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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
ツバキが里帰りする
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第291話―モンクで依頼に取り組む―

 翌日の早朝、俺は身支度を整え、依頼をこなす時の装備を確認し、ツバキの家を出た。取りあえず、夕方には帰るという旨を伝えると、ツバキもリンネも笑顔で見送ってくれた。

 リンネに、今日も頑張るんだぞ、と頭を撫でると、嬉しそうに笑いながら両手を上げて、やる気を見せてくれる。

 そして、俺が通りに向かっていると、二人で手を振りながら、


「「行ってらっしゃい」」


 と、言ってくれていた。

 何となく懐かしい気分になりながら、通りを進み、街の外を出て神人化する。


 今日は、レイヴァンに行き、依頼を受注する。その際に、ガーレンに手紙を渡し、ツルギ達の件について話し合った後、依頼に出かける。

 今日中に依頼が片付けば良いのだが、遅くなったら素材は明日になるかも知れないなあと思いながら、飛んでいくとあっという間に街が見えてきた。


 そして、門へと続く橋の手前で神人化を解き、レイヴァンの街に入った。少し早く着きすぎたかな。初日と比べると、そこまで人は多くない。マルドのように、店の準備をしている光景が目に入る。

 ギルドもまだ、開いてないのかと思ったが、到着してみると、何人かの冒険者が中に入っていくのが見えた。


「うぅ~……昨日は飲み過ぎたな……」

「大丈夫っすか~?」

「カジノで大勝ちしたからって、はしゃぎ過ぎよ」


 などと話しながらギルドに入っていく、オッサンと、若い男女の冒険者達。二日酔いのようだが、そこまで落ち込んではいない様子。会話の内容から、カジノでいくらか儲けたらしいな。

 それでもこんな朝早くからギルドに来るとは、何とも、クレナの冒険者に見習って欲しいものである。


「いよ~し! 今日も稼ぐぞ!」

「ええ。このままだと路銀が底を尽きますからね……」

「あそこで止めときゃなあ~……」


 お、今度は威勢は良いが、カジノでは負けたと思われる一行だ。三十前後の剣を背負った男と、魔法使い風の若い男、そして、女の獣人という組み合わせだ。

 若い男と獣人の言葉に、ギクッとした様子の男。ああ、ああいう奴らも居るのか。やはり、賭け事はのめり込まない方が良いんだなあと思っていると、取りあえず、今日は稼ぐだけ稼いでも、カジノは禁止という魔法使いの男の言葉に、渋々ながら頷く剣士の男。

 三人はそのままギルドに入っていった。よく見ると、それからも続々と冒険者がギルドに入っていく。

 こういう光景は、ここ最近あまり見たことが無かっただけに、少し新鮮な気持ちになりつつ、これが当たり前なんだよなあと、クレナの現状を憂いながら、俺もギルドの中に入った。


 そして、依頼票のある場所まで行く……が、人だかりが出来ていてよく見えなかった。

 取りあえず、群衆の後ろの方に立って、前の奴らが選び終えるのを待っていた。


 すると、ここで横の冒険者に肩を叩かれる。


「なあ、オッサン」

「ん?」


 声をかけて来たのは、二振りの刀を腰に差した二十代後半くらいの男だった。無精ひげを生やし、肩当てと、胴当てだけという軽装の格好をしている。

 その男の横には、男と同じ様な恰好で、杖を持った髪の長い女が立っていた。こちらは二人組の冒険者らしい。


「ここらじゃ、見ない顔だな。他の領から来た冒険者か?」

「ああ。クレナから来た」

「ああ、あの大変だった領の……大丈夫だった?」

「ああ。俺はトウショウの街とは別の街の人間だからな」


 一応、そういう返事をしようと決めている。この方が、面倒な問答を繰り返さなくて済むからな。


「そうか。いや、ここのギルドにはよく来るんだが、初めて見る顔だったからな」

「それに、装備が凄そうだから、気になっちゃって」


 あ、これは盲点だったな。今、身に着けている素材は、ほとんどが災害級の魔物の素材で、しかも天宝館の職人の手によって出来ている。鑑定スキルを使うまでも無く、強力な装備というのははたから見ても分かる。

 ジロジロと俺の装備を見てくる二人にどう答えようかと思ったが、取りあえず、あることを思いついた。


「まあ……クレナは依頼をこなす冒険者が少ないからな。その分、報酬も他よりも良いって聞いて、何回かやってるうちに、ちょっとした小金持ちになっただけだ」


 これは、嘘ではない。アヤメから聞いたものだ。苦肉の策というやつだが、冒険者に依頼をこなしてもらうために、他の領よりも若干、報酬を多くしたとのこと。

 特に今は、元から多かったのだが、ケリスとの一件に寄り、冒険者の数が前よりも減って、ダイアン達だけが、依頼をこなしているという現状になっている。上級以上は無いとはいえ、数の多さは、前のように戻っていることから、報酬の額を上げたそうだ。

 ちなみに、財源は九頭龍の素材を王都に売って得た利益で、そのあたりの手筈はシンキが整えていた。

 どうか、これで納得してくれと思いながら、二人を見ると、何やら驚愕した表情になっていく。


「え……ホントか!? それ。なら、ここで依頼をこなしてカジノ行くよりも、確実に稼げるってことか!?」

「ま、まあ、そうだろうな」

「じゃあ、取り合えずクレナに行くまでの旅費を貯めて、私達もあっちに行って、稼ぎましょ!」

「だな! じゃあ、早速……っと、オッサン! 貴重な情報、感謝するぞ!」


 二人は顔を輝かせながら、依頼票の前に立ち、幾つか選んだあと、受付まで持っていった。依頼の重複をする当たり、腕に覚えのある冒険者らしい。

 これで、良かったんだよなと思いつつ、俺にも番が回ってきたので、どんな依頼があるのか確認した。


 ……


 ミニデーモンの討伐 報酬銀貨30枚 素材の買い取り応談 (報酬は討伐数により変動) 要戦闘向きスキル

 スライムの討伐 報酬銀貨30枚 素材の買い取り応談 (報酬は討伐数により変動) 要戦闘向きスキル

 一角兎の討伐 報酬銀貨30枚 素材の買い取り応談 (報酬は討伐数により変動) 要戦闘向きスキル

 ワイアームの討伐 報酬銀貨30枚 素材の買い取り応談 (報酬は討伐数により変動) 要戦闘向きスキル

 人面樹の駆除 報酬銀貨30枚 素材の買い取り応談 (報酬は討伐数により変動) 要戦闘向きスキル、火属性魔法取得者

 バースト・ボアの討伐 報酬銀貨100枚 素材の買い取り応談 (報酬は討伐数により変動) 要戦闘向きスキル

 剣牛の討伐 報酬銀貨100枚 素材の買い取り応談 (報酬は討伐数により変動) 要戦闘向きスキル、感知系スキル、および魔法取得者

 ・

 ・

 ・


 ……


 お? 結構あるなあ。しかも討伐依頼が主だ。まあ、モンク自体が広いからな。

 そして、この他にも王都やコクロなど、他の大陸に行く船の護衛なんてものもある。

 まあ、今日はツバキの家に帰りたいのでこれは無しだな。

 それから、やはりクレナの依頼は、報酬が良いんだなと改めて感じる。現状、ここの下級の依頼を全てこなしたとしても、クレナで中級一つを終わらせるだけで、釣りが出るほど違う。


 さて、どれにしようか……。見覚えのある魔物名もあれば、無い奴も居る。すでに敵が分かっている安全な依頼にするか、敢えて、知らない奴にするか悩んでいた時だった。


「チッ……早くしろよ……」

「いつまでかかってんだ……クソッ」


 背後から、殺気と共に、ひそひそと何か聞こえてくる。これは、早めに選ばないといけないなと感じ、取りあえず、目を瞑って依頼票を剥がした。

 そして、目を開けて確認したそれは、こないだの狩り勝負の時に、ツバキ達が狩っていた剣牛の討伐だった。

 この中では比較的に報酬が良い依頼だ。それに、群れだと普通の冒険者では手こずる相手だとヴァルナが言っていた。

 なら、問題ないなあと思いつつ、大きくため息をつき、俺の後に依頼票の前に立つ冒険者達の冷たい視線を潜り抜けて、受注の受付の元へと向かった。


 三つある窓口の中で、俺はこないだの女の前に立った。


「依頼を受注したいんだが……?」

「はい……あ、一昨日の……え~と、ザンキさん、でしたっけ?」

「ああ。今日は普通に依頼をこなしに来た」

「かしこまりました。では、依頼票をお預かりします」


 女は依頼票を手に取り、奥の部屋へと向かった。

 その後、どこのギルドとも同じように、支給品とみられるものと、魔物の資料を手にして戻ってくる。


「では、こちらが依頼達成のための支給品と、剣牛に関する資料となっております。剣牛は群れで行動することが多いです。なので、討伐の達成度合いによっては、報酬も増額されますので頑張ってください!」


 ほう……ここの領では、聞いても居ないのにそんなことまで教えてくれるのか。まあ、依頼によっては取り合いになるくらいだからな。中級の依頼でも、頑張り次第ではどれだ稼ぎに違いが出るのかは示した方が良いということだろう。

 女の言葉に分かったと、頷き、その場を後にしようとした。


 だが、ここで手紙のことを思い出し、立ち止まる。


「あ、それと、この手紙をガーレン支部長に渡してくれないか?」

「え~と……こちらは?」

「ガーレンの故郷の者からだ。村の現状について知って欲しいとのことらしい」

「なるほど……かしこまりました。必ずお渡しいたします」


 女は頷き、手紙を懐に仕舞った。内容については未だに分からないが、後で依頼の達成の報告に来た時にでも尋ねてみよう。


 さて、ギルドでの用事は済んだということで、建物を出て、露店で買った串焼きを食いながら、剣牛についての資料を眺める。

 指定された場所は、この街から少し離れた所にある森林付近だった。

 この距離なら歩いて行けると思い、そのまま街を出て指定場所まで向かった。

 ある程度、離れた場所だと飛んでいって、依頼を達成してその日のうちに帰ったりしたら、クレナに来た時当初のミオンのように驚かれるからな。今日の感じだと、ガーレンは受付には俺のことは伝えていないみたいだし、少々手がかかるが、その方が素性を隠すには丁度いいと思っていた。

 こうやって、地上をゆっくりと、自分の足で歩いて旅をするというのは何時ぶりだろうか。一度、剣山甲の時だったか、その時も同じ状況だった気がする。あれは、秋の終わり頃だったな。彼岸花が咲いていた。

 それを考えると、三か月はずっと飛んでいたり、リンネに乗っていたりしていたのか。前にも思ったが、こういうのも悪くないなあと思いながら、ゆっくりと進んでいた。


 しばらくすると、前方に森が見える。あそこかと思い、更に進んでいくと、剣牛ではないが、魔物には遭遇した。ワイアームや、ミニデーモン、それにスライムといった、多様な魔物の群れである。

 確か、他の依頼票にもあったよなあ、と思いつつも、向かって来たので取りあえず倒しておいた。

 無間ではなく、ヴァルナが間に合わせと言って作った、九怨というこの刀は、俺が斬っても死骸は残る。ありがたいなあと思い、倒した魔物の死骸を異界の袋に入れていった。何気に、ミニデーモンの素材は初めてな気がする。ある意味貴重な体験をしたなあと思っていた時だった。


 ドドドドッ!

「ん?」


 森の奥から、地鳴りと共に何かが近づいてくる音が聞こえてくる。音のする方向へ目を向けると、木が奥の方から、俺の方に向かって次々と倒れていく光景が目に入った。地鳴りはなおも近づいてくる。


「来たか……気配は……十……いや、二十ってところだな」


 地鳴りの正体は、間違いなく剣牛だと確認した俺は、気配を探って数を分析した。一応、俺に近づいてくる剣牛は二十三体のようだ。

 問題ないだろうなと思いながら刀を抜き、音のする方へ構える。


「「「「「グルウモオオオオオオ~~~ッッッ!!!」」」」」


 すると、茂みの先から予想通り、剣牛が飛び出してくる。先頭に居た何体かの剣牛は頭から生えている大剣のような角を俺に向けて、突進してきた。


「攻城兵器かよ……」


 本物よりは確かに小さいが、勢いや見てくれはまさしく、攻城戦の際に使う、門を破る時などの兵器や、戦車のように見える。

 ただ、あれよりも小回りは利くし、生物ということで、連携もしている。厄介と言えば、厄介だが、攻撃は一直線で問題は無かった。


「オラアッ!」


 眼前に迫っていた三体の剣牛に刀を一振り、その死骸に足をかけ、牛共の上をとり、そのまま斬波を放つ。

 ある程度の数が減ったところを死神の鬼迫で動きを制し、その隙に首筋に一撃ずつ入れていった。

 斬った辺りから血が噴き出し、動きを止めていく何体もの剣牛。そして、最後の一体を斬り終えると、辺りは魔物の死骸だらけとなった。


「よし。じゃあ、片付けるか……」


―おにごろし発動―


 俺は神人化して、光葬針を武者の形にして……と、いつもと同じ作業に入った。

 最近気づいたんだが、鬼神化が出来るようになったからか、気功スキルが成長したからか、詳しくは分からないが、光葬針を生み出す数も増えている。今まで、二十体ほどが限界だったんだが、今では五十体作っても余裕なくらいだ。

 大体半分を死骸の片付け、もう半分を、辺りの浄化に回すことが出来る。浄化と言っても、元々が天界の波動の塊なので、歩き回るだけでこの作業は終わる。

 鎧武者が淡々と歩くだけの光景、歩いていった場所から、色が赤から地面の色に変わっていくという、何とも神秘的だが、何となく間抜けだとも、我が能力ながら感じる。

 全ての作業が終わって、全員を並ばせるこの光景も、馬鹿らしいと思っている。やっているのは俺だがな……。


 このような神人化した時に行う作業についてここまで考えるのは、今までもよくあった。それは決まって、一人で行動している時だ。

 やはり寂しいんだなあと思いながら頭を掻きつつ、コイツ等にはまだ働いてもらう。他にも剣牛が居ないかどうか、この森を探ってみる。居れば斬って、群れの殲滅を達成するつもりだ。


「よし、行け!」


 自分の技そのものに、なに声かけてんだと、更に項垂れ、光葬針達が森の中へ入っていくのを見届けた。

 そして、一体ずつ戻ってきたが、他には居なかったらしく、全員戻ってきても、何も無かった。

 何かあったのかを望んでいた訳では無かったが、この結果も何となく寂しかったなあと思いながら、光葬針を解く。


 ……やはり、急に一人になって寂しく感じた。とっとと帰ろう。

 空を見上げると、時刻は昼前といったところか。夕方までにギルドに行けば良いので、帰りも歩いて帰って、レイヴァンで飯食ったりしながら時間を潰そう……。


 ◇◇◇


 さて、街に戻った後は飯屋に寄って、昼飯を食った。今日は、魚介の油漬けの盛り合わせと、白米を食った。少し、油が強くて注文したことを後悔したが、顔色を悪くしながら、俺の食事を眺めていた近くの冒険者が、野菜と一緒に食った方が良いと言ってきたので、その通りにしたら、あっさりと食えた。

 こうやって食うもんだなあと、そいつらに礼を言って、店を出る。まだ、ギルドに行くような時間でも無いから、船着き場にでも行ってみようと思い、少しだけ寄ってみた。

 ここにも、露店などが出ているが、商人たちが船から荷を下ろし、デカい馬車に積んでいるという光景も目に入る。よく見ると、人足のような奴らに混じり、冒険者の姿も見える。何かの依頼かなと思ったが、特に気にせず、そこらで買った串焼きを食いながら、その光景を眺めていた。


 すると、箱を持った作業員たちを眺め、検品でもしていたのか、書類に何かを書き込んでいた男と目が合った。

 男は、ハッとしたような顔つきになり、自分が行っていた仕事を他の者に任せて俺に近づいてくる。

 何だろうな、と思っていると、男は俺の前に立ち、ああ、と言って口を開く。


「お、やっぱり。いつも館長が世話になってるっす」

「ああ、天宝館の人間か。誰かと思っちまったじゃねえか」


 声をかけて来たのは、天宝館で、ヴァルナの下で、主に冒険者が狩ってきた魔物を解体したり、自身も素材を使った武具を作っている職人だった。

 こんなところで俺を知っている奴に会うとは驚いたなあと言うと、男は頭を掻きながら頷く。


「いやあ、俺も驚いたっすよ。まさかムソウさん――」

「おっと、ここじゃあ、冒険者のザンキで頼む。目立ちたくねえからな」

「あ、了解っす。まさか、ここであなたに会うとは。ザンキさんはモンクで何を?」

「ちょっとした野暮用だ。お前は、何をしているんだ?」

「俺は、王都の天宝館に荷を送っているところです。あと、向こうからの素材や完成品の受け取りっすね」


 この男の仕事は、クレナの天宝館で完成した商品を、王都の天宝館支部に送ることと、王都や他の領から届いた修復依頼のある武具や調度品などを受け取ることらしい。

 異界の袋を使ったり、コモンが転送魔法でやれば良いじゃねえかと思ったが、万が一、大量の素材や商品が入った異界の袋が盗まれたら大変なことになるので、それはしないとのこと。

 転送魔法については、コモンは普段忙しく、今は俺の無間の修復のおかげで、天宝館から離れられないという。

 何となく申し訳ないなあと思っているが、その男曰く、無間の修復が無くても、コモンは忙しいので変わらないということと、転送魔法で運ぶという作業よりも、工房に籠った方が良いと言って、そういった作業自体やらないという。

 コモンらしいなあと、何となく納得した。


「そうか。お前らも大変だな」

「そうっすね。俺も、どちらかと言えば、工房に帰って作業したいっすから……」


 右手で、愛用だろうか、何かの工具を弄りながら苦笑いする男。やはり、荷物の監視や運搬よりは、工房で刀を打ったりした方が性に合っているらしい。

 男によれば、今日のうちに荷物の確認をして、明日からクレナへの運搬の際の、護衛の冒険者を募るとのことらしい。


「あなたが来て下されば、怖いもの無しなのですが……?」

「悪いな。俺にも用事があるからな。だが、そこまで悲観しなくても良いと思うぞ」

「というと?」

「現在、ここに居る冒険者達の間では、クレナが復旧して新しい妓楼が営業しているという話題が、既に流れている。カジノで遊び疲れた冒険者達が、次にクレナに行こうという話はよく耳にする。

 だから、この際に護衛をやって、小金稼ぎしつつ、クレナに行くとなったら、それなりの人数が集まるんじゃねえか?」


 それにかかる費用くらいなら、コモンに貸してやっても良い、と付け加えると、男はなるほど、と頷く。


「それは、いい考えっすね。早速明日から、取り掛かってみるっす」

「おう。まあ、その前に、今日の仕事を終わらせねえとな」

「ですね。では、この辺りで。また、クレナでお会いしましょうっす!」


 男はそのまま、俺に小さく頭を下げて、自分の仕事を再開し始めた。


 俺は、そろそろ丁度いい時間かと思い、ギルドへと向かった。

 しかし、こういう時ならではと、散歩ついでに、少し裏路地を通って行くことにした。危険だと言われても、何が危険なのか分からないというのと、ちょっとした興味本位の為だ。

 問題を起こすわけではないから、良いだろうと自分に言い聞かせて、進んでいく。


 表の通りの賑わいが嘘であるかのように、薄暗く、かび臭い匂いがしている。無論、人通りは無いが、人の気配は感じている。目に入っていない所に潜んでいるようだ。

 こちらに意識を向けられていないので気にしないが、見つからない所に潜んでいるように、というのは気に入らない。確かに、危ない場所というのは理解できる。

 ここは、クレナの花街の裏路地と同じかと思いながら、なおも進んでいく。

 ところどころで、店をやっているのもちらほらと見かけるが、何となく陰に籠っていたり、酒場などは、中から変な匂いがしてきたりと、入る気にはなれない。


「これは……麻薬……か?」


 中から漂ってくるのは、美味そうな飯の臭いではなく、僅かに阿片のような匂いもまじった、独特な匂い。やはり、こういうのも流行っているんだなあと感じていた。

 その飯屋の向かいには、看板で堂々と、「盗品屋」と、書いている。ここで、盗まれた冒険者の腕輪などを売ったり、買ったりされているのだろうか。

 そう言えば、ついに見つからずに終わったが、花街の盗品屋はどこあったのだろう。闘宴会が、直接買い取っていたのか? それを、こういう所に持ってきて、更に大金を得ていたとか?

 ひょっとしたら、ダイアン達の腕輪もここに流れ着いていたのかもなあとため息をつき、更に裏路地を進んだ。


 すると、次に見えてきたのは周りよりも一際大きな建物だった。窓は無く、入り口のような扉と、その横に、もう一つ大きな鉄製の扉が付いている。

 ここは何なんだろうと近づき、看板眺めてみた。古ぼけて所々かすれていたが、そこには、


「職……定……娼婦から……召……銀貨……枚から……」


 と、書かれている。そして、何となく、建物の中の気配を探ってみた。

 今にも消えそうな弱々しい気配が数十人、普通の気配が数十人、後は……魔物か。


 どうやら、ここは奴隷や魔物の店のようだ。この消えそうな気配は、老人か? もしくは子どもか……。

 商品を大事にしない当たり、恐らく違法なんだろうなと思い、現在自分が居る場所を地図で確認し、他の紙に記録した。

 これは、後でガーレンに伝えておこう。今の俺にはどうすることも……まあ、しようと思えば出来るのだが、そんな時間は無いからな。ここはギルドに任せて、紙を懐に仕舞った。


「おい、オッサ――」

「あ゛?」


―死神の鬼迫―


 振り向きざまに、背後から近づいてきた男達に死神の鬼迫をぶつける。それも、普段威嚇に使うくらいのものではなく、本気でぶっ殺すという思いを込めた。

 男たちは一瞬で白目をむき、その場に倒れていく。手には短刀や剣を持っていて、いかにも襲ってきたような様相だった。

 不審なことをしていたから、目をつけられたか? あまり、長居はしない方が良いと考え、その場を去った。

 

 そして、ギルドに到着し、先に査定の受付をしている場所へと向かった。

 こちらも、人が多く、順番待ちをしている冒険者が多い。いくつかある列の一つに並び、自分の順番を待った。

 俺の番になると、受付の女は少し疲れたような顔で、俺を迎える。


「ふう……お待たせいたしました。討伐依頼ですか? 採集依頼ですか?」

「討伐依頼だ。査定を頼む」

「かしこまりました……って、あら!? しょ、少々お待ちください!」


 依頼票を渡すと、女は目を見開き、どこかへと姿を消した。後ろに並んでいた奴らと同じく、キョトンとしていると、女はここの支部長であるガーレンを連れて戻ってきた。


「ムソ……じゃなかった。冒険者ザンキ……だったな」

「ん? ああ。何なんだ、いきなり?」

「取りあえず、ついて来い」


 ガーレンに促されるまま、俺はその場を離れる。

 そして、案内されたのはギルドの中にある、少し広めの倉庫のような場所だった。辺りを見ると、他のギルドの職員も何人か居る。何だろうなあと首を傾げていると、ガーレンが口を開いた。


「ふむ……本当に正面から依頼をこなしに来るとは思わなかった。アンタが、依頼をこなすと、大変なことになるって聞いていたからな。少し、皆から遠ざけたんだが……」

「ああ、なるほど。便宜を図ってくれて助かる」


 どうやら、朝の受付の女が手紙を届けた際に、俺が依頼を受注したということも聞いていたらしい。

 マシロやクレナでも、依頼をこなす度に驚かれているからな。また、騒ぎにならないのであれば、こちらの方法で査定をしてもらった方が助かる。

 それなりの数は倒したことだし、報酬も、皆よりは多いだろう。儲けを気にして、喧嘩にまで発展するような冒険者達の前で、それなりの報酬を受け取ったらどうなるか、予想するのも難しくないからな。


「ちなみに、手紙は見てくれたか?」

「う、うむ……ちゃんと確認した。まあ、その話は後でするとして、早速、死骸を出してくれ」


 どことなく顔色が悪いガーレン。手紙の内容はどうだったのか、本当に気になる。というか、サーラは何者なのだろうか……。


 まあ良いや。ひとまず、素材査定に移ろう。俺は異界の袋から、剣牛の死骸を出していった。


「なッ……!?」


 一体ずつ出していくと、ガーレンは目を見開き、職員たちはどよどよとざわめきだす。こういう感覚も久しぶりだな。クレナの奴らは本当に、ずいぶんと慣れたものである。

 十体を越えたあたりから、その場は静寂に包まれるようになり、最後の一体を出し終えて、俺は一息ついた。


「ふう……一応、これで全部だ。とっとと始めてくれ」

「……あ! あ、ああ、そうだな。皆、始めるぞ!」

「「「「「は、はい!」」」」」


 ガーレンの指示の元、職員たちは剣牛を解体し始め、素材の状態を記録していく。この光景は、どこも同じなんだなと思っていると、何か書類を手にしたガーレンと、受注の受付に居た女、更にもう一人、山賊のような様相の若い男が近づいてきた。


「噂通りの男だな……」

「ええ……剣牛を殲滅だなんて」

「噂はもっと凄いぜ。こんなの序の口だろ。実は、ギルドを出たのが朝なら、終わったのも朝じゃねえの~?」


 山賊の男は乗りが良いというか、何と言うか、他の者達よりは、軽い口調で俺の今日の行動を言い当てて、ニカっと笑う。何者だろうかと思っていると、ガーレンが慌て出した。


「おい、ネイマー。あまり、この男に変な態度をとるなよ。ぶっ飛ばされるぞ」

「やらねえよ。人のことを何だと思ってんだ……?」


 そして、俺の噂はどのように届いているのだとロウガンを少しだけ疑う。別にこんなことじゃ怒らねえと、男に視線を移す。どちらかと言えば、こんな感じの奴には好意的だなあと思っていると、男は再びニカっと笑った。


「やっぱり、ガーレンさんの言うことは当てにならねえな。意外といい人そうだ」

「ああ、ありがとう。で、アンタは?」

「俺は、このギルドの副支部長、ネイマーだ。冒険者のムソウ……じゃなかったな……今は、ザンキか。よろしくな」

「ああ。こちらこそ、よろしく」


 手を出すと、ネイマーはガシッと俺の手を握った。

 ギルドを仕切る立場のガーレンは、補佐であるネイマーと、俺と顔を何度も合わせることになる受付の女には俺のことを伝えたようだな。あと、ついでに査定部門の奴らにも。

まあ、毎回これだけの死骸を持ってくるとなると、流石に戸惑うよな。ということは、ギルドのほとんどの人間が、俺のことを知っているというわけか。くれぐれも、他の冒険者には広めるなと約束すると、どうだかな~、と軽口を叩くネイマー。

 ガーレンと受付の女はネイマーを諫めるが、やはりこっちの方が良いよなと思いながら、ネイマーを小突いていた。


「ったく……何はともあれ、ギルドとしては、お前のことは広めるつもりも無いし、騒ぎを起こしたい気ももちろんない。全面的にお前の存在は隠すから、安心して過ごしてくれ」

「わかった。俺も、あまり騒動を起こすようなことは、もうしないでおこう」

「……ん? 何か聞き逃しちゃいけない言葉が聞こえたな。もう、とは?」


 不審げな顔をするガーレンに笑って、帰り道で見つけた奴隷商の店のことについて話した。恐らく違法だということと、俺が襲われたことなども事細かに話し、場所を記録した紙を渡すとガーレンとネイマーは目を見開く。


「港近くの裏路地か……ネイマー、知っていたか?」

「いや、この辺りには普通の奴隷商も数多く居るからな。盲点だった」

「ふむ。至急騎士団に連絡を取れ。ギルドに居る冒険者も何人か連れて、奴らを検挙しろ」

「了解……今日も残業だな……」


 頭を抱えつつ、先ほどまでの態度とは一転し、少し真剣な目つきになったネイマー。俺に頭を下げながら、その場を去っていった。


「余計な事だったか?」

「いや、こういうことなら問題ない。だが、これによって、お前が、こないだ話した奴ら以外の、裏の面倒な奴らに目をつけられるという可能性もある。連れが居るのなら、自分だけでどうこうする前に、必ず俺に連絡してくれ。良いな?」

「ああ、分かったよ」


 前から指摘されていたことだが、俺の悪い所は周りの人間を頼らないことだ。長い間一人で生きていた所為か、俺だけで何とかしようという考えがまず出てくる。

 だから、ガーレンの申し出は嬉しかった。こういうことをする時は、必ず誰かに相談して、連携するようにしていこう。


「それで、早速なんだが、スーラン村の件は考えてくれたか?」

「ああ……これだな……」


 どこか顔色を悪くしながら、懐から手紙を取り出すガーレン。もう良いだろうと思い、気になっていたことを聞いてみた。


「何が書かれていたんだ?」

「ん? まあ、あの村の現状と、俺への叱責と、最後に少しだけ脅迫だな……」


 は? 脅迫? あの、人の優しそうな女が書いた手紙に? 

 何が何だか分からないでいると、取りあえず読んでみろとガーレンが手紙を渡してきたので、確認してみた。


 内容は、あの時話していた、村の現状から始まる。これについては、魔物の数は少ないが、いざ何かあったら、どうすることも出来ないということが事細かに書かれていた。

 その後に、ギルドの支部長でしたら、把握していますよね? という文言から、優し気な口調で、ガーレンを叱るような内容の文章が続き、最終的に、俺の提案に乗らなければ、ガーレンの恥ずかしい過去を、モンク中に広めると、ガーレンの言うように、脅迫めいた内容が書かれていた。


「アンタも大変なんだな」

「この手紙を持ってきた奴が言うな……ッたく」

「アンタとサーラさんとの関係は?」

「まあ、昔馴染みってやつだな……」


 となれば、ガーレンの恥ずかしい過去というのは、いくらでも知っているだろうな。優し気な顔して、結構えげつないことを考えるものである。

 旦那も商人で、更には口もよく回る奴だから、噂を広めることなど造作もないだろう。

 まあ、あの村に住んでいる若い奴としては、村を出てギルドの支部長となったガーレンに思うこともあるのだろうな。


「ちなみにだが、村の現状については知っていたのか?」

「詳しくは知らないが、予想は出来ていた。ただ、何も言わないから平和だとも思っていた。そんなにか?」

「まあ、そうだろうな。村で一番若い奴がグレンと、サーラさんだからな。それこそ、剣牛の群れに襲われたら、一瞬だろうな」


 俺の言葉に、まあ、そうか、と頷くガーレン。少し反省したようで、俺の提案にはすぐに乗ってくれた。ひとまず、ツルギ達がここに来たら連絡を渡すという話になった。

 そんなツルギ達、ムソウ一派だが、チャブラの元領主たちを追って、今はマシロあたりに居るということが分かった。

 昨日送った伝令魔法を受け取ったアヤメから、王都のシンキに渡り、今日のうちに、ツルギ達の動向を特定したようである。

 今頃、ロウガンを通じてツルギ達に報せが渡り、皆がここに来るのは、早くても二か月ほどかかるらしい。


「二か月か……意外と長いな」

「一応、冒険者の招集って形にすれば、報酬さえ出してくれれば、移動手段を用意して早く着かせることは出来るが……」


 ガーレンによれば、マシロから徒歩でここに来たらそれくらいは普通にかかるとのこと。しかし、馬車などを乗り継げばもっと早く、一か月以内には来られるらしく、その分の運賃を負担することで特定の冒険者を呼びこむ、「招集」という仕組みを利用すれば良いとの話だ。


「まあ、それでもいいかも知れないが、あの村から出すのか?」

「いや、この場合は発起人であるアンタがやっても良いし……俺でも……良い」


 スーラン村に多くの冒険者を呼んで、急な事態に対応するという話は、グレンやサーラの話を聞いた俺の提案だ。

 そのため、ツルギ達を招集するために、俺が報酬を出すというのは納得できる。

 だが、結局は村の為になるということを考えるとなると……


「どうする? 俺は別に出しても良いが?」


 少し意地悪な気持ちになりながら、顔を覗き込むと、ガーレンは深くため息をついた。


「はあ~……分かった。俺が出そう。ついでに、ツルギって奴らが来るまでの間、何人かの冒険者を向かわせよう。報酬は俺持ちでな」

「意外と太っ腹だな」

「これ以上、サーラを怒らせるわけにはいかないからな……」


 再び大きく息を吐くガーレン。実際会った時もよく分からなかったが、サーラはガーレンに対して少しばかり怒っているようだな。昔馴染みなだけに、俺には気付けなかった、そういう面を感じたらしい。


 取りあえず、これで心配していた件が片付き、俺と受付の女でガーレンを元気づけているうちに、剣牛の査定が終わった。

 すると、差し出された査定受け取り票を、受付の女とガーレンが確認し、俺の方に向き直る。


「お待たせいたしました、冒険者ザンキさん。全ての手続きを終えることが出来ました。

 こちらが依頼を達成した報酬として銀貨100枚、それが23体分ということで金貨2枚と銀貨600枚、さらに査定売却金の金貨69枚で、合計金貨71枚と銀貨600枚がギルドより支払われます」

「更に、この剣牛の数は調査で判明した数よりも多かった。ゆえに、群れの殲滅完全達成とみなし、特別報酬として、金貨30枚が支払われる。

 いきなりこれとは、先が思いやられる。だが、よくやってくれた」


 報酬の入った袋を渡して、二人は笑みを浮かべた。俺は、二人に頷きながら、その袋を受け取る。


「ありがとう。それなりの稼ぎにはなったな」

「それなりって……他の冒険者の皆様に見つかったら大変なことになりますよ」

「帰りは気をつけろよ」

「分かってる。じゃあ、また来るからな」


 はいよ~と返事しながら手を振るガーレンと、深々と礼をする受付の女に見送られ、俺はその場を後にした。


 そして、明日以降に取り組む依頼の受注手続きを済ませて、ギルドを出る。時間はすでに、夕暮れ時だ。

 早く帰って風呂にでも入りたいと思いながら、足早にレイヴァンの街を出て、マルドに向けて飛び立った。


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