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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
世界の真実を知る
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第282話―自分の力を知る―

 その後、リンネとたまは目を覚ます。う~んと背伸びをした後、自分達に羽織がかぶせられていることに気付いた。

 お礼を言ってくるが、俺とジゲンが、やったのはエンヤだと指さすと、目を輝かせながら、エンヤに飛びつく二人。


「「ありがと~!」」

「うおっと! お、おう! 気にすんな!」


 やはり、少ししどろもどろになりながら、二人の頭を撫でるエンヤ。タカナリ達はどこか微笑まし気に、その光景を眺めていた。


 そして、たまは女中達と共に、晩御飯を用意しなきゃと言って、洞窟を出ることになった。ジゲンもついていくということになったので、牙の旅団とカドルも共に先に家に帰ることになった。

 女中たちは、エンヤ達、特にナツメと手を取りながら、別れの挨拶をしていた。


「では、ナツメ様、またいずれお会いしましょう」

「ナツメ様から教わったこと、たくさん、実践しますね!」


 アイツはうちの女中たちに何を教えたのだろうか……詳しくは怖くて聞けなかった。ナツメはクスっと笑い、アザミ達に頷く。


「ザンキさんに怒られないように、ほどほどにね」

「「「「「は~い!」」」」」


 なるほど……俺が怒るようなことを教えたのか。何かしてきたら、全力で怒ってやろうと、死神の鬼迫をナツメだけにぶつけると、少し顔色を悪くした。

 首を傾げる女中たちにナツメが震えながら手を振ると、女中たちは先に洞窟を出ていった。


「ふむ。では儂らもそろそろ……ご先祖様もいずれまた会おう」

「うむ。と言っても、私達はいつでも、お前たちのことを見ているからな」

「恐ろしいことを言う始祖様じゃのう……」

「恐ろしいって……お前にだけは言われたくねえよ……たまも元気でな」

「うん! じゃあね~!」


 エンヤに頭を撫でられたたまは嬉しそうな顔をして、大きく手を振りながら、ジゲンと共に、洞窟を出ていった。

 それに続いて、牙の旅団とカドル達も洞窟を出ていく。コウシ達は、次にここに来るときは、刀精となる時だと、アヤメに話した。

 少し寂しそうにするアヤメだったが、僕達が居ないと、やはり不安ですか? というタツミの言葉に、ハッとし、さっさと帰れ! と怒鳴った。

 コウシ達は嬉しそうな顔をして、洞窟を出ていく。横でエンヤとタカナリが、感慨深げに、アヤメの姿を見て、頷いていた。


 そして、たま達が居なくなった後、更に時間が経過すると、シンキとコモンが洞窟を出て行こうとした。

 シンキの方は王都に戻ってケリスの屋敷の調査の続きをするということらしい。コモンの方は、無間の修復作業に入るという。コモンには、一日の終わりは絶対に屋敷に帰れと命じておく。

 たまが寂しがるからな。コモンは、もちろん、と頷き、エンヤ達と、他の十二星天に一言声をかけて、トウヤと共に、洞窟を出ていった。


「じゃあ、俺も行くか……」

「シンキ……」

「あ? どうした?」


洞窟を出ようとするシンキの肩をエンヤが叩く。シンキが振り返ると、ハルマサ達も集まり、シンキの顔を見つめていた。


「これからも、人界のこと、頼んだぞ」

「それから、ジェシカさん達ともね~。ゴウキさんみたいに、なるべく怪我をしないように!」

「レオとも仲良くやるんだぞ! あと、エイキに会うことがあれば、俺も元気だって伝えておいてくれ!」

「サネマサに関しては、絶対負けるなよ! 邪神大戦世代の強さを思い知らせてやれ!」

「ザンキとも……仲良く……ね……」


 お前は俺の親かと、ちっこいツバキに突っ込む。皆、かつての仲間に思い思いの言葉を言っていくと、シンキは目を見開き、再び瞳を潤ませ始めた。

 すると、エンヤがシンキの肩を強くたたく。


「しっかりしろよ! 宰相さんよお!」

「ッ! 分かってる! じゃあ、行くからな!」


 シンキは、ぶっきらぼうに振り返り、洞窟の外へと出ていった。と言っても、王都での仕事が済めば、無間の為に、クレナに何度も来るんだろうなあと俺とツバキ、そして、十二星天は笑っていたが、エンヤ達の様子を見て、口に出すのは辞めておいた。


 その後、残っていた闘鬼神、アヤメとタカナリ、更に、十二星天とエイシン達も洞窟を出ていった。皆は、少々疲れているらしい。俺が帰るまで、ゆっくりしてろと言うと、皆は頷いていた。


「本当……デけえな、お前の闘鬼神は……」


 残ったのは俺とツバキ、リンネ、そして、エンヤとちっこいツバキに、ハルマサだけ。あっという間に大勢の人間が居なくなり、静かになるトウショウの祠。

 洞窟を出ていくダイアン達の背中を見ながらポツリと呟くエンヤ。


 最初は、俺とサヤ入れて数人の僅かな部隊だった。それが、今や百人近い大家族になり、エンヤは感慨深げに笑っていた。


「発端はお前だろ? お前が居たから、俺も居るんだし、闘鬼神の名があるんだ。そこは自信持てよ」

「言われるまでも無え」


 俺の言葉に、エンヤはフッと笑って、小突いてきた。照れてんのか? 今日はコイツのいろんな面を見てきたが、流石に、もう無いだろうと笑った。


「……さて、じゃあ、俺達も帰るか」

「はい!」

「うん! リンネ、おなかぺこぺこ~!」


 さっきまで寝ていた奴が何言ってんだと、俺達はリンネの頭をくしゃくしゃに撫でる。リンネは嬉しそうに笑いながら、俺達の中でバタバタとしていた。


「ふぅ……最後に面白いことも出来て満足だ。え~と、ツバキ。当面は、俺が出ても大丈夫なように基礎的な体力と気功スキルあたりをしっかりと鍛えておけよ」

「あと……私の……スキルも……」


 エンヤとちっこいツバキの言葉に、ツバキは強く頷いた。そして、これからも行き詰ることがあれば、ここに来てはコイツ等の話を聞くと約束する。


「ザンキ、良かったなあ。ツバキの嬢ちゃん、もっと強くなるぜ」

「ああ。俺も安心だな……」


 陽気に肩を回してくるハルマサに頷いていると、エンヤがパッとこちらを向く。


「おいおい、お前ももっと強くなるんだぞ。次、ツバキやリンネ、それにたまを危険な目に遭わせたら許さねえからな!」

「ザンキ……おしおき……する……」


 エンヤとちっこいツバキはジトっと俺を見ながら詰め寄ってくる。はあ、とため息をつき、頭を抱えていると、ツバキと目が合った。ツバキは優しく微笑み、コクっと頷く。

 ……良いんだな?


「ほう……俺に仕置きか……やれるもんなら、やってみな……」


―死神の鬼迫―


「「ゔッ……!」」


 エンヤとツバキは顔色を悪くしながら後ずさる。そして、殺気を解くと、頬をポリポリと掻きながら、ため息をつく。


「変な技、教えやがって……おっかねえだろ、コイツ……」

「うん……失敗……した……」


 この技を名付けたちっこいツバキは頭を抱える。何となく面白い光景だなと思った俺は、二人を指さして笑った。


「上等だ。俺もさっさと強くならねえとな……今日の爺さんみてえに、この世界にも上には上が居るってことも再確認できたしな」

「リンネも~!」


 ジゲンとの闘いを思い出し、拳を握っていると、リンネも両手を上げて、強くなるという意思を示してきた。ツバキがクスっと微笑み、リンネの頭を撫でていると、エンヤ達からの長いため息が聞こえてくる。


「はあ~~~……ホント、とんでもない成長をしたな、お前らは……」

「お前……ら?」

「何でもない。まあ、本人にその気があるなら、これからも勝手に強くなっていくんだろう。俺達は、ツバキと一緒に強くなっていくからな。いずれ、本当にお前を越えてやる」

「ああ。今度は俺達が、お前にお仕置きしてやるからな!」

「ハルマサ……何もしない……私達が……頑張る……」


 ちっこいツバキの言葉に、おい! と夫婦漫才のように突っ込むハルマサ。相変わらず仲の良いことでと思いながら、エンヤ達の挑発に頷いた。


 その後、三人はそれぞれ、ツバキの簪と、斬鬼に引っ込んでいく。最終的に、洞窟内には、俺とツバキとリンネだけとなった。


 そして、三人で、出口を目指す。感覚的にそろそろ夕方だろうなと感じていた。


「良かったですね、ムソウ様。皆さんと会うことが出来て」

「ん? ……ああ、そうだな……」


 行きにここを通っていた時は、想像もしていなかったな。エンヤはともかく、ハルマサ達に会えるとは思っていなかった。何気に、エイシンに再会できたのは驚きだった。

 感覚としては、ハルマサ達とは数か月ぶり、エンヤについてはこの間の魂の回廊以来だったが、エイシンは、あの日以来だから、十年以上振りの再会となる。

 あった途端に頭を下げたりと、相変わらず義理堅く、そして、忙しない男なんだなと嬉しかった。

 皆の成長した、というか、老けた姿も見れたのは面白かったな。トウヤは、がっちりとしながらも、中身は変わっていなかった。そこもまた面白いなあと感じたな……。


「ツバキはどうだった? アイツ等に会えて……」

「それはもう、嬉しかったです。憧れていたツバキ様やハルマサ様にお会いできて……それに、エンヤ様も私と共に闘ってくださると仰って、本当に……」

「ちっこいツバキのスキルとエンヤの偶像術……本当に、お前が俺を越えるのはそう遠くないかもな」


 正直、今日の連戦はこの世界に来て、一番の闘いだったと思っている。ジゲンも、流石、エンヤの血を引いているなあと実感した。

 それに、口ではああ言っていても、初めて戦った“親”は本当に強かった。俺もまだまだだなと頭を掻く。

 ツバキは俺の言葉に、それほどでもないですよ、と謙遜していたが、表情からは、必ず、俺を越えてみせるという意思がじわじわと伝わっていた。そうなったら、どうしようかと、少しばかり、頭を抱えた。


「……まあ、良いか。リンネは今日、どうだった?」

「うん! すっごくたのしかった! おししょーさまのおともだちと、おやさまにあえて、たのしかった!

 おやさまがリンネのあたまをなでてくれて、ほんっとうにうれしかった!」


 興奮冷めやらぬと言った感じに、自分の頭を撫でるリンネ。俺も、エンヤのああいう一面を知れて良かったと思っている。

 ただ、俺にもああいうことをしてくれても良かったのになあと何度も思った。

 しかし、皆の言うように、サヤにはしていたなあと懐かしくも感じて、俺はやっぱり、悪ガキだったんだなと再確認できた。


 二人にとっても、今日は良い一日だったようで、俺は皆を連れてきて、本当に良かったと感じていた。また、定期的に、こういう日を作ろうかなと考えていた時、ツバキが口を開く。


「そう言えば、ムソウ様。トウショウの祠に行くという目的は果たされましたが、今後はどのようにしましょうか?」

「ああ、そうだな……」


 歩きながらこれからのことを模索する。一応、考えていたのは、今まで通り、トウショウの里に住みながら、クレナの依頼に取り組んでいくことにしている。その間に無間が直れば、更に皆と強くなっていこうと思っている。

 邪神族の復活がいつになるか分からないが、それまでに、出来るだけの対応はしていこう。


 他にも、何かやりたいことはあったかと、考えていくと、思いついたことがあった。


「そろそろ、モンクに行って、グレンに会いたいという思いはあるなあ」


 クレナの一件から、結構経つが、未だにモンクには行けていない。情報通のグレンはすでに俺が、その渦中にいたことを知っているだろう。心配をかけたくないという思いともう一つ、心配なことがある。

 王都にあるケリスの邸宅から出てきた手記に、グレンの名前が書かれていた。何となく不安になり、様子を見ようということで、そろそろモンクに行こうと考えている。


「なるほど……次は、モンクですか……」

「そういや、お前の故郷だったな。じゃあ、早めに行くか?」

「え、ええ……それは嬉しいのですが、大丈夫ですか?」

「問題ない。屋敷のことも落ち着いて来たし、前の一件も片付き始めているからな。何の心配も無いだろう」

「では……そうしましょうか」

「ああ。リンネも、良いか? これから、また旅に出るぞ」

「うん! おししょーさまとおねえちゃん、どこへでもつれていってあげる~!」


 ひとまず、モンクに行くことを決めた俺達。リンネは今からやる気を見せてくれている。

 そして、出発は一週間後と定め、俺達は洞窟を出ていった。


 ◇◇◇


 その後、辺りが暗くなった頃、屋敷に帰った。そして、いつも通り、リンネとツバキは女中たちの手伝いに行き、俺は風呂へ向かった。

 浴場に入ると、何人かの冒険者達と共に、ジゲンが風呂に浸かっていた。


「おお、ムソウ殿。戻られたのじゃな」

「ああ。ただいま、皆」

「「「「「お帰りっす~」」」」」


 皆から労いの言葉を受け、風呂に入ると、今日の疲れが一気に取れていった。


「あ~……気持ちいいなあ……♨」

「今日は、色々とあったからのう……」

「……お前がそれを言うか……?」


 疲れの原因は、エンヤと若返ったジゲンと闘ったことが主な原因だ。ジトっとジゲンを見ると、皆からも、違えねえと笑い声が上がった。


「それを言うなら、儂も同じじゃ。あれほど、力を使ったのはケリスの時以来じゃからのう」

「ッたく……もしもあの時、時間魔法の魔道具があれば、ケリスとの闘いも秒で終わっていたかも知れないな」

「そうじゃの……やれやれ、歳はとりたくないと、改めて実感したのう……」


 今日若返って全力で戦った様子のジゲン。ただ、あの時よりも老いたことにより、戦術や、新たに得たり、考案したりした技もあり、実際にあの年齢だった頃よりも、今日闘った時の方が幾分か強いと実感しているらしい。

 本当に、恐ろしい爺さんだなと、俺やそこに居た冒険者達は、頭を抱えた。

 何とも、頼もしい奴が、俺の側にいてくれているんだなと思っていると、皆の中から、ハルキが俺におずおずと口を開く。


「あの……頭領、ジゲンさん」

「ん? どうした?」

「俺達、邪神族ってのと闘うために、もっと強くなろうとは思ってんすけど……」

「今日のお二人を見ていたら、何を目標にすれば良いのか分からなくなってな……」

「一応、エンヤ様にも聞いたんだが、一人で超級、全員でデーモンロードを倒せるくらいって言われて……」


 ハルキの言葉に、他の者達が続く。一人一人が超級を倒せるくらいで、全員でデーモンロードを倒す……か。なかなか微妙な塩梅だな。

 ジゲンの方も、何となく首を傾げているようだ。というのも、サネマサを除いた牙の旅団の力が大体それくらいだそうだ。


 これはつまり、サネマサという存在が居なくとも、一つの領土全域にわたって影響を及ぼす存在を、倒せるということである。

 流石に、今の闘鬼神にその力は無いと思っている。ただ、頑張れば到達しそうだとも思っている。本当、微妙な目標を掲げたものだな、エンヤ……。


何て言ってやろうかと悩んだが、取りあえず思ったことを伝えることにした。


「取りあえず、俺や爺さんのことは気にすんな。今はコウシ達を満足させるくらい強くなれば良い」

「そして、クレナは安全だと、他の領からも言われるくらい多くの依頼をこなし、本当の意味で、冒険者の仕事が無い状態にまで出来れば、儂からも特に意見は無いのう」


 ジゲンはそう言って、ほっほっほと高らかに笑った。

 まあ、これだけの人数でまともに依頼をこなすことが出来れば、それも何となく叶えられそうな気がしてくる。

 エンヤが言っていたものよりは若干、難易度も下がっていると考えていたが、ハルキ達は納得した様子で、先ほどよりは幾分か、安心したような顔をする。


「それなら俺達もいける気がするっす!」

「それは良いが、だからって、明日から手を抜いたりはするなよ。もしも、今までよりもだらけてるって俺が思ったり、他の奴らから報告があったら、お前には雷雲山に行ってもらうか、もしくは爺さんと闘ってもらうからな」

「!?」


 安心しきった様子のハルキだったが、サーっと顔色を青くし、ジゲンを震える目で見つめた。

 雷が嫌いなコイツは、俺とジゲンとの手合わせの時も、若干震えていたという。もしもコイツがだらけた時は、俺と一緒に雷雲山で三日三晩特訓か、ジゲンの稽古に付き合ってもらうと言うと、ハルキは黙り込み、他の者達は笑っていた。

 そんなハルキを安心させようとしてか、ジゲンが肩をポンと叩く。

 しかし、逆効果だったようで、ハルキはビクッと体を震わせながら、そっとジゲンから離れた。


「ふむ……ハルキ殿は儂を雷神か何かかと思っておるのかの?」

「いや……そんなことは――」


 少しばかり、気分を悪くした様子のジゲンを見ながら、慌てて言葉を取り繕うハルキ。

 だが、ハルキより先に、他の者達が、次々に口を開いた。


「俺達は、ジゲンさんを雷神と思ってるぜ」

「今日のは凄かったからな~」

「反応してた頭領も凄かったが、流石、クレナの“大侠客”ジゲンさんだったな」

「そこは、ジロウさんだろ? 何食って、どうやったら、あそこまで動けるんだよ~?」

「う、む……これは……まいったのう……」


 ジゲンに強くなる秘訣を尋ねている闘鬼神の皆。今日の戦いで、いつもの俺のように、“規格外”だのなんだと言われ、恐れられるものかと思ったが、むしろその逆な光景に、俺は頭を抱える。

 俺とジゲンの違いとは一体……。日頃の行いの所為なのだろうかと、思い、もう少し行動を改めてみようと感じた。

 少し困りながらも、皆に応えていくジゲン。こういう爺さんも珍しいと思いながら、風呂を楽しんでいた。


 その後、風呂から上がった後は、居間でゆっくりしていた。

 すでに帰ってきているコモン達十二星天、トウガ達神獣と、カドル、そして、牙の旅団の闘鬼神がそれぞれ、談笑している。今日は色々あったが、結局最後は日常に戻ったなあと思い、俺も腰を落ち着かせて、ゆっくりとしていた。

 ただ、そうは言っても、今でもハルマサ達はこの屋敷に居る。刀精としてだが、それを知る前と知った後では、見え方も違うなと感じた。


「ねえ……頭領、ちょっといい?」


 ゆっくり茶を飲んでいると、リアとダイアンが俺のそばまで来た。どこか困っているような顔をしている。


「ああ、良いぞ。何だ?」

「頭領の頭領さん……凄かったすね……」

「ジゲンさんも凄かったけど……私達って……」


 ああ、コイツ等も、風呂に入っていた奴らと同じく、俺達の手合わせを見て、少しばかり不安になっているようだな。先ほどはハルキ達にも言ったが、エンヤやシンキが皆に言っていた目標で充分だと思っている。

 ただ、強くなっているという感覚が少しばかり鈍ったような気もするな。俺は二人を安心させるために、笑って答えた。


「お前らも充分成長していると、俺は感じている。特にリアは、気配を探ったり、俺の殺気を受けても平然としているからな。その点じゃ、少なくともハルマサや、エンヤを越えている。そこは自信持て」


 洞窟内じゃ、エンヤは、死神の鬼迫を嫌がっているようだったからな。そう言えば、やっていないから何とも言えないが、恐らくハルマサあたりも駄目だろう。

これに関しては、リアはアイツ等以上だ。トウガ達もリアに教えを乞うてるくらいだからな。精神力に関しては、それこそ、古今東西、ここまでの奴は見たことが無い。


「ダイアンの方は、空中での動きに関しては、俺以上だろ。元から飛べる奴と、俺みたいに後天的に飛べる奴とでは、やはり、どうしても埋められない差があるからな。そこも、自信を持っておけ」


 それこそ、空中で魔龍退治の専門家のようになれれば、ダイアンは完璧だな。それに、普通の人間じゃ惑わされるサキュバス種の誘惑にも、ギリギリ耐えられるからな。

 ……まあ、それには別の要因があるが、ダイアンも間違いなく強くなっている。


 他にもカサネやクサマなどは隠蔽スキルを使わずとも、気配を小さくする事が上手くなっているし、ルイやマルスは、状況判断の能力が他の奴よりも高い。

 ハルキに関しても、未だに雷にビクついている光景をよく目にするが、それゆえに、危険予知の能力を身に着けたりもしている。

 ロロなどは、魔法の扱いに関しては皆よりも頭一つ抜き出ている。今日、エイシンに水をぶっかけた時などは、後でエンヤが褒めていた。


 前回の一件を通じて、闘鬼神が全体的に強くなろうと意識的になっているのは、既に知っている。コイツ等自身は不安そうな顔をしているが、俺としては、着実に強くなっている皆のことが誇らしくなっている。


「俺も爺さんも、お前らの成長には納得している。だから、もう少し自信を持て。

 それに、俺達も元から強かったわけじゃねえよ。強くなりたくて色々やって、自分が納得する力を手にしているだけだ。

 お前らも、自分で納得できる力ってのを、自分で見定めて、強くなっていけ」


 要は、俺もコイツ等も元々一緒だと伝えると、リアとダイアンは目を見開き、フッと笑みを浮かべて頷いた。


「はあ……そっすね。俺もいい歳になったわけだし、そろそろ人に自分の答えを聞くってのもやめておくっす」

「頭領も、エンヤ様も、そして、ジゲンさんが凄かったところを目の当たりにして、ちょっと、見失っていたかも。私も……私の強みっていうのを、私が理解しないとね……」


 リアの言葉に大きく頷く。それを分かっているのなら、大丈夫だろう。エンヤが俺に言っていたように、コイツ等も、俺がよく見ていなくても、勝手に強くなっていくと感じた。

 というか、今日の、若返った頃の俺よりも、コイツ等の方がだいぶ大人だ。何の心配も無い。恥ずかしいからそれは、黙っているがな……。


「というわけでだ。どうしても、何か分からなくなったら、また、声でもかけてくれ。一緒に依頼にでも行って、一緒に色々考えてやるからよ」

「うっす! 頭領!」

「前みたいな不測の事態は勘弁だけどね」


 俺だって勘弁だと、リアに頷き、その後も三人でゆっくりとしていた。


 その後、いつものように、リンネとたまが、飯の支度が出来たと居間に現れ、今日もまた、皆で宴会をした。

 話題は、やはりハルマサ達やエンヤのこと。闘鬼神に関しては先ほどから確認していたが、女中たちは、頭領の周りにはいつも美しい方々が居たのですね、と言われ、ちっこいツバキが成長した姿だったり、ナツメを思い出しながら、まあな、と適当に頷いていた。

 すると、横に居たツバキが、ムスッとした表情で、俺を肘で小突く。……何故だ。

 帰りの際にも感じたが、女中たちはナツメと凄く仲良くなったらしく、また、お会いしたいと言っては、ジェシカの方をチラチラと見ている。まあ、会うとすれば必ず、ジェシカが居ないと駄目だからな。

 ジェシカは困ったように視線を向けるが、まあ、ナツメに限らず、俺も、皆とまた、面と向かって話したいとは思っているからな。何日かに一回はまた、祠に行こうと思っている。

 たまとリンネもいつの間にかちっこいツバキと仲良くなったようで、また会いたいという二人の言葉に、ツバキは、ぜひ、と微笑んでいた。

 類は友を呼ぶんだなあと何となく納得していたが、別の意味で、ちっこいツバキに関し、ジゲン、サネマサと牙の旅団が盛り上がっている。

 アキラやトウヤが、成長した姿を見せた時、ツバキも成長した姿を皆の前で見せてくれた。俺も予想だにしないほどに美しく成長したツバキを見て、ジゲン達は、ショウブも頑張れば、ああいう風になるのではないかと、わりと真剣な目で話し合っている。

 とは言うものの、ちっこいツバキは、あの頃はまだ二十歳くらいだった。急な成長をしたとは言え、二十だったら、まだ、成長の余力を残している。すでに三十に達しているショウブはどうだろうなあと感じた。


 レオパルドは、アキラについてどうだったか、などと、主にトウケンからうるさそうに尋ねられていた。まあ、良い奴だということは分かったと、頷いていると、そうだろ~! といった感じにトウケンに肩を叩かれている。

 本当にアキラのことが好きなんだな、トウケンは。それに、今日は、長年ため込んでいた思いを伝えられてスッキリしたんだろう。まあ、アキラには軽く流されていたがな。

 ジェシカやコモンと違って、今日初めてEXスキルの前任者に出会ったサネマサとレオパルドだったが、それぞれの印象は良かったようだ。

 更に、アキラ曰く、レオパルドは自分と違って賢い感じで、何となくエイキを思い出したと、別れ際に、嬉しそうな顔で俺に言ってきた。アキラの方も、レオパルドを気に入って良かったなと感じる。

 

 サネマサに関しては、俺やエンヤ、更にはカンナの一番の従者であるエイシンが前任者ということが嬉しかったようだ。この世界で一番強いとされている奴らをずっと近くで見守ってきた人物ならば、自分ももっと強くなれると、先を見据えていた。

 そんな、大層な人間では無いと言おうとしたが、それはそれでエイシンに失礼だなと思い、辞めた、俺も、アイツに対して、ずいぶんと優しくなったんだなと、一人、納得していた。


 コモンは、祠を出た後、屋敷に戻るまで、トウヤと話していたことを早速実践していたらしい。前々から、その存在について、把握はしていたが、面と向かって、話すのは今日が初めてだった。

 今日は下準備で終わったが、今後、シンキも交えて、トウヤと共に無間を更に強くすると、張り切っている。完成をお楽しみにというコモンの言葉に、俺は頷いた。


 やがて、皆で飯を食い終えて、それぞれ風呂に入ったり、自分の部屋に向かって行く。

 明日からも始まる日常に備え、俺も部屋に戻り、ツバキとリンネと少しばかり遊んで早々に床に就いた。


 明日こそは、俺よりも速く起きると呟くリンネの頭を撫でて、俺とツバキも布団を被った。

 

 ◇◇◇


 ……だが、翌朝も、ツバキとリンネが起きる前に、俺が目を覚ました。外はまだ暗い。皆もまだ、寝ているようだ。

 俺は二人を起こさないように着替え、屋敷の外に出る。

 そして、以前、牙の旅団と初めて会った時の、日の出が綺麗に拝めるという草場へと向かった。


 ……やる機会が無かったから、やろうと思っていたあることをする。これに関しては、皆の前でやるのは、まだ先だと考えていた。


 それだけ、危険なことと思っている。


 俺は、懐の薬を確認し、目を閉じて瞑想した。


 ―ひとごろし発動―


 そして、EXスキルを発動させる。全身に力が漲っていき、無間が無くてもこのスキルを使うことが出来たと確認した俺は、更にスキルを発動させる。


 ―おにごろし発動―


 辺りが暗い中、このスキルを発動させると、その分普段より、俺の体が強く発光しているように見え、背中に翼が生えて神人化が完了した。


 ひとごろしと、おにごろし……二つのスキルを発動させたことにより、俺から溢れる天界の波動は、普段の時よりも強く、大きな力だと感じ取ることが出来る。

 未だに、意識の方は落ち着いているなあと思い、俺は深く息を吸い、ゆっくりと吐いた。


「さて……やるか!」


 ―かみごろし発動―


 俺はそのまま、最後のスキルである、かみごろしを発動させた。すると、俺の胸の辺りが黒く輝き出し、そこを中心に黒い波動が全身を包んでいく。

 すると、俺の周りで、元から出ていた天界の波動と黒い波動……つまり冥界の波動が反発するように、バチバチと音を立ててぶつかり合った。

 なるべく、その二つの波動が同じくらいの量、強さになるように調整を始める。

 すると、頭の中に鑑定スキルを使う時のように、文字が浮かび上がった。


 ―ひとごろし、おにごろし、かみごろし統合……EXスキルみなごろしを習得―


 その瞬間、ぶつかり合っていた二つの波動が混ざり合うように融合し、俺の体を包んでいく。


「ッ!?」


 おにごろしや、ひとごろしを使った時以上の力の波動が、俺の全身を駆け巡る。その衝撃は、思わず叫びたくなるようなものだ。

 だが、ここで叫んでしまっては、確実に目立つ思い、それを噛み殺し、ジッと耐えていた。

 すると、俺の背中から、もう一対の翼が出現し、おにごろしの時のものと含めて四枚になる。更に、俺の額、右側から、一本の角が出現し、口には牙が生え、手足の爪が鋭く尖り、伸びていった。


「ッ!!!」


 全身に力を込めて、波動を空に放出。途轍もない力を持つ闘気が天へと昇っていき、濁流のように俺の体を駆け巡っていた波動が落ち着いていった。


「成功……か……?」


 段々と気分も落ち着いてきたことを確認し、俺は再び深呼吸をする。


 先の一件で、邪神族の男が放ってきた、最後の巨大な神怒……あれを斬るために使った力。俺が持つEXスキルひとごろし、おにごろし、かみごろしを同時に使ったものである。

 名称は、みなごろし……何とも危険な香りがするものである。なので、皆には内緒にしていた。

 だが、これが一体どういう力なのかという疑問はあった。リアの言うように、俺も自分の力というものを、しっかりと確認しなければならない。どれだけの力を、どれだけ自在に使えるか把握しないと、護れるものも護れないからな。


 さて、改めて変化した体を見渡す。長く伸びた爪に、口から生えている牙。そして、額から伸びる角と、背中にある二対の翼。

 鬼族と神族が合わさったような感じだが、何となく魔物、それも、デーモン種のようにも見える。

 これは……少なくとも、エンヤには見せられないな。恥を知れ! と言われながら、叩っ斬られそうだ。

 だが、そうはならないだろうという自信もある。それだけの力を感じる。一体、今の俺はどのような存在なのだろうかと、自分に鑑定スキルを使った。


……


EXスキル みなごろし

ひとごろし、かみごろし、おにごろしを統合させた際に出現するスキル。

三つのスキルの効果を同時に操り、鬼神化する。


鬼神

数多の魂に安らぎと破滅をもたらした者がたどり着ける境地。

天界の波動、冥界の波動を自在に操り、星と一体化する能力を得る。


……


……久しぶりに、自分のことを新たに知った代わりに、分からないことが増えた。

 分かったことは、この姿は、鬼神と呼ばれる存在であるということで、発動させると、ひとごろしの能力である、身体能力が向上し、俺が持っている全てのスキルの熟練度が極めた状態となり、天界の波動と冥界の波動……いわゆる、光葬針と鬼火を同時に使うことが可能となるといった感じか。

 分からないことは、その、鬼神という存在。字面から、神族と鬼族の交配種のような感じだが、それとは別に、何か、特別な存在であるということが分かった。

 星と一体化……これに関しては本当によく分からない。一応、かつてはこの大地の至る所で確認された天界の波動と冥界の波動を操ることが出来るから、という解釈で良いと思う。もっとも、それ以外の何か、特別な能力や、特性もあると思うが、気にしないでおこう。


 そして、なおも、自分の能力について調べていると、あることが分かった。この状態になれば、残るEXスキルでもある、すべてをきるものも、極めた状態となっている。

 これについては、零の刀である斬鬼を手にした時に現れる、空間への切れ目が見えるようになる、と、今までは解釈していたが、どうやら、その先もあったようだ。


 スキルを発動させて、天を見上げる。

 今までは、視界に映る対象に切れ目が見えていたが、鬼神化したからか、すべてをきるものが極められたかは不明だが、今の俺には、普段の時には見えていなかったものの切れ目が見えていた。


「チッ……そういうことか……」


 俺が何故、鬼神化という能力を使えるのか、そもそも、神人になったり、鬼人になったりするスキルを何故、使えたのかは、未だに分かっていない。

 だが、俺をこの世界に呼んだか、もしくは引き込んだ存在が居るとすれば、その力を使って、何かを成せと言っているのかも知れないと、それを見ながら頭を掻いた。


 まだ、日が昇る前、薄く明るくなっているトウショウの里上空……いや、大地の上空に、巨大な魔法陣のようなものが見えるようになっていた。大地全土に渡っているのか、端が見えず、その全体像も分からない。

 だが、何かしらの魔力の流れのようなものが見えることから、これは陣だということは理解できた。


 鬼神化は、神「人」でも、鬼「人」でもなく、「鬼神」という存在になる。いわば、神族と鬼族そのものの力を合わせ持った存在である。

 それが理由なのかは分からないが、この状態で見えるようになったということは、あの陣は、神族と鬼族が行使したものである可能性が高い。


 つまり……あれが、シンキやエンヤ達が語っていた、邪神族を亜空間に閉じ込めた結界を構成する術式だと考えられる。

 人界をすっぽりと覆うくらい巨大で、前の神怒とは比べ物にならないくらい強力な力を感じる。あれよりも多くの魂の魔力を使われているのだろう。だが、先ほども言ったように、切れ目は見える。


 そして、その切れ目からは、あの時の神族の男や、邪神兵から感じた嫌な気配が感じてくる。まるで、米袋に小さな穴が開き、そこから米粒が一粒一粒落ちていくように。

 壊蛇の襲来で、弱まっていた封印だったが、シンキの言うように、邪神族への封印は確かに弱まっているようだ。俺が斬らずとも、遠くない未来、確実に封印は破られ、この地上に、邪神族が再び顕現することになるだろう。


 いずれ、この力を以て奴らと闘い、今度は滅ぼせと、俺をこの世界に連れてきた奴は、望んでいるのだろうな……。


 俺は……ケリスとの一件において、邪神族の男が、死の間際、正確には俺に斬られる前に放った言葉を思い出していた。

 あの時は、必死だったから、男の言葉について、そこまで深くは考えなかったが、色々と身の回りが落ち着いていき、深く思い返していく中、ある一つの疑惑が浮かんだ。

 そして、それは、シンキがもたらした、ケリス邸の調査結果により、確信のものへと変わった。


 ハルマサ達は、邪神族については何も言わなかった。単純に忘れていたのか、俺が知らないと思ったのか、もしくは、俺が思っている奴が、あの時点ではまだ、俺と同じく居なかったのか定かではないが、俺は、少なくとも、俺が斬った邪神族の男のことを知っていた。

 普段はそういうのに興味が無かったのだが、国を挙げての総力戦において、俺は部隊の長となっていたからな。今後闘う可能性がある者のことくらいは、名前くらいは憶えていた。

 向こうも俺を知っていたということもあり、シンキの報告の中にあったその名前を見て、邪神族の正体……これから闘うであろう奴らが、あそこには居るということが分かった。


 俺は、天に広がる魔法陣を見据え、あの時以上の死神の鬼迫を放った。街の方から、犬の鳴き声や、山から鳥のギャーギャーという声が聞こえてきたが、気にならなかった。


 ……あの先に居る……アイツを……今度こそぶっ殺すという思いだった……


「……あの時の言葉通りだ……地獄で俺を待つというなら……そこでテメエを……今度こそ……滅ぼしてやる……」


 俺は、鬼神化を解き、少しだけ襲ってきた脱力感を薬で癒しながら、そのまま家に帰った。

 その時、ちょうど日が昇り始めたようで、山の上から太陽が顔を出し、トウショウの里の前に広がる水田を照らし、俺の背中に当たった。ジゲンの言うようにそれは確かに、綺麗で見事なものだった。


「夜明け……か……」


 ……しかし、これほど胸がざわつく夜明けは流石に無いなと思いながら、次来るときは、今度こそ、この景色を楽しもうと感じながら、帰路についた。


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