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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
ツバキが里帰りする
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第283話―モンクへ旅立つ―

 皆とトウショウの祠へ行った日の翌日からは、普段通りの日々に戻る。と言っても、闘鬼神の何人かと俺、ツバキ、リンネは依頼に出て、行かない奴らは、牙の旅団の稽古を受けている。

 ひとまずの目標などが明確となった闘鬼神は前よりも一層稽古に励んでいた。コウシ達は、そろそろ、自分達の武具を継がせたいが、誰に誰の武具を継がせるか悩んできたと笑っていた。

 ツバキもジゲンの闘いを見て、前よりも稽古に励むようになる。なので、依頼の方はいつもよりも速めに終わらせたりしていた。偶像術を学び、若かったジゲンの戦いぶりを見たツバキは、どれだけ苛烈な稽古でも、決して弱音は吐かなかった。


 それについて不思議な顔をする、同じく仕事の合間にうちに来ては、ジゲンの手ほどきを受けていたシロウは、若い時の力を出来るだけ引き出せるようになりたいと、燃えるジゲンの稽古により、考える間も与えられず、二人に対して悲鳴を上げていた。


 さて、闘鬼神や牙の旅団、それにカドルについては、特に変わった動きは無いが、十二星天については、街の復興が既に終わり、トウショウの祠にてEXスキルの前任者と顔を合わせるという目的も終わったので、コモンを除く三人は、王都に帰っていった。


「じゃあな、ムソウ。また来る」

「それに、お前たちもな。また、機会があれば、共に依頼などもこなそう」

「手が足りなかったら、呼んでくれよ。いつでも来るからな」


 レオパルドと共に屋敷を離れていくトウガ達。トウケンは、特に女中達と接することが多かったためか、寂しそうな顔をするたまの頭を撫でていた。

 トウガとトウウは、最後のお願いということで、小さくなり、皆……特にロロから、体中を撫でられていた。微妙な表情をする二体の神獣とうっとりした様子のロロ。ルイから、


「気持ち悪いわよ、ロロ」


 というお約束を行うという光景を目の当たりにして、俺は笑っていた。


「お前らも、達者でな。レオの言うことをきちんと聞けよ」

「ありがたいぜ、ムソウ。そう言ってくれてよ。いずれまた、魔獣宴にも遊びに来いよ」


 レオパルドの言葉に頷き、俺達は固く握手をした。もう二体の神獣も気になるし、いずれ、リンネを伴って魔獣宴には行こうと思っている。

 そんなリンネも、トウガ達と別れの言葉を交わしていた。


「おじちゃんたち、また、あそぼうね!」

「俺達と遊ぶ、か……そんなことを言える者はそう居ない。お前は必ず強くなるぞ、リンネ」

「これからもしっかりとムソウの言うことを聞くんだぞ」

「お前も俺達の所に遊びに来いよ。いろんな遊び相手を紹介してやるからな」

「うん!」


 トウガ達に頭を撫でられながら嬉しそうな顔をするリンネ。魔獣宴に行って、他の魔物にいじめられるという心配は、これで無くなったなと、ツバキと顔を見合わせながら笑っていた。


「じゃあ、そろそろ、行くか。ムソウ、お前らに会えて本当に良かった。俺も、次に会う時は強くなっているからな!」

「ああ。頑張れよ、レオ」


 ついでに、レオが身に着けている飾りを見ながら、お前も頑張れよ、と念じておいた。姿は見えないが、いつものように、大きく手を振りながら、任せとけ! と言っているアキラの姿が思い浮かんだ。


 その後、レオパルドは転送魔法を起動させ、俺達の前から姿を消した。幾分か寂しくなるなあと思っていると、その翌日にはジェシカとサネマサも王都に戻っていった。

 しかし、こちらの二名に関しては、仕事の拠点を王都に戻したというだけで、ジェシカは俺が作った薬を治癒院に運ぶために、サネマサは、単純に故郷だからという理由で、一日の終わりには屋敷に来ていた。

 ジェシカは王都で生活するので特に問題ないが、サネマサに関しては、ギルド……つまり、アヤメの屋敷で寝泊まりしている。

 少しばかり鬱陶しそうにしているアヤメに話を聞くと、常に自分が居るということで、もう、前のような問題事をクレナに持ち込ませないためとのことらしい。

 そこは、ジゲンが居るから良いのでは、と思ったが、アヤメ曰く、ジゲンが居るから、サネマサもここに居るのではないかとのこと。それはそれで良いじゃねえかアヤメを励ましておいた。

 サネマサは、王都に居る時は、前よりも武王會館に赴き、自らが直接弟子たちに稽古をつけているそうだ。セイン達への牽制と共に、邪神族という存在を知って、俺が闘鬼神に行っているように、自分で出来る範囲の者達をもっと強くしていこうと考えだしたという。

 ツバキはそんなサネマサの行動を見て、


「今の武王會館の後輩たちが羨ましいです」


 と、嬉しそうに語っていた。

 他にもサネマサは、シンキと手合わせをするということも行い、自身の力も上げているそうだ。シンキもかつての力を取り戻すべくと、自らの願いに沿って、サネマサと本気で手合わせしている。


 溝が特に深い二人だったが、ボロボロの状態ながらも、二人で仲良さげにギルドで飯を食っていたという光景は、何とも面白いものだと感じた。


「お前ら二人だけで楽しそうだな。俺や爺さんも混ぜろよ」

「いや、それはまだ先だな。もう少し力を取り戻してからということで、それを一つの目標と考えている。“刀鬼”も覚悟しておけよ」

「ほっほ、何とも恐ろしいものじゃのう。じゃが、そういうことになれば、儂もムソウ殿と少しばかり本気を出すぞ。サネマサ、親友であれど、容赦はせんからのう」

「お前は俺の味方じゃねえのかよ……だがまあ、その方が面白そうだな。望むところだぜ、ジロウ」


 いつになるのかは分からないが、本気の俺とジゲンが、本気のサネマサと鬼族最強としての、本来の力を思う存分発揮するシンキと闘うということは、大いに楽しみだなと笑っていた。


 さて、シンキはこのように、毎日を王都とトウショウの里を行ったり来たりしている。目的は様々だが、主には、コモンとジェシカの手伝いである。

コモンの方については、無間の修復作業において、冥界の波動を放つ冥界石の扱いは、コモンでも、長時間では耐えられないという。波動を制御するためにもと、シンキは工房を訪れては、コモンにこき使われていた。


「シンキさん! 波動を少し弱めてください!」

「チッ……なかなか難しいな。弱め過ぎると天界石が勝ち、強め過ぎると永久鉱石でさえも腐蝕させるってか……こんなもんで良いか?」

「少し弱いです。このままじゃ、天界石の方が勝ってしまいます。刀は出来ますが、冥界石を組み込む意味が無くなりますね」

「分かった……なら……」


 といった感じに、俺の無間の修繕が進んだり、止まったりしている。やはり、一筋縄ではいかないかと思っていると、トウヤは手を止めて、自身の得物であり、鍛冶の道具である大金槌に手をかざす。

 そこに居るトウヤに話を聞き、再び作業を進めた。


「トウヤは何だって?」

「いったん、冥界石と永久金属、天界石と永久金属だけの二振りの刀を作り、その二つを合わせるということにすれば、どうだとのことです」

「なるほど……一気に二つやるから難しいってわけか……」

「そういうことですね。ではさっそく始めましょう。まずは、冥界石の方からです……」


 といった感じに、二人で……正確には三人で作業を進めている。何度か様子を見に行ったが、流石に口を挟む余地はない。ただ一言だけ、休みはとれよと言って、俺はその場を離れていった。


 ジェシカについては、薬の運び出しと、効能の確認である。話は聞いているが、どのような効果なのかは分からないということで、トウショウの里の住民たちや、治癒院に赴いて天界の波動が含まれた薬を、怪我人に使っては、その効能を把握するとともに、ジェシカと一緒に、流通させるための価格設定や、どこの領にどのくらい送るかなどの相談をしていた。

 最初は、薬の効能に驚いたりしていたが、二日くらいで慣れたらしく、今では真剣な眼差しで、ジェシカの相談に乗っては、それに応えていく。


「呪いを解く薬に関しては、王城やギルド預かりの方がよろしいですよね?」

「いや、転界教という存在もあるからな。念のため、人界各地にもある程度送った方が良い。価格については出来るだけ安くしておけ。無論、城からいくらかの支援はするつもりだ」

「え……大丈夫なのですか?」

「オウエンには俺から言っておく。問題はセインだが、アイツが駄目なら、カイハクを落とすとしよう。ギルドと同じく各領に設置した騎士団を利用し、民を護る為にとなれば、納得しやすいだろう」

「なるほど……え~と、普通の回復薬に関してはどうしましょうか?」

「それについては、今まで通りで良い。他にも、睡眠薬や、酔い覚ましなど、日常で使うようなものも、全てお前に任せる。これらに関しては、治癒院の統計を元に、どこにどれくらい送った方が良いのかを把握しているお前の方が適任だ。

 物流については、俺とお前の名義で各ギルドを通じて、商人たちに依頼を出そう」


 溝があった頃は、いちいち面倒な手続きをしていたらしいやり取りが、シンキ本人と直接行うことによって、楽に出来ていると、ジェシカは喜んでいた。


 さて、シンキは他にもクレナで仕事を行っている。何でも、アヤメと前々から約束していたらしく、長きにわたってクレナ領が貴族たちにより、酷いことになっていたということを、人界の宰相として謝罪行脚を行っているらしい。

 クレナに点在する集落を訪れては、そこの住民たちや、自警団の者達に頭を下げて、困ったことや問題点などを直接聞いて回っているという。

 そして、集めた情報を元に、ギルドへの依頼の仲介人となったり、シンキ自らがその問題を解決したりしているそうだ。

 何とも宰相らしい行動に、ここを治めていたアイツらもきっと嬉しいだろうと、ツバキが持っている斬鬼と、アヤメが持っている花鳥風月、それぞれに宿っているエンヤとタカナリに対して笑っていた。


何より、コモン達ともしっかりと連携していて、皆との約束はきちんと守ってんだなと実感し、嬉しくなったが、ここでの仕事と王都でのケリス関連の調査、さらには宰相としての普通の業務により、レオパルドの手伝いは出来ていないという。

そこで、俺の方からジェシカにそのことを伝えると、今日も来たぞ~と意気揚々でやってきたシンキに対し、


「今日は一人でやりますから、貴方は王都に帰ってください」


 と、ジェシカが言って、ぽかんとしたシンキの顔は今でも忘れない。要点はきちんと言えと、伝えると、そういうことではありませんと、慌てて繕うジェシカと、落ち込むシンキを見ながら、コモンやサネマサと共に笑っていた。


 さて、そんなこんなで、俺達の周りの騒動は色々と落ち着いていき、トウショウの祠の一件から一週間後、予定通り、俺はツバキとリンネと共に、モンク領に行けることとなった。

 無間は無いが、皆の鍛錬をしてくれているコウシの武器を借りるということもしたくないので、ヴァルナに頼んで、一振りの刀を打ってもらい、間に合わせとして腰に差した。間に合わせの割には、使っている素材は、九頭龍の牙。何ともいい仕事をしたものである。


 そして、モンクはどんな所かとツバキに確認すると、今まで行った領の中ではパーシと同じ様に、人が暮らす村や町が多いとのこと。また、それなりに大きな街も多く、騎士団の人数も、レイン、パーシに続いて、三番目に多いという。

 これまで通り、領主が居る街には、ギルドと騎士団の支部があり、他にも「カジノ」という娯楽場のようなものがあるという。

 聞けばそれは、賭場のようなものらしく、新しい高天ヶ原にもあるらしいが、規模が違うという。特に領主が経営しているものだと、一日で、領内で使う数年分の金が動くこともあるらしい。それは何とも楽しそうな所だなと思うが、ツバキはそこまで興味が無く、行ったことが無いのでよく分からないらしい。

 そういえば俺も、賭場にはあまり行ったことが無いなあと思い、ジゲンに聞いてみると、数人で行う博打はした事があるらしいが、モンクには行ったことが無いので、よく分からないとのことだった。


「まあ、博徒や、そこに入り浸る者の多くは、昔の儂らのように、血の気の多い者も居るじゃろうな。気を付けるのじゃぞ」

「誰が誰にそんな心配してんだよ。爺さんたちで慣れてるから、そこまで大した問題ではない」

「ムソウ殿に言っておるのではない。ツバキ殿に、じゃ。ムソウ殿が喧嘩を売られたり、売ったりしたら、最悪、偶像術も使って、大ごとにならぬようにするのじゃぞ」

「フフッ……ええ、もちろんです、ジゲンさん」


 ……うん、納得できない。だが、一つだけ自信が無いことがあるとすれば、向こうから些細なことで喧嘩を売ってきたらどうしようかということだ。まあ、グレンとの旅の時も、そこまで大した問題にしなかったので心配は無いと思う。

 最悪の場合、賭場に寄らなければ良いだけの話だ。少し残念な気はするがな。


 ちなみに、ツバキの故郷はその街ではないが、領の中では中規模くらいの街らしく、両親は雑貨屋を営んでいるらしい。

 そこで、モンクに行く前に天宝館で気に入ったものを土産としていくつか、何か買っていた。ツバキに大切に想われている両親は幸せだなと感じた。


 クレナを離れて、モンクへ旅立つということに関しては、一応、アヤメには伝えておいた。ロウガン同様、冒険者だから自由にしろ、とのことだったが、一つだけ、忠告を受けた。

 こないだの一件において、俺の名前は王都を通じて、各領の騎士団や、ギルドに知れ渡るようになった。名前などはもちろん、能力などもだ。それにより、街に入った途端に、その地の領主なり、管理人なり、貴族などに招かれ、面倒なことが起こるのではないかとのこと。

 強大な力を持つ俺を、何かしらに利用されるのではないかと、アヤメは思っている。

 更には、市井においても、耳の早い者達を通じて、俺に群がる奴らも出るのではないかとのこと。これについてはマシロの一件もあるので特に文句は無いが、確かに、普通に旅をしている最中にそれをやられれば、鬱陶しいなとは感じる。

 そこでアヤメは、今のうちにギルドの腕輪の情報を、サネマサが持つ、極めた、擬態スキルと隠蔽スキルで、違法ではあるが、改ざんしておいた方が良いと勧めてきた。


 いい考えだが、領主が法を犯すというのはどうなんだと思っていると、一応、アヤメの名前が入った、事情を記した書類を俺に渡してきた。

 万が一、改ざんがバレたとしても、クレナの住民のより良い暮らしを護る為に、自分が指示した、という旨が書いてある。つまりは、問題が起こっても、責任はアヤメがとるということを記したものだった。


「いや……ここまでしてくれるくらいなら、別に正体を隠さなくても良いが……?」

「お前はそうかも知れないが、ツバキの嬢ちゃんに、リンネも居るだろ? 三人で、安心して、安全に旅をしたいのなら、一応、それを持っておけ」


 ああ、確かに、アヤメの言うように二人を連れて行くのならば、出来る限り、俺が面倒なことに巻き込まれない方が良いよな。俺は、アヤメの提案に賛成することにした。


「分かった。ありがたく頂戴するよ、領主さん」

「お~よ。代わりにと言っては何だが、土産と、賭場での稼ぎを期待しておくぜ」


 そう言って、アヤメは銀貨を三枚、俺に放り投げた。この金で俺が賭場へ行き、勝つことが出来れば、分け前は寄越せとのこと……という名の、俺達、特にリンネが遊ぶための小遣いのようなものらしい。

 カジノは間違いなくリンネが気に入る所なので、俺は必ず足を運ぶという。仕事では無く、俺は友人に会いに行き、ツバキは里帰りということなので、そういう日にこそ、リンネを遊ばせてやれと言うアヤメの言葉に頷いた。


 そして、サネマサにより、腕輪の改ざんを行ったのち、ついでにと頼んだら、サネマサ、コモン、更にシンキまでもが協力してくれて、それぞれの名を、連名で、アヤメから貰った書状に書き込み、全ての準備が整った。


俺はモンクへと旅立つ日の朝、飯を食って、旅支度を終えると、二人と共に庭へ出た。そこにはいつものように、皆が集まっていた。


「じゃあ、しばらく家を開けるが、爺さん、それに皆、留守は任せたからな」

「うむ。まあ、雷帝龍殿も居るし、何かあればサネマサも来てくれるらしいからのう。よほどのことが起きても何の問題も無い」

「俺達も居るからな」


ニカっと笑い、ここは任せろと胸を張る牙の旅団。クレナ最強の傭兵が、勢ぞろいで留守を預かってくれるとは、頼もしい限りだな。


「じゃあ、いってくるね、たまちゃん!」

「うん! 帰ったら、いっぱい、おはなし、きかせてね!」


 リンネは頷き、小さな獣の姿となって、俺の肩に上った。寂しそうにしないところが意外だなと感じた。また、帰ってくるということを確信しているためかと思い、リンネには今回も楽しい思い出を作らせてやろうと決めた。


「ツバキさん、お気をつけてくださいね」

「頭領と一緒だと、何が起きるかわかんねえからなあ……」

「大丈夫ですって。今回の旅は、ムソウ様は、グレンさんに会いに行かれること、私はちょっとした里帰りですので、心配はないですよ」


 何とも、不要な心配をする闘鬼神の面々。ツバキの言うように、今回は闘いに行くわけではない。そこまでの心配はいらないと思っている。


「俺が居るんだから、そんな顔するのはやめろ」

「頭領が居るから不安なの……。リンネちゃん、ツバキさんをよろしくね」

「キュウッ!」


 任せてくれと言わんばかりに、自信満々に胸を張るリンネ。それを見た闘鬼神は、皆頷き、安心した顔になっていく。

納得できないなあと、ため息をついたが、ツバキが微笑みながらリンネを撫でているのを見て、まあ良いかと感じた。


「さて……じゃあ、行くか」

「ええ。では、皆さん、行ってきます!」

「「「「「行ってらっしゃ~い!」」」」」


 手を振る皆に見送られながら、俺とツバキ、肩に乗っているリンネは門をくぐった。

 そして、街の外へと向かい、今回はモンクに入るまでリンネに飛んでもらうことにしているので、リンネに変化させた。

 いつものようなエンテイの姿……と、思いきや、今回はトウウの姿だった。

 こっちの方が良いよね? という顔をしている。正直どちらでも良いが、エンテイよりは地味な見た目だ。あまり、目立たないなと思い、俺は頷き、ツバキと共に、リンネに跨った。

 そして、ツバキに地図を渡す。いつもは俺が道を見るが、今回は、勝手知ったる地元の人間に任せるとしよう。


「じゃあ、ツバキ。道案内、頼んだぞ」

「お任せください、ムソウ様。リンネちゃんも、よろしくお願いしますね!」

「……!」


 トウウに化けたリンネは強く頷き、その場から空へと飛び立った。


 久しぶりの三人旅。そして、グレンに会いに行くということで、話が途切れないように、色んな思い出話を聞かせてやろうと頭を巡らせていた俺だった。


 ◇◇◇


 ムソウ達が屋敷を発った後、いつものように、「ムソウとツバキをくっつけよう会議」を行おうとする、ジゲンとたま。皆を呼び寄せ、顔を見合わせたが、今日はいつもと様子が違った。

 普段なら、ジゲンかたまが話を切り出すのだが、皆が集まった途端、スッと手を上げる者が居る。


「あ、ジゲンさん、ちょっと良いかしら?」


 それは、アザミだった。ジゲンとたまは顔を見合わせ、何だろうと思いつつ、アザミに頷く。


「む? どうしたのじゃ?」

「頭領とツバキさんのことも気になりますが、私達としては、どうしても気になることがもう一つありまして……」


 アザミの言葉に、その場にいた全員が頷く。


「む? 皆までどうしたというのじゃ?」

「なんのはなし? アザミおねえちゃん」

「ええ……あの、シロウさんとナズナさんはその後、どうなのでしょうか?」


 ああ、そう言えばという顔をして、ジゲンは顎に手を置く。たまと共に、こうやって皆でムソウとツバキのことを話し合うことが、密かな楽しみとなり、二人のことをすっかりと忘れていたジゲンはしばらく考え込んだ。


「むう……そういえば、確かに、その後は何も聞かんのう……。

 ミドラ、タツミ、ナズナは何か言っておるか?」


 新たな高天ヶ原が完成したことにより、ナズナはこの屋敷からいなくなったので、ミドラによる「千手・千眼」の稽古は、主にギルドで行っている。この中では最もナズナと顔を合わせるミドラ、それに、ナズナと共に居ることが多いショウブの稽古をつけているタツミに、ジゲンは話を伺った。


「いや……特には何も言っていないな」

「ですね。ただ、僕はショウブさんから気になることを聞きましたよ?」

「気になること? 何じゃ?」

「どうやら、ナズナさんはこれまで通り、高天ヶ原の自室にて寝泊まりしているらしく、新しい高天ヶ原が出来てからは、ほとんど休むことなく仕事をしているそうです」


 ジゲンは、タツミの言葉に眉を顰める。真面目なのは良いことだと思ってはいたが、働き過ぎて体を壊すのではないかと心配になった。

 貴族たちからの圧力も無いし、ナズナもゆっくりしていれば良いのにと思っていると、冒険者達の方から声が上がった。


「え……てことは、ナズナさん、シロウの兄貴には会えていないってことか?」

「シロウさんもほとんど休みなしですからね。あったとしても、その日はここに来て、鍛錬をしておりますし……」


 その場に集まった者達の顔が一気に不穏なものとなっていく。ジゲンまでも、少々顔色が悪くなってきた。

 手紙の一件よりも前から二人のことを見守ってきたジゲン。子供の時から仲が良かった二人が、とうとう、この屋敷で結ばれた。

 にも関わらず、ナズナは高天ヶ原、シロウは自警団と、それぞれ抱えているものがあり、当の二人は会うことすら難しいものとなっているようだ。


 ケリスの一件が片付き、街を自由に行き来できるようになったとはいえ、これでは前と同じ状況だ。ジゲンはどうしたものかと、空を見上げた。

 すると、自身の袖を引っ張る感覚がある。そちらを見ると、決意に満ちたような表情のたまがジゲンの顔を覗き込んでいた。


「む? どうしたのじゃ――」

「行ってあげて! おじいちゃん!」


 たまは、屋敷の外を指さしている。あまりのことに、ジゲンが驚き、目を見開いていると、たまは更に続ける。


「はやく、シロウおにいちゃんのところに行って! それで、シロウおにいちゃんとナズナおねえちゃんにあいに行って!」

「ど、どうしたのじゃ? たま……」

「せっかく、ふたりがいいかんじなのに、あえないなんて、ひどいよ! おじいちゃん、ふたりのことがしんぱいなら、行って! おじいちゃんのそんな顔、みたくない!」


 ほとんど泣きそうなたまの表情に、ジゲンは困惑する。

 しかし、同時に改めて思い知らされた。自分以外に、あの二人のことを想っている人間が居ることを。

 

―当たり前か……たまも儂の“家族”……家族が家族を想うのは当然じゃの……―


 なおも屋敷の外を指さしながら、二人の元へ行けと言うたま。つい先ほど、ムソウに家の留守を任されたのだが、とうにその思いはどこかへと消え去っていた。


ジゲンはたまの頭を撫でて、スッと立ち上がる。


「……ダイアン殿、アザミ殿。今日は儂もここを留守にする。たまのことは任せたぞ」


 ジゲンはそのまま懐から異界の袋を取り出し、自身の羽織を纏い、腰に刀を差した。その瞬間、集まっていた者達とたまの表情はぱあっと明るくなる。


「コウシ! 皆のことは任せたぞ!」

「おう! よ~やくお前が行くか!」

「ジロウが出れば、万事解決ね!」

「ここは任せてとっとと行ってこい!」


 コウシ達の言葉にジゲンは頷き、地面を蹴り、門の屋根の上に立った。


「あ、ジゲンさん! コイツを持ってってくれっす!」


 すると、ダイアンが小さな袋をジゲンに放り投げる。受け取ると中には、金貨が数枚入っていた。


「祝儀替わりっす!」

「うむ! すまないな、ダイアン殿! では、行ってくる! 朗報を期待しておくのじゃ、たま!」

「うん! いってらっしゃ~い!」


 元気に手を振るたまを見届け、ジゲンは下街へと飛び出していった。


 あっという間に姿が見えなくなり、庭に居た者達は、ふう、と息を吐く。


「これで、あの二人も大丈夫そうね。にしても、ダイアン、気前が良いじゃない?」

「まあな! どうだ? 惚れなおしただろ?」


 数回分の依頼の報酬を、ジゲンに渡したダイアン。少し渡し過ぎたかなと、内心では思っていたが、バレるとカッコ悪いと思い、虚勢を吐くが、アザミは、クスっと微笑み、ダイアンに頷いた。


「ええ。カッコいいとこ、あるじゃない。惚れなおしちゃった」

「そ、そうか……」


 思いもしなかった返答に、しどろもどろになるダイアン。二人の雰囲気を眺めながら、他の者達は、はあ、とため息をつく。

 すると、リアが手をパンパンと叩いた。


「え~と……ダイアンと、アザミ姐さんがいちゃついているうちに、今日の皆の動きを決めるわね?」

「「「「「う~っす」」」」」

「「「「「は~い!」」」」」


 特に誰が決めたというわけでもないが、ムソウやジゲンが居ない時などは、こうやってリアが皆を指揮する。本人には自覚は無いが、ムソウやレオパルドと共に樹海で依頼をこなしたり、ケリスの一件では、最初に闘鬼神の危機を伝えたりといった功績により、皆はリアの言うことはしっかりと聞くようになっていた。


「り、リア! わ、私達は――」

「お、俺は別に――」

「はいはい。じゃあ、取りあえず、私や皆はいつものように依頼に行ったり、エンミさん達の特訓ね。

 今日も全員、日帰り出来そう?」

「あ、リア、俺達は明日までかかるかも知れない。トウガ様達も、もう居ないからな……」


 優れた機動力を持つ、神獣が居ない今、どんな依頼も、日帰りでということは難しくなっている。カドルも居るが、牙の旅団のこともあり、自由には動けない。

 まあ、それは当たり前のことなので、特には気にしなかったリアは、マルスやハルキ、ルイ達のように、ここから離れた地で依頼をこなす者達に頷いた。


「了解、マルス。他は居なさそうね。じゃあ、たまちゃん、夕ご飯は、この人数分だけで大丈夫よ」

「うん! あ、おじいちゃんのはどうする?」

「一応、用意しておいて。多分、疲れて帰ってくるから。でしょ? エンミさん」


 リアが牙の旅団に視線を移すと、皆はうんうんと頷いている。


「ええ。きっと、今頃、シロウ君を引っ張ったり、下手すりゃ、怒鳴ってるかもしれないからね」

「高天ヶ原に行っても大変そうだからな。帰ってくるころには、げっそりしているんじゃないか?」

「わかった~! 私、頑張る!」


 まあ、ジゲンのことだから、妓女たちが寄ってきても、有無を言わさずにそこから出ていくと、何となく皆は同じことを思っていた。


「よろしくね、たまちゃん。コモン様も朝から居ないってことは、夜にはお腹を空かせてると思うから。キヨさんたちは、いつも通り、たまちゃんのアシスト、家の掃除、買い物をお願い。雷帝龍様はゆっくりしててね」

「「「「「は~い!」」」」」

「心得た、リア殿。ただ、依頼中に何かあれば、いつものように、牙の旅団を連れてすぐさま向かうつもりでいるぞ」

「うん、よろしく。今日もジェシカ様達がいらっしゃるから、緊急の時は上手く連携してね。

じゃあ、今日も皆、気を付けて!」


 リアの言葉に、拳を突き上げて、お~! という気合を上げる闘鬼神と牙の旅団、それにカドル。

 ムソウ達やジゲンが居なくても、ここは楽しい場所でありたいと思いつつ、それぞれ仕事に向かった。

 ダイアンとアザミも、皆が動き出すのを見て、顔を見合わせながらクスっと笑い、お互いに、手を振り合って、アザミは屋敷に、ダイアンは依頼にと、向かっていた。

 たまは、ムソウ達とジゲンに向けて、心の中で、がんばれ! と念じ、嬉しそうな顔で空を見上げていた。


次回から、舞台はツバキの故郷、モンク領へと移ります。なので、クレナの皆さんは、しばらくお休みします。皆、お疲れさん。

特にジゲンさん、若返ったり、十二星天や若者以上に闘ったり、おじいちゃんやったり、ありがとうございました……と、いっても、現在進行形で、今日も走ってますがね。いずれ、この日のジゲンさんについてはご報告します。


さて、クレナ領で書きたかったのは、この世界の最強の人間とは? ということと、終盤の、世界の真実について、それから、ムソウさんの、この世界での第二の人生の地盤固めと、新たなる完結への布石についてだったので、筆者的には目標を達成できたと思っています。


モンク領では、ムソウ、ツバキ、リンネの関係を更に深く結び付けれるような物語を送るとともに、ムソウさんを取り巻く世界の動きについて、描いていきたいと思います。


ちなみに、完結までのペースは大体半分くらいといったところでしょうか。


引き続き、次回からもよろしくお願いします。


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