第274話―無間について明らかになる―
そんな中、一人、俺の言葉に深く頷いてくれた者が居る。それはコモンだった。コモンはスッと、手を上げて、こちらを見てくる。何か、言いたいことがあるらしい。
「どうした?コモン」
「あの……ムソウさんがこれ以上強くなるのかどうかは、ひとまず置いておくとして、無間はどうしましょうか?」
おっと、すっかり忘れていたな。そもそもこの祠に来たのは、壊れた無間をどうやって直すかについて、確認するためだった。
俺はコモンに頷き、エンヤの方を向いた。
「一応、無間は直すことに決めたんだが……そもそも、あの刀は何なんだ?」
俺は、長年抱いていた疑問をエンヤにぶつけた。
そこらの刀よりは圧倒的に強度が高く、鉄を斬っても刃こぼれ一つしないし、それはこちらの世界に来ても同じ。
この世界の不思議な鉱石を使っているわけでもなく、魔物の死骸を使っているわけでもないのに、強力な魔物でも、切り裂くことが出来ていた。
更に、鑑定スキルと使うと、いつの間にか冥界の波動を帯びていたりと、強さの段階も神刀ときている。俺のスキルに反応したりと、不可思議な点が多かった。
無間の前の持ち主であるエンヤに、その疑問を尋ねると、エンヤは腕を組みながら、口を開く。
「あれは……俺にもよく分からないんだ。
そもそもは、俺が直接作ったもので、その時までに倒した山賊や盗賊、それに玄李の将合わせて100を越えた時に記念に作ったものでな。奴らが持っていた武具と、一般的な鋼鉄、そして、あるものを使って作っただけのものだ」
「あるもの? ……それは?」
「昔、安備領の北、つまり玄李との領境にある山に落ちたっていう隕石、そこから抽出された隕鉄を入れてみた。天から落ちてきたものだからな。それこそ、天上に居るって云う神だのなんだのを、文字通り地に堕とすくらいの力を発揮するんじゃねえかってな……」
「お前……そういう願掛けとかって、信じていなかったんじゃねえのか?」
「俺にも、そういう時期があったんだよ……」
フッと笑うエンヤに、やれやれと頭を抱える。
しかし、鋼鉄以外にも、隕鉄を使っていたとは思っていなかったな。コモンも、それには気付かなかったそうだが、コモンが無間を調べたときの結果は、鋼鉄のみとのことだったので、隕鉄と言えども、成分的にはただの鉄ということだったという結論になった。
じゃあ、無間の強さは何だったんだよと思っていたが、コモンに続き、今度はトウヤが口を開く。
「可能性として、最も高いのは、以前のお二人の結論である、同じ鉄でも、僕達の世界のものと、こちらのものとでは、性能や成分に大きな違いがあるということ。
もう一つの可能性としては、ザンキさんやエンヤさんが使っていくうちに、お二人の力が、無間に移っていったということですね」
そんな馬鹿なとは思ったが、前の世界でも、斬れば斬る程強くなったり、長く使っているものほど丈夫になったりする武具の噂は聞いたことがある。あっちの世界では、不思議な現象と済ませていた話だが、こちらの世界では、それが刀精だったり、魔法だったりで片付けられる話だ。
俺達に使い込まれていくたびに、無間も無間で成長していったのだろうな。ひょっとしたら、隕鉄も何か関係あるのかも知れない。例えば、また別の世界から降ってきた、とか。
……何か、壮大で取り留めもない無い話になっていくな。ここで終わらせよう。
そんなこともあり、前の世界で謎だったものは大体この世界の事象で解くことが出来た。冥界の波動を帯びていたことについては、エンヤが語った100の敵が身に着けていた武具ということで、それだけの恨みや、怒りなどを含んでいた上で、奪った命の分だけの負の感情がこびりついていたのではないかとのことだ。それが、世界を渡る際に、この世界の波動に触れて、同質化し、冥界の波動になったのではないかとのことだ。
「……ほとんど、妖刀じゃねえか」
「いえ、ほとんどというか、妖刀そのものです。恐らく、エンヤさんやザンキさんにしか扱えなかったのでしょう。僕たち一般の人間が使ったら、恐らく無間に殺されてしまいます」
100人分の殺意や、怒りを、抑え込むほどの力を持っていたと、感心しているような馬鹿にしているような態度に、俺とエンヤは若干、イラっと来たが、何となく、トウヤの言葉に納得し、だからお互いに、これまでの人生は主に戦場だったのかと頷き合っていた。無間に宿った怨念の憂さ晴らしに付き合わされていたらしい……。
「そこでですね……」
そして、コモンは異界の袋から、風呂敷のようなものを取り出す。開くとそこにはバラバラになった無間と、透明な正方形の石……賢者の石と、同じく正方形の銀色に光る塊……完全純度の永久金属が入っている。
これから、コモンは無間を直す手段を俺に説明してくれるらしい。
「無間は、このまま前の残骸に、永久金属を混ぜて、修復しようと思いますが、その前に後二つの素材を入れようと思います」
「ほう……それを賢者の石で補うってわけか。どんな素材なんだ?」
「はい、ここからはトウヤさん、お願いします」
コモンの言葉に、トウヤは頷き、口を開いた。
「まず、こちらの無間の残骸からは、冥界の波動は殆ど感じません。先ほどまでの話が真実だとすれば、長きにわたる戦いの後に、刀に宿った怒りや憎しみも晴れていったのでしょうね。
なので、再び、無間に冥界の波動、更には天界の波動を纏わせるための素材を、賢者の石で生み出そうと思います」
「……ん?二つの波動を纏わせる意味って?あと、そもそも出来るのか?」
冥界の波動と天界の波動は、そもそも、正反対の性質をもつものだ。だから、二つの波動を一緒にすると、かき消される可能性がある。現に、それは湖での実験で証明された。
元々出来ないことを、やれるようにするのは時間の無駄だと思うし、二つの波動を出すことくらい、武器に頼らなくても出来る。やる意味があるのかと思っていると、コモンとトウヤは語り出した。
「波動を纏わせる意味としては、ムソウさんの神人化や、鬼人化の際に、今までよりも無間の力を引き出させる為です。恐らく前までのままでは、ムソウさんから出ている波動に、無間が耐え切れなかったのも砕けた原因の一つかも知れません。冥界の波動を帯びている無間に、天界の波動が合わなかったのかも知れませんが、次からは、天界の波動も無間に纏わせるので問題なく使えると思います」
「二つの波動を纏わせるということに関しては、僕もやったことがありませんが、鬼族が持てば、冥界の波動を、神族が持てば、天界の波動を放出するという鉱石と、それを使った装備は作ったことがあります。
二つの波動を使えるザンキさんならば、一つの武器で、二つの波動を扱えるのではないかと考えています」
つまり、本当の意味での、俺専用の武器ってわけか。何となく、カッコいいな。
コモンもそうだが、トウヤも相変わらず、武具のことになると、目を輝かせながら、俺にどうするか話してきて、何となく、二人の説明にはすぐに納得できた。
「で、その鉱石ってのはどんなものなんだ?」
「はい。もうこの大地には無いそうなんですが、二つの波動が出ていた辺りでは、よく採れていたそうです。名称はそのままで、天界石と、冥界石というのですが、シンジさん、それから……エイシンさん、ご存じですか?」
コモンは、鬼族であるシンキと、神族だったエイシンに尋ねてみた。
すると、二人は頷く。
「ああ、もちろん知っている。波動が大地から出なくなって、段々数が減っていったんだよな」
「二つの石それぞれからは微量の波動しか出ないから、それで装備を作るってなると結構な量が必要になるって代物だ。
トウヤから、魔物に対抗するための武器を作りたいって言われた時は、死に物狂いで大量に集めたのは、いい思い出だな」
エイシンはそう言って、ニカっと笑った。だから、今回は賢者の石を二人に使ってもらい、二つの石を採取するという予定だ。
賢者の石を他の素材に変化させた場合、その素材も、完全な純度をもって現れるらしいからな。
「というわけで、お二人とも、早速で悪いのですが、よろしいでしょうか?」
「ああ、分かった……だが、賢者の石はそれ一つだよな?もう一個あるのか?」
「いえ……」
シンキ達が首を傾げていると、コモンは賢者の石を手に取り、俺の前に出してきた。
「ムソウさん、丁度真っ二つになるように斬ってください」
「……あ、なるほど。分かった」
―すべてをきるもの発動―
俺はスキルを発動させ、賢者の石に浮かぶ切れ目を視界に映した。丁度真ん中あたりにある切れ目を狙い、クナイを振りかぶると、横からエイシンが呟く。
「ザンキ……外すなよ。それ、結構貴重なんだからな」
「……そんなこと言うな……力入るだろうが」
エイシンは、俺が不器用なことを嫌というほど知っている。だからこその発言だろうが、今言うのかと頭を抱えた。
若干、クナイを握る手に力がこもる。
俺は息を大きく吐いて、気を落ち着かせた。……まあ、俺の無間を直すんだからな。コモンやトウヤに任せっきりというのも悪いし、俺も出来ることをやらねば。
そう思い、俺は切れ目めがけてクナイを振り下ろした。
見事、俺のクナイは賢者の石の丁度真ん中の切れ目を通っていき、まったく同じ大きさの賢者の石が、出来上がった。
それを見たエイシンは感嘆の声を上げ、肩を組んでくる。
「おぉ~、やるじゃないか!お前も器用になったんだなあ~」
「いや、そういうわけじゃないんだよなあ……多分、これも刃物使っているからだろうな……」
「何でもいい!これで後は俺とシンキの仕事だな!」
そう言って、エイシンは、賢者の石の一つを手に取り、もう一つの賢者の石をシンキに渡した。
「さて……確か、賢者の石を変えるには、魔力を込めながら、対象の素材を思い浮かべれば良いんだよな?」
「ええ。その通りです。それだけを思い浮かべてくださいね」
「ああ、分かった。だが、俺が出す冥界石は言ったように冥界の波動を放出させる。天界の波動と違って、何が起こるか分からない。出ても俺が管理するからな」
これまでの経験上、そして、伝え聞いていた話によると、天界の波動は、命をはぐくむ波動で、生物に害はない。だが、冥界の波動は命を奪う波動で、かつては波動が溢れる場所の近くでは、疫病が発生しやすかったり、大地や大気が汚染されていたと聞いた。
その波動を操れるのは、ここに居る連中だと、鬼人化した俺か、鬼族のシンキのみだ。だから、冥界石はシンキが保管、管理することになる。
「それでしたら、無間を直す時に、シンジさんも、僕の工房に居てくださいね。じゃないと、危険ですので」
「仕事が増えるなあ……まあ、良いか。ザンキの刀を打つところを見れるわけだし、コモンの仕事を独り占めできるわけだしな……」
シンキの言葉に、コモンはニコッと笑って頷いた。俺とツバキと、他の十二星天は、何となく苦い顔をする。恐らく、また、寝ないで作業をするんだろう。シンキはそれを手伝わされるのだろう。
何となく、心の中で謝っていると、シンキとエイシンは賢者の石を掲げた。
「さて……やるか!」
「おう!」
二人は目を閉じて、瞑想を始める。そして、手にした賢者の石に魔力を込めだした。
すると、賢者の石に変化が起こる。エイシンが持つ方は、強く白い光を放ち、シンキが持つ方は、段々と黒くなっていき、黒く禍々しい波動を放ち始めた。
そこらで遊んだりしていたハルマサ達も何事かと動きを止めて、こちらの様子を伺ってきたくらい、二つの光が洞窟内を満たしていく。
「ッ!」
あまりの輝きに、その場に居た者達は全員目を閉じた。
やがて、光が収まっていき、目を開けると、エイシンの手には光り輝く真っ白な立方体の物体が、シンキの手には全ての光を呑み込まんとするくらい暗く、黒い立方体の物体が置かれていた。それぞれ、白い方からは、優しい波動が、黒い方からは、禍々しい波動を感じられた。
シンキはすぐさま、その物体に力を込めて、波動を止める。どこか不安げだった皆の顔は、エイシンの持つ物体から発せられる優しい波動を浴びて、ゆっくりと明るくなっていった。どうやら、冥界石と天界石というのが出来たらしい。鬼族のシンキに、見た目は人族そのんものだが、元々は神族のエイシンのおかげで、材料は揃ったようだ。
シンキとエイシンが持っている二つの石を眺めていると、興味を示したリンネとたまが、俺の肩へと上って、まじまじと見だした。
「おじちゃんのはいいけど、シンキおにいちゃんのはなんか、やー」
「まっくろだもんね~!」
二人の言葉に、何か得意げなエイシンと、少し残念そうなシンキ。玩具じゃないんだぞと言うと、二人は再び、アキラたちと遊び始めた。
「さて……出来たのは良いが、コモン、どうする?」
「もちろん、明日から無間の修理に入ります。その前に、トウヤさん。これらの石の特徴について、教えてくださいね」
「わかりました、コモンさん」
コモンの言葉に、トウヤが頷き、二人は天界石を預かり、シンキを連れて、少し離れた所で、打ち合わせを始めた。
似た者同士だな、まったく……。もう、二人だけの世界に入っていやがる。あっちはあっちで任せておくとしよう。
そんなことを思っていると、ツバキが口を開く。
「あの……ムソウ様。無間が修繕されるということですが、ムソウ様の、こちらの刀は如何致しましょうか?」
ツバキはそう言って、斬鬼を俺に見せてくる。無間がもう直らないとなったら、使おうと思っていた刀で、今はツバキの薄刃刀の代わりに預けているものだが、無間が直るとなると、俺にこの刀は必要ないということになっている。
「もう使いこなせているみたいだし、このまま、お前が使っても良いぞ」
ジゲン達によれば、以前の薄刃刀よりは、圧倒的に強い刀なので、これから先、どんな強敵が現れても大丈夫なように、ツバキが斬鬼を使った方が良いとのことで、こちらとしては、俺も文句はない。そもそも、俺には使いづらいものだからな。前にも言ったように、ツバキの戦い方にも、斬鬼は合っているし、丁度良いだろうと思っている。
しかし、ツバキは少々戸惑った様子で口を開いた。
「あの……ですが、こちらには……」
そう言って、ツバキはエンヤの顔を伺った。
あ……そうか。今は、エンヤはこの刀の刀精だった。一度、刀精になったら、この刀を砕くまで出てこれない。新しい無間の刀精にはなれない。
少し、勿体ない気がするが、斬鬼を砕いて、エンヤを開放し、ツバキにはまた、改めて武器を見繕うかと思い始めたとき、俺達の会話を聞いていたエンヤはニカっと笑った。
「別に、ザンキに使われなくても俺は構わねえよ。ザンキといつも一緒に居るツバキが使うんなら、同じことだからな。
それに、例の偶像術ってやつ、俺もやってみてえが、ザンキにああいう器用なことは無理だろ? だったら、お前に扱ってもらった方がありがてえな……それに」
エンヤの言葉に目を見開く俺とツバキの前で、エンヤはスッと立ち上がり、俺の側に来た。そして、耳元で囁く。
「……お前が居ない時、俺が嬢ちゃんを護ってやれる……今度こそ……必ず……な」
そう言って、エンヤはフッと笑った。
……ああ、エイシンと同じく、エンヤもあの日のことを、今でも気にしてくれていたのか。
本当に……良い“親”だな……。
それに、確かに、偶像術は難しそうだし、俺の方も、そろそろ“親離れ”したいし、エンヤも“子離れ”したいのだろう。
そういうことなら、と思い、俺はエンヤに頷いた。
「……分かった。じゃあ、ちっこいツバキとハルマサと一緒に、ツバキのことをよろしくな。……そして、ツバキも、皆のことをよろしくな」
そう言うと、ツバキはエンヤとちっこいツバキに視線を移し、ニコッと笑った。
「はい。これからも、よろしくお願いします!」
「おう!」
「うん……やっぱり……ツバキは……いい子」
ちっこいツバキは身を伸ばして、ツバキの頭を優しく撫でた。少し照れ臭そうだが、嬉しそうなツバキ。俺達はそんな二人の光景を笑いながら見ていた。
◇◇◇
ムソウ達の話し合いがいったん区切られ、しばし休憩をとる一行。ムソウレオパルドと共に、アキラたちの元へ行き、たまとリンネと遊び始めた。
コモン達の無間の打ち合わせには、元神族のエイシンが加わり、更に波動の扱い方について、話し合われた。
それを確認したエンヤは、早速偶像術の練習をしたいと言って、ジゲン、サネマサ、アヤメと共に、牙の旅団の居る方へ移動する。ジェシカも一緒だ。ケリスとの闘いの一件で、自分にはまだ、戦うことへの力が高くないと痛感したジェシカは、自身の得物である錫杖の力を引き出そうと考え、皆についていく。
だが、その前に、話があると二人のツバキを連れて皆から離れていくエンヤ。
「あの……どうされましたか?」
「ん?……まあ、ちょっとな」
戸惑うツバキに、エンヤは優しく微笑み、皆には聞こえないように口を開く。
「俺は……ザンキと……それからサヤの“親”だ。だから、二人が結ばれて良かったと本当に思っている。そして、ザンキの隣には、やっぱりサヤ一人だと思っている。……それは分かってくれるな?」
エンヤの言葉に、ツバキは目を見開き、少々落ち込んだように頷いた。すると、ちっこいツバキがエンヤをジトっと睨む。
「……エンヤ」
「そう、睨むなって!まだ話は終わってねえんだから」
ツバキを落ち込ませるとは何事かといった様子のちっこいツバキを諫めてエンヤは更に続けて口を開いた。
「……だが、無間の中に居ながら、お前のこともずっと見ていた。最初は、何言ってんだ、コイツ、と思っていたが、長く見ていくうちに、お前のザンキに対する想いは本物なんだって気付いた。……そして、お前も、何というか、サヤと同じくらい、良い女だって気付いた」
「それは……その……」
突然エンヤに褒められて、顔を赤らめ照れながら困惑するツバキ。その様子を見たエンヤはニカっと笑った。
「いつもみてえに自信持てって。この俺が、認めたんだから間違いない。お前も、ザンキの隣に居るにふさわしい女だよ」
そう言って、エンヤはツバキの頭を撫でた。更に戸惑いながらも、小さく頷くツバキ。
「……ただ、知っての通りあいつの中にはまだ、サヤが居る。しかも、この世界に来て、再びサヤや、カンナに会えるってことを知ったアイツは、お前の気持ちに、もう、応えないかも知れない。
そうなったら、お前に辛い思いをさせることになる。……それでも良いかってのを聞きたかったんだが……」
言いづらそうにそう言ったエンヤを、ちっこいツバキが再び、ジトっと見つめ、心配そうにツバキの顔を見上げた。
しばらくぼーっと黙っていたツバキだったが、自分の顔を見上げるちっこいツバキに気付き、フッと優しく微笑んだ。
「……大丈夫です……大丈夫ですよ、ツバキ様」
「……ツバキ……?」
ちっこいツバキを安心させるように、頭を撫でた後、ツバキはエンヤをまっすぐ見て、自らの胸に手を置いた。騎士が行う、何か誓いを立てるときなどにする仕草だ。
「エンヤ様。それでも、よろしいのです。ムソウ様が御幸せならば……。
先ほど申し上げましたように、私は、そんなムソウ様の幸せをお側で護ることが出来れば、それほど嬉しいことはありません。
私の剣は誰も死なない剣です。ムソウ様が、サヤ様やカンナ様と再びお会いし、三人で幸せに過ごすというのなら、私は皆さんの幸せを最後まで護りぬきます。そう……ツバキ様に誓いました」
ツバキの言葉に、エンヤとちっこいツバキは目を見開き、驚いた。そして、その言葉に、嘘偽りも無いことを知った。それくらいの決意をツバキの目から感じられた。
「……良いのか?お前なら、ザンキのことを任せられるっていうのに……」
どこか、ムソウのことを諦めさせる決断をさせたと思い、エンヤは申し訳なさそうに頭を掻きながら、ツバキにそう言った。
すると、ツバキはニコッと笑って口を開く。
「あら、私は諦めるとは一言も言っておりませんよ?」
「……へ?」
ツバキの一言に、エンヤは、固まって目を見開く。
「以前から申し上げているように、ムソウ様の中にサヤ様がいらっしゃるのでしたら、その中に、私も入っていけば良いだけの話です。
ツバキ様が先ほど仰っていたように、側室になれば、ムソウ様のお側に居られて、かつ、サヤ様やカンナ様を御守りできますね……」
「え、いや、お前、さっき、三人の幸せを護るって言っていたじゃねえか。それに、結婚するだけが、幸せの形じゃないって……」
「ええ。そう言いましたが、諦めるとは一言も言っておりません。私は、「待つ」と言ったのです。
そして、ムソウ様のお側に居ることが出来れば、ムソウ様とサヤ様、それにカンナ様を私がお守りし、ムソウ様は私のことを護ってくださると仰いました。ですので、問題ありません」
……そういうものなのか、とエンヤは戸惑う。そして、何も言えないエンヤとちっこいツバキの前でツバキは更に続けていく。
「あ、それから、今のムソウ様にはリンネちゃんも居ますし、闘鬼神の皆さんだっています。皆さんも一緒に私が連れて行って、皆さんでサヤ様に、カンナ様、そして、コウカ様も護るのでしたら、流石に文句は言えないでしょうね」
しかし、何の根拠もない割に、自信満々といった様子のツバキが段々と可笑しくなり、腹を抱えて笑った。
「くくく……ハハハハハッ! なんだ、そりゃ! まったく……面白えこと言う女だな!」
「私は本気ですよ?」
「ああ、分かってる。お前の決意の固さは、何度も見てきたからな。
しかし……よくもまあ、そんなことはっきりと言えるもんだ。それに関してはサヤ以上だな」
「フフッ、それは嬉しいですね。初めてサヤ様に勝った気がします」
「……本当に、面白い女だよ、お前は。……ツバキも、これで納得するか?」
エンヤはしゃがみ込んで、ちっこいツバキに確認してみた。ザンキと共に闘い、前の世界から、サヤの親友であったツバキが何を言うのか、興味があった。
ちっこいツバキは、ツバキの顔をジーっと見た後に、口を開く。
「ツバキは……いい子……だから……決めた……エンヤ……おせっかい……」
「……うるせえよ」
「それに……強い……もっと……強くなる……ザンキ……任せられる……」
「フフッ。それは嬉しいお言葉です。では、早速強くなっていくとしましょう」
ちっこいツバキの言葉に、ツバキは嬉しそうに頷き、ジゲン達の所に向かっていった。
ツバキの背中を見ながら、エンヤはフッと笑い、口を開く。
「……なあ、ツバキ」
「……何?」
「アイツ……ある意味、サヤ以上だな」
「……うん……でも」
「ああ。多分、サヤもカンナも、あいつのことを気に入るだろうな。ザンキのことが好きなんだからよ」
早い話が、略奪愛という考え方だったが、ツバキの本気具合に、サヤも納得しそうだとエンヤは笑っていた。無論、カンナにも逆に喜ばれそうだと思っている。
ああ、あの時、コウカに出会った時、ツバキのことを話せば良かったと若干後悔しながら笑っていたエンヤの顔をちっこいツバキが見上げる。
「エンヤ……嬉しそう……だね」
「ん? そりゃあ、そうだろ。“息子”のことを好きだって女が二人も現れたんだぜ。それも、あのザンキにだ。
……あの時みてえに、また、あいつの周りが面白くなってんだ。この世界に来ても、ああいう面白い光景を見れるってんなら、これほど嬉しいことはねえよ」
エンヤは、あの山の中で幼いザンキ……まだ、「ガキ」と呼ばれていた頃のムソウを拾った時のこと、そして、そんなガキが、サヤを抱えて来た時のことを思い出した。
闘いの日々だけだった自分の人生に、面白みを与えることになったきっかけを思い出し、フッと笑う。
すると、ちっこいツバキも、エンヤの言葉に頷いた。
「ん……分かる……気がする……サヤに……毒された……かな」
この世界に来ても、サヤの悪戯好きは変わっていなかった。特にシンキがその被害者だった。シンキは怒っていたが、周りの者達は笑っていた。それを見て、サヤは更にシンキに悪戯をして、皆を笑わせていた。
いつの間にか、ツバキも、サヤと一緒にシンキやハルマサに悪戯をするようになっていった。
当時のことを思い出しながら、小さく微笑むツバキに、エンヤは、かもな、と頷いた。
「……さて、ツバキ、お前はあっちのツバキが幸せになると思うか?」
何となく、軽い感覚で、ちっこいツバキにそう尋ねたエンヤだったが、ちっこいツバキからは、ほとんど予想していた答えが返ってきた。
「させる……私達が……絶対に……」
「ハハッ!そう言うと思ったぜ。俺もあいつが心底気に入った!サヤには悪い……気も起きねえな。どちらかと言えば、ザンキには悪いが、俺もアイツに力を貸していくぜ!」
「ん……よろしく」
二人は、その場で握手を交わし、闘いにおいてはもちろん、それ以外の場面でも、ツバキのことを支えていくと決意した。
そして、更にムソウの為に強くなるため、偶像術を身に着けるツバキの元へ、歩いていった。




