第278話―“刀鬼”を斬る―
その後も宴会は盛り上がっていく。
俺とジゲンが同い年くらいになったということで、かねてから皆の中で話題となっている、俺とジゲン、どちらが強いのかという話が飛び出してきて、試しにと手合わせをしてみた。
刀を持っていないので、いったんツバキから斬鬼を受け取り、ジゲンの前に立つ。
牙の旅団やたまはもちろん、やはり、一族だからか、エンヤとタカナリがジゲンを応援し、何となく不満に思っている中、始めた手合わせだったが、ジゲンは若返ったこともあって、元々速かった攻撃が更に速くなり、少々手こずってしまった。
「そら、行くぞ! ムソウ殿!」
「クッ……!」
縦横無尽に辺りを駆けまわっては、一瞬の隙をついて、刀を振るってくるジゲン。まるで雷の如く、近づいては斬りつけてきて、手を焼いている。
だが、若返り、動きが良くなったことに伴って、ジゲンから伝わる気配も猛々しいものになっているおかげで、攻撃がどこから来るかなどはいつもよりも察知できるようになっていた。
ジゲンが地面を蹴った刹那、刀を構えてジゲンの攻撃を防ぎ、そのまま鍔迫り合いとなる。
「ほう……流石は、ムソウ殿……やはり、若返って体がよく動くという条件は同じか……」
「まあ……そんなところだな。元の姿ならヤバかった……」
「見え透いた嘘だな。前のままでも、受け止めることくらいは出来るだろ?」
いや……嘘じゃないんだけどな……。気配を追う感覚自体はそのままだ。だが、身体能力は、確実に前よりも良い。こうして攻撃に対処して受け止めることが出来たのは、若返ったおかげだなと思っている。
にしても、ジゲン……。確かに、若い時の方が恐ろしい奴だなと感じる。こっちが割と必死な中、話しかけてくる余裕すらあるのだからな。
「やはり、ムソウ殿に正攻法では敵わないか……なら!」
おまけに、少し好戦的となっており、自らの技を出し惜しみせず、全力で向かってきている。
ジゲンは刀を抜いたまま、後方へと跳んで俺から距離を取る。そして、刀を掲げると瞑想し始めた。
「む!?」
すると、観戦している皆の方から声が上がる。見ると、カドルが自身の体を眺めながら、戸惑っているようだった。
「と、“刀鬼”殿! 何をしている!?」
「おっと……すまねえな、雷帝龍殿。ちと、力を貰うぜ。本来は気を集めて、刀で雷に変換するんだが……」
ジゲンはニヤッと笑って、更に刀に力を込める。よく見ると、カドルから何か、波動のようなものが出てきて、ジゲンの刀に向かっていることに気付いた。
慌てるカドルと、余裕そうなジゲン。一体、何をしているのかと思っていると、ジゲンの体に変化が起こる。
刀がバチバチと帯電し始め、更にその電気がジゲンの体を纏い始めた。
「お、流石、雷帝龍殿から貰った力だな。楽に早く出来る……」
「も、もう、止めてくれないか!? 頭がくらくらするぞ!」
「ッと……それは悪いな。まあ、このくらいなら良いか……」
必死に叫ぶ雷帝龍の言葉に頷き、ジゲンは刀を下ろした。すると、カドルから出ていた力の流れが止まり、カドルはガクッとしながら、荒い呼吸をしていた。
それでも帯電したままのジゲンはこちらに目を移し、刀を構える。
「ムソウ殿……俺の刀は知っての通り、その能力は雷を起こし、圧倒的な破壊力と速度を以って、相手を蹂躙するものだ。つまりは、雷を操ることこそ、俺の奥義。
こうやって、雷を吸収し、纏うことも出来る。こうなると、俺は更に速く、強力な技を繰り出すことが可能になる」
ジゲン曰く、普段は集めた気を刀に纏わせ、刀の力によって、雷へと変換することでこの力を使うことが出来る。
以前、闘った時などに見せた偶像術によって雷を起こしたり、そのまま巨大な雷を落としたりしたのは、そういう仕組みからだという。
普通の気を、何かに変える仕組みは、俺の神人化や鬼人化と似たようなものなので、すぐに理解できた。
今回は、雷の化身であるカドルが側に居るということもあり、カドルから直接雷の力を受け取った……もとい、吸い取ったという。同じ要領で、普段は雷雲などからもこういったことをするそうだ。
いわば、カドルのようなことをするジゲンを流石だなあと感じていた。
「ほう……そいつは面白そうだな。だが、なんで、今までやってこなかったんだ?」
「理由は簡単だ。この、雷を纏い、雷の速さで動くことに、老いたままでは体が追い付かなかったってわけだな。だが……今なら……」
一応は、装備や刀のおかげで雷の影響をその身で受けることはほぼないという。しかし、雷と同等の速さで動き回るということについては、老いたままだと、体がついて行かず、体中の骨が悲鳴を上げるという状態になるらしい。
ジゲンは、この他にも、普段よりも素早く動くという体術を会得している。それぞれ、何も強化魔法などを使っていない時、いわゆる素の状態で行う「瞬華」、身体能力向上などの魔法を使い、瞬華よりも速い状態で行う「絶影」、そして、今のように雷を纏い、ジゲンが最速の状態となる「雷成」と呼ばれるものだ。
瞬華、絶影は老いた時にでも使えるらしいが、雷成は老いと共に使えなくなっていったと、どこか寂しそうな顔をしながらも、今しか使えない技だと、ニカっと笑っていた。
「そんな技を俺にか……なら、俺も少しばかり、本気を出そうか!」
―かみごろし発動―
珍しいものを見せてくれた礼と思い、俺は、普通の人間相手に、初めて鬼人化して闘うことにした。
シンキとの遊びで身に着けたように、俺から溢れる殺気をジゲンにぶつけると、少し顔色を悪くした。
「おっと……こうやって、正面から受け止めるのは初めてだな……爺さんのままだったら、そのまま死んでいたかも……」
「縁起の悪いことを言うなよ……不安になる……」
「まったく……ムソウ殿はやはり、“規格外”だなッ!」
シンキですら顔色を悪くする、強い殺気を耐え抜き、ジゲンは地面を蹴った……と、思ったら、一瞬で俺の目の前に来て斬りかかってくる。
攻撃の気配は読めていたので、必死にそれを受け止めると、足場が砕かれるほどの衝撃と、体中に電気が走る感覚が伝わる。九頭龍の時ほどは無いにしろ、体が硬直し、刀からの衝撃をそのまま受け止める結果となってしまった。
「このッ……! お前の方こそ“化け物”じゃねえかッ!」
「言ってろッ! 抜刀術・迅雷ッッッ!」
フッとジゲンの姿が消える。その直後、背後からバチバチと音が聞こえた。一瞬の間に俺の後方へと移動したジゲンは、刀を鞘に収めて、抜刀術で斬りかかってくる。
俺はその場で跳躍し、ジゲンの攻撃を躱しつつ、上から斬りかかった。
「焦熱斬波ッ!」
ジゲンはすでに俺の真下から離れた所に居る。地面に到達すると同時に、俺は刀を降り抜き、鬼火を纏わせた斬波をジゲンに放った。
「むう! 雷電斬波ッ!」
俺の斬波に向けて、雷を纏わせた斬波を放つジゲン。俺達の斬波はぶつかり、凄まじい衝撃を伴って、相殺される。
その瞬間、ジゲンはさらに地面を蹴って俺に近づいてきた。
「流石、ムソウ殿! 奥義・瞬華終刀ッ!」
「チッ! 食らうかよ!」
ジゲンの間合いに入る前に、地面を拳でぶん殴る。すると、足元が砕かれ、瓦礫がジゲンの前に立ちふさがった。ジゲンの攻撃は、その壁に当たったようで、俺の目の前でその瓦礫が粉微塵になっていく。
「相変わらず、繊細かつ豪快な技だな! だが、次はこちらの番だ! 奥義・無斬ッッッ!」
俺は近づいてくるジゲンの呼吸を読み、その間を狙って刀を振るう。ジゲンは慌てて刀を抜き、俺の一太刀を受け止めた。これで抜刀術は封じることが出来、これが最後だと思い、その後も刀を振っていく。
「ウオオオオオッッッ!!!」
「むうっ! 徐々に重くなっていく技か! これは辛い……が、隙はある!」
ジゲンは俺が刀を振り上げた瞬間、手を前に出し、雷を放ってきた。俺はとっさに無斬の連撃を止めて、ジゲンの攻撃を躱す。
振って当てていくたびに威力を増していく無斬は不発に終わり、俺は肩で息をした。
「クソッ……この技を破られたのは、初めてだな……流石、爺さん……じゃねえや、流石、ジロウだな!」
「俺もだ。瞬華終刀を破られたのは初めてだ。間合いに入る前にあんなことをしてくるとは……やはり、ムソウ殿……じゃないな、ザンキ殿は面白い……」
雷成を使っていると、若い時でも相当な負荷がかかるのか、ジゲンの方も、肩で息をし始めている。
その分、ジゲンの戦いに対する集中力というものも上がっているが、それに伴って、ジゲンから感じる、俺への殺気のようなものも強くなっている。そのおかげで、俺はジゲンの攻撃に対処することが出来る。
だが、これが出来るのは、俺やエンヤくらいだろうなと感じ、ジゲンの強さが、肌で感じることが出来ている。
楽しいな……こうやって、ジゲンと本気でぶつかる時が来るとは思わなかった。宴会の余興で始めたつもりだったが、この時間がずっと続いてくれることを願い、息を整えて、ジゲンを見据える。
「まだ……やれるよな? “刀鬼”……?」
「無論だ……“死神”殿」
「へっ! そのあだ名、気に入っていないと言ってんだろ!」
「フッ! 兄貴には悪いが、俺もこのあだ名は気に入ってねえんだよ!」
俺達は刀を上げて、更にぶつかり合った。
◇◇◇
ジゲンとムソウの闘いを呆然と見守る皆の様子は、始まった時と比べると、分かりやすいくらい、静かなものになっていった。
ジゲンに力を吸われたカドルはもちろん、事の発端となった牙の旅団、ジゲンと闘いたいと言っていた神獣達、ムソウの強さを知っていたハルマサ達に加え、今の闘鬼神と、両方の強さを知っているタカナリや、十二星天までも、目の前で繰り広げられる二人の闘いを呆然と眺めている。
だが、一方、たま、リンネの二人は、ワクワクとした様子で、ムソウ達を見守っていた。
「おじいちゃ~ん、がんばれ~!」
「おししょーさまもがんばって~!」
幼い子供から発せられる応援に応えるように、更に二人は笑顔になっていき、刀を振っていく。周りの者達は、無邪気な子供というのは、何となく羨ましいものだと感じていた。
そして、もう一人、二人の闘いを感慨深げに眺めていた者が居る。ムソウの“親”であり、ジゲンの祖先である、エンヤである。顎に手を置き、何度もぶつかり合う二人の姿を、黙って眺めていた。
―あの爺さんが、俺達の血を引いている……か―
普段の飄々とした好々爺という雰囲気から一変、まるで自分のような猛々しい気迫を持ち、圧倒的な力を振るっていく様に、ジゲンが自分の血を引いているということに納得した様子のエンヤ。
―そして、ザンキ……さっきも感じたが、アイツも強くなっている……血は争えないってわけか……?―
同じくムソウの闘いを眺めながら、エンヤはフッと笑みを浮かべた。自分に憧れていたということは、無間の中に入ってから知ったことだ。前の世界ではそんなことは思いもしていなかった。寧ろ嫌われていると感じていた。
だが、共にムソウと闘いを重ねる度に、まるで自分のように、それ以上に、無間を扱い、敵を蹂躙していくムソウに喜んだものである。
二人を眺めながら、もう少し早くムソウがこの世界に来ることが出来たなら、ジゲンと共に切磋琢磨出来たのだろうなと感じたエンヤだった。
ふと、横を見てみると、皆と同じく呆然とした様子のシンキが目に入った。目を見開き、何も言わずにムソウ達の闘いを眺めている。
エンヤは、シンキの頭を少し小突く。
「おい、何ぼさっとしてんだよ?」
「あ痛てっ! 何すんだよ、いきなり……?」
「ぼさっとしてるからだ。 何だ? あいつらの闘いに臆したか?」
「いや……確かに凄まじい闘いっぷりだと思っている。ザンキも、“刀鬼”も……。
だが、何となく感覚にずれがある感じがしてな……」
シンキは己の掌を見つめる。以前行ったムソウとの「遊び」という手合わせ、先ほど目にした、刀精となったエンヤとムソウとの闘い、それと、今、目の前で繰り広げられている激戦。
確かに、シンキにとっても、目を見張るほどの闘いっぷりだと実感している。
だが、自分でも、あの中に入っていけるような気もしている。しかし、今の力では、二人に及ばないようにも思える。どこか、自分の中でずれを感じている。
エンヤは、そんなシンキを見ながら、ニカっと笑った。
「そりゃあ、そうだろ。邪神大戦から、数千年も経っているんだ。その間、大きな闘いなどしていなかったお前が、あの時の力を引き出せるわけないからな。
以前は確かにお前も、ザンキ、そして、今のあの爺さんと遜色ない力を持っていた。だから、頭の中では、アイツ等の中に入っていけるとは思っている。
だが、体がそれについていかないといったところだろうな」
シンキは、エンヤの言葉を聞き、ああ、と納得する。
エンヤからすれば、邪神大戦の折、シンキは鬼族、神族、人族、三種族を合わせても、指折りの力を持っていた。客観的にみれば、自分と同程度で、ムソウ達に遅れはとっていない。
邪神族との闘いでも、常に最前線で闘うエンヤや、カンナと共に居続けることが出来た。
だが、長く続いた平和な世界に生き続け、シンキは闘いというものをほとんどしていない。人界の宰相として、王の補佐をやり続けていた。
その所為か、当時の力を引き出すことが難しくなり、シンキは若干弱体化したと考えている。
「なるほど……てことは、邪神族が復活する前に、俺も力を取り戻さないといけないってわけだな?」
「まあ、そうだろうな。良かったじゃねえか。ここにはザンキも居るし、何なら、王都に帰っても、サネマサのガキも居る。良い修行になるんじゃないか?」
「ああ……考えておく。せめて、アンタをぶっ倒すくらいには、強くならないとな……」
「そういうところも、ザンキそっくりだな……」
だからこそ、自分のEXスキルを託せた。当時、この世界には存在しなかった、ザンキの代わりに、サヤを護り、カンナと共に闘い、カンナの妻であるコウカを護り……。
サヤや、皆と同じく、どこかザンキとシンキを重ね合わせていたエンヤは、一人笑っていた。
すると、恐る恐ると言った感じに、リアが二人に近づいてくる。
「あの……エンヤ様?」
「……ん? どうした? リア……?」
闘いを見ていたリアは、同じく戸惑ったような顔をしている闘鬼神の代表として、エンヤに確認したいことを確認した。
「えっと……邪神族って奴らと闘うのに、私達ももう少し強くならないといけないっていうのは分かってるけど……あそこまでならないといけないのかな?」
「ん゛! ……まあ……なんだ……シンキに聞いてくれ……」
リアの質問に上手く答えられないエンヤは、シンキに振った。
シンキは、俺に振るなと思いながら、闘鬼神の方を向く。
「そうだな……あそこまでしなくて良い……あの二人の足を引っ張らない程度には……」
「それが分からない……」
「どこまでやれば良いんだ?」
シンキの言葉に、更に戸惑う闘鬼神の者達。自分が創設した傭兵集団だったが、今はムソウが頭領ってだけで、その様相は大きく変わっている。
だが、コイツ等も、自分の家族ということで、エンヤはフッと笑みを浮かべ、リア達に顔を向けた。
「まあ、目標を設定するとすれば、一人一人が超級上位、全員で、デーモンロードを倒すくらいには強くならねえとな」
つまりは、闘鬼神だけで、災害級上位の敵を倒すということである。果たして、それは出来るのかと悩んでいる皆の様子に、思わず笑いそうになるエンヤ。
ザンキの下で闘鬼神名乗るくらいだから、それくらいは出来ると信じている。ツバキと共に、コイツ等も強くしていこうと心に決めた。
「何ならよ、牙の旅団に聞いてみろよ。どうやったら、あんな感じに強くなるんだ、ってな」
「「「「「やめろ」」」」」」
最終的に、ジゲンと共に闘った経験があり、更には現在、闘鬼神の師を務めている牙の旅団に意見を求めろと、シンキは促したが、コウシ達は、口を揃えて、聞くなという意思表示を示す。
牙の旅団も、ジゲンがあそこまで強かったかと、首をひねっているが、恐らく、歳を経て、更なる研鑽を経て、自分達が知っている時よりも強くなったんだなと納得していた。
闘鬼神は取りあえず、目標が出来たということには納得し、これからも、周囲の人間を頼りながら、今よりももっと強くなろうと、激闘を繰り返す二人と、屋敷に居る十二星天、それぞれの刀精、最後に、初代頭領であるエンヤを見ながら、誓いを立てていた。
「“刀鬼”……やはり、恐ろしいな。サネマサはよくもまあ、あの男の親友やってたな……」
「まあ、俺も正直驚いている……が、どちらかと言うとムソウに驚いているな。雷成になったジロウと互角な奴が居るとはな……」
「ああ。俺も、絶影までは知っているが、叔父貴の話では、雷成になると、それこそ、サネマサの爺いくらいしか、攻撃を捕らえることが出来なかったと聞いていたが、更に若返りだけでああなるんだな……」
皆と違い、サネマサとアヤメは、ジゲンの更なる成長を知っている為か、ジゲンに対してはそこまで驚いていない。“化け物”だった男が若返って、強化魔法による身体能力上昇の幅よりも、大きな力を手にし、“大怪物”になっただけだと感じている。
が、それよりも、その男とも互角に戦うムソウに驚いている。サネマサも、雷成状態のジゲンの攻撃を、眼力スキルで追い、受けることは出来るが、更にそこから反撃するとなると難しい。
だが、見た感じムソウは、攻撃の気配を読み、瞬時に次の行動に移れるように、行動している。それも、若返って体が軽くなったからならではとサネマサとアヤメは感じていた。
何にしても、これほどの闘いは、それこそ時間魔法を使わない限り、金輪際見られるものではないと思い、サネマサとアヤメは二人の闘いをジッと見ている。
「サネマサ……ザンキ、いや、ムソウの闘いはしっかりと見ておけ。あの爺さんの闘いをよく知っているお前の今の考え方に、アイツの闘いが加われば、更に強くなれるはずだ」
「分かってる。俺もまだまだ強くなってやる……」
静かに頷くサネマサに、エイシンは納得したようにニカっと笑い、二人と共に、ムソウ達の闘いを眺めていた。
そんなサネマサの様子に、呆気にとられるレオパルド。強くなることに関しては、相変わらずだなと思い、頭を掻いた。
「そんな返事が返って来るとは思わなかったな……。
しかし、確かにムソウもそうだが、本気を出した“刀鬼”はああなるのか……闘いたいって言っていたが、どうだ? トウガ。俺から頼み込んでやるから、後で胸を借りるか?」
「う~む……今日は……遠慮しておこう……」
「「同じく……」」
レオパルドの質問に、トウガはそっぽを向き、それに賛同するように、トウケンとトウウも頷いた。あれほど、闘いたがっていた神獣達が、今のジゲンを見て、完全に戦意を喪失している。まあ、そうなるよな、とレオパルドは頷いた。
「ちなみに大先輩は?」
「俺か? 俺は元々闘いが得意ってわけじゃねえからな……それにザンキと互角の相手となんか、やりたくねえよ。無論、ザンキともな……」
アキラは、ムソウ達の闘いを見ながら、諦めたかのように、項垂れる。それを見たレオパルドは、近くに居たエイシン達にも視線を向ける。
皆、アキラと同じく、首を横に振って、戦わないという意を示した。
「そうか……少し残念だな……」
「お前……何がしたいんだよ……?」
レオパルドの行動を不思議に思ったアキラがそう尋ねてみた。すると、レオパルドは手元に紙切れを置き、筆をとりながら口を開く。
「まあ、俺は一応、魔物たちの生態を調べている傍ら、人間が持つ可能性って奴も研究しているからな。強大な力や肉体を持つ魔物に、俺達人間がどこまでいけるか……。
この世界で生きている人間の中で、“刀鬼”は最強と言っても良い。だが、今はすでに老いていて全盛期の力は持っていない。
それがこうやって、全盛期の姿で全力でやり合っているんだ。これほどの観察対象は無い。もっと多く、闘いを見てみたいんだがな……」
少々残念そうな顔をしながらも、更に筆を進めるレオパルド。意外と、きちんとした理由があったんだなと、アキラは感心し、嬉しくなった。
「レオ~、流石、俺の後継者だな~! それに、旦那様に似て、賢いことやりやがって~!」
こんな時にでも、知識を深めようとするレオパルドの行動は、アキラにとって、エイキの姿を想起させた。感極まったアキラは、レオパルドの肩に手を回す。隣で、トウケンがムスッとしていたが、気にしなかった。
「うおっと! 邪魔すんなって、大先輩!」
「ハハハッ! すまねえな~! 嬉しくてつい……」
引きはがされても、なお嬉しそうなアキラは、そのままレオパルドの様子を眺めつつ、ムソウ達の観戦を再開させた。
「ふう、アキラさんの後継者は本当に良い方ですね……」
羨ましそうにアキラ達を眺めながらトウヤが呟くと、すかさずコモンが反応する。
「え……僕では頼りないですか?」
「あ、ち、違います。僕は――」
「冗談です。その姿でオロオロするのはやめてください」
今や、立派な体格となっているトウヤが、いつものように慌てると、クスっと微笑むコモン。コモンの言葉を聞いたトウヤは安心したように深く息を吐いた。
「はあ~……流石、コモンさんですね。ちなみに、コモンさんは今、何を思っているんですか?」
「僕ですか? 僕はムソウさんに合う無間の形というのがどういうものかと思いまして……。
やはり、大刀の形はそのままの方が良いとは思いますが、重さの方は少し軽くした方が良いのでは、と……」
「あ、そうですね。ジゲンさんの動きに対応できているとはいえ、それは使っている刀が斬鬼だからこそできているのかも知れませんし……ただ、軽くするとなると強度の方が……」
「そこは永久金属のおかげで、前よりは確実に良いものになるはずです。更に、軽鉄鋼を使って、更に軽くすることも出来ますが……ただ、問題は、ムソウさん曰く、軽すぎても駄目だということです。このあたりが難しいかなと……」
「ですね……それに、切れ味が良すぎても駄目だと言っていましたし……」
「それは、ムソウさんのスキルでどうとでもなるのであまり気にしなくても大丈夫ですよ。それから、冥界石と天界石の力を……」
いつの間にか、二人の世界に入り、ムソウの闘いを見ながら、無間をどうするか話し合い始めるコモンとトウヤ。
こちらの二人も似た者同士かなと、微笑ましく思いながら、ナツメはジェシカに顔を向ける。
気づけば、ジェシカもジゲン達の闘いを見ながら、何か考え事をしているようだった。
「ジェシカさんは、今、何を考えているの?」
「へ? 私ですか? 私はですね、ジロウさんが、今のお爺さんのままの姿であそこまで闘うにはどうすればよいのかと……」
何気なく聞いた質問だったが、ジェシカもコモン達と同じく、二人の闘いを見ながら、凄く大切だなと感じることを考えていた模様。
トウヤと同じく、ジェシカの力になれればと、ナツメも考えを巡らせた。
「それは……難しいわね。今のあのお爺さんは、肉体の最盛期の時の姿だからザンキさんとも戦えているのであって、同じことをしようとすれば、お爺さんも分かっているように肉体が悲鳴を上げるわ。
第一、強化魔法で上げられる身体能力の最大値は減っているから、魔法によっては絶対無理ね」
「薬を使って、若返らせるというのは? 先ほどのナツメ様の薬は……?」
「あれは、老いを止めるのであって、若返らせるわけではないの。失ったものを手にするのは無理なのよ」
「でしたら、あのようにミサキちゃんの時間魔法で若返った状態で、その薬を使うというのは?」
「駄目ね。魔法が解けて元のお爺ちゃんになるということは、それは魔法が解けたからお爺ちゃんに戻るということ。
逆に言えば、魔法によって、あの姿になっていても、元の肉体は老いているということ。そこに薬を与えても、若返るということにはならないわ」
ジェシカから繰り出される提案、その全てを、今までの経験や、知識を以って否定するナツメ。少しいじわるなことをしているという自覚はあったが、それでも考えを巡らせ、意見を言ってくるジェシカ。
そんなジェシカを頼もしく、また、アキラやトウヤ達と同じく誇らしげに思い、その全てに応えていった。
十二星天と、それぞれのEXスキルの前任者達とのやり取りを見たツバキはクスっと笑う。こういうところでも、ムソウを取り巻く縁というものはしっかりと繋がっているんだなあと、感じた。
「私も、頑張らないといけませんね」
現在ツバキは、ムソウ達の闘いが周りに影響を及ぼさないように、EXスキルを使って、二人の周りに障壁を作り出していた。
二人が攻撃を放ち合い、避けて行く度に、ツバキの障壁に当たり、その部分が若干弱くなる。ツバキは少しばかり汗を垂らしながら、障壁を元に戻していった。
「全部に……張らなくて……良い……攻撃が……当たった……ところだけ」
「要は、障壁全体に均一に強い力を流し込まなくて良いってことだ。攻撃が当たったところだけに集中しろ。攻撃がどこに来るかを先に察知するのが一番なんだがな」
ツバキの横には、ちっこいツバキとハルマサが立ち、ツバキに助言を与えている。片言のちっこいツバキに代わり、要約したものをハルマサが伝えているという流れだ。
そのおかげでちっこいツバキの意図がすぐに伝わり、ツバキは頷いている。
「攻撃を察知……ですか? これだけ熾烈だと……」
「ザンキがいつもやってるやつの応用だ。相手の気配を追ったり、攻撃を察知して、どこに、力を入れれば良いのか見極めろ」
「簡単に言いますね……私はまだ、そのようなことは……」
「ああ。だから、最初は五感とスキルを使いこなしてやってみるんだ。大丈夫、すぐに出来るようになるさ」
「私も……出来た……馬鹿なハルマサも……出来た……ツバキも……出来る」
ちっこいツバキに、おい! と突っ込むハルマサ。思わず吹き出しそうになるツバキ。これが本当の夫婦漫才かと笑いそうになるが、息を整えてハルマサ達の言うように、ムソウ達の動きをしっかりと見て、障壁内の闘いの音だけに耳を傾け、障壁に伝わる振動を感じていた。
「クッ! 雷衝波ッッッ!」
「冥極波ッッッ!」
次の瞬間、距離を取ったジゲンは手を前に出し、雷で出来た剛掌波のような技を放つ。ムソウも負けじと、鬼火を圧縮させた塊を掌から放出させた。
二人はお互いの技を刀を使って軌道を逸らすと、同時に飛び出し、再びぶつかり合った。
「そこです!」
ツバキは、受け流されたそれぞれの攻撃が向かっている障壁の一部に力を込める。すると、それぞれの攻撃は、障壁にぶつかり、炸裂した。
障壁内で起こったことなので、洞窟には何の影響もない。更に、攻撃が当たった部分にだけ力を入れているので、ツバキの疲労も軽減された。
「出来ました! ツバキ様、ハルマサ様!」
「おう、見てたぞ。まあ、そんな感じであらゆる方向からあらゆる方向に飛んでいく攻撃を弾ければ、俺の妻に近づけるってわけだな!」
「ツバキ……良い子……その調子……」
何となく、真顔だが笑顔になっているちっこいツバキの表情を見て、ツバキは嬉しくなり、更に障壁を張り続けた。
先ほどから、自分達の攻撃が外に行かないように障壁を張り続けるツバキを見ながら、ムソウとジゲンは同時に同じことを思っていた。
―やるなあ……―
自分の攻撃では、あの障壁を突破できない。そうなると、ツバキと戦う時、今までよりも苦労すると感じている。それに加えて、偶像術のエンヤの力……。
次に手合わせ、もしくは稽古をつけた時に、大きな顔を出来るのかと、悩みながらも、何となく嬉しい気持ちになるムソウとジゲンだった。
◇◇◇
俺とジゲンの闘いは、お互いに譲ることなく、未だに全力で続いている。
何度もぶつかるうちに、俺の目も慣れてきて、ジゲンの攻撃がある程度読めるようになってきていた。いったん距離を取って、一気に近づくという戦法はそのまま直線的な攻撃しか出来ないようで、今では対応も難しくない。
しかし、こちらの攻撃がなかなか当たらないということも事実。ある意味では防戦一方だった。
だが、ジゲンの方にも、一つの問題が生じ始めている。
「クッ……! オラアッ!」
明らかに、雷成を使い始めた時に比べると、速度が落ちている。やはり、無理やり身体能力を上げ、あれだけ飛び回れば、疲労も大きいようだ。
ジゲンはそこを出来るだけ少ない動きで俺の攻撃を躱し、一瞬の隙をついて、素早く強力な攻撃を繰り出すという戦法に変えた。出来るだけ、体全体の負担を減らすという作戦のようである。
一撃、一撃に重きを置く俺の戦い方と、絶好の機会を狙い、そこで本気を出すジゲンの戦法、お互いに弱っているとはいえ、なかなか勝負がつかなかった。
「はあ、はあ、はあ……雷成でやって、未だに倒れない相手が居るとは、思いもしなかった。刀ぶん回すだけの奴を斬るのは簡単だと思っていたが、隙が無いと来ると手に負えないな……」
「こっちの台詞だ……こんだけ刀、振ってるのに、傷一つも付けられないとはな……向かってくる攻撃なんぞ、受け止めれば良いと思っていたが、一撃が連撃だからな……流石にまいってくる……」
「ん? ……降参か?」
「……なわけ……ねえだろッ!」
「だよなッ! ムソウ殿ッ!」
俺が飛び出すと、ジゲンもそれに合わせて再び地面を蹴る。
すると、ここで……
パアンッ!
「ッ!?」
「なッ!?」
大きな音と共に、ジゲンを纏っていた電気が霧散していき、ジゲンはその場に立ち尽くした。どうやら、雷成の効果が切れたらしい。
「今だッ!」
好機とばかりに、俺は一気に飛び出し、ジゲンに迫っていく。
「甘いッ! 奥義……」
すると、ジゲンは腰を深く落とし、抜刀術の構えを取った。雷成が切れるのはすでに分かっていたらしく、そこへ飛び込んできた俺に最後の一太刀を与えるつもりらしい。
俺はすでに地面を蹴っていて、空中に身が投げ出されている。ここで止まるのは無理だ。意を決し、全ての意識を、ジゲンを斬るという目的の元働かせ、ありったけの殺意をぶつけた。
「瞬華終刀ッッッ!」
「ウオオオオオラアアアアアッッッ!!!」
ガキンッ!
ジゲンの間合いに俺が入り、俺が刀を振り、ジゲンが腰をひねらせた次の瞬間、大きな音と共に、俺の手に幾度も衝撃が入り、俺の手から斬鬼が宙を舞った。
それと同時に、ジゲンの手からも刀が飛んでいき、斬鬼と同時に地面に落ちる。
ジゲンの技と、俺の一撃がぶつかったようだ。まともに食らうと、これほどの衝撃なのかと思いながらも、未だ空中の俺は、ジゲンに回し蹴りを叩き込もうとする。
しかし、ジゲンは抜刀術の構えのまま、力をだらんと抜き、そのまましゃがみ込むと、下から勢いよく拳を突き上げた。
「ハアッ!」
「グッ……ウラアッ!」
顔面へと向かうジゲンの拳を、首をひねって躱し、そのまま掴んで、ジゲンを投げ飛ばした。
「ガハッ! チッ! まだだ! ザンキ殿ッ!」
「望むところだ! ジロウッッッ!!!」
態勢を立て直した俺達は、気を拳に溜めながら走り出す。これが最後の一撃になるようにと、お互い全力で拳を握っていた。
だが、次の瞬間、俺達の体が強く輝きだした。
「な!? 時間……切れか……?」
「その……ようだな……」
どうやら、時間魔法の効果が切れたようである。ふと、皆の方を見てみると、アヤメの体も光っていることに気付いた。
「楽しい時間はあっという間だな……」
「ああ。また、引き分けというのは、何とも残念だな……」
ジゲンは名残惜しそうにしながらも笑っていた。久しぶりに本来の仕草や口調で、全力で闘えたということに満足しているようだった。
そして、ここでジェシカがやってきて、俺達に手をかざす。時間魔法の影響下で、これだけの闘いをしたんだ。魔法が解けた時の影響が起きる前に、スキルを発動させて、負担をなくすということらしい。
お任せくださいと言うジェシカにジゲンは頷く。
「楽しかったな、ムソウ殿。偶にはこういうのも悪くないかも知れない」
「あ? なら、またすぐにでもやるか? 今度は外で、更に全力でやって、本当に決着がつくまで……」
「ハハハ! それは……まあ――」
その瞬間、俺達の体から出てくる光は更に強くなり、その光が収まると、俺達の姿は元に戻り、目の前には、いつもの優しさしか感じさせない老いた爺さんが、ニコリと笑って立っているのが目に映った。
「勘弁してくれんか?」
「ああ……っと!」
「むうッ!?」
「奥義・意気軒高……お二人とも、大丈夫ですか!?」
元の姿に戻った途端、視界がぐらついたが、ジェシカのスキルによって、活力と体力、更には疲労感や倦怠感なども回復され、俺達は踏みとどまる。
しかし、既に俺達の隣まで来ていたサネマサが、ジゲンの体を支えた。
「大丈夫か? ジロウ」
「ああ……問題ない。ジェシカ殿。相変わらず素晴らしい力じゃの」
サネマサに立たされたジゲンは、サネマサとジェシカに礼を言った。すると、二人はクスっと笑う。
「ジロウさんも……相変わらず、に戻りましたね」
「俺にとっちゃあ、やっぱりそっちの方に違和感があるなあ」
「ほっほ、じゃが、この歳になると、この方が良いのう……」
ジゲンは朗らかに笑いながら、刀を拾い、たま達の元へと戻っていった。
俺も、斬鬼を拾っていると、ツバキが、ちっこいツバキとハルマサを伴って、俺の側に来る。
「ムソウ様、お加減は?」
「ああ、大丈夫だ。お前の方は大丈夫か?」
ツバキもこの闘いの間、ずっと障壁を張っていた。見たところ、そこまで疲れているわけではないようだが、どうなのかと思っていると、ツバキはニコっと笑った。
「はい。お二人のおかげで、力の使い方というものが分かってきました」
「そいつは良かったな。二人もありがとう」
「おう! ザンキ、この子はまだまだ強くなれる。その刀と合わせりゃ、最強の矛と盾を二つとも手にしているってことになるんだ。お前より強くなるかもな!」
「というか……させる……私達が……」
いつになく、挑発的で、自信たっぷりなちっこいツバキに、若干驚きつつも、やれるもんならやってみなと挑発で返し、皆の元へと戻った。
未だ興奮冷めやらぬといった感じのリンネとたま、それにサネマサを軽くあしらいつつ、同じく時間魔法によって若干疲れた様子のアヤメと、さっきまで闘い合っていたジゲンと共に、再び飯を食い始めていった。




