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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
ツバキが里帰りする
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第294話―リエン商会に行く―

 さて、そのまま俺の飯も運ばれてきて、皆の輪の中に入って食事を楽しんでいた。

 その間、酒盛りを始めているジーゴとバッカスは置いておいて、他の冒険者達と情報の交換をしていた。


「オッサンは、何でまたクレナからここに? 儲けられるなら、クレナに居た方が良かったんじゃねえか?」

「俺は、他の用事でここに来ただけだ。それが終わったら、クレナに帰るつもりだ」

「そうか。カジノには行かねえのか?」

「ああ。賭け事ってのは、どうも苦手だからな。それより、魔物倒して金を集めた方が楽だ」

「なるほど……うちの隊長たちにも見習って欲しいものだわ。ここを離れて、クレナに戻った後はどうするの?」

「考えてねえな。どこか面白そうなところはあるか?」

「そうね……気になるのは、チャブラかしら。領主が新しくなって日も短いし、依頼の数も増えてるかも」

「あと、シルバも良いかもな。最近魔物の数が増えているって噂で聞いた。だが、王都に近いってこともあるし、冒険者の数も多いから、報酬の額はここと同じくらいかもな」

「反対にオウキは行かなくても良いかも知れません。何故か、十二星天のミサキ様が滞在されていて、どんどん依頼をこなしているって聞きましたから……」


 冒険者達からは、世界中の情報が飛び出てくる。なかなかない機会だと思うので、じっくりと聞いていた。

 気になったのは、シルバで魔物が増えているということ。また、転界教関連じゃないよなと疑いたいくなるが、レインも隣接しているということで、そこまで俺が気にしなくても良いのかも知れない。

 オウキに関しては、ミサキがレイカやウィズの修行か何かで依頼をこなしているのだろう。深い森林や、山脈が連なり、トウガ達が悠久の時を過ごすために身を隠していた領と聞いていたが、魔物の被害自体は、あいつらによって、片っ端から片付いているらしい。ここも、俺が行かなくても良いだろう。

 そして、この大陸の他の領についても、クレナ以外は同じような報酬で依頼が行われているという。こうなってくると、クレナで依頼をこなす冒険者も増えそうだなと安心した。


「まあ、魔物についてはどこも何とかなっている状態だが、言い換えればどこにでも自由に行けるってわけだ。オッサンも、慌てずに、色んな所に行ってみれば良いんじゃねえか?」

「ああ。元よりそのつもりだ。色々教えてくれてありがとう」

「気にすんなって。冒険者は持ちつ持たれつ。助け合っていこうぜ」

「どこかでまたお会いしたら、また、よろしくね」

「今度、俺達とも合同で依頼に行こうぜ。オッサンの闘いってのは興味あるからな!」


 皆の言葉に頷き、一緒に盃を合わせた。気持ちの良い連中だなと、またしても嬉しくなる。クレナに来てからは、ツルギ達や闘鬼神以外の冒険者と言えば、最低な連中ばかりだったからな。こういう感覚は久しぶりで、本当にすがすがしい。

 そして、いつの間にか、飲み比べをして、どちらが先に潰れるかという勝負を始めていたバッカスとジーゴ、それに再び賭ける他の冒険者達を眺めながら、更に皆と笑っていた。


 すると、突然肩を叩かれ、俺はそちらに目を向ける。そこには、受付のシアが立っていた。


「お待たせいたしました、ザンキさん。頼まれていた品の確認が終わりました」

「お、すまねえな。それで、どうだった?」

「はい。ほぼほぼ揃えることが出来たのですが、幾つか足りないものもありました。ひとまずこちらへ……」

「はいよ。っと、ちょっと席を外すぜ」


 空になった食器を片付けていると、酒盛りをしている二人から声が上がる。


「ザンキ~! つぎもか~つ~ぜ~! おれのゆうし、みとけ~よ!」

「うおお~い! よそみすんなろ~! ばあかすう!」


 真っ赤な顔したバッカスと呂律の回っていないジーゴが、俺に思いっきり手を振ってくる。バッカスの方は、明日から大丈夫なのかと心配になりつつ、俺は、シアに続いた。


「今日は平和でしたね……」

「ん? あいつらの事か? まあ、あの様子じゃ、またすぐに喧嘩になるだろうな」

「初めてお会いした時にも感じましたが、ザンキさんは、喧嘩がお好きなのですか?」

「いや、別に好きじゃねえが、他人がやり合う姿ってのは面白いもんだろ?」


 どうでしょうか、と首を傾げるシア。まあ、コイツには分からなくても良いと、俺は笑っていた。

 さて、シアが案内したのは、ギルドの一室。向かい合わされた長椅子とその間に大きな卓が置かれている。

 ここは、商人が商談で使う部屋らしく、俺が気付かなかっただけで、どこのギルドにもあるらしい。

 卓の上には、俺が頼んだものと思われる品々が置かれていた。シアに促されるまま長椅子に座ると、一つ一つの説明を受ける。


「では、こちらが、商人グレンさんが頼まれていた、冒険者向けの薬一式と、魔道具一式です。伝令魔法の魔道具については、行先は設定しておりませんが……」

「多分、大丈夫だ。あそこに置かれていたものは、全てそうだったからな」

「かしこまりました。では、こちらはこのままで、続けます。え~と、こちらは結界魔法の魔道具ですね。あといくつかの、攻撃魔法と補助魔法が封じられた魔道具が一式です。

 以上がグレンさんが注文されていたもので、代金はこちらになります」


 おっと……そういや、金は受け取っていないな。ここで、俺が立て替える代わりに、払ってやるからまた来いってか? 誰も持ち逃げなんぞしねえよと思いつつ、商人らしいなと苦笑いして、提示された金額を支払った。


「ありがとうございます。続いて、マルドのタクマ商店さんからのご注文ですが、こちらになりますね」


 俺がグレンからの商品を片付けると、シアは再び、卓の上に別の商品を置いていく。

 ガラスで出来た器や、木や魔物の骨、更には、色のついたガラスで出来たビーズなどを置いていく。

 全てを並び終えて、シアは少し困ったような顔つきになり、口を開いた。


「タクマ商店さんのものは以上なのですが、幾つか足りない物もありました」

「ん? そうか。どんなのが足りなかった?」

「え~と、虹鳥の羽ですね。細工用でしょうか……」

「虹鳥ってのは何だ?」

「七色の羽を持つ鳥の事です。その羽は、光の当たり具合などで、見る角度によって、色を変えるというもので、装飾品や、ザンキさんがされているような髪飾り、それから、工芸品などにも使われることが多いですね」


 シア曰く、虹鳥の羽は、とても綺麗なもので、素材としても人気の商品らしく、採集依頼なども頻繁にあるらしい。

 それだけに、ギルドにはすでに在庫が無いようだ。


「それは仕方ないな。じゃあ、どこか、別の店で探すしかないか」

「あ、そのことなんですけど、ひょっとしたらと思い浮かぶ場所があります」

「ん? どこだ?」

「リエン商会本部ならあるいは……」


 リエン商会か……代表のリエンって男には、会えば面倒かも知れないと、ガーレンに言われていたな。

 だが、確かにこの領最大の商会ならば、何か知っていそう、というか、実物がありそうな気はする。少し、買い物する程度なら、行っても良いかとシアに頷いた。


「分かった。じゃあ、これから行ってみるよ。ひとまず、ここで買うものに関しては金を払わないとな」

「あ、はい。かしこまりました。代金はこちらです」


 俺は提示された金額分、金を出してシアに渡した。銀貨の数を数えるシアを待つ間、俺は品々を異界の袋に入れていく。

 そして、俺たちの作業が終わると、シアはニコッと笑った。


「はい、確かにお預かりしました。え~と、これから、すぐに向かわれるのですか?」

「ああ。早く終わらせて、マルドに帰って、品を渡したいからな」

「そうですか。一応、ギルドから紹介状を出した方が、向こうでの手続きもすんなりといくと思いましたが、どうしますか?」


 む……やはり、このまま行っても、俺はただの怪しい奴にしか見えないか。腕輪の情報は改ざんしていることだし、ガーレンのように、鑑定スキルを使われたらお終いだ。

 商会の長であるリエンに関しては、鑑定スキルも極めている可能性があるからな。どう足掻いても、無理な話かも知れない。ギルドから、きちんと身分を証明してくれる何かがあった方が良いかも知れないな。


「出来るなら、紹介状を頼む。ただ、俺の名前は、ザンキだ。間違えるなよ?」

「かしこまりました。では、今しばらくお待ちください」


 シアは、一礼して部屋を出ていく。ギルドの受付というのは、どこのギルドも、皆優秀だなと、感じた。


 さて、俺はその場を後にして、皆の中に戻った。バッカスとジーゴはどちらも倒れていないようだ。


「お、オッサン、お帰り~」

「おう。まだやってんのか? あいつら……」

「ええ。明日からの護衛依頼に響かないと良いけど……」

「確実に響くぜ、姐さん。気つけはいつも通り過激に頼むっす」

「はいはい……」


 男の言葉に、弓を下げた女は頭を掻きながら頷く。どんな気つけなのか気になったが、聞くのは何となく辞めた。


「オッサンは、用事は済んで、これから帰るのか?」

「いや、これから、すぐに向かわないといけない場所が出来た」

「そうか……チッ、オッサンの話、面白そうなのにな」

「まあまあ……それで、どちらに行くのですか?」

「リエン商会の本部ってところだ。知り合いの商人に、商品の買い付けを頼まれたんでな」


 何があったんだと、聞いてくる皆に事情を説明すると、なるほどと頷いてくれた。

 すると、弓兵の女と、別の男の冒険者、更に斥候のような恰好をした冒険者が、俺の姿を指さした。


「リエン商会に行くなら、その綺麗な首飾りと、髪飾りは取っといた方が良いわ。リエンさんはまだしも、他の商人に、売ってくれ~! ってせがまれて面倒だと思うから」

「あと、羽織も脱いだ方が良い。素人目の俺達でも、上物って分かるからな」

「腰の刀は……魔刀ですか。大丈夫だとは思いますが、一応、異界の袋に入れておいた方が良いかも知れません。あ、手甲もですね……」


 つまりは、ほとんど身ぐるみ剥いだ状態で行けってことか。いささか不安にはなるが、三人の言うように、目立つものをぶら下げて行くことも無いかと思い、言う通りにした。

 顔は出ているが、まあ、目立ったことをしなければ良いのだと、自分に言い聞かせる。


「これで、良いか?」

「ええ。どこから見ても、普通の冒険者ね」

「ちなみに、さっきまではどう見えていたんだ?」

「凄腕の冒険者だ。素性は分からねえが、あれだけの装備だからな。ジーゴとの腕相撲を見なくても、凄腕ってのは分かる」

「装備は冒険者の第二の身分証明と云われていますからね」


 なるほど……。冒険者が身に着けている装備は、多くが自らが対峙した魔物の素材か、強力であればあるほど、高価なものだから、それくらいの稼ぎが可能な冒険者と教えているようなものだからな。

つまり、さっきまでは取りあえず、“やばい奴”と、俺は見られていたようだ。これに関しては、少し反省しておこう。無間が無いから油断していたが、昨日も似たようなことがあった。手甲等、闘いに使うものや、目立つ羽織は、こういうところではあまり着ないようにしよう。

 それに、ピクシーの首飾りもだ。考えてみれば、これは、今でも恐らく、俺が持つものの中で、一番高価なものだからな。あまり見せびらかすように着けるのは辞めておこう。グリドリの、ピクシーたちには申し訳ないがな……。まあ、今日だけだろうと思いながら、首飾りを仕舞った。


 これで完璧、と冒険者達が頷く中、しばらくすると、シアが紹介状を持って、俺の元まで来た。俺はそれを受け取り、皆に別れの言葉をかける。


「よし……今日はありがとう。良い交流が出来た」

「おう、じゃあな」

「ひょっとしたら、クレナで会うかもね。その時はよろしく」

「また、お会いしましょう」


 俺の言葉に、手を振る冒険者達。俺もそれに応えてその場を離れようとした時、飲み比べをしていた方から声がかかる。


「じゃあな~! クレナでまってるろ~!」

「次は負けねえからら~! こんろはおまえとのみくられら~!」


 ジーゴに関しては何言っているのか分からないが、気持ちは伝わったと、二人に手を振り、ギルドを出た。

 扉が閉まるその瞬間、これ以上は駄目だろうと判断し、少しだけ強めに死神の鬼迫を二人に向けて放つ。

扉が閉まり、ギルドの中から、ドサっという大きな音が二つ聞こえたことを確認し、俺はその場を去った。


 さて、目指すのはリエン商会の本部。シアが書いてくれた地図によると、昨日の港のすぐそばのようだ。見れば分かると言われたが、そんな建物あったかと首をひねったが、魔法の地図でこの街の詳細な地図を見て、目を見開いた。

 港がデカい。俺が昨日居た場所は、本当にほんの一部だったんだと実感する。

 何せ、船着き場が二十以上あるからな。昨日は、その端っこの方に居たようだ。あの港のおかげで、リエン商会があり、レイヴァンは栄えているのだろうなと感じるほどだった。


 そして、港に着き、リエン商会本部を探した……が、すぐに見つかった。


「……デけえよ」


 リエン商会の本部は、ギルドよりも大きな建物で、両脇にそれぞれ十ずつ大きな倉庫が並んでいる。

 クレナのギルド、つまり、アヤメの家よりも大きい。どれだけ金を持っているのだろうかと、少しばかり呆れた。

 そこでは、多くの人間が忙しそうに作業をしている。倉庫へ、荷を運ぶ者達や、何かの手続きを行っている者達。それから他の領の商人だろうか、多くの人間が集まり、競りを行ったりもしている。

 なかなか活気があるなあと思いつつ、そちらに足を運んでいる場合ではないので、いったん建物の中に入った。


 中も大勢の人間が居て、十以上ある受付にそれぞれ並んでいた。列の長さが、短いものがあったり、長いものがあったりするところを見ると、それぞれ、違う用件で並んでいるようだ。

 どこに並べばいいのだろうかと思い、「案内所」と書かれた受付の女に声をかけた。


「すまない。聞きたいことがあるんだが」

「いらっしゃいませ。本日はどういったご用件で?」

「知り合いの商人に買い付けを頼まれてな。どこへ並んだら良いんだ?」

「どのような商品、または素材でしょうか?」

「虹鳥の羽というものなんだが……」

「かしこまりました。では、ご身分を証明するものをお出しください」


 ああ、やはり、そういうものが必要なんだな。これだけ大きい所だと、変な奴には客として近づいて欲しくないもんなと納得し、俺は冒険者の腕輪を出そうとした。

 しかし、ここは、盗品も多く流入してくる場所だ。腕輪を出したところで、本人かどうかの確認をするために、鑑定スキルも並行して使われるという可能性が高い。

 俺は、腕輪と共に、ギルドでシアに書いてもらった、紹介状を取り出した。


「一応、こういうのもあるんだが……」

「あ、紹介状をお持ちでしたか。失礼いたしました。確認いたしますので少々お待ちください」


 女は、腕輪と紹介状を手に取り、奥の部屋へと向かった。

 そして、しばらく待っていると、女は戻ってきて、俺に腕輪を返してきた。


「確認が取れました。冒険者のザンキさん。え~と、虹鳥の羽でしたら、この建物を出て右手にあります、三番倉庫にて販売いたしておりますので、直接そちらに向かわれた方がよろしいかと」

「分かった。ありがとな」


 女に礼を言って、俺は再び外に出た。ここに並んでいる倉庫は、船への積み下ろしや、商品の買い付けの他にも、簡単な小売店などをしているところもあるようだな。

 しばらく、港を進んでいき、女の言っていた、三番倉庫の前に辿り着いた。他の倉庫とは違って、一般の者から、冒険者達、貴族のような恰好をした者達が多く出入りしている。

 俺もそいつらに混じって、倉庫の中に入った。その瞬間、あることに気付き、首を傾げる。


「……あ? どうなってんだ?」


 倉庫の外観に比べると、中の広さが尋常じゃなく広い。多くの商店のようなものが並んだり、飯を食う露店などもあって、まるで一つの街のようだった。

 一体、どうなっているのだろうかとその場に立ちすくんでいると、突然、声をかけられた。


「どうかなされたか?」


 声のされた方に顔を向けると、そこには髭を蓄えた、恰幅の良い老人が立っている。丸めがねをした、優し気な表情の爺さんだった。


「いや……ここはどうなってんだ? この中が、こんなに広いとは……」

「ふむ……もしかして、ここに来るのは初めてなのか?」


 ん? 爺さんの割には、話し方や声に張りがあるというか、何となく若い印象を受けるな。見た目は、ジゲンと同じくらいなのだが、目を閉じると俺と同じか、少し上くらいの印象だ。

 気のせいかと思い、男の言葉に頷いた。


「ああ。初めてだ」

「ふむ、なるほど……。ここは、商会に所属する商人が日替わりで店を出すことが出来る場所でな。普通の買い物として一般の民達も来ることが出来る。

 最初は、商会に与する商人も少なく、普通の広さでも良かったのだが、徐々に商人の数は増えていくし、それに伴い、客も増えていくということで、最終的に、ここと隣の二番倉庫、四番倉庫も同様にしたのだが、それでも足りなかった。

 そこで、わ……リエンは、倉庫の中に亜空間コアを設置し、どれだけ多くの人間が来ても、自由に商売が出来、自由な買い物が出来るようにしたというわけだな」


 ああ、なるほど。亜空間コアか。俺の洞窟以外で、一般的に使われているところを初めて見た気がする。

 まあ、それだけ高価なものだからな。亜空間コアで広げられる広さは、設置する亜空間コアの大きさで決まる。見た目に反し、かなりの大きさになっているということは、それほど大きなものなのだろう。

 流石、モンク最大の商会だな。そして、リエンという男も、大したものだと感心した。皆が自由に出来る場というものを、私財をうって、用意したというところは賞賛に値する。

 本当に、正体を隠してここに来たわけではなかったとしたら、ゆっくり茶でも飲みながら話してみたいものだなと思っていると、目の前に居た老人が俺の顔を覗き込んでいることに気付いた。


「お……儂の説明は不十分じゃったか?」


 ……ん? 急に年相応な話し方になった気がする。さっきよりは、幾分か年老いた感じだ。しかし、それも、ごくわずかなものだ。やはり、気のせいだったかと思い、老人の言葉に首を横に振った。


「いや、良いことを聞いたよ。ありがとう」

「ふむ。ならば、良いが……それで、お前さんは、何を買いに来たのじゃ?」

「虹鳥の羽だ。しかし、これだけ広いと探すのも大変だな……」



並んでいる店屋も特に法則性は無いみたいだからな。いわば、萬屋ばかりが並んでいるという状態だ。どの店に、何の品があるのかが分からない。せめて、見取り図でもあれば良いのだがなあと思っていると、再び、老人が口を開く。


「そういうことならば、お……儂に着いて来るのじゃ」

「え……知ってんのか?」


 俺の問いに、老人は頷く。断る道理も無いと思い、俺は倉庫の中へ進んでいく老人に着いていった。

 そして、案内されたのは、倉庫の奥の方に居た、男が風呂敷を広げて、その上で商売をしているという場所だった。黒メガネをして、頭に帯状の布を巻き、半裸というどことなく怪しいなと思わせる見た目の商人。だが、リエン商会に居る以上は、まともな商人なのだろうと思った。

 よく見ると、並んでいる商品の中に、色とりどりの羽が見える。あれがそうか、と思い、老人に礼を言おうと、顔を向けた。


「見つかったな。ありがとう。世話にな……あれ?」


 老人が居た所に顔を向けたが、そこには、誰も居なかった。案内し終えてどこかへ行ったか?

 ちゃんと、礼を言いたかったなと少し残念に思いつつ、まあ良いかと思い、商人の方に近づいていく。


「悪ぃ、ちょっと良いか?」

「ん? お、いらっしゃいませぇ~! 何か、お探しですか?」


黒メガネをしているからきちんとしたことは言えないが、口調と言い、声と言い、こちらに笑顔を向けているが、恐らく厭らしい目つきをしているんだろうなと思ったのが、最初の印象。良い金づるが来たなとでも思っているのだろう。

 まあ、だからと言って、どうだということも無いがな。俺は、虹鳥の羽の入った箱を指さした。


「その……虹鳥の羽を売って欲しい。量は、その箱の半分くらいだな」

「まいど! こちらは、状態が良いですからね~! 代金は、銀貨500枚といったところです」


 ん? 虹鳥は魔物じゃないんだよな。それに、この領では装飾品で使われたり、工芸でも使われて結構出回っているから、そこまでの価値は無いと聞いたが、それにしては高いような気がする。

 ただまあ、ギルドには無かったからな。場所によっては価値も変わるのかも知れないと納得し、俺は異界の袋から金を出そうとした。

 すると、背後から若い男の声が上がる。


「ん? あ、オッサン。それ、買わない方が良いぜ?」

「……あ?」


 振り返ると、そこに居たのは、十代後半くらいの若い男。金色の髪に、日焼けした肌を見せながら、何やら苦笑いしながら、頭を掻いている。

 急に現れて、何言ってんだろうかと思っていると、案の定、店の男が声を荒げ始めた。


「てめえ! 何のつもりだ! 商売の邪魔すんじゃねえよ!」


 俺に向けてきた作り笑いとは裏腹に、凄い剣幕で捲し立てる男。周囲に居た者達は、何事かとこちらに顔を向けてきた。


「変ないちゃもんつけてんじゃねえぞ!」

「何をそんなに、慌ててんだ? 俺は、アンタの商品を、このオッサンにはお勧めできないと言っただけだぜ?」

「何がだ! 何が悪いってんだ! どこからどう見ても、この虹色の羽を、虹鳥の羽が欲しいって言ってるこのオッサンに売って何が悪い!?」

「そこなんだよな……っと!」


 若い男は、スッと前に出てきて、男が売っていた虹鳥の羽を手に取った。そして、じっくりと見回すと、吹き出したように笑い出す。


「ぷっ、アハハハハ! こ、これを売るってか! それも銀貨500枚で! 気は確かかよ! よくもまあ、ここで店を出せたもんだ! 口はいっちょ前といったところか!」

「何を~~~!?」


 腹を抱えて笑い始める男に、ついに顔を真っ赤にしながら激怒する店主。勢いよく立ち上がり、若い男の胸倉を掴んだ。

 何事かと、こちらに注目が集まる中、男は更に声を上げる。


「何なんだ、このクソガキが! ひょっとして、アレか!? 妙ないちゃもんつけては、ここの商店から金を盗もうって詐欺師か!?」

「そう来たか……まあ、とりあえず放し……ククク……」

「いつまで笑っていやがる!? や、やっぱりそうなんだな!? き、気をつけろ、お前ら! この男、詐欺師だ! 下手に相手すると、損するぞ!」


 店主は、男を指さしながら、集まっている群衆たちに訴えかけるように声を荒げた。段々と、商人たちからヒソヒソと声が聞こえてきては、若い男に疑惑の視線が向けられるようになる。

 店主は、ざまあみろといった顔で男を見下ろしていた。

 結局俺は、どうすれば良いのかと思っていると、男はスッと立ち上がり、俺に近づいてきた。


「いやあ……俺が余計なことを言ったばかりに、変なことになってしまって悪かったな、オッサン」


 店主に向けていた態度とは違って、笑ってはいるが、少しばかり真面目な顔つきに多少驚いた。


「それは、まあ、気にしなくて良い。お前がどうなろうと知ったことでは無いからな。俺は羽を買うつもりだ」

「そうか……じゃあ、最後にもう一回言っておくが、本当に、辞めた方が良い――」

「テメエ! まだ、それを言うか! いい加減にしねえと!」


 男の言葉を待たず、更に激高し、拳を振り上げる店主。俺は、男を襲おうとする店主の拳を止めた。


「な!? なんで、アンタが止めてんだ! コイツをかばう気か!?」

「まだ何もしていないのだから、そこまでする必要は無いだろう。俺はきちんとアンタの店から羽を買うから、それで手打ちのはずだ。そうだろ?」

「ぬぅ……確かにな……」


 店主は渋々といった感じに、拳を引っ込めた。そして、最後までため息をつき続ける男の前で、銀貨500枚を取り出し、店主に渡……そうとして止めた。


「ところで……」


 俺はキョトンとする店主と、男に顔を向ける。


「アンタが言っていた意味を知りたい。どういうことなんだ?」

「へ?」

「な! お客さん、この男の話など――」

「テメエは黙れ……!」


―死神の鬼迫―


「ゔッ!?」


 店主の言葉を止めて、殺気をぶつけて黙らせる。ここまで来ると、俺にとっては、買い物の邪魔をする男と、胡散臭い商人という意味で、どちらも何となく鬱陶しいと感じていた。

 男が何か言うたびに、店主が怒鳴って、また振出しに戻るのなら、店主を黙らせるのが先かと思った。

 これなら話が出来るだろうと思い、再度男に顔を向ける。


「ここの羽を買わない方が良いというのはどういうことなんだ?」

「ん? ああ。え~と……おっさんは、冒険者か?」

「ああ。それがどうかしたか?」

「鑑定スキルを持っているんなら、その羽を視てみろ」


 男は、箱に入った商品の羽を指さす。すると、男の行動に店主は、さーっと顔を青くしながら、後ずさっていく。

 これは何かあるなあと思い、俺は箱の中の羽を一枚手に取って、鑑定スキルを使った。


……


 鳩の羽

 一般的な鳩の抜け羽。これといった特徴も無く、価値も無い。


 ……


「……はあ?」


 頭に浮かんだ羽の情報に言葉を失った。これが、鳩の羽? この世界の鳩は七色なのか? って、そんなわけない。俺の世界にも居たような、灰色や、白い鳩は、もう何度も見ている。

 だが、目の前の羽は、どこからどう見ても七色だ。そういう種類の鳩が居て、それが虹鳥と呼ばれているのか?


 俺は一人、羽を見回しながら困惑していた。すると、ため息をつきながら男が、俺のそばまで来る。そして、懐に手を入れながら口を開いた。


「まあ、見ての通り、それは虹鳥の羽なんかじゃねえ。そこらに落ちている鳩やら雀やらの羽を塗料を使って色付けしたものだろう。

 ちなみにこれが、本物の虹鳥の羽だ。全然違うだろ?」


 男が取り出したのは、これもまた七色の羽だった。だが、こちらは店の商品と違って、光の当て方や、見る角度によって色を変えるというものだ。赤い個所は、見る角度によっては、青にも、緑にもなったりしている。

 対して、店で売られていたものは、赤い部分はどう見ても赤いままだ。確かにシアも、そういう説明をしていたような気がする。男の言うように、見れば見るほど、二つの羽が全然違うことに気付いた。


 俺は、オロオロとしている、店の主人を、更に殺気のこもった目で睨んだ。


「テメエ……どういうことだ?」

「ひぃ!」


 指の骨を鳴らしながら、詰め寄っていくと、男は後ずさり、その場にしりもちをついた。

 俺を騙そうとしやがって……。ただじゃ置かねえと、拳を握り、歩を進めようとした。


 その瞬間、スッと俺の前に掌が出され、俺は動きを止める。手を出したのは、この羽が偽物だと教えてくれた若い男だった。


「おっと、オッサン。それまでだ。コイツは、俺達に任せてくれ」

「あ!? 何言ってんだ、テメエ! コイツには一発入れておかねえと俺の気が済まねえ!」

「気持ちは分かるが、オッサンはまだ、この男に何も取られていないだろ? つまりは、コイツに何もされていないのと同じだ。だから、オッサンがこの男に何かした場合、裁かれるのはオッサンだ」


 何とも筋の通ったいいわけで、俺をなだめる男。まるで吠えている犬をあやす飼い主の如く、どうどう、と言ってくる。

 男の様子に、何となく力が抜けた俺は、拳を仕舞い、素直に頷いた。


「チッ……。分かった、アンタに従うよ。だが、任せてくれってのはどういうことだ?」

「ん? ああ。俺は一応こういう者だ」


 男はニカっと笑って、何か小さな紙きれを俺に渡してきた。名刺か何かだろうか、そこには、


「リエン商会 監査室室長 イーサン」


 と、書かれている。どうやら、この男はリエン商会の手の者らしい。それが判明すると、騒ぎを聞き、男に疑いの目を向けていた群衆は、ああ、と納得したような顔になり、その場を離れていく。


「監査?」

「ああ。商会に与している商人が、リエンの旦那が定めた価格をきちんと守っているか、違法な取引などはしていないか等、商会の秩序を取り締まっている。

 最近、この倉庫街で、変なもの売ったり、規定以上の金額をとったりといった詐欺行為が多発していると報告があってな。調べていたってわけだ」


 男、イーサンは、俺を騙そうとしていた男を指さしながら、苦々し気に語った。

 大きな商会だと、長であるリエンの目を盗んでそういうことをする奴らも出てくるというわけか。いい勉強になった。

 その後、イーサンは、部下の男達に詐欺師の身柄を渡した。


 そして、俺の方にニカっと笑って口を開く。


「にしても、オッサン。うちのことを信用してくれているのは嬉しいが、鑑定スキル持ってるなら、変な買い物の時にでも、使っておいた方が良いぞ。

 虹鳥の羽なんぞ、普通に売ってても、この領なら銀貨50枚が良い所だからな」

「え……そうなのか? 珍しいものって聞いたから、それくらいはいくものだと……」

「珍しいっつっても、よく出回っているってのは聞いてるだろ? それはつまり、ものはあるが、売れ過ぎて、どこの店も品薄ってことだ。虹鳥は、モンクの南にある山には結構居るからな。それに、レインやシルバからも、大量に、定期的に入って来るようなものだ」


 男はケラケラと笑いながら続ける。虹鳥はどうやら、そこまで珍しい生き物では無いようで、そこらの野鳥とほとんど変わらないらしいが、生息地が限られている。

 この大陸でも、ここらにしか居ないらしく、特に多いのが男の言うところの、モンク南部の山岳地帯だ。

 だが、海を隔てた向こう側の、王都のある大陸には、それこそ、鳩のように大量に居るらしく、羽も、買わずとも拾って、子供たちが遊ぶくらいらしい。

 ゆえに、工芸の材料として需要の高いモンクの商人は、向こう側のギルドや、商人に大量に発注するということも多いという。


「だから、少なくともモンクに住んでいる者は、虹鳥の羽が銀貨500枚するという時点で、あの商人を疑うだろうな。

 それも無く、すんなりと買おうとしたオッサンに、俺が声をかけたってわけだ」

「そうか……それは、手間をかけさせてすまなかったな」

「なあに、気にすんな。それより、本物の虹鳥の羽だが、隣の二番倉庫で見たぜ」

「ん? 総合案内の女は三番倉庫って言っていたが……?」

「お、そうか。まあ、それはあの店主の嘘の報告だろうな。直すように指示しないと……」


 イーサンはそう言って、俺に、じゃあな、と手を振りながら去っていった。

 やれやれ、買い物しようとしただけなのに、エライ目に遭ってしまったな。


 そう言えば、ここに案内してくれた爺さん……あいつも騙されたクチなのだろうか。もしくは、あの詐欺師の仲間か何かか? そんな気配は無かったが、姿が見えないというのは気になるな。


 まあ、良いや。もう、終わったことだし、気にするまいと思って、俺は二番倉庫に移動した。

 こっちは三番倉庫と違って、飯を食うところは無いが、代わりに三番倉庫よりも大きな商品を置いている店が多い。魔物の骨のようなものから、その他素材になりそうなものが置かれ、主に冒険者のような恰好をした者達が多く居る。

 すると、その中に人だかりが見えたので寄ってみると、魔物の牙のようなものを手に取った男が、大きく口を上げて、人だかりに叫んでいるという光景が目に入った。


「さあ~て! お次の商品は、クレナから届いた一級品! 先立ってクレナに出現した天災級の魔物、九頭龍の牙だ! もちろん、今日、ここにあるもので最後だ! もう二度とお目にかかれないこちらを手にするのは誰だ! まずは、金貨10枚から!」


 男は、牙を掲げながら、そのまま競りに入る。ふむ……あれは、俺が倒した九頭龍のものだったか。あの死骸は、アヤメが復興資金などを手に入れるために、人界各地に送られたと聞いたが、ここにも届いていたらしいな。届いていたというか、リエン商会がどこかからか買ったのか。

 冒険者や、貴族のような身なりをした者達は、我先にと自分が出せる額を提示していく。最終的にいくらになるのか気になったが、先ほどの一件で時間が無い。早いところ、本物の虹鳥の羽を買おうと思い、その場を離れた。


 そして、しばらく倉庫内を歩いていると、向かう先に一人の男が立っているのが見えた。


「ん? アイツは……」


 俺はその男に近づき、肩を叩いた。何か、店の品物を眺めていた男はハッとした様子でこちらを振り向く。


「む? アンタは……」

「やっぱり、爺さんだったか。探したぞ」


 そこに居たのは、俺をあの店に案内した老人だった。俺が声をかけると、老人は、首を傾げる。


「どうしたのじゃ? 目的のものは買えたのじゃろう?」

「いや……アンタが教えてくれた店、詐欺師の店で買えなかったんだよ」

「む……そうじゃったか。それは失礼したな」


 老人は、俺に頭を下げる。この様子だと、あそこが詐欺師の店だと知らなかったようだな。何となくホッとし、男の顔を上げさせた。


「気にするなって。それよりも急に姿が見えなくなって心配したぞ」

「すまね……すまないのう。少し急用を思い出したのでな。

 それよりも、その様子じゃと、目的の品は買えなかったようじゃの?」

「ああ、そうなんだ。一応、リエン商会の奴に、二番倉庫にはあるって聞いたんだが……」


 俺は辺りを見回しながら頭を掻く。ここまで広いとなかなか見つからな。一周するしかないのかとため息をつく。

 すると老人はニコリと笑みを浮かべた。


「ふむ……では、再びついてこ……ついてまいれ。案内しよう」

「お、良いのか? ってか、また、詐欺師の店じゃねえよな?」

「安心せい。今度は大丈夫じゃ」


 それなら良いやと老人についていった。先ほど詐欺にあったばかりなので、少々人間不信にでもなるのかと思ったが、老人からは嘘が感じられない。信じても大丈夫だろうと思い、男についていく。


「アンタは、ここの常連か? それとも、商人なのか?」

「商人じゃ。じゃが、もうずいぶんと商いはしておらんがの……」

「あ? それはどういう……?」


 商人なのに、商売をしていないとはどういうことなのだろうか。意味が分からないなと思っていると、男はニィッと笑みを浮かべる。


「まあ、色々とあるのじゃ。っと、着いたぞ。ここじゃ」


 俺がなおも首を傾げている間に、男は一つの露店の前で止まった。先ほどの店と同じく、大きな敷物の上に男が胡坐をかき座っている。その周りには、モンク領の工芸品である、貝殻やビーズで作られた首飾りや、髪飾りのようなものが置かれ、更にビーズや、綺麗な色をした貝殻、魔物の毛束、羽などが箱に入って置かれている。

 店主は、二十代くらいの若い男だ。詐欺師と違い、俺達が寄っていくと、声をかけるまでも無く、表情を明るくさせて、いらっしゃいませ! と、立ち上がった。


 なるほど。ここは安全そうだな。店主の顔から、厭らしさも何も感じない。


「ふむ……ここなら安全そうだな」

「え? 何がですか?」

「何でもない。それよりも、虹鳥の羽はあるか? そこの箱一杯くらい欲しいんだが……?」

「あ、はい! 少々お待ちくださいませ!」


 店主の男は、そばに置いてあった二段の箱の上の部分をどかした。そして、下に置いてあった箱を俺の前に出して、ふたを開ける。

 そこには、先ほどイーサンが見せてくれた虹色に輝く羽がぎっしりと入っていた。

 一応、鑑定スキルを使って視てみると、ちゃんと、虹鳥の羽であることを確認できた。


「こちらでよろしいでしょうか?」

「ああ、確かに。いくらだ?」

「この量ですと、銀貨20枚と銅貨500枚……ですが、お客さんは、初めてですので、銀貨20枚で大丈夫です」

「それはありがたい。では、いただこう……っと、そうだ……」


 俺は、今回はその場に居続けている爺さんに顔を向けた。キョトンとする爺さんは、どうかしたのかという目で俺の顔を見てくる。


「む? 買わんのか? 目的のものなのじゃろう?」

「まあ、買うが、爺さんも何か買いたいものがあったら選べよ。案内してくれた礼に、買ってやるよ」


 俺が笑っていると、爺さんは目を見開く。


「……良いのか?」

「商売が出来ない代わりに、手芸でもやったらどうだ?」


 恐らく、この老人が商売をしていないというのは、どこか、体を痛めたのだろうと考えた。ジゲンに比べると、覇気が無いというか、元気が無い感じだしな。

 まあ、あの爺さんと比べるというのも、酷な話だとは思うが。

 これからの人生の暇つぶしとして、ここに置いてあるような首飾りなどを作っては、それを少しずつ売っていけば良いと提案した。


 すると、老人は目を見開いたまま固まり、しばらくするとフッと微笑んだ。


「そうだ……そうじゃの。それも良いかも知れぬの。すまぬが選んでも良いかの? あー……」

「ザンキだ。冒険者のザンキ」

「む? ……そうか……ザンキ殿……か。お……儂はルオウと申す。では、ザンキ殿、お言葉に甘えさせていただく」

「おう。好きに選んでくれ。店主、ひとまずこれが虹鳥の羽の分だ。先に済ませておこう」

「はい! ありがとうございます!」


 俺が銀貨20枚を渡すと、店主は良い笑顔で俺に虹鳥の羽が入った箱を渡してきた。ようやく、タクマの頼みも終わったかと思い、ルオウが商品を選び終えるのを待っていた。

 そして、ルオウが選んだ、ビーズと、魔物の牙に穴を開けたもの、更に、綺麗な色をした小石と、魔物の核のようなものの金を追加で払った。


「これで……最後、だな」

「はい、確かに! ありがとうございました! 今後ともご贔屓に!」

「ああ。縁があったらまた来るかも知れない。その時もよろしくな」

「世話になった、店主殿。最後に、年寄りからのおせっかいじゃが、この首飾りと羽飾りじゃが、誰が作ったのか明確にすると良い。不格好でも、店主殿が作ったとなると、ひょっとすれば、買う人間も出るかも知れん。あ……お主は、愛想が良さそうじゃからのお」

「あ、はい! ご指導、ありがとうございます!」


 ルオウの言葉に、店主は目を輝かせながら、深く頭を下げる。確かに礼儀正しさで言えば、詐欺師とは比べるまでも無く、グレンと比べても、商人とは思えないほどの腰の低さだ。商人としてはどうなのかと思うが、こういう人間は、普通の客には良い印象にしか映らない。

 この青年が首飾りなどを手作りしているとなると、ここを訪れる人間も増えそうだなと思った。


 これからも頑張れよと、一言伝えて、俺とルオウはその場を離れた。


「大丈夫か? 何なら、家まで持とうか?」


 両手に大きな袋を下げているルオウ。少々重そうだなと思い、手伝おうとしたが、ルオウはニカっと笑った。


「気にするでない。大丈夫じゃ……と言っても、少々疲れたのう。少し、外で休憩しても良いか?」

「ああ、構わない」


 時間もまだ、そこまで暮れているわけではない。というか、例え暮れそうだとしても、飛んで帰れば、充分夕飯には間に合う。

 そう思い、買い物が済んでも、しばらく爺さんの休憩とやらに、付き合うことにした。


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