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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
世界の真実を知る
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第275話―ツバキが偶像術を学ぶ―

 エンヤ達との話し合いが終わって、俺はレオパルドと共に、アキラの所でたまとリンネと遊んでいた。蹴鞠のような遊びを延々と続けている。

 時々、たまが蹴った球が、あらぬ方向に行ったときなどは、トウガかトウウがものすごい速さで玉の落ちる場所へと先回りし、何とか地面に落ちないようにしている。


「よっ、ほっ!」


 ふわりと浮かんだ玉を、胸の辺りで受け止めて、俺の方に向かって蹴るアキラ。俺は頭でそれを弾いて、レオパルドにつないだ。


「お、上手くなってんなあアキラ。ちょっと前まで手を使ってたのにな」

「何千年前の話だよ、ザンキ」

「ああ、そうか……」


 未だにハルマサ達の時間の感覚に慣れない時がある。見てくれは変わっていなくても、皆、俺よりも遥かに年上なんだなあと思うと感慨深いものがあった。


「じゃあ、あれだな。婆さんの割には良く動けてんじゃねえか」

「むぅ……そう言われると、腹立つ……なッ!」


 ムカッとした顔のアキラは、玉を打ち上げるのではなく、まっすぐ俺に向けて蹴ってきた。どうやら精神年齢の方は、見てくれの年相応に戻っているらしい。俺は、身を屈ませて、玉を蹴り上げる。


「あ、リンネちゃん、行ったよ~!」

「は~い!……クワンッ!」


 たまの合図に、リンネは跳躍し、空中で大きな獣の姿になる。そして、高く飛んだ玉に頭突きをした。玉はまっすぐレオパルドの所に飛んでいく。


「おっと、よっ!」


 レオパルドは、俺と同じ様に、玉を蹴り上げ、自身も飛んで、玉を蹴った。


「お、レオも良く動けてるんなあ~、感心、感心」

「まあ、普段からこいつ等とは遊んでいるからな。アンタもそうだったんじゃねえのか?」

「いや、俺は……」


 レオパルドの問いに、アキラは苦笑いしながら口をつぐんだ。


「祝言挙げた後は、エイキにべったりだったもんな。なあ、トウケン?」

「……全く、だっ!」


 トウケンは、飛んできた玉を、まるで自分の怒りを込めるように蹴った。あの玉、何で出来ているんだよ。あれだけ蹴っても破れもしないのか……。

 さて、トウケンの蹴った玉はまっすぐ下へと落ちていくが、そこへトウウが急降下して、嘴の先で、弾いた後、トウガにつないだ。


「怒りすぎだろ。別に良いだろ、夫婦が仲良くするのは当たり前だからな」

「それに子供が生まれたら、付きっ切りになるのは親として当然だ」

「お、二人はやっぱり優しいなあ~」


 トウガから受け取った玉を足で弄びながらアキラはニカっと笑い、玉を蹴り上げた。あれは、たまが近いなあ、なんて思っていると、玉に向かって、トウケンが凄い速さで近づいていく。


「俺は寂しかったんだッ!」


 再び、玉に怒りを込めて蹴り飛ばすトウケン。あいつ……アキラのことは最後まで好きなんじゃなかったけ? と、思っていたが、その答えを、再びトウケンの玉を受け止めたトウウが言った。


「だから、何度も言ってんだろ。あれは、ただお前がひねくれてただけだって」

「ああ。その時までと同じようにしていたら、お前も、皆で仲良く出来たのにな」


 トウウの言葉に、トウガも頷く。トウケンは何だと!? と言った表情だ。なるほど。今も若干ひねくれているらしいな。素直に、アキラと遊ぶのが楽しいと言えば良いものを……。やれやれと思っていると、レオパルドが玉を受け取って口を開く。


「なんだ、アンタとトウケンに何か深刻なことがあったのかと思ったんだが、そう言うことか。妙に納得するな。

 んで、想像もしやすいな。あいつ一人で木の上に上ってカッコつけているところ」

「そうなんだよ~。エイキも、遊ぼうって言っていたのに、何故か、あいつムスッとしてなあ。大変だったぜ、まったく」

「へえ、エイキって奴はよほどいい男なんだろうな。あいつが思わず嫉妬するくらいなんだからな」

「ああ! 俺の旦那様は良い男だったぞ! ザンキと違って優しいし、ゴウキと違ってむさくるしくねえし、何より、誰よりも頭いいからな!」


 アキラはレオパルド相手に、エイキの自慢を始める。レオパルドは、はしゃぐアキラを前に、少し面倒そうにしながらも、はいはいと頷きながら聞いていた。

 面倒見のいい奴だな、と思っていると、トウケンが顔を真っ赤にしてプルプルと震え出した。


「俺の前であの男を褒めるんじゃねえ~!」


 そう言って、トウケンは飛んでいた玉を更に思いっきり蹴った。今までで一番の勢いを持った玉は、真っ直ぐアキラたちの元に飛んでいく。

 あれは誰もとれないだろ、と思っていると、やれやれとレオパルドが頭を抱えた。


「ったく……面白え所だったのに……トウガ、良いか?」

「ああ。ひとまず、あの猿を落ち着かせるぞ、レオ」


 レオパルドは頷き、獣装体を使って、トウガを自身に取り込んだ。その直後、トウケンの玉がレオパルドに近づいていく。

 レオパルドの体の光が収まると、爪と牙が伸び、頭の上には耳が伸び、腰のあたりからしっぽの生えたレオパルドが姿を現し、トウケンの玉を蹴り返した。

 なるほど、あれがトウガの力を使った、獣装体か。毛並みと色以外はハクビとほとんど似たようなものだなあと感じる。


「っと……ついでに獣装体について、詳しく教えてくれよ、先輩」

「おう、良いぜ! 楽しくなりそうだ! トウケン、遊んでやるから、手伝えよ~!」

「遊ぶのは俺達とレオだって……だがまあ、こうやって本気で遊ぶのも懐かしいな……」

「テメエら!なごんでんじゃねえ~~~!」


 などと怒鳴りながら、玉を蹴るトウケンだったが、どこか嬉しそうだとも感じる。このままにしておくか……。

 それで、困ったのは、あれじゃあ、リンネはまだしも、たまには到底蹴り返せない。皆の様子を、二人はつまらなさそうに眺めている。


「つまんないね~」

「ね~」


 ……正直、俺も少し退屈になってきた。


「爺さんたちの所に行くか」

「だね!」

「うん!いこ~!」


 俺の提案に、二人は元気に頷いた。今、ジゲン達はツバキの偶像術の稽古をつけているらしい。やることは無いかも知れないが、どちらかと言えば、こちらの方が楽しそうだと思い、向かってみると、皆が輪になっている中心にツバキとエンヤ、ちっこいツバキ、アヤメ、ナツメ、そして、サネマサとジェシカが居て、サネマサが、ツバキとジェシカに色々説明しているようだった。

 サネマサの話を、周りを囲む闘鬼神の皆も聞いているようで、男どもはナツメの方をチラチラと見ながらも、真剣に話を聞いている……よな?


 ジゲン達牙の旅団はその光景を少し離れた所で眺めているようだった。何故、離れているのだろうかと首を傾げながらジゲンに近づく。すると、たまがたったったと駆け出し、ジゲンの袖を引っ張った。


「ねえ、おじいちゃん、なにしてるの?」

「む? おお、たまか。トウガ様達と遊ぶのは終わったのかの?」

「向こうでみんなだけでもりあがりはじめたー」


 たまはアキラの居る方を指さす。玉をものすごい勢いで撃ち合っているトウケンとレオパルド達の姿を見たジゲンはなるほど、と苦笑いした。


「そうか……それで、リンネちゃんとムソウ殿もこちらに来たのじゃな?」


 ジゲンは俺と目が合って、フッと笑った。


「まあ、そう言うことだが、お前らは何やってんだ? 

 刀精になる方法は、もう大丈夫なのか?」

「おう、ばっちりだ。意外と簡単だったな」


 俺の問いに、コウシ達は頷く。聞けば、死んで魂だけになった者達が、刀精になるには、いくつかの段階をこなさなければならない。

 まず、死んだときに、魂の回廊に行かないように、大地に留まり続ける必要がある。これは、よほどの未練を持っているか、もしくは近くに神族、鬼族、精霊族が居なければ出来ることではない。

 運が良いのか悪いのか、コウシ達は、死んだとき、ジゲンへの恨み、怒り、そして、戸惑いによって、肉体から魂が離れずにいた。しかし、その状態だと、すぐに魂の回廊へと強制的に向かうはずだったのが、ケリスによって、大地に留まることが出来た。

 そして、今は、カドルの鱗によって、大地に生き続けていることが出来ている。この状態から刀精になるには、いったん、依り代となっている鱗を破壊し、むき出しの魂だけになる必要がある。その後、自らの武具に憑依すれば、コウシ達は晴れて刀精となる。


「鱗を壊すにはどうすれば良いんだ?」

「そこは、誰かにやってもらうしかないが……嫌だろ? お前も、ジロウも……」


 ミドラの問いに、ジゲンと俺は苦い顔をして、頷く。当たり前だ。こんなに仲が良くなった奴らを、必要なことで、仮とはいえ斬りたくない。

 ジゲンの方も、再び、コウシ達を斬るというのは出来ないだろう。

 だから、ここは依り代の力を、カドルが直接解くという方法で落ち着いた。その方法なら、コウシ達も、苦痛無く、魂だけの状態になれるとのことだ。

 カドルはスッとジゲンの横に立ち、頭を下げる。


「すまないな。“刀鬼”殿の前で、この者達の命を弄ぶことになってしまって……」

「気にするでない、カドル殿。お主のおかげで、儂は数日だけでも、コウシ達と再び、楽しく過ごせた。

 感謝こそすれど、恨みなどしない」


 カドルの謝罪に、ジゲンは気丈に返すが、やはりどこか寂しそうだ。すると、コウシ達がニカっと笑って、ジゲンと肩を組む。


「まあ、前にも言ったが、これで終わりじゃない。これからも一緒に闘えるんだ。だから、そんな顔をするなよ」

「そうそう。それに、会いたくなったら、また、ここに来れば会えるんだから」

「んで、お前が死んだときには一緒にあの世でもなんでも行けばいい。あいつは置いておいてな……」


 ミドラはそう言って、ツバキとアヤメに指導するサネマサを指した。ジゲンは、フッと笑い、


「そうじゃの……」


 と、一言だけ呟く。これで終わりではないというコウシの言葉は、今の状況なら、俺は痛いほど分かっている。これには流石にジゲンも、最後に納得したようで、皆に優しく微笑んでいた。

 皆が、いつ、刀精になるのかは分からないが、それまでにダイアン達を強くし、そして、ジゲン達の時間を大切にしてやろうと、闘鬼神の頭領として、思っていた。


「それで、サネマサ達は向こうで何やってんだ?」

「おじいちゃんたちは、サネマサ様のおてつだい、しないの?」


 ふと、最初の疑問に戻り、不思議そうに皆を見るリンネとたまと一緒に尋ねると、ジゲンはフッと笑って、たまの頭を撫でて、抱えた。


「ああ。見てみるのじゃ、たま。儂らの親友が、珍しく人にものを教えているのじゃぞ。

 これほど、面白い光景はない」

「あれが、俺達が死んだ後に作ったっていう、「武王會館」、その大師範たるサネマサの姿だ。しっかり目に焼き付けておかないとな」


 ジゲンの言葉に、コウシ達も頷き、サネマサを指す。先ほどから、いつものなりを潜ませ、ツバキとアヤメに真剣な表情で刀精のことを指導しているサネマサ。アヤメは少し面倒そうだが、ツバキの方は嬉しそうだ。

 いつもの鍛錬ではジゲンを挟んで二人から、という形だが、今回は直接、大師範から教わるということに意味があるらしい。聞き漏らしが無いように、うんうんと何度も頷きながらサネマサの話を聞いている。


「武王會館で出来なかったこと……ツバキ殿も満足そうじゃの」

「ああ。これは邪魔しては悪いな。リンネ、たま、ちょっとだけ、俺達も静かにしていようか」

「「は~い!」」


 二人は、元気に返事した。俺は、ジゲンに抱えられるたまを羨ましそうに眺めるリンネを抱えて、皆と一緒に、その光景を見ることにした。

 そして、俺も驚いたことがある。それは、ツバキの横に居るエンヤもどこか真剣な顔になり、ツバキと一緒に、サネマサに話を聞いている。

 アヤメと同じ様に、面倒そうにするのかと思ったが、違うらしい。あいつは、偶像術に強い興味を持っていたからな。当然と言えば当然なのだが、人からの指導に、しっかり耳を貸すエンヤは、なかなか見れないと思いながら、静かに様子を伺っていた。


「それでだな。偶像術ってのは、さっきも言ったが、自分の気や魔力を刀に流し、その力を引き出す技のことだ。

 だから、能力は武具を手にする人間の連想から個々人で変わってくる。俺の場合は、俺の世界で語られていた創世神話に出てくる神々を参考にした。

 アヤメは……ひょっとして、親父さんからか?」

「ああ。花鳥風月の能力は、もうそれしかないって思っていたからな。

 ってか、あの技は、代々うちに継がれているものと聞いたが、てことは、発端はアンタだよな?」


 アヤメの問いに、タカナリが頷く。


「うむ。私は火、土、風、水、全ての基本属性に適性があったからな。ゴウキ殿が編み出した斬波という技に、魔法を組み込み、更にそれらを組み合わせることで、多種多様な斬波を生み出すことに成功した。ほとんど、エンヤと戦ううちに編み出したものだが……。

 様々な攻撃を無効化するエンヤに打ち勝った力……それが私の考える最強と考え、子孫たちに、伝えてきた」


 なるほど……エンヤが持っていたスキルは、今のシンキに継がれている、絶対強者だ。相手の攻撃に対応する属性に体を変質化させて、相手に対して、常に有利に立つというものだが、タカナリはそれに対抗するために、様々な属性になれる技を編み出したということか。

 最強のエンヤに勝てたなら、その考えも、ある意味、最強と考えてもおかしくないだろう。

 そして、後で知ったのだが、タカナリとハルマサは、EXスキルを持っていなかったらしい。しかし、この世界で新たに得た魔法だったり、スキルだったりを上手く使って、邪神大戦を生き延びることが出来たという。

 まあ、二人とも元の強さが強いからな。EXスキルが無くても、大丈夫だっただろう。

 それから、斬波って技はゴウキが編み出したのか。俺とやり合う時は、力任せに戦ってくる奴だったが、こういうことに関しては、天才的だなと改めて感じた。ゴウキが編み出した技は、他にもいくつかあり、時代が変わっても、色んな奴が武術全般の基本技として使っているという。

 面白いこともあるんだなあと感心していると、サネマサ達の話はなおも続く。


「とまあ、こんな感じで、アヤメの偶像術に関しては、ナズナやショウブと同じで、前にその武具を持っていた奴に影響されるようだな。これは、俺も今知ったことだから、何も言えないが、アヤメの場合は、今後も行き詰ることがあれば、ここに来て、タカナリさんに教えを乞う方が良いだろうな」

「へいへい……」


 アヤメは頭を掻きながら、面倒そうに頷く。領主とギルド支部長で忙しいからな。

 だが、強くなるには、その方法が一番だと思う。花鳥風月という刀の全てを知っているタカナリが、そばに居るのだから、それを利用しない手は無い。それから、ナズナとショウブも、今後もミドラとタツミがそばに居るのだから、アヤメと同じ様にすれば、あいつらも強くなることが分かっている。

 ちらっと、サネマサが二人に視線を移すと、ミドラとタツミは、わかった、と頷いた。


「まあ、アヤメはもっと強くなる。私とエンヤの血を引いているのだからな」

「ああ。そこは自信持てよ。すぐに、あの爺さんよりも強くしてやる」

「はあ……分かったよ、ご先祖さん」


 アヤメの言葉に、満足したのか、エンヤはニカっと笑った。そして、アヤメも満更ではなさそうで、どこか期待を込めた眼差しで、二人を眺める。特にエンヤに。

 しかし……あいつら二人に指導させられるのか……。下手すりゃ、俺より強くなるぞ。良かったなあと思い、ジゲンを見ると、こちらも満足げに頷いていたので安心した。ジゲンも、ゆっくり隠居できそうだ。


「……で、サネマサのガキ。ツバキはどうすりゃいいんだ? ってか、俺はどうすりゃ……?」

「ガキって……爺いよりも嫌だな……まあ、いい。

 ツバキの場合は、恐らくアヤメよりも楽だ。というか、武器を継いだ者達よりは幾分か、な。アヤメたちの場合は、既に他人の力を目にし、それが、武具に宿っているから、その力を引き出すことに苦労するが、その刀はムソウが抜いた零の刀。

 ムソウが偶像術を使っていない以上、ツバキの思う最強の形をエンヤさんに纏わせることが出来る」

「つまり、俺が戦うときはツバキが思い描く姿になっているというわけか……。

 ん? タカナリのあの姿もそうなのか?」


 何かを思いついたように、エンヤは、タカナリに視線を移す。不思議そうな顔をしながらも、タカナリは頷いた。


「ああ。四つの属性を持つ刀を振るのだから、ああいう姿の方が良いと、何代か前の子孫に、そうしてくれと……」


 そういや、あの時のタカナリは、四本の腕を持ち、それぞれに刀を持っていたな。手数が増えるし、一度に様々な属性の斬波を撃ってきて、なかなか強力だったなあと思っていると、エンヤは目を見開き、ツバキの肩を掴む。


「ツバキ! あんなのにはすんなよ! 四本腕なんてダセえ! 俺はあんなの嫌だからな!」

「え、え~と……」


 どうやら、エンヤは、タカナリの思い描く最強の姿が気に入らないらしい。偶像術を使う時は、出来るだけ普通にとツバキに頼み込んでいる。

 すると、エンヤの言葉を聞き、即座に、タカナリが怒り出した。


「これ! ダサいとは何だ! 勇ましいの間違いだろう!? アヤメは上手く、私の思い描く姿にしてくれておるぞ!」

「馬鹿か、テメエは! なんで、魔物と苦労して闘っていた俺達が、魔物染みた姿にならねえといけねえんだ! 恥を知れ!」


 突然始まる夫婦喧嘩にツバキはどうしていいのか分からず、おどおどとし、アヤメとサネマサは頭を抱える。

 素の状態で、魔物よりも魔物らしいエンヤがそんなことを気にしているとは思わず、俺も頭を抱えた。

 その後も二人の言い合いは続くが、これでは話が進まない。どうしたものかと思っていると、ツバキの肩から、小さな影がぴょこっと顔を出す。


「エンヤ……タカナリ……うるさい」


 それは、ちっこいツバキだった。ジトっと自身たちを見つめるちっこいツバキの視線に二人は言い合いを辞めた。

 しかし、エンヤはまだ諦めきれていないようで、ちっこいツバキに反論する。


「お前……これは大事なことだぞ? 俺は、あんな姿、嫌なんだからな」

「まだ言うか!」

「んだとおっ!?」


 再び、始まりそうになる夫婦喧嘩。ちっこいツバキは、エンヤの肩に飛び乗り、それを制した。


「だめ……ツバキ困らせたら……許さない……タカナリも……」

「お、おう……」

「う……む……」


 ようやく静かになる二人。ちっこいツバキに見つめられたら、ああなるよなあと何となく二人の気持ちが分かった。

 そして、ちっこいツバキは、ツバキの顔をまっすぐ見つめる。


「大丈夫……ツバキの自由にして……その刀はザンキの刀……でも……今はツバキの力……ツバキの思い描く……最強……それを形にすればいい」


 ちっこいツバキは、フッと笑う。いや、真顔だが、笑っている。そして、それはツバキも感じたらしく、目を見開いて、頷く。そして、腰に差した斬鬼の柄を握った。


「かしこまりました……ツバキ様。

 それで、大師範……どうすれば良いのでしょうか?」

「ん? そっちの話は済んだんだな。やれやれ……

 さて、ここからは実践だ。早速、ツバキには偶像術を使ってもらおう。

 まずは、エンヤさんには刀に戻ってもらう。その後、ツバキはその刀に、ありったけの気と魔力を送り込め。その際に、ツバキが思う最強の姿を思い描くんだ。その通りに、エンヤさんが力を纏い、刀から現れるようになる。後は、お前の自由に戦え」


 サネマサの言葉に、ツバキは頷く。エンヤは、頭を抱えながら、ツバキをジッと見ていた。


「……はあ……まあ、今の俺はツバキの力の一部ってことになるからな。ツバキの自由にしてもらう方が良いのか……」

「フフッ……大丈夫ですよ、エンヤ様」

「ん? ……もう決まっているのか? 俺をどういう風にするのか」

「ええ。きっと、期待に添えられていると思います」


 その言葉を聞いたエンヤは、表情を明るくさせ、フッと笑みを浮かべた。


「そいつは……楽しみにしている……じゃあ、待ってるからな、ツバキ」


 そう言い残し、エンヤは斬鬼の中に入っていった。


 そして、ツバキは一人、皆から離れて、刀を構えて瞑想を始める。綺麗な衣装を着て、辺りが輝いているこの祠の真ん中に立ち、刀を構えるツバキの姿は何と言うか、すごく幻想的で綺麗だった。


「……さて、何が起こるか分からないからな。結界でも張っておこうか。ジェシカ、手伝ってくれ」

「かしこまりました、サネマサさん。それから、後で、私の稽古も手伝ってくださいよ」

「分かってる。それから、ムソウ。相手役をやってくれないか?

 エンヤさんを止められるってんなら、お前しか居ないだろ」

「ん? ああ、分かった。っと……アヤメ、刀、借りるぞ」


 俺の頼みに、アヤメは頷き、刀を貸してくれた。タカナリは、先ほどの雪辱を晴らすという言葉と共に、花鳥風月の中に戻っていく。勝手にやっててくれ。


 その後、ツバキの前に立つと、サネマサとジェシカは頷き、二人は俺達の周りに結界を張った。


 ふと周りを見ると、蹴鞠をしていたレオパルドが壁にもたれて、休んでいるのが見える。隣で頭を下げるトウケンと、アキラに体中を揉んで貰っていた。

 どうやら、向こうのあれこれは終わったらしい。レオパルドはEXスキルの練習で動けないようだな。

 心配そうに見ていると、気にしないでくれと手を上げてきたので頷いた。


 そして、他の奴らも、興味を示すように俺達を眺め始める。何だか、皆に見られて恥ずかしくなってきた。


「こんな状態で……いけそうか?」

「……」


 ツバキに様子を伺ったが、返事はない。それほど集中しているようだ。刀にゆっくりと自らの力を流し込むツバキ。邪魔しては悪いだろうと俺も黙っていた。


 しばらくすると、ツバキが手にした斬鬼が輝きだす。準備できたんだなと思っていると、ツバキは目を開けて、フッと笑みを浮かべた。


「出来ました……私の思い描く力……」

「そいつは何よりだ」

「ムソウ様……」

「ん? 何だ、ツバキ」

「気を付けてくださいね……」


 何を今更……。元よりそのつもりだと、笑うと、ツバキは斬鬼を掲げた。


「偶像術……奥義・闘鬼神ッッッ!!!」

 ―ウオオオ~~~ッッッ!!!―


 ツバキの言葉に、呼応するように、斬鬼が強い光を放つ。すると、そこからエンヤの咆哮が聞こえてきた。

 そして、刀から、大きな重圧が俺に襲い掛かってくる。冷や汗を掻きながら刀を構えていると、斬鬼からそれは現れた。


「……ふう……これがお前の思い描いた最強か……なかなか良いじゃねえか」


 斬鬼から現れた刀精……エンヤは自分の姿を確認しながら、フッと笑った。


 それは、今まで見てきた偶像術よりもだいぶ小さい姿だった。ただの人とほとんど変わらない。

 だが、伝わってくる力の大きさは、ジゲンのものにも負けないくらい大きなものだ。


 ツバキの思い描いた偶像術は、ほとんどエンヤそのものだが、その額からは角が生えていて、手の爪も鋭く伸び、牙も生えている。鬼族のような姿をしている。そして、背中には刀で出来た風車のようなものを背負っている。全体的にボロボロの着物を纏い、生身の部分はさらしや包帯を巻いていて、生前のエンヤを思い出すような様相だ。

 そして、周りには炎のような形をした気が渦巻いている。


 その姿を目にした俺も、なるほど、と頷いた。


「奥義・闘鬼神か……そのままだな」


 エンヤの姿は、闘鬼神の紋章に描かれている鬼神そのものの姿をしていた。


「ええ……私にとっての最強の力とは、ムソウ様から聞いてきた、エンヤ様やムソウ様の闘鬼神という傭兵部隊……かつて、その名を聞けば、ある者は震え上がり、ある者には守護者の象徴として、畏れられていた……と。

 現在は、私達の象徴です……ですから、この姿を思い浮かべることは、難しくなかったです」

「上出来だ、ツバキ」


 エンヤは嬉しそうにニカっと笑った。ツバキの思い描いた姿に文句は無いらしい。魔物染みてないかと思ったが、エンヤは気にしていないようだ。

 にしても……なるほど、あの紋章は、本当にエンヤそのものだったのかも知れないな。長年見てきたが、ここまであの紋章が似合う女は珍しい。俺が継ぐには早かったかも知れないと、苦笑いした。


「そして……ムソウ様。私がエンヤ様に望んだ力はたった一つです。……エンヤ様、よろしいでしょうか?」

「ああ、問題ないが……お前は大丈夫か?」

「ごっそりと持っていかれました。なので、時間は少ないですが……」

「そうか……。そこは、これから、お前自身が強くなっていけ」


 エンヤは、フッと笑い、ツバキの頭を撫でる。ツバキは、静かに頷いた。一体どんな力を放つのかと思っていると、エンヤは俺に向き直り、背中の風車から、一本の大刀を抜いた。これもまた、無間を手にするエンヤそのものに見える。


「ザンキ……ツバキが望んだ力は、俺そのものだ。ツバキがこの技を使った瞬間、俺はツバキの力が続く限り、自由に暴れることが出来る……」

「……は? それはどういう――」

「こういうことだ!」


 訳の分からないことを言っているなと思っていると、何もしないツバキの横からエンヤが飛び出し、刀を振り上げ、俺に突っ込んできた。

 慌てて、エンヤの一撃を受け止める。


「グゥッ!」


 重い一撃が刀から全身に伝わり、俺の立っていた地面が陥没する。そのままつばぜり合いをすると、エンヤはニッと笑った。


「ほう……やはり強くなってるな。俺の初撃を止めるとは……」

「これくらい……屁でもねえ。……それより、さっき言ってたのは……?」

「ああ。俺は他の偶像術と違い、雷落としたり、嵐を巻き起こしたり、タカナリみたいに特殊な斬波を放ったりできない。

 だが、その代わりに自由に俺自身が暴れることが出来る。

 ……ツバキが望み、思い描いた力は、俺自身が直接戦うこと……それが、アイツの思う、アイツと俺の最強の形ってわけだ。……なかなか、良い奴だな」


 ニッと笑うエンヤ。更に力を込めて、俺に迫ってくる。

 なるほど、確かに他の偶像術よりは技の効果範囲も狭く、単純なものだが、小手先を使わない、エンヤそのものが相手をするというのは、敵にとっては脅威かも知れない。現に、俺は今、手こずっているからな。

 しかし、短所も多いようで、エンヤほどの力を具現化させるには、ツバキ自身が大きく力を消耗させるようで、ツバキは膝をつき、自身の周りに障壁を展開させている。ツバキの代わりに、エンヤが闘うというわけだが、この隙に、ツバキが他の奴らにやられた場合は、エンヤも刀に引っ込んでしまうようだ。

 ただ、ツバキの障壁は強力だから、その心配も無さそうだ。あっちはあっちで、ちっこいツバキの能力に助けてもらっていると考えた方が良い。


 そして、もう一つ短所があり、この状態のエンヤは殆ど本体のもののようで、普通、偶像術によって現れる刀精というのは、倒したら、それぞれの武具に引っ込むのだが、エンヤの場合は、魂自体の消滅……すなわち、無に帰すということになるらしい。

 だが、エンヤ自身が誰かに殺されるというところは想像できないので、こちらも心配はない。寧ろ、久々に、死の恐怖を感じ、生きているという実感があり、より闘いに集中できるとエンヤは喜んでいた。


「あと、面白いことに、俺のこの刀、そして、俺自身の体は、お前が抜いたあの刀と同等の強さを持っている……斬られねえように気をつけな!」


 エンヤは、刀を持っていない方の手で抜き手を放ってきた。

 動けない俺は首だけを動かして、それを躱すと、背後の結界にやすやすと風穴が開いた。斬鬼と同じ力を持つというのは本当らしい。下手すれば、刀を斬られると思い、花鳥風月に更に気を集中させる。


「危ッ……ねえな! 殺す気か!」

「あ? 殺意無しの手合わせなんぞ、鍛錬にならねえんだろ? 甘えたこと言うなよ、ガキがッ!」


 エンヤは、風車からもう一本の大刀を抜いて、更に打ち込もうとしてくる。俺はエンヤの腹に、剛掌波を放ち、一瞬、隙を作った。


「チッ……逃げたか」


 ほとんど、生身でも俺の攻撃は効いていないか……。相変わらず底知れないな。

 にしても、エンヤの様子を見るに、本当に本気のようだ。一瞬ひるんだ様子になったが、再度、態勢を立て直し、俺めがけて刀を振り上げた。


「オラオラオラァ! いつもの威勢はどうした!?」

「このッ……調子に乗るなよ、くそアマがッッッ!!!」


 大刀の連撃をかいくぐり、大きく弾くと共に、エンヤの顔を殴った。


「グフッ! このッ、クソガキがあああッ!!!」

「やかましいッ! 馬鹿親がッ!」


 ―かみごろし発動―


 生身でエンヤの相手はきついと感じ、俺は鬼人化する。

 そして、エンヤと何度もぶつかり合った。花鳥風月特有の様々な属性を纏った斬波を撃っても、鬼火を撃っても、全て切り伏せられるので、鬼火を纏わせた刀を振り回す。タカナリは……多分、大丈夫だろう。

 エンヤも負けじと刀を振り回したり、時々、背中に背負っている風車を手裏剣のように投げたりしてくる。

 あの刀と同じ様な鋭さを持っているというのなら、受けるわけにはいかないと思い、避けると、手裏剣は、サネマサ達の結界をやすやすと切り裂き、外へと飛び出て、再び、エンヤの背中に収まった。

 ああいう使い方も出来るんだなと思っていると、再び、エンヤは俺に向かって刀を振ってくる。それを受け止めると、今度はエンヤの周りに渦巻いていた炎のような気が、俺を襲ってきた。


「グゥッ!」


 致命傷とまではいかないし、怪我を負うようなものでもないが、地味に痛い。

 俺は、鬼火をリンネが狐火を展開させるように、自分の周りに展開させて対応した。


 そうやって、エンヤは、俺を本気で殺そうとしてくる。俺達は、何合も打ち合っては、お互いに怒鳴り合ったりしていた。


 ……怒鳴り合いながら、殺気をぶつけながらも、俺達は笑っていた。


 ……楽しい。久しぶりに会った“親”と、初めてこんなことが出来るとは思っていなかった。ツバキの力で、どれだけエンヤが、戦えるのか分からないが、この時間がいつまでも続いて欲しいと思っていた。


「うわあ……あの二人、笑ってんなあ……

 どちらも、一瞬でも気を抜いたら、死ぬってんのに……」

「サネマサ~、大丈夫?」

「大丈夫じゃねえよ。結界張るのでいっぱいいっぱいだ……大したもんだな、俺達の初代領主様は……」

「おじちゃん、たのしそうだね~。おじいちゃんも、皆とああやってたの?」

「いや、流石に、あそこまでは……二人とも、大した戦闘狂じゃの……」


 たまやジゲン達、牙の旅団が何か言っているような気がするが、気にしない。俺は目の前の“親”と精いっぱい、闘い続ける。


「……こうして、実際闘っていると分かる……お前がどんな思いで生きてきたか……どんな思いで強くなってきたか……。

 ……俺は嬉しいぞ、ザンキ! お前はよくぞここまで立派になってくれた!」


 エンヤは、笑いながら、より一層の力を込めた重い一撃を撃ってくる。俺は、受け流しながら、後方に飛び、刀を構えて、エンヤとぶつかった。


「俺も嬉しいぞ! 頭も昔通りだ! 誰よりも強く、誰よりも巨きい。その力で、今度は俺の家族を頼むぞ!」

「言われるまでも無えッ!」


 俺達はお互いに距離を取り、地面を蹴った。そして、お互いに刀を振りかぶった、その時だった。


 エンヤの体が輝き始める。異変に気付いた俺達はハッとし、その場に立ち止まった。


「ッ! ……おっと……もう時間か。やはり、最初はこんなもんだな」


 エンヤは、自分の体を確かめながら、大刀を収める。どうやら、限界の時が来たようだ。

 俺が鬼人化を解くと、エンヤの体は光の塊となり、斬鬼に戻っていった。

 そして、再び、ただの精霊として元に戻ったエンヤが現れる。

 エンヤは、その場に座り込むツバキに手を貸して、その場に立たせた。


「申し訳……ございません……」


 ツバキは、エンヤと俺に頭を下げるが、エンヤはニカっと笑った。


「気にすんなって。さっきも言ったが、これから一緒に強くなって行けば良い。

 楽しい時間をありがとよ、ツバキ」


 そう言って、エンヤはツバキの頭を撫でた。嬉しそうにするツバキに、心の中で、俺もありがとうと、感謝していた。


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