第293話―初めて冒険者らしさというものを感じる―
次の日、俺は昨晩のお返しと、リンネに頬を舐められて目が覚めた。
欠伸をかきながら、目を開けると、ニコリと笑いながら尻尾を振るリンネと、そばでクスクス笑っているツバキが目に入る。
やられたなあとため息をつくと、リンネは少女の姿になり、俺に飛びついてきた。
「おはよ~、おししょーさま!」
「はいはい、おはよう」
朝から満足げなリンネの頭を撫でてやって、顔を洗いに行く。
そして、準備を整えて居間に向かうと、先に朝食を食べていたタクマが、俺に声をかけてきた。
「あ、おはようございます、ザンキさん。昨晩はずいぶんと楽しそうでしたね?」
「ああ、聞こえていたか。それはすまなかったな」
「いえいえ。仲がよろしいようで、ほっこりしておりました。さて、昨日の件、よろしくお願いしますね」
「はいよ。依頼の後に行うから、帰りは昨日と同じくらいになる。首を長くして待っていてくれ」
「わかりました」
ひとまず今日は、マルドの近くのゴブリン討伐をこなした後に、ギルドに行って、タクマの頼みを完遂する。レイヴァンのどこに何があるのかは分からないが、タクマが簡単な地図を作ってくれたし、どうしても分からなければ、そこらの人間に聞けば良いと思っている。
さて、その後朝めしを食い終えて、今日もツバキとリンネに見送られながら、俺は家を出た。
街の外に出ると、依頼票の資料で指定された地点へと飛んで向かった。この後の用事のことを考えると、余裕をもって終わらせたいからな。少し急いで向かうことにした。
そして、着いたのはマルド近くの山だった。裾野には森が広がっており、ここのどこかに、ゴブリンの棲み処があるという。地図で確認すると、街道にも近いし、さほど離れていない所に集落もある。群れの殲滅が目的ではないが、状況によってはそれも考えておいた方が良いだろうな。
そんなことを思いながら、森の中を進んでいくと、地面にゴブリンの足跡のようなものを見つけた。同一の個体のものなのか、定かではないが、結構な数がそこに散らばっていることに気付く。
ゴブリンも、昆虫型の魔物ほどではないが、繁殖力が強いと聞いた。やはり、殲滅は確定的だなと思っていると、その足跡の中に、一際大きな足跡が混じっていることに気付く。
「げ……上位個体か……?」
恐らくだが、それは、ゴブリンの上位種である、ゴブリンマジシャンや、ゴブリンキングのものだ。こんな所でも不測の事態かよ、と呆れつつ、向こうに知能の高い個体が居ることにも気付いて、深呼吸しここからは慎重に進むことにした。
しかし、突然、俺の後方からわずかではあるが、殺気を感じた。その直後、空を切る音が聞こえてくる。俺は首を曲げて、飛んできた矢を掴んだ。
「チッ……すでに敵陣の真っただ中ってわけか……」
矢を弄りながら、辺りの気配を探ると、地上に三十くらい、木の上に十ほどの気配を感じる。息を潜めるように、自分の正体を気取られぬように、それでいて、確実に俺を仕留めるというほどの殺気を感じた。
それと同時に、少しばかりの優越感と、侮蔑の感情も混じっていることに気付く。
馬鹿め、貴様は俺達の手の中だ、とでも言いたそうだ。
その気配に、何となくむかついた俺は、威嚇の意味で辺りに死神の鬼迫をまき散らした。
その瞬間、あちら側に漂っていた余裕綽々な気配がピタッと止まり、段々と焦りや、恐怖、怯えの感情が漂ってくるようになる。
浮足立つその気配の方向に、俺に放たれた矢を思いっきり投げた。
「ギッ――」
一つの気配が、短い断末魔と共に消えていく。それを確認した後、死神の鬼迫を解いた。ハッとした様子の、俺を取り囲む気配は、一気に激高したように、強い殺意へと変わり、俺に向かって多くの矢と、ゴブリンの群れが姿を現した。
「ギギャ~~~ッッッ!」
「ゲキャ~~~ッッッ!」
それぞれ、こん棒や、旅人から奪ったのだろうかボロボロの剣や手斧を持って襲い掛かってくる。俺は刀を抜き、ひとまず木の上から俺を狙ってくる弓兵ゴブリンに、クナイを投げつつ、地上のゴブリンは癇癪玉や閃光玉で怯ませていた。
そして、弓兵ゴブリンを倒した後は地上のゴブリンを殲滅していく。
「散れえええッッッ! カス共があああッッッ!!!」
出来るだけ、自分でもわざとらしいと感じるくらいまでに、向こうにとって恐ろしくやっている。動きを止めるのなら、死神の鬼迫を使えば良いのだが、この行動は脅し目的ではない。
「ギッ! ギギャッ!」
「ゲッ、ゲギャッ!」
近くの敵を倒していると、離れた所に居るゴブリンが、何か話し始めて、一方のゴブリンがどこかへと向かって行く。
それを確認し、取りあえず群がっているゴブリンを殲滅し、そのゴブリンの後を追った。
仲間が居るのなら、このままおびき出して欲しいものだが……。下手に死神の鬼迫を使うと、この程度の相手なら、上手く加減しないと気絶するからな。
どこからか溢れてくるゴブリンや、血の臭いにつられたのか近づいてくる他の魔物を倒しながら、逃げていくゴブリンを追って行く。
しばらくすると、ゴブリンは一つの洞窟に入っていく。あそこがねぐらかと確信し、俺は洞窟の前に陣取り、その時を待った。
すると、洞窟内から怒号と、ドドドドドッという騒々しい音が聞こえてきて中からゴブリンの群れが姿を現す。
数を見れば三十ほどだ。意外とそこまで多くないなと思っていると、他のゴブリンよりも大きな個体がのそっと姿を現す。
他の個体よりも大きく、重厚な鎧や剣を装備している。クレナでも対峙したゴブリンキングだ。他の奴らはまだしも、コイツだけは斬らなければならないと、ゴブリンたちを迎え撃った。
と言っても、後方で仁王立ちするゴブリンキングめがけて大斬波を放った。斬波は、ゴブリンたちを薙ぎ払っていき、突っ立つゴブリンキングを縦に切り裂き、洞窟の入り口にぶつかり、炸裂するように爆発を起こし、洞窟を塞いだ。
指揮者と棲み処を失ったゴブリンはその瞬間、浮足立ち、俺はその隙に全てのゴブリンを切り伏せた。
「よし……終わりだな。さて……」
全てのゴブリンを倒したことを確認し、俺は神人化して、素材回収の作業に入った。結構な範囲で闘ったからな。それなりの数になっているはずだと思い、数えてみると、ゴブリンだけで121体、寄ってきた他の魔物の死骸が32体に上った。
これはまた、査定の部屋を変えないといけないなあと苦笑いし、俺はギルドに向けて飛び立った。
◇◇◇
レイヴァンに着くと、ギルドへ直行し、素材査定への受付へと向かう。
すると、昨日のように、受付の女はどこかへ行き、ガーレンを連れて戻ってきた。
「よお、待たせたな。今日も結構な数いったか?」
「まあ、それなりにはな。不測の事態も起きたことだし……」
「そ、そうか。じゃあ、取りあえず、またついて来てくれ」
俺が何かやらかしたと察したガーレンは、驚いたような困惑した顔で、昨日と同じくギルドの試験場に案内した。
「ん? 今日はネイマーは居ないのか?」
辺りを見ると、昨日出会った、ここの副支部長ネイマーの姿が見えなかった。どうしたのだろうかと尋ねると、ガーレンは頷く。
「ああ。昨日のアンタの報告にあった奴隷商の店を今朝方、騎士団と鎮圧したからな。その後処理に向かっている」
ガーレンによれば、昨日、俺が報告した違法だと思われる奴隷商に、ネイマーは複数の冒険者と騎士を引き連れて、店を制圧した。
囚われた者達を解放したのは良いが、素性の知れない者が多いらしく、多くは騎士団と共に故郷へ、望んで奴隷商に身を売っていた者達は、リエン商会が管轄する法で認められた奴隷商へ引き渡されることになる。
ネイマーはその仲介や、奴隷商が雇っていた用心棒代わりの冒険者の処理で忙しいらしい。
見た目と違って、意外と真面目と言うか、仕事はきちんとこなすようである。何となく安心した。
「一応、連中にはアンタが情報源ということは伝わっていないようだが、昨日のうちにアンタに接触してきた冒険者やならず者達はアンタの正体が何だったかと喚いていたな……」
「ああ。アイツらか……。そいつらには俺の名前を出しても良い。仮に報復なんぞ考えようものなら、次は本気でぶっ殺すと伝えておいてくれ」
「了解。まあ、もっとも、アンタの正体は気にしていたようだが、同時にひどく怯えているようだった。心配は要らないだろう」
ふむ。結構強めに死神の鬼迫を当てたが、それが功を奏したらしいな。そういうことなら特に問題は無いか。きっちりと、反省して欲しいものである。
「さて、それじゃあ始めるか。依頼はゴブリンの討伐だったな。また、群れの殲滅などしてねえよな?」
「多分、したと思う。先ほども言ったがそれなりに現れたからな。こんな奴も居たことだし……」
俺は最初に、ゴブリンキングの死骸を取り出し、その場に置いた。ガーレン及び、その場にいた査定部門の職員は目を見開く。
「ゴ、ゴブリンキング!? 上位個体じゃないですか! 支部長! こんなのが居たのですか!?」
「お、俺だって知らねえよ! 調査報告には書いてなかったぞ!」
「調査団も、流石に棲み処までは入れないっすからね。あの森に居た奴らの数を調べたってところか」
「まあ、そうだろうな。無茶をさせるわけにはいかないからな……にしても……」
などと、職員たちとガーレンの会話を聞きながら、今度はゴブリンの死骸と、ついでに寄ってきた下級の魔物の死骸を並べていく。
昨日と同じく、闘技場が死骸で埋め尽くされていくと、職員の表情が段々と曇っていった。
「これで、最後だな」
最後の一匹を並べ終えると、職員からため息が聞こえてくる。
「昨日以上だな……」
「そっすね……夕方までに終わると良いんすけど……」
「うだうだ言っても仕方ねえか。やるぞ、皆」
う~すっと、気のない返事と共に、ぞろぞろと前に出る職員たち。
流石に、やり過ぎたかなあと申し訳ない思いになり、ガーレンに頭を下げた。
「何か……すまねえな」
「まあ……ある意味予想通りだ。ちなみにだが、調査報告の数よりも少し多めだな。だから、完全達成かどうかは分からないから、後日再調査を行い、群れの全滅が確認できれば、改めて特別報酬をアンタに渡すことにする」
「ああ、分かった。それにしても……何か手伝おうか?」
ゴブリン一体に職員は二人がかり、ゴブリンキングに関しては、五人以上で解体しているが、やはり時間はかかりそうだ。
今までは、腕利きの職人であるギリアンや、ギリアンの師であるコモンも居る天宝館で行っていたため、こういう作業も意外と早く終わっていたが、そうではないと、俺も持って帰る素材の量を考えないといけないな。
せめて、何か出来るかと申し出ると、ガーレンは苦笑いしながらため息をついた。
「気持ちはありがたいが、魔物の解体は出来るのか?」
む……言われてみれば、出来ないな。切り分けることくらいは出来るだろうが、どれが必要で、どれが必要ないものなのかは分からない。専門の知識を持たない俺は、皆に加わるわけにはいかないか。
「本当に、すまなかったな」
再度頭を下げると、ガーレンは気にするなと肩を叩く。
「まあ、こんなこともあろうかと、用意はしているからな。おい! 予想通りの結果になった! 入ってくれ!」
ガーレンは、闘技場の隅にある控室のような場所に向けて声を上げる。誰に、何を言っているのかとそちらに顔を向けると、ぞろぞろと職人風の男達が姿を現した。
そいつらは、ガーレンに返事をして、皆の作業に加わる。他の職員も呼び出したのかと思っていると、そいつらの中から、見覚えのある奴が俺のそばまで来た。
「う~っす、ムソウ……じゃなかった、ザンキさん。昨日ぶりっすね」
「ああ、お前か……」
声をかけて来たのは、昨日、港で出会った天宝館の職人の男だった。何でこんな所に居るのかと聞くと、俺がギルドに来る前に、男は明日からのクレナへ戻る際の護衛依頼の手続きをしに、ここにやって来たという。
天宝館は十二星天が直接管轄するという、特別な施設ということで、こういった依頼をする場合は、支部長であるガーレンを通さなければならないらしい。
男は、そのままガーレンとの手続きを済ませた。すると、俺がモンクに来ているということを思い出した男は、ひょっとして、査定も大変なんじゃないかと、尋ねたという。
ガーレンは、苦笑いしながらそれに頷き、今日も依頼をこなしているから、仕事が遅くなりそうだと頭を掻いた。
すると男は、護衛依頼の報酬をまけて、冒険者達の斡旋を条件に、今日の解体の手伝いをするということを提案した。
ガーレンは少しだけ渋ったが、奴隷商の一件もあり、正直、手伝いというのは欲しいと感じ、男の提案を承諾し、今に至るという。
「ザンキさんの狩った魔物の解体は俺達、慣れてますからね。ガーレン支部長、期待していてください」
「けッ! いつもと同じ時間までに終わらなかったら、お前の条件は飲まないからな。とっとと、行って来い」
「了解っす。じゃあ、ザンキさん、しばらくお待ちください」
おう、とだけ返事すると、男はここの職員と、天宝館の職人たちの中に入っていき、それぞれに指示を出し始める。
ふむ……昨日、荷物を確認する立場に居たり、護衛依頼の発注に来たりと、あの中では、部隊長のような立ち位置らしいな。ヴァルナの下で働いていると聞いたが、ひょっとして、直属の部下か何かか?
そして、天宝館の職人が加わったことにより、作業の速度は一気に速くなった。基本的に、ここの職員が複数人で行っている解体も、天宝館の職人だと、一人で行ったりもしている。
普段、世話になっているから忘れかけていたが、天宝館は世界一の工房だ。コモンやヴァルナだけでなく、そこらに居る職人でも、普通の人間と比べるとここまで違うのかと、改めて感じた。
何はともあれ、これなら早く済むなと、ガーレンと笑いながらその光景を眺めていた。
そして、あっという間に解体作業は終わり、素材をギルドの異界の袋にしまっていくギルドの職員と天宝館の職人は、この後一杯どうだ? とか、和気あいあいとしていた。
皆を指揮していた男は、書類を手にしながら俺とガーレンの元へと近づいてくる。
「解体結果っす。どうっすか? だいぶ早く終わったと思ったんすけど?」
「ったく……文句無い働きだった。流石、天宝館の職人だな」
「こういうのは、ほとんど毎日鍛えられていましたからね」
男はちらっと俺に視線をぶつける。クレナの時は、コモンが居るから、まだ楽だろ、と笑い返すと、違いねえ、と男は笑った。
「ま、こちらが助かったのは事実だ。約束通り、報酬の件と、冒険者達の斡旋は任せてくれ。明日の朝に出発だったな?」
「そっすね。五台の馬車で行くので、少なくとも七パーティは欲しい所っす」
「了解だ。すぐに取り掛かろう」
「じゃあ、俺はこの辺で。ザンキさん、今度こそ、お別れっす。クレナへ戻られるのを館長と共にお待ちしております」
「ああ。お前も元気でな」
天宝館の男は、一人の職員に連れられて、その場を去っていった。
「さて、では、アンタへの報酬の受け渡しだな。え~と……面倒だな。詳細は自分で確認してくれ」
「はいはい……」
要綱が多いらしく、しばらく査定結果を眺めていたガーレンは、頭を掻きながら、査定受け取り票と、売却金が書かれた紙を渡してきた。
依頼の基本報酬は銀貨30枚だったが、素材は全て売却し、その他、ゴブリンキングなどの素材も売却することになったので、合計の報酬は金か数枚にまで上っていた。
意外と稼げるものだなと思いながら書類を眺めていると、横でガーレンが笑った。
「にしても、昨日、今日と凄い額だな。これを元手にカジノに行けば、更に稼げるんじゃないか?」
「カジノには行くつもりだが、そこまではしねえよ。この金は他のものに使うつもりだ」
クレナに帰って、皆への給金だったり、屋敷の維持だったりと色々と金は使うからな。賭場に行って負けるよりは、こうやって貯めていった方が、俺の性に合っている。
あくまで、カジノには遊びに行くつもりであって、金稼ぎのつもりでは行かないと、言うと、ガーレンは、感心したように頷く。
「なかなか殊勝な心構えだな。他の冒険者にも見習って欲しいものだ」
「だが、ああいう奴らのおかげで、ここのギルドは成り立っているようなものだろ? 俺は寧ろ、クレナの冒険者共に、ここの冒険者達のことを見習って欲しいと思っている」
「ああ……その辺りのことは、“暴れ姫武将”によく言われている。あの女も大変だよな」
ガーレンは頭を掻きながらニカっと笑った。冒険者が依頼以外の魅力でここを訪れるというのは、クレナとほとんど同じような状況だ。しかし、冒険者の質は、モンクの方が高い。
遊ぶために依頼をどんどんこなしていく冒険者を抱えるガーレンは、遊んでいる所為で依頼をこなさない冒険者に悩まされているアヤメに目の敵にされているようだ。
「まあ、報告じゃ、ここ最近はアンタのおかげで、あそこも段々と普通になっているようだからな。次の支部長会議は楽しみだ」
「ん? 次はいつ頃なんだ?」
「確か、二週間後だったか。今回の議題は主に、クレナの騒動と、それに付随して現れた転界教への対策だと、報せが来ていたな」
冒険者ギルドでは、年に数回、各支部長と副支部長が王都に集まり、それぞれの領の問題事を話し合ったり、その他素材や商品の価値を設定する支部長会議というものが開かれている。
綿密に連携を図ったり、それぞれの領での冒険者達の力の均衡を図るためにも必要なことだと、アヤメに聞いたことがある。
次に行われる支部長会議では、ガーレンが言ったように、クレナとチャブラでの騒動を、ツバキの報告書を元にまとめて、二度とああいったことが起こらないように、各支部で協力していくための話し合いと、転界教への対策について話し合われるそうだ。
「なるほどな。ちなみに、アンタはどういう対策をとるつもりなんだ?」
「俺か? まだ、よく分からないからな。ひとまずは、“暴れ姫武将”や、シンジ様の話を聞いて考えるとする」
「……そうだな。下手に今から動くよりも良いかも知れないな」
転界教の多くは、恐らく貴族が絡んでいるということは、シンキと何となくだが予測を立てている。大っぴらに行動が出来ないとなると、皆で話し合った後に、慎重に行動した方が良いかも知れない。
俺も、下手に個人で動くよりも、会議で決まったことを聞いてから動いた方が良いだろうな。
ちなみに、今回の支部長会議は、同じような目的で行われる領主会議と、騎士団会議、更に十二星天が全員集まって会議を行う、「天上の儀」と同時進行で行われるらしく、当日は、世界中の領主や師団長、支部長が王都に集まることになるらしい。
久しぶりにロウガン達に会えるのなら行きたいものだが、王都には俺を嫌っているセインらも居る。諦めた方が良いかもなと思っていると、ガーレンが、あ、と言って、俺の肩を叩き、意地悪そうに笑みを浮かべた。
「そういや、議題の一つに、「冒険者ムソウへの処遇と褒章の授与」ってのもあったな。近々、王都に呼ばれるかも知れないぞ?」
「えぇ……それは……嫌だな……」
面倒なことを聞いたものである。処遇の方は、今までの感じから特に危機感は持っていないが、問題は、褒章だ。俺の方からも断り辛いからな。ただ、貰うとなると目立ってしまうから、出来る限り断りたい。
そういうのは、元から有名なジゲンが貰っとけと思いながら頭を掻いた。すると、ガーレンは大笑いする。
「ハハハッ! だろうと思った。アンタは、褒美とかそういうのはどうでも良さそうだからな。
まあ、アヤメもロウガンもその辺りのことは分かってると思うし、何なら俺の方からも、本人が嫌がっていたと進言しておこうか?」
「ああ、すまない。頼むよ、ガーレン」
「了解だ。ま、気が変わったらまた、声をかけてくれ。じゃあな」
そう言って、ガーレンはその場を去っていった。この後は、先ほどの天宝館の男と約束したように、冒険者の斡旋でもするのだろうな。
褒章についてはこれで恐らく大丈夫だろう。そう思っていると、ギルドの受付の女が、報酬の入った袋を持ってやってきた。
「お待たせいたしました、ザンキさん。支部長から、査定は終わったと聞きまして、報酬をお持ちしました」
「ああ、ありがとう」
「今回も凄い金額ですので、お気を付けください」
クスっと微笑みながら、報酬を渡してくる女。そういや、名前は何ていうのだろうかと思っていると、胸に名札を下げていることに気付く。そこには、「シア」と書かれていた。
「ありがとう。え~と……シアさん、で良いか?」
「あ、シアで構いませんよ、ザンキさん」
「分かった。では、シア、少し頼みたいこと、というか、聞きたいことがあるんだが?」
「はい、何でしょうか?」
俺は懐から、タクマとグレンから預かった、買い付けてくれと頼まれた商品の一覧をシアに渡した。
「知り合いの商人に、頼まれたんだが、そこに書いてある品はギルドにあるか?」
「え~と……今すぐは分かりませんね。しばらく時間がかかりそうですが、よろしいですか?」
「ああ。じゃあ、俺は酒場で飯食ってるから、また、声をかけてくれ」
「かしこまりました」
シアは頭を下げて、その場を離れる。俺も、闘技場を出て酒場へと向かった。相変わらず多くの人間で盛り上がっているが、開いている席はあった。ひとまずそこに座って、目についた職員に飯を頼んだ。いつもどおり、ここのお任せでと伝えると、引っ込んでいく職員。
しばらくその場で、ギルド内や、窓の外を眺めていた。依頼票を眺めたり、受付へと向かう他の冒険者達を見るのは、何だか久しぶりな気がする。クレナではそんな奴らをほとんど見なかったからな。
マシロにも居たには居たが、ここよりも数は少なかった。少なくとも、三つある受付がすべて埋まっていて、列を成しているという光景はここが初めてだ。本来はこうあるべきんだよなと思っていた時だった。
「なあ、ちょっと良いか?」
「ん?」
不意に声をかけられる。呼ばれた方を向くと、俺よりも少し年下くらいの男の冒険者と、若い短剣使いの男、弓を下げている女、騎士団のクレナ師団長エンライのように、大きな盾を背中に背負った男が、目の前に立っていた。
クレナの時みたく、また、絡まれるのかと思っていたが、どうも違うらしい。そこまでの敵意は感じなかったので、声をかけてきた男に答えた。
「何か用か?」
「いや……その恰好を見る限り、アンタはクレナの人間か、もしくは、クレナから来たものだと思ったが、あっているか?」
「ああ。その通りだが?」
「なら丁度いい。少し、話しを聞きたいんだが……?」
男は、俺の向かい側に座り、事情を説明した。なんでも、コイツ等は、この男を隊長とした、冒険者の一団らしく、明日から、例の天宝館の輸送の際の、護衛依頼に取り組むらしい。ついでにクレナにも行きたいとのことだが、先日まで壊滅状態だったクレナが、今どういう状況なのかということを教えて欲しいとの事だった。
ちなみに、男を見ながら、どこかで見たことがあるなあと思っていたが、話しながら気付いた。俺が初めてここに来た時に、喧嘩をおっぱじめた冒険者とその仲間達だ。依頼をかっさらわれた方だな。
男によれば、モンクの報酬よりもクレナの報酬の方が高いという噂を聞き、ひと稼ぎしたいとのことで、ついさっき、ガーレンから話を聞いて、すぐさま、依頼を受注したという。
「ふむ……そういうことなら、構わない。何でも聞いてくれ」
「助かる。じゃあ、まず、クレナが復旧したって話は本当なのか?」
「ああ。ギルドもきちんと機能している。トウショウの街も前よりも立派なものになっている。無論、妓楼もな」
「そうか。そいつは楽しみだな。それから、依頼の報酬がここよりも若干高いってのは本当か?」
「それも本当だな。アヤメ……殿は、少なくなった冒険者を呼びこむために、報酬を高く設定したと言っていた。若干どころじゃない。ここの十倍くらいにまで跳ね上がっている」
「何!? てことは、下級の依頼でも、銀貨100枚はいくのか!?」
「ああ。一儲けしたいなら、確かに、今のうちにクレナに行った方が良いだろう」
男の質問に答える度に、目の前にいる男たちの表情が明るくなっていく。
そして、男があまりにも騒ぐものだから、そこらで暇そうにしていた冒険者達もぞろぞろと集まってきた。
やはり、報酬を上げたことは、結構効果が出ているようだな。出来ればもう少し広まって欲しいものだ。闘鬼神だけでは、少し辛いからな。
そんなことを思っていると、男達から更に質問は続いていく。
「オッサンの装備も上物だよな? ひょっとして、天宝館のものか?」
「ああ。専属の職人に作ってもらった。それなりに金は払ったが、これで更に儲けられるのなら安いものだ。ちなみに、天宝館では、紹介状が必要になるが、お前らはその心配は無さそうだな」
「あ、それは、良いことを聞いたな。このあたりは依頼主と交渉でもするか」
「トウショウの里にはさ、今、事件を収めたムソウって人や、何人かの十二星天、それに、クレナの“刀鬼”も数年ぶりに帰ってきているって本当なの?」
突然出てきた自分の名前に戸惑うが、表に出さずに、首を傾げる。
「さあ……俺はムソウって奴には会わなかったが、コモン様は天宝館に居たようだし、ジゲ……“刀鬼”殿もこの眼で見たからな。あまり、派手なことは出来ないだろうな」
「それなら、安心ね。うちの馬鹿が無茶できない状況みたいだから」
「何だと? 俺はそこまで無茶やらねえだろ」
弓を下げた女の言葉に、男が食って掛かるが、他の者達はやれやれと肩をすくめる。こないだ喧嘩をしていた時も、常習っぽかったし、色々他にもやっているのだろうな。
街の中で暴れて、ジゲンに雷を落とされないことを祈っておこう。
「新しくなった妓楼ってのはどんなんだ? これに関しても情報が少ねえから分からねえんだ」
「う~ん……俺も中には入ったことが無いから分からないな。ただ、めちゃくちゃデカくはなっていた。
ちなみに、アヤメ殿によれば、妓楼に行きたかったら、最低でも一つは依頼に取り組まないと、冒険者は入られないと言っていたぞ」
「あ? なんで、んな、面倒なことを?」
「ひょっとして、クレナを拠点にしていたケリスとかいう貴族が抱えていた冒険者が、妓楼や花街で遊んでばかりで、依頼に取り組まなかったって聞いたことがあります。その所為でしょうか?」
「その通りだな。アヤメ殿は、ここと同じく、遊ぶなら働け、働いて稼いで、遊べ、と申していたぞ」
少し脚色はしたが、おおむね間違ってはいない。妓楼のことについて、頭を抱えていた男の冒険者は、なるほど、と頷き、ため息をついた。
「ッたく……あそこの冒険者は、質が悪いと聞いていたが、本当らしいな」
「まあ、そのおかげで、報酬額が跳ね上がっているんだから、うちらは文句ないわね」
「ですね。しかし、その冒険者の皆さん、今は行方不明だって聞きましたよ?」
俺達の周りに集まっていた冒険者のうち、魔法使いのような恰好をした女が呟くと、一様に、ああ、そう言えばという顔になっていく冒険者達。
俺も、その言葉に思い出した。ケリスによってクレナに集まった冒険者達。その間は、ケリスに服従し、暗躍していた。樹海や雷雲山から逃げる闘鬼神を襲ったのも、奴らである。
その件もあり、俺もダイアン達もどこかで会ったら報復しようかと思っていたのだが、サネマサ達にやられて以来、姿を見せていない。シンジ達でも、行方は未だに掴めていないそうだ。
一体どこに居るんだろうか……。
「まあ、今はそんな奴らのことはどうでも良い。にしても、クレナは、今の所ここよりも、儲けられそうだな」
「ええ。向こうに着いたら、しばらく滞在して、その間に稼ぐわよ」
団長っぽい男と、弓使いの女の言葉に、他の者達は頷いた。
「クレナがそんな感じなら、俺達も受けてみるか、護衛依頼」
「そうだな。装備も一新したいことだし」
「私達は、まだ止めておきましょう。今日中に準備というのは、少し難しいですからね」
「ああ。元よりそのつもりだ。誰かさんの所為で、金もあまり無いしな」
「アナタの所為でしょ? あそこで止めてくださいという私の言葉を無視した結果です。少しは自重してください」
などと、集まってきた冒険者は、護衛依頼に前向きな者や、今のところ、金が無く、準備のしようがなくて、諦める者と様々だった。
十代くらいの魔法使いの女に、二十代後半の無精ひげを生やした男が説教されながら小さくなっていく姿を見て、俺達は笑っていた。
すると、集まっていた冒険者を押しのけて、一人の大男がどかどかと歩み出てくる。大男は、俺と話していた男と、いきなり肩を組んできた。
「おうおう! 何だ何だ!? テメエ、やっぱりクレナに行くのか!?」
「チッ……テメエか……」
男は、額に手を当てて、はあ、とため息をつく。
って、よく見たら、この大男、俺がここに来た時に、前に座っている男と喧嘩をしていた奴じゃねえか。顔を見ると真っ赤だ。昼間から呑んでいるらしい。
また、面倒なことにならないと良いが、と思っていると、目の前の状況は、俺の予想に反した様子になっていく。
「ッたく……飲み過ぎじゃねえのか?」
「あ? こんなの飲んだうちに入んねえよ! それよりも、だ! お前、クレナに行くのか?」
「ああ。ちょっと稼いでくる。最近負けっぱなしだからな」
「ハッハッハ! おうおう、行って来い、行って来い! 俺は、ここに残るぜ~!」
「この野郎……その様子だと、昨日も勝ったな? ちったあ、奢れよ」
「俺の金だからな。俺がどうしようと勝手だろ! だが、困ったな……」
「あ? 何が?」
「お前が居なくなったら、いつものゲン担ぎの殴り合い、誰がやってくれんだよ……?」
「知るか! 他の奴でやっとけ! んで、見つからず、そのまま、負け続き人生に戻っとけ!」
「言ったなあ~、このやろ~!」
二人はいつの間にか、笑顔でじゃれ始める。コイツ等の仲間達はやれやれと言った感じに、二人を止めようとしなかった。
俺が呆気にとられていると、それに気づいた弓兵の女がこちらに視線を向ける。
「あら、どうかされたの?」
「いや……コイツ等、こないだ喧嘩してなかったか? 仲が悪いのかと思ってた……」
「あ、おじさんは、ここにはあまり来たことが無いのね。えっとね……」
と、女と他の冒険者が二人の関係について教えてくれた。
この二人は、ここで同じ日に冒険者として登録した同期であり、その場で意気投合したという。その後、一週間での報酬の合計金額や、カジノでどれだけ儲けたかを競い合ったりしているという。
偶に、喧嘩することもあるが、次の日にはケロッと忘れたように、酒を呑んだり、偶に二つの部隊で依頼をこなしたりと、お互いの仲間たち同士も仲が良いという。
この二人の面白い所は、お互いにカジノで負ける日々が続くと、イライラを発散させるために、殴り合いの喧嘩をするらしい。それに、勝った方は、カジノに行けば勝てるという、変な習慣があるという。
事実、ここ最近は俺と話していた男が負け続け、一昨日からは大男がカジノで大勝しているらしい。
喧嘩と、カジノの勝敗が関係しているかどうかは別として、二人が仲が良いというのは間違いないようだ。
何となくいい関係だなと思いながら、二人のじゃれ合いを眺めていると、俺と話していた男は、再び、はあ、とため息をついて、俺を指さしてきた。
「まあ、ゲン担ぎってんなら、このオッサンと腕相撲でもしたらどうだ? 動乱があったクレナからわざわざここに来たって言うんだし、装備も一級品だ。かなりの運も持ってんだろ?」
「あ? このオッサンが? ……って、本当だ。すげえ装備じゃねえか!」
「流石に見ず知らずのオッサンと殴り合うのは嫌だろ? 支部長にも怒られたばかりだし、今回は腕相撲で我慢しろよ」
この大男に、オッサン呼ばわりされたくはないなあと頭を掻いていると、俺の着物をまじまじと見ていた大男は、ニカっと笑った。
「いい考えだな! 流石、俺の心の友だ!」
「やめろよ。ガキじゃあるまいし……」
「ハハハ! まあ、そう言うなって……てことで、オッサン、頼むわ」
大男は、笑いながら、机に肘を置き、手を俺に出してきた。
大男の心の友である男は、俺にすまねえ、という仕草を送り、苦笑いしながら少しだけ頭を下げる。
巻き込んでしまったという罪悪感があるならやらなければ良いのにな。
……と、思いつつ、俺も何だか楽しくなってきて、息を吐いた。
「まったく……期待に添えられるかどうか、分かんねえからな」
そして、俺も机に肘を置いて、大男の手を強く掴んだ。
俺が乗り気なのが意外と思ったのか、俺に頭を下げていた男は少しだけ目を見開く。
だが、すぐにフッと笑って、俺と大男の手を包んだ。
「オッサンも大した男のようだな。さて、これから二人がやり合うみたいだが、お前ら、どちらが勝つか、賭けでもするか?」
男は、集まった者達に、そう持ち掛けた。モンクらしくて、俺も嫌じゃない。すると、周りから威勢の良い声が上がる。
「良いねえ~! じゃあ、俺はジーゴの旦那に銀貨10枚」
「俺もジーゴに銀貨5枚だ!」
「じゃあ、私はおじさまに、銀貨1枚ね」
「俺も、アンタに銀貨10枚だ! しっかりやれよ~!」
俺を取り巻く者達は、男の用意した箱の中に、金を入れていき、いくら賭けたかを記入していく。見た感じ、大男……ジーゴに少し分があるようだな。
「お! テメエらの期待に応えてやるぞ!」
「良いぞ~! ジーゴ~!」
「あっという間にやっちまいな!」
ジーゴが煽ると、群衆から更に声が上がる。
む……少しだけ自信が無くなって来るな。だが、少なからず俺に賭けてくれている奴らも居るんだ。俺も、場を盛り上げようと、その場で笑みを浮かべた。
「吠え面かいてんじゃねえぞ? 今のうちに財布の心配でもしてな!」
「言うねえ~、オッサン。嫌いじゃねえ……おい、バッカス、まだか?」
「ちょっと待て。俺が賭けてねえ。
……じゃあ、俺も大穴狙いでオッサンに賭けよう」
「お? カジノで負け続きのバッカスがオッサンに賭けたってことは、勝ち確だな! お前ら、今のうちに喜んどけ!」
ジーゴの言葉に、更に盛り上がる冒険者達。
事の発端となった男の冒険者バッカスは、俺の肩をポンポンと叩きながら、頼んだぜ、と言って、ニカっと笑う。配当を見ると、俺が勝ったら、賭けた金額の三倍は帰って来そうだからな。ニヤニヤしつつも、目からは、本気さが伝わってきて、やれやれと思った。
「アンタも、財布の心配しとけよ。入りきらねえかも知れねえからな」
「お、んじゃあ、期待しておこう! じゃあ、二人とも、良いか?」
「早いところ頼む。この後用事があるんでな」
「俺もだ。今日もカジノで爆勝ちしてやらねえとな!」
未だに勝てると思っているジーゴと、黙って力を込める俺を見て、バッカスは頷いた。
「それじゃあ始めるぜ。両者……はじめ!」
「ッ!」
「フンッ!」
バッカスが手を離した途端、ジーゴは思いっきり俺の手を握り、強い力で押してきた。手加減ねえな、コイツ。常人なら手首から上がつぶれるんじゃないかというくらいだ。
コイツと互角の殴り合いをしているというバッカス。この二人も、割と冒険者の中では実力者なのだろうな。
しかし、この状況……バッカスが話しかけてきた時から、今、この瞬間まで、何となく、良いなと感じた。何と言うか、冒険者らしいというか、“古今無双の傭兵”として、大陸中を転々としていた時のことを思い出す。
行く先々で、元反乱軍の将と酒を呑みながらこんなことをしたり、ゴウキやエイキの家に行った時などは、俺達の勝負を賭け事にするような奴らも居た。
何となく、懐かしい気持ちになっている。
「ぐぬぬぬぬぬ……」
……懐かしい気持ちになるくらい余裕だ。正面を見ると、顔を真っ赤にしたジーゴが必死に俺の手を押している。ジーゴに賭けていた奴らは少し顔色を悪くしながら、こちらを眺めている反面、俺に賭けていた奴らは、少々驚きながらも、口元を緩めている。
バッカスに至っては、信じられないという感情と、期待を込めるような目で俺の方を見ていることに気付く。
力は申し分ないと思う。そこらの冒険者よりは強いのだろう。というか、力だけなら、ダイアン達とも互角以上だ。
だが、ゴウキ程じゃない。アイツの馬鹿力に比べれば、これくらいは児戯だ。仮にあいつが相手なら、既に机が砕け飛び、俺の手は床にめり込んでいるだろう。
そして、やり過ぎだと、怒った俺の足がゴウキの顔にめり込んでいるだろうな。
なおも、力を込め続けるジーゴに、俺は笑みを浮かべた。
「今日は……カジノに行くのは……やめとけッ!」
「ウオゥッ!?」
俺は、一気に力を込めて、ジーゴの手を机に叩きつける。ドカンという大きな音と共に、ジーゴの手の甲は机の表面を少しだけ砕いた。
「痛ってえええええ~~~ッッッ!!!」
手を離すと、ジーゴは飛びあがり、手の甲にふーふーと息を吹きかけている。すると、呆気にとられていたバッカスが小刻みに震えて、俺の手を高く上げた。
「ッしゃあ~! よくやったぜ! 勝者は、クレナから来たオッサンだ!」
バッカスが宣言すると、ジーゴに賭けていた者達は、頭を抱えながら、あ゛~! と崩れ落ち、俺に賭けていた者達は、両手を上げながら、うお~! と、喜んでいた。
「本当にありがとう! え~と……」
「ザンキだ。冒険者ザンキ。よろしくな、バッカス」
「こちらこそ、だ! 感謝するぜ、ザンキ!」
バッカスは、俺の胸に拳を当てながらニカっと笑う。そして、俺に賭けていた者達に配当金を渡し始めた。
俺は床に膝をつくジーゴに近寄り、手の甲に回復薬をかけた。
「大丈夫か?」
「あ、ああ……問題ない。にしても……大したもんだな、オッサン。酔いも醒めたぜ……」
「そいつは、どうも。で? 今夜もカジノに行くのか?」
体を起こしながら、そう尋ねると、ジーゴは、苦笑いしながらバッカスに視線を向けた。
「チッ……辞めておこう。アイツが居ない間に、依頼でもやりながらのんびり稼ぐとしよう。で、戻ってきたら、カジノへ繰り出す……良いな!? バッカス! テメエも、クレナで稼いで来いよ!」
「ハッ! 良いゲン担ぎが出来たからな! テメエが腰抜かすくらい稼いできてやらあ!」
「よ~っし! 今日は飲むぞ~!」
「「「「「お~!」」」」」
ジーゴの言葉に、その場にいた奴らは、両手を上げて声を上げる。
明日から仕事の奴らには無理するなよと言うと、そん時は、俺達の酔いも醒ましてくれと、俺に言ってくる冒険者達。
クレナでは確実に無かった、こういう絡みならいつでも大歓迎だと、俺はその場にいた奴らに混ざりながら笑っていた。
冒険者ギルドのお約束、何かにつけて腕相撲を、ようやく消費出来て良かったです。




