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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
ツバキが里帰りする
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第285話―モンク領の問題事を知る―

 飯を食い終えた後は、ギルドへと直行した。

 ついた途端に目を見張る。他の建物と同様、壁は純白なのだが、屋根は金色だった。それも、純金を使っているらしく、そして、今日は快晴ということで、ギルド自体が強烈な光を放っているようだった。

 目を見張ったのは嘘だな。実際は、上を見上げる度に文字通り、目が眩んでいた。


「すげえな……」

「カジノでの収益をギルドに充てているようですね」

「さっき聞いた、リエン商会に、ギルドに、カジノか。この領は、何と言うか、すげえ奴らがいっぱいいるな」

「ですね……ただまあ、クレナの“刀鬼”に比べると、どうも……」


 まあな、とツバキの言葉に頷く。十二星天とも深いつながりを持ち、領主の親族であるあの爺さんの方が、よほどの存在だなとは思う。

 ただ、それと同時にそんな奴らが、俺の屋敷に居るんだなと、何となく頭を掻いた。


 さて、ひとまずギルドの中に入る。中は、冒険者の姿がちらほらと、他の領と違うのは、割と商人っぽい見た目の人間が多かったことだ。それぞれ、調達してほしい商品なのか素材なのか、書類に書き込んでは、受付へと向かっている。

 これだけ商人が多いのなら、依頼も多いんだろうなと思い、依頼票が貼り出されている場所へと向かうと、やはり、素材調達依頼も魔物討伐依頼も多かった。

 ただ、面白かったのはこの後である。この領にはどんな依頼があるのかとボーっと眺めていると、いきなり肩を掴まれた。


「おい、オッサン。ちょっとどいてくれや」


 振り返るとそこには、俺よりも少し歳下くらいの男と、数人の若い男女で構成された一組の冒険者達だった。


「ああ、すまないな」

「ったく……さて、次は何して稼ごうか……」


 俺が一歩下がると、男は仲間達と共に、取り組む依頼を選び始める。

 そして、一枚の依頼票を手にしようとした時だった。

 横から、もう一つの冒険者の集団がやってきて、先頭に居た髭面のおっさんが、その男よりも速く依頼票をかすめ取った。


「あ!? 何すんだ、コラっ!」

「ん? 何がだ?」

「それは、俺達がやろうとした依頼だ! かすめ取るなど、許さねえぞ!」

「あ? 知らねえよ! これは俺達で取り組む! お前らは、カジノで遊んでな!」

「遊びたくても遊べねえんだよ! 金が無えから、ここらで上級依頼でもやらねえといけねえんだ!」

「知るか、ボケ! どうせカジノですかっぴんなんだろ!? カジノで負けるボケが上級依頼など出来るわけねえだろうが!」

「んだとお!?」

「何だ!?」


 男達は、お互いの襟をつかみ、取っ組み合いを始める。周りの冒険者達をも巻き込み、ちょっとした騒動になった。


 俺は巻き込まれないうちに、ツバキとリンネを連れて、いったん外に出た。


「驚いたな……急に喧嘩が始まるとは……」

「まあ、この領ならではですね。カジノで負けてお金が無くなる度に依頼をこなし、お金を得ると、またカジノに繰り出し……という繰り返しの日々をここの冒険者の皆さんは過ごしております。

 恐らくですが、後に依頼票をおとりになられたあの冒険者の皆さんも、恐らくカジノで負けたのでしょうね。

 少量の報酬でもお金が少しでもあれば、一攫千金も夢ではないのが、モンク領です。ああいった、依頼の取り合いというのは、別に珍しいことでは無いのですよ」


 ツバキによると、カジノで遊ぶには元手は多い方が良い。だから、先ほど取り合いになっていた上級の依頼は、貼り出された途端に、誰かが取り組むということも珍しいことは無いそうで、先ほどの光景も日常茶飯事だという。

 更に言えば、下級から中級の依頼でも、報酬は入るので、どちらかと言えば、そちらでコツコツと金を溜めて、カジノへ繰り出す者も多く、モンクの冒険者は仕事熱心だという。


 遊ぶために来て、遊ぶだけ遊んだら、出ていくというクレナの冒険者とは違うなあと、ある意味感心する。ここの場合、遊んで、なおかつ金も手に入る可能性もあるので、どんな小さな依頼でも、金もうけの為なら、皆、必死になるということか。

 動機はともかく、この仕組みは面白いと思う。一応、新しい高天ヶ原も、依頼をこなさないと入れないという決まりを作ったが、何かしら、冒険者達に見返りが発生する可能性を示唆するような仕組みがあっても良いと思った。これは、帰ったときにでも、アヤメやジゲンに進言してみよう。


 さて、ひとまず外に出たが、まだ不安だ。一応ツバキとリンネは外に待たせて、俺は再びギルドの中へと入る。今回の目的は受注ではないからな。俺だけで充分だろう。

 そう思いながら、戸を開くと、やはりまだ、喧嘩は収まっていない。所々で冒険者同士や、商人同士で言い争いや殴り合いをしていて、職員たちがそれを収めているようだ。


 巻き込まれないようにそいつ等の間をぬって歩いていき、俺はオロオロしている若い受付の女の前に立った。


「なあ、ちょっといいか?」

「あっ! え~と……し、少々、お待ちを――」


ガンっ!


 投げ飛ばされたのか、殴り飛ばされたのか、一人の冒険者が俺の居るところまで転がって、頭を打っていた。大きな音に、受付の女は更に慌て出す。


「だ、大丈夫ですか? すぐに――」

「あー……アンタは、そこから出るな……ちょっと待ってろ……」


 手当をしようとする女を制し、俺は転がってきた男の頭に回復薬をかけた。すると、男の身体が輝き始め、傷を癒していく。頭に手を当てていた男は、目を見開き顔を上げた。


「おっと……すまねえな、オッサン。オラ、仕返しだ! 野郎共!!!」

「気ぃつけてな~」


 元気になった男が、再び乱闘に突入するのを見届けた後、女の方に振り向いた。


「さて……え~と、少し用事が――」

「あ、危ないです!」


ドンッ!


 ギョッとする受付の前で、俺の背中に衝撃が加わる。振り返ると、一人の女の冒険者が、またしても何かしらの理由で吹っ飛ばされて、腹を押さえてうずくまっていた。


「ったく……」


 俺は懐から回復薬を取り出して、その女の腹にかけて傷を癒した。


「む……感謝するぞ! この~っ!」

「今度は怪我すんなよ~」


 やる気を取り戻した女を見送り、再び受付の方に顔を向けた。すると、今度は女の方から話しかけてきた。


「あ、貴方は、喧嘩を止めたいのですか!? 止めたくないのですか!?」

「いや、別に俺に危害が無いから何の問題も無い。寧ろ、こういう光景は、面白くて仕方が無いな」


 自分が絡まれるのは嫌だが、他人が喧嘩するという光景は見ていてとても面白い。理由も、馬鹿なものだったし、その為に、ぶつかり合うという姿というのは見ていてスカッとする。

 クレナと違って、普段は感じの良さそうな冒険者というのもあって、コイツ等を止めたいとはみじんも思っていなかった。

 むしろ、こういう光景は、ダイアン達を見ているようで、何となく楽しい。


「し、信じられません……!」

「まあ、そうだろうなあ。だが、止めるっつっても、あの人数では無理だろう?」

「ま、まあ……そうですね……」

「しかし、それもそろそろ終わりそうだがな……」


 もっと楽しみたかったが仕方ない。女は、俺の言葉にキョトンとする。俺はさっきから感じていた上の階からの気配に、ため息をついた。

この気配は……怒ってんな。ここに居る冒険者達よりも一回り大きな力を持つ奴が怒りながらどんどん近づいてくる。


「耳、塞いでおいた方が良いかも知れない……」

「へ? 何を――」


 目を丸くする女の前で、俺は両手で耳を塞いだ。その直後……


「静かにしろおおおッッッ!!」


 突如、ギルド内に男の声が轟く。喧嘩をしていた冒険者達は、ビクッと動きを止めて、声のした方を向いた。

 そこに居たのは、背中に無間のような大刀を帯びた、俺と同い年くらいの男の姿。顎髭を蓄え、顔を真っ赤にしながら階下の冒険者達を睨んでいる。


「が、ガーレンさん!」


 受付の女は、ハッとした様子でその男を見上げた。男は冒険者達の中を割って入り、その中央に居た、この喧嘩の発端となった男たちの前に立つ。


「チッ……支部長かよ……」

「何の用だ? いま、大事な話し合いの最中で……」

「黙れ! これが話し合いか!? 何度、このギルドを修復したと思っている!」


 予想通り、その男はこのギルドの支部長のようだ。男……ガーレンは、室内の壊れた調度品や、皿を指さしながら二人に怒鳴っている。


「冒険者同士の私闘は、ご法度だって言っているだろう! 貴様らは、冒険者を辞めたいのか!? ん!?」

「私闘って大げさな……話し合いをしていただけだ。この男が俺の依頼をかっさらっていってな……」

「あ? かっさらわれる前にさっさと取らなかったテメエが悪いだろう!?」

「んだと!? コラアッ!」

「やんのか、テメエッ!」


 男たちは拳を振り上げて、再び殴り合いをしようとする。


「辞めんか!」


 だが、その瞬間、ガーレンが二人の頭を掴み、額同士をぶつけた。


「「がふっ……」」


 二人の男はそのまま倒れ、気絶する。ガーレンは、そのまま、辺りに居た冒険者達を睨んだ。皆、サァーっと顔を青くしながら、視線を外していく。


「コイツ等の仲間はどいつ等だ!?」

「あ、お、俺達っす!」

「私達です!」

「ほう……お前らか。良いか? コイツ等が起きたら言っておけ。この依頼をこなすかどうかはどうでも良いが、次にテメエらが行う報酬から、ここの修理費は差っ引いとくってな!」


 ガーレンの一言に困惑する者達だったが、良いな!? と更に一喝すると、喧嘩を始めた男たちの仲間の冒険者達は、ビクッと体を震わせて頷き、ガーレンは、男の持っていた依頼票を再び貼りなおした。


「騒ぎに乗じた、貴様ら、他の冒険者に関しては、不問とする。だが、その代わり、今日はお前らも一個ずつ依頼をこなすように! 分かったな!?」

「「「「「は、はい!」」」」」


 冒険者たちは二つ言葉で返事をして、依頼票の貼り出された壁に群がっては、手ごろな依頼に手を伸ばしていく。

 どちらかと言うと、ロウガンみたいな感じの支部長だな。ここの冒険者が言い返すことも出来ない当たり、アイツも、大層な腕を持つのだろう。

 ガーレンは、はあ、と頭を掻きながら、今度は俺達の方に来て、職員たちを見渡した。


「いや、皆、すまないな。騒動に気付くのが少し遅れたようだ。けがはないか?」

「は、はい! 大丈夫です!」


 受付の女は、先ほどまでのオロオロとしていた雰囲気から一変。ガーレンに可愛らしい笑顔を振りまく。

 他の職員たちも、大丈夫ですとガーレンに頷いていた。


「それは良かった。だが、前に、こういうことがあったら警報機を鳴らせと、伝えておいたはずだが?」


 ガーレンは笑顔のまま、受付の女に顔を近づける。すると、女は再び顔色を悪くしながらハッとし、懐から、何か宝石が付いた、魔道具のようなものを取り出した。


「持ってるじゃないか~! どうした? 気が動転して使えなかったのか?」

「も、申し訳ございません……」


 意地悪そうなガーレンに平謝りする受付の女。するとガーレンは拳を握り、女に向けた。

 ひぃ! と身構える女の頭を、ガーレンはぐりぐりとその拳をこすりつける。


「まったく……次からは気を付けろ~」

「痛たたたたた! は、はい! すみません!」


 ひとしきり、女をいじめたガーレンは、フッと笑みを浮かべた。

 なるほど……職員からも、好かれているようだな。冒険者達といい、ギルドの雰囲気といい、今まで訪れたギルドの中では、最も印象が良いように感じ、安心してくる。

 まあ、次からは、と言っていたり、何か対応できるものを持たせている辺り、ガーレン自身もここで喧嘩が起こるということは日常茶飯事と認めているようだがな。

 やれやれと思い、頭を掻いていると、ガーレンは俺の方に視線を向けてきた。


「さて……と。他の奴らと違って、ここに居るってことは、喧嘩には巻き込まれていない者だな?」

「ん? ああ。誰も殴ってねえし、殴られてもねえよ」

「そうか。見ない顔だが、別の領から来たのか?」

「ああ。ちょっと、人探しにな」

「ほう。誰を探してるんだ? 商人か冒険者なら、すぐに教えてやれるが」


 お、これは丁度いいな。手間が省けると思い、俺は自分の腕輪を出しながら、答えた。


「俺は冒険者ザンキ。グレンって商人の友人を探しているんだが、心当たりは無いか?」


 ガーレンは、腕輪の情報を眺めながら、俺をジッと観察し、その後、コクっと頷いた。


「ふむ……おい、調べてやれ」

「はい、かしこまりました。少々お待ちください」


 ガーレンが命じると、受付の女は、その場を離れて奥の部屋へと向かった。案外、あっさりとグレンの住む町が分かるなあと思っていると、ガーレンが俺の肩を叩く。


「まったく……お前も大変のようだな」

「あ? 何の話だ?」


 一体何のことだと思っていると、ガーレンが俺の耳元で誰にも聞こえないような声で囁き始める。


「お前の名前は、ここでも広く行き渡っている。普通に旅するだけでも大変そうだな、冒険者ムソウさん……?」

「な!?」


 俺が驚いていると、ガーレンはニッコリと笑いながら、自らの目を指す。この野郎……腕輪の情報を確認するために、俺に鑑定スキルを使ってやがったな。門番は誤魔化せたようだが、流石支部長だと頭を掻いた。


「ったく……こうなれば、腕輪の意味も無いじゃねえか……」

「まあ、そう言うな。ギルドが管理する冒険者と商人と言えども、訳の分からない奴に他人の居場所を伝えるわけにはいかないからな。

 お前がやっているように、腕輪の改ざんは可能だし、クレナに居るのなら分かるかも知れないが、腕輪を盗んだりすることも、よくある話だ。腕輪を持っている者が本当の持ち主かを確かめるためには必要なことだ」


 なるほどな……。そう言われると、何も言い返せないな。腕輪だけではなく、俺のことも、サネマサに頼んで隠蔽でもしてもらえば良かったと、後悔した。


 一応、ガーレンにはアヤメ達が書いてくれた、事情を説明する書類を渡しておいた。書類を読み終えたガーレンは、頷き、書面の内容に納得してくれたみたいだった。


「ふむ。確かに、お前がここに居るとなると、大変なことになりそうだ。俺としても、余計な面倒ごとは沢山だからな。まあ、黙っておくし、好きにすると良い」

「助かる。ちなみに、俺が気を付けた方が良い奴ってのは、この領に居るか?」

「ああ、居るぞ」


 あっさりと返してくるガーレン。俺は項垂れながら、そいつらのことを聞いてみた。


 まずは、リエン商会のリエン。手に入りづらい素材を使った商品を独占するべく、俺に声をかけてくる可能性が大。

 同じ理由で、他の商会の者達も、俺に関わってくる可能性がある。リエン商会よりも、優位に立ちたい為だ。これについては、本当に気を付けようと思っているが、ツバキの実家のこともあるし、何となく胸騒ぎがする。警戒は強めておこう。

 それから、カジノを運営する者達。これについては、既に莫大な報酬が支払われていると思っている者達が、金づるとして、俺に近づくのではないかとのこと。

 これについては、俺も考えていた。その上でカジノに行こうと思っているので特に問題は無いが、ガーレンはここで気になる話をしてくる。


「カジノを運営する者達というのは、表向きは、きちんとしている奴も多いが、裏では何をしているのか分からないというのが現状だ」

「裏? 何だよ、気になるじゃねえか。アレか? 違法な麻薬だったり、奴隷だったりを密航とか密売とかしてんのか?」


 冗談交じりで聞いてみたが、ガーレンは苦い顔をしながら頷く。

 ふむ……この世界に来てからは、あまり見たことは無かったのだが、やはりそういう文化もあるようだな。以前、クレナでチラッと聞いたように、奴隷というものもあるみたいだし、こういうところは、活気づいた商都市ならではだなと感じる。

 ガーレンによれば、普通に奴隷商館のようなものもあるにはあるらしい。またの名を、魔物や山賊の襲撃で家や家族、住む場所を奪われた者達への、職業斡旋場……つまりは、奉公先を見つける為の場所である。

 うん……どう言い繕っても、それは奴隷だな。ただ、顧客は主に、デカい商店や、妓楼、貴族たちの家、更には王城ということで、王都にも認められた正当なものらしく、こちらは問題ない。


 ただ、そこを営んでいる者の中には、「商品」を仕入れるために、魔物を使役したり、山賊たちと繋がったりして人里を襲ったりしているという。中には、人攫いも居たりして、意外とあちこちの領で、行方不明となる者達も多いそうだ。

 大概、そういう者達は、最終的にどこかの奴隷商店や、既に売り払われた先の貴族の家などで見つかるという。


 一応、騎士団と共にギルドでもそういった者達への監視などを強化しているらしいが、なかなか数は減らないというのが現状だそうだ。


 意外と、他の領と同じく、この領にも結構な闇があったんだなあと思い、頭を抱えた。

 そして、俺が関わると面倒そうな奴らも多いことを知り、更に項垂れる。


「ん? やはり、大変そうだな、お前も」

「簡単に言ってくれるな。アンタが黙っていれば、俺も面倒ごとには関わらないみたいだからな。その辺りは頼んだぞ」

「ああ、それは任せろ。さっきも言ったように、俺も面倒ごとは嫌だからな。言われたように、お前とはあまり関わらないようにするし、周りにも関わらせないようにするさ」

「言われたようにって……誰かに何か言われたか?」

「ああ。ちょっと前に、マシロに行った時にな。あそこの支部長のロウガン殿に言われた。ムソウって奴がモンクに来た時は、気を付けろとな」


 どういう意味だ、ロウガン……人を、爆弾か何かと勘違いしやがって……。ガーレン曰く、前から仲が良かったロウガンに、俺に関して言われたことは、二つ。

 一つは俺の機嫌を損なうと大変なことになる、もう一つは、俺を面倒ごとに巻き込んでも大変なことになる、ということだったらしい。

 だったら、あまり関わらない方が良いと判断したガーレンは、更に俺がクレナでやってきたことを知り、ここに来たとしても、一冒険者として対応しようと考えていたそうだ。

 更には、先ほど教えられた、俺が関わったら面倒そうな奴らにも、俺のことは伏せるとのことだ。

 理由は釈然としないが、それなら助かると、俺はガーレンに顔を上げた。


「まあ、そういうことなら俺の方からは特に何も無い。ただ、今後、俺の力を借りたいときは、アヤメを通して直接伝えてくれれば、考えてやらんことも無いからな」

「ああ。ただ、それも気にしなくて良い。今の所、ここの冒険者達で間に合っているし、船で一日かければ、王都に拠点を持つ、冒険者達もここに来ることが出来るからな。お前の出番も無いかも知れないな」


 そう言って、ニカっと笑うガーレン。それなら、本当に安心して、俺は俺のやりたいことが出来ると笑っていた。


「あ、お二人とも、楽しそうですね」

「お、戻ったか」


 しばらくすると、受付の女が戻ってきて、何かの書類をガーレンに渡した。ガーレンはそれに目を通して、俺に渡してきた。


「これが、商人グレンの情報だな。拠点は……む、スーラン村か……俺の故郷だな」

「お、そうなのか。どんな所だ?」

「この領では珍しく、静かないい村だぞ」

「そいつは、楽しみだ。正直、この人込みには少し酔っているからな。

 ……さて、グレンのことはもう分かったから、そろそろここを出るとする」

「ああ。今度来るときは、堂々と正面から来て、一個くらいは依頼をこなしていくのだぞ」

「喧嘩が起きてなければな……」


 少しばかり、苦笑いをしながら手を振るガーレンに、俺も手を振ってギルドを出た。

 支部長ってのは、どいつもこいつも好感が持てる奴ららしいな。まあ、じゃないと、支部と言えども一つの大きな集団を任せられることなど出来ないのだろう。

 何となく、闘鬼神の頭領に比べると、こちらの方が大変だなと、改めてアヤメ達を凄いと感じた。


 さて、外に出て待たせていたツバキと合流……と、いきたかったのだが、ツバキの姿が見えない。


「ん? 何だ……?」


 代わりに居たのは、複数の柄の悪い、黒装束の男たちと、金髪で黒メガネをした、どことなく軟派な雰囲気を醸し出す男。服の胸元をさらけ出し、首からは宝石のついた飾り物、手の指にはこれまた、ごてごてとした宝石のついた指輪をしていた。

 何とも羽振りの良さそうな見た目だが、その男は、別の男に何やらへこへこと頭を下げている。


「チッ! お前がもたもたしているから、大事な商品を見失っちまったじゃねえか!」

「すんませんっす! さっきまでここに居たはずなんすけど……」

「クソッ! 美女と妖狐の組み合わせなんて、そうそうお目にかかれねえってのに……!」

「得意のナンパ術はどうしたんだ!? あ゛ッ!?」

「い、いえ……それが、あの女には全く通用しなくて……」

「ふざけんじゃねえ! この野郎!」


 黒装束の男は怒声を上げながら、金髪の男の顔を殴る。男は吹っ飛ばされ、俺の所まで来た。


「オラッ! とっとと、さっきの女、探してこい! 今日中に見つけられなかったら、承知しねえからな!」

「は、はいっす!」


 金髪の男は立ち上がり、街の方へと駆けていく。黒装束の男たちは、やれやれ、とため息をつきながら、男が向かった方向とは違う方向へと去っていった。


 ……何とも、不穏な会話をしていたな。妖狐と女? それって……


 妙な胸騒ぎを覚えて、俺は二人の行方を追おうとした。だが、これだけ人が居るのでは、どうしようも出来ない。

 ひとまず、意識を集中させて、ツバキとリンネの気配を探ろうとした時だった。


「あ、ムソ――いえ、ザンキ様、私達はこちらです」

「キュウッ!」

「うおっと!?」


 突然、背後から二人の声が聞こえてくる。驚いて振り向くと、何もない所から二人の姿が急に現れた。


「驚いたな……」

「ご心配をおかけしました」

「いや、それは良いが……何があったんだ?」

「はい。実は……」


 ツバキは、俺と分かれた後のことについて説明を始めた。


 何でも、俺がギルドに入った後、ツバキはリンネと共に、ここで俺の帰りを待っていたらしい。

 そこへ、先ほどの金髪の男がやってきて、声をかけてきたという。


「お? お姉さん、美人だね~。冒険者の人?」

「いえ、私は違いますが……?」

「あ、そうなの~? 刀差しているから、そう思ったよ。従魔っぽい子も居るし……」


 男は、ツバキの肩の上に乗ったリンネをじいっと見つめた。リンネは不思議そうな顔をして、男を眺めていた。

 普段なら、愛嬌を振りまくのに不思議だなと、ツバキが思っていると、男は目を見開き、驚いたように口を開く。


「へえ~! お姉さんの従魔、妖狐なんだね~! すごく珍しい魔物って聞いたけど、どこで見つけたの!?」


 顔をグイっと近づけて詰め寄ってくる男。どうやら鑑定眼を使われたらしい。初対面の相手に、鑑定スキルを使うとは、面倒そうな相手だなと思ったツバキは、リンネを護るように抱えながら、男から離れた。


「急にどうされたのですか? 貴方が用があるのは、リンネちゃんなのですか? それとも、私なのでは……?」

「おっと……これはすまなかったね~。そうそう! 僕が用があるのは君だった……」


 男は、落ち着いた様子でフッと笑みを浮かべ、ツバキの肩に手を回す。香水なのか、男の身体から、さわやかな香りが漂ってくる。

 だが、その瞬間、悪寒がゾクっと走ったツバキ。そして、ツバキの異変と、男の様子に嫌なものを感じたリンネは、ツバキの腕の中から狐火を出そうとする。

 しかし、それをツバキに制された。


―お待ちください……私は平気です―


 男に気付かれないように、リンネに落ち着けと命じるツバキ。リンネは小さく頷き、ツバキの腕の中で落ち着いていった。

 騒ぎになることは避けたなと思ったツバキが深呼吸していると、男は更に口を開く。


「ん? 顔色悪いよ? ひょっとして、驚いちゃった?」

「いえ……なんでもありません。それで、ご用件というのは?」

「あ、そうそう! 君、可愛いからさ~、ちょっとお茶でもどうかなって。俺、こう見えても、良い店知ってんだ~。従魔オッケーな所もあるしさ、一緒に行かない?」


 急に飯に誘ってくる男にツバキは、はあ、とため息をつく。


「申し訳ありませんが、今は人を待っていますので……」


 ツバキは手を払いながら、男のことを無視しようとした。だが、男は諦めた様子も無く、ツバキの前に歩み出てくる。


「まあまあ、そう言わないでさ~。俺はこう見えても、結構金も持っている方だよ~?」


 男は、首飾りや指輪をちらつかせながら、自慢げに語っていた。


「いえ、貴方のお金がどうこうというのではなくてですね、私に時間が無いと言っているのです。

 申し訳ありませんが、今日のところは……」


 正直、男の相手に疲れていたツバキは、俺と合流しようと、ギルドの中に入ろうとした。

 だが、またしても男は、今度はツバキの肩を掴み、立ち止まらせた。


「いやいや! 本当にちょっとの時間で良いんだよ~? 美味しいタスタとワインの相手をお願いしているだけなんだけどな~」


 タスタならもう、さっき食ったとツバキは再び頭を抱える。

 それにしても、諦めてくれない。しつこいなあと思っていた。


 だが、ツバキには理由、というか、目的は分かっている。

 こうやって、男と会話をしている最中に、あることに気付いた。


 目の前にいる男とは別に、複数の視線を感じる。その気配の方向に目を向けると、行き交う群衆に混じり、同じような恰好をした男たちが、自分と、特にリンネを見つめていることに気付いた。

 リンネもそれに気づいたようで、耳をぴくぴくとしながら、ツバキに、どうすれば良いのかという感じに、顔を見上げていた。


 ツバキは、どうしたものかと考えていたが、ふう、と息を吐き、男の方に向き直った。


「分かりました。あなたについていくとしましょう」

「ほ、ホント!?」

「ええ。ご一緒いたしますわ」

「ありがとう!」


 急にガシッと手を握られるツバキ。振りほどいてしまいたいという衝動を抑え、作り笑いを浮かべながら、男に頷く。


「ですが、これだけ人も多く、今は昼時ですので、そのお店も込んでいるかも知れませんね。少し様子を見に行ってくださってもよろしいですか?」

「え? 俺が? 君も一緒に行こうよ~」

「いえ、その間に、私の待ち人が来るかも知れませんし、その際に、少し用事が出来たと伝えることも出来ますので……」


 ツバキは、今度は自分からグイっと男に近づき、クスっと笑みを浮かべた。

 すると、男は一瞬硬直した後、晴れやかな表情をして、頷いた。


「あ、なるほど~! そうだよね! その方が良いね! 君も積極的だね~!」

「お褒めにあずかり光栄です」

「じゃあ、先に行ってくるから、そこで待っててね! 絶対だよ!」


 男は足取りも軽やかにツバキの元を離れていく。

 即座にツバキは、リンネの顔を見つめた。


「今です、リンネちゃん。幻術で、私と貴女の姿を見えなくしてください!」

「キュウッ!」


 リンネはコクっと頷き、幻術を発動させた。ツバキには隠蔽のスキルもあるが、熟練度は浅い。見破られる可能性もあることを考慮し、俺やジゲンでも見破るのがやっとのリンネに姿を隠すようにと頼んだ。

 目論見通り、ツバキ達の姿は消え、その瞬間、異変に気付いた黒服の男達と、男達に何か言われた様子の金髪の男は振り返り、目を見開く。


「あ、あれ!? そ、そんなあ!? さっきまでここに……」

「何やってんだ~~~!!!」


 そして、俺が来たというのが、事の顛末である。


「なるほどな……リンネ、よくやった。それに二人とも、騒ぎを最小限に抑えられたようで何よりだ」


 言いつけ通り、軽はずみな行動をしないツバキと、ツバキを護ってくれたリンネの頭を撫でてやった。二人は嬉しそうな顔をして頷く。


「にしても、何が目的だったんだ? あいつら……」

「ええ、恐らくですが、私とリンネちゃん、特にリンネちゃんの方を捕らえて、どこかに売ろうとしたのではないのでしょうか……?」


 あ、やっぱりそうなのか。はっきりと、男の口から、「商品」と言っていたしな。ついでに、ツバキも一緒にとかも考えていたのだろう。

 ツバキは目を引くし、リンネは妖狐……いわゆる珍しい魔獣だ。商品棚に載っていたら、好事家には魅力的だろうな。

 リンネは、え!? という目で俺とツバキの顔を見てくる。そして、不安げな表情で項垂れた。

 つい先ほど、ガーレンに気を付けろと言われていたが、早速かと頭を抱える。


「奴隷商店については聞いたが、魔物商もあるなんてな……」

「あ、やはり、聞きましたか……」

「ああ。まあ、故郷のことだから言いたくなかったのは分かるが、こういうことは言わないと駄目だぞ」

「すみません……」

「いや、気にすんなって。結果的にお前らが無事ならそれで良い。リンネも、そんなに落ち込むな。今回は本当によくやってくれた。これからも、頼んだぞ」

「……キュウッ!」


 リンネはゆっくりと顔を上げて、ツバキの顔を見ながら頷いた。ツバキはお願いしますと頭を下げてリンネの頭を撫でている。


 にしても、白昼堂々人攫いまがいとはやるな。やるなら夜、それもギルドから離れた所でやれよと思いながら頭を掻く。

 だが、それと同時に、思いついたこともあった。


「ちなみにだが、人攫ったり、他人の従魔攫ったりして、奴隷商なり、魔物商なりに売るのは違法なんだよな?」

「ええ、もちろんです。奴隷商店が罰せられないのは、少なくとも身寄りを喪った者達への新たな居場所づくりという目的がある為です。他人の居場所を勝手に奪うというのは、どう足掻いても許されません」

「てことは、さっきみたいな奴らは、騎士団とかに捕縛されるんだよな」

「その通りです……あっ!」


 ツバキは何かに気付いたようで、懐に手を入れてもぞもぞとあるものをとりだした。

 俺は、やれやれと思いながら、ツバキが手にしたものを指さす。


「これからは一応付けとけ。流石に騎士を襲う馬鹿は居ないだろう」

「ですね……」


 ツバキが取り出したのは、騎士団の証である首飾りだ。これを手にしているということは、その者は騎士だということ。

 これなら、違法な人攫いや、声掛けなどは、そうそう起こらないだろう。

 ただまあ、万が一ということもあるし、リンネのこともあるので、今後も、この領に居る時は、ツバキとリンネは二人一緒という決め事を作った。

 首飾りのことを失念してたツバキは、恥ずかしそうに頷き、リンネは、よろこんで、と言わんばかりに、しっぽを振りながら、ツバキの肩に上った。


「それから、リンネ。今は俺が居るから良いが、俺から離れた時などは、妓楼と同じく普通の人の姿になるというのも良い。流石に子連れにはああいう奴らも声をかけないだろうからな」


 もっと言えば、恐らくあの男がツバキに声をかけてきたのは、肩の上に乗る見たことも無いような珍しい魔物であるリンネが目当てだったからという可能性が高い。

 だったらリンネの姿を変えさせるという手段を取った方が良い。

 獣人の姿という手もあるが、獣人だと、一見しただけでは、何の魔物かは分からず、鑑定スキルなどを使われる可能性が高くなる。ただの人族の親子に、いちいち鑑定スキルを使う奴も居ないだろうというわけだ。

 有事の際は、そうやって自分で考えて行動し、ツバキを護れと命じると、前足を使って、ミサキが教えてくれた「敬礼」の仕草をする。気に入ってんだな……。


「これで良いな……」

「あの……ザンキ様は大丈夫でしょうか?」

「俺か? 要らねえ心配だな。こんな老いぼれ、奴隷として攫おうという奴の気が知れねえし、来たとしても追い返してやる」

「はあ……それは、揉め事を起こしてやるという風にしか聞こえないのですが……?」

「失礼な奴だな。起こさねえし、現に起こしてねえだろ。ギルドは平和じゃねえか」


 俺の言葉に、ギルドを見ながら、確かにと、頷くツバキ。まったく……人のことを何だと思っているのやら。


「まあ、つっても、今後はこういう面倒ごとは起きそうにないかも知れないがな。これから行くのはお前の実家だし、グレンの居場所も静かな村だと聞いたからな」

「あ、そう言えば、グレン様のいらっしゃる場所はどこでしたか?」

「スーラン村って場所だ。ここの支部長の故郷らしいが、知っているか?」

「ええ、存じております。確かに、静かで落ち着く場所ですね」

「そうか。マルドからは近いのか?」

「それほど離れてはいないです」


 分かったと、頷き、ひとまず街を出て、マルドへと向かった。マルドから、グレンの居場所まではそう離れていないということなので、今日は一泊するとして、ツバキも実家でゆっくりとさせておきたいし、いつスーランに行くかは、ツバキに任せておこう。

 だが、グレンに会うのは俺一人でも良いからな。ツバキとリンネを、ツバキの家に預け、俺だけ飛んで行けば良いとも思っている。まあ、この案は二人が絶対に嫌な顔をしそうだから、最後の手段だと思っているがな。


 にしても、ここでも、何かしらの問題事があるというのは、呆れを通り越して、笑えて来るな。ホント、エンヤやハルマサ、ちっこいツバキは、ツバキが手にした斬鬼と簪の中から、この領についてどう思っているのだろうか。

 何となく、三人がため息をつきながら頭を抱えているという光景が目に浮かんできた。


 その光景も、面白いものだなと思いながらも、俺はマルドに向かって駆けるリンネの背中に揺られていた。


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