある。クレナの他の冒険者が信用ならないというのと、屋敷が溢れてしまうこともあるが、一番は、俺が皆の様子を把握しづらいからということが大きな理由だ。

 勝手に、身の丈以上の依頼に取り組んで死なれても困るし、トウショウの里の住民たちや、他の冒険者達と問題を起こされても困る。

今のままが一番だと、ダイアン達に伝えているおかげで、特に問題は起こっていない。

 リエンは、俺よりも若干優しい人間なのかも知れないなと、こんな時でも、会ったことも無い人間への評価は上がっていく。


「有名人も大変だな……」

「ザンキ様がそう仰られると変な感じですね」

「アナタも大概よ。今日だって、市場が騒がしかったんだから」

「は? 何がだよ」


 マルドの市場で俺の名が出てくるという意味が分からなかったので聞いてみると、リエン商会で行われていた九頭龍の素材の競りが、ここでも行われていたとのことだ。

 集まった者達は、素材やそれを元に作られた武具よりも、それを倒した俺に興味を示していたとのことで、メリアとツバキは、知り合いだという事を気取られないよう、リンネを抑えたりするのが大変だったらしい。


「そんなことがあったんだな……ちなみに、どんな奴が買っていったんだ?」

「最終的に残ったのは、マルド商会だったわね。カジノの景品にでもするみたいよ」

「ギランさんが、客が増えると、喜んでいましたね」


 なるほど……いくらくらいになるのだろうか。一応、コモンには聞いたが、壊蛇よりは下だが、それなりには高く売れるとのこと。それを聞いたカドルや牙の旅団が、自分達の魂が入っていたのに、それなりとはどういうことだと怒っていたのを思い出した。

 俺が斬ったとはいえ、長く出回らなかった天災級の素材ということもあり、各地で高値で取引され、収益の一部は俺の手元に、大半はクレナに回るようにしている。どれくらいの額になるのか楽しみにしておこう。


「にしても、ここにまで俺の名がな……明日もこっそりと行動した方が良いのか?」


 さて、話は明日の休みはどうするかという話題に移るが、この様子だと明日も俺は色々と気を遣わないといけなさそうだ。どうしたものかと頭を抱えていると、ツバキがクスっと笑って口を開く。


「大丈夫です。顔は割れていませんので、そのままでも問題ないです」

「犯罪者みたいな感じになってねえか?」

「そんなことないわ。それに、ザンキさんに比べれば、ジロウ様の方が大変でしょ?」


 メリアの言葉に、まあな、と頷く。ジゲンは両目が普通の人間とは違う色をしているからな。と言いつつ、アレで五年以上、正体を隠していたという事実もあり、比較対象としては間違っているのでは、と感じた。


「また、変装でもしようかな……」

「おんなのひとになる!?」

「ならねえよ」


 リンネが不穏なことを言い出すので、頬を引っ張りながら否定する。クスクスと笑っているツバキは、まあまあと俺を諫めて、口を開く。


「そこまでしなくても大丈夫だと思います。リエン商会でも問題なかったのでしょう?」

「まあ、そうだな。あまり警戒しなくても良いか……」

「ええ。高価な装備、特にピクシーの首飾りは外して、普通の格好をしていれば大丈夫ですよ」

「普通の格好って……じゃあ、タクマの服でも借りるか」

「あ、こちらは問題ありませんよ。一日銀貨一枚、ご購入されるのでしたら、銀貨三枚でお譲りしましょう」


 商魂たくましいな、タクマも。いわゆる、衣と袴ではクレナでは当たり前だが、モンクでは少し目立つ。バッカス達もこの格好を見て、俺がクレナから来たと分かったみたいだからな。当面ここで過ごすわけだから、借りるとは言わず、買った方が良いか。

 ツバキが言うところのモンクでの普通の格好は、この世界では一般的な、前開きの服と、二本に分かれた筒状の布に、足を入れて履くという履物を指す。ツバキも、今はそういう格好をしているし、リンネも今日は、街に出るということで、ツバキのおさがりを着たそうだ。

精霊人の服も似たようなものだったし、そこまで動きづらいということも無いだろうし、そもそも闘いに行くわけではないので、休暇用ということで何着か買っておこう。


「わかった。じゃあ、この後にでも見繕ってくれ」

「かしこまりました、ザンキ様」


 ツバキはニコリと笑いながら頷く。ちなみに、やはり流行というものはあるみたいだが、よく分からないので、タクマとメリアに頼んでおいた。どちらかと言えば、歳が近いからな。年相応のものを頼むと言うと、メリアは目を輝かせる。

 何となく不安だなと思いつつも、その後は、明日の予定を決めていった。


「ザンキ様はご希望はありますか?」

「さて……釣りでもどうだ?」

「あ、それでしたら、ハンナちゃんに船を出すように頼んでみましょう」

「船釣りか……したことが無いから不安だな」

「陸と変わりませんよ。何なら、僕がお手本をお見せします」

「タクマは釣りの名人だからね~。私達は、泳ぐ?」

「あ、リンネ、およぎのれんしゅうしたい!」

「じゃあ、母さんと私はリンネちゃんの泳ぎの練習をしますか。その後はどうします?」

「買い物でもするか。今日の依頼で、色々と無くなったしな。せっかくグレンの所で揃えたのに……」

「分かりました。僕のおすすめを紹介します。アマンさんのところでは無いのでご安心を……」


 ああ、マルドには他にも冒険者向けの店があるのか。まあ、これだけ大きな街だとあるよな。遊び終えたらそこに行くとしよう。

 こんな感じで、明日の予定が次々と決まっていく。リンネはもちろん、ツバキも楽しそうだ。しっかりと親孝行をして欲しいと、俺も出来る限りのことはやっておこう。

 言ってしまえば、他人の家族の休日にお邪魔するわけだが、俺も楽しくなってくるので、そこは気にせず、その後も皆で予定を組んでいた。


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